それと皆様に一言。更新が遅くはなりますが、エタる可能性は無いと思いますので、気を長くして待って頂ければ幸いです。というより、息抜き作品であるこの作品が、ここまで人気が出たらエタれない。
醜悪な蟲爺を、文字通りこの世から消してから、二日が経過した。桜は約束通りに、それ以来から士郎邸に居候する事となった。まぁ、その時にセイバーを紹介したり、何故か般若のような顔をして桜が迫って来たり、藤ねえが怒ったりと色んな事があったのだが、それは後々に語るとしよう。
そして翌日。早朝に士郎と桜は、朝食を作ってテーブルの上に置いていた。今日の朝食は簡単なもので、スクランブルエッグ、鮭の塩焼き、味噌汁と白いお米である。テーブルに料理を置き終えると、士郎も座布団の上に座り込む。彼の隣には桜が座り、その対面にはセイバーと藤ねえが座っている。そして、食べる挨拶をしてから、士郎達は朝食を手に取るのだった。桜が居候するようになったり、セイバーという新しい住人も増えたにも関わらず、対して前の生活と変わらない。
「………それじゃ、俺は行くから、セイバーは留守番よろしく」
「はい。シロウもお気を付けて」
朝食を食べ終えて、学生鞄を片手に士郎は玄関先まで来たセイバーにそう言ってから、桜と共に家を出て学園へと向かった。その際、セイバーが心配する言葉を言っていたが、恐らくは他のマスターが襲って来ないかが心配なのだろうと、彼女の胸中を容易に推測出来て苦笑してしまう。そんな彼の苦笑に、隣で歩いている桜が首を傾げた。
「如何したんですか先輩?」
「いや、なんでもないよ桜」
顔を覗き込んで尋ねる後輩に、笑みを浮かべてそう言う。少しはぐらかされた事に、納得いかないような顔をする桜であったが、それも次には表情を元に戻して、士郎の隣にピトリと近付けて歩き始めた。この二日間、桜との距離感が近い事に戸惑うしかない士郎である。体が付きそうな距離で、一緒に歩く二人は外から見れば完全にカップルのソレにしか見えない。
学園が近くなってきた為、多くの生徒にその光景を見られて、恥ずかしくなる士郎だ。それと共に、全身を奔る寒気。慌てて周りを見回すと、血涙を流しそうな形相でこちらを睨んでくる男子生徒達。
(怖っ────⁉︎)
射殺すような眼光を向ける男子に、胸中で震える士郎。確かに、桜のような美少女とこうして見せ付けるように歩けば、男共の怒りを買うのは当然であった。容姿が良く、家事も得意で、しかも巨乳(重要)とくれば尚更だ。以前までなら、彼等はそこまで殺気を放たなかっただろう。校門前まで一緒に登下校するのは、羨ましかったが、それでも我慢は出来たのだ。
しかし、しかしだ。それも二日前まではである。そう二日前、明らかに彼女の態度が、というより距離が積極的になったのだ。しかも、
自分が寒気が奔る程の殺気に、本当にこいつらは一般人なのかと問い掛けたくなる彼である。そうしていると、学年が違うので、廊下で桜と別れて、士郎は自分の教室にへと足を向けた。数分後、自身の教室前に足を止めて、ドアを開けた。
「む、衛宮。待っていた…………」
「よぉ、衛宮‼︎ 待ってたぜぇ」
自分の友人である一成の言葉を遮り、そこまで話した事がない男子生徒が、まるで友人に話すかの如く言葉を紡いだ。
「…………え?」
「ほらほら、こっちだぜ衛宮」
呆気に取られる彼の手を引き、男子生徒はクラスの男子達が集まっている場所にへと連れて行く。そして気付いた頃には、士郎の周りに一成以外の男子生徒が囲んでいた。先程の笑顔を浮かべていた男子生徒の表情には、笑顔はなくドス黒い濁った視線を向けられている。
どれだけの絶望を味わえば、そのような瞳を浮かべられるようになるのか。例え、守護者により無限という戦場を渡っても、ここまでの眼にはなりはしないだろう。
「え〜と、俺になにか用か?」
「なにか用か? だとぉ〜。おい皆、聞いたか。なにか用かだってよ」
連れて来られた意味を聞く士郎に、男子生徒の一人がははは、と笑ってから周りの男子達に向けて言うと、全員が笑い始めた。途端に笑い始める周囲の状況に、困惑する彼だが、取り敢えず合わせるように笑ってみた。すると、キッと視線を鋭くさせて机に手を叩き付けると怒号を放つ。
「なに笑ってんだゴラァ‼︎ そんなに面白いかっ‼︎ モテない俺達が、必死に彼女を作ろうとして足掻いてる様は面白いってかぁっ‼︎ あ''ぁ''ぁ''なんか言ってみろやぁッッッ」
「え、えぇ〜」
突然の叫びに戸惑う士郎である。周りにいる男子達は、自分達の思いを代弁してくれた男に感動していた。
「…………なんだこの状況」
正にその通りであった。当事者ですら分からないのだから、第三者ならもっと意味不明な事だろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
昼休みになり、鬼と化した男子生徒から逃げて、士郎は生徒会室に逃げ込んでいた。生徒会室で昼を食べている一成が、士郎に顔を向けた。
「大丈夫か衛宮?」
「はぁ……はぁ……なんなんだあいつら。俺の速度に追い付いて来たぞっ⁉︎」
信じられないと言葉を吐く彼は、ゆっくりと息を整える。時として、嫉妬心は人を超えるのだと士郎は今日学んだ。と、そんな茶番を終えて、一成と共に昼食を取る事にした。机の上に弁当を広げている。一成はお握りを口に入れてから、朝に言おうとしていた事を言った。
「衛宮。またお前に、修理して欲しいものがあるんだが」
「ん? またか。別に俺は良いけど」
「そうか。度々、すまないな」
一成の頼みに、呆れた声を漏らしながら了承の言葉を口にする。快く頼みを聞いてくれた彼に、一成は申し訳なさそうに頭を下げた。それに笑みを浮かべてから、気にするなと言う士郎だ。そして早速、修理するのは早い方が良いと、昼食を食べながら修理する事にした。一成が頼んできたのはエアコンの修理だ。なんでも、付く時と付かない時があるらしく、直して欲しいらしい。
昼食を急いで食べ終えてから、修理道具を持ち、エアコンを膝の上に置いて修理を開始する。一成に気付かれる事なく、解析魔術を行使しながら、何処が悪いのかを確認すると、そこを直す為に手を動かした。エアコンを修理しながら、士郎は聖杯戦争の事を考えていた。聖杯を消すという方針は決まったが、その肝心の聖杯が何処にあるかは分からない。
イリヤの中に聖杯はあった。しかし、話を聞く限り、時間が経たなければ聖杯は姿を見せないらしい。という事は聖杯は二つ存在するという事になる。一つはイリヤの中にある小さな聖杯。そしてもう一つは、聖杯戦争に置いての聖杯。イリヤの聖杯を如何にかしても、この戦争は終わらないだろう。もう一つの聖杯をなんとかしない限りは。だが、士郎はその聖杯が何処にあるのか分からない。
それが一番の問題だ。さて、如何したものかと考える彼だ。すると、遠坂凛という少女の事が脳裏に過った。自分とは違く、根っからの魔術師。彼女ならば、なにか知っているのではないか、と。
(この修理が終わったら、遠坂に聞きに行くとするか)
テキパキと手を動かしながら、そう決めて、修理する速度を速める。しかし、彼は知らない。知らない所で、急速に物語が在らぬ方向に進んでいる事を。最早、この聖杯戦争が混沌と化している事など、まだ彼の知らぬ所である。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
────危険分子を確認。
────大聖杯起動。
────クラス『セイバー』を現界します。
────クラス『ランサー』を現界します。
────クラス『アーチャー』を現界します。
────クラス『キャスター』を現界します。
────クラス『ライダー』を現界します。
────クラス『アサシン』を現界します。
────クラス『バーサーカー』を現界します。
────全サーヴァントの現界を確認。
────即刻、危険分子の排除を命じる。
静かに大聖杯は、聖杯戦争そのものを破壊しようとする少年に対して、防衛機能を働かせた。すぐに少年の存在を消せと、召喚したサーヴァント達に絶対命令権を行使する。例え、街が如何なっても構わない。少年さえ、排除出来れば聖杯戦争は続けられるのだから。
少年の存在によって、予期せぬ方向に聖杯戦争は進む。果たして、この未来に待ち受けているものは、一体、どのような結末なのだろう。全ての式を解析出来る少年ですら、分からない事である。
聖杯戦争が、どんどんとカオスな方向に…………。
因みに召喚されたサーヴァント達のためヒントを、ここに書いておきます。分かるかなぁ〜。
セイバー・礼装を纏う褐色肌の女性。
ランサー・肉体と一体化した黄金の鎧と、胸元に埋め込まれた赤石が眼を引く青年。
アーチャー・輝く木瓜紋をあしらった軍帽と、黒の軍服を纏った少女。
キャスター・黒い少女。
ライダー・褐色の肌をした太陽の色をした眼を持つ男。
アサシン・中華の武術然とした服装の男。
バーサーカー・髪を金色に染め、派手な格好の筋肉隆々の青年。
さて、一体なんのサーヴァントが呼ばれたのか、分かるかなぁ。というより、とんでもない戦力です。大聖杯は、ここまでしないと、士郎を排除出来ないと判断しました。