そんなこんなで数日が経過した。今日は診療所が休みなので、食料調達も兼ねてシルヴィの服を買い込む算段だ。
「出かける。」
「はい、行ってらっしゃいませ…。」
「違う、お前も一緒に行くんだ。」
「余り重たい物は持てないと思いますが…。」
「良いから行くぞ。」
「はい…。」
シルヴィは自分で主張を余りしない。だからこういうときは「ご主人様」の権限を振りかざすと決めた。
町に着くとシルヴィはあたりを見回し始めた。
「町は初めてか?」
表情は欠けているものの、こういう仕草は年相応で可愛らしい。素直にそう思う。
「はい、ずっと牢屋でしたので…。」
「そうか…。」
聞くんじゃなかった。空気が重い…。
暫く探して、雰囲気の良い服飾店を見つけた。
「ここにするか…。」
入ると、所狭しと女物の服が並べられている。どれもデザインが良いが、圧迫感が大きく異様な感じだ。それに誰も居ない。客どころか、店員も。
「お客様?」
そう思っていたところに急に後ろから声が掛かり驚いた。そして振り向いてその店員の異様さにまた驚く。 魔女、一言で例えるならそんな感じの女性だった。金を糸にしたような眩いブロンドの髪、整った美しいプロモーション、綺麗な顔立ち、見事なドレス、だがそれらすべてを台無しにするようなキツいメイクと暗い笑み。
「いらっしゃいませ、本日はどのような用件でしょう…。」
「あ、ああ。」
どもりながら、同じように彼女の異様さで固まっているシルヴィを前に立たせる。
「か、彼女に見合う服を買いに来たんだ。」
店員はシルヴィを一瞥すると此方を睨んでくる。
「年端も行かない娘にこんな格好をさせるとは…とんだ悪趣味ですね…。」
いや、俺のせいにされても困る。そう言いたかったが尋常じゃないその迫力に気圧され声が出ない。俺のこの顔に悲鳴をあげなかった女性も久しぶりだが、ここまで気圧されたのはもっと久しぶりだ。狼狽えている間にシルヴィは彼女に奥に連れていかれる。シルヴィ、硬直が解けていなかったな…。
暫く、シルヴィに似合いそうな服を見繕っていると、声が掛けられた。
「お客様…。」
そちらを向いて、今度は別の意味で硬直する羽目になる。
そこには可憐な少女が居た。
「あ…。」
「お気に召しましたか?」
どこか「してやったり」という顔をした店員にまんま「してやられた」という表情を返しながらシルヴィを見る。
青と白を基調としたブラウスとスカート、長い銀の髪は細めの青いリボンでポニーテールのような形で束ねられている。更に全身の火傷が隠れるように、ブラウスは長袖でスカートもロングだ。今まで一体どんな酷い格好をさせていたのか、それを痛感する。
俺は店員に向かい手を伸ばす。店員もその意味を理解し、手を伸ばしてくる。そして堅い握手を交わす。言葉は不要だった。
その後、幾つか替えの服と下着を見繕ってもらう。予想以上の額にはなったが後悔は無い。幾らか言葉を交わし、店員の名前はオーレリアさんということが分かった。そのうちまた彼女にシルヴィの服を頼む事にしよう。
店を出るともう昼過ぎになっていた。シルヴィは着慣れぬ服に戸惑っているが、その様子も併せて非常に可憐だ。
「あ、あの…この服本当に宜しいのでしょうか…。お値段も高そうですし、返してきた方がいいのでは…。」
「いいや、それはお前のだ。それに…。」
「それに…?」
「良く、似合っているぞ。」
面と向かって言うのは少し恥ずかしかった。
「あ、有り難う御座います…。」
その声は、いつもに増して小さかった。
お腹が減ったので喫茶店に入ることにした。寡黙なマスターが一人で切り盛りしてる小さい喫茶店だが、味はピカイチだ。甘い匂いが漂う。名物のホットケーキだろう。シルヴィも鼻をひくつかせている。
注文を取りに来たマスターにサンドウィッチとコーヒーを頼む。シルヴィの分はどうしようか。そちらを見るとしきりに隣の客のパンケーキを気にしているようだ。甘いものを食べさせてはあげたいが空きっ腹に甘いものもキツイだろう。
「取り敢えずサンドウィッチをもう一つと紅茶…」
あ、目に見えて落ち込んだ。
「後ホットケーキ。それで頼みます。」
一瞬で復帰した。ちょっと面白い。
「ホットケーキを食べるのは構わない。けども空きっ腹に甘いもの直接は良くないからな。サンドウィッチを半分食べなさい。」
「は、はい。」
残りは俺が貰う。どうせ一皿じゃ物足りないしな。
そうこうしていると頼んでいたサンドウィッチが来る。この店特製、パストラミビーフのサンドウィッチだ。一番人気は確かにパンケーキだが、個人的なイチオシはこっちなのだ。早速頂く事にする。うん、相変わらずの旨さ。シャキシャキのサニーレタスとスライスオニオンが堪らん。シルヴィも一口食べて目を見開いている。計画通りだ。…あの分だと一皿全部食べちゃいそうだな。まぁいいか。
食べ終わったシルヴィと目が合う。
「美味しかったか?」
こくり、と頷いた。心なしか目に少し光が戻ったような気がする。
「良かった。ところで全部食べたようだがパンケーキ入るか?」
意地悪なようだが、お腹いっぱいなのに詰め込んでも体に悪い。
「パンケーキも…食べたいです。」
そう、ポツリと呟くシルヴィ。
「そうか、お腹いっぱいだったら残しても良いからな?」
なに、問題ない。俺が食べる。
「有難う…御座います。」
パンケーキがやってきた。ふんわり狐色で厚手のパンケーキ、それが贅沢に2枚。上には大きめのバターが一欠片乗っている。蜂蜜とメープルシロップの壺がついてきて、どちらをかけて食べるかがとても迷う一品だ。シルヴィは目を輝かせている。彼女の目には宝石のように映っているのだろう。初めて、こんなに輝いた彼女を見た。連れて来て正解だったか。
お腹いっぱい食べたからだろう。(結局2枚とも食べきった、別腹とは恐ろしい)少し眠そうな顔をしながらも何処か満ち足りた表情をしている。そんな彼女を見ながら飲むコーヒーは、砂糖を入れていないのに甘く感じた。
暫く休んでから、食料を買い込み帰路につく。もう少しで家だという所でシルヴィが声を発した。
「あの…。」
「なんだ?」
「今日は本当に有難う御座いました…。」
「…楽しかったか?」
「はい…とても。」
「そうか。」
連れて行って、本当に良かった。
この時はそう思っていた。
「…ケホッ」