Fate〜衛宮士郎の救済物語〜   作:葛城 大河

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投稿に五日かかった。なんか、ちょっとスランプ入ったかもしれん。
あと少し無理やり感があるかも。
一応、投稿はするけど、納得いってないんだよなぁ。なので、この話は改稿するかも知れません。


第五幕 消滅

「さぁ、如何いう事か教えてもらいましょうか‼︎」

 

 

バーサーカーとの戦いを終えて、屋敷に戻ってからの遠坂の言葉がこれである。なんの説明を求められているのかは分かる。多分だが、バーサーカーとの戦闘で見せた戦闘力だろう。士郎はテーブルを挟んで、ギロリとバーサーカー以上の視線を向ける遠坂もといあかいあくま。

 

 

その視線に何故か、士郎は恐怖を覚えた。逆らっては駄目だ、と。因みにセイバーは士郎の隣で正座で座り、アーチャーは遠坂の後ろに立っている。この二人も士郎の力の事を聞きたいのか、凝視していた。それにはぁ、とため息を吐く士郎だ。話さなきゃ、引かないんだろうなぁと遠坂を見て思う。そう言えば、昔、師匠が女性関係の事で話していたのを思い出した。

 

 

『古来より、男という生き物は、女に逆らえないんだよ』

 

 

遠い眼でそう言った師匠の背中は、何処か哀愁を感じさせた。そんな如何でもいい事を考えて、士郎は正直に説明した。

 

 

「この力はししょ………爺さんの訓練で付いたんだ」

 

「お爺さん? それはこの家で一緒に住んでいた」

 

「それは別の爺さんだよ」

 

 

遠坂には、この屋敷で爺さんと住んでいたという話をした所為か、なにやら勘違いしたみたいだ。確かに二人目の爺さんも魔術関係者だった。しかし、衛宮士郎の力の根幹は、最初に公園で出会ったあの人だ。師匠に出会ってから、劇的な毎日に変わった。魔術を教わり、体術を教わり、力の使い方を終わり、数々の事を教わった。今でも完璧に思い出せる。色褪せない記憶。確かにあの人は、無茶苦茶だったけれど、衛宮士郎は尊敬したのだ。

 

 

「…………衛宮君? 如何したの」

 

「いや、なんでもない遠坂」

 

 

記憶を蘇らせていると、首を傾げた遠坂から声がかかる。それに現実に戻り、士郎は改めて言った。

 

 

「この屋敷に住む前に、ある爺さんに会ったんだ」

 

「それが別のお爺さん」

 

「あぁ、そうだ。何時ものように公園で遊んでいたらさ、後ろから声をかけられたんだよ」

 

 

『やぁ、君は『正義の味方』を如何思う?』

 

 

今思ったら、不審者としか思えないなと苦笑する。しかも、その次に発せられた言葉が、自分は魔法使いだと言われれば、益々怪しい人物だ。そこまで話すと、何故だか遠坂が眼を丸くしていた。その事に、なんでだと思うも、すぐにその理由が分かった。本来、魔術師はその魔術という神秘を秘匿する。にも関わらず、秘匿する気が全くない爺さんに驚いたのだろうと推測した。

 

 

「そのお爺さんは、なにを考えているのよ。なにも知らない子供に、魔術の事を教えるなんて」

 

「さぁ、俺も知らないよ。ただ、以前にそう聞いたら「成り行きだ」って答えたけどな」

 

 

なによ、それ、と頭を抑える遠坂。それに苦笑してしまう士郎だ。魔術という神秘を秘匿する事を、他でもない自分に暴露した爺さんに教えてもらったのだ。本当になんで、自分に魔術の事を教えたのかは、今でも分からない。

 

 

「まぁ、そういう出会いがあって、俺は爺さんに魔術や色々な事を教わったんだ」

 

 

そう色々な事を教わった。自分の眼に、手を持って行き士郎は言葉を続けた。

 

 

「………この魔眼も爺さんに貰ったしな」

 

「そうよっ‼︎ その魔眼はなに⁉︎ 貰ったって如何いう事よ‼︎」

 

 

士郎の発言に、今思い出したという風にガバッと顔を上げる遠坂。彼女は見たのだ。あの時、士郎の眼に虹色に輝く魔眼があった事を。それに今でも信じられない。魔眼には、その瞳の色でランク付けされている。そして魔眼の中で別格のランクとされているモノが三種ある。黄金、宝石、虹の三つであり、黄金の順番からランクが上がっている。つまり、虹色の魔眼は最高ランクとされているのだ。

 

 

虹色のランクの魔眼を持つ存在は、現在確認されている中で一人しか知らない。真祖にして、吸血鬼の王。星の最強種と呼ばれる月の王(タイプ・ムーン)である朱い月のブリュンスタッドのみだ。だが、ここに二人目が現れた。しかも、そんな最高ランクの魔眼を貰ったとは、如何いう意味なのか。

 

 

「言葉通りに貰ったんだよ遠坂。爺さんには、力を『譲渡』する力があったんだ。その力で、俺は爺さんから、この魔眼を貰った」

 

「最高ランクの魔眼を、他人に渡す?」

 

 

一体、なにを考えているのよそいつはッ⁉︎ そう叫びたい衝動を、遠坂はなんとか抑える。彼女の中で、常識が音を立てて崩れるのを自覚した。駄目だ。この少年の話を普通に聞いてきたら、なにかが駄目になる。一旦、冷静になり息を吸って深呼吸をしてから、出されているお茶を飲んで続きを促す。

 

 

「あとそうだなぁ。あっ、そうだ。訓練の前に爺さんから魔術回路を『拡張』で、増やしてもらったんだ」

 

「ぶぅぅぅぅぅぅぅ─────ッ⁉︎」

 

 

お茶を飲んで幾分、落ち着いた遠坂だったが、士郎から告げられたとんでも発言にお茶を吹き出した。

 

 

「ゲホッ⁉︎ ゴホッ⁉︎ ま、魔術回路を増やしたですって⁉︎」

 

 

()せながら、なんとかそう叫んだ。魔術回路は、魔術師が体内に持つ、魔術を使う為の擬似神経だ。魔術師の才能の代名詞とされており、生まれながらにして持ち得る数が決まっている。それを意図的に増やす? 信じられる物ではない。後ろに居るアーチャーも信じられなかったのか、口を開いた。

 

 

「………魔術回路を増やすだと。いや、出来なくはないかも知れんが、まっとうな筈がない」

 

 

魔術回路は内臓にも例えられる。また、魔術回路を増やすという事は、内臓を増やすという事に繋がり、その手段がまっとうな筈もない。しかし、士郎はアーチャーの疑問にアッサリと答えた。

 

 

「いや、普通に増やしたぞ爺さんは。こう、俺の頭に手を置いて、簡単に」

 

「…………馬鹿な」

 

 

士郎が手を頭に置くような仕草をしてから、告げられた言葉にアーチャーは頭を振った。手を置いただけで、魔術回路を増やすなど不可能なのだから。そもそも、アーチャーはその爺さんと(・・・・)会った事がない(・・・・・・・)

 

 

「もう良い。もう良いわ衛宮君」

 

「遠坂、如何した?」

 

 

テーブルに突っ伏している遠坂に、士郎は首を傾げた。彼は自分の力が異常だとは気付いていない。彼の異常という基準は、爺さんなのだ。故に、爺さんの足元にも及ばない自分は普通だと思っている。ま、この魔眼だけは異常だと思っているが。

 

 

「はぁ、なんだか疲れたわ。衛宮君。続きはまた今度にしない」

 

「別に俺は構わないぞ」

 

「それじゃ、もう時間も時間だし。私達は行くとするわ」

 

 

チラッと時計を見ると針が五時を回っていた。そろそろ、太陽が顔を出す時間である。その事に納得して、士郎の力についての話し合いは、取り敢えず終わった。その際、疲れたような遠坂に疑問を覚える士郎だったが。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「セイバー、行くぞ」

 

「はい。シロウ」

 

 

玄関で靴に履き替え、セイバーと共に衛宮邸を出る。今日は学園はなく休日だ。しかし、士郎達は学園に向けて足を進めていた。理由は、彼が手に持つ弁当にある。何時ものように朝食を作っていると(因みに桜は部活の朝練で居ない)家の電話が鳴り出てみると藤ねえが電話の相手だった。彼女は弁当を忘れたらしく、士郎に持ってこさせる為に電話をしてきたのだ。

 

 

それに学園に行く理由があった士郎は、了承して今に至る。

 

 

「セイバー如何したんだ?」

 

「いえ、何時、敵が来ないかも限りませんし、警戒をしているのです」

 

「別に大丈夫だと思うぞ。人が居る場所で、魔術師が動くとは思えないしな」

 

 

ま、例外は居るとは思うけどな、と胸中で続ける。未だに警戒をするセイバーに笑みを浮かべて、学園までの道のりを歩いて士郎は紫髪の後輩の事を考えた。彼女と最初に出会った時は驚いたものだ。何故なら、心臓に聖杯で作られた蟲を寄生させていたのだから。故に、彼は桜を警戒したのだ。あの大火災を、巻き起こしたものの関係者だと思い。

 

 

しかし、監視して仲良くなる内に、疑惑が浮かんだ。もしかしたら、桜はなにも知らないんではないか、と。憶測でしかないが、そう思ってしまうと考えが止まらなくなる。桜は何者かに利用されているのだと。それに至ったのがつい先日の事。まぁ、憶測の域は出ないが、あながち間違ってはいないと士郎は思う。だからこそ、それを確かめに弓道場に行くのだ。

 

 

そうこうしていると、士郎は学園の前に着いた。そして一歩、校門から入ると、全身に違和感を覚えた。まるで、なにかに纏わり付かれたかのような錯覚。

 

 

「……………これは?」

 

 

学園全体がおかしい。その疑問と共に、士郎は『全ての式を解く者』で開眼させて、見た。すると、視界には学園を覆う式を解析した。血の結界。内部に入った人間を溶解させ、血液の形で魔力へと還元して使用者にへと吸収させる。恐らくまだ、完成していないんだろう。士郎の魔眼がそう看破する。と、同時に右手がゆっくりと持ち上げられ、徐々に指を曲げていく。

 

 

この結界を発動させる為の、重要な式を読み解き、その式に手を触れて握った。次の瞬間───パリンッ‼︎ と硝子が砕けたかのような音が耳に響く。しかし、その音は士郎にしか聞こえないものだ。呆気なく結界を作る為の基盤が崩れ落ちる。それを確認した士郎は、普通に校門を通ったのだった。

 

 

「藤ねえを呼んできてくれないか桜」

 

 

弓道場に着いた士郎は、弁当を見せてそう桜に告げた。だが、彼女の視線は士郎ではなく、後ろに待たせているセイバーに向けられている。しかし、それも数秒後に我に戻った。

 

 

「…………え。あ、はい」

 

 

藤ねえを呼ぶ為に背中を向けて、弓道場内に入っていく桜。それを見てから、士郎はセイバーと共に待つ事にした。

 

 

「いや〜助かったぁ。弁当を持ってきて来れたんだって?藤村先生が朝かテンション高くて困ってたのよ」

 

「美綴。そう思うなら、朝の内に藤ねえの弁当を確認しとけよ」

 

「いやぁ、それがあたしも疲れててさ」

 

 

はははは、と髪を掻いて笑うのは、美綴綾子(みつづりあやこ)だ。すると、彼女はニヤついた笑みを浮かべて士郎に近付いた。

 

 

「それよりさ、衛宮。表に居る綺麗な人は誰よ」

 

「あぁ、セイバーか。爺さんの旧い友人なんだ」

 

 

如何誤魔化すかを考えた末、士郎はそう答えた。それにふ〜んと、意味深な視線を向ける美綴である。なんだよ、と聞こうとしたが、それよりも先に大きな声が遮った。

 

 

「シロウ────ッ‼︎ 待ってたよぉ‼︎」

 

「はぁ、ほら藤ねえ。弁当だ」

 

 

バッと手から一瞬で無くなる弁当。藤ねえの方に顔を向けると、手には弁当があった。ありがとねぇ───‼︎ と居なくなる活発な女性に苦笑する。何時の間にか、美綴も居なかった。そして藤ねえを呼んだ、桜も練習に戻ろうと背中を向けるが、その前に士郎が声をかけた。

 

 

「桜、ちょっと良いか」

 

「………はい。別に構いませんけど」

 

 

真剣な顔付きの士郎に首を傾げつつ、了承する桜。そして桜と弓道場を離れて、裏に移動した。

 

 

「話ってなんですか? 先輩」

 

「……………」

 

 

話がなんなのかを聞く桜に士郎は無言だ。今から話す事は、桜の中の蟲に関係のある事だ。もしも、彼女が敵だったなら、襲われるかもしれない。その時は嫌だが戦うしかない。だからこれは、一種の賭けだ。桜に視線を向ける。如何か、彼女が敵でありませんように、と祈りながら士郎は口を開いた。

 

 

「…………桜」

 

「はい、なんですか先輩」

 

「お前は魔術師か?」

 

「────え?」

 

 

桜の表情が硬直した。彼女の胸中には、なんで? 如何して? と疑問が浮かび上がる。うまく隠せていた筈だ。なのに、なんでバレたのか。内心で混乱する彼女だが、次に士郎に放たれた言葉により動揺した。

 

 

「お前の中に居る蟲に付いて、教えてくれるか」

 

「ッ⁉︎ な、んで」

 

 

自身の心臓に居る蟲すらバレた。何故? 一体何処でバレたのだ。自分の体が震えるのが分かった。それはバレた事への恐怖。怖い。憧れの先輩に秘密がバレて、自分の所から居なくなるのが怖い。しかし、その恐怖心は頭に置かれた手によって和らいだ。

 

 

「大丈夫だ桜。怖がらなくても良い」

 

「………せ……んぱい」

 

 

ポンポンと優しく頭に触れて士郎は、笑う。そして次には真剣な表情に変わり、決定的な一言を告げた。

 

 

「なにもかも話してくれないか。なんで、心臓にそんな蟲が居るのかを」

 

「先輩、でも」

 

「心配するな。俺が助ける」

 

 

助ける。その一言に桜は、士郎の顔を見た。そう彼女は望んでいた。自身をあの家から救い上げてくれる「誰か」を強く望んでいた。士郎を巻き込みたくない思いは本物だ。しかし、その士郎の言葉により涙を浮かべて、全てを話し始めた。間桐の家に養子に出された事、合わない魔術修行や激痛を伴う体質改変をされた事。彼女は蟲に陵辱された事も話した。

 

 

それを黙って桜の肩と頭に手を置いて聞く士郎。全てを話し終えると、桜は嗚咽を漏らし、士郎の胸元に顔をうずめた。それに背中を撫でながら、士郎は言う。

 

 

「………桜、俺の家にこい。間桐家に帰らなくていい」

 

「え? でも、先輩。そんな事したら、お爺様が………」

 

「大丈夫だ桜。俺に任せろ」

 

 

桜の言葉を遮り、安心させるように笑う士郎。そして彼は桜から離れると、弓道場に戻るように言った。

 

 

「…………先輩?」

 

「心配するな。部活が終わる頃には、全部解決してるさ」

 

 

これからなにをするのかを、彼女は薄々と勘付いているのだろう。心配そうな桜の視線に士郎はそう言った。それに悲しそうな表情を浮かべたまま、桜は弓道場の方へと足を向ける。そんな背中に発動させた魔眼を向けた。解析するのは、桜の中に居る蟲。解除するのは、簡単だ。だが、ただでは消さない。一人の少女のこれまで味わった悲劇を考えれば、こんな簡単に終わらせる訳がない。だから、消しはしない。

 

 

ただ、桜の心臓から切り離すだけだ。魔眼の力と共に、爺さんに教えてもらった魔術を行使する。座標転移と呼ばれる魔術を。瞬間、桜の心臓に寄生していた蟲は彼の手の中に現れる。親指大程の蟲だが、なんと気持ち悪い事か。そして序でとばかりに、魔術回路に同化している魔力を喰う蟲を散りも残さずに消した。すると、士郎は足を動かし、セイバーの元に近付く。

 

 

「セイバー、そろそろ行こうか」

 

「分かりました」

 

「家に帰る前に、ちょっと寄りたい所があるんだけど、良いか?」

 

「別に私は構いませんが、一体何処に寄るんですか?」

 

「なに、少しこの街の汚物を駆除しに行くだけだよ」

 

 

士郎のその発言に、セイバーは意味が分からないと首を傾げる。それに行ってみれば分かると笑う士郎だ。

 

 

 

 

学園の校門から出て、士郎達は歩いた。それから数十分後、目的地に着く。士郎の目の前には、桜を辱めた元凶が居る間桐家があった。

 

 

「………セイバー、戦う準備をしてくれ」

 

「………分かりましたシロウ」

 

 

いきなり言われた戦闘準備に、セイバーは戸惑う事もなく、服装を瞬時に戦闘時に変える。この家の前に来て気付いた。恐らく、あちらも気付いているのだろう。自分達が、ここに来るのを。この蟲には、その元凶の魂が入っている。ならば、桜の中から出た事にいち早く気付いた筈だ。士郎は間桐家のドアを開けた。鍵が掛かっておらず、すんなりと中に入れる。

 

 

そして家の中の淀んだ空気に眉を寄せた。こんな家に何年間も住み続けていたのか、と怒りが湧いてくる。士郎とセイバーは警戒をしながら、奥に進んだ。あちらは、来る事を予測していたのだ、なら罠があってもおかしくはない。しかし、罠などが全くなく、士郎は桜から聞いた地下工房に足を踏み入れた。降りて行く士郎の耳に、カサカサと蟲の音が聞こえる。

 

 

「………あんたが、間桐臓硯(まとうぞうけん)か?」

 

 

降りた先に、一人の老人が居た。聞かなくても分かったのだが、一応、士郎は尋ねた。

 

 

「…………やってくれたの。若造」

 

 

怒気を隠そうともせず、士郎を見据える老人。それを発動していた魔眼で見て、答えた。

 

 

「お前が言うなよ妖怪。よくも、俺の後輩を弄ってくれたな」

 

 

視線を鋭くさせ、眼前の老人を睨み付ける。それに老人は、士郎の視線が気に入らないのか、腕を振り上げた。すると、数十もの蟲が士郎に殺到する。士郎は動かない。いや、動く必要がなかった。殺到する蟲を、後ろに居たセイバーが一太刀で消し飛ばしたからだ。

 

 

「シロウには手を出させません」

 

「むぅ、英霊か」

 

 

不可視の剣を構えて言葉を紡ぐセイバーだ。それに臓硯は眉を寄せる。英霊が相手では、少し面倒だと。

 

 

「安心しろ間桐臓硯。あんたの相手は俺だ」

 

「なに? 儂の相手をお主がすると」

 

「あぁ、そうだ」

 

 

英霊ではなく、ただの人間が、この五百年を生きた自分と戦うと言った事に笑いが込み上げる。

 

 

「クカカカカカッ‼︎ 人間の若造が言いよるわ」

 

 

ズゾゾゾゾゾッと、臓硯の背後から蟲が現れる。しかし、士郎は気にせずに臓硯の元に歩を進めた。

 

 

「セイバー。邪魔な蟲を頼む」

 

「分かりましたシロウ」

 

 

セイバーに蟲の事を託し、臓硯の前に立ち止まった。

 

 

「駆除される覚悟はあるか?」

 

「ふん、お主こそ殺される覚悟は出来たか?」

 

 

お互いに言葉をぶつけ合う。それに睨み合う二人だ。だが、臓硯の視線は士郎の手の中に注がれていた。生意気な若造を痛ぶるのはいいが、それは奴が持っている蟲を奪ってからだ。あの蟲の中には、己の魂が入っているのだから。睨み合いが続き、次の瞬間。先に臓硯が動いた。蟲を操り、士郎に襲わせる。何百もの蟲が、士郎を喰らおうと飛びかかる。しかし、もうそこには士郎の姿は何処にも居なかった。

 

 

臓硯は眼を見開く。眼を離してはいない。なのに、士郎の姿が消えた事には気付かなかった。如何いう事だ? 困惑する臓硯は次いで全身に訪れた衝撃に吹き飛んで壁に激突する。

 

 

「一体、なにが」

 

 

この体は蟲の集合体だ。損傷しても痛くもない。だが、なにが起きたのか臓硯には理解出来なかった。そう間桐臓硯は間違いを起こした。それは二つ。一つは士郎をただの人間と侮った事。二つ目は彼を怒らせた事だ。

 

 

「────消えろ」

 

「な、にッ⁉︎」

 

 

突如、出現する士郎に臓硯は驚愕する。視認出来ない。臓硯の瞳では動く彼の姿を視認出来ない。士郎の両手には陰陽一対の夫婦剣が、何時の間にか握られていた。そしてそのまま、臓硯の体を双剣で斬り裂く。

 

 

「ぐぅぅぅぅッ⁉︎」

 

 

だが、やはり本体ではないが故に、死にはしない。それは分かり切っていた。自分から一旦、距離を取ろうとする臓硯。しかし、士郎はそれを許さない。両眼の魔眼を見開き、右手を伸ばす。

 

 

「存在を解析───解除。両足は分子になって消えろ」

 

 

そう言葉を紡いだ瞬間。言葉の通りに、臓硯の両足が分子になって消失した。突如、足がなくなった妖術師はバランスを崩して転倒する。倒れた臓硯に士郎は、ただの槍を投影して地面まで貫く程の威力を込めて体を穿った。まるで虫の標本のように串刺しにされた臓硯は動けない。そんな老人に、士郎は視線を向けて言う。

 

 

「最後になにか、言う事はないか」

 

「…………お主は何者じゃ」

 

「ただの半人前な魔術師だよ」

 

 

もしもここに遠坂が居たのなら、貴方のような半人前が居てたまるもんですかッ⁉︎ と言われそうな言葉を返す士郎だ。彼は手をゆっくりと臓硯に向ける。

 

 

「く、ククク。儂を殺すか。出来ると思うのか若造」

 

「あぁ、俺なら出来る」

 

 

式を見る。目の前の人形の式を解析する。それと同時に、桜から取り除いた蟲を、臓硯に投げ捨てた。いきなり、投げ渡された老人は驚いた顔を見せる。そして、それが最後の顔となった。

 

 

「存在を解析───解除。お前の存在は消えろ」

 

 

間桐臓硯の存在そのものの式を手で砕いた。士郎の耳に硝子の割れた音が響き渡る。次の瞬間。目の前に居た五百年生きた妖怪は呆気なく、世界から消滅した。それと共に、セイバーが戦っていた蟲も動きを止める。

 

 

「シロウ。終わったのですか」

 

「綺麗さっぱりにな。今度こそ、帰ろうかセイバー」

 

 

士郎の言葉にセイバーは頷き、そのまま間桐家を後にするのだった。こうして、間桐を支配していた妖怪は消えた。

 

 

 

 

 

 

 




という訳で臓硯ジジイ消滅回でした。

いずれ、沙条姉妹や月姫キャラとも絡ませたい。特に、正規の英雄になったバグ士郎と沙条愛歌の最強タッグとか見てみたいわ。アレ? 確かに沙条愛歌は魂だけ並行世界を移動出来たよな。これは、番外編で作れるかも。

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