「帰ろうか」
生徒会の面々が撤収した後、達也の一言でその場は解散、各々に帰宅の途に別れる――事はなかった。
「それじゃぁ、帰りにケーキでも食べて行かないない?アタシこの辺で美味しいところしってるんだ」
一緒に帰ることが前提の提案。達也は内心、1人なら断って帰ろうかとも考えた。しかし、美月は本心は肯定なのだろうが深雪と達也の事も考え中立の立場を取ることで実質的に深雪と達也に決定権を委ね、「如何なさいますか?」と言外にエリカの案に乗りたいと言い寄る深雪を前にして達也に決定権はない。達也は「別に構わないが」と短く了承の返事を返した。
「それじゃあ、行こっか」と喜びを隠そうともせず先導するエリカの後に一人を除いて全員が歩を進めようとした時だった。
「悪い、俺は用事があるから辞めておくな」
達也を囲むように出来ていた輪の一歩外から竜士が提案者のエリカではなく達也に辞退の意を述べた。竜士がばつの悪い表情を浮かべて再度「悪いな」と謝罪する様を見て、それが”表面的”なものであると気が付いたのは達也ただ一人であった。しかし達也は特に引き留めはせず寧ろ「一緒に行こうよ」と不満を漏らすエリカを「急な提案だったからな」と宥めることで竜士に先を急がせた。
「悪いな」
達也の計らいに、再度詫びの言葉を述べ、竜士はその場を後にした。一人で廊下を校門の方へと歩く竜士の背中を達也は目で追う。達也としては他の生徒と比べて不可解な所が多すぎる(自分が言える様なことでないのは十分に自覚しているのだが)竜士のことは出来るだけ早く知っておきたかったのだがここで迂闊な行動に出るのは適切でないという判断でもあった。何より現段階での達也の分析では竜士は少なくとも達也と同じような魔法的特性を持っている恐れがあり、これが万が一四葉の息の掛かったものであった場合、今後の竜士の出方次第では衝突も避けられないだろう。
(……俺は、深雪のためならば悪魔にでもなる)
想像される最悪の未来を一瞬だけ想像し達也は心中で再度決意を確認した。
「またお会いしましたね」
一方の竜士は校門まであと50メートルのところで生徒会長の真由美と遭遇した。このとき真由美は確実に竜士と鉢合わせられるように校舎から校門の物陰から校門付近を歩く生徒をずっと監視していたので彼女にとっては”遭遇”という表現は当てはまらないのだが、竜士にとっては完璧な”遭遇”だった。真由美は初め出会った時のような、生徒会長が新入生に対してみせる”仮面を被った”ものはでなく、なにも知らない新入生なら誤解してしまうようなコケティッシュな笑みを浮かべ、ゆっくりと竜士に近づいた。
「……七草会長、自分に何かご用でしょうか?」
「そうね。竜士君がこのあと空いているなら少しお話があるのだけれど……どうかしら」
挨拶だけでなく近づいてくる真由美に対して竜士は違和感を覚えつつも用件を聞く。と同時に彼女の後方、校舎正面出入口の柱の裏からこちらの様子を伺ってくる者の気配を感じていた。竜士はそちらに一瞬だけ視線を向けると内心で深い溜め息をつき、真由美に視線を戻す。真由美の顔には明らかな動揺が見られたが、気にしない振りを決め込み竜士は話を続ける。
「ここでは出来ないような用件なのでしょうか?」
「そ、そうね出来れば生徒会室でなんてどうかしら?」
「そのようでしたら申し訳ありませんが、このあと用事がありますので失礼します」
「えっ、ちょ、竜士君?」
この場で話を聞くだけならともかく、生徒会室に行ってしまうと更に面倒な事に巻き込まれかねない。竜士は真由美の提案を丁重に断ると。返事を待たずに踵を返し、その場から立ち去る。一方の真由美は当初の計画と違い合理的に生徒会室に連れていく方法を失ってしまったため、ただ竜士の背中に声を掛けるだけしか出来なかった。やがて誰もいない校門に「もう……」と愚痴を叩くと、真由美は元来た道を辿り校舎へと戻る。校舎出入口に差し掛かったところで予想していた通り、彼女に対し柱の影から声が掛けられた。
「見事に振られたな、真由美。お前の色仕掛けもヤツには通用しなかったか」
若干、茶化しが入ったその言葉に真由美は溜め息をつかずには居られなかった。
「全く、茶化さないでよ『摩利』。別に色仕掛けなんてしてないんだから」
「そうか?その割りにはさっきトイレで入念にチェックしてるのを見掛けたぞ」
親友でもある真由美の反応を楽しむかのように『
「竜士君、摩利がそこから様子を伺っている事に気付いてたわ」
「そんな訳はないだろう。私も見ていたがアイツが特に魔法を使った様子は無かったぞ」
「だから私も困ってるんじゃない。今年の新入生は竜士君といい達也君といい……何も起こらなければいいけど」
真由美の呟きに摩利は「そうだな」と呟き返し、二人は生徒会室に向かった。
真由美と摩利が生徒会室に向かったちょうどその頃、竜士は自宅へ向かうため、駅からキャビネットと呼ばれる旧電車線を利用した公共交通機関に乗車していた。高度に管理されており旧来の交通機関のように乗り過ごす心配もなく2~4人の少人数輸送はプライベートも十分に確保されている。
そんなキャビネットの中、竜士は一日を振り返っていた。
「司波達也に司波深雪、あげく七草か……一日目から警戒されてしまったかな。特に司波達也に。それに、あしたは七草会長のお誘いも断れそうに無いな」
誰もいないキャビネットの中、竜士は一人で自分に言い聞かせるように呟く。そして懐から”大型拳銃の形をした”CADを取り出すと一通り見回して再び懐に戻す。
「まだ、俺の秘密を知られる訳にはいかないな」
キャビネットは目的地に到着していた。
どこにでもある集合住宅。そこに竜士の自宅もあった。玄関に備え付けられた今では旧式のオートロックを解除すると室内に入る。そこには出迎えてくれる家族も、最近では主流である
真に静まり返った自宅にで彼を出迎えるのは一枚の写真のみ。その写真に写っているのは見ず知らずの少女。年齢は10代前半、どこかの海岸で満面の笑みを浮かべて写っている。
この少女が誰なのか、写真が何処なのか竜士は知らない。しかし、この写真を見ると懐かしい気持ちと共に悲しみ、そして怒りが彼の中に沸き起こる。竜士には兄弟は居ない。両親は彼が生まれて間もない頃に交通事故で不運にもこの世を去ってしまった為、彼に両親の記憶はない。その為、竜士は幼い頃からとある一家に引き取られ、CADの設計を行うようになってからはこうして独り暮らしをしている。
しかし、それでも竜士にはただ一人この写真の少女だけが家族のような気がしてならなかった。
「ただいま」
写真の少女に一言声を掛けると、竜士はキッチンに向かう。HARが備え付けられた家なら指示を与えるだけで大抵の家事はやってくれる。しかし、竜士は何時も誰かに監視されている感じが嫌で態々HARのない旧式の家を借りていた。それに家事をこなすことは彼にとって苦では無かった。
キッチンで手慣れた動きでコーヒーを淹れる。このコーヒーも自分で取り寄せた豆を挽いて淹れる。出来立てのコーヒーをその場で一口啜ると、そのまま作業室兼自室へと進む。綺麗に整理された作業室で彼はコーヒーを置くと制服を部屋着へと着替え、少し前に依頼を受けた新型CADの図面を仕上げていく。暫くして時計に目をやると既に夜の12時を過ぎていたが特段に珍しいことはない。完成した図面を依頼主に暗号化して送信すると竜士はシャワーを浴び、床につく事にした。
「明日は何も無ければいいけどな」
有り得ないと自分で否定できる希望を抱き竜士は静かに眠りについた。
今回は竜士について少し触れました。
ミステリアスなキャラにしたいと思っています
ご意見もお待ちしております