Fate〜衛宮士郎の救済物語〜   作:葛城 大河

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如何も久し振りです。久々に感想欄を見たら笑った。誰も士郎君の事を心配してねぇー。

皆ぁ、心配して上げて、これでもまだ一応は人間だから‼︎

後、少し書き方を忘れたっぽいので、最初らへんと最後で書き方が変わっていると思いますが許して下さい。


第七幕 騎兵、そして三つ巴

日が沈み、穂群原(ほむらはら)学園の生徒達は、部活をしている者達や、用事がある者達以外全てが下校していた。そんな学園の風景を、離れている場所から見据える女性が一人。

 

 

「……………」

 

 

何処か無機質な空虚の瞳をした礼装を纏う褐色肌の女性は、穂群原学園を視界に捉えながら、まるで誰かに問い掛けるように口を開いた。

 

 

「…………人間は殺したくない(・・・・・・・・・)

 

 

やりたくないと、首を振るうが、それとは裏腹に彼女の肉体はナニカの強制力(・・・)によって一歩、また一歩と視界に収める学園へと進んでいく。まるでそれが自分の使命だと言わんばかりに。とある少年を抹殺する為に、彼女の歩みが止まる事はない。根底に刻まれた『破壊』という厳守を抱えて、人は殺害したくない歪みを持つ彼女は、何時ものように、『文明』を滅ぼすのだと思って歩いていく。

 

 

だが、彼女はまだ知らない。近い未来、まさか己が変わる事が起こる事など。しかもそれが、自分が抹殺しようとする少年によって(もたら)されるなど。知る筈がない事だ。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、これで終わりだな」

 

 

士郎は教師から頼まれた資材を、指定された教室に運び終えると、そう呟いた。エアコンを直した後、遠坂の教室に訪ねて行ったのだが、彼女の姿は居なく、クラスメイトに聞いても知らないと言われ、途方に暮れて気付いたら放課後になっていた。家に帰っても夕食の準備をするしかない士郎は、よくこうして教師の手伝いをしてから下校する事が当たり前になっている。

 

 

資材を机の上に置いて教室から出た士郎は、自分の鞄を取りに行くために、自身の教室の方に足を向けた。すると、廊下を歩いていると前方から見覚えがある生徒が、両手に女生徒を侍らせて歩いてきた。

 

 

「…………慎二」

 

「ん? 衛宮じゃないか」

 

 

間桐慎二。桜の義理の兄であり、あの忌まわしき間桐の長男だ。警戒している事を気付かせずに、士郎は二人の女生徒を侍らせる慎二に声を掛けた。

 

 

「慎二、如何したんだこんな所で? 弓道部は?」

 

「はぁ〜? あのね、僕は弓道部のエースだよ。僕のような実力者は、毎日通わなくても良いの。分かる?」

 

 

何処か馬鹿にしたように、鼻で笑ってから士郎に視線を投げる。対して士郎は、相変わらずな態度だなと、肩を落とした。だが、確かに弓道の実力は副主将と呼ばれる程あるのを彼は知っていた。

 

 

「それで衛宮は、また教師どもの雑用をやってたのか? 良くやるねぇお前も」

 

「まぁ、そういう性分だからな。こればかりは、仕方が無いさ」

 

 

当たり障りもなく受け答えをすると、聞いたにも関わらず興味がないように「あっそ」と告げて、慎二は女生徒を引き連れて士郎の横を通り過ぎた。と、慎二と遠坂が知り合いだと思い出した彼は、背中を向けて歩いていく慎二に、顔を向けて一応尋ねてみた。

 

 

「なぁ慎二。遠坂が何処に居るか知ってるか?」

 

 

もう日が落ちて、大半の生徒が下校している中、学園に居ないと分かっていても、もしかしたらという軽い気持ちの問い掛け。しかし、その問い掛けは背を向けて歩く慎二の地雷を踏んだ。振り返る慎二の表情は、憤怒が浮かび上がっており、苛立ちを隠さずに吐き捨てるように慎二は告げる。

 

 

「僕が知る訳ないだろッ⁉︎ あんな女の事なんかさ‼︎ ふんっ、もうなにもないなら行くよ。僕は暇じゃないんだ‼︎」

 

 

いかにもなにか知っているような反応で、表情を歪める慎二だが、これ以上聞こうものなら面倒くさい事が起こると半ば確信した士郎は、それ以上は聞かずに黙って歩を進める慎二を見送った。慎二の姿が視界から消えた後、彼はため息を溢す。

 

 

「はぁ、遠坂の奴。一体、慎二になにをしたんだよ」

 

 

慎二が彼処まで怒る理由が分からないが、遠坂がなにかを言ったのだけは理解出来た。何故か脳内で彼女が、慎二に対して煽るように言葉を紡ぐ光景が過る。それに、やりそうだなぁと胸中で呟く彼である。まぁ、今日は遠坂に会う事は諦めるか、と士郎は足を動かし始める。しかし、その時に彼は視線を感じた。

 

 

動かした足を、ピタッと止めて振り返るがそこには誰も居ない。だが、士郎の瞳は鋭いままだ。彼は見られている方角、窓の外に向けた視線を外す事なく魔術を行使した。使うのは『遠見』の魔術。ただ遠くを見る事しか出来ない魔術だが、見るだけで十分である。視覚が研ぎ澄まされるのが分かる。彼の瞳は、遠く離れた場所すら捉えた。そこに映っていたのは紅い外套を纏う浅黒い男だ。

 

 

士郎はその男の正体を知っていた。何故なら、自分が探していた遠坂凛の英霊(サーヴァント)なのだから。如何やらそのサーヴァント────アーチャーは士郎が此方を見ている事に気付いたらしく、舌打ちの仕草をした後に霊体化して消えて行った。

 

 

「これって監視………だよな?」

 

 

アーチャーの行動は分かる。よくよく考えれば、遠坂も聖杯戦争の参加者だ。そして仲間だと思っているのは自分だけ。遠坂の方は、自分とは敵だと確かに教会の時に言っていた。見付からない訳だ。こちらを倒すべき敵だと思っている彼女が、士郎の前に現れる訳がないのだから。故にこそのアーチャーの監視である。

 

 

「如何すれば遠坂に、戦う意思がない事を分かってもらえるんだ」

 

 

ため息を付いて、頭に手を置き士郎は首を振った。やる事が多過ぎる。だがやるしかない。自分は遠坂とは戦いたくないのだから。しかし、如何やって彼女と同盟を結ぼうかと考えては悩む。馬鹿正直に同盟を組もうと言った日には、彼に対して呆れた仕草をする遠坂の姿が容易に想像が付いてしまう。

 

 

如何したものかと考えている内に、士郎は自分の教室の前まで来ている事に気付いた。そして教室の中に入り机の上に置いてある鞄を手に取り、彼は教室から退出した。

 

 

「全然、思い付かないなぁ」

 

 

どんなに考えても同盟を組む方法が分からず頭を掻く彼だ。

 

 

「良しっ。もう呆れられても良い。なにがなんでも遠坂に会って、言うしかないな」

 

 

思い浮かばないのなら、直球しかないと拳を握る。元々、それしか選択肢はないのだから。下駄箱で靴に履き替えて、校舎から足を出した。瞬間だった。士郎の五感が少し離れた場所から、魔力の波動を感じ取った。

 

 

「………? なんだ?」

 

 

些細な魔力の波動に疑問を浮かべる。気になった士郎は、その足を正門の方にではなく、魔力を感じた方向へと向けて進めた。本当にごく僅かな魔力の反応だった。彼の五感が一般的な人間のソレだったら見逃す程の小さいものだった。士郎の足が遂に反応があった場所に辿り着く。そこで見たものに、彼は眼を大きくさせて慌てる事になる。

 

 

「ッ、おい大丈夫かっ⁉︎」

 

 

視線の先には一人の女生徒が、顔を青白くさせて倒れ込んでいた。駆け寄った士郎は、なにが原因でこうなったのかを瞬時に看破する。

 

 

「………これは? 生気が吸われている?」

 

 

女生徒は生きる為の活力を、吸われていた。今はまだ生きているが、このまま放っておけば死んでしまうだろう。だが、それを彼が見過ごす筈がない。すぐに自分の右手を女生徒の顔の上に持っていき魔術を発動させる。淡い光が右手から放たれ、吸い込まれるように女生徒の体の中へと消えていった。その数秒後。青白かった表情に赤みを帯び、健康的な色が戻ってくる。

 

 

確認の為に一応調べるが、もう命に別状がない事が分かり安堵の息を吐いた────時だった。士郎の全身に警報が鳴り響く。彼の立っている左の方向から、物凄い速度で見えないナニカが士郎の体を貫こうとした。しかし、驚異的な反射速度で彼は行動を開始していた。女生徒を抱えたまま、勢い良く全身を捻り上げる。その時、行き成りの動きに体から悲鳴が上がったが強化魔術で黙らせる。

 

 

見えないナニカが士郎の脇腹にかすり傷を付ける。だが、それで終わりではないと彼は直感した。続いて捻った体のまま強化された身体能力に任せて跳躍。次の瞬間。士郎が立っていた場所が粉砕された。離れた場所に降りた彼は、視線を鋭くしたまま眼前を睨んだ。

 

 

「誰だッ…………‼︎」

 

 

居るであろう何者かに誰何(すいか)の声を上げた。しかし、返ってくる事はない。とはいえ、何者なのかは分かっている。確実に聖杯戦争に関係する者だろう。警戒を解く事なく、周囲を見渡すと、その者は現れた。距離にして凡そ十五メートル程の位置。そこに長身の女性が姿を見せる。地面に落ちそうな程の紫色の長髪。だが、気になるのはそこではない。女性の両眼には視界を覆うバイザーがあった。

 

 

視界を完全に隠すソレは、一際(ひときわ)目立っている。それともう一つ目立っているものがあった。それは女性が握っている代物。ジャラッと音を鳴らして、存在を主張している。杭の形をした短剣に、長い鎖が付いている。まるで、鎖鎌を彷彿するような武器。

 

 

「お前は…………」

 

 

一体何者だと言わずにそこで途切れさせる。聞かずとも分かる。問わずとも分かる。女性から放たれる存在の格は、最早、人間のものではない。これはもっと上位のものだ。

 

 

「…………名乗れよサーヴァント。お前のクラスはなんだ?」

 

 

士郎が静かに問う。サーヴァントのクラスを。とはいえ、考えればすぐに、目の前の女性のクラスは特定できる。何故なら彼は三騎のサーヴァントと出会っているのだから。その中で会っていないサーヴァントはライダー、キャスター、アサシンの三騎だ。だが、長身の女性はなにも答えもせずに背中を向けて駆け出した。

 

 

「くっ、行かせるかっ‼︎」

 

 

逃げる女性に士郎は叫ぶ。考えていなかった訳ではない。知っていた筈だ。いずれ、一般人を襲う者が現れるなど。しかし、士郎が出会った三騎によって、その事が抜け落ちてしまった。アーチャーは良く分からない奴だが、ちゃんと一般人を巻き込まない事を心得ている。ランサーもそうだ。最初に自分を殺してきたが、アレは現場を見たからだ。

 

 

ランサー自身は一般人に手を出そうとは考えていない。バーサーカーとイリヤもそうである。態々、戦った場所が人が通らない所だったし、なによりも彼女は士郎にご執心で一般人などに構ってなどいない。その三騎を見た事によって、彼は全員が人を襲うような外道ではないと思ってしまっていた。

 

 

失策だと舌打ちをする。例え、警戒していても全て防ぐ事は出来ないだろう。しかし、警戒しているのと、していないのとでは、全然違うのだ。今抱えている女生徒も本当なら、阻止出来たかもしれないのだ。が、それは後の祭り。たら、ればなどIFの話をした所で、もう起こってしまった事実は変わらない。だから、今やるのはこれ以上の犠牲者を出さない事だけだ。

 

 

「だけど、如何する?」

 

 

長身の女性を追い掛けたい。しかし、そうするとこの女生徒を如何するかと悩む。ここに置いて行って、人が見付けるという選択肢もあるがそれは危険だ。もしも、追い掛けている途中に、あのサーヴァントが戻って来たら危ない。ならば如何すると悩んだ所で、士郎の耳朶に男子生徒の声が聞こえた。

 

 

「なんか凄い音しなかったか?」

 

「……………ッ⁉︎」

 

 

サーヴァントが起こした破砕音によって、見に来た生徒のようだ。それを理解すると同時に、もう一つの選択肢が現れた。そして曲がり角から一人の男子生徒が現れる。

 

 

「ん? あれお前等なにやってんだ?」

 

「…………お前は」

 

 

その男子生徒の顔に士郎は見覚えがあった。何故なら同じクラスの人間だったからである。男子生徒が女生徒を抱える士郎の姿に訝しんでいると、周囲の光景に気付いた。

 

 

「うおっ⁉︎ な、なんだこれっ⁉︎」

 

 

そこには小さなクレーターがあったり、パイプが折れていたりと破壊の跡がある。

 

 

「なぁ、この子を頼む」

 

「えっ⁉︎ た、頼むっておいっ、如何なってんだよ⁉︎ なんでこんなに壊れてんだっ」

 

 

周りの惨状に混乱する生徒に構わず、士郎は女生徒を差し出す。突然、渡された女生徒に一層、混乱をする男子生徒だ。早口でなにが如何なってんだと聞いてくる男子生徒に、説明している時間はない。このままでは女性に逃げられてしまうのだから。そう思うや否や、士郎はとある方法を思い付いて顔を顰める。

 

 

やりたくない。しかし、やらねばこの追求を逃れても、また明日に説明を求めてくるだろう。それか、教師に言われて面倒ごとが起きるかだ。仕方がないと彼は親指と中指で輪っかを作る。

 

 

「すまんっ‼︎」

 

「……………へ?」

 

 

パチンッと小気味良い音が鳴り響く。すると、さっきまで慌てていたのが嘘のように男子生徒が静かになった。

 

 

「はぁ、この魔術は使いたくなかった。と、悔やむのは後だ。その子を保健室に連れてってくれ。あとここで見た事は忘れろ」

 

 

いいな、と言ってから両手でパンッと叩く。そしてそのまま、女性が逃げた方に駆けるのだった。周囲の破壊跡を直す事を忘れずに。

 

 

「……………あ、あれ俺はなんでここに? そうだっ、この子を早く保健室に連れてがないと‼︎」

 

 

士郎が居なくなって数分後。我に返った男子生徒は、キョロキョロと見渡した後、何時の間にか抱えている女生徒に気付き、保健室に急いで向かうのだった。さっきまでの破壊跡の事など綺麗さっぱりと忘れて。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

駆ける。強化魔術を全身に施して、士郎は弾丸の如く走り抜ける。

 

 

「くそっ、緊急事態とはいえ暗示の魔術を使っちまった」

 

 

先程の事を思い出して彼は悪態をつく。暗示の魔術。文字通り暗示を掛ける魔術だ。士郎はこの魔術が好きになれなかった。何故なら、記憶を改竄しているかのようだからだ。暗示の魔術はそこまで強力ではないが、似たような事が出来る。罪悪感が沸く中、足を緩めない。一歩を踏み込む度に、地面が発破する。それだけで、どれだけ身体能力が強化されているのかが窺い知れた。そして女性の背中を視界に捉えた。

 

 

「見付けたっ‼︎」

 

 

同時に足に力を込めて地面を蹴った。瞬間。士郎の体が加速する。両手に陰陽一対の夫婦剣を創り出して握り締める。そして無防備に晒す、背中に振り下ろした。別に倒しはしない。倒してしまえば、聖杯の思う壺だ。だから、倒す事はせずに戦闘不能にすれば良い。士郎が放った一撃は、そう考えて繰り出されたものだ。しかし、彼の剣が背中を斬り裂く事はなかった。

 

 

「──────ッッッ⁉︎」

 

 

まるで攻撃が来ると分かっていたかのように、女性はその場で急停止すると、士郎に襲い掛かった。誘われた⁉︎ と思うも最早遅く。眼前に女性が躍り出て、鎖付きの短剣を顔に振るう。それを顔を少しズラす事によってなんとか躱す士郎だ。だが、躱されるのを予測していたのか、蛇の如く予測不能な動きで下を掻い潜り両足を払う。

 

 

「……………ちっ‼︎」

 

 

カクンと足を払われ、倒れこむ彼は舌打ちを一つした後に、左手で地面に手を付く事で倒れ込むのを阻止して、迫って来ていた女性の顎を右足で蹴り上げた。

 

 

「─────ッ⁉︎」

 

 

鋭い衝撃と共に、勢い良く顔が持ち上がる。自分より遥かに劣る人間からの反撃に彼女は驚愕に眼を見開く。だが、それも一瞬の事だ。蹴られた反動を利用して、彼女はバク宙をして後退した。士郎も追う事はせず、夫婦剣を構えて警戒した。対して彼女も鎖付きの短剣を構える。

 

 

警戒しながら周りを士郎は見渡す。ここは森だ。木々が生え、視界を遮る。厄介な場所に来たと士郎は、悪態をつく。

 

 

「如何した? こないのかよ?」

 

「………………」

 

 

動かない事に痺れを切らした士郎は、女性にそう問い掛けた。しかし、女性はなにも言わず無言だ。それに士郎は言葉を続ける。

 

 

「色んなサーヴァントを見てきたけど、その中でもあんたは大した事ないな」

 

 

笑みを浮かべて、挑発をぶつける。だが、そこに油断はない。挑発をしているが、その視線はなにに対しても対処が出来るようにと外したりなどしない。すると、無言だった女性はそこで漸く口を開いた。

 

 

「…………大した事ないですか」

 

「あぁ、大した事ないな。お前は他の奴に比べたら迫力不足だ」

 

「ふふっ、面白い冗談ですね」

 

 

挑発に引っ掛かった事に、士郎は言葉を紡ぐ。それに微笑を浮かべる女性だ。そして────

 

 

「迫力不足か如何か、教えて上げます」

 

(……………来るっ⁉︎)

 

 

次の瞬間。女性が疾駆した。周りの木や枝の反動を利用して、加速していく。それを視界に捉え続けて行くと、木々の僅かな隙間から短剣が投げ放たれた。風を穿ちながら飛来する短剣を、打ち落とす。だが、次には四方八方から短剣が投げ放たれる。それを打ち落とし続ける彼だ。その嵐のような攻撃が終わると、士郎の足が鎖に絡め取られていた。

 

 

「くっ⁉︎」

 

 

瞬時に鎖を叩き斬り、なんとか逃れる。と、頭上から女性が降って来て短剣を振り下ろした。それに夫婦剣をぶつけて、押し退ける。

 

 

「……………ッ」

 

 

他の英霊に比べて迫力がないとはいえ、彼女は紛れもなく英霊だ。その英霊の攻撃を押し退けた事に少なからず驚愕した。そこを狙って干将(かんしょう)で一閃する。が、その一撃は女性が、離れた位置にある木に鎖を巻き付ける事により届く事はなかった。ジャラジャラと金属音を鳴らし、木に引き寄せられ、そのまま木々を蹴って移動する。

 

 

「軽業師かよ」

 

 

そんな女性の姿を見て小さく呟く。と、同時にここに来た事が失敗だったと悟った。ここは女性の巣だ。彼女が一番、実力を発揮しやすい場所。確かに他のサーヴァントと比べたら劣るだろう。一般的に見たら速いだろうが、ランサー以上ではない。膂力もバーサーカーに比べれば酷く劣る。しかし、他のサーヴァントとは違い彼女は、アクロバティックだ。

 

 

(…………やばいな)

 

 

士郎は考える。初めての相手だ。彼にとってこのような存在は初めてだった。自分に修行を付けてくれた爺さんも、恐らくやろうと思えばアクロバティックな動きも出来るだろう。しかし、教えてもらったのは殆ど白兵戦だ。少しアクロバティックな戦闘も教えて貰っていたが、あの時の士郎は魔術や面白いように吸収する体術が楽しくて聞き逃していた。

 

 

(こんな事なら、真剣に聞いとくべきだったなぁ)

 

 

悔やむようにため息を溢す。だが、もう仕方のない事だ。やりにくい相手であるが、倒せない相手ではない筈だ。考えろ。

 

 

(考えろ俺。なんであいつは眼を隠して、俺の位置を把握出来る)

 

 

思考を巡らせ、攻略法を模索して行く。

 

 

(そう、眼が見えないのなら、他の五感を頼れば良い。それは聴覚であったり、嗅覚であったり、気配であったりだ。要は俺の動いた音で位置を把握して、気配を察知して攻撃を読んでるんだ…………なら、やりようはある)

 

 

攻略法は大体分かった。士郎は息を大きく吸って吐き出してから、神経を研ぎ澄ます。集中力を高め、気配を小さくして行く。そして相手が動くのを只管待った。その時、短剣が眉間に向かって放たれる。それを紙一重で躱したのと同時に、放たれた場所へと無音(・・)で移動した。大木の前に来た彼は、『透波』を大木に叩き付ける。

 

 

ドンッ‼︎ という轟音と共に衝撃が浸透していき、大木内を駆け巡り木の上に居た女性に衝撃が届いた。音も無く近付き、気配を極限まで小さくした事により、気付くのが少し遅れた。ビリッと両足に流れてきた衝撃に、激痛が迸る。

 

 

「ぐっ…………⁉︎」

 

 

逃げるのが遅れて、両足を痛めた彼女は落下する。そこを見逃す筈がなく、彼は一瞬にして肉薄していた。

 

 

「殺す気はない。少し眠って貰うだけだっ‼︎」

 

 

干将と莫耶(ばくや)を握り締めて、これで終わりだと告げてから躊躇なく振り下ろした。次の瞬間。ナニカが間を割って飛来した。地面を抉るように降りてきた何者かに、士郎の動きが止まる。女性の方も突然の事に呆然となっていた。土煙が舞い上がり、視界が覆われている。そして煙が晴れると、その中心に立っていたのは一人の女性だった。

 

 

何処か空虚を宿す瞳をした、褐色肌の女性。ソレがただの一般人でない事は放たれる風格と、右手に持つ三色の光を宿した剣から分かる。士郎は何故か、その女性を見ているとざわつくのを感じた。まるで本能が警戒をしているような。

 

 

「…………目標を確認」

 

 

すると空虚の女性が、士郎に視線を向けて口を開いた。刹那────怖気にも似た悪寒が全身を駆け巡る。なんとかしなければ、このままでは危険だと本能が告げる。それに示し合わせたかのように、褐色肌の女性は手に持つ三色の光を放つ剣を振り上げた。緩やかに回転する刀身。呼応するかのように輝きが増す全てを『破壊』する三色の光。

 

 

警報が鳴り止まない。ここでなんとかしなければ、日常が戻る事はないと訴える。彼は両眼を閉じて、すぐに開いた。すると瞳には七色に輝く雫模様が浮かび上がる。この世の全てを、世界の全てを、魔術魔法の全てを、森羅万象の全てを解析する魔眼が発動する。今から彼女が放とうとする代物を解析して、絶句した。

 

 

駄目だ。アレを放たれては行けない。アレは文字通りなにも残さない一撃だ。

 

 

「…………目標を破壊する」

 

(く、そ間に合えっ⁉︎)

 

 

右手を突き出して、女性へと向ける。そして────

 

 

「─────『軍神の剣(フォトン・レイ)』」

 

 

あらゆる『文明』を破壊する一撃が解き放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早くも登場しました。基本徒歩さん。さて、次は如何なるのだろうか‼︎

次回 三つ巴から四つ巴←サブタイ変わるかも知れません。


裏話(別に見なくても大丈夫です)


士郎が靴に履き替えようとしている時の事。


(彼女は可愛いですね。ふふ、私の好みです。今日は彼女から生気を貰いましょう)

紫色の長髪をした女性が微笑んだ後、なにも知らず歩く女生徒に近好き生気を吸い取る。すると、吸っている最中に何者かがこちらに向かっているのに気付いた彼女は、お楽しみを邪魔された事に眉を寄せるが霊体化した。その数秒後、現れたのは一人の少年である。

(ん? 彼は?)

彼女は少年の事を知っていた。自分のマスターと同じ聖杯戦争の参加者である。近くにサーヴァントが居ないかを確認した彼女は、チャンスだと笑みを浮かべた。今そこに居るのは脆弱な人間一人。自身の力を用いれば勝てて当たり前の存在だ。しかし、彼女知らない。その少年がただの人間ではない事を。これから起こるであろう絶望を。






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