拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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どこぞの聖帝様風にしてみました。
それでは、どうぞ。


第36話

――()の話をしよう。

 稀代の天才と謳われた()一夏()にとって毒だった。その姿形は勿論の如く、その声、その性格、そして何よりもその笑顔。一夏()の理性が幾ら鋼や鉄であっても()の前では無力。さしずめ、その魅力という名の猛毒は王水が入った巨大な水槽。そんな水槽に幾ら固い鋼鉄の()を入れても溶けるだけ。ゆっくりと確実に溶けるだけ。

 

 一夏()にとって()魅力(猛毒)はまさに蟷螂の斧だった。

 理性を狂わせ、獣としての本能を呼び覚ます猛毒。

 

そんな存在自体が猛毒な彼女が再び彼に出会う。その時、理性と本能がせめぎ合い狂った彼は彼女に何というだろうか――

 

 

 

 

 

 時は臨海学校当日、バスの中で車酔いをした一夏は吐くに吐き、車内でグロッキー状態で眠りにつきそのまま臨海学校へと連れて行かれた。

 

「……気持ち悪い」

 

 吐くに吐いた所為か胃がキリキリとする。酔い止めを買う事に失念していた一夏は折角の臨海学校だというのに開始直前からグロッキーであった。

 

「一夏、もう少しだ。頑張れ。宿に着いたら、お前は薬を飲んで休んでいろ」

 

 普段ならあまり聞かない千冬の心配する言葉に「お姉様は優しいなあ。感謝感激雨あられだぜ」とからかうであろうが、今はそんな余裕など無い。

 

「お言葉に甘えさせて貰うぜ。うっぷ」

 

再び吐き気に襲われ、ビニール袋を片手に吐く準備万端の体制で宿に向かう道を歩く。

 

「しかし、お前いつから車酔いをするようになったのだ?昔はそんな事無かっただろう?」

 

 一夏の背中を擦りながら尋ねると、一夏はビニール袋を抱えたまま答えた。

 

「ああ。多分IS操縦者になった時だと思う。今の所、車酔いはする。でも、電車では酔わない。後、船と飛行機は解んない」

 

 こみ上げてくる吐き気を躊躇う事無くビニール袋にぶちまける。

 

「ISでも戦闘していないとダメ、車酔いはする。船と飛行機は解らない……お前、私が知らない間にポンコツに成ってないか?」

 

「言うな。結構気にしてんだぜ。あ、でも自転車と電車酔いはしないぜ。やったな!」

 

「自慢できる事か馬鹿!だが、まあ少しぐらい?欠点があった方が良いのかもな」

 

 

 体感時間で長い道のりを歩く一夏と千冬。

 宿までの道を本来ならばバスで移動するはずだったのだが、一夏が吐いては寝て、また吐き始めたので急きょ一夏は千冬と共にバスを途中下車して歩いて宿に向かう事と成ったのだ。

 ポケットの中から取り出した携帯には宿までの地図が表示されており、後10分程で宿につきそうな距離に二人は居た。

 

「そう言えば、ISに乗り出してから乗り物酔いをし始めたような気がする。何か因果関係あんのかな?うっぷ」

 

「知らん。だが、今は宿に着くのが先決だ」

 

 一通り吐いた為か吐き気がおさまると再び一夏と千冬は歩き出すのだった。

 

 

 

「それじゃあな。私は、海に行って他の生徒達を見てくる」

 

宿に着いた千冬は一夏に宿から貰った酔い止め薬を渡し、飲ませるように促すとそう言って布団に一夏を寝かせて宿から出ていこうとする。

 

「ああ。ごゆっくり」

 

「教師にゆっくりする時間など無いさ。何処かの誰かさんが酔い止めを持って来なかったばかりに私の少ない自由時間が削られてしまったからな」

 

「……面目ない」

 

「冗談さ。元々お前が酔い止めを忘れていなかったとしても生徒の監視任務をやっていただけだろうよ」

 

「俺の感動を返せ!」

 

 ハッハッハと笑いながら踵を返し部屋から出ていく千冬を一夏は布団の上で横になった状態で見送る。

 

「眠気が……」

 

 酔い止め薬の影響だろうかやけに眠気に襲われると一夏は瞼を閉じて眠りにつくのだった。

 

 

 

 懐かしい頭を誰かに撫でられている感じ。

 思い出せない両親の顔。両親の名前。

 

 物心ついた時から一夏は千冬と二人で生活していた。

 

 年が離れていたことが功をなしてか、千冬が働きに出て一夏は生活に困った事が無かった。

 

 そういえばと思う。思い出す

 

――白騎士事件の後、知識を貪る様に知識を収集し、力を付けた。だが、その前から千冬に苦労を掛けたくはないと気が付けば千冬の背を追いつけ追い越せと追い求めていた。そのキッカケや時期が思い起こせない。

 今となっては今更両親が現れようともどうでも良い。一夏の家族は今の所、千冬と束と娘だけ。父親や母親が今更現れようとも感動の再開…等という場面には成らないだろう。長すぎた。あまりにも長すぎた空白の期間。それ故に感動等する筈が無いだろうと思っている。時というのは残酷だ。忘れたくない人との思い出を忘れさせるが故に。

 

 家庭に憧れる一夏。父親と母親が不在故に父親と母親のようには成らないと誓い、反面教師にしてきた。一夏が憧れる家庭は夢は、今現在では不可能だ。時代が、世界が一夏の憧れを夢を否定する。

 だからこそ一夏は藍越学園に入学し、その特性を利用して世界の――日本政府の重鎮に成って――内側から変えようと思い束や娘と別れた。

 なのに、世界は一夏の憧れをささやかな夢を否定した。世界の内側から変えようという行いを否定した。

 

――ならば、いっそ壊れて、壊してしまえ。破壊して破壊して全部破壊して一から作り直してしまおうか。

 

『大丈夫。私の思いは変わらない。焦る必要なんてない。私はあなたを愛しているのだから』

 

聞いたことのある声。

――忘れない。忘れる筈が無い!この声を、あの人を、あの笑顔を!

 

意識は鮮明になり、目が覚めていくのを感じた。

 

 

 

「やあやあ、いっくん。おはよう」

 

「……束」

 

 横向きに寝ていたらしく一夏は目を覚ますと布団に潜り込んでいる束の顔を見た。

 腕枕をしてくれていたらしく、一夏の頭には丁度束の腕があり、一夏はそれを枕にして寝ていたようだ。

 

 目を覚まし頭が回転を始めてようやく今の状況が頭の中に入ってくる。

 

 腕枕をされて、寝ている間に頭を撫でられ続けた様だ。

 何故、寝ている間に撫でられ続けていたかと思うのは、今現在進行形で束に頭を撫でられているからである。

 

「……!!」

 

 布団から飛び起き、束から距離をとる。

 これ以上束と同じ布団の中にいては、まずいと思って緊急回避をとったのだ。

 

――危なかった。これ以上束と同じ布団にいたら束を襲っちまう所だった――

 

 一夏にとって束は存在そのものが麻薬である。

 依存性が高い麻薬やタバコと同じで、普段から一緒に生活していれば問題は無いが空白の期間を開けると禁断症状の様な、束を求める依存性が高くなる。

 空白の期間が長ければ長いほど束と再開した時の理性と本能のせめぎ合いが激しい。それ故に一夏は束や娘との家族デートを3か月に一回のペースで設けたのだ。

 

「……何でここに?」

 

「箒ちゃんの専用機を渡しに、ね。それと、いっくんとのデートを楽しもうと思って」

 

 それ以上聴いてはいけないと理性が告げる。警告する。

――その声もまた束を求める麻薬と同じ依存性を引き起こすから。

 

「……少し、歩かないか?」

 

 だが、本能が告げる。

――それで良いと。本能の赴くまま行動せよ。と

 

「うん♪」

 

 嬉しそうに一夏が差しのべた手を握る束。

 理性が本能に負けそうに成っていくのを一夏はしっかりと感じていた。

 

 誰も居ない浜辺を一夏は束と手を恋人繋ぎで握りながら歩いていく。

 ザアザアと波が砂浜にうちあげられるのを二人は見ながら歩く。

 

 久しぶりの逢瀬。

 隣を歩く束から束の匂いが一夏の鼻孔を刺激し脳をとろけさせる感覚に陥る。

 

「クーは、あの子は元気か?」

 

「うん♪クーちゃんは元気だよ」

 

「クーがいればちゃんと食べてるな」

 

「そうだよ」

 

「しっかし、クーが最初に来た時は酷かったもんな。ゲル状のものや炭状の物しか作れなかったんだから」

 

「そうだったね~。でも、あの子にいっくんが家事や料理を徹底的に教えたから今ではおいしい料理を毎日食べてるよ」

 

 思い出話に花を咲かせ二人は誰も居ない海岸を歩く。

 一夏は千冬がドイツに行っている間に束と同棲していた。ドイツから日本に帰った後はすぐにIS学園の教師と成った為千冬は一夏が束と同棲していた事を知らない。

 そんな同棲していた時に束が1,2週間程海外に出かけて帰って来た時に連れて来たのがクー、クロエ・クロニクルと束が名づけた少女なのだ。

 言語は不自由でまるで生まれたばかりの赤ん坊の様なクーに一夏は勉強は勿論、家事や料理スキルまで徹底的に教え込んだ。スポンジが水を吸うようにクーが物事を覚える速度は速く、一夏は教える事が楽しくなってしまって護身術程度に自身が覚えた武術を一部教えてしまった程の記憶と理解力を持った少女。それが一夏と束の娘 クーだ。

 

「今のあいつの、クーの料理の腕はどうだ?俺よりも美味いか?」

 

 やがて鼻孔は束の匂いに成れ、酒を飲んだ時のほろ酔い状態に近い形に成るのを感じながらも一夏は理性がこれ以上束が隣にいるのはマズイと警告を促すも本能に逆らえない状態でいた。

 

「う~ん。まだまだいっくんに軍配が上がるかな?」

 

「そうか。だが、まあ、全てが終わったらまた一緒に暮らそう」

 

「うん♪」

 

 一夏と束は繋がっている。

 相手が望む事を何となくだが感覚で理解でき、感じるのだ。

 

 時に相手が望む形で答え、時に相手が望まない形で答える。

――歪んだ愛と言えるだろう。

 

 一夏は束を愛し、束と別れ、束の居場所を作る事を目標にし、束は一夏と一緒に居たいと思いながらも別れた。両者が互いを思いあってそれぞれの望む形を叶えようと動いた結果、束と一夏は現在別居のような形で半年前から過ごしている。

 

「「全ては、あなた(君)とクーの為に!!」」

 

 束と一夏は額と額をくっ付け合い、お互いの気持ちを口にし合う。

 嘘偽りのない本心。

 一夏は束とクロエの為に動き、束はクロエと一夏の為に動く。それが例え相手が望む形であろうと無かろうと。

 

「それじゃあ、また後でね。箒ちゃんを見つけないと」

 

「ああ。また後でな」

 

 一夏の前から走って消える束の姿を本能が名残惜しく感じながらも、助かったと思う理性との二つの感情がせめぎ合い何とも言えない複雑な表情で束を見送るのだった。

 

「……皆の所に行くか」

 

 寝てから2時間程たったのを確認すると一夏はプレゼントされた水着に着替える為、一度宿に戻るのだった。

 

 

 

「フハハハハ!ビバ、俺、復活ううう!now!」

 

 手には銛、顔にはシュノーケリング用のマスク一式。股間はプレゼントされた海パン姿と言う海男?の格好でグリコのポージングをとる一夏。

 

「い、一夏!?」

 

「一夏さん!?」

 

「い、い、一夏!?」

 

「い、一夏!あんた……」

 

 デュノア、セシリア、箒、セカンドから「「「「何(ですの)その恰好!?」」」」と総ツッコミをあいさつ代わりに食らう。

 

「ん?シュノーケリングスタイルだが何か?」

 

 不思議そうに4人に返事を返すが、デュノアは目を逸らし、セシリアは顔を赤くして目をを回し、箒は呆れたように頭を押さえており、セカンドはブフーと吹いていた。

 

「この馬鹿!何だその姿は!?」

 

 海辺を巡回中の千冬に見つかって拳骨を振るわれるが「フハハハハ!海の男にそのような陸の攻撃など当たらんわ!」と馬鹿丸出しでバクテンをして華麗に躱す。

 

「フ、解らんかちーたん?今の俺は、さしずめ自由気ままに泳ぐ人魚よ!フハハハハ、人魚は人魚でも人魚姫の王だがな!」

 

 つい2時間前のグロッキーな面影など無くテンションMAXで高笑いする一夏。その表情は子供のように活き活きとしていた。

 

「違う!私やこいつ等が訊いているのはそんな事ではない!何で海パンがフンドシに成っているんだ⁉ちゃんとお前のにだけ海パンと臨海学校のしおりに書いてあっただろう!わざわざ私が直してやったのに!」

 

「海パンを買いに行くとな、店の人に捕まってな。そして、何故か水泳促進協会の人が来て俺に水着をプレゼントしてくれるというではないか!まあ、代わりに俺の水着姿を幾つか撮らせてくれと頼まれたから撮らせてやったがな!オーダーメイドで作ってくれたからありがたく頂戴したわけだ。因みにテーマは和だそうだ。まさに和!まさにザ・日本!中々に素晴らしいデザインではないか⁉」

 

 フンドシには股間に日の丸が描かれており、お尻には富士山が描かれていた。

 一般からしてみればそのデザインはどうよ?と思うようなデザインだが、自分自身に少し――と言うか、かなり――感性がずれていた一夏は気に入り意気揚々とフンドシを履いていた。

 

「ええい!兎に角、そのフンドシを脱げ!」と言って一夏にフンドシを着替えさせようとする千冬に「フ、ちーたん。こんな公然の面前で脱げとは大胆な」と馬鹿丸出しで煽る一夏。

 

「……」

 

 無言で千冬の前に布仏本音がビーチバレーボールを差し出し、千冬は無言でそれを一夏に向かって投げる。綺麗なフォームで投げられたビーチバレーボールはかなりの速い速度で一夏に向かう。

 

「甘いわ!」

 

銛を担いだ状態で一夏は投げられたビーチバレーボールを高笑いと共に蹴り返す。

 

「フハハハハ、海人に陸の攻撃など無意味!無駄!無力なのだ!!今の俺は海人だ~~!!!」

 

「さっき人魚だとか人魚の王とか言ってなかったか?」

と呆れたようにツッコム千冬に「知らんなあ!俺は過去には振り向かん主義なのだ!!」と馬鹿丸出しで返答する一夏。

 

 その後、何故かビーチバレーで勝負する事に成り、千冬が勝てば一夏がフンドシを着替え海パン姿となり、一夏が勝てば千冬が何故か水着姿に成るという約束となり勝負?の火蓋が切って落とされた。

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