魔法科高校の劣等生 神速の魔法師   作:mr.KIRIN

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こんにちは。

今回も少し遅めの投稿になります。

今回はモノリス・コード終了から少しとなります。

それではよろしくお願いいたします!


九校戦編Ⅷ

 「竜士君……」

 

 夕日の射し込む病室で深雪は普段見せない今にも泣いてしまいそうな表情を浮かべ、ベッドを見つめる。

 シングル程度の大きさのベッドには今は深い眠りにつく青年が1人。魔法による医療技術が発展している現在でも彼の怪我は相応に酷いものだったらしい。右腕や腹部、右足にきつく巻かれた包帯が彼の怪我が深刻である事を目にした者に言外に伝えている。

 

 「深雪、容態は昨日と変わってはいないんだ。命に別状があるわけでは無いから今日はもう部屋にお戻り」

 「……お兄様、分かりました」

 

 

 そのままでは今日も深雪は、竜士に付きっきりだ。この後に控える本戦ミラージ・バットの為にも部屋に戻って少しでも休息を取らせなければいけない。交代する事になった摩利の心情を抜きにしても、こればかりは達也にも譲れなかった。

 

 

 「明日も来ますね」と普段見せない弱い声音で小さく告げると深雪は達也に促されるようにして病室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 深雪と達也の去ったあと、誰もいない病室にはベッドに横たわる青年がただ1人。生命機能をモニターする機器の電子音と耳を澄ませないと聴こえない程小さな寝息。

 

 

 

 ―――英竜士が眠りに付いて既に1日と半分が経っていた。

 

 

 

 

 約2日前の新人戦モノリス・コード決勝で将輝のレギュレーション違反の攻撃を受けつつも単身で第三高校を下した竜士。

 

 試合終了直前に倒れた彼はすぐさま、(ふもと)にある国防軍基地の病院へと緊急搬送された。同じく試合に参加していた達也の適切な"応急処置"により、生命や身体機能に障害を残すような事もなく(―――試合の一部始終を見ていた関係者からは奇跡だと驚いていたが)、今では一般病棟へと移されていた。しかし、身体的な怪我は治りつつあるが、一向に竜士が目を覚ますことは無く、時間だけが過ぎていた。

 

 

 

 

 「達也君、ちょっと良いかしら?」

 

 何とか部屋に深雪を戻した達也は部屋を出てすぐのところで背後から真由美に呼び止められた。

 振り返ると、こちらも普段見せてくるコケティッシュな要素は全くなく、少し表情をひきつらせて真由美は達也の返事を待たず先に廊下を進む。

 

 やがて真由美が脚を止め扉を開いたのは第一高校が会議等で使用している部屋。中には既に一高の首脳陣が集まっており、達也は以前呼ばれた時の事を思い出す。ただ、その時とは違い、場に重い空気が漂っているのは言うまでもない。

 

 

 「司波、先ずは先の試合、御苦労だった」

 「有難うございます。ですが、優勝できたのは仲間の力が在ってこそでした。特に決勝戦は英がいなければどうなっていたかは分かりません」

 

 

 

 先の決勝戦以来、こうして面と向かって克人と話すのは初めてだ。表情こそ普段からのものではあったが克人は称賛の言葉を向ける。達也はこれをチームに対するものとして受け取り頭を下げた。

 

 

 「それで、英の様子は?」

 「肉体的な負傷は完治は先ですが、良好です。ただ、意識はまだ 戻っていません」

 

 

 あくまで口調を変えないよう配慮してに話す達也の言葉にそれでも、その場の生徒会の面々、特に真由美は両手で顔を覆い取り乱す。

 

 

 「御免なさい、私があんな事を言わなければ……」

 「落ち着け、七草。仮にそうであったとしてもお前の判断をここの全員が了承している以上責任は全員に在る。1人で抱え込む事ではない」

 「そうですよ、それに九校戦はまだ終わっていません。今は前を見るべきかと」

 

 

 

 憔悴している真由美を克人と達也は慰める。確かに竜士を選手起用する案は真由美発だが、ここで脚を止めていたら折角の竜士の検討も無駄になる。感情論を抜きにしても、チームリーダーを抜きに戦える程、九校戦は甘くは無い事を、克人は当然、達也も理解していた。

 

「……話は変わるが司波、先の試合で英の使った魔法は?」

 「実の所、自分にも判らないのですよ。恐らくは、サイオン派の合成を活用したものであるとは思うのですが」

 

 

 達也は意図的に事実を隠蔽する。そこにはあくまで疑惑の段階ではあるが、他者、特に十師族関係者には他言出来ない理由があるからだ。

 

 

 (―――あの時竜士の使った魔法。あれは間違いない"零研"の産物だ。しかしそれだけではない。もっと違う何かが……)

 

 

 

 

 

 

 ――――――――

 ―――――

 ―――

 

 

 

 

 

 

 「九島(くどう)閣下、どうされました?」

 「いやなに、先日の試合。少し気になる事が有ってな」

 「第一高校の選手ですか?確か英竜士と言った。とても高校生の試合とは思えない高レベルな試合でした。私自身、毎年この競技だけは観戦しておりますが今年は特にレベルが高い」

 

 

 そういって1人の大会役員は身振り手振りを交えて自身の興奮を表現する。一方の老人、九島烈(くどう れつ)は未だに語る大会役員の話に応じることなく、複雑な心境を内心で語る。

 

 

 (あの試合、一般的な眼にはそう映るのだろう、が)

 

 

 傍付きの大会役員の反応から、九島は先日の新人戦モノリス・コード決勝戦を思い出す。

 

 

 (英竜士、よもやあの家系……これは国防軍が放っては置くまい)

 

 複雑な表情に懸念の色を僅かに浮かべ、九島はとある男との会合を調整するように指示をする。

 

 

 ―――国防陸軍第101旅団独立魔装大隊隊長、風間玄信へと。

 

 

 

 

 

 ――――――――

 ―――――

 ―――

 

 

 

 

 

 「……ったく、だからあれ程言ったのでは無いですか」

 

 ―――誰だ?

 

 「……いさんは、いつも無茶ばかり。あの時だって」

 

 ―――誰なんだ?お前は。

 

 「今回以上の無理は私もどうなるか分かりませんよ?"力"の代償は決して軽くは無いのです」

  

 ―――頭が、痛い。ここは何処だ?

 

 「……私の事さえも忘れてしまったの、ですから。"兄さん"は」

 

 「誰だッ!」

 

 

 まるで悪い夢でも見た子供の様に脂汗を流して竜士は飛び起きる。辺りは真っ暗で人気はない。しかし感覚的に自分がベッドに寝ていた事はハッキリと判る。耳を澄ませば誰でも一度は聞いたことがある電子音。ここが医療関係の施設であることはすぐに理解できた。

 

 「痛ッ!」

 

 遅れてくる身体中の痛み。ただ寝違えただけではこんな痛みは絶対にないだろう。痛む箇所に手をやるとそこには包帯が巻かれている。

 

 「なんだ?この怪我は。それにさっきの声……」

 

 竜士は先程までを思い出す。その声は確かに聞いたことがある。だが思い出せない。あと少しのところで竜士の記憶は途切れてしまっていた。

 

 「俺は……一体」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「確かにこの辺から聞こえたんだけど…」

 

 巡回中の看護師は突然聞こえた叫び声に気付き、常夜灯で薄暗く照らされた廊下を音源に向かって歩く。するとある病室から出てくる人影に気付き、恐る恐る確認する。

 

 「あ、あの、今はもう面会時間外なのですが……」

 

 時間は既に遅く、病棟も一部を残して全館消灯している。そんな所に面会に来るものなど居ないことは明白だ。しかし、看護師の女はその人影がその部屋の患者で無いことも判っている。

 そこは先日の九校戦で大怪我をした選手が入院している部屋だった。命に別状は無いが意識が戻っていないと院内でも話に挙がっていたのを覚えている。

 となると不審者の類いか、自然と身体に力が入る。

 

 「―――すいませんでした」

 「え?」

 

 目の前の不審者は素直に謝ると頭を下げる。

 意外と素直に謝る不審者に拍子抜けしたのか看護師も気の抜けた言葉を出してしまう。

 改めて看護師が不審者を目を凝らして見てみると。薄暗いなかでも透き通った銀髪、表情こそ判らないものの恐らく整った顔立ちの少女で在ることはわかる。

 

 「……家族の方、ですか?」

 「ええ、まぁ、そんなところですね。ですが今日のところは帰ります」

 

 そう言うと少女は静かに薄暗い廊下の奥に歩いていく。丁度のその時、彼女が出てきた部屋から物音や僅かに声が聞こえて看護師女は視線を病室向けてしまう。そして再び視線を戻した時、既に視界に少女の姿は無かった。

 

 

 

 

 

 ―――――――

 ―――――

 ―――

 

 

 

 

 

 「竜士君!こ、この衣装はどうでしょうか?」

 「うん。とても似合ってると、思うよ」

 

 夜に控えた本戦ミラージ・バットのの衣装を見に纏い、深雪は少し恥じらいの表情を浮かべつつもその場で一回りしてみせる。

 対する竜士も断片的な記憶を辿りながら顔を赤くする深雪の容姿を華燭なく評価する。しかしその内心に彼は複雑な心境を隠していた。

 

 

 ―――英竜士は記憶を喪っていた。

 

 

 

 前日の夜、巡回していた看護師により約2日間の眠りから目覚めた竜士。報告を受けた第一高校の首脳陣が集う理由を彼は理解できなかった。幸い、入学してから数ヶ月の記憶で喪われたのは最近のもので、生徒や教師の名前等は記憶が残っている事に一先ずその場の一同は安堵する。

 

 

 

 

 「それにしても、良かったですね司波さん。それに北山さんも、これで試合にも集中できますね」

 

 「「―――ッ!!」」

 

 

 その場にを端から見ていた美月が"他意の無い"意見を口にする。そしてその言葉は案の定その場の数名に突き刺さる。顔を赤らめる深雪、雫に「どうされたんですか?」と相変わらずの天然を発動する美月。僅かに納得いかないと頬を膨らませる真由美。その場の一同を見回して今まで言葉を発しなかったエリカがクスクスと笑ったのだった。

 




いかがでしたでしょうか?

九校戦編はもう少し続きそうですがお付き合い頂ければと思います!

今回は少し物語の裏、設定の部分に絡む話が多かったので時間軸自体の前進はあまりありませんでした。

また謎キャラの出現。因みにこのキャラクターはとあるキャラクターをモチーフにしています。

それでは次回もどうぞよろしくお願いいたします!


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