魔法科高校の劣等生 神速の魔法師   作:mr.KIRIN

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こんにちは。

意外と早く投稿できました。
キリがいいので今回は短めです。

それではよろしくお願いいたします!


九校戦編Ⅱ

 「……という事だ、藤林(ふじばやし)。至急、英竜士についての情報を集めておいてくれ」

 

 深夜の立体駐車場。灯りの届かない駐車場の隅に一台のセダン型車両が停まっている。

 外部からの傍受を受けない特殊な仕様が施された車内には大柄な初老の男性と対して小柄だが整った顔立ちの美女。

 藤林響子(ふじばやしきょうこ)は視線を男から外し、思案顔を浮かべる。

 「構いませんけど、少佐、"それ"が事実なら……」

 

 「その通りだ、今はまだ可能性は低い。が、達也が警戒する男である以上、此方も動いておいた方がいいだろう」

 「それは、"四葉"が達也君に対する何らかの抑止力としていると?」

 「まだ判らん。が、どちらに転ぶにせよ。情報は必要だ」

 

 

 深夜の車内で風間と藤林は互いに一つの懸念を浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

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 「あぁ、これは不味いかな」

 

 薄暗い車内で竜士は口にした。

 周りには様々な種類の機材が所狭しと積載されていて、空いた隙間に辛うじて竜士とその他数名の生徒が座っていた。

 

 竜士は再び視線を小さな窓から外に向ける。

 その視線の先には、一台の大型バスとその入口に立つ達也の姿。今日はいつになく日差しが強く、達也にかかる日陰は全くない。

 

 (これは、向こうについてから面倒なことになりそうだな......)

 

 恐らく大型バスの中で怒りを露わにしているだろう深雪の事を想像して竜士は大きなため息をひとつついたのだった。

 

 再び視線を達也に戻す。そこには集合時間に遅れて最後の乗客が到着している。

 顔が隠れる大きな帽子に胸元が大きく露出した白のワンピースを達也に見せるように真由美はその場で小さくポーズを取って見せる。並みの男子生徒なら勘違いしてしまう事だろう。

 やがて、真由美はそのまま乗車することなく足を竜士の乗る機材車の方へ向けた。

 

 「竜士君ッ!」

 

 ノックもなく機材車のドアを開けた真由美は竜士の名前を呼ぶなり飛び込もうとして、脚を止めた。

 

 「すごい機材ね」

 「ええ、機材車の数も限られていますから、仕方ありません」

 「だったらこっちの車に乗る?」

 

 真由美は視線を大型バスに向ける。

  

 「我々は技術スタッフですからお気になさらず。それより達也も待っていますし、出発しませんか?」

 

 竜士は首を左右に振ると真由美の申し出を断り、バスへの乗車を促す。「そ、そうね。ごめんなさい」と真由美は内心残念そうにバスへと足を向けたのだった。

 

 

 

 

 

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 「おい、英、なんで会長の申し出を断ったんだ?」

 

 走行中の車内で竜士は2年生の男子生徒に先程の件を半ば咎められる形で問いかけられた。

 

 「いえ、そこから移動となると時間もかかりますので、他意はありません」

 

 本心では同じバスに乗ると間違いなく面倒ごとに巻き込まれるからなのだが、それは伏せて竜士は意見を述べる。

 

 (こういう時に達也がいてくれると楽なんだけど――――ッ!!)

 

 今は違う車両に乗る達也のある意味での有難みを実感する竜士は”その違和感”に気付く。

 

 (これは、魔法か......)

 

 どこかで起こる魔法を感じる。しかし、その具体的な位置は竜士には判らない。

 

 (今は達也も居ないし、少しくらいならいいか)

 

 竜士は静かに目を閉じる。

 

 (ふむ、対向車線の車。これは不味いな)

 

 竜士は静かに、最小限のサイオンを周囲に放ち、感じ取る。

 

 何らかの魔法により対向車線のSUV型の車はコントロールを失い、分離帯を越えてこちらの車線上に飛び出してきていた。

 遅れてくる急制動の慣性力。先頭を走るバス共々、何とか停車することには成功した、しかし、分離帯を飛び越えてくる車は火を噴きだしながら依然と突っ込んくる。

 

 (魔法の相克......大方、一年生か)

 

 接近する車には複数の魔法が重ね掛けされていた。複数の魔法が相克して魔法としての機能を発揮していないどころか、魔法による対応を難しいものとしている。

 

 (どうする?達也の出方を待つか......?)

 

 この状況で事態を変える力が竜士にはある。しかし、それを使えば間違いなく達也に、そしてほとんどの生徒に感づかれる恐れがある。

 それは達也も同じでこの状況で竜士の出方を伺っている事は明らかだ。

 

 (このまま放っておいても達也が対応できるだろう、がしかし......)

 

 竜士の中に強迫観念めいた一つの考えが浮かぶ。

 それは遠い昔の記憶のような何か、会ったことも見たこともないはずの少女が脳裏に浮かぶ。少女は満面の笑みを浮かべている。

 

 思い出せない。この少女が誰なのか。

 

 しかし、この少女が竜士を行動へと突き動かす。

 

 「誤魔化しは聞かないが、やるしかない、か」

 

 竜士は一人ごちると、ホルスタからCADを抜き、構える。

 

 (標的は車の後方10メートルの空気層、これを作用させる)

 

 目標を決めた隆士は静かにトリガーを引き絞った。

 

 

 

 

 

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 「これは……」

 

 深雪はバスの後方を走る機材車から放たれる膨大なサイオンに気付き視線を向ける。

 

 (これは竜士君の......いえ、今は)

 

 竜士に対する疑惑を深める深雪はしかし、視線を前方に向け突っ込んでくる車への対処を優先する。

 

 「十文字先輩、車両の炎は私が、車はお任せしてよろしいですか?」

 

 「......いいだろう、が、その必要はないようだ」

 

 克人の視線の先、猛スピードで突っ込んでくる車は何故か次第に速度を落としやがて停止した。続けて魔法の相克の中、車から噴き出す炎は勢いを潜め完全に消える。

 

 「あの魔法の相克の中で......」

 

 「......どうやら、我々の知らない事がまだあるようだ」

 

 克人はゆっくりと振り返ると視線を見えない機材車へと向けた。

 

 

 

 

 

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「十文字君、ちょっといいかしら」

「七草……先程の事か」

事故処理に時間は掛かったものの、その後はチームの宿となるホテルまで無事に到着した竜士達。今は各生徒が各々の荷物をそれぞれ事前に割り当てられた部屋へと運び始めたところだった。

同じように荷物を部屋へと運ぼうとする克人を背後から真由美が呼び止める。当の克人もそれは予想内であったようで2人はそのままホテルのカフェテリアへと入り腰を下ろした。

 

「さっきの事故、あの時突っ込んできた車がバスの手前で急に止まったでしょ?あれって、やっぱり……」

「十中八九、司波若しくは英とみて良いだろう。どんな魔法を使ったのかまでは判らなかったがあれほど魔法が相克している状況で的確に車を停止させ、火災も消火した。これ程の技量と判断力を持つにはそれなりの"経験"が必要でもある」

「それって、司波君と竜士君のどちらかは実戦経験があるってこと?」

淡々と意見を口にする克人に険しい表情で真由美は続きを促す。

「いや、司波はほとんど間違いない。英はまだ判らないが、恐らくはそうだろう」

「今年の1年生は凄いわね」

「ああ、2科生という基準を考え直さねばなるまい。それと最後に英だが――――」

「!!、それって本当なの?」

「……確証は無い。あくまで俺の推論だが、可能性は高い」

「それが事実なら、他の師族は黙っていないでしょうね」

「ああ、"それ"が事実ならば、な」

表情をさらに険しくする真由美の前で克人はただコーヒーを煽るのだった。

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「竜士君、よろしいですか?」

控え目なノックの音と共にドア越しに深雪の声が竜士に届く。

「どうぞ」

備え付けの机に用意した機材から愛用のCADを取り外しホルスタに戻すと竜士は深雪に入室を許可する。

「どうしたの?時間的にそろそろ懇親会の時間だと思うけど」

「ええ、竜士君を呼びにきたのですよ」

「そうだったんだ。ありがとう」

本当は参加する気は無かったのだが、目の前に立つ深雪が満面の笑みを浮かべているのを見ると、言うに言われず竜士は席を立つ。

「ところでここへは一人できたの?」

部屋の外に僅かに達也の気配を感じてはいるが、竜士は深雪に問い掛ける。

「いえ、お兄様は外で待っている、と」

「そっか、まぁそうだよね」

ならば別に達也が呼びに来たらいいのでは?と苦笑いを浮かべながら竜士は部屋を後にしたのだった。




いかがでしたでしょうか?

今回は九校戦前夜までというお話でした。

次回は九校戦に入っていけると思います。

ただ、また間は開きそうですが……

それでは次回もどうぞよろしくお願いいたします!

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