「同じ新入生じゃないですか、今の段階で1科と2科でどれほど差があるって言うんですかっ!」
火種は今日の昼休みから既に撒かれていた為、決定打となった美月を責める訳にはいかないだろう。
(美月があれほど交戦的だとは予想もしなかったが……)
今は放課後、達也たちと帰ろうとする深雪を巡って同じ1科生グループとまたもや昼休みの騒動の続きが繰り広げられていた。変わらず高圧的な態度を取る1科生に対して、声を挙げたのはエリカでもレオでもない美月だった。いや、正確にはレオもエリカも彼らには話が通じないと端から構えていた。
美月がその見た目に合わず声を挙げたことに若干の驚きを覚えた竜士だが彼もまた、内心話し合いでは解決しないと結論付けていた。そこに美月の”どれだけ差があるの”発言だ、1科生グループの先頭、昼休みの時と同じ生徒の雰囲気がガラリと変わった。
「不味いな」
竜士は自分にしか聴こえないように呟くと、ブレザーの下のCADに意識を置く。
(いや、魔法は不味いか、達也も居ることだし感づかれでもしたら不味い)
今ここで竜士が魔法を使えば確実に制圧が可能だ。だが、それと魔法の露見のリスクを考えたら到底許容出来るものではない。幸い相手は1科生とはいえ新入生だ。十分に体術で対応できると判断した竜士は目の前で肩をふるふると震わせている男子生徒に意識を集中した。
「見たいなら見せてやる!
戦闘の意思を見せた1科の男子生徒に対してレオが待ってましたと言わんばかりに突進を試みる。
男子生徒は突進してくるレオを確認するとニヤリと笑い、素早く右手をブレザーの内側へ滑り込ませる。そして次の間には拳銃型のCADをレオへと向けていた。男子生徒は勝利を確信し笑みを更に深め、そのトリガーを引こうとした。
「なっ」
「この距離なら体動かした方が速いのよね」
しかし、男子生徒のCADは素早い身のこなしで近寄ったエリカの伸縮警棒により叩き落とされた。エリカは未だに理解できてない男子生徒にそう告げた。
CADを落とされた男子生徒に他に手段はない。「くそっ」と悪態をつく事しか出来なかった――彼だけは。
「
「これ以上は厄介だな……仕方ない」
ヒートアップした他の男子生徒が勢いで魔法を発動しようとした。これ以上は風紀委員や生徒会の目に付いて厄介なことになると判断した竜士は仕方ないと目を瞑った。すると、魔法を発動しようとした男子生徒の魔法は”発動しなかった”。
「くそっ、どうなってる」
突然魔法が発動できなくなった男子生徒は事態を飲み込めていないのか悪態を付き続けている。周りも何故彼の魔法が発動できなくなったのか理解できていないようだった――一部を除いて。
「英……君?」
やはりか、と竜士は横に目をやる。そこには怪訝そうな表情で問い掛ける深雪と明らかに竜士を警戒する達也が肩を並べてこちらを見ている。やはりこの兄弟は誤魔化せなかったか、と内心溜め息を付いた竜士は「後は頼む」と踵を返し立ち去ろうとした。いや、もう少しタイミングが早ければ立ち去れた筈だった。
「止めなさい」
一歩踏み出そうとした竜士の背中に聞き覚えのある声が掛かる。生徒会長の真由美が騒ぎを聞きつけ風紀委員の摩利ともう一人男子生徒を連れて来ていた。
「自衛以外での魔法行使は犯罪ですよ」
真由美の一言でその場の約半分――殆どが1科生だが。が、顔面を真っ青にし俯いた。彼らに直ぐに追い討ちを掛けるように摩利が真由美の前に出た。
「私は風紀委員長の渡辺摩利だ。事情を聴く。全員ついてきなさい」
生徒会長に続き、風紀委員長の摩利が全員に対して命令した。当然、そこには帰ろうとした竜士も入っており、彼を見つけた摩利の表情はどこか楽しそうだった。しかし、素直に従うと思っていた摩利の思惑に反して達也がもっともな言い訳を述べた。
「すみません。悪ふざけが過ぎました。森崎一門のクイックドローは有名ですから後学の為に見せてもらうだけのつもりだったのですが、真に迫っていたものでつい手が出てしまいました。」
達也はこのあとも真由美たちからの問い掛けをかわし、結果としてこの場は不問と決着がつくこととなった。しかし、このあと真由美から放り込まれた”爆弾”は達也と竜士の悩みの種となった。
「あ、でも一応報告はしないといけないから達也くんと司波さん、それと――」
真由美は達也たちから視線をずらすと言い放った。
「竜士くんは明日のお昼に生徒会長室までくるようにね」
言い逃れられないようにか真由美はそれだけ言うと、「それではまた明日」と言い残しさっさと校舎の方へ戻っていった。
その後は二人揃って森崎に「認めない」と宣言され、複雑な気分になりながら帰ろうとする達也たちはまたもや呼び止められた。呼び止めたのは、先程の1科生グループの中にもいた女子二人だった。
「あの……
「
ほのかは緊張しているのか、噛みながらも何とか自己紹介をした。達也の事を「お兄さん」と呼んだり、妙に達也に好意を持っている様にその場の殆どが感じていた。達也は自己紹介のついでに自分のことは名前で呼ぶように伝えた。一方、雫は感情の起伏が少ない表情で自己紹介をする。達也の事は先の紹介で聞いたからなのか、竜士の方を向き少し困った表情を浮かべる。
「ああ、英竜士。竜士でいいよ」
竜士も同じように自己紹介を済ませる。すると雫は竜士に意味深な発言をした。
「竜士さん、昔、沖縄に住んでなかった?」
もちろん竜士は沖縄に行ったことすらない。否定と同時に理由を聴く竜士に雫は残念そうとも寂しそうとも取れる表情を僅かに浮かべ、「昔、似てる人にお世話になったから」とこの話を切った。
その後は結局ほのかも雫も一緒に帰ることになり、この時もほのかは達也の隣を、雫は竜士の隣を歩いて帰るという形になり、ほのかと達也を見た深雪の機嫌が次第に斜めになっている事に達也は頭を押さえたくなった。一方の竜士は、隣を歩く雫にふと思った事を尋ねた。
「ところで、雫が昔、お世話になったっていう人の家族に女の子とかいた?」
「急にどうしたの?……確かに居たよ、今だったら私たち位の歳になってるかな」
その言葉を聞いた瞬間、みるみる血の気が引いていく感じがした。脂汗も額に滲み始め、感じたことの無いような気持ち悪さが竜士を襲う。
竜士の中で何かが囁く「これ以上は駄目だ」と、これが直感なのか何なのか彼は知らない。しかし、内なる声による命令に彼は抗えなかった。
「そうなんだ。ありがとう」
無表情で返した竜士の顔を雫が覗き込んだ。
「竜士さん大丈夫?顔色悪いよ?」
顔を見た雫は不安げに問い掛ける。竜士は顔に表面上の笑みを浮かべて「大丈夫」とだけ返すと。こちらに向く達也の視線に気付いた。達也は竜士が気付いた事を確認すると「俺からも質問いいか?」と投げ掛ける。
「お前は、家族は?」
「いや、どちらも交通事故でな。俺が生まれて間もなかったから記憶は無いんだ」
「そうか、すまなかったな」
不可思議な質問をする達也の意図が読めず怪訝な表情で兄を見る深雪を他所に達也は何かの確信を得たという表情を僅かに浮かべた。
「深雪、ちょっといいか?」
食事を終えた達也は、深雪が食後のコーヒーを持ってきたタイミングで呼んだ。因みにこの時の深雪の服装はキャミソールにミニスカート。日増しに露出度の高くなっていく妹を見て教育を間違えたかと不安に思ってしまったのだった。
閑話休題
しばらくして「何でしょうか?」と達也の隣に腰を下ろした深雪に達也は口外はしないようにと話を始める。
「竜士の事なんだが、深雪はどう思った?」
「はい、……失礼を承知で申しますと」
深雪はミニスカートの裾を強めに握ると達也に無言の了承を得た。つまりこれから深雪が口にすることは結果として達也を卑下することに繋がると言うことだ。達也としてはそんな事はどうでもいいことなのだが小さく頷く事で深雪に先を促した。深雪はそれでも申し訳無さそうに意見を述べた。
「率直に、竜士君は何故2科生なのか分かりません。お兄様、今日のあれは……」
「ああ、あれは『干渉装甲』だった。しかも干渉域も強度も桁外れだ。本来、領域干渉は相手の魔法との干渉力の相克により魔法を阻害する。故に、術者の干渉力が直に影響する。新入生とはいえ1科生の干渉力を上回るのに2科生と言うのは余程アンバランスな能力の持ち主なのかもしれない。だけど、問題はそれだけじゃない。」
達也は一度話を切ると、深雪が付いてこれているか確認をする。深雪が緊張した面持ちで小さく頷き、達也は再び話を始めた。
「深雪は俺の過去を知ってるよな?」
瞬間的に深雪の肩がピクリと揺れる。達也の過去、忘れたくても忘れられない。怒りなのか悲しみなのか深雪はふるふると震えながら「……はい」と答える。達也は深雪の肩を抱き、続ける。
「結論から言うと竜士は四葉の息が掛かっている者である可能性がある。昨日出会った時から気にはなっていたんだが――『第四研
「まさか、また四葉が……そんなことを」
「四葉は実戦魔法師の開発に躍起になっているからな、”兵器”として有用ならアンバランスでも構わないだろうさ」
深雪は耐えきれなかったのかその眼に涙を浮かべ「竜士くん」まで……と僅かに呟いた。
今の達也が出来ることはそんな深雪が落ち着くまで黙って傍にいる事だけだった。
次回はやっと服部くん登場です
次回もよろしくお願いいたします!