拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第31話

damage level………D

mind condition……up lifet

certification……clear

 

《valkyrie trace system》……boot

 

「ああああああ!!!」

 

突然地面に降り立ったラウラが身を裂かんばかりの絶叫を発し、同時にシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電流が放電され一夏は回避行動をとる。

 

「あ゛ん?何だぁ?新手の武装か?」

 

 前方のラウラは身に纏う専用機シュヴァルツェア・レーゲンは飴細工を溶かすようにドロリと溶け、ゆっくりととある形に成っていく。

 一夏はVTシステムの存在を知らなかった。

 

「!?」

 

 ただただ、目の前の出来事をその目で見て目を見開いた。

 それは、千冬だった。

 千冬が使っていた刀【雪片】に寸分たがわず良く似た物が握られ、その身にかつて千冬が使っていたISが身に纏われていた。

 

「………キヒッ」

 

 喜びに震える一夏。

 その目の前の相手はオリジナルにそっくりな世界最強を模倣したもの。

 現時点で憧れ、目指し、何時も先を行く世界最強の姿。そして、いつか拳で振り向かせたいと思い焦がれた相手。今現在では届かぬ目標。しかし、目の前の出来事に一夏は胸が高鳴り、鼓動が早くなる。体中の血液が激しい速度で動き、いつも以上に脳内のアドレナリンが過剰分泌される。

 自然と頬が吊り上り、その顔は歓喜と狂気に染まっていく。

 

■■■

 アリーナの様子をモニターで見ていた千冬は焦った。ラウラのISにVTシステムが搭載され、しかもその模倣相手が自分である事実に千冬は焦る。下手をすれば死人が出る。そして、その死人は他でもないラウラである可能性が一番高い事に。一夏の戦闘能力の高さは天井知らずだ。生身でISを身に纏った千冬に互角に戦った事のある一夏がパワードスーツであるISを身に纏い、向かってくる理性を失ったラウラを容赦無く零落白夜を発動した【雪片弐型】で叩きのめす事だってありえる。

 

「マズイ!トーナメントは中止!!全生徒、および来賓は会場から非難させろ!教師部隊を突入させ、織斑の回収及び事態の収拾に当たらせろ!」

 

「は、はい!」

 

 映像にはリアルタイムでアリーナの様子が映し出されており、山田先生は千冬の鬼気迫る顔での指示にただ事では無い事を悟った。

 千冬の表情は無人機襲来の時よりも更に険しく事態の物々しさを語っていた。

 

「予備の訓練機はあるか!?」

 

「一つだけあります!【打鉄】が一機予備としてアリーナの倉庫にあります!」

 

「解った。私が現場でオープンチャンネルで指揮する。山田先生はバックアップを……」

 

 千冬が山田先生に指示している最中にド派手な音と共に目の前のディスプレイの映像が途絶え砂嵐が映し出される。かろうじて音声は拾えるが、アリーナの状況が分からなかった。

 

「クッ!一夏め!やってくれたな!」

 

 アリーナの監視カメラの映像が一夏によって監視カメラを破壊され目の前のディスプレイがアリーナの状況を見れないことがその事実を裏付けていた。

 

「お、織斑先生!これは!?」

 

 目の前のディスプレイが映像を映さなくなったことに驚く山田先生。

 千冬は険しい顔のまま淡々と答える。

 

「一夏が監視カメラを壊したんだろう。山田先生、織斑とデュノアと篠ノ之に繋げれるか?」

 

「はい」

 

 山田先生が千冬にインカムとマイクを渡すと千冬はマイクで一夏とデュノアと箒に告げる。

 

『現時点を持ってアリーナでの戦闘は中止。生徒は直ちにアリーナから非難せよ』

 

 千冬はそう言ってマイクとインカムを山田先生に放り投げるようにして返すと走って部屋から出て行った。

 

○○○

 

「キヒッ!ククククク!!あははははは!まさか、まさかなぁ!ここで、ここで戦えるとはなあ!最高だ!最高だぜ糞餓鬼!ドイツ軍!」

 

 笑い、嗤い、哂い、わらう。狂ったように笑う。

 歓喜と狂気に染まった一夏の顔は、かつて魅せられた相手――その背中を追い、剣をとり、剣を捨て拳を選び、その大きく偉大な背に追いつきたいと願い、振り向かせたいと思った相手――と瓜二つの存在に出会い、戦える事に喜びを感じていた。

 

「だが、先ずは」

 

 そう呟くと一夏は空中から地面に降り立ち、地面に刺さっている【雪片弐型】の所まで歩いていくと、地面に刺さっている【雪片弐型】を引き抜いた。

 

 

 一夏が【雪片弐型】を地面から引き抜くと千冬の姿となり、ラウラだったものは一夏に斬り込みをかける。

 

 ガンキンキンガン

 

 高速で鉄と鉄のぶつかる音がアリーナに鳴り響き、火花が二人の間に舞い散る。

 一歩も動かない一夏と高速で動き攻撃を仕掛ける千冬モドキのラウラ。

 【雪片】と【雪片弐型】がぶつかり合う度に一夏の顔は落胆の色に染まっていく。次第に狂気と歓喜で染まっていた顔は落胆しかなく、その体から落胆の色が現れた。そして、

 

「……こんなものか」

 

 つまらなそうに呟くと一夏は千冬モドキのラウラに鋭い蹴り込みを放つ。千冬モドキのラウラは剣を落とし、蹴り飛ばされてアリーナの壁に激突した。

 

 そして、一夏は【雪片弐型】をアリーナのステージを監視している監視カメラに向かって投げつける。クルクルと円を描きながらアリーナステージの監視カメラを破壊すると一夏はポケットから携帯電話を取り出した。そして、携帯電話とISの回線を繋げる。

 

『ご命令は何でしょう?マイマスター』

 

「扉をこの間と同じように展開。誰もアリーナのステージに入れるな。それと、あれは何だ?」

 

『了解。質問ですが、あれは姿形からしてVTシステム。ヴァルキリートレースシステムと呼ばれるものです。過去のモンドグロッソ優勝者の動きを忠実に再現するシステムと思われます』

 

「そうか。解った。後、あれの開発元は絶対に自身の作品の研究成果を知りたくて見ているはずだ。逆探知しろ。命令は以上だ」

 

『了解しました』

 

 

MAKUBEXはそう言うと回線を切り、電脳世界へと向かい学園のメインサーバーをコントロールして瞬時に一夏のいるアリーナステージから順に扉が下されアリーナステージを隔離した。そして、インターネットを経由して付近のネット及び電波を散策し、アリーナステージから送受信している回線を見つけると逆探知をし始める。

 

「さてと。こっちはこっちで時間つぶしにボコるとするか」

 

 一夏はそう言って拳を握り、構える。

 ゆっくりと立ち上がる千冬モドキ(ラウラ)。

 

「ほらよ。構えろや」

 

 一夏はそう言って構えたまま【雪片】を千冬モドキに目掛けて蹴って渡す。

 

「これ以上俺を失望させてくれんなよ欠陥贋作品(パチモン)

 

 再び構える一夏とそれに対抗して構える千冬モドキ。

 

『織斑聞こえるか?』

 

「!」

 

 最初に動いたのは千冬モドキだった。

 突如オープンチャンネルが開かれ千冬からの連絡に僅かに気を逸らしてしまい、その隙を千冬モドキはついてきた。

 

『はいはい。こちら織斑、今ちーたんと戦っているぜ~。アリーナから出られずに敵さんと戦っておりま~す』

 

 軽口を叩きながら一夏は千冬モドキの攻撃を避け、逸らし、防御する。千冬モドキの剣は確かに正確だ。的確に一夏の急所を狙っている。千冬の動きを忠実に再現しているだろう。だが、しょせんそれだけだ。マニュアル通りで一夏の心を鷲掴みにする様な剣でもなければ応用のきかない動き。まさに組み込まれたプログラム。

 そして何よりも弱いという事が一夏を落胆させ、苛立たせる。

 先ほど蹴り込みをかけたが、千冬モドキは吹き飛ばされた。だが、その時に剣を落とした。仮に本当に千冬本人ならば蹴り込まれ吹き飛ばされても絶対に剣を離さない。わざと蹴り込まれて距離をとるという方法だって使うだろう。

 だが、目の前の千冬モドキは弱いから剣を落とした。千冬では犯さない致命的なミスを犯した。弱い……という事には眼を瞑るとしても剣を握る千冬の投影品が千冬と同じ姿形をしたものが、剣を手放すという愚行は一夏を苛立たせる。

 一夏の憧れであり、いつも一夏の先を行く千冬を振り向かせ拳と剣で全力を尽くして戦ってみたいという目標である千冬を目の前の千冬モドキは穢した。千冬と同じ姿形でありながら一夏に一歩も引かす剣技もなく、一夏に蹴り飛ばされ、挙句の果てに剣を手放すという愚行を犯した。許し難く、度し難かった。その存在全てが一夏の目標である千冬を穢し、汚す。

 

『一夏、ラウラを頼む。助けてやってくれ』

 

 オープンチャンネルから聞こえる千冬の声。初めてかもしれない千冬の頼み。

 

『………了解!』

 

 一夏は聖人君子でもないため他人に辛辣だ。特に赤の他人に尽くす義理はないが、身内には甘い。

 赤の他人が一夏にお願いしても接点が低い相手のお願いなんか聞く気にはなれないが、身内となれば話は別だ。二つ返事で了承する。

 

 その唇の端は嬉しそうに僅かに笑っており、再び拳を構える。

 

「……来い!欠陥贋作品(パチモン)。お前に見せてやる俺の本当の力を!!」

 

「………」

 

 無言で千冬モドキは動いた。

 素早い動きで上段からの降りおろし。

 

「――織斑流拳術 断空手刀斬り」

 

 織斑流拳術――それは一夏が今まで集めた知識や技術を利用し、応用し、研鑽に研鑽を重ねて編み出した拳術。一撃一撃が重いのに効率よく的確にダメージを与えるように工夫された拳術。元となったボクシングやムエタイ 古武術 中国拳法 少林寺拳法 空手 八極拳 柔術 等様々な道場やジムを半分道場破りのような形で教えを乞い、知識や技術を学び独自にアレンジした拳術。MPが100で放てる威力300の魔法をMPを50や10といった燃費に効率の良い様に計算され編み出された拳術であり、千冬とは違う拳に見出した一夏の答え。

 

 千冬モドキが動いた後、一夏が動いたはずなのに先に一夏が千冬モドキの懐に入り、的確に千冬モドキの上段から体を捻じ曲げ威力を集中させた手刀を叩きこむ。

 

 スパーンと手刀が千冬モドキの上段から垂直に振り下ろされ、斬り込みが入ると千冬モドキの腹の中央部にラウラの姿が確認できた。

 

 千冬モドキは後ろに後退しようとするが、そうはさせないと一夏が動く。

 動く一夏に反応して千冬モドキは剣をふるうも一夏に当たらず。

 

「フン!」

 

 横に振り下ろされた【雪片】に裏拳を放つ一夏。

 【雪片】は千冬モドキの手から離れアリーナの壁に突き刺さった。

 

 すぐに千冬モドキの懐に入り

 

「撫子!」

 

 千冬モドキの正中線に撫子を放つ。

 千冬モドキは体が「つ」の字になり、背中からゆっくりとラウラが排出される。

 瞬時加速で移動し、ラウラをキャッチする一夏。

 

 ラウラが排出された千冬モドキは油が切れたブリキ人形のように動きがぎこちなく、腹部には大穴があいていてラウラをキャッチした一夏に向けて手を伸ばし、ラウラを取り返そうと懸命にあがく。

 その姿はまるで大人に大切なおもちゃを取り上げられた子供のようだった。

 エネルギー供給源であるラウラを取り返そうと必死にもがく。だが、その姿が更に一夏を苛立たせる。

 

「お前は!お前はどこまで俺の目標であるあの人を笑い、穢せば気が済むんだ!!」

 

 表情は憤怒の表情となり、一夏はラウラをキャッチしたまま千冬モドキを蹴り飛ばす。千冬モドキはアリーナの壁に激突し、それを見た一夏の目は段々と冷酷な眼になっていく。

 

 そして、監視カメラを破壊した後壁に突き刺さっている大剣型近接格闘武装【雪片弐型】の所まで移動すると壁に突き刺さっている【雪片弐型】を引き抜いた。

 

「零落白夜――発動」

 

 そして、単一使用能力 零落白夜を発動させる。

 対象のエネルギー全てを消滅させる能力を持つそれは、随時自身のエネルギーを消費するというデメリットを持ち合わせているが、たいしてエネルギーを消費していない一夏にとっては問題でもなかった。

 

 対象のエネルギーを消滅させるエネルギーが【雪片弐型】の刃に纏わり付くように展開され、初期の【雪片】の課題であったエネルギーの消費が激しいという欠点を克服するために生み出された工夫であった。初期の【雪片】はエネルギーの刃を一から形成する事であったが、【雪片弐型】は既にある刃に消滅エネルギー刃を纏わらせることでエネルギーの激しい消費を抑えるというものだった。

 

 零落白夜を発動させ、消滅エネルギーを刃に纏った【雪片弐型】を片手で持ち、もう片方の手でラウラを抱えている一夏は未だもがく千冬モドキに冷酷な眼を向け、

 

「まだ俺の目標をわらい、穢し、貶めようするか!その存在、許し難く度し難い!!――逝ね」

 

 零落白夜を発動させた【雪片弐型】を千冬モドキに向かって投げつける。

 零落白夜を発動させた【雪片弐型】は千冬モドキの首を易々と刎ねアリーナの壁に突き刺さり、ようやく千冬モドキは活動を停止させた。

 

 そして、一夏は携帯電話を使い学園のメインサーバーに扉を開ける指示を出すと教師部隊が突入し、事態の事後処理を行い始める。一夏は、教師部隊に入っていた千冬にラウラを預け、アリーナステージから出ていく。

 

「あ、一夏!待ってよ~」

 

 デュノアはアリーナステージから一夏を見ると追いかける。

 一夏がアリーナの格納庫に入り、ISを収納すると格納庫で待っていた人が声をかけた。

 

「久しぶりね。織斑一夏君」

 

 その女性は赤みのかかった金髪の腰まであるロングヘア、胸もデュノアよりは大きく千冬と同じぐらいか少し小さい位で腰はくびれており、ボンキュッボンッという言葉を表現したかのような美人だった。

 その女性は試合が始まる前に一夏に手を振っていた女性で、一夏の知り合いだった。

 

 

 一夏は露骨に嫌な表情をしてチッと舌打ちを思わずしてしまう。

 

「ああ。出来る事なら会いたくなかったぜ、エリス」

 

「あら?つれない事を言うの?」

 

「あ゛!?手前が会う度に今まで俺にしてきた事を思い出してみろ!」

 

「……そうねえ。デートに誘ったりした位かしら?」

 

「ケッ、何がデートだ!会う度に俺を誘ってきやがってよぉ!」

 

「あら。私はあなたの能力が欲しいと思い、あなたの能力をこの国で腐らせたくないからデートのお誘いをしているのよ?」

 

「んで?また、何時ものお誘いか?」

 

「ええ。理解が早くて助かるわ。しかも、今回は居る場所が決まっているんですもの」

 

「チッ!これだからIS学園に来たくなかったんだ!!」

 

 蚊帳の外だったデュノアが一夏をつつき、「この人誰?」と尋ねる。一夏は、「知らねえ糞ババア」と毒を吐くが、糞ババアと言われたエリスは「あらあら。酷い言いぐさね」と苦笑する。

 

「初めまして。私はMITコンピュータ科学・人工知能研究所所長のエリス・アリン」

 

「フランス代表候補生のシャルル・デュノアです。エリスさんは、今日どういったご用事でここに?」

 

「彼、織斑一夏君に会いに来たのよ」

 

「一夏に?」

 

「ええ、そうよ。彼にどうしても来て欲しいのよ」

 

「行かねえって何回も言ってんだろ、糞ババア!何回言わせるんだ!!齢でもう頭がボケたのか!?」

 

「あらあら、そうやってデートを断わっちゃ嫌よ?」

 

「ケッ!兎に角、行かない!」

 

 余りにも一夏が邪険にするのでデュノアがそんなに邪険にしなくてもと一夏をたしなめると、一夏が言った。

 

「本気にすんなよ、デュノア君。この色ボケ糞ババアの言うデートっていうのは俺をMITコンピュータ科学・人工知能研究所にぶち込む事だから」

 

「え!?」と驚くデュノアだが、「あらら。折角のデートのお誘いの内容がばれちゃった」と可愛らしく舌を出すエリス。

 

「彼の持つAI製作の能力は凄いのよ?知らなかったの?」とデュノアに尋ねるエリスに一夏は、「教えてなかったからな」と呟いた。驚いて一夏を見るデュノアに、罰が悪そうな表情をする一夏。

 

「兎に角!俺はデートのお誘いを受ける気なんてない!」

 

「あら?グリーンカードもあげるのに?」

 

「要らん!」

 

「もれなく、私も付いてくるのに?」

 

「要らん!」

 

 「ハア」と溜息を吐き、「今日の所は諦めるわ」と肩を落胆させ、トボトボと格納庫から出ていくエリス。

 エリスは、格納庫から出ていく前に一夏に向かって「絶対に諦めないから」と言って一夏とデュノアの前から姿を消した。

 

 デュノアは一夏に「へー。一夏ってモテるんだ」と白い目を向け、一夏は「好意を向けられているんじゃねえよ。能力だけをあいつは見てんだよ」と言って肩をすくめる。

 

 エリスと話してどっと疲れが出たのか「先に帰るわ」と言って格納庫から一夏は先に出ていくのだった。

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