「ああ、篠ノ之。お前ちょっとこっちに来い」
「え、あ、はい」
この臨海学校の最大の目的である各種装備試験運用とそのデータ取りをする為に生徒は全員IS試験用ビーチに来ていた。中でもこのビーチに搬入されたISと新型装備のテストが合宿の最大の目的である。その合宿の背景にはIS学園にIS装備を作っている各社との
さて、資材を運んでいた箒に千冬から声がかかった。それに箒は返事をするもその内容は予測できた。
「お前は今日から「ちーちゃーん。箒ちゃーん」…」
千冬と箒は二人揃って黙り込み呆れたようにその声の現況に視線を向ける。
二人は揃ってハアと溜息を吐く。何故なら、この臨海学校に使われる場所一帯がIS学園の私有地であり関係者以外立ち入り禁止の場所なのだ。故に各装備も企業が無人船で砂浜へと運ぶ事に成っている。
一夏はその人物の姿を視認すると表情には出さないが内心再会の喜びを覚える。
「とう★」
砂煙をあげて爆走していた人影はジャンプして千冬のもとへ
落下と共に千冬との距離が迫り、千冬はそれに向けて手をかざした。落下と共に飛んでくる人影の頭をアイアンクローで締め付ける。
「……束」
「ぐぬぬぬ………容赦のないアイアンクローだね」
「やあやあ、箒ちゃん。大きくなったね。5年ぶりぐらいかな?」
「ね、姉さん」
グルグルと箒の周りを歩く束を箒は唇の端がヒクツキながら答える。
箒は束とあまり仲が良くない。というよりも、箒がISの出現によって家族と離ればなれになり、住む所を政府によって転々と移動させられたため一方的に嫌悪しているだけなのだが。
「束、自己紹介ぐらいしろ」
ガシッと束の頭を掴む千冬の横で「いや、織斑先生この合宿は関係者以外立ち入り禁止なんですけど」と山田先生がツッコミを入れる。
「OK.ちーちゃん。そんじゃあ、自己紹介するね。私がISのコアの生みの親の篠ノ之束だよ~。世間じゃ天才とか言われてるけど私はそう思った事は無いよ~。天才と言う言葉で終わってしまえばそこからの進歩は無くなる。現状維持が関の山。後は、退化しかないからね~。そんで、そこにいる
「え?」と一夏を見る山田先生。
「「「………」」」
口を開けた状態で無言で一夏を見る生徒達。そこには原作ヒロインズであるデュノア、セシリア、セカンド、箒が含まれている。
そして、何よりも重傷なのが千冬が一夏を見た状態で固まっているという事だ。
「ね?いっくん」
視線が一夏に集中し全員が一夏を見ている中で一夏は口を開き―――
「ああ。ってか、それ今言っちゃう⁉」
――肯定した。
「どういう事だ、一夏⁉」
「せ、説明を求めますわ!」
「酷いよ一夏!裏切りだよ!!」
「一夏、どういう事か説明しなさいよ!!」
原作ヒロインズが一夏の周りに集まり一夏の胸倉を掴んだり袖を掴んだりと取り敢えず一夏の服を掴んで揺らす、揺らす、揺らしまくる。
山田先生は「そんな、織斑君!!……近頃の男子学生は進んでいるんですね。もう結婚の約束をしているなんて」と狙っていた一夏に婚約者がいた事と世代差のダブルパンチでショックで地面にへたりこみ、その他の学生は「そんな⁉」「神は死んだ!今死んだ!」
「フフフフフ」と若干壊れたものもいるようだ。
だが、一番のダメージを受けているのは千冬だ。
「フフ、ハハ。山田先生、聞いてくれ。一夏が一夏が婚約者がいるんだと。フフ。ハハ。面白いジョークだ。そう思わんかね?山田君。あの、あの一夏に婚約者だと……フフ、ハハ。面白いなぁ」
馬鹿な子は可愛いとは良く言ったもので何処か虚ろな瞳で虚空を眺めて呟く。光が無い瞳で虚空を眺める世界最強の姿はシュールであると共にこの世で最も怖いものであった。
そんな千冬に束は声をかける。
「でも、
眼から星が出そうなウィンクを一夏に向けてする束に「まあ、そうだな」とあきれた表情をする一夏。
一夏には束が言った真意が解っていた。
『
と、指図めこのような事をあのセリフに込めたのだろう。流石天才。伊達に天才と呼ばれてはいない。
「そこまで悪意にまみれた事を言ってないよ!」
まあ、天才兎が何をほざいているか解らないが、だがこのセリフに闘志を燃やした者がいた。
「フフフ、流石です篠ノ之束博士。あのセリフでその様なお考えがあるなんて脱帽いたしますわ」
生粋の英国貴族セシリア・オルコット嬢である。
やられたままでは終わらない。ただで転んで終わらない不屈の闘志を持った原作ヒロインの一人である彼女の眼に闘志が燃えた。
「一夏さんが私の婚約者である事を知って諦める人ならばその程度の愛であると。欲しければ奪ってしまいなさい。と」
「あ、あれ?私そこまでの真意を込めたわけじゃあ無いんだけど……」
「流石です。流石ですわ篠ノ之束博士。ならば、その言葉を決闘と解釈させて頂きまして、このセシリア・オルコットが受けましょう。一夏さんの心を射抜き、見事私に惚れさせて魅せますわ。ほかの軟弱な人たちと違って」
セシリアのその言葉に他のヒロイン達の失いかけた闘志に火が付いた。
「ちょっと、待ってよセシリア。何も僕は諦めるなんて一言も発してないよ」
セシリアのセリフに待ったをかけたのが他でもないデュノアだ。
ファースト幼馴染の箒とセカンド幼馴染の鈴を差し押さえて待ったをかけた。
「確かに僕はセシリアや皆と違ってここにいる誰よりも一夏と触れ合った時間は少ないと思うよ。でも、その少ない時間を充実に中身の濃いものに変えてきたつもりだよ?何しろ、僕の裸を見せたわけだしね。他の幼馴染(笑)と触れ合う時間は少なくても僕は他の誰よりも一夏と充実した時間を過ごしたと自負してるよ」
立ち上がり意見を述べるデュノアに立ち上がったのは幼馴染の二人だ。
「ちょっと待ってもらおうか」
「そうよ!」
「私は無駄に一夏と時間を過ごしてきたみたいに言われているが心外だ!私は一夏の小さい頃から全てを知っている。一夏が剣道を始めたのは小学校1年の頃からで最初は道場の練習についていけず途中でばてたり気を失ったりした時期もあった。そこから段々上手くなって行き千冬さんがいなくなったで道場で一番強くなった事を知っている」
「箒は剣道の事を話しているみたいだけれども私は一夏の拳の道を知っているわ。一夏が
堂々と言う鈴の発言に当の一夏は「死ぬほど恥ずかしいんですけど」と言って束に抱き着いて束に頭を撫でて貰っているほど一夏のMPに深刻なダメージを与えていた。
だが、彼女等の発言でフッフッフと地獄の底から這いずり上がるような声を出す者がいた。
「甘いな。甘いぞ小娘ども」
千冬だ。
一夏は「一番面倒なのが絡みやがった!」と頭を抱えた。
「篠ノ之箒、一夏とたかが5年程度過ごしただけで全てを悟った気になるなど……勘違いも甚だしい!」
千冬の一括に箒はビクッとビクつく。
そして、千冬は次に鈴に視線を向ける。
「凰。お前は確かに私の知らない一夏の一面を知っているようだが、逆に言おう。だから、どうした⁉――と」
千冬の一括に真理を得ているような感覚に陥り鈴は泣き崩れた。
「そしてオルコットにデュノアよ。お前らに問う。お前らは一夏の私生活の全てを知っているのか?と。知っていてそれで全てを受け入れる覚悟があっての発言か⁉と」
デュノアとセシリアはその言葉に意気消沈をし、立ち直れずにいた。
「よって、一夏の嫁は私が成るに相応しいだろう。何せ私は一夏の小さい頃から同じ時を出来るだけ共有し、一緒にお風呂に入ったり一緒に同じ布団で寝たりしたのだから」
普段の一夏であれば「黙れ馬鹿姉!!」と全力でドロップキックを千冬にぶつけるであろうが今の一夏はMP(メンタルポイント)がゼロである。そんな余裕などありはしない。
「束ぇ」ともはや原形を止めないほどに弱っていた。
よしよしと子供をあやすように一夏の頭を撫でる束の光景は、原作ではまずありえないだろう。
「よって、一夏のヒロインの座は私にこそ相応しい!」
堂々と言ってのけるのは、千冬が重度のブラコンで一夏に婚約者が出来ていたことに対するショックの反動だろうか。それとも、今まで積もり積もった一夏への愛情が一気に爆発したことが原因か解りはしないが、一夏はもう考える事をやめた。
もう倫理観とか俺の気持ちはどうなるんだとか色々言いたい事はあったが考える事を放棄して、「だって、束」とあははと虚ろな表情で虚空を見る
「あの、織斑先生?何やら学園上層部から緊急連絡が入っているようなんですが……」
と申し訳なさそうに言う山田先生に千冬が「今、この瞬間以上に大事なものがあると思うなら言え」と言って一蹴り。「……はい。そうですね」と渋々引き下がってしまう有り様。
一夏はもう少し頑張ってよ山田先生と叫べない為テレパシーを信じて訴える。
それに気付いたのか山田先生は一夏の方を見ると申し訳なさそうに頭を下げ、その場からいなくなる。
「ちきしょう!」と無念に呻きながら一夏は因果応報ともいえる恥辱プレイを強制的にさせられるのだった。