九校戦編第5話の投稿になります。
さて今回のお話は九校戦新人戦ピラーズブレイク決勝周辺となります。
お話は少し短めですがどうぞ!
「……雫。本当にその恰好で出るのか?」
「そうだぞ、時間ならまだ間に合うから着替えてきたらどうだ?」
目の前で支度をする雫に達也と竜士はやや呆れ気味に確認する。
場所は出場選手用のロッカールーム。これから始まる新人戦女子アイス・ピラーズ・ブレイクに出場する雫は着替えを済ませ今は竜士達と出場の時を待っていた。
時間にも大分余裕がありCADの調整も問題ない。ただ一つ、雫の服装を除いては。
「そうだよ。せっかくルールでも認められているんだから、着ないと勿体無い」
そう言いながら雫は着込んだ振袖をたすきで纏める。
「それにしても、雫はそういうの興味ないと思って―――」
何の気なしに放たれた竜士の言葉にたすきを掛け終えた雫がピクっと反応した。
「竜士さん……それは、どういう事?」
どんよりとした表情を向けてくる雫に”しまった”とバツの悪い表情を浮かべ竜士は備え付けのベンチに腰を下ろす達也に助けを求める視線を送る。
当の達也もあまり感情を表に出さない雫の少し拗ねたような態度に少し驚きつつ、竜士に失言を謝罪するように進言する。
「まぁ、今回は明らかに竜士が悪いんだし、九校戦が終わったら何か補填するってことでいいんじゃないか?」
「そうだな、それに別にその恰好が似合ってないわけじゃないぞ。雫に似合って可愛らしいと思う」
竜士は謝罪と他意のない率直な感想を口にする。その言葉が効いたのか、暗い表情の雫は頬を少し朱くし、逆にその感情を隠すように竜士達から視線を逸らす。
「……まぁ、そういう事、なら」
―――――――
―――――
―――
一瞬の静寂の後、会場は大歓声に包まれる。
縦12メートル、横24メートルを彼我で二分した会場の両翼に建つ
既に決勝リーグが始まって表彰台は全て第1高校により独占されており、それを理由に大会本部から3名全員を優勝としてはどうかとの打診もあったが、雫たっての希望で決勝戦のみ(もう1人、英美もいたが彼女は体調不良を理由に順位決めを辞退している)行われることとなった。
準々決勝では互いに勝ち残ってきた強敵たちを難なく下してきた2人だけに、この決勝戦は新人戦ながら誰もが見たかった”夢のカード”となった。特に、前試合で高難度の魔法である
やがて2人が櫓に昇り切ったところで会場全体が息を飲むように静寂に包まれる。
各所に設置されたスピーカーから試合開始のカウントダウンの電子音が響き、そして一際高い電子音が決勝戦の開始を合図した。
開始の合図とほぼ同時に2人はそれぞれCADを操作する。
深雪は前試合でも見せた氷炎地獄、雫は自身の氷柱を情報強化で守りつつ、深雪の氷柱に対する共振魔法による攻撃。
「―――ッ!」
それまでの相手ならこの一手で数本の氷柱を破壊できたことだろう。しかし、それは深雪の圧倒的な魔法の前に手も足も出ていなかった。逆に深雪の放った氷炎地獄の灼熱により雫自身の氷柱は次第に溶け始める。
「……流石は深雪―――だったら!」
実感する明白な魔法力の差。しかし、雫はそこで諦める訳にはいかなかった。
直ぐに発動している魔法はそのままに雫は袖の中に手を突っ込む。
「―――――ッ!!」
対する深雪からもはっきりと見える。雫は袖から拳銃形態のCADを取り出すと、既存の魔法をキャンセルすることなく正面に構えていた。
間髪入れずに雫はCADのトリガーを引く。すると現れる魔法式のあと深雪の氷柱、その最前列の1本に音子が命中し、破壊した。
「雫、貴方、それを会得したというの?だけど―――」
対する深雪は一瞬、雫の想像もつかなかった行動に目を見開く。しかし、次の瞬間には新たな魔法を発動させる。
魔法により冷却され双方の空間に広がる液体窒素の霧。その魔法をみた会場は再び息を飲む。
広域冷却魔法”ニブルヘイム”により、一度、雫の溶けかけた氷は瞬時に再冷却される。そして再冷却された雫の氷柱に対し再び氷炎地獄を発動する。
雫には成すすべもなく、再び灼熱に晒された氷柱は全て爆散した。
―――――――
―――――
―――
「……やっぱり司波さんには敵わなかった、か」
試合直後の会場、その廊下を一人歩きつつ竜士は独りごちた。
雫からは決勝戦で深雪と勝負する事は聞いていた。雫も深雪も両方のデバイスをサポートした身からすればある意味何方が勝つと言う事はだいたい分かってくる。勿論それを理由にどちらかを贔屓するといったような事は断じてしていない、が、それでも深雪の魔法力は竜士の想像を超えていたのだった。
「悪い事をしたかな」
本人の希望あっての事とはいえ、彼女の2つのデバイスを調整したのは竜士だ。それが深雪に負けたことを気負わなければいいが、と竜士は少し懸念した。
「……おや、これは」
突然目の前の曲がり角から2人の男子生徒が現れた。一人は達也程の身長の美青年、懇親会の時にもいたから竜士も知っている。一条将輝だ。もう一人は将輝より頭一つ小柄で華奢だがひ弱な感じはしない少年。
竜士はこの少年も知っている。いつだか魔法化学系の雑誌の表紙に載っていたことを思い出す。
「3校の一条将輝に吉祥寺真紅郎、か。俺に何か用か?」
「いえ、たまたまですよ。1校の英竜士」
真紅郎が伝えていないはずの竜士の名前を呼んだ瞬間、竜士は無意識に殺意とも取れる敵意含んだ視線を真紅郎に向ける。
「―――――ッ!!」
暑くもないのに真紅郎の額には僅かに汗が見える。そんな真紅郎を庇うように前に出た将輝は「まぁ、落ち着こうぜ」と平静を装いつつ竜士に手を挙げた。
対する竜士も自分が無意識に敵意を向けていたことに「すまない」と詫びると、「ところで」と言葉を紡いだ。
「俺の名前は何処で?」
「……司波達也。僕たちは昨日、彼に会いましてね。その時に教えて貰ったんですよ」
「達也に?で、達也はともかく俺に何の用だ?」
「とぼけても無駄ですよ?表にこそ出ていませんが、司波達也と同じく天才技術者―――」
そこまで言って真紅郎は残念そうに笑みを浮かべる。
「――いずれは君たちと選手として勝負してみたいですね」
―――――――
―――――
―――
「竜士、少しいいか?」
「……達也か、構わないぞ」
日も落ちて薄暗くなった部屋のドアをノックする音、続けて聞こえてきたのは珍しい訪問者の声だった。
竜士は先程まで読んでいた資料を机の上に投げると部屋の灯りを点ける。
静かにドアを開く音に目を向けるとそこには達也だけではない、何故か私服姿の深雪が笑みを浮かべて立っている。
「こんばんは。竜士君、私もお邪魔してしまいました」
「……司波さん、別にいいけど、その恰好は」
苦笑いを浮かべる竜士に深雪は視線を下に自身の恰好を見る。今深雪が来ているのは白を基調として随所に花の刺繍をあしらったワンピース。ただ、裾は若干短く、膝が見えてしまっていた。
僅かに苦笑いを浮かべる達也を他所に深雪は視線を上げると、「おかしいかしら?」と若干上目遣いに竜士に確認する。どこか達也の探るような視線を受けて竜士はあくまで感情を言葉に乗せないように言葉を選んぶ。
「いや、おかしくはないし、とても似合ってるよ」
「本当ですか?」
余り抑揚のない言葉に、逆に深雪の機嫌を害してしまったか?と少し不安になるも当の深雪は両手を頬に寄せ一人で何かブツブツと嬉しそうにしているので竜士はそのままにしておくことにして話を要件があるのだろう達也に向けた。
「で、どうしたんだ?」
「ああ、竜士は今日の新人戦モノリスコードであった事件の事は知っているよな?」
「まぁ、一応俺もスタッフだからな、だがあれは事件というよりは……」
「うむ、そこは現在も調査中なんだが、それよりこれは七草会長からの伝言だ」
そこまで聞いて竜士は背筋に冷たいものが走るのをハッキリと感じる。
『竜士、お前には新人戦モノリスコードに出場して貰う』
いかがでしたでしょうか?
今回は少し短めでしたが区切りが良いのでここできりました。
次回はいよいよ竜士君の戦い、の予定です。
余談ですがGWも終わりますね。
それでは次回もどうぞよろしくお願いいたします!
ご感想等もお待ちしております!