野郎共はIS学園で何かを追い求めるようです   作:文系グダグダ

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クラスメイトは全員野郎(担任含め)

「どうしてこうなった」

 

 目の前にいる担任を他所にただただ呟くしかない。教室は妙な空気に包まれていて、誰からも反応がない。

 

 男、男、男……まるで男子校のような、メカトロニクス学科系特有のような、そんな華の一つもないそんな空間、それがこの教室だ。メガネ天国じゃないだけマシかな?

 

「本当にどうしてこうなった……ッ!」

 

 俺は俗に言う転生者という奴だ。大事なのは転生をした人ではなく転生者、って所。二次創作でナウい、現代世界、つまりは『向こう側』の知識と経験を持ったままに創作世界、『此方側』に来た人間だ。

 インフィニット・ストラトスの世界で、俺はまぁそれなりに普通の家に生まれた。町工場で働く職人を父に持ち、平々凡々にある程度女の子に虐げられながら女尊男卑の世界を生きてきたのだ。父親の仕事が職人技術という事でIS装備の一部に利用されているので、ISにちっと触れた機会があるのがまぁちょっと優越感。でも、そんな事が優越感になるほど俺は普通に生きてきたのだ。

 ……触れたその時、ISを動かせそうだなと思った事なんて無視しながら。

 

 やっぱ、強くてニューゲームとか……最高やな! と、調子に乗って生きているその頃、この世界がインフィニット・ストラトスという物語を下敷きにしている事に気付いたのは、篠ノ之束が事件を起こしてからの話。

 そして、原作とはズレていることに気づいたのはその事件から少し経ってからの事だ。

 ……なんていうか、束さん、行方不明にならない。呑気に製造を続けている。製法を明かさずに、一所に留まらずに、それでも世間に身を晒しながら少しずつISコアを普及させている。

 ピンときた。これは俺以外にも原作に存在しない要因である転生者がいるんだなって。そいつが積極的に動いているんだなって。

 

 俺は別に世界の有り様になんて興味はなかった。理由はいくつかある。

 IS世界に生まれたって言っても別にヒロイン達に無理やり近づきたいとは思わない。ヒロイン達の面倒なバックグラウンドに貧弱一般人がどうこうできるはずがないだろ、いい加減にしろ。

 次にラノベ世界であるおかげか転生した俺含めやたら顔面偏差値が高いので、身近な女の子でさえ十分可愛かったのもまぁ、理由の一つ。

 最後の理由は、自分以外の転生者さんとかち合って行き違いがあって殺し合い、なんてふざけた事になるのはごめんだからだ。リスクの割にリターンが少ない道なんて誰が行きたいと思うものかよ。

 とか思ってたら、政府の人が俺の家に来て。

 

 昔触れたISが、俺に触れた時のデータを観測していたらしくて。初めは誤差や誤認と思われていたらしいが、最近『ある理由』から見直しが行われ、俺だってISを動かせるかもという話になって。

 あれよという間に機密保持の為だとかでひとっりきりで試験を受けさせられ、やっぱり動かせて、合格して。

 なんだかよく分からないがIS学園に通う事になって、こうなったのです。

 

「つぎ、東陽太」

 

 ひがしようた、と自分の名前が呼ばれる。無骨で機能的な肉体を誇る担任の口からだ。

 

 怖い。

 

 怖いと言えば、この教室にいる奴全員が怖い。ヒロイン争奪戦とか、女尊男卑はおかしい革命だとか、男ばかりとクラスメイトになったんなら死ぬしかないじゃないとか言い出さないだろうな……。ちらと見渡す限り、少なくとも今すぐアクションを起こそうという輩はいないようだけれど。

 すぐに浮ついた目線を目の前の担任に戻す、下手に行動すると何をされるかわかったものでなく、とにかく恐ろしいことには代わりはなかった。この世界では他はともかく少なくとも貧弱一般人の俺は弱者でしかなく、周りも俺と同じだとは言い切れない。

 

――もしかして心を読める系とか魔法めいた能力とかないだろうな……

 

 すっと息を吐き、立ち上がる。嫌な事はとっとと終わらせるに限る。

 

「東陽太です。多分皆さんと同じで、なんかふつーに生きてたらアブダクションされてここに連れてこられたんすけども……あー、まぁ、よろしく」

 

 可もなく不可もなし、無難な紹介をしてとっとと席に座る俺。今は少しでも針のように刺さる視線から逃げたくてしょうがなかった。

 皆さんと同じで、と言う辺りは半分ぐらい嘘だけれど。多分、この中の一人ぐらいは既に最低でも篠ノ之束に関わっているんだろう。

 他のヒロインとなる女の子に絡みに行った人もいるのかもしれない。もしかして、もっと根源的な所とか暗い世界とかに踏み込んだ人も――

 

「次、鶴村勝」

 

 自分の背後でつるむらまさる、と。そう呼ばれて立ち上がったのは小柄な男だった。

 ていうか、知ってる顔だった。こっちではなく、『向こう側』の世界で。記憶は定かではないが、俺が生きて命を落としたらしい『向こう側』で。ラノベ補正でイケメン上がっているが、面影があった。

 

「鶴村ですー。なんか、まぁ、あれだよ、あれ、うん」

 

 その男は、物凄い気楽な調子で言葉を紡ぎ。なんかもう皆ピリピリしてんのわかんないの何なのこいつって俺のアイコンタクトを無視しながら。

 

「とりあえず、そんなことよりカタンやろうぜ!」

 

「マジかよやりてぇ!」

 

 皆をずっこさせる事を言った。乗ったのは俺だけだった。

 

 とりあえずは授業であった。

 

 殆どのクラスメイトはカタンのルールを知らなかったので急遽、カタン講習会が始まり、やがてあっという間に白熱したカタン講習会は遂に危険な一時限目に突入しようとしたが、恐らく俺達男子クラスの為に呼ばれたであろう担任の教育的鉄拳により食い止められた。俺は首謀者じゃなく一番に乗っただけなのに理不尽だ、と拳骨落とされた頭を撫でながら思う。

 

「現在、ISの軍事的利用には厳しい制限が課せられている。潜入や密輸に最適なISは容易く非人道兵器へと姿を変えるからだ。君達の将来は軍人や競技者よりも平和的利用をする……そうだな、災害救助隊など、そのような道に進む者が多いだろう。もしくは、研究施設のモルモットかもしれんが」

 

 先生の冗談はかなり笑えない。

 ISの数が制限されている原作と違い、この世界でISは広く利用されている。国連認可のIS学園がここにしかないだけで、IS専門学校のようなものなら世界中のどこにでもある。学園はエリートのみが通う事を許される狭き門にして、IS競技者の登竜門のような存在なのだ。

 とはいえ、この教室にいる男達はそういうの関係なく保護の為に集められているのだが。

 この話についてもクラスメイトの幾人かは今知ったような顔をしているのもいる。勿論、そういうポーズをしているだけなのかもしれないけれど。

 こいつら全員『向こう側』からの転生者で強くてニューゲーム状態だとすると腹の中で何を考えているのかわからないのだ。油断をしてはいけない。カタンはするけど。

 

「君達の中には事情があり、ISについて詳しい者もいる。だが、そんな君達でも馬鹿らしいと思わずどうか私の話に耳を傾けてほしい。ここで学ぶのはただの操縦技術だけではない、人と関わる為の操縦技術だ。どうか気を抜かずに取り組んでくれ」

 

 どうやら、というか。やはり、というか。元からISに関わっている人はいるようだ。織斑一夏が表に出るまで秘匿されていただけで。多分軍人とか、特殊部隊の人間とかにはいたのだろう。

 もしかしたら秘密結社のエージェントとか、篠ノ之束の肝入りとか、そんな得体の知れない奴らもいるかもしれない。

 あと、担任は凄く真面目だった。チャイムが鳴ってもキリの良い所まで授業終わらない系先生でだった。そしてきっちり宿題を残すタイプでもあった。ちくしょう。

 

 

 

「で、鶴村も一般人?」

 

「いや、そもそもこんな所で言える訳ないですやん」

 

「で、実際はどうよ?」

 

「そうだよ(肯定)」

 

 休み時間、流石にこの短時間で終わらせるゲームの用意なんて出来ていないので適当に二人で寄り合って話す。

 まぁまず話題は、お互いがどういう存在かと言う事になる。俺達は知り合いで友人とはいえ、16年もの違う人生を歩んできたのだ……その割にいきなり波長が合った気がするがご都合主義時空的な何かが発生したのだろう。

 鶴村の言葉には含みがあったが、語る瞳に裏はない。まぁ、無意味なミスリードをしただけで一般人なんだろうこいつも。

 お互いにあれこれと昔話に花を咲かせつつ、どうやら貧弱一般人枠は俺だけではないことに心中で安堵する俺に、鶴村は爆弾をぶちこんだのであった。

 

「あっそうだ。でもなんか、転生者ってすごいらしい。才能あるらしい」

 

「マジかよ」

 

「うん。他の転生者仲間に聞いた」

 

 謎の交友関係の広さだった。他の転生者に対して身の振り方を考えている俺が馬鹿じゃねぇか。

 となれば、俺達は他のクラスに派遣されるという話も大丈夫かもしれない――男ばかりのクラスを纏めるのにどっかの組織から派遣されてきた担任だが、彼はISを扱えない。座学は彼に任せられるが、IS実技は他のクラスに混じってやる事になるのだ。しかも、ローテーションで全てのクラスを回る事になる。

 まぁ、各国の思惑的に男子をただ隔離する訳にはいかないという事だ。学費免除の代わり、こういう面倒な事にも付き合えという訳だ。まぁ女子にちやほやされるんなら望む所と言う奴らも多いだろう。

 俺? 失敗が怖いから出来るならやりたくない! 女の子に嘲笑われるのって、凄く心が痛い!

 

「しかもどこかの馬鹿がやらかしたのか、個人ISオッケーって」

 

「マジかよ」

 

「うん。転生者仲間が持ち込んでた」

 

「ちなみにお前は」

 

「持ってねぇよバーカ!」

 

「当たり前だよなぁ」

 

 謎の交友関係だった。

 ISの数が制限されていないとはいえ、プライベートジェット並の代物ではある。ていうか、基本的に所持に関しては厳しい取り決めがあるのだ。個人がそうホイホイ持てるもんじゃない。

 つまり、転生者ってのはそれにも拘わらずホイホイ持ってる奴か、後ろ盾があるか。そういう奴らばっかりで、しかもそれを晒す奴らばっかりって事だ。自信があるのか危機意識がないのか知らないが怖すぎだろ。

 

「おい、ちょっといいか」

 

 と。そんな俺達に話しかける奴がいた。

 知らない顔だった。眼鏡を掛けていて、こちらの世界で随分と鍛えたのかがっしりした身体つきだ。瞳は冷静、物腰は静か。

 そんな男が、口を開く。

 

 

「お前らは 誰 推 し だ ?」

 

 

 ずっこけそうになる。

 誰推し、とはヒロインの事だろう。この世界が『向こう側』のラノベだった頃、主人公の周りに居た彼女達。

 

「俺、千冬姉!」

 

「ええ……(ドン引き)」

 

「知ってた」

 

 隣でアホ(鶴村)が叫ぶ。見事な即答であった。そして、そういえばこいつはそうだった。おっかない系女子好きなのだ。女死力なのだ。

 さて、どうしよう。俺は特に誰って言うのはない。可愛い女の子は好きだが、可愛ければ貴賎なく等しく好きだ。こういう事を言われると、その、困る。

 二人の真面目な瞳がこちらを射抜く。えぇい、仕方ない。

 

「一夏」

 

「えっ」

 

「えっ(便乗)」

 

 沈黙の帳が落ちる。二人の目が逸らされた。焦る。鶴村お前は俺がノンケだって知ってんだろいい加減にしろ。

 

「ご、ごめっ、じょうだ」

 

「そうかそうか」

 

「そうかそうか(便乗)」

 

 受け入れられてしまった。便乗するのはやめてくださいよ鶴村さん!俺の社会的にまずいですよ!?

 

「ちょ、あのっ」

 

「さて、本題に入ろう。さっきのあれは危険でないかどうかの確認の為だ……まぁ別の意味で危険なのが見つかってしまったが」

 

 やべぇよ。やべぇよ。話が進んで訂正が利かなくなってしまった。どうしようこれ。

 

 

 奴の名前は井口と言うらしい。

 

 

 なんでも、今このクラスではクラス代表を巡って水面下の争いが繰り広げられ……結果、ヒロイン争奪戦の様相を呈しているらしい。やっぱり皆ヒロインが好きなようだ。仕方ないね。

 で、まぁ、そこまでならいい。そっから一夏を潰そうって勢力が出て、ややこしくなっていると。

 

「やっぱりな」

 

「俺は純粋にISの技術を磨きに来ている。そういう奴らは正直迷惑なのだよ」

 

「原作が壊れるわ……」

 

「んで、そういう事はしなさそうな俺達に声をかけたって事ね」

 

「うむ。カタンの時のノリ、プレイングの誠実さ。これらで確信した」

 

 確信されたらしい。

 井口は日本政府に秘匿されていた男性操縦者で、コネはある。

 あるが、その分重責もある。どうでもいい脇の話で怪我を負ってクラス代表を奪い合う戦いで後れを取る訳にはいかないと。

 で、俺達に白羽の矢が立ったわけだ。

 

 コネ無し、重責無し、後ろ盾無し、専用機も無し、価値も無し。使い捨ての手駒にするには普通だな!

 

「お前達に回せるISが一つある。有事の際には頼めるか?」

 

   ■   ■   ■

 

「では、後は任せた。頼んだぞ、鶴村、東」

 

 俺達に情報を伝えた井口はその場から立ち去った――ここまで調べたのは奴なのか、もしかしたらいるのかもしれない奴の仲間か。どっちにしろ俺達を介していて恩は売れないのだ。良心からの行動だろう、マジいい奴。

 ちなみに。奴が立ち去ったのは、つまり俺達がいるのはIS整備室である。

 

「ヒュー!、中々……悪くないじゃないか」

 

 芝居がかった口調で鶴村はそいつに、井口に託されたISに近づいた。

 打鉄である。どこか鎧武者を思わせる装甲の、超かてぇISである。生産性もあって色んな意味での頑丈さもピカ一、原作と同じく世界シェア二位を誇る。

 

 そして井口が持ってきた情報である一夏を狙おうとする一派――俺達の中では襲撃組と呼ぶ事にする。

 そいつら襲撃派のリーダーは南雲と言うらしい。

 あいつらは「ヒロインが一夏に集まるの癪だからぶっ殺すorこてんぱんにして失望させる」って主義で一つに集まっただけだ。求心力はなさそうだわ、潰したら頭がすげ変わりそうだわであまり重要ではなさそうだが、知っておくに越した事はない。

 人数は彼含めて四人。ISを個人所有していてなおかつこんな馬鹿な事に使おうとしてる奴らの人数だ。

 

「で、ほんとに東はいいのか?」

 

「ん、俺はパス。向いてない」

 

 こちらの世界でも俺は身体を動かしたり、武道を習ったりもしなかった。軍事教練どころか軍オタ程度の知識もないし、おもちゃの銃すら握った事がない。

 才能って面では知らないが、少なくとも経験面において俺は一歩劣っている訳だ。

 しかし、目の前にいるこの鶴村は。俺の記憶が正しく、そしてこいつがこの世界に来てもそれを続けているというならば。間違いなく、俺なんかよりも絶対強い。

 

「それじゃ俺の物って事で」

 

 うひょーと奇声を上げながら、鶴村は初期化と最適化処理の作業に入る。俺は外部からデータ取りとサポートだ。

 鶴村は、転生者は才能がすげぇと言っていた。ならば俺の才能と言うのはこういう方面なんだろう――昔ちょっと見たのと、教科書で読んだだけの知識なのにすらすらと作業が出来る。作業量が物足りないぐらいだ。頭の中で理論と工程が小気味良く噛み合って、目の前の問題が流れていく。

 なんか俺、ちょー凄いかも。

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 部屋割りはなんと申告さえすれば自由だった。寮内に即席で作られた男子寮スペース内であればどういう組み合わせで部屋を使っても大丈夫との事だ。高度に政治的な問題なのか、人道上必要な配慮的な何かなのだろう。

 ちなみに俺は鶴村と同じ、と言いたい所だが彼は件の転生者仲間と同じ部屋だ。今度お邪魔してボードゲームをやろうと思う。

 そして「じゃあ知り合いも他にいないしなんでもいっす」と言った俺と同じ部屋になったのは

 

「どうも、織斑君。東っす、東陽太」

 

 そう、織斑一夏だった。とりあえずと言う事で体育館に集められていた荷物を取って部屋に行けば、奴がいたのだ。なんでもいいって言ってはいけない(戒め)

 イケメンはイケメンの爽やかイケメン君だが、俺達転生者イケメンによりイケメンがゲシュタルト崩壊しているのでさほどイケメンとは思えない俺イケメンって何回言った。まぁそういう事で、一年一組所属、唯一女子に囲まれた男子にして原作主人公様だ。

 そして俺と鶴村の護衛対象でもある。

 

「あ、あぁ……よろしく、東、君? ってか、俺の名前知ってんの?」

 

「一応君が世界初の男って事になってメディアでも取り上げられてたし。そりゃね」

 

 続々と発見されてからの俺達は個人情報保護の恩恵を受けたが、白熱していた時期の織斑君は顔出ししまくりのマジ悲惨な状態だった。週刊誌にある事ない事書かれてたりしたし。

 とりあえず荷物を置いて軽く話す。とは言っても、基本的には織斑君の話の聞き役だ。彼はコミュ力の高さを生かしてこれまでの自分の経緯を包み隠さず話してくれた。織斑って先生と同じ姓だけど、とか突っ込めばその辺りも話してくれたし。これで彼の生い立ちについて口を滑らせておかしな事に、とはならんだろう。

 

「いやぁ、東君話しやすい奴で助かったよ。友達が二人こっち来てるんだけど、そいつら二人とも俺と同じ部屋がいいって言うからさぁ。なんかこじれるのも嫌で、その二人で同じ部屋になってもらったってことで」

 

「あっ(察し)ふーん……」

 

 こんな世界にもホモはいるのかたまげたなぁ……

 

 冗談はナシにして、恐らくは一夏の傍にいればヒロインのおこぼれにあずかれるとか思った転生者なんだろう。 純粋に彼の事を心配してかも知れないが……まぁうん、まだどんな奴らか分からないんだしゲスの勘繰りはやめておくか。

 俺と鶴村、そして鶴村の友達。井口、四人の襲撃組、一夏の友達二人。これで10人、クラスメイトは30人だから1/3が俺の中で判明したことになる。残りの20人がなんなのか、恐いな。

 

「んじゃ、風呂いってくる。シャワーしか使えないの辛いよなぁ」

 

 織斑君が先にシャワーを浴びている内に考える。

 とりあえず世界はずれている。ずれているが、織斑君は幼馴染の箒と再会したと先ほど言っていた。

 セシリアについても話を振ってみれば、絡まれたとかそういう話になっている。つまり今の段階じゃ原作と同じって事だ。

 箒と特訓して、セシリアとフラグを立てる。従来のフローではあるが、そんな事は南雲達襲撃派は勿論許さないだろう。

 とはいえ、奴らもISで所構わず襲撃をかけるほどキレた奴らではないと信じたい。ていうかそうなるといくらなんでも井口はじめとする穏健派に叩かれて終わるだろう。数で言えば一夏にちょっかいをかけないとしてる方が多数派な訳だし。

 

「となると、やっぱ織斑君のIS訓練中だろうなぁ」

 

 もしくは、可能性は低いが生身での襲撃か。個人用ISという圧倒的なアドバンテージでボコれるならそっちにしそうだが、出来るだけ早く潰したいならそっちもあり得るだろう。確か織斑君がIS手に入れるのって、クラス代表決定戦でセシリアと戦う時なんだよなぁ。

 なんにしろ、俺に出来る事は少ない。織斑君と出来るだけ一緒に居て鶴村や他の人に連絡、それだけだ。一人でないだけで襲われる確率も下がるだろうしね。

 

「あがったぞー」

 

 さて、とりあえずシャワー浴びてこよう。

 

 

 翌日。「幼馴染怒らせちゃってるんで、機嫌取りに行くわ」と言っていた織斑と分かれて一人で食堂に行く。

 結論、凄いモテた。

 

「うぇあぁ……」

 

 戸惑いのあまり変な声が出る。IS学園の同級生やお姉さま方は急に増えた男子に興味津々のご様子で、誰彼かまわず食堂に来た男子に声をかけていた。勿論、グループで。その勢いに呑まれ、一緒に食事をとるようになっている奴がほとんどだ。

 俺もまた例外ではなく、年上のお姉さま方に両脇を固められていた。

 

「ハーレム!」

 

 とりあえず両腕を広げて叫んでみた。お姉さま方はきゃっきゃと面白がってくれる。男子のノリなら箸が転がっても面白い状態らしい。ここがエデンか。

 とりあえず、彼女達はずっと女子校のままここに繰り上がった生粋のエリートお嬢様らしい。物凄くそそられるものがあってこのまま目的を忘れてずっと戯れていたい所だが、あまり織斑君を見失って行動する訳にもいかない。いかないのだ!

 

「えー、いやもう、先輩可愛いんですげぇもうIS学園に来てよかったなーっていうか」

 

「まぁ、お上手。うふふ」

 

「いやいや、ほんとに。男子なんてそう単純なもんで」

 

 ……はっ。思わず堪能してしまった。

 とりあえずチョロいお姉さま方とはとてもお近づきになりたいけれど流石にこんな状況だからえー自分からメルアド聞くのって恥ずかしくなーいとかそういう葛藤に囚われながら、その間に食堂を見回す。

 織斑君の事はすぐに見つけた。箒と、その他一人の知らない男子と共に食事だ。南雲達襲撃派の四人は顔写真を見せてもらって覚えているのでそいつらではないと断言出来る。と言う事は、あれが友達と言う奴か。

 

 お姉さま方の内の一人が昔からやってみたかったことがあるんですと言いながらあーんしてくれるという凄まじい浪漫に魂が絶頂しそうになりつつ現実でやると結構食べにくいなまぁそんなもんかと思いながら、織斑君達に近づく女子の姿を見る。

 原作通りと言う奴だ。そろそろ気にする必要もないだろう。至福のミートボールを飲み込みながら思う。

 

 お姉さま方の方からメルアドを聞いてくれるというマジかよこの都合のよさがオリ主って奴か転生して良かった我が世の春だぜフゥウハハァー!!とか感動しながら見渡すが、鶴村の姿は見えない。

 どういうことかと探してみれば……まだカウンターの前に居た。ていうか、なんだあれ。

 

「何やってんだあいつ……(ドン引き)」

 

 あらあらどうしましたのって服の裾をついと撮むだけの控えめな気の引き方に萌えながら注視してみれば、鶴村は南雲と話していた。襲撃派のトップである、あの南雲とだ。仲良さそうに。

 とりあえずお姉さま方にちやほやされながら完食し……昼の食事の時間、俺は鶴村を呼び出すのだった。

 

「なぁお前、南雲と知り合いだったの?」

 

「まっさかー。後ろにいたから話してみただけだよ」

 

 その後鶴村に聞くと返事はこれであった。

 こいついろんな奴と波長合うな、恐い。

 

「普通に飯の話したらあんなもんでしょ」

 

 そんなもんじゃない。

 

 そんな訳で。女子に囲まれないように食堂を止めて購買のパンを持ち寄り、校庭の隅で作戦会議だ。もそもそと味気なく感じるのはあのエデンを放棄したからだろう。ちくしょう、女の子に囲まれるのすごく気分良かったのに。

 

「とりあえず、思ったほど悪い奴じゃない、んだけど……」

 

「だけど?」

 

「自分の事、特別と思ってる。それかねぇ……って思うね」

 

 ヒロインの事を求めているのではなく、そうして当然だと思っているという事か。厄介じゃねぇか。

 

「多分説得じゃ止まらんね。まぁなんかアクションしたら織斑守って逃げ切って、千冬ねぇに拳骨してもらいますかねぇ……」

 

「お前、この世界で千冬ねぇとか言うのやめとこーぜ……」

 

 俺も織斑君ってちゃんと呼んでるし。

 

 織斑君を見捨てるという選択肢もあるが、それはどうしようもなくなったらだ。俺と、多分鶴村は平穏無事に生きてアホが出来ればいいのだ。その為には出来るだけ原作の流れって奴をそのまんまにして、織斑君には頑張ってもらわないといけない。ヒロイックに活躍なんて勘弁ですわ。

 その為には少しばかり頑張らないといけない。力があるんだから、最低限の事はしないとバチが当たっちまうね。

 

「バレなきゃヘーキヘーキ、平気だから。

 で、注文してたパッケージは出来た?」

 

「転がってる既存兵器の寄せ集めに出力調整とかしただけだけど、あともうちょいって所かな。一から注文してる時間はなかった」

 

「せやろな、頼むよー

 最悪クソみたいな腕のブレード一本で4対1なんて無理ゲーやらされるからな」

 

 俺に出来るだけの事はやらせてもらう。鶴村の注文通り、適正通りの機体に組み換え直すというその作業を。

 一介の学生が好きに出来る武器なんて限られてるから井口にちっと無茶は言ったが。面白おかしく、俺に出来る最善を尽くさせてもらった。

 俺達は織斑一夏を守る。皆で馬鹿やれる時間の為にな。

 

「っと」

 

 そう決意を新たにした時、携帯が震えた。もしやお姉さま方からのお誘いかと急いで取り出してみれば、表示された名前は井口。

 鶴村と顔を見合わせメールを開けば、そこには予想外の言葉が踊っていた。

 

『倉持技研から白式が届くのが原作より早い。今日だそうだ。いきなり起動テストをやるという話になっている。警戒を頼む』

 

 こうして、俺は午後の授業をサボってパッケージの最終調整をする事になったのだった。担任には怒られた。

 

 

 

   ■   ■   ■

 

 

 アリーナに駆け付けた時、既にその中央では小競り合いが起きていた。

 まず一際目立つのが真白い装甲のIS、白式。既に設定は終えているようで、優美な白銀の刃を携えた織斑一夏は憮然と宙に浮いていた。

 そしてその正面。白式と同じく、白を基調としながらも黒みの強い構成パーツも多く、そして何より一際目を引くのが背の翼。青い、両翼合わせて八方に広がったシャープな造形。それはまるで、擬人化された

 

「さてと、なんとか間に合ったものの東さんアレはなんでしょうね?」

 

「ストライクフリーダムガンダムじゃねぇか……!」

 

「ダメみたいですね」

 

 人もまばらな観客席で思わず呟く。そもそもイベントでもないのに観客席に人がいる方が珍しいのだが、今はあの騒ぎから逃れた人がここに来ているらしい。

 ストライクフリーダムガンダム、即ちストフリのISを装備しているのは南雲だ。どうやら既にISを持っている転生者というのにはこういう類の奴もいるらしい。

 

 現在、鶴村の打鉄のパッケージを仕上げる際にパーツ取りに使わせてもらったラファール・リヴァイヴを、俺は拝借している。元々オンボロで廃棄しそうなものだったのでロクに動かせはしないが、基本的な機能は生きている。通信だけするのならば十分だ。

 一触即発の空気の中、俺達の声は呑気だ。自分で思っちゃうほどに。

 

 織斑君の背後にいる打鉄を纏った箒に近づくのは南雲が連れた三人だ。それぞれラファールを元にした機体のようだが、デカい砲を背負った奴に、デカい剣を背負った奴、ブースター的なものを背負った奴とそれぞれカスタムしている。

 

「そしてストライクが3機っと……なあ、ホントに増援は来るんだろうな?」

 

「だぁいじょうぶだって、安心しろよ」

 

 ガンダム達は囲んで威圧している。織斑君を押し止めるようにしながら、箒に近づいて。多分あれ、織斑君に先に手を出させようとしているんだ。あとで色々と言い訳が利くように――会話が聞こえないのがもどかしい。

 箒の表情は硬い。あんなんじゃあ惚れさせる事なんて出来やしないだろうに。

 

 ちなみに鶴村の友人だか言う奴が今回手伝ってくれるらしいが、まだここには来ていない。保険にするのはいいが、頼りには出来そうにない。

 そして、とうとう織斑が刀を――突きつけた。

 

『俺の出番だ! イクぞォ!』

 

 そして……

 

 南雲がにやと笑い、その手にビームライフルらしきものを顕現させた瞬間。

 囲んでいた三人が織斑君に向き直り、それぞれの武器を構えようとした瞬間。

 織斑君の顔が驚愕に染まり、たたらを踏む瞬間。

 箒の顔が、怒りだか悲しみだかに歪む瞬間。

 

『ヒャッハー!』

 

 ハイテンションな声とともに、ピットから飛び出す鈍色の影――それは箒のものとは形状の違う打鉄。

 浮遊部位アンロックユニットのアーマーはそのままに全体的に装甲を前面に回して、全身を装甲に盛りつけている。

 さらに左腕には実体シールドを装備し攻撃に耐えるように。正面から、撃ちあえるようになっていた。

 頭部には慣れないハイパーセンサーの補助か二眼式のARゴーグルを装着している。

 そしてその右手に握るのは打鉄の基本装備である刀ではない――ハンドガンである。

 

「っ」

 

 南雲が頭上から現れた打鉄、つまり鶴村を見上げようとしたその秒にも満たない時間で三発の銃弾が放たれる。鶴村の持つそれからだ。

 物陰から飛び出しながらで、距離も離れていて、だというのにその弾丸はストライクガンダム三人衆に狙い過たず直撃した。シールドエネルギーを不意に削られた衝撃で三人は驚き下がる。俺は増援が来るまで、鶴村の話を思い出していた。

 

 少数による奇襲というものは、何も先手が取れるわけじゃあない。

 まず基礎としては、戦いにおける優劣を決めるものは昔から数というのがまず基本や。

 1よりも20、ひいては100よりも1000が勝るのは言うまでも無いやろ。

 しかし、実際数がそのまま勝敗を分けるかといえば……答えはまったく違うものになる。

 数で勝る方が上を行くという理論は、あくまでも互いの質がある程度同じ場合にのみ言える事。上がりたての新兵と熟練の兵とでは、単体としての質はまるで異なる。

  また、それら個人の力量が個体の質を決定付けるのに並ぶように、それらを束ねる軍全体の質を左右するものがある。それが士気や。

 

 それをわざわざ鶴村が見逃すはずもなく、まず斬り込んで来るであろう巨大剣装備のラファールに――ソードストライクガンダムを模したISに追撃と言わんばかりに、ハンドガンを連射させる。ストライク三人衆は面白いように反撃せず一方的にやられていた。

 

 ええか? 例えば武器を持った10の兵達の元へ1人の兵士が襲い掛かってくるとするやん?

 まずは背後からの不意打ちで1人を仕留め、残りがその状況を把握しようとしているところをもう1人ヤッちまうとするやん?

 じゃあ、突然の襲撃を受けた8人はまず混乱を起こし、次にたった1人の兵士に対し恐怖を覚える事になると思わへんか?

 8人が一斉に掛かれば、たかだか1人の人間程度、あっと言う間に無力化出来るだろう。

 けどな、相手も馬鹿じゃない。死に物狂いで道連れにでもできるやろう。もしそうなれば、確率にして八分の一で自分が死ぬ事になるんやで。

  結果として、相手含め9人を包む場の流れ、ペースというものは、僅かな時間とはいえその1人のみに支配されるんや。

 そのときには、たとえ個人の質が本来近いもの同士であろうと、互いの士気は大きく開いている。そう言えへんか?

 

 鶴村の打鉄はそのまま地面に着地すると、拡張領域にハンドガン(DORK)をしまい込むとマシンガン(GAT-22)に切り替えて、反撃しようとビームライフルを構えるエールストライクを模したラファールとビームランチャーを構えたランチャーストライクガンダムを模したラファールにひたすらに撃ち込んでいく。

 

 ISは保護部位のシールドエネルギーを抜かれた時の『絶対防御』が発動した時、最もエネルギーが削られる。故に理論上狙うべきは、頭。ヘッドショットだ。

 

 しかしそれを。初めての空中戦、初めての急降下の中行う馬鹿がどこにいるのか。

 

 目の前にいた。

 

「やっぱあいつキ○ガイですわ」

 

「ほう、見事なものだな。奴は軍人か?」

 

 足を止めた的に向かって容赦なく打ち込まれる弾雨。それを見て感嘆と声を上げたのは井口だった。

 いつの間にかそこにいた彼は、余裕の笑みで隣に座る。

 

「いや、多分違う。『向こう側』の知り合いだから断言は出来んけども」

 

「ならばどういう事だ? 俺もISについては自信がある方だが、射撃精度ではまったく敵う気がしないな」

 

「いやね。あいつ――射撃とか、趣味だったんよ」

 

 井口は「いやいやそれだけであんだけ強いはずねーだろ冗談いうなよ兎さん」って顔をしているが、事実なのだから仕方ない。

 あいつは暇さえあればそういう事をしていた。銃大好きだった。暇を見つけては近所のゲーセンのランキングを塗り替えるような男だったのだ。

 そして。再び子どもに戻り新たな人生を歩めば。あいつは子ども特有の暇な時間を何に使うかは分かる。目に浮かぶ。ガンシュー楽しいれしゅうううと、この世界にしかない筐体を遊び倒していたはずだ。

 

「んで、PICで反動その他諸々を殺せるIS装備での戦闘は、ゲーセンのガンシューなんかとそこまで変わらないって訳だ」

 

「ガンシュー……おい、一つ質問があるがいいか?」

 

 ストライク三人衆は体制を整え、まず相性の悪いソードさん(仮称)は戦線を離脱、織斑君の監視について、エールさん(仮称)、ランチャーさん(仮称)の2人が鶴村の相手をしている。

 ビュンビュンと飛び回りながら射撃をするストライク2人に対して、鶴村は再びハンドガンに切り替えて、実弾を実体シールドで受け止めつつ、ビーム兵器はPICとスラスターを活かしてのサイドステップで避けつつ、隙間にハンドガンをねじ込んでいた。

 

 この場は未だに鶴村が雰囲気を支配していた。

 

「うい、答えられる範囲なら」

 

 井口の目が細くなる。鶴村のあの独特な翔ばない地上戦闘をみてからだ。

 

「3年位前だ、アミューズメント施設にISのVRシミュレーションゲームが出てきたのは知っているな」

 

「まあ、名前くらいは」

 

 鶴村からは雑談では聞いたことはある。擬似ガンシューみたいで面白いとも、アレすぎる戦いかたでいつもぼっちプレイとも。

 

「俺はそのゲームの総合優勝者だ。それ故に日本の男性操縦者の代表候補に選ばれた」

 

「ほへぇ、すっごい」

 

「鶴村ってやつはそのゲームをやっているか? そしてその名前は……」

 

 井口はそう言って三文字のアルファベットをメモに記入してみせた。

 間違いない、鶴村が『向こう側』時代に名乗っていたエントリーネームである。

 

「これ、鶴村だよ」

 

 井口は驚き半分、諦観半分と言った表情で鶴村を見つめた。

 何やってんだあいつ……

 

「とんでもやつをどうやら俺は拾ったようだな……」

 

 はい、とんでもないです。特技と転生特典(?)の才能が100%噛み合ったパーフェクトキ○ガイが生まれたのです。

 

『ううむ……やはり装甲に頼りすぎたか?』

 

 鶴村の息遣いが聞こえた。ランチャーのビーム兵装が肩を掠めたのだ――モニターしているこちらにも、ごっそりシールドエネルギーが減っているのが見えた。あの一撃だけ一割持っていかれている。

 肩のアンロックユニットは痛々しくひしゃげていて、左腕のシールドも表面がデロデロになっていた。直撃なんて考えたくもない。

 

 打鉄の特徴はその硬さ、そして俺のチューンにより正面に限ればそれはさらに増している。バルカンなど小さな攻撃ならば、受けて撃ち返した方が得だ。

 問題はビーム兵器。やはりあのバ火力には装甲は為す術もなかったようだ。

 

『火力、あるなぁ』

 

『すまんね。そんなものしか用意できなくて』

 

『あるものでやるさ。』

 

 軽口を叩き合うが、余裕はないはずだ。打鉄に装備できる基本装備ではあれに比べれば豆鉄砲……とまではいわないが、まともに撃ちあっていては勝てない。

 

 数の差は質では埋められないのだ。

 

 そして鶴村の大前提として2機のうちいずれかを視界の外に逃げられたら、終わりだ。試運転はしたものの鶴村はISの機動になれていない、疑似ガンシュー状態を維持しなければこの状況は創り出せない。

 武装はハンドガンとマシンガンとマシンガンに附属している擲弾発射器グレネードだ。グレネードを直撃させれば、あるいは至近距離からの連続ヘッドショットを狙えれば勝機はあるが、その有効射程に入るのは大きな賭けだ。今は賭けをするべき時ではない。

 

『……助太刀は嬉しいけど、俺がやるよ!』

 

 一夏が思わず吼えた、それが鶴村のISを通じて俺にも聞こえる――しかし、彼の胸にはストフリ南雲のビームライフルが突きつけられてある。

 勇気ある行動。しかし実力は伴わない。今はという言葉はつくが。

 

『いいっていいって。こっちも好きでやってんだから……っと』

 

『じゃ、じゃあせめて合流して、一緒に!』

 

『接近戦なんて小生野蛮な事したくないれーす……っとと』

 

 かわす言葉にも余裕はなく。強いとはいえ、二人の熟練転生者を相手に圧倒する事も出来ず。

 鶴村はようやく賭けに出た。最大限、彼の視界外の情報を負担なく送れるように気を配る。

 

『そろそろ、遊びは終わりにすっか』

 

 俺は南雲の声を初めて聴いた。侮蔑の混じる、冷たく鋭い声。

 そして彼の翼が『離れる』――不味い。

 

『忘れてた、鶴村逃げろ! それ、ファンネルだ!』

 

 遠隔誘導兵器。この世界ではブルー・ティアーズの技術でも応用しているのか、機械仕掛けの青い羽根は正確に飛ぶ。速い、下手をすれば打鉄本体の速度よりも。

 四方八方へと飛ぶそれは明らかに天敵だ。撃ち落としながら、下がる――熟練者ならば一息で出来るその行動だが、まだPICに不慣れな鶴村は動きを止めるしかなかった。故に、迫る羽根を遠ざける事は出来ても、一つ巨大なものを見逃す。

 エールさんが肉薄していた。

 

『おらぁ!』

 

『ぐっ……んのっ!』

 

 幸いだったのは相手がビームサーベルで切りつける前にハンドガンを取り組み敷こうとしていたところだ。鶴村の判断は早かった、握られた銃をむしろ離し、勢いのままに押しのける。反作用で鶴村の身体が浮き上がり――

 

「ダメだ、っ避けろー!」

 

 叫ぶ声が届くより前に。ランチャーさんがビーム砲を構えていた。

 撃ってから回避? ダメだ遅い。妨害? 銃も手元に用意出来ていないというのに無理だ。せめて直撃を避ける? 慣れていないのにあの状況で自在に身体を動かせるわけがないだろう。

 詰んだ。これは終わった。

 

『やっべ……』

 

 鶴村の呟きと共に光は収束し、放たれ――

 しかしその直前に、鋭く銃声が響いた。

 

 遥か頭上。いつの間に現れ、いつの間に潜んでいたのか。人型がそこにあった。

 ラノベ世界に似つかわしくない特徴的な平べったい肩部アーマーと全身装甲、白を基調としたデザイン。

 右手には人間が持つには困難な巨大なライフルを携えている。

 

 そのISの名を、俺は知っていた。

 

 そして

 

『すまん、遅れた。軍事用を持ち込むのは流石になぁ』

 

 その声も、俺は知っていた。彼もまた『向こう側』の知り合い。

 その名を小山優介。形勢は逆転だ。

 

『ヒュー! ゼニスを引っさげての登場とはやるねぇ』

 

『まったく、どうしてそうお前はいつも状況の割にピンピンしてんだ?』

 

 呆気にとられるソードさんを押しのけて後退し、降りてきたゼニスとハイタッチする鶴村。

 小山は拡張領域からランチャーのようなものを取り出すと、それを鶴村に渡した。

 

『ほらよ、SAT-03 ソリッドシューターだ。持ち込むのに苦労したぜ』

 

『まったく、マシンガンGAT-22 ヘビィマシンガンといい、このゴーグルといい……こんなもん作ったやつを見てみてぇや』

 

『同感だ。WAP(ヴァンツァー)AT(アーマードトルーパー)モチーフ……シブい、実にシブいぞ』

 

『ああ、シブいなシブすぎる!』

 

『ガタガタと抜かすんじゃねぇ!』

 

 和気藹々と兵器談義に花を咲かせるキ○ガイ二人に南雲は腰部左右にマウントされた姿勢制御用テールバインダー兼レールガンをぶっ放したが、二人はあっさりと避けた。

 

「どうやら、俺の出る幕はなさそうだな」

 

 腰を浮かしていた木口が席に座り直す。どうやら加勢しようとしてくれていたようだ。やっぱこいつは信用して良さそうだな。今度一緒にゲームしよう。

 

 そして、戦場に降り立つゼニス。俺の友人の小山優介だ。尤も、こいつだって事は今知ったんだけど。

 

『待ってろ小山、今そっちにもデータ――』

 

『んー、いや、必要ないっしょ。鶴村のバックアップ全力な、お前。OK?』

 

『いや、もういい。慣らし運転は終わった。全体の状況を見ていてくれよ』

 

「アッ、ハイ」

 

 ほんとこいつなんにでも波長が合うな。

 

『さあてと、それじゃあ……』

 

『ショータイムの始まりだコラァ』

 

 その瞬間、アリーナはキチガイ二人のダンスフロアと化した。

 硝煙やビームの光と発射炎はある意味でド派手なスモークとスポットライトに塗れた彼らの「お披露目」なわけだ。

 

 

 ソードさんが戦線を離脱し、南雲とエールさんは鶴村と小山が相手をしている中、銃を突きつけられていた織斑君もまた自由となる。

 

「一夏! 無茶だ、お前はまだ動かしたばかりで……」

 

「でも、世話になりっぱなしで、助けてもらいっぱなしでいられるかって!」

 

 箒の制止も聞かずに、織斑君も戦場へと躍り出る。

 

 一夏は一番の武器が破壊されたランチャーさんの前に立つ。肩部装備による攻撃はまだ残っているとはいえ、ランチャーさんは無手だった。

 無手。しかし油断は出来ない。ぎらりと光る銃口はたまらなくリアルだ。

 

「怖い、な」

 

 呟き、一夏は刃を――雪片弐型を強く握った。こいつと一緒なら怖くない、とでも言うかのように。

 銃口が光を放つ。実体弾が一夏向かって降り注いだ。しかしそれを、ほぼ避けずに。真っ直ぐに。一夏は進む。

 きっと彼はそれしか出来ないから。鶴村と同じで複雑な動きは出来ないのに、鶴村と違って近接武器しかないから。自分に出来る最適解で、最短距離で戦っている。

 

「うおおおおおおおおお!」

 

 刃が輝きを放つ。展開し、光が新たな刃を形作った。

 俺は、俺達は、この力を知っている。

 

「零落――」

 

 白夜、とランチャーさんが言い終える前に刃は振り下ろされた。気圧されていたのだろう、ランチャーさんは避ける事もなくその刃に身を晒す。

 一撃だった。いくら削られていたとはいえ、圧倒的な威力。しかしそれを放った一夏の方もへなへなと座り込む。

 

「はは、箒、俺、やった――」

 

 と、呟く一夏の背後。そう、戦場に参加していなかった最後の一人が襲い掛かる。

 ソードさんがブーメラン上の刃を逆手持ちに一夏に覆いかぶさろうとしていた。

 

「一夏!」

 

 箒が叫ぶ。そして俺は、叫ばない。

 だって俺は、結末を知っているから――いつの間にか決着がついていたらしい、二つの銃撃音。

 それと共に俺は立ち上がって、ピットに向かった。もう見る必要もないだろう。

 

 ピットに向かうと、張りつめていた気が抜けたのだろう、身体全体を預けて鶴村はベンチに座っていた。

 対し、小山は気負う様子もなく煙草に手を掛け――

 

「てい」

 

 叩き落とした。

 

「あっ、なにすんだよ」

 

「校内禁煙だよ」

 

「いや、っていうか未成年だろ……」

 

 声に振り向けば、そこにいたのは一夏。こちらもまた力を使い果たしたようでふにゃっとしているが、箒に支えられている。流石主人公はリア充だぜ。

 とりあえず。一夏を置いて、まずはこいつらだ。「お前も一本どうよ?」「あ、俺そっち(紙巻)はいいや」「そかそかならこれなら」とか話しながらそれぞれ懐から煙草を取り出す二人の手を叩く。『向こう側』で成年してようと、この世界の俺達は高校生です。

 

「あのさ、俺も途中で忘れてたけどさ、ほどほどの所で逃げるって話だったよね」

 

「あー、そうだっけ?」

 

「俺、聞いてないし」

 

 ぽかんと、ベンチの上でひな鳥のように口を開ける二人を見降ろして――なんだか無性に溜め息が吐きたくなった。

 

「お前ら、おかしい」

 

 

   ■   ■   ■

 

 その後はスムーズに話が進んだ。

 

 小山はISの手続きを終え、正式にクラスに加入。鶴村も彼と共に練習してISの腕を一週間足らずでめきめきと上げている。

 一夏にも箒にも怪我はなく、どうやら二人は原作通りにクラス代表戦に向けて練習を続けるらしい。ISを受け取るのが早くなって一夏も強化されている気がするが、まぁそれは望ましい事なので放置。

 そして。南雲と、彼に賛成していた三人は医務室に入院する事になった。試合形式でない戦いで無茶なISの使い方をしたツケが回ってきたのだ。特に小山は力加減を誤ったか南雲は2,3日で復帰できた他の三人よりも長く寝込むことになったのだ。

 

「よ、南雲京一」

 

 だから、俺はその日お見舞いに来ていた。小山と鶴村は「全く!国税で撃つ銃は最高だぜえええ」と射撃訓練場に行ってしまえば俺はやる事がない。お姉さま方と戯れるぐらいだが、まぁこっちから連絡するのって……その……恥ずかしいし。

 まぁそんな訳で、暇に飽かしてお菓子でも差し入れてやろうと思ったのだ。

 

「お前は……」

 

「東陽太っす。改めてよろしく」

 

 どうやらほとんど治りかけているらしく、筋肉質な彼の身体はベッドの上には不釣り合いなほど健康的に見える。怖そうだと初めは思ったわけだが、こうして見てみればまぁ、なんというかアスリートっぽい。

 アスリートなのかなぁこいつ。

 

「なぁ、どこでそのIS手に入れたの?」

 

「ンだよ、それ聞きに来たのか?」

 

「いや、好奇心だけど。本命はこっち」

 

 おまんじゅうを差し入れる。南雲はぽかんとしていた。

 予想外、と言う事だろうか。こいつはどれだけ俺を敵視しているんだろう。別にただのクラスメイト同士だろうに。

 

「何、南雲君てクラスメイトの同情の寄せ書きとか嫌いなタイプ?」

 

「君とかつけんな気持ち悪ぃ。それも嫌いだが……それより、なんでお前が俺の見舞いなんかすんだよ」

 

 ベッドの上で南雲は居心地悪そうに転がる。俺に背を向ける形だ。

 

「暇つぶし」

 

「……。ストレートだなオイ」

 

「いやだって、マジでそうなんだって。暇つぶしに付き合えよ。お前、なんであんな事したの? しのののほうきさん怯えてたじゃん。逆効果だって」

 

「うるせぇ」

 

 シーツを頭からかぶり込んで、数秒。くぐもった声で彼は語り出した。

 

「……転生者がいっぱいいて、混乱した」

 

 語り出しは、そんな言葉だった。

 

 

 

 彼は篠ノ之束の気まぐれで専用ISを手に入れた転生者だった。その頃は転生特典の都合のいい付け方だと思っていたが、今思えば誰かが既に束に干渉していたんだろうなと彼は語る。

 数週間程度だが束の元に居た彼はISの技術者としての能力もあるという。あの三人に割り当てたストライクガンダムな装備は彼の手によるものらしい。

 そして、彼は肉体も鍛えた。我流で筋肉を虐めたし、武道もかじってみた。女尊男卑の世の中でも一目置かれるほどに彼は頑張ったのだ。

 

 主人公は俺だ、と南雲京一は思っていた。一夏と並ぶか追い越すぐらいに、主人公の役目があるのだと思い込んでいたのだ。

 その為の努力だった。生き抜くためか、あるいは女にモテたいからか。自分でもその辺りははっきりしていないが、人生の充足の為である事は確かだ。

 

 そして、生まれ変わってからの十何年と努力してきた前提が崩れて。

 なんとか自分の知っている道筋に戻そうと、強引な関わり方をしてしまったというのだ。

 

 

 

「笑いたきゃ笑えよ。はっ、主人公はむしろあの鶴村って奴の方だったな。初めてであそこまで戦えるなんてよ」

 

「拗ねてんの?」

 

「うっせ」

 

 どうにもこうにも、愚痴を聞かされただけでは納得できない。あそこまで苦労したのだ、こっちだってちょっと悪戯心をみせるぐらいは許されるだろう。

 シーツを引っぺがしてみた。南雲は泣いてた。

 

「わっ、馬鹿、てめぇ!」

 

「あのさ、一回殴られて泣いて、すっきりしただろ? んならさ、一夏襲うより協力して面白おかしくいきよーぜ。女なんてヒロインだけじゃねーし、普通にやってりゃヒロイン振り向いてくれることもあるかもしれないし」

 

「あ、あぁ?」

 

 涙目のままの南雲にまくし立てる。

 まぁ結局、俺の思惑はそれだけなのだ。変な苦労とかせず、面白く生きられたらいい。幸い、このIS学園は女の子一杯眼福ワールドだし――同性で友達になれそうな奴が、クラスに29人もいるのだ。織斑君も合わせれば30人。尚、前世からの腐れ縁は2人居た模様。

 

 折角、面白い奴らと絡めそうな新しい人生、喧嘩ばっかじゃ後悔しちまいそうだしな。

 

「何なんだよお前」

 

「んー、とな。小山も鶴村も中々に素敵な奴らだが、趣味偏ってんの。頭の中トリガーハッピーセットなの。

 ……そこにきてお前はストフリだ、非常に素晴らしい。全くもって大変素直な感性をしている」

 

「だから、一体……っ」

 

 そう尋ねる南雲の心境は物凄いものだろう。何せ今までの常識をひっくり返されているのだ。何を信じるのかなんてわからないであろう。

 それに対しての俺の答えは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、まーなんつうか。友達になろうって事だけど?」

 

「……へ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは、小山と鶴村の二人に付き合っている内に色々とする事になり、男子たちのアフターケアをしているとホモの汚名から逃れられなくなった俺の物語である。

 

 

 ……多分。

 

   ■   ■   ■

 

「つーわけで、南雲とはお友達からの関係になったんでまあ、大丈夫じゃないですかね?」

 

「それは良かった、東。想定以上の良い結果だ。

 ところで小林、中尾、塩沢の事だが」

 

「誰だよ」

 

 爽やかなようで、徹夜で頑張ったせいでまったく爽やかではない朝。ホームルーム教室であくびをかみ殺しながら、井口に南雲達との事の顛末を話していると、井口の口から知らない子の名前が出た。なにこのひとこわい……。

 というか、それより愚痴を聞いてほしい。メカニックチートのおかげで鶴村の打鉄魔改造の他にも、小山のWAP風ISのゼニスの整備まで任されてしまった俺の愚痴を。

 鶴村とか『向こう側』から徹夜作業余裕の人だし、小山とか徹夜一日だけで音を上げるほどやわな軍人さんではないし。こちとら『向こう側』でもこっちでものんべんだらりと過ごしてきた男なのだ、急に頑張るのはしんどいのだ。

 ていうか、IS学園の課程についていくだけでも大変なんだ俺は。整備・開発系統の知識はメカニックチートのおかげで頭の中にあるが、操縦系統がクソに等しい。クラスの中でドベ争いをしている程のクソまみれだ。

 

「おい東、無視をするな」

 

「お、おうっ? 話続いてた?」

 

「続いている、まったく」

 

 腕を組んで語り出した井口によると。

 止むを得なかったとはいえ、小山の派手な登場もあり俺達はクラスの大きな『波』になっているらしい。

 

 クラスを敵視する者。小山のようにクラスを監視し引き抜こうとする者。

 以前の南雲のように一夏ハーレムを狙う者。井口のように競技者を目指す者。

 そして、鶴村のようにこの世界で楽しく過ごせればそれでいいという者。

 これらのバランスは絶妙な所で保たれていた。その誰もが下手に派手な事をすると他の勢力に「おい、やめとけ」と言われるような状況だ。大河内の言うように俺達の中にやたら悪い奴がいるかどうかは分からないが、俺のような例外を除けば個人で大きな戦力を持っていることには間違いない。

 絶対に対抗勢力がいるから動けないのではなく、対抗勢力の可能性を考えて動きたくない状況だ。しかもその対抗勢力がどこまでやるのか分からないと来れば、そりゃよっぽどの考え無しか自信家でないと動けない。少なくとも、ある程度把握出来るまでは。

 状況を動かす考え無しの自信家が出るまでは平和なはずだったのだ。

 

 その考え無しの自信家は南雲含む四人だったが、一夏を助けた事により鶴村や小山もその一部になってしまった。とんだとばっちりだ。

 ホームルームが始まるまでの僅かな時間を、井口はわざわざ休憩所に場所を移してまで話を続ける。

 

「そこで小林、中尾、塩沢達の事だ」

 

「いや、だから誰だよって」

 

「……ストライクガンダムを模したISを使っていた三人だ。クラスメイトの名前ぐらい覚えろ」

 

「ごめん実は覚えてた」

 

 体よく無視したかったんだ。すまんな、井口君。

 頭痛を堪えるようにする井口が言うには、どうにもあの三人は南雲にISを作ってもらっただけで一般的な家庭に育った一般的な人であるらしい。勿論、『向こう側』の記憶を持ってはいるのだが。

 

「幼い頃からISに触れている連中は良い、増長もするさ。だが他にもっと優れたクラスメイトがいる状況で、あの三人がわざわざ波風を立てるか。ただのバカなのか、誰かに吹き込まれたか。それを探ってほしい」

 

「それは分かったけど、なんで俺に」

 

「俺が動きたくないのは前に言った通り。その上、お前らは動くのに都合が良いんだ。一度立った波が動こうと、新たな波よりは皆刺激されない」

 

 それは鶴村か小山でもいいじゃん、とは流石に言わない。

 ここでも俺が腹芸が苦手って部分が出る。ぶっちゃけた話、鶴村か小山に持ち掛けても損得勘定次第、損するとなれば煙に巻いておしまいで、得をするとなればそれは井口にも分からない影響が発生しかねない。使うなら馬鹿、という事だ。

 ま、馬鹿に甘んじるかはこれから次第ではありますが。俺だって伊達にあの二人に付き合っちゃいないのだ、頭は回らないし根本は怖がりだが、土壇場の度胸ぐらいはついてきている。

 出来る事ならば危ない事は二人に任せて、俺はアホ面晒して生きていたいけどね。

 

「……分かった、受けるよ。ただし条件がある。資材と情報、人員の提供だ。ISのな」

 

 意図は分かるだろう、井口。分かるからこそ、その影響がちゃんと計算出来るからこそお前は受けてくれるだろう、井口。

 俺は何よりも鶴村をサポートせねばならない。欲を言えば小山に対してもそうでありたい所だ。危ない事を任せる分、二人には万全の態勢で臨んでもらわなければならない。

 鶴村から頼まれていたプランは着手し始めているが、やはり俺のどっかからブチ込まれただけのチート知識だけでは限界がある。物理的な限界もまた、ある。

 それを補わせてもらう。井口との信頼関係を築くうえでも、まぁ、悪くないんじゃないかなと思う。お互いに利があるのが安心出来る関係って奴だし。

 

「了解した」

 

 井口が考えたのは一瞬だった。その後にきっちり「俺の権限で出来る範囲に限るが」とも付け足されたが。

 腕時計を見ればもうホームルームまでそう時間はなかった。立ち上がり、教室へと向かう。

 

「出来る事ならば」

 

 最後にぽつりと井口が言う。

 

「出来る事ならば、利益や脅威なんかを考えない、普通のクラスメイトになりたいものだな……いつか」

 

 井口はいい奴だ。いい奴だが、いい奴過ぎてその言葉には諦念があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つーわけで、これより第一回対策会議を始めたいと思いまーす」

 

 放課後、すっかり日も落ちたあたりの頃合いに、一年三組の教室には光が灯っていた。

 そう、俺達である。

 

「今回の議題はクラス対抗戦の対策ですなー、なによりクラス代表を誰にするか……これが一番重要だと思います」

 

 渋々ながら司会を務めるのは鶴村。

 そしてメンバーは俺と小山、そして井口と……

 

「南雲君は勿論、小林・中尾・塩沢がいるのかたまげたなぁ……」

 

 南雲は完全に和解したのは当事者だからわかるものの、あの三人はまだしてなかったと思うのですが……

 

「飯食って互いに腹を割って話したら協力するとよ」

 

 鶴村がそう言った。こいつコミュ力たけーなおい。

 こっちはほんの少し前に井口から頼まれてて、こっちは葛藤やなんやらで悶々と過ごしていたのに。

 

「エールストライクが小林、ソードストライクが中尾、ランチャーストライクが塩沢だ」

 

「よ、よろしく」

 

 まあ、仲間が増えたことを喜んだほうがいいか。

 そう俺は割り切ったのだ。

 

「まあ、仲良くやろうか。ところで、対策って?」

 

「今回の事あるし、また誰か絡んでくるかもってのと……ゴーレムの件だな。そこ話し合いたいって、井口が」

 

「んだんだ」

 

 鶴村と小山はえらく気軽に構えている。対策会議って言うが、ゲームの話してる時の方がまだ真剣だ。

 そんな場を引き締めるのは、やはり井口。こいつはいつも真面目だよ。泣かせるねぇ。

 

「まぁ、クラスメイトの誰かが何か事を起こすのは織り込み済みではあるし、ある程度は仕方がない。誰がどのような能力を持っているか把握したい所だが、出来る範囲でしか出来ないからな。

 問題は……ゴーレムの事だ。南雲」

 

「あぁ」

 

 よく分かって無さげなストライク三人衆は不真面目な俺ら側として、南雲はわりあいシリアスな顔をしている。

 司会進行の鶴村からエアマイクを受け取り、エア教壇にエア立ちした。お前も結構ノるね。

 

「ゴーレムってのはさ、ほら、原作だと……束さんの手によるものだったろ。で、俺さ、そこの東には話してるんだが、束さんにはこっちの世界で直接会ってるんだ」

 

 不真面目組の目に、個人差はあれど光がともる。新情報、だ。

 俺は既に聞いた事ではあるが、束は南雲にISの事を叩きこんだ先生だった。たった一週間の事ではあるが、束は興味を持った南雲に対しそれなりの事をやっていたのだ。

 ここで疑問――原作の彼女であれば、家族と認めた者以外には興味を示さないというような事が描写されていた彼女だとするならば。この行動は、あまりにも不自然だ。

 南雲との出会いが全てを変えた、というほど劇的なものでもないらしい。その時は「転生主人公の都合良いパワーだぜぇ!」と思っていたが今になって考えてみるとおかしいと南雲は語る。

 

「俺以前に、束さんに接触した転生者がいた……って考えるのが自然だと思う。そんで、そいつが表立って『束さんと付き合いがあります』って顔して学園に来ていないって事は」

 

 何か、ある。

 もし「そっちの方がかっこいいから」なら平和だ。「原作イベント重視の為」とか言うならまぁずれてはいるが、仲良く出来そうな奴である。「身分を明かすと危険だと思ったから」ってのも、なくはない。

 ただ、俺達は最悪の状況を考えなければならない。「束と共謀し、何かもっと大きな事件を起こす為」とか、「何か野望のある束に操られている」とか、……後、これは結構嫌なんだけど「束をハーレム要員にした転生者は、全ヒロインハーレム計画の為に息をひそめている」とか。うわぁ、実際この世界に生きるとハーレムとかちょっと嫌ですわぁ……お姉さま方との至福の時間は良かったが、あれずっとやってると思うと中々にキモい。

 

「そこで、原作でゴーレムの乱入があったクラス対抗戦に備えたいという訳だ。それまでに何かあるかもしれないが、この節目を当面の目標に定めよう。何も目星がないよりはましだろう?」

 

 井口の言葉を否定する者はいなかった。そこが「変わっているか」は、確かに一つの目星になる。

 ここでエアマイクが再び鶴村に渡る。

 

「そんじゃ、決まりだな。クラス代表は井口で、俺らはそのサポート――」

 

「俺はやらんぞ」

 

「は?(半ギレ」

 

 半ギレ(半ギレしているとは言っていない)。

 虚をつかれた鶴村に対し、井口は涼しい顔だ。

 

「忘れていると思うので一つ言っておくが、俺は日本の代表候補だ。立場に縛られる身でな、今回はともかくこれから先の様々な事を考えると……俺が率先して動くのは、あまり良くない」

 

「解き放てよ……自分をさ!」

 

「今後日本政府からの支援を受けられなくなるが、それでもいいか?」

 

「さーっせんっした!」

 

 余計な茶々を入れてみたが、速攻謝る事になった。やっぱり井口君の支援を……最高やな!

 ちら、と鶴村の目が小山を向く。

 

「あっ、そうだ俺も辞退な。井口と同じ理由で、俺も実は合衆国の旗を背負って……背負ってはないわ、諜報部だから」

 

「諜報部ってさらって言っていいのかよ」

 

「いいんだよ、こっちのが大事な集まりだから。あ、でもクラス代表は遠慮しますぅー」

 

 鶴村の目が縋るようにストライク三人衆に向かうが、全員一斉に目を逸らした。

 しょうがないね、あんだけボコられた後にそういうの背負いたくないよね。

 

「しゃーねーなぁ。んじゃ、俺が」

 

「南雲は黙ってろ!」

 

「酷くない!?」

 

 ボコられてもタフな南雲君が立候補しかけたが、黙らせておいた。

 まぁ、もう味方であるとはいえああいう事を起こしたわけだし……一夏とかの心証は最悪だ。そういうのは好ましくない。

 鶴村が「ええんやで」と慈愛の笑みを見せているが、小山と井口が「いかんでしょ」の目で留めている。

 

 となると。

 

「……東、潜在能力とか覚醒して今すぐ強くなったりとか、せぇへん?」

 

「ははっ、寝言は寝て言え」

 

 まぁ、そんな訳で。

 

「んじゃ、おつかれー」

 

「あー、終わった終わった」

 

「こんだけ集まったんだしまた人狼やろうぜー」

 

「人狼って何?」

 

「あ、俺知ってるー」

 

「では、頼んだぞー」

 

 クラス代表は、我らが鶴村勝君に決まりました。

 

 

 

 

「えっ」




というわけで読み切り短編(2万超え)はここまで。

次行こうぜ
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