Fate〜衛宮士郎の救済物語〜   作:葛城 大河

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ふぅ、なんとか今日中に書けた。


第二幕 聖杯戦争、そして教会にて

「………遠坂、お茶だ」

 

「ありがと、衛宮君」

 

 

対面に座る遠坂 凛に士郎は客人ようのお茶を出して、テーブルを挟んで向かい合う形で座った。チラッと斜め後ろを見ると、そこには金髪の少女が、座布団の上で綺麗な正座をして座っている。すると、目の前でお茶を飲んだ遠坂は、口を開いた。

 

 

「それじゃあ、話を始めるけど、自分がどんな立場にあってるのか分かってないでしょ?」

 

 

確信を込められた、その発言に士郎は頷くしかない。遠坂の言う通り、今の状況が分からないからだ。士郎の頷きを見た彼女は、今の現状を簡潔に答えた。

 

 

「率直に言うと、衛宮君はマスターに選ばれたの。体の何処かに聖痕が刻まれてない」

 

「聖痕…………?」

 

「…………令呪の事です。シロウ」

 

 

初めて聞いた言葉に首を傾げると、今まで黙っていた金髪の少女が答えた。それに士郎は少女に視線を向けてから、なにか思い出したように自身の左手の甲を見た。

 

 

「これか?」

 

「そう。それがマスターとしての証よ。そしてサーヴァントを律する呪文でもある。だから、それがある限りはサーヴァントを従えていられるの」

 

 

遠坂の説明に、士郎は眉を顰めた。ある限り? その一言に違和感を覚える。そんな士郎の事など知らずに続けて遠坂は言った。

 

 

「令呪は絶対命令権なの。サーヴァントの意思を捻じ曲げてでも、言い付けを守らせるのがその刻印。だけど、絶対命令権は三回のみだから、無駄使いしないようにね」

 

 

続けて遠坂は衝撃的な事を言った。

 

 

「その令呪がなくなったら、衛宮君は殺されるだろうから精々注意して」

 

「殺される?」

 

 

物騒な言葉に眼を細める士郎だ。だが、納得もしていた。あの真紅の槍を持っていた男は、間違いなく自分を殺そうとしていたのだから。

 

 

「そうよ。マスターが他のマスターを倒すのが、聖杯戦争の基本だもの。そうして、他の六人を倒したマスターには、望みを叶えられる聖杯が与えられるの」

 

「…………聖杯」

 

 

思い浮かべるのは、十年前の地獄を作り出した汚染された聖杯。恐らくは、遠坂の言う聖杯となんらかの関係があるのだろう。

 

 

「そう聖杯よ。ま、簡単に言えば貴方はある儀式に巻き込まれたの。聖杯戦争っていう、魔術師同士の殺し合いに」

 

「遠坂。それは本当なのか」

 

「私は事実を口にするだけよ」

 

 

その言葉は士郎の質問に肯定するものだった。取り敢えず、この冬木市でなにが起きているのかは理解した。脱力したように、士郎は天井を見上げる。もう大英雄の力を模倣した事により発生した疲労感は完璧に回復(・・)している。なんで、目の前で遠坂 凛からこのように説明を受けているのか。それは数十分前までに遡る。士郎はまだ聖杯戦争の事を説明する遠坂の言葉を聞きながら、回想するのだった。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「問おう。貴方が、私のマスターか」

 

「いいえ、違います」

 

 

いきなり現れた少女に告げられた言葉に、半ば反射的に答えた士郎。彼は自身の両眼の魔眼で、少女の存在を解析して胸中で驚いていた。と、同時に納得もした。道理で自分の中の鞘が反応を示した訳だと。

 

 

「……………」

 

「……………」

 

 

そして士郎の即答とも呼べる言葉に、眼を丸くする少女である。お互いに無言になり、気まずい空気が流れた。だが、その空気を青い男が吹き飛ばす。真紅の槍を刺突させる男の姿を視界に捉えて、士郎は迎撃の準備をする。もう全身の疲労など治っているのだから(・・・・・・・・・)。しかし、士郎よりも早く目の前の少女が動いていた。風のように一瞬にして前に躍り出ると、槍の刺突を下からなにもない手で(・・・・・・・)払い上げた。

 

 

「ーーーーーッ」

 

「はぁッ‼︎」

 

 

続いて裂帛の声と共に、再度なにも持っていない手で男を襲う。それに、槍をすぐさま戻し顔あたりに持って行くと、ガギンッ‼︎ という金属同士が衝突した甲高い音を響かせ、蔵の中から男を追い出した。一瞬の攻防。人を超越した戦闘ではなく、士郎は少女の手元を凝視していた。なにかを持っている。少女の手には一つの剣が握られている。他の者達では、幾重にも重なる空気の層によって透明にしか見えないだろう。

 

 

しかし、士郎の魔眼はそんな物など意に介さずに、少女の剣を看破する。その剣の銘を、材質を、構成を、構造を。士郎がその剣を解析している間に、青い男との戦闘は続く。

 

 

男の刺突を紙一重で避け、不可視の剣を男に向ける。二度三度と槍と不可視の剣が衝突。ぶつかった勢いを利用して二人は互いに距離を取った。そしてその場に立ち止まり、男と少女は自身の武器を構え直して、再度激突した。常人では視認出来ない程の攻防を一瞬の間で数十と繰り返す。と、少女が男の懐に潜り込んで斬撃を放つも、すんでの所で後退し躱す。

 

 

男はすぐに少女に向けて疾走して、槍を突き出した。それに少ない動作で、体を横にズラして躱すと、槍を下から不可視の剣で払い上げた。その剣圧により、地面がめくり上がる。一瞬、槍ごと払い上げられた事により、男の体が宙に浮く。その隙を(のが)さず、剣で突きを放つも男は首を傾げる事により避けてみせた。しかし、剣の勢いはそこで止まらずに、上段、横一閃、と男を追撃する。

 

 

男は少女の猛攻に押され始める。そして槍で不可視の剣を受け止めた男は、力強く弾き距離を取る為に跳躍して離れた。そこで男は口を開く。その声音に、今の戦闘に対しての思いを込めて。

 

 

「卑怯者め‼︎ 自らの武器を隠すとは、何事かッ‼︎」

 

 

その言葉に対して少女は、男に斬撃を放つ。それに頭上を飛んで避ける男だ。そして数メートルの距離で立ち止まった男に視線を向けて少女は、そこで口を開いた。

 

 

「如何したランサー? 止まっていたら槍兵の名が泣こう。そちらが来ないのなら、私が行くが」

 

「………その前に一つ聞かせろ。貴様の『宝具』。それは剣か」

 

 

確かめるように言うランサーと言われた男に、少女は口を開く。

 

 

「さぁ、如何だろうな。斧かもしれんし、槍かもしれん。………いや、もしや弓という事もあるかも知れんぞランサー」

 

「ふん、抜かせーーー剣使い‼︎」

 

 

少女の言葉に鼻で笑い、男は槍を構える。しかし、その構えは何処か違っていた。

 

 

「序でにもう一つ聞いとくするか。お互いに初見だしよぉ、ここらで分けって気はないか?」

 

「断る。貴方はここで倒れろランサー」

 

 

男の提案に即座に答える少女だ。

 

 

「そうかよ。こっちは元々、様子見が目的だったんだがな」

 

 

そこまで言うと男は眼を見開いた。同時に自身が持つ紅き魔槍に魔力を込める。その光景に士郎は、次になにが起こるのか理解する。

 

 

「…………ッ」

 

 

少女も、なにが来るのかを理解したのか不可視の剣を青眼に構えて、警戒を強めた。膨大な魔力が槍の穂先に集中する。士郎はその槍に両眼を見開いて、解析を行った。これから、放つであろう一撃は、必殺必中の英雄の一撃。

 

 

「ーーーーその心臓、貰い受けるッ‼︎」

 

 

絶対に外さないという、声音を込めた叫びが響き、男は地面を削りながら駆け抜け、片手で真紅の槍を持ち、腕を曲げた。

 

 

「ーーー『刺し穿つ(ゲイ)』」

 

 

それはアイルランドの大英雄。光の御子であるクー・フーリンが影の女王スカサハから授かった因果逆転の呪いを持つ槍。「放ってから当たる」のではなく「当たってから放たれる」必殺必中の『対人宝具』。避ける事が不可能で、避けるには絶対な幸運がないと不可能だ。だがーーーそれが如何した? 士郎は己の魔眼に力を込めた。そして右手を放たれる槍に向ける。

 

 

「ーーー『死棘の槍(ボルク)』ッッッ‼︎」

 

 

次の瞬間。男の手から槍が放たれた。それが因果を歪めて、心臓を貫くーーー筈だった。声が聞こえた。二人の英霊の耳に、静かな声が響く。

 

 

「存在を解析ーーー解除。因果逆転の存在は無に還れ」

 

 

因果を歪める筈だった槍は、しかし、見えない力によって歪めた因果を否定された。本来なら『結果』を先にもたらす効果は意味をなくし、ただのなんの変哲もない刺突にへと変わる。少女はただの刺突になった、ソレをなんの苦もなく弾き返した。弾かれた槍は、持ち主である男の元に戻る。だが、男は信じられないとばかりに、士郎を見ていた。

 

 

「坊主、テメェッ⁉︎」

 

「ッ⁉︎ マスター、貴方は」

 

 

二人は信じられなかった。今、行われた光景にはたして、誰が信じられようか。未来を、運命を、因果を無に還し否定された光景に。概念そのものを消した事に。そしてそれを行ったのが、英霊ではなく、ただの一人の少年だと。

 

 

「まさか、俺の必殺の一撃を、こんな風に躱される日が来ようとは」

 

 

己の『宝具』に視線を向けて呟く男。そして『宝具』を放たれた少女は、目の前の男の正体に気付いた。

 

 

「呪詛。いや今のは因果の逆転。『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)』。御身はアイルランドの光の御子か‼︎」

 

 

マスターである少年の事を一旦、忘れてそう告げる少女。それに呆然としていた男は、我に戻り、士郎を一瞥してから言った。

 

 

「チッ‼︎ どじったぜ。こいつを出すからには、必殺でなければヤバイってのにな。それが、あんな風に防がれるなんざ、思わなかったぜ」

 

 

士郎から視線を外して、男は少女に背中を向けた。その事に訝しむ少女だ。それに答えるように男は言う。

 

 

「うちの雇い主は臆病でなぁ。槍を躱されたら、帰ってこいなんて、抜かしやがる」

 

「逃げるのか‼︎」

 

 

背中を向けて離れる男に少女は叫んだ。それに一旦、足を止める男だ。

 

 

「追ってくるなら、構わんぞ。ーーーただしその時は、決死の覚悟を抱いてこい」

 

 

顔だけを向けて男はそう告げた。追うなら、今度は自分の命がなくなるのを覚悟しろと。そう言うと、男は跳躍すると、一度士郎に視線を向けた。

 

 

「じゃあな坊主。今度は邪魔が入らない場所で、やろうぜ」

 

「待て‼︎ ランサー‼︎」

 

 

その言葉と共に消えた男に向けて叫ぶが、なにも返って来る事はなく虚しく響いた。

 

 

「おい、大丈夫か」

 

 

男が去って行った場所を見据える少女に、正体を知っている身としては、無用な心配だと思うがそう尋ねた。そして体に傷らしい傷がない事を確認した士郎は、安堵の息を吐くと、改めて聞く。

 

 

「一体なんなんだよ。この状況は」

 

「見た通りセイバーのサーヴァントです。ですから、私の事はセイバーと」

 

 

士郎の言葉に、恐らくは自分がなんなのかと勘違いしたのか、そう答える少女もといセイバー。最初、セイバーという名に疑問を覚えたが、本当の名を隠すのになにか意味があると思った彼は、問い質す事はせずに、自分も自己紹介した。

 

 

「俺は士郎。衛宮士郎だ」

 

「…………衛宮」

 

 

名前を告げた途端、なにか心覚えがあったのか、顔を向けて呟いた。次いでなにかに気付いたのか、顔を上げる。そして、改めて士郎はセイバーに聞いた。

 

 

「それで一体、なにが起きてるんだよ」

 

「やはり、貴方は正規のマスターではないのですね」

 

 

士郎のその言葉に、セイバーは自身の胸に手を起き言った。彼女の胸中には信じられないという思いが込み上げていた。目の前の少年は正規のマスターではない。だが、魔力のラインが繋がり、彼から供給される魔力のなんと膨大な事か。分かる。恐らく自分は生前と変わらない程の力を持っていると。これ程の魔力の持ち主が正規ではないのが、信じられない思いだ。そして契約したからには、目の前の少年は自分のマスターだ。

 

 

「しかし、それでも貴方は私のマスターです」

 

「それの意味が分からないんだ。なんだよマスターって、普通に士郎で良いよ」

 

「分かりました。それでは、シロウ、と。えぇ、私としてはこの発音の方が好ましい」

 

 

士郎に背を向けて歩き出すセイバー。この場所に新たなサーヴァントが近付いている事に気付いていた。すると、士郎は自分の左手に違和感を覚え、それを見ると赤い文様が手の甲にあった。それを魔眼で解析してから、つい声を漏らす。

 

 

「なんだ、これ?」

 

 

解析結果が、出ているが疑問を口にした。それにセイバーが答える。

 

 

「それは令呪と呼ばれるものです。無闇な使用は避けるように。それと士郎は隠れていて下さい」

 

「…………は? なにを言ってるんだセイバー」

 

「外に敵が二人居ます。ここで、待っていてください」

 

 

士郎に一方的にそう告げると、セイバーは屋根の上に跳躍した。いきなりの事に呆然とした士郎だが、ハッと我に戻る。そして改めて考えた。敵というからには、先程の男と同じ存在の事だろう。という事は英霊だということ。そんな存在とまた戦えば、周りに被害が発生する。別にここが、誰も居ない場所なら良い。しかし、周りには家があるのだ。そこに先程のような戦いが起きれば……………

 

 

「って、それはマズイだろ‼︎」

 

 

考えたくない未来を思い、士郎は慌ててセイバーを追いかけた。屋敷の門から出ると、聞こえるのは金属音だ。それにもう戦闘が始まっていると分かると、全身を魔術で強化させて、目の前で繰り広げられる戦闘に踏み入れた。ドンッ‼︎ と地面を蹴ると発破をかけたような音が鳴り、物凄い速度で士郎は駆け抜ける。

 

 

そして戦っているセイバーと、浅黒い肌の男の間に、割り込むように何時の間にか手にしている陰陽一対の剣を持ち体を滑り込ませた。セイバーの不可視の剣を、夫婦剣の一つ干将(かんしょう)で受け止め、もう片方の莫耶(ばくや)で浅黒い肌の男の剣戟を止めた。その際、セイバーの剣の威力に眉を顰めるが。

 

 

「ーーーーッッッ⁉︎」

 

「なっ⁉︎ シロウ何故、止めるのですか‼︎」

 

 

突然、割って入った士郎に、驚きの表情をみせる二人だ。とはいえ、その驚きは対照的だったが。攻撃を止めた己のマスターに、セイバーは何故と声を上げる。

 

 

「待てセイバー。お前はなにが起きているのか分かってるかもしれないが、俺は全然分からないんだ。マスターだと呼ぶんなら、少しは説明しろ」

 

「敵を目の前にして、なにを」

 

 

言い合う二人の間に、少女の声が聞こえた。

 

 

「ふ〜ん。つまり、そういう訳ね。素人のマスターさん」

 

「ッ⁉︎ お、お前は遠坂」

 

 

声がした方向に視線を向けて、士郎は眼を見開いた。何故ならそこに居たのは、

 

 

「取り敢えず、こんばんは。衛宮君」

 

 

遠坂 凛だった。何故こんな所に、と思ったが分かっている。彼女の隣りに居る英霊を見れば一目瞭然だ。遠坂 凛もこの状況に関与しているのだと。そんな考えている士郎に、彼女は言った。

 

 

「衛宮君。今、なにが起きているのか知りたいんでしょ?」

 

「あ、あぁそうだ」

 

「なら、家の中に案内してくれる?外は寒いから、暖かい所で話しましょ」

 

 

その言葉に士郎は頷いた。なんとか、戦おうとするセイバーを納得させ、遠坂と共に家に入れる。そして自分も入ろうとした時、後ろから声をかけられた。

 

 

「……………おい」

 

「ん? あんたは」

 

 

声をかけた人物は赤い外套を羽織った浅黒い肌の男だ。それに首を傾げる士郎。だが、その男を見ていると、士郎は自分と似ていると感じた。性格がではない、その魂が、存在そのものがである。

 

 

「えっと、なんだ」

 

 

呼ばれたから立ち止まったのに、なにも言わずに無言で鷹のような視線を向ける男に、我慢が出来ずに聞いた。すると、やっと男が口を開いた。

 

 

「貴様は………本当に衛宮士郎か」

 

「………? なに言ってんだ。本当にと言われても、俺は衛宮士郎としか答えられないぞ」

 

「……………そうか」

 

 

意味が分からない男の発言。それに疑問符を浮かべる。衛宮士郎に偽物も本物もあるのだろうか。そう思いながら返すと、一言告げてから、男はもう用がないとばかりに、屋根の上に飛び乗った。その事に大きく首を傾げる士郎だ。そうして、彼は遠坂からこの冬木市で起きている事を聞くのだった。そして時間は戻る。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「まぁ、粗方説明し終えたけど。衛宮君、理解出来た?」

 

「大体は」

 

 

回想を終え、尋ねる遠坂に頷く。

 

 

「そっ、もっと詳しい話を聞きたいのなら、聖杯戦争を監督している奴に聞きなさい。まぁ、最後に私から言える言葉は、貴方はもう戦うしかなくて、サーヴァントは強力な使い魔だからうまく使いなさいってだけよ」

 

「…………はぁ」

 

 

士郎の口からため息が溢れた。知らない内に厄介な事に巻き込まれる事になるとは、思いもしなかった。しかし、好都合だと士郎は思った。十年前の大火災と、聖杯戦争は関連がある。その事に士郎は確信している。もしも、もしもだ。この聖杯戦争が何度も続いていたとしたら? そして十年前に同じ戦争が起こっているとしたら。

 

 

アンリマユによって汚染された聖杯が、願いを歪んだ形に発現したら如何だ。そしたら、辻褄があわないか。士郎は考えを巡らせる。もしそうなら、止めなくてはならない。また、誰かがあの災害にあうのだけは、今度こそ阻止しなけれいけない。と、そこまで考えていると、突然、目の前の遠坂が大声を上げた。

 

 

「あぁもう‼︎ ますます惜しい。私がセイバーのマスターだったら、こんな戦い勝ったも同然だったのにぃ‼︎」

 

「なんだ?」

 

 

突然、叫ぶ遠坂に疑問符が浮かぶ。如何やら自分が、考えていた間にセイバーとなにかあったらしい。うぅ〜うぅ〜と唸り声を上げる遠坂。それに如何、反応すれば良いのか分からずに頬を掻いていると、遠坂は気を取り直したのか立ち上がった。

 

 

「さて、そろそろ行きましょうか」

 

「行くって何処に?」

 

 

出掛ける発言に聞き返す士郎に、遠坂は呆れた風に答えた。

 

 

「だから、聖杯戦争の事を良く知っている奴に会いに行くの」

 

 

そして視線を士郎に向けて、言葉を紡いだ。

 

 

「衛宮君、聖杯戦争の事知りたいんでしょ」

 

 

確かに知りたい。あの大火災を生き残った者として、そして原因を知っている者として知りたい。もう遅い時間ではあるが、遠坂のこの言葉なら、恐らく会う事は出来るのだろう。その事に思い至り、士郎は頷くのだった。

 

 

 

 

砂埃とかで汚くなった制服から着替え、士郎は遠坂の後に続いて新都にある教会に向かっていた。

 

 

教会の前に着いた士郎達は、セイバーが中に入るのに拒否した為、士郎と遠坂のみが入る事になった。遠坂から神父の事を聞きながら、扉の前まで歩いて行き、扉を開けた。開かれた扉を潜り抜けると、教会の奥に一人の男が立っていた。男は背中を向けて、誰かに言うように告げる。

 

 

「再三の呼び出しにも応じぬと思えば、変わった客を連れてきたな。…………彼が七人目という訳かーーー凛」

 

 

体をこちらに向けて言う神父の男。その事に遠坂に一瞥するが、彼女はなにも言わない事が分かると、一歩前に足を出した。

 

 

「私の名前は言峰綺礼(ことみねきれい)。君の名はなんと言うのかな? 七人目のマスター」

 

「…………衛宮士郎」

 

「衛宮? ふ、ふふふ衛宮士郎、君はセイバーのマスターで間違いはないか」

 

 

自分の名前を聞いた後に、薄く笑う言峰綺礼に、眉を寄せる。そしてその質問に彼は、そうだ、と答えた。士郎はこの聖杯戦争に参加する事を決めている。この戦争で被害が出るかも知れない人達を助ける為に。その為に、力を得たのだから。そこから言峰と会話を続けた。言峰と話し合っていると、すると、彼は気になる言葉を告げた。繰り返される、と。その事に眼を開き、言峰に視線を向ける。

 

 

「………何度も聖杯戦争は、行われたのか」

 

 

ゴクリと唾を飲み込み、恐る恐ると士郎は聞いていた。そして言峰は答えた。

 

 

「これで五度目だ前回が十年前であるから、今までで最短のサイクルという事になるが」

 

(…………前回が十年前)

 

 

その答えに士郎は、自分の推測が正しかったのだと確信した。思い出されるのは、周りが赤く、紅く、赫く燃える地獄の光景。自分以外の人が火達磨になる最悪な現実。言峰がなにかを言っているが、今の士郎の耳にはなにも聞こえない。今、士郎の心はここにはない。彼は今でもはっきりと、思い出せる。あの光景を。忘れる事はない。衛宮士郎はあの地獄を生き抜いて、ここに居るのだから。

 

 

言峰との会話を終わらせ、士郎は遠坂と共に教会を出た。すると、背後に居る言峰が士郎に向けて、言う。

 

 

「喜べ少年。君の願いは漸く叶う」

 

 

その言葉に足を止め、顔だけを向ける。

 

 

「分かっていた筈だ。明確な悪が居なければ、君の望みは叶わない。例えそれが、君にとって容認しえないものであろうと、『正義の味方』には、倒すべき悪が必要なのだから」

 

 

言峰の言葉を聞き終えて、士郎は無言で歩いて行った。教会の正門を開けて、足を進めると、待っていたセイバーが声をかける。

 

 

「シロウ。話は終わりましたか?」

 

「………あぁ」

 

「それでは………」

 

「俺はマスターになると決めた。セイバー、付いてきてくれるか」

 

「はい。貴方は初めから私のマスターです。この身は貴方の剣として、何処までも付いて行きましょう」

 

「そうか。なら、これからよろしく頼む」

 

 

右手を差し出す士郎に、セイバーは少し驚いた顔の後に握手をするのだった。

 

 

教会から離れた坂道で、士郎達は帰路に立っていた。すると、前で歩いていた遠坂が立ち止まる。

 

 

「…………遠坂?」

 

「悪いけど、ここからは一人で帰って」

 

「如何いう事だ」

 

 

遠坂の言葉に士郎は首を傾げる。

 

 

「ここまで連れてきたのは、貴方がなにも知らなかったからよ。けど、これで衛宮君もマスターの一人」

 

 

そこまで言われて士郎も、遠坂がなんと言いたいのか理解した。しかし、同級生であり、ここまで良くしてもらった遠坂と戦う気がおきない。確かに人が危ない時や、自分の命の危険な時は戦うが、そこまで力を使いたいとは思わない。力を使わないならば、それで良いのだ。

 

 

「俺は遠坂と戦うつもりはないぞ」

 

 

だからこそ、士郎はそう言った。その事に予想出来ていたのか、彼女は頭に手を置く。

 

 

「やっぱりそう来たか。参ったなぁ、これじゃ連れてきた意味が」

 

 

ため息と共に呟く遠坂に、その横から彼女のサーヴァントであるアーチャーが姿を現した。

 

 

「…………凛」

 

「なに?」

 

「目の前に敵が居るのなら、遠慮無く叩くべきだ」

 

「言われなくても分かってるわよ」

 

「分かっているのなら、行動に移せ。それともなにか、君はその男に情が湧いたのか。ふむ、まさかとは思うが、そう言う事情ではあるまいな」

 

 

アーチャーのその発言に、頬を染めると否定した。

 

 

「んな訳ないでしょ‼︎ …………ただその、こいつには借りがあるじゃない。それを返さない限り気持ち良く戦えないだけよ」

 

「ふん、また難儀な。では、借りとやらを返したのなら呼んでくれ」

 

 

そう言ってアーチャーは消えた。二人の会話を黙って聞いていた士郎は、借りとやらに覚えがなく、遠坂に視線を向ける。

 

 

「なぁ、遠坂。借りってなんだ?」

 

「はぁ、形はどうあれ、衛宮君はセイバーを止めたでしょ。まさか、体を割り込ませるとは思わなかったけどね」

 

 

そこまで言われて、あぁ、と納得する。

 

 

「だから、少しは遠慮しとかないと、バランスが悪いって事」

 

 

士郎はつい笑ってしまう。

 

 

「妙な事にこだわるな。遠坂」

 

「分かってるわよ。けど、しょうがないじゃない。私、借りっ放しって嫌いなんだから」

 

 

ぷいっと顔を逸らした遠坂に、士郎はなんだかんだで、良い奴だなと思った。遠坂とは敵になりたくはないないと士郎は思う。

 

 

「じゃあな遠坂」

 

 

そして士郎は、歩くのを再開させて、遠坂の横を通り過ぎた瞬間。士郎とセイバーは気付いた。バッと後ろを振り向く。

 

 

「ねぇ、お話は終わり?」

 

 

振り向いて士郎は驚愕した。凛と喋る幼い少女。しかし、その隣に異質な存在が立っていた。筋肉隆々の大男。遠坂が震えた唇で「まさか、バーサーカー」と呟いている。バーサーカー。それは英霊のクラスだ。士郎は聖杯戦争での英霊のクラスを思い出していた。そして改めて、少女とバーサーカーに視線を向ける。その時、両眼が雪の妖精を思わせる白髪の少女を見て疼くのを感じた。

 

 

そして次の瞬間。疼きを確かめるように、士郎は自身の魔眼を発動した。次いで少女を解析して、大きく眼を見開く事になる。

 

 

(………なんだと)

 

 

驚愕するしかない。あの少女は、聖杯だ。桜のように聖杯の欠片ではなく、あの子自身が聖杯なのだ。そんな驚く士郎に向けて、少女はクスッと薄く笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、バーサーカーとの戦闘です‼︎ 士郎のバグッぷりが、どんどんと出てくる予定です。

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