「ほ、本当ですか彌禍さん⁉︎」
絶叫の後、声を荒らげたのは黒ウサギだった。上半身を乗り出し彌禍に詰め寄る仕草は、黒ウサギの豊満な胸を強調させていたがそんなことには目もくれず、絶叫のせいで耳を塞いでいた彌禍は頷いた。
「正確な年齢は覚えていないけどね。100年は絶対経っているよ」
なんでもないように、事実彼にとってはなんでもないことなのだろう、世間話でも話している風に続ける。
そんな彌禍は呆気にとられている黒ウサギを不思議そうに見つめた。
「寧ろなんで気付かなかったんだい? ここ箱庭には多種多様な生き物がいるんだよね? どのくらい相手が生きているのか分からないの?」
「そ、それは専用のギフトが必要なんです! 誰も彼もが分かる訳じゃないんですよ!」
喋るたびに首を交互に傾げる彌禍は、見た目も相まって可愛らしかった。しかしそれどころではない黒ウサギは言葉を紡ぐ。
(そんなに生きてるなんて、彌禍さんは一体何者なのです!?)
彌禍を問い詰めようとした黒ウサギが口を開くその一瞬前に、彌禍が喋り出した。
「そういうものなんだ。じゃあ我輩は施設を子供料金で利用できるかもしれないな!」
だが出た言葉は些か、いやかなりズレたものだった。
納得したかのように頷き、ガッツポーズをする彌禍。その手が周りの雰囲気から浮く。が、そんなことを気にしない彌禍は意気揚々と黒ウサギを見た。
「
「あ、あるにはありますが、そういうところはちゃんと年齢を確認するギフトがありますヨ?」
「あーやっぱりか。残念だなぁ」
でもまぁシニア料金でいけるからそれはそれでいいかな。
条件反射的に彌禍の質問に答えた黒ウサギ。だが頭の中はこんがらがっていた。
人であるはずの彌禍が、人の二、三倍も生きていたのだ。混乱しない方がおかしいだろう。
当の彌禍はカラカラと明るく笑い、『くろうさ』と呼んだ黒ウサギを見やる。
「さて、黒兎さん。そろそろ箱庭の中に行こうよ。質問タイムも終わりで良いだろうし、我輩は飽きてきたなぁ」
彌禍は固まっている黒ウサギを尻目に、後ろを振り返る。そして黒ウサギと同じように唖然としていた女性二人越しに、天幕に覆われた箱庭を見た。
「早く行きたいんだからさ、しっかりしてよ黒兎のガイドさん?」
(((誰のせいだと……)))
元凶が悠々としている事に、三人は何処か腑に落ちない気持ちになった。
「なぁ流丸忌」
「うん? 何だい不良くん」
黒ウサギによる説明と質問返しも終わり、釈然としない思いを抱えながらも移動し始めた一行。
その最後尾を務めるのは男二人、十六夜と彌禍である。
「どうしたの? 我輩に何か訊きたい事でもあるの?」
他の三人とは少し距離をあけて話しているので、特段大きな声でなければ聞こえないだろう。
黒ウサギと春日部は聞こえそうだが、春日部は猫と話すのに集中していて、黒ウサギに至っては浮かれて耳が機能していない。とんだ駄ウサギである。
「そうだな、ちょっと疑問に思ったんだが」
「おお、いいよいいよ。仲を深めるには、お互いの事を知らなくちゃね」
彌禍が隣を歩く十六夜を見上げた。十六夜は前を向いたまま、言葉を継ぐ。
「お前さ、何か隠してるだろ」
「根拠は?」
素早く彌禍は十六夜に問い返す。
「質問に質問で返すのは感心しねえな」
「あはは、ごめんごめん。そうだね、その質問には『イエス』と返そうかなぁ」
彌禍が目を細める。
「さぁ、我輩は答えたんだから、そっちも答えてよね」
「ああ、根拠か? んなもん、黒ウサギがお前の正体を訊こうとしただろうって時に、あまりにも急に方向転換させやがったからな。疑って当たり前だろうが」
「そっかぁ。まぁそうだよねぇ。三文芝居だったなぁって、自分でも思ったよ。上手くその考えは、成功したようだけど」
彌禍は薄く笑いながら、前を向く。
十六夜が彌禍を見下ろす。
「んで? 何を隠してるかは言わねえのか?」
「ええ? 何で言わなきゃならないのさぁ?」
クツクツ笑う彌禍に、十六夜は片眉を上げた。
「ほう? つまりそれは、俺に当てて見せろっていう、挑戦状と受け取って良いわけだな?」
「思考が完全にバトルジャンキーじゃん。あぁ、面倒くさいのに絡まれちゃったなぁ」
十六夜は軽薄そうに笑って前を向く。
彌禍も特段、十六夜の言葉を気にする事なく前を見続ける。
「別に言えない訳でもない。ただ単に、然る時にしか言いたくないだけなんだけどなぁ」
世界の果てを見て来ると言って、十六夜が行ってしまった森の奥に向けて、彌禍は呟いた。
遅くなりました。すいません!
お詫びと言っては何ですが、彌禍のイメージ画を描いたので載せます。
一話にはノーマルで載せていますが、こちらは背景が血飛沫です。
と、言いましても、全くグロくはございません。
(これから文章でグロくするつもりですが)
【挿絵表示】
ああ早く、原作には沿いながらも、オリジナル展開を書きたい。