「やーい、弱虫」
「紅希とかカッコ悪い名前で出歩くな。耳障りだ。」
ーー
朝日が窓から差し込んでいる。少し目に違和感があったが気にしなかった。
ジャージから昨日洗濯した制服に着替える。洗剤の良い香りがした。
顔を洗ってから生徒会室に向かった。
「もう、こうちゃんはお寝坊さんだね。」
丈槍が明るい声で話しかけてくる。
「お前もさっき起きたばかりなんだから人の事いってられないぞ。」
胡桃がシャベルを磨きながら言う。胡桃の言ったことは丈槍の図星している様子で事実だとすぐにわかった。
時刻は朝の8時少し前辺りだった。
「佐倉先生、今日は手伝うことはありますか?」
「うーん。今日は特にないわ。せっかくの日曜日なんだし今日はゆっくりしてて大丈夫よ。昨日は頑張ってくれたものね。」
褒められると少し恥ずかしく目を背けた。
日曜日は休みだが、こんな状況じゃそんな事言ってられない気がする。
「じゃあ丈槍さんの勉強の手伝いをお願いできるかしら?」
「ええ!?めぐねえ、こんな時でも勉強するの~?」
「こんな時だからこそよ。この状況を打破した所で何もできなかったら、意味がないでしょ?」
「そうですね。よし、丈槍行くぞ。」
「由紀、勉強頑張れよ。」
(胡桃も勉強はしたほうがいいと思うが学力がどれくらいなのかわからないので変に口出しはしないでおこう)
ーー
「うーん、こうかな?」
「丈槍、そこはさっきと同じように一つずつ明確にして解いていけばいいぞ」
文系のことは苦手だったが、理数系の問題は得意だったので優秀な人を装って丈槍に数学を教えた。
「もう、なんで勉強しなくちゃいけないの~」
確かに考えたことなど無かった。勉強はやるのが当然という考えだったからだ。
「・・・それは・・・頭を使う練習じゃないか?ほら、体育でも走ることは多いだろ?だからそれと同じく頭を使う練習をしているんだよ」
「頭を使う練習かー。・・・そうだね、頭が使えなかったらどうしようもないもんね。」
丈槍は少しふわふわしすぎだと思っていたがこんな状況だと笑顔を見ていると安心する。丈槍がいなかったら何かが切れてしまったかもしれない。けれど、丈槍はそれをつなぎ止めてくれた。
「ありがとうな、丈槍。」
「ん?どうしたのこうちゃん」
「いいや、何でもない。早く終わらせて休憩するか。」
ーー
屋上に行ってみると、そこには若狭の姿があった。
園芸をしているようだ。
「何か手伝うことあるか?若狭」
「あら、紅希君。今日はそんなに無理しなくていいのに。昨日は大活躍だったわね。」
「それはどうも。けれど、なにかしていないと落ち着かないんでな。」
「そうなの。じゃあお言葉に甘えて手伝ってもらおうかしら。」
「お安い御用だ。任せておけ。」
(女子でも出来る程度なら大丈夫だろう?)
ーー
嘘だろ。こんな重労働だったのか園芸部は。
「若狭、これを毎日のようにやっているのか。」
「ええ、そうよ。この程度ならまだまだ余裕よね?」
「お、おう任せておけ。」
若狭は結構体力もあるようだ。瞬発的な力は普通なためやはり戦闘には向かないだろう。
まだまだ作業が続くようだったが女子の前では弱みを見せるわけには行かず、力尽きるまで作業を続けた。
ーー
「ありがとうね、紅希君。おかげで、すぐに終わったわ。」
(おかげさまで俺の寿命も直ぐに終わりそうだ。)
そんなことは口にもせずに、「また手伝うことがあったら言えよ」と自分で自分を縛る結果になってしまった。
若狭・・・一体どんな化物なんだ。
ーー
すっかり日は暮れてしまった。生徒会室には胡桃と俺しかいなかった。
「しかし、やっぱり男子のお前は力があるよな。一人いるだけで助かるよ。」
「女子に負けてなんかいられないからな。胡桃も女子なんだからあまりスコップなんて振り回すんじゃない。危険だぞ?」
「私を女子だからってなめてるのか?残念だがその心配は必要無い。お前にだって負けないぞ!」
「ははは、面白い冗談だ。俺に勝つにはまだ10年速いな。」
胡桃に冗談を言うと、胡桃の顔が少し暗くなった。どうしたのだろうか。
「・・・この状況で10年間も生きることが出来るのかな?映画とかだと丸く収まってハッピーエンドになるのが当たり前だけれど、ここは映画なんかの世界とは違うんだもんな。もしかしたら、これが全部夢なんじゃないかって思ったこともあったよ。けれどやっぱり現実なんだなって思うたびに一人で悲しく思って、辛くなるんだ。」
「・・・胡桃・・・確かにそうだけれど、俺はこんな時にはポジティブに考えなきゃいけないと思う。だって、この事件があったからおれはお前たちと出会えたんだって少しでも良い方に考えてるんだ。そうすれば重くのしかかっていた不安もどこかに吹っ飛んでいってくれるさ。」
こんなことで元気付けられているだろうか。
少しの間沈黙が続いた。
「・・・そうだな!考え込んでいてもしかたがないか。ありがとうな紅希。相談に乗ってくれて」
「いつでもい話してくれ。聞くだけなら得意だ。」
胡桃も強がっていたんだ。周りに不安をかけないためにも。心の中ではずっと助けを求めていたんだ。俺が前に立たなくてはいけないんだ。
心にそう言い聞かせ、これからの生きる決意を固めた。
ーー
「うーん、やっぱり乾パンパサパサするー。」
「確かに私もそう思う。味は悪くないんだけれどな。」
「購買になら何かあるんじゃない?」
若狭が言う。多少リスクは伴うかもしれないが、少なくとも乾パンだけでの生活には無理があると思う。
「俺は、賛成だが・・・佐倉先生、どうしますか?」
「そうね、気をつけながらいけば行けるかしら?偵察も含めて一度行ってみましょうか。」
「よし、そうと決まったら。紅希準備は万端にしておけよ。私の足を引っ張らないようにな」
「それは胡桃も同じだろう?明日はよろしくな。」
こうして明日はバリケードの外へ出ることに決まった。
そして、次の日。その日は雨が降っていた
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