Fate〜衛宮士郎の救済物語〜   作:葛城 大河

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第八幕 激化する戦闘

 

光。あらゆる万物を『破壊』する三色の光。周囲を包み込んで満たすのは、そんな危険極まりない閃光だった。しかし、何時まで経っても、その光が行うであろう破壊が起きない。なんの効果を出す事なく、ただ辺り一体を光が覆い尽くす。すると、数秒後。周囲を満たす光が晴れていき、そこに映った光景はそれぞれが別の仕草をしている三人の男女の姿だ。

 

 

紫色の髪を持つ女性は、なにが起こったのか分からずにいるが、それでも警戒を緩めずに短剣を握り締める。対して、その近くに居る少年は、両眼に虹色に輝く雫の文様を浮かばせて、右腕を前に突き出していた。そして三人目の褐色肌の女性は、首を傾げてから、少年を一瞥する。

 

 

「…………破壊、されてない?」

 

 

本来なら、彼女の目の前に映る光景はなにも残らない更地だ。『文明』を破壊するというのは、そういう事である。今まで築き上げてきた大地を、文字通りに破壊する。後に残るのは、人も草木も全く無い、文明が消え失せた更地になる筈なのだ。そこに失敗などは存在しない。幾度となく繰り返してきた事なのだから。故に、彼女は疑問符を浮かべて首を傾げるしかない。

 

 

自身の『宝具』を解き放ったにも関わらず、なにも起きていない現状に。抹殺対象である少年も、傷一つ付いていない。改めて彼女は自分が持つ剣に視線を向ける。剣に纏われる三色の光は健在だ。ならば、尚更可笑しい。再度、少年に視線を向け直してから、彼女は剣を振り上げる。まるでなにが起こったのかを確かめるように、剣に力を込める。すると、緩やかに刀身が回転。纏われている三色の光が輝きを増して行く。

 

 

「ッ⁉︎ 二度もやらせるかっ‼︎」

 

 

その女性が行った仕草に、先程の一撃をまた繰り出すのだと理解して、衛宮士郎は地面を蹴り飛ばして飛び出した。膨大な魔力を使って、強化魔術を行使する。ただそれだけでは終わらせずに、少年は強化魔術を上書きし続ける。上昇して行く身体能力に任せて、疾走する。と、彼の姿は影すらも残さずに一瞬にして褐色肌の女性の眼前にへと肉薄する。

 

 

しかし、女性は士郎の姿を捉えており、『宝具』の発動を中断すると俊敏な動きで少年に剣を頭上から振り下ろした。だが、彼女が攻撃を仕掛けるより早く、彼は行動に移している。士郎の頭に剣が直撃する前に、女性の首に右手を添え、蹴りを彼女の足に放つ。すると、グルンと彼女の体が宙を回る。振り下ろされた剣は、予期せぬ方向に逸れる。

 

 

だが、まだ士郎の動きは止まっていない。宙を回る女性の中心部。急所に位置する場所に右拳を添えるように乗せて一拍。

 

 

「─────はぁッ‼︎」

 

「…………ッッッ⁉︎」

 

 

踏み込むと同時に力を込めて解き放つ。ズドンッッッ‼︎ という音が辺り一体に木霊する。放たれた拳撃に、女性は眼を見開いた。全身に尋常ならざる衝撃が駆け巡って襲う。余りにも重い一撃に、後方に彼女の体が飛んで行く。が、その吹き飛んだ女性に士郎は一瞬で追い付いて、追撃を仕掛た。しかし、そう簡単に追撃を許す訳がない。吹き飛んでいる彼女は、迫る少年に冷静に対処する。全身を捻り上げ、追撃を仕掛ける士郎に脚撃を放つ。

 

 

鋭い脚撃を彼は首を傾げて躱す。だが、

 

 

「ぐっ……………⁉︎」

 

 

士郎の肩に衝撃が奔る。そこに視線を向ければ、女性の放った蹴りが方向を変えて、踵落としを与えていた。一瞬、止まった隙を彼女は見逃さない。残った方の足で、士郎の腹部を蹴り上げると、その勢いを利用して大きく距離を取る。そして、剣を振り上げ、彼女は己の『宝具』を解放した。

 

 

「─────『軍神の剣(フォトン・レイ)』」

 

 

剣から放たれるのは、『あらゆる存在』を破壊する三色の光。ソレが辺りを覆い尽くして、彼女はそこで目撃した。自身の抹殺対象たる少年が、右腕を伸ばし五指を開く。鋭い瞳の中には全てを見通す(・・・・・・)かのような、虹色に輝く雫の文様がその存在を主張していた。五指を曲げて、少年は呟く。放たれる破壊の光を消失させる為に。

 

 

「…………存在を解析」

 

 

両の瞳に映る魔眼が、視界に入る全ての理を解析する。三色の光が持つ特性を、ソレを放つ『宝具』の力を、そしてその持ち主たる女性の存在の全てを、余す事なく解析し看破する。次の瞬間。五指を握り締め、ある言葉を言い放った。

 

 

「────解除。消え失せろ」

 

「……………ッ⁉︎」

 

 

その言葉が終わると共に、『宝具』が放つ『文明』を破壊する一撃が霧散し、完全にその効果は消え失せた。信じられない事が起きた。女性の心境はそんな感じだろう。だが、何故だか彼女は口元に笑みを浮かべてしまう。彼女自身は気付かない。心の奥底で、自分でも破壊出来ない存在に、喜びの感情を露わにしたなど。対して喜ぶ女性など知らず、士郎は冷や汗を掻きながら口を開いた。

 

 

「二度も危険極まりない『宝具』を放ちやがって」

 

 

魔眼の解除が間に合っていなかったら、この場所は荒野に変わっていた事だろう。そう思うと間に合って良かったと安堵の息を漏らす彼だ。と、同時に『全ての式を解く者』により、目の前の女性の正体を見破った彼は、少し混乱していた。

 

 

(しっかし、如何いう事だよ? 俺の解析の結果が本当なら、あいつはセイバーの筈だ)

 

 

だが、それはあり得ないと首を振る。何故なら、もうセイバー枠は自分が取っているのだがら。だからこそ、如何言う事だと疑問を浮かべるのだ。遠坂から聞いた聖杯戦争でのルールを、改めて思い出しても分からない。何故、セイバーが二人も居るのか。警戒を解かずに、先程から動きを止めている女性に視線を外さない。と、そこで彼の耳朶はジャラジャラと鎖の擦り合う音を聞いた。

 

 

「チッ、しまったっ⁉︎」

 

 

驚きの連続が続き、士郎は忘れていた。もう一人、サーヴァントがこの場に居た事を。真横から投げ放たれた短剣を、辛うじて回避して、紫色の髪をした女性に視線を投げた。瞬間。己の脳裏を駆け巡るのは、魔眼が解析した情報だ。それを整理して、彼女のクラスと真名を受け止める。少し神話に詳しい者ならば、誰もが知っている存在。

 

 

見た者を石化させる怪物────メデューサ。それが紫色の女性の正体だ。そしてもう一人の褐色肌の女性の名前も有名だった。大帝国を成した大王。東西ローマ帝国を滅ぼし、西アジアからロシア・東欧・ガリアにまで及ぶ広大な版図(はんと)を制した大帝国を成した五世紀の大英雄。彼女が死して尚、この現代まで畏怖と恐怖の名として、彼の大地の人々には記憶されている。

 

 

褐色肌の女性────アッティラはいや、アルテラが漸くこちらに視線を向けた。士郎は陰陽一対の夫婦剣を握り締めて距離を取る。前にはアルテラ、左にはメデューサ。その二人の標的は士郎である。恐らくメデューサは、アルテラが少年しか狙わない事に、彼を襲う事が目的だと理解して、便乗したのだろう。そしてこの二対一の状況になったのだ。まだメデューサの動きに慣れていないのだ。それに加え、強力な『宝具』を有するアルテラだ。

 

 

流石に一人では厳しい。そこで士郎は令呪を思い出す。

 

 

(面倒な相手が二人。少し厳しい状況だ。なら、呼ぶ(・・)しかないな)

 

 

令呪の使用を決めて、彼は令呪が刻まれている腕を振り上げて叫んだ。己のサーヴァントを、この場に呼ぶ為に。

 

 

「来いっ‼︎ セイバーっ‼︎」

 

 

刹那────士郎の眼前に眩い光が昇る。そして、誰かが目の前に現れた。金髪の髪を後ろで結い上げ、青と銀の甲冑を着た見目麗しい少女。彼女こそが士郎と契約したセイバーのサーヴァント。

 

 

「…………呼び声に答えて参上しました。シロウ、敵は何処ですか?」

 

 

瞼を開いて、セイバーは問い掛ける。自分の敵は何処だと。それに頼もしいなと笑みを浮かべてから、視線をセイバーの後ろに向けた。その士郎の仕草に、彼女は振り返る。そこに映るのは二人のサーヴァントの姿だ。一瞬だけアルテラの姿に、訝しんだが、彼女達が敵だと判断して不可視の剣を構えた。二対二になった彼等は、お互いを見合う。一触即発の重苦しい空気は、しかし、金髪の少女セイバーによって壊された。

 

 

彼女が向かう場所は、褐色肌の女性アルテラの方である。一瞬で詰め寄るとセイバーは、容赦無く不可視の剣を一閃した。だが、まるで見えているかのようにアルテラは上体を反らして躱すと、無抵抗となったセイバーに剣を振る。しかし、その剣が彼女に当たる事はない。その時、一瞬だがセイバーの全身が霞んだ。

 

 

すると、アルテラの剣は空を斬る。眼前から消失した少女に、眼を見開く彼女だったが、突如、背後から感じた殺気に咄嗟に反応する。剣を頭上に持って行き、守りの態勢を取る。次の瞬間。頭上から異常とも呼べる程の一撃が襲い掛かった。その剣圧だけで、周囲が吹き飛ぶ。そんな凄まじい一撃を受け止めたアルテラだが、次の行動に移る事が出来ないでいた。

 

 

「……………ッッッ」

 

「…………これは?」

 

 

無表情な顔に苦悶の声を漏らし、不可視の剣を受け止め続ける彼女だ。アルテラは理解した。少しでも力を抜けば、この不可視の剣が完全に押し切り、自分を斬り裂くだろうと。故に、次の行動に移す事が出来ずに、受け止め続けるしかない。しかし、それでも徐々にセイバーの剣によって押されて行く。対してセイバーの方は別の意味で、驚愕を露わにしていた。

 

 

自身の体が余りにも動き過ぎるのだ。先程のアルテラが放った剣だってそうだ。本来なら剣を弾く為に動いた筈。なのに結果は如何だ? 地面を蹴って移動した瞬間、何故だか一瞬にして背後に移動していた。本人からは、本の少しの移動だったにも関わらずである。そして次は、この一撃の威力だ。確かに彼女は力を込めて剣を振り下ろした。だが、このような結果が出るとは思わなかった。まるで、爆ぜたかのように周囲の大地が吹き飛び、アルテラの足元には小さくないクレーターを作り上げている。

 

 

馬鹿げている。これでは、まるでバーサーカーの膂力ではないか。

 

 

「この力は、一体」

 

 

アルテラの剣を押し切りながら、疑問の声を漏らす。彼女は、今まで勘違いしていた。自分の力が生前(・・)に近いなどと。衛宮士郎という規格外の少年に、召喚されたのだ。それなのに、何故、生前に近しい力量を得たと思ったのか。彼と契約した者が、その程度な筈がない。いや、爺さんによって鍛えられた少年と契約した者が、と言えばいいだろうか。

 

 

士郎の魔力は膨大だ。余りにも多く、圧倒的にして規格外。その規格外な魔力が、召喚された少女――セイバーのステータスを、生前の頃さえも超越してみせた。バーサーカーとの戦闘では、まだ召喚されたばかりで、供給される彼の魔力に馴染んでいなかった。しかし、アレから数日が経った今。完全に体に馴染み、そのぶっ壊れステータスを披露出来るようになったのだ。

 

 

そんな自身に起きた変化に、少し戸惑いを浮かべるセイバーだったが、力が上がっている分には良いと判断して、不可視の剣に力を込める。ズシリと重みが増した事に、アルテラは小さく呻く。その二人の姿に、紫色の女性ライダーがガラ空きとなっているセイバーの背中に短剣を投げ付けた。だが、

 

 

「やらせると思うか?」

 

「……………ッ」

 

 

横から現れた少年によって、短剣が弾き飛ばされる。彼は横目で己のサーヴァントを見た後に、ライダーに視線を戻した。

 

 

「セイバーの邪魔はさせない。あんたの相手は、俺だ」

 

「……………」

 

 

莫耶を向けて言い放つ少年に、ライダーは口を閉じたまま、鎖付きの短剣を構える。そして動いた。蛇の如く体を低くして蛇行する。と、跳躍して木々の反動を利用して、動き回る。始まったアクロバティックなライダーの動き。それを彼はジッと立ち止まった状態で、鋭い視線を向けたまま動かない。時折、放たれる短剣を、少し体をズラしたりして避ける。幾つも投げ放たれる短剣を躱す、躱す、躱す。ただ視線を動き回る彼女に固定させたまま、躱す事に徹する少年だ。

 

 

「……………ッ⁉︎」

 

 

まるで心の奥底まで覗かれているかのような瞳に、ゾクリと背筋に寒気が襲い、訳も分からない恐怖を覚える。駄目だ。この状況は行けないと、ライダーは何故だか今の現状が危険だと理解した。なにが危険なのかは、彼女自身分からない。少年は攻撃の素振りなど全く見せずに、立ち止まっているのだから。しかし、本能がそう告げるのだ。立ち止まるアレを放置すれば、痛い目にあうと。故に、彼女は木の反動を利用して、士郎に肉薄した。

 

 

凄まじい速度で迫るライダー。それに彼は陰陽の夫婦剣を握り締める。そしてライダーは短剣で、士郎に襲い掛かった。眉間に向けて振るわれた短剣を、首を動かす事により容易く躱し、莫耶を一閃。しかし、鎖を離れた木に巻き付けて回避する。

 

 

「────もう、お前の動きには慣れた(・・・)

 

「─────ッ⁉︎」

 

 

だが、ライダーが回避した先には、少年が回り込んでいた。何処に逃げるのか分かっていたかのように。と、彼は回避してきた筈の女性に向けて回し蹴りを叩き込んだ。強化魔術によって身体能力が底上げされた脚撃は、ライダーの体へとめり込む。

 

 

「かはッ⁉︎」

 

 

肺から空気が漏れ、彼女は急いで蹴りを放った少年から離れようとして、鎖をジャラジャラと鳴らし移動をする。が、その鎖は少年によって容易く夫婦剣で叩き落とされた。

 

 

「逃がさねぇよ」

 

「ぐっ⁉︎」

 

 

次いで訪れる激痛に、彼女は顎に打撃が与えられた事を理解する。しかし、なんとかしなければならない。このままでは、なにも出来ないまま少年によって倒されてしまう。そう考えた彼女は、夫婦剣を振り上げた少年に向けて、バイザーを脱ぎ払いその瞳を向けた。メデューサが持つ見た者を石化させる魔眼。ノウブルカラーは『宝石』であり、最高位ランクの代物。

 

 

だが、『全ての式を解く者』の力により、瞬時に石化の魔眼(キュベレイ)の発動を知った彼は、全身から魔力を放出させた。圧倒的な魔力の爆発。余りにも多すぎる魔力の奔流に、石化の魔眼(キュベレイ)の力が無効化される。人間が行った出鱈目な出来事に呆然とする彼女だ。

 

 

「無駄だ。俺に魔眼は効かない。幾つもの対処法を教わったからな」

 

 

数年前に出会った名前も知らない爺さんにな、と胸中で答える彼だ。それに、と士郎は自身の魔眼に集中した。今でも少年の視界には、ありとあらゆるモノが、理の構成と構造が映り、ソレ等を成す『式』の全てを理解出来る。コレに比べれば、どんな魔眼さえも弱く見えてしまう。

 

 

「…………貴方は、一体何者ですか?」

 

「俺か? 俺はただの、いや…………あり得ない幻想(ゆめ)を目指す、愚か者だ」

 

 

メデューサの問い掛けに、衛宮士郎は途中で言葉を切って言い放つ。幻想を追い求める愚か者だと。『正義の味方』など、所詮は幻想。そもそも、全てを救うという事が不可能なのだ。誰かを一人救っている間に、別の場所で誰かが犠牲になっている。そんな事は彼は良く分かっている。しかし、それでも目指したいと思ったのだ。

 

 

近い未来、救えない命に嘆くだろう。後悔するだろう。だが、それでも自分は突き進むのだろう。自分が定め、憧れた幻想(ゆめ)に向かって。笑いたければ笑えばいい。なにせ、不可能な事をやろうとしているのだから。笑われても仕方がない。それ程の事をしようとしているのだから。

 

 

目指す切っ掛けはなんだったのか、と考えればすぐに思い付く。爺さんに出会い、魔術を教わり、体術を学び、力を付けた時だ。この力を誰かの為に使いたいと思ったのが最初の始まり。いや、爺さんに出会った時から抱いていたかもしれない。あの人は最後の最後に、告白した。自分は臆病だと。誰にも負けない力があるのに、もしもの可能性を浮かべて、満足に戦う事が出来ないヘタレだと。

 

 

苦笑を浮かべて語る爺さんに、自分は笑う事などせず、聞く事に徹していた。言葉を紡いで行く老人に、彼はあぁこの人も人間なんだと納得した。今まで人外じみた力の数々を見てきた士郎だったが、その話を聞いて人間なのだと嬉しく思ったのだ。だから言った。しょうがないよ、と。普通の人間なら誰もが持っている感情だ、と。

 

 

その言葉に爺さんは、人間という用語に反応して、安心したかのような表情を見せた。もしかしたら、彼は平気そうに振る舞っていたが、実は自身の力に対して化け物と思っていたのかもしれない。そして老人は最後に幼い少年に言葉を投げた。

 

 

『士郎。『正義の味方』をもしも目指すのなら、絶対に挫けるな。目指す過程で、嫌な事が起きるだろう。だが、それでも諦めないでくれ。お前はお前のままで、突き進んで欲しい。まぁ、ヘタレな俺が言えた義理じゃないけどな』

 

 

そう言った翌日に、老人は寿命で死んだ。その日、士郎は泣いた。大声で泣き続けた。なんだかんだで、短い時間だったけれど、彼にとっては本当に充実した時間だったのだ。そして、その日を境に彼は『正義の味方』の道を歩き出す。別に爺さんに言われたから、なる訳ではない。自分が心の底から成りたいと思ったから、歩み出したのだ。誰かに背負わされたのではなく、自らの意思でその幻想(ゆめ)を背負ったのだ。

 

 

故に、自分は愚か者でいい。その言葉が、不可能を追い求める自分に対して相応しい一言なのだから。

 

 

「さぁ、諦めろ。お前の負けだメデューサ」

 

「──────ッ⁉︎」

 

 

過去の事を思い出した彼は、自分が告げた愚か者という言葉に訝しむ女性に対して告げた。それに驚愕するのは当然だった。何故、自身の真名を知っていると絶句する。驚く彼女など気にせずに、士郎は干将を振り上げた。次の瞬間────彼の背後で轟音が鳴り響いた。何事かと振り向くと、セイバーがアルテラに剣を叩き付けて吹き飛ばしていた。数十メートル程もの距離を飛んだ彼女は、しかし、何事もなかったように着地する。

 

 

と、セイバーと距離が離れたのを好機と見て、士郎の方に体を向ける。アルテラに命令されているのはただ一つ。衛宮士郎を殺せ、だ。だからこそ、彼女の体は少年に向かって行った。逆らう事が出来ない肉体に身を任せて、肉薄する。しかし、それ以上、近付く事が出来なかった。

 

 

「シロウから離れなさいッ‼︎」

 

 

数十メートルの距離を、一瞬で縮めてセイバーが斬撃を放ったからである。それに急停止して後退する彼女だ。と、気付けばメデューサも士郎から離れていた。彼の隣でセイバーが立ち、相対する形でアルテラとメデューサが居る。

 

 

こうして四人の戦闘は、振り出しに戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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