「酷い事しやがる、全く…」
俺は目の前に居る全身火傷まみれの「それ」を見て悪態をついた。
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俺はしがない商人だ。
今はとある死んだ資産家の家にいる。色んな輩が引っ切り無しにやってきては、家にある色々なものを奪い去っていく。まあ、俺もその一人なのだが。今日は資産家の親戚筋の一人に雇われ目利きを頼まれた。報酬はその目利きした品から数点と、処分に困ったという幾つかの「品」だという。
目利きした品を雇い主に渡した後、「品」を見せてもらいにいく運びとなった。一階の居間の床に隠し階段があり、それを降りて行くと薄暗い地下室があった。
そこにあったのは夥しい量の乾ききった血の跡や、それがこびりついた沢山の拷問道具。
「なるほど、これを処分したかったのですね…」
雇い主は俺の言葉に黙って頷いた。確かにこれは処分に困るだろう。こんな道具を仕入れたい業者はないに等しい上に、これのことが万が一外に漏れたら一族郎党大バッシングを受ける事になる。幸い、分解したり溶かしたりして金属などに再利用できそうなものばかりな為、素材としての価値はあった。
それらを運び出す処理をしていると、再度呼びかけられた。
「あと一つ、持って行ってもらいたい「品」が…」
連れて行かれた先は地下牢、そこに居た「それ」を見て、俺は素の口調がポロリと漏れた。
「酷い事しやがるぜ、全く…」
「それ」は奴隷だった。まだ幼い少女であるその奴隷は痩せこけ、全身くまなく探しても無事な箇所を探すほうが難しいほどの生傷を負い、さらに薬剤由来の火傷を全身に負っていた。だが、生きていた。
雇い主は報酬だけ残し忽然と消えた。つまり仕事はここまでということなのだろう。仕方ないと諦め、手短にあった布を「それ」に巻き付け報酬とともに持ち帰った。
あの屋敷では気絶していた「それ」も家に着くぐらいで目を覚ました。取り敢えず、適当な部屋に入れ最低限の飯を用意してやる。後は汚かったのでぬるま湯を張ったタライと手ぬぐいを用意し汚れは落とさせた。
奴隷は商品だ。あんななりで売れるかどうかわからないが「あれ」も一応商品なのだ。買い手を探すのは骨が折れるだろうがしばらく頑張るしか無い。
そんなこんなで数ヶ月が過ぎた。「あれ」は未だに売れ残っている。当たり前だ、力もなく、見た目も怪我のせいで醜くなってしまっている奴隷など買い手がつくはずもない。だが、このまま手元においておくわけにもいかないのは確かだ。最近、「あれ」を「あれ」と認識できなくなりつつある。生傷が癒え、食事のおかげか少しだけ体格が戻り始めたのを見た時、一瞬だが確かに「助けなければならない」と思ってしまった。いや、もしかしたら最初に見た時既にそう思っていたのかもしれない。「あれ」は奴隷だ、商品なのだ。感情移入するわけにはいかない。感情移入してしまえば、商人として後戻りできなくなる。
そんなときに立ち寄った街でふとあることを思い出した。昔、マフィアに絡まれ死にかけていたところを助けてくれた「愚か者」が居たことを。彼なら、「それ」を引き取ってくれるかもしれないと。
そう思ったら居てもたっても居られなくなった。あの時の手術代を封筒に…いくら入れればいいだろうか。まあ、少し多い分には手間賃で誤魔化せばよいか。こちらは「荷物」もつけるのだ。
そして「それ」を連れ、昔と何ら変わっていない家の扉をそっと叩く。
「どうも先生、覚えておいでですか。」
あれから1年が経った。偶々あの町に行く用が出来、市場で取引をしていた俺に声が掛かる。そちらに顔を向けるとにこやかに笑っている「愚か者」と「彼女」が立っていた。
最初「彼女」が「あれ」だと認識できなかった。火傷の痕こそ無くならないが、それ以外は生傷など一切なかったかのようなキメ細やかで、あの頃とは比べ物にならないほど血色の良くなった肌。ガリガリにやせ細っていた体は少女らしい丸みを帯びていた。何より、生きる意志が欠落していたその顔には輝かんばかりの笑みを湛えていた。
「商人さん、あの時は有難う御座いました。」
彼女はそう言って微笑んだ。
「…今、幸せかい?」
絞り出した声は、掠れていただろう。
「はい、とても…とても幸せです!」
先生も俺に礼を言い、二人は帰路についた。仲良く手を繋いで。
商談が終わり、俺も市場を離れた。ふと、夕焼けが目に染みる。俺は帽子を目深に被り、誰に言うでもなく呟く。
「ありがとう」
一筋の水が頬をつたった。
文章書くって、やはり難しい