拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第37話

「フ、5対1か……我ながら人望が無いな」

 

 どこ吹く風の様に一夏は千冬チームを眺める。

 千冬チームには千冬を筆頭にセシリア、デュノア、セカンド、箒の四人が待ち構えている。

 

「……あいつ等を呼ぶ訳にもいかないし……そうだ!あいつを呼ぶか」

 

 あいつ等と言うのは今度一夏がやる千冬ファンを対象にしたオークションのプレミアム会員だ。オークションの出品物は千冬に無許可で撮ったIS学園の監視カメラからの写真。プレミアム会員番号1番のラウラを思い出し、ピーと口笛を吹くとドドドドと砂煙をあげながら爆走してくるラウラが現れた。

 

「何でしょうか!」

 

 ビシッと敬礼を一夏にするラウラに千冬は眼を丸くするが一夏はそんな事をお構いなしに口を開く。

 

「今からビーチバレーをするぞ。勝てばちーた……織斑先生の水着姿が拝めるぞ!!」

 

「教官の水着姿⁉教官のみずぎ……教官のミズ…ギ……教官のMIZU……GI…MI…ZU…GI…………MIZUGI」

 

 壊れたカセットテープの様に何度もMIZUGIと詠唱し、やがて体中からどす黒い欲望が視認出来るほどに成っていく。

 

「一夏、お前ラウラに何をした!」

 

 怒鳴る様に尋ねる千冬だが一夏は下卑た笑みを浮かべる。

 

「何も。ただ欲望を解放しただけよ。こいつの欲望はどうやらかなりの物だったらしく視認できるほどのどす黒い欲望を心に秘めていたらしい。人は仮面を付けている。俺はただこいつのその仮面を引っぺがし内に秘めて欲望を解放してやっただけよ」

 

「MIZUGI……MIZU……MIZU……MIZUGIIIIIII!」

 

「やばいぞ!更にどす黒い何かがボーデヴィッヒの体から溢れ出ているぞ!」

 

 焦る箒に一夏は更に高笑いをする。

 

「俺はやる気十分!ボーデヴィッヒもヤル気十分!数では劣るがそんな物何のその!こちらが勝つビジョンしか思い描けんな!フハハハハ!!!」

 

「ク!あの笑いが腹立たしい事この上ないが、お前達勝つぞ!」

 

「「「「おお―!」」」」

 

千冬を筆頭に一致団結する千冬ペア。

 

「フハハハ、負けフラグ立った?的な」千冬チームに向かってフハハハハと高笑いしてご機嫌な一夏の横でラウラは更にどす黒い欲望を解放していく。

 

 

 ピーとホイッスルが鳴らされ、試合の幕が切って落とされた。

 先行は千冬チーム。

 サーブは千冬。

 

「フン!」

 

ドゴンと凄い音がボールからし、ボールはものすごい速度で一夏チームのコートに向かって放たれる。

 

「フハハハ。やれ、ラウラ。お前が大好きな織斑先生のボール()に答えてやれ!」

 

「きょうか……教官!!!」

 

 もの凄い速さでコートの隅に向かうボールをラウラは俊敏な速度でトスへと繋げる。

 上空に向かうボール。やがてボールは一夏の真上へと弧を描くように向かう。

 

「流石だ!NO.1よくぞ繋げた。この試合が勝ったら褒美をやろう!フハハハハハ」

 

 因みに一夏が褒美と言ったものはゴールドクラスの千冬の写真である。

 

「それ、織斑流拳術断空手刀斬り(ビーチバレーver)!」

 

あろう事か織斑流拳術をビーチバレーボールにジャンプアタックで叩き込む。

 ビーチバレーボールはドスンという鈍い音と共に千冬が放ったサーブよりも速い速度で千冬側のコートに放たれる。

 

「レシーブ!きゃあ!!」

 

レシーブをするセシリアだが一夏が放ったビーチバレーボールの速度に力負けしてレシーブを失敗。ボールはあらぬ方向へと飛んでいく。

 

「任せなさい!」

 

 見せ場とばかりにセカンドがうりゃりゃりゃ!と走るもボールばかりに眼をとられ、目の前のポールに気付かずポールに激突。「うきゅう」と言わんばかりに目をまわした。

 

「……鈴」と悲哀の眼でセカンドを見る箒だが、そんな箒の横をデュノアが爆走する。

 

「まだボールは生きている!織斑先生、頼みます!」

 

ボールが地面に着きそうなところをスライディングしながらトスをして千冬に渡す。

 

「お前達……解かった。ならば、私も少々本気を出そう!」

 

トスされたボールは弧を描き、千冬の上空に。

 

「織斑流剣術無影斬」

 

 千冬の十八番である独自の剣術、織斑流剣術を一夏と同様にジャンプアタックでビーチバレーボールに叩き込む。

 ビーチバレーボールは一夏に放たれた時よりも加速し、一夏チームのコートに―――

 

―――入る途中でパーンと甲高い音を発しながら割れた。

 

 

「「「へ?」」」

 

 千冬、セシリア、デュノア、箒の間の抜けた声が千冬チームから発せられ訳が分からないと言わんばかりの表情を千冬チームは勿論、周囲にいた外野もしていた。

 そんな中、一夏の高笑いがその場を支配する。

 

「フハハハハ!勝負は既に決した!やはり海人に陸の攻撃など通用せず!ちーたん、貴様の敗因はボールの耐久性を考えずに織斑流剣術を使った事にある!最初に俺が織斑流拳術を使った瞬間から勝敗は決していた。何故ならばビーチバレーボールが我が拳術によって衝撃の耐久性がもう尽きていたのだからな!後、1,2回触れられれば壊れる程度に成っていたのだからな!そんなボールに無手とはいえちーたんの剣術を叩き込めば壊れるのは歴然!」

 

 クッと呻きながら片膝をつく千冬。

 そんな千冬に一夏は高笑いしながら言う。

 

「さあ、約束の時だ!新しい水着を皆に見せるのだ!」

 

「クッ!残念だが、水着は宿の荷物の中に……」

 

「取って来ましょうか?」と一夏に尋ねるラウラだが、以外にも「まあ、待て」と制す。

そして、

 

「フム、それでは新しい水着のお披露目は残念だな」

 

内心ホッとする千冬だが、表情にその様子は出さない。

 

「だから、この旧型スクール水着を着てもらう!」

 

「!!!そ、それは……」

 

 一夏が岩場から取り出した旧型スクール水着。それは胸に「ちふゆ」と書かれた高校時代のスクール水着。

 

「「「おお!」」」と周囲がどよめき拍手喝采。

旧型スクール水着を片手に一夏は意気揚々と千冬に尋ねる。

 

「さて、ちーたん。どっちが良い?新しく新調した水着か、それともこの旧型スクール水着か……さあ、審判の時だ!」

 

顔を赤らめて苦虫を噛んだ表情となりながら小さく「新しい水着の方で」と答える。

 

「んん?何か言ったか、ちーたん?」ワザとらしく問う一夏に千冬は顔を真っ赤にした状態で「新しい水着だ!新しい水着を持ってこい!」と涙交じりに言う。

 

「ハッハッハ!ちーたん」

 

「何だ!」

 

「可愛いぞ!」グッと親指を立てる一夏だが、千冬に「う、五月蠅い!」と砂をかけられてしまう。

 

「さて、ラウラよ。我が姉が新しい水着をご所望だ。新しい新着した水着を宿から持って参れ!」

 

「ハ!」

 

 再び砂煙をあげながら爆走し、宿へと向かうラウラ。

「グスン」と羞恥で顔を真っ赤にし涙目で恨めしそうに一夏を見る千冬。

 勝利の宣言と言わんばかりにグリコのポーズをする一夏。

 

「フハハハハ!所詮海の男である海人に陸の攻撃など通用せぬ事がまたしても証明されてしまったわ」

 

とご機嫌な様子でラウラの帰りをグリコのポーズをしながら終始待つのだった。

 

■■■

 

「これで良いんだろう!これで!」

 

 千冬は水着を履き、周囲は「おおー!」と驚きと歓喜の声に包まれた。五体投地をする人、「ま、眩しすぎて見えないわ!」と目を合わせない人。「きょ、教官!」と鼻血をドバドバ出しながら 鼻血が出た時の対処法として鼻をつまむラウラ。

 

「あの胸何よ!あんな胸卑怯じゃない」と放心状態になるセカンド。

 

「綺麗な肌だな」と惚ける箒。

 

「一夏って、織斑先生が好みなのかな?」と悩むデュノア。

 

「うう。勝てませんわ」と地面にうずくまるセシリア。

 

そんな中、一夏はジーと千冬の肌を見ると口を開いた。

 

「なあ、ちーたん。日焼け止めオイルを塗ったか?」

 

 

「塗っている訳無いだろう馬鹿!」

 

「なんと⁉馬鹿は貴様だ、ちーたん!ラウラ!!」

 

「はい!」と鼻血を押さえていたラウラが鼻血を出しながら立ち上がり、すぐさま一夏のもとへと駆けつける。

 

「お前、ちーた……織斑先生の体に日焼け止めオイルを塗って差し上げろ!大至急だ!!」

そう言って手を握り締め、握りしめた手を開くと日焼け止めオイルが出現した。

 

 ブハーと更に鼻血の出血が酷くなるもラウラは「解りました」と一夏の手から日焼け止めオイルをひったくる様に奪い、千冬に伸し掛かるようにダイブする。

 

「お、おい、ラウラ⁉おい、一夏!これはどういう事か説明しろ!」

 

「フ、愚問だなちーたん。日焼け止めオイルを塗らずに海の砂浜に女性が出るなぞ愚の骨頂!さあ、ラウラよ!お前の大切な織斑先生の肌にシミが付いてはいかん。お前が今まで培った技術と知識を結集させて日焼け止めオイルを満遍なくヌリヌリして、紫外線から織斑先生の肌を守り抜くのだ!これは勅命である!さあ、連れて行け!!」

 

「Yes sir!!」

 

ズルズルと血走った眼をしたラウラに引きずられていく千冬は一夏に向かって怨嗟の声を上げる。

 

「おのれ、一夏!おのれええええええ!!!」

 

「フハハハハ、織斑千冬破れたり!的な?フハハハハ!」と馬鹿笑いをする一夏。

 

 色々な人物にダメージを与えたビーチバレーはこうして一つの幕を閉じた。

 因みに「何をしているんでしょうか?織斑先生」と山田先生が千冬の詮索に来ていて、ばっちりと千冬の水着姿を遠目から視認したのは言うまでもない。

 

「GJです。織斑君!」

 

 遠巻きに一夏に感謝する山田先生であった。

 

 そんな一夏(馬鹿)のいる海岸から更に東に数百キロ離れた海上にアメリカ軍の秘密軍艦が停泊していた。この軍艦は世間一般に公表できない秘密任務に着く特殊部隊の為の軍艦である。そして、今回この軍艦は秘密任務を受けていた。アメリカとイスラエルが共同開発した軍用IS銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の試運転である。本来ならば軍用に使われる事は国際条約によって禁じられているが、抜け穴などいくらでもあるし、無ければ作ればいいだけの事である。

 試運転を軍用IS 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は行っていた。

 

 高速移動、急旋回、搭載した射撃武装データ採取等あらゆるデータをとっていた際に謎のハッキングによって軍司令部との通信が途絶え、銀の福音(シルバリア・ゴスペル)は情報認識を書き換えられ、操縦者を守るために暴走を始めた。

 

 軍司令部は直ちに銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)のハッキングを命じるが、銀の福音(シルバリア・ゴスペル)のデータは電脳世界で見つける事は困難を極めた。それは、さしずめ砂漠に一粒の砂金を落とし、広大な砂漠で何処に落としたか見当も予測もつかない砂金を探すのと同じほどの困難を極めた。

 ハッキングによる銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の奪還が駄目ならばと思い、軍のIS部隊を出動させるもその行いは愚行にきわまった。

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)は操縦者を守るために更に暴走し、軍用ISを作った事で皮肉にもIS部隊を赤子の手を捻るが如く、全て撃ち落としてアメリカ空域を離脱した。

 

○○○

 

「さあ、始めよう!織斑一夏、篠ノ之束、織斑千冬!白騎士事件の再来を思い出させてあげるよ!!」

 

 白騎士事件を起こした犯人は笑う嗤う哂う。

 

 その手に握られたパソコンには暴走した銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の姿がアメリカ軍の衛星カメラで映し出されて表示されていた。

 この人物こそ白騎士事件を起こした張本人。

 晒す気の無かった不完全なISを無理やり出させ、今の社会を作った張本人。一夏が長年探し求めていた白騎士事件の張本人。

 

 その者はパソコンで銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)をハッキングし、周囲の全てを敵だと誤認識させて操縦者を守るためにむりやり暴走させた。

 

「はやく見せておくれ。新たなISを。美しきこの大空を羽ばたく翼を」

 

 その者の向ける視線の先は青い雲一つ無い大空が広がっていた。

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