セシリア・オルコットは授業中に寝ている一夏を横目で見ながら一夏と戦った放課後の後を思い出していた。
ズタボロに完膚なきまでに圧倒的な強さで叩きのめされた後、体に着いた土と汗を流す為にシャワーを浴びてた。シャワーの蛇口をひねると温かい温水が流れセシリアは頭からそれを浴びる。
「あのお方の眼――」
――まるで獣のような眼。肉食獣や蛇を思わせるような鋭い眼差し。恐れを知らぬと言わんばかりの不屈の眼。
出会ってしまった。運命の人に。
セシリア・オルコットは高校生の年齢にして資産家である。その年不相応な資産には両親の他界が関係してある。
彼女の父親はオルコット家に養子として入り母親と結婚したが、セシリアが生まれた時から養子として入った事に負い目を感じていたのかいつも母親に媚を売る様な顔色を窺うような態度をしていた。そして、それを見て育ったセシリアはそれが嫌だった。ISの登場で女尊男卑の社会に成るのも解る。でも、その父親の態度がたまらなく嫌だった。だから、将来結婚するとしたら父親の様な人とは結婚しないと決めていた。
そんな感情を抱きつつも育っていた時、急な両親の死。
列車の事故だった。何故かその時、両親が一緒に事故を引き起こした列車に乗っていた。
父親か母親、どちらか一人がもしその時列車に乗っていなければセシリアは年不相応の資産を受け継ぐことは無く、IS学園に入る事も無く、残された莫大な資産とオルコット家を狙う者達から逃げる為に猛勉強をする事も無かっただろう。
父親が生き残っていれば、その態度が多少なりとも改善されセシリアの見る眼が変わっていたかも知れない。
だが、両親はもういない。不安を抱きつつもIS適性があり、しかもBT兵器の適性能力が高かった事からセシリアは代表候補生に選ばれ日本に渡った。
イギリスと比べて日本なら少し違う男性に出会えるのではないか。と僅かな希望を込めて日本に来てみれば同じだった。町に出ればパシリ使われる人、たかられる人。どれもイギリスと同じだった。
ならば、母親と同じに成ろうと思っていた矢先に彼が現れた。
そう、織斑一夏が。
初めて会った時に出会った感想がなんて、なんて無礼で生意気な人だと思った。
だが、戦ってみて解った。あの眼は勝利に揺るぎない執着を持っている。
だからこそ、欲しいと思った。父とは違う、あの男性なら。織斑一夏という男性の事を知りたい。この思いがあの人に届かなくてもいい。
だが、あの方のあの鋭い眼差しで一体何を見るのか知りたい。あの目でどんな未来を描くのだろうか?あの人が手に入らないなら、せめてあの人の全てを知りたい。他の誰も知らない、あの人と私だけが知っていることにしたい。
狂っているだろうか?狂っているのだと言うならばそれでも良い。ならば、この身は狂って狂って狂い尽くしてしまおう。愛おしいほど愛している。狂おしいほど愛している。
恋は盲目―――ならば、この身は盲目のまま狂い、身を滅ぼしてしまいたい。
これが理想だというのなら、理想のままで有り続けたい。
そう言えば、あの人は戦闘中に笑っていた。面白そうに、楽しそうに戦っていた。まるで、戦場が自分の生きる場所だと言わんばかりに……
……あの人は戦闘狂なのだろうか?もしそうならば、私が強くなれば私を見てくれるだろうか?私があの人と同じ対等な力を持てば、あの人は―――私だけを見てくれるでしょうか?
もし、そうならば……
「……簡単ですわね」
「ほう!オルコット。この問題が簡単か?」
「え!?」
思考を記憶の海に放り込んでいると千冬の声がセシリアの隣からした。
セシリアは、恐る恐る声の下方向に視線を向けると腕を組みセシリアを見ている千冬の姿がそこにあった。
「教科書も開かずに、この問題がわかると言うのかイギリス代表候補生は」
「えっと、あの、その」
「流石だな。それでは、この黒板に書かれた問題を解いてみろ」
黒板にはISの基本理論を応用した数学の問題が書かれていた。
「えっと、スミマセンが解りません」
知ってた。と言わんばかりにセシリアの返答を待たずに振り上げられる出席簿。そして、放たれる出席簿攻撃.
「授業中に教科書も開かずにいるからだ、馬鹿者めが」
撃沈したセシリアに向かって千冬がそう言うと
キーンコーンカーンコーン
と授業の終わりを知らせるベルが鳴り、千冬はフンと鼻を鳴らす。
「以後気をつけるように。今日の授業はここまで。各自予習復習をしておくように」
千冬はそう言うと教卓に戻り荷物をまとめて教室から出ていった。
「オルコット、大丈夫か?」
千冬の一撃を受けて撃沈しているセシリアに箒が声を掛ける。
「うう、頭が割れるかと思いましたわ」
涙目で頭を押さえるセシリア。未だに頭が痛いのか涙目で頭を両手で押さえた状態で机に突っ伏したまま顔だけを箒に向ける。
丁度そこに一夏が起きたのか通り過ぎようとしたところで、
「貴方の所為ですわ」
「あ?何が!?」
一夏はセシリアに顔を向けると訳解らんと言わんばかりに首を傾げ、「あ!」と思い出したように言う。
「箒、セカンドが来たらおやつを買いに行ったって言っといてくれ。んじゃあな」
そのまま慌ただしそうに走って教室を出て行った。
「どうしたんだ、オルコット」
「別に何でもありませんわ。ただ、少し考え事をしてただけですわ」
「まあ、考え事をするのは構わんけれども織斑先生の授業中に教科書も開かない状態で居るのは、腹を空かせた狼の前に兎がのこのこやってくるようなものだぞ」
「ええ、身を持って嫌と言うほど知りましたので。それと、篠ノ乃さん。ランチはいかがされるのでしょうか?」
「そうだな。一夏に尋ねたいこともあるし、セカンドが尋ねて来るかもしれんし暫く待ってこなかったら一夏を探しに食堂と購買に行ってみようと思う」
「でしたら、私もご一緒させて貰っても構いませんこと?」
「私は別に問題無いぞ」
「それでは、ご一緒させて頂きますわ」
一緒に食事する事が決まった瞬間、「一夏さん、ゆっくりとセカンドさんとの事についてお話聞かせて頂きますわ」と内心セシリアは黒く微笑むのだった。