今回からブランシュ関係のお話に進みます。
オリジナルな展開が多く読みづらいと思います・・・
「……それで、達也さんは何と?」
「やはり、真夜様のご推察通り”あの者”に四葉が関係しているのでは無いかと疑っているようでしたが、直接は何も」
「そう……有難う、もう下がっていいわよ」
「……真夜様、実はもう1つお話が御座いまして」
一度深く頭を垂れた青木は明らかに表情を強張らせ、真夜に発言の許しを乞う。四葉家において序列第四位の地位にある執事がこのような態度を見せるときは大抵の場合何か不手際があった時ぐらいでしかない。真夜は脂汗を額に浮かべ自分を窺い見る青木に「何かあったのかしら?」と水を向けた。
「……どうやら北山家の息女が”あの者”に接触したようです」
気付かれないように深く深呼吸をして呼吸を整えると青木は真夜に打ち明ける。更に一呼吸置いても真夜は口を開かなかった為、その意図を汲んで青木は続ける事にした。
「その後の様子から記憶が戻ったと言うことは無いと思いますが……気を付けるように言い付けられていたにも関わらずこのような不手際を晒してしまい申し訳ありませんでした」
先程よりも更に深く頭を垂れる青木に全く関心を示さない様子で真夜は口を開く。
「そうね、時間の問題だとは思っていたけど少し早かったわね。あの子が”気付く”まで達也さんと”喧嘩”しなければいいのだけれど……」
「”報復戦力”として、ですか」
「達也さんの力は強大になるわ、それに今は深雪さんがいる限り大丈夫だけど、将来的に必要になるわ。その為の竜士さんよ」
独り言を呟くように語る真夜の口はそれ以上開く事は無かった。青木はこれ以上は無用とその場を静かに後にしたのだった。
「それで竜士君は自分のCADを使うのか?」
竜士と達也は今、他の風紀委員達と共に放課後の風紀委員本部に詰めていた。昨日委員入りが決定した右も左もわからない新入りを次の日には実践投入しなければならない程の人員不足なのだろうかと学校の風紀維持体制に不安を覚えながらも竜士は摩利の問い掛けに肯定の返事を返す。恐らく自分の隣にいる達也が委員の備品のCADを2つ持ち出すと言い出した事から何か期待しての事なのだろう。
「……委員長、何を期待されているのか分かりませんが、俺には達也みたいな器用なことはできませんよ。それに自分はコレ以外は使えないんです」
「そうなのか?まぁ、別に構わんが」
苦笑いを浮かべながら竜士はブレザーの左胸ポケット辺りを右手で軽く叩く。その動作に摩利は怪訝そうな表情を浮かべるもそれ以上の追及は避けた――と言うよりは時間も差し迫っていることから避けざるを得なかった。
今日は新入生を対象とした学内の運動部、文化部同時に行われる部活動勧誘週間の初日だった。魔法系競技等はその活動内容の紹介の為にこの時だけは学内でのCADの携帯及び使用が認められている。その為、勧誘でヒートアップした部員同士で魔法を使用した争乱行為が起こりやすい。風紀委員会としては年内で一番忙しい一週間であり、今回ばかりは摩利も竜士達を引き留めておく余裕は無いようだった。
「それでは自分達も見回りに行きます」
(自分達?)
そんな摩利の雰囲気を見計らった達也の言葉の一部に疑問符を浮かべる竜士だったが、その場は達也に同調してその場を後にすることにした。「怪我人は出さないでくれよ」と立ち去る背後から笑う摩利に半身で会釈を返すと竜士と達也は風紀委員本部を後にした。
「ところで竜士、一ついいか?」
風紀委員本部から少し離れた所で達也は並んで歩く竜士に呟くように問い掛ける、「構わんが、何だ?」と言葉が返ってきたことを確認するとその場で足を停め、率直に希望を伝える事にした。
「すまないが、お前のCADを見せて貰えないだろうか?」
「えっ?」
竜士の瞼が一瞬だけ大きく開いた。
明らかに動揺してしまった竜士だったが、見せるだけなら、とブレザーに手を入れ、CADを取り出すと銃身部を握り直し達也に差し出す。分解でもされたものなら、下手をすれば自分の秘密に勘づかれてしまうかもしれない。案の定達也は、特化型CADの特徴でもある照準補助システムが組み込まれた銃身部をまじまじと見つめては感嘆の声を上げていた。
「これは、凄いな。こんなデバイスはカスタムモデルでも見たことは無いな……しかし、これほどまでの照準補助は――」
素直に感嘆の声を上げていた達也はそこで口をつぐむと、竜士と同様の仕草でCADを竜士に返すと再び歩き出す。
「どうしたんだ?」
「いや、余りに集中し過ぎて気付かなかったが結構時間を使ってしまったようだ、急がないと委員長に何を言われるかわからんぞ」
「……それもそうだな、それじゃあ俺はグラウンド辺りに行ってみるよ、お前はどうする?」
「そうだな、一旦HRに戻ってから行くから、先に行っていてくれ」
「ああ、わかった」
互いに手を交わし、その場を後にする。達也の明らかな態度の変化に竜士は勿論気付いていたが、指摘はしなかった。
(あのCAD、ベースモデルは間違いなくシルバーホーンだ。が、改造してあるのは照準補助システムだけでは無かった、サイオン流路の強化に
(達也のあの反応……やはり、見せるべきじゃ無かったかな)
互いに背を向け歩を進めながらも、二人の表情は険しいものへと変わっていたのだった。
「すみません、有り難うございました」
「いえ、構いませんよ」
複数の部活の勧誘に取り囲まれて困っていた女子生徒(竜士にはどう見てももみくちゃにされているようにしか見えなかったのだが)は深くお辞儀し、感謝の言葉を述べると小走りに立ち去った。
(これで3人目か、たかだか部活の勧誘と侮っていたみたいだ……そろそろ他の場所に移動するか)
暫くグラウンド周辺で見回りを続けていたが、持ち回りでない以上、同じ場所に留まっている訳にもいかず竜士は校舎の方へと向かうことにした。
校舎の中に戻るとそこは先程とは異なり普段の放課後とあまり変わらない静けさを保っていた。
(文化部の方は平和なんだな)
「あの……」
魔法のぶつかり合いとは程遠い勧誘に目を流しながら歩く竜士は後ろから呼び止められた。特に争乱らしい事は起こっていないが見逃してしまったのだろうかと振り返るとそこには不思議そうな顔を浮かべる雫が立っていた。
「雫か、どうしたんだ?」
「別に、竜士さんが見えたから。一緒に……どうかなって」
僅かに頬を赤く染め雫は竜士を部活見学に誘う、しかし只でさえ声の小さな雫が口ごもるといよいよ聞き取ることは困難だった。
「もう一回言って貰ってもいいか?」
「……何でもないよ、だけどこれ」
明らかに不機嫌そうな顔になった雫はプイッと首を背ける、しかしその右手は竜士に付き出した。
「これは?」
「この前話に出てた沖縄の画像データ。竜士さん気になってるみたいだったから」
「すまないな、有り難う」
「別にいい……(また今度付き合って貰うから)」
付き出された右手に握られていたのは小型のメモリーチップだった。それを受け取った竜士は無くさないようにブレザーのポケットに仕舞うと雫に感謝の言葉を述べる。そんな竜士の言葉に雫は今度は聞こえないように小さく答えたのだった。
用件は済んだのか「じゃあね」と小さく手を振り立ち去る雫を短い返事で見送った竜士は胸ポケットにしまった携帯端末が震動している事に気が付いた。手にとって表示を確かめるとそこには達也の名前が表示されていた。
「どうしたんだ?」
『今、第2体育館に居るんだが、来れるなら来てくれないか?』
「ああ、そこは近いから5分で行くよ」
『すまん』
(達也が手こずる相手が此処に居るとは思えないが……まぁ、行ってみるか)
達也程の力があれば応援が必要な事は無いだろうと予想していた竜士は思わぬ応援要請に少し疑問を感じながらも体育館へ駆け出したのだった。
体育館に到着するとそこには大きな人だかりが作られていた。そして竜士はその中に見知った顔を見つけた。
「エリカ」
「あ、竜士君。達也君ならあそこよ」
竜士に気が付いたエリカは竜士が来ることを知っていたのか、その姿を見つけるなり達也のいる場所を指で指した。そこは正に人だかりの中心部で竜士が目を向けると達也は胴着を着た複数の男子生徒に囲まれていた。エリカに手短に事情を聞くとどうやら剣道部と剣術部のいざこざらしい。既に一人、逮捕者が出ていると言うことだった。
「あれ?竜士君は行かないの?」
「俺は必要ないと思うぞ」
「えー、折角来たんだし風紀委員なんだから行きなよ」
こんなところでしゃしゃり出て余計に目をつけられる訳にはいかないと傍観を決め込んだ竜士だったが思わぬ横槍に押され、面倒だと思いつつもゆっくりと達也の方へと歩み寄る。すると風紀委員会の腕章から竜士が達也の応援だと認識した剣術部の部員達は竜士にも襲いかかる。
「俺は達也程優しくないぞ」
迫り来る剣術部の部員に対して”一応”警告を発しておく。委員会本部を出るときに渡された記録用カメラも起動状態にある。興奮しているのか、聞こえなかったのか、竜士の発した警告に対しても動じることなく突っ込んでくる部員を”敵”と認識した竜士は状況の制圧を開始する。
(接近してくる敵は2名、後方、側方からの攻撃の兆候は無い)
素早く分析すると正面の敵に意識を向ける。特に連携していない以上、何人でも同じことだった。竜士はまず突進してくる1人目の懐に潜り込むとその鳩尾に右肘を叩き込む。肘が接触した瞬間、相手の胸骨辺りからミシリと音が、遅れて頭上から息が漏れる音が聞こえてくる。突進のエネルギーを鳩尾に叩き込まれた部員は声もなくその場に崩れ落ちた。
(……1人目)
感覚的に戦闘不能にしたと認識した竜士は間隔を開けて突っ込むもう1人に対して向き直る。肘打ちを警戒して竜士の腰目掛けてタックルを仕掛けようと前傾姿勢で迫る相手に対して接触の瞬間に相手の左側に半身で躱し、脚を掛けると同時にがら空きになった相手の延髄に手刀を繰り出す。しかし、竜士の手刀はギリギリのところで達也に止められた。
「止めとけ」
「達也か……ありがとう」
達也は竜士の手を離すと倒れた2人の容態を確認し、無線機を通じて報告する。
「こちら、第2体育館。逮捕者3名。尚、負傷していますので担架を3つお願いします」
無線の先では本部の摩利と真由美が何やら慌ただしくなっている様だったが、用件を伝えた達也はそのまま通話を終わらせた。無線機を片付けた達也はそのまま周りを見渡し最早抵抗する素振りを見せる者が居ないことを確認すると、その場に出来た人だかりに解散するように指示を出した。当初は言っても聞かなかった生徒達も達也と竜士の実力を目の当たりにして、恐怖心を抱いたのか直ぐにその場は解散した。
(的確に相手の急所を狙っていた。それに状況判断も格闘能力もずば抜けている。やはり四葉の息が掛かっているみたいだな。それにしても、あれじゃあまるで機械だな……俺が言えた義理じゃないが)
「お疲れさま」
「ああ、ありがとう」
人だかりが解散した体育館には達也とエリカ、そして竜士が逮捕した3名の生徒を引き渡すためその場に残っていた。竜士と少し離れたら位置にいた達也にエリカが近寄り労いの言葉を掛ける。そして、達也も予想していた話題を向けた。
「あの体捌き、普通じゃあり得ないよ。それに加減はしてたみたいだけど最後の手刀は当たってれば不味かったわね」
「ああ、エリカならわかると思うが、アイツの動きは武術のそれではない。どちらかと言うと軍人のそれに似ているな」
「そうね。確実に急所を付いていたし、一番は戸惑いが全く見られなかった事ね」
エリカと達也はただ立ち尽くす竜士の背中を見つめていたのだった。
「……ああ、今年の1年はなかなか良いのが居るよ。特に、ずば抜けているのが司波達也と英竜士って言う2科生だ……ああ、分かったよ。『
新入生達も解散し、人も疎らになりつつある体育館の入り口で意味深な笑顔を浮かべる男子生徒が胸の前で腕を組み竜士と達也に視線を向けていた。
「『
「『
「ああ、だがその為にはあの2人を仲間にする必要があるな」
司の隣に立つ、髪をポニーテールに纏めた女子生徒も同じように達也と竜士に視線を向けたのだった。
いかがでしたでしょうか?
ブランシュ編は早めに済ませようと思います。
次回もどうぞよろしくお願いいたします!