魔法科高校の劣等生 神速の魔法師   作:mr.KIRIN

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1年以上開きました。

それでも読んでくださりありがとうございます。

H31 4.20 一部追加更新しました。



ブランシュ編Ⅴ

 「遅かったな」

 

 ブランシュのアジトである廃工場の近く、竜士との合流予定地点に到着した達也達に竜士は死角からゆっくりと声を掛けた。

 

 「隠れていたのか?」

 「隠密行動は斥候の基本ですよ、桐原先輩」

 

少し驚いた様子で問う桐原に対し、竜士は笑みを浮かべる。竜士としては特に嫌みを込めていた訳では無かったのだが、桐原は少し機嫌悪そうに視線を逸らした。

 

 「……それで状況は?」

 

二人のやり取りを見ていた達也がため息混じりに竜士に発言を促す。抽象的な達也の言葉が自分に対するものだと容易に判断した竜士は達也の開いた地図データを指差しながらその見聞した状況を伝えることにした。

 

 「まず敵の規模だがおおよそ20から30名程度、全員突撃銃(アサルトライフル)で武装している事も確認した。施設に候敵資材、機械的な監視装置は確認出来ていない。尚、第一目標の司一も現在施設にいる事を確認している」

「……十文字先輩は桐原先輩と裏口に回ってください、エリカとレオは外で残党の始末を頼む」

 「俺は?」

 「深雪を頼んでも良いか?俺は少し確めたい事があるから今回は一人で動きたい」

 

残念というより悲しげに視線を落とす深雪の頭を優しく撫でながら達也は竜士に深雪の護衛を依頼した。

 

 ―――本当は確めたい事など無い。そして、深雪に護衛が要らないことも十分理解している。しかし、これは必要な事だ。絶対条件として本当の力を第三者に知られる訳には行かない。この程度の敵に力も何も無いが用心に越した事はない。

 

 (……週末は空けておいた方が良さそうだな)

 

 

 

 

 

 

 

 深雪の機嫌取りに思案を巡らせる達也と別れた後、竜士は深雪と大型のシャッターの前に立っていた。所々錆ている重たいシャッターを開けるのは深雪の魔法。しかし、ただ待っているだけの竜士は気が重かった。

 

 「その……司波さん?いいの?ここに居なくて」

 「竜士君はここで待っていますか?」

 「いや、俺は行くよ?ただ、司波さんは居た方がいいんじゃない?」

 「それならば竜士君が側で私を守って下されば解決です。それにお兄様はここで待てとは仰られませんでしたよ」

 

終始満面の笑みを崩さない深雪に竜士が引きつった笑みを浮かべる。穏やかな表情とは裏腹に不満で満ちている深雪の内面に彼が気付く事はなかったのだった。

 「……仕方ない、一応『護って』いる事になるから、俺の前には出ないでくれよ」

 「勿論です」

 

悲鳴を上げながら開いていくシャッターを背にして深雪はニコリと微笑む。普通の男子高校生ならばその笑みにきっと落とされていたことだろう。しかし、竜士はそんな気は一切起こらずただただ深いため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 「……遅かったな」

 

照明が落とされているためかそこは夕方でも薄暗く、目を細めてやっと竜士は声の主を影の中に見つけることが出来た。やがて時間と共に回復した視力で相手の顔を確認する。

 

 (誰だ?)

 

最近出会った人物を一人一人思い出すが、竜士の記憶にその存在は無い。「人違いですよ」と親切に説明しようかと思いもしたが、こんな状況で相手が”こちら”側の人間であるはずもない。いっそのこと早々に倒して先に進もうかと考え始めた竜士に見ず知らずの男は合点がいったように再び口を開いた。

 

 「ああ、そうか。一から聞いていないんだな。俺は一の仲間だ。安心してくれ」

 「……」

 

 「おい……答えろよ、まさか俺達を敵に回そうなんて思わないだろ?」

 

一切言葉を発しない竜士を不審に思ったのだろう。男は警戒心を露にしながら再び問い掛けた。しかしそれでも答えない竜士に確信した男が上着に隠した拳銃を抜こうとした時だった。

 

 「貴殿方に警告します。今すぐ投降しなさい」

 

竜士の陰から深雪が一歩踏み出る。

 

 「司波の妹……敵だっ」

 

深雪を視認した男は声を張り、大声で叫んだ。すると何処に隠れていたのか其処らから瞬く間に自動小銃や拳銃で武装した男達が十数名現れ、正面から竜士達に銃を構えた。

 

 「悪いが、お前らはここで消えてくれ」

 

男達は一斉に手にした銃の引き金を引こうとした。否、引き金を引いた。しかし、何度引いても彼等の銃から弾丸が発射されることは無かった。高度な冷却魔法で手首ごと武器を凍らされた男達はその激痛に耐え兼ね悲鳴を上げながら地面に膝をついた。

 

 「ここはもう大丈夫でしょう。竜士君、先を急ぎましょう」

 

深雪は悶え苦しむ男達を見渡すと竜士に向かい笑みを浮かべる。しかし彼女は気付かなかった。背後で激痛に悶えながらも立ち上がる男に。

 

必中の間合い。魔法はもう間に合わない。深雪の肩越しに”それ”を見た竜士は深雪の肩を掴むと乱暴に横にはね除ける。

 小さな悲鳴を横に聞きながら竜士は正対した男の持つナイフの制圧に移る。単純にナイフを構えて突進するだけだったが余りにも距離が近すぎた。男の突進を竜士は正面に受ける。

 布が強く擦れる音と共にナイフは脇から後方に抜けた。

 竜士はそのまま男の腕を固定すると、足を払い地面に投げ倒し、迅速にナイフごと手首を蹴りそれを無力化すると男の顔面に止めの一撃を与えようとして止める。

 

 「......」 

 

 男は飛ばされたとき受け身を取りきれず後頭部を強打し、既に気を失っていた。

 

 「......竜士君、大丈夫ですか?」

 「ああ、大丈夫。司波さんの方こそ大丈夫?」

 

 「私は大丈夫です――ッ、竜士君、怪我して」

 「まぁ、此のくらいなら直ぐ治るから」

 「そう、ですか......」

 

そう言って竜士はナイフで傷つけられた左腕を軽く振ってみる。制服に少し赤い染みが出来ていた。

 

 (私がしっかりしていれば竜士君が傷付くことは無かったのに......)

 

しかし、自分のミスによって竜士が怪我を負ってしまった事に深雪は深く罪悪感を感じていたのだった。

 

 「全く」

 

しょんぼり俯いてしまっている深雪を見て、竜士はおもむろに手を伸ばすとそのまま優しく慣れた手つきで深雪の頭を撫でた。予想していなかった竜士の行動に深雪は一瞬、ピクリと反射的に動いてしまう。

 

 「え......」

 「あ......ごめんね。なんか懐かしい感じがして」

 「い、いえ」

 

僅かに頬を紅く染めながら、深雪は以前から気になっていたことを問い掛けた。

 

 「竜士君は妹さんがいらっしゃるのですか?」

 「......居ない、筈だよ」

 「では―――」

 「先に進もうか、達也も待っていそうだし」

 「......はい」

 

以前、雫達と下校した際の出来事を訊ねようとした深雪だったがその言葉は途中で竜士に遮られてしまった。

 

 (何か、言えない事情でもあるのかしら......それにしても、どこか雰囲気がお兄様に似て)

 

言葉を遮られた事に事情があるのかと思案しながらも、恥ずかしさと親近感から再び紅く染まった顔を隠すように深雪は竜士の陰で俯いたのだった。

 

 

 

「だ、誰だっ」

 

突如、物陰から数人の男達が飛び出した。瞬間、驚きを隠せない深雪と裏腹に竜士は脇に下げたホルスターからCADを抜きその銃口部を中心の男に指向する。既に男達は各々に拳銃やライフル銃を竜士達に構えていたが、誰も竜士の動作に対応することは出来なかった。

 

 「お、お前は英竜士......」

 

男達の中、他の男に護られるように囲まれた一人の男が竜士に確認した。

 

 「ああ、そういうお前は司一だな。その様子からすると大方、達也に追われているみたいだな」

 「ああ、助かった。もうすぐ司波と十文字もやって来るだろう。時間稼ぎを頼むぞ」

 

 

 

 「......何を言ってるんだ?お前は」

  

話の内容を理解できていない深雪と一の仲間が困惑の視線を向ける中、竜士の発言に一は耳を疑った。

 

 「殺しはしない。武器を捨てて投降しろ」

 

先程までの面影を全く出さないオーラを纏う竜士に敵のみならず深雪さえも萎縮してしまう。

 

 「き、貴様、裏切ったのか?」

 

目の前から漂う、威圧感とは違う圧倒的な恐怖。それに今にも崩れてしまいそうな脚を必死でこらえ、竜士を直視出来ずその足元に覇気なく一は問い掛ける。

 

 「何の事だ?そもそも協力した覚えはないが」

 

台詞を棒読みしたかのようなまるで起伏のない言葉。言葉を発すると共に最後通告だと言わんばかりに竜士は手にしたCADのセーフティを解除した。

 

 「く、くそっ、これでどうだッ!」

 

 (アンティナイト……情報通りか)

 

以前にも同じような経験があったのだろう、ハッとした表情を浮かべる深雪に対して竜士は素早く魔法を発動する。

 「うがぁっ」と短い悲鳴を上げた一の右手からは竜士の予想通り軍需物資であるアンティナイトがこぼれ落ちた。と同時に一の背後の男達も一斉に地面に這いつくばっていた。

 

 「パ、パラレルキャストだと......?2科生の筈なのに何故」

 (パラレルキャスト!?)

 

出血している右手を押さえながら一は、信じられないと自問するように言葉を放った。

 「お前には関係のない事だな」

 

背後で複雑な視線を向ける深雪に気付かない振りを決め。竜士は再びCADのトリガーを絞った。

  

 

 

 

 

 「深雪、大丈夫か?」

 

通信端末で達也達に一を拘束した旨の連絡を取ると5分も掛からないうちに達也は現場に現れた。「お兄様」と普段と変わらない様相で近寄る深雪は伏せ目がちに先程の出来事を伝える――一部を除いて。

 

 「―――それは大変だったね」

 

平静を装った深雪の僅かな変化に気付いた達也はそれでも労いの言葉を掛けると同時にそっと優しく頭を撫でたのだった。

先程竜士に撫でられた感触を無意識に思い出しながら深雪は複雑な心境を誤魔化すように頭上の感触に意識を預けることにした。

 

 

 

 

 

 

 ―――――――

 ―――――

 ―――

 

 

 

 

 

 「それで、調子はどうですか?」

 

 リクライニング式のベッドを若干起こして横になっている紗耶香に竜士は右手に持った果物のバスケットを掲げながら優しく問い掛けた。

 

 「うん。やっぱりヒビは入っていたみたい。だけど、今はもう繋がってるしもう退院出来るそうよ」

 

夕日が射し込む病院の個室で紗耶香は控えめな笑顔で返す。

 先の騒動が終息して紗耶香はエリカとの対決で負った怪我の治療ため入院していた。同時に騒動に加担したとして家庭裁判所送りも懸念されたが、紗耶香を始めとするブランシュの下部組織であるエガリテの構成員はブランシュ日本支部の長である司一の魔法により一時的に精神操作されていたという事でこれらの処分を免れた。

 

「そうですか。早く戻れれば良いですね」

 

思ったよりも体調は良好なようだと、竜士は周囲を一度見渡す。

 部屋は個室だが十分過ぎるほどの広さがある。角に置かれた真新しい木製のロッカーとキャビネット、壁に掛けられた薄型ディスプレイには綺麗に手入れされ埃一つ無い。ベッド際の花瓶にも見舞いの物だろう花が差されていた。

 

(家族か、頻繁に来ているようだな)

 

 ふと、竜士は自分の部屋に置いてある写真の少女を思い出す。

 

(あの写真が俺の家族なのか?)

 

 考えた途端に急に気分が悪くなる。思い出したくても思い出せない。

 竜士の身体は再び記憶を拒んでいた。

 

 これ以上此処に居たくない。早々に竜士は「お大事に」と立ち去ることにする。

 

 「竜士君……その、ありがとう」

 

 病室のドアを開けた竜士の背中に紗耶香は短く、けれど多分な意味を含めて感謝の気持ちを掛ける。

  

 「……ええ」

 

竜士は出来るだけ青白くなっているだろう顔を見られないように振り返ると、紗耶香に一礼返し、そのまま扉を閉めた。

 

 

 

 

  

「竜士君……君は司波君にとても似ているね」

竜士の去った扉を見つめながら紗耶香は一人呟いた。

  

 

 

 

 

 ―――――――

 ―――――

 ―――

 

 

 

 

  

 「君は……英竜士君かい?」

 紗耶香の病室を後にした竜士は面会終了の旨を受付に伝えたところで呼び止められた。

 

 「ええ、そうですが……」

 

 突然背後から呼び止められ、竜士はある程度警戒心を持って振り返る。

 そこには茶色のコートを腕に掛けたスーツ姿の男が柔らかな笑みを浮かべ、手を挙げている。掛けられた声に覚えは無い。不意な攻撃に対処出来るように無意識に身体は身構えていた。

 そんな竜士の挙動に気が付いたのだろう(――最も、普通の人には分からない微々たる動きだったのだが)。男は挙げた手を竜士と自分の間に下ろし、攻撃的な意志は無い事を示す。

 

 「驚かせてすまない。私は壬生勇三(みぶ ゆうぞう)。紗耶香の父親だよ」

 

 思いもよらない人物だったのだろう、ほんの一瞬だけ目を丸くする竜士に笑みを浮かべ、勇三は「こんな所で立ち話も」と近くの談話スペースへと誘った。

 

 

 

 

 

 「改めて、私は壬生勇三。今回の件では娘が本当に世話になった」

 

 「……既にご存知とは思いますが、あの件につきましてはご息女には精神的干渉がありました。ご家族でも気付くのは難しいかと」

 談話スペースの販売機で飲み物を買った(――代金は勇三が2人分先に入れていたが)2人は談話スペースの隅のテーブルに腰を下ろす。

 先程までの柔らかな表所から一転、自身に向けた厳しい表情を向け勇三は竜士に今回の事件を謝罪した。対する竜士は決まりきった答えではあるが、項を垂れる勇三に「仕方がない事だ」と首を振ると、飲み物を口に挟んだ。

 しかし、それでもと竜士に自嘲した笑みを浮かべ、続けて娘を正しく導けなかった父親としての心の内を竜士に語る勇三に竜士は最後に一言だけ口にした。

 

「……お嬢さんは立派に育たれていると思いますよ」

 

 

一般的な高校生としては背伸びした言葉だが勇三の眼には既に目の前の少年が年相応の高校生であるようには見えなかった。

 

どこか懐かしい雰囲気、かつて所属していた自衛軍の仲間の雰囲気に似ている。共に第三次世界大戦を戦い抜いた、そんな戦士の纏うものを少年に感じる。

 

「……昔どこかで会った事があったかな?」

「いえ、そのような事は」

「……そうか、私の勘違いみたいだ。ところで、君は紗耶香とはどういった関係なんだろうか?」

「学校の先輩ですよ。それ以外はなにも」

きっぱりと言い切る竜士に一瞬だが間違いなく残念そうな表情を浮かべた勇三は「いやいや」と頭を振ると最後に一つ、と竜士に尋ねた。

「君は、風間(かざま)という男を知っているだろうか?」

「いいえ、知りませんね」

 

 竜士の明確な否定に、何か引っ掛かりを覚えつつも勇三は立ち上がり、「手間を取らせたね」とその場を後にした。

 

 

 

 (これでようやく一段落ついたか……)

 その場から立ち去る勇三の背中を見送りながら竜士は安堵の溜息をついたのだった。

 

 

 

 

 




今回でブランシュ編は終了です。

フォントが何故かまとまりません...

次から九校戦編に入ります。
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