拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第45話

「お前達は勝手に待機中にもかかわらず宿から飛び出して銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に挑んだ。帰ったら懲罰用のトレーニングを用意したため覚悟しておくように」

 

 銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)を倒した後のラウラ、セシリア、デュノア、セカンド、箒の専用機持ち5人に待っていたのは良くやったという歓喜の声ではなく、鬼教師の無慈悲な激怒だった。

 ラウラ、セシリア、デュノア、セカンド、箒は部屋で正座で説教を受けさせられており、西洋人のセシリアやデュノアの顔は真っ赤から真っ青になっており、そろそろピンチなのが見てわかる。

 一夏は正座させられた5人を(馬鹿だな~。置手紙ぐらいしとけばもう少し減刑して貰えただろうに)と思いながら見ていた。

 

 まあ、実際一夏は宿泊施設に向かう最中に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)に遭遇したため撃墜させただけなので正座で説教を受けている5人みたいに千冬の待機の指示を無視して銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)と戦ったわけでは無いためお咎め等食らうはずも無いのだが、それでも宿泊施設に到着した瞬間千冬が飛んできて、連絡くらい寄越せと拳骨されたのは記憶に新しい。

 

「あの、織斑先生、今日はその辺で。皆さん戦闘後なので疲れているでしょうし」

 

 救いの女神山田先生が今ここに降臨された。

 どこかの鬼教師(笑)と違って救いの女神の一声で千冬は「そうだな」と頷いた。

 

「一夏、ちょっとついて来い」

 

「あ゛?ああ、了解」

 

 

 千冬に言われ一夏が部屋から出て行くと専用機持ち5人は着替え始める。

 

 一夏が千冬に連れられて来た場所は本来臨海学校中に一夏が千冬と共に宿泊する部屋だった。部屋につくと一夏の視界に移ったのは束の姿。

 後ろで千冬によってピシャリと部屋の扉が占められ、次の瞬間一夏の胸に衝撃が走り2人の嗚咽が漏れる。

 

「馬鹿者、この馬鹿者!心配かけさせおって」

 

「いっくん、生きてて良かったよ~」

 

 たった一人の姉と恋人の頭を優しく撫でながら一夏は目を細め「ごめん」と呟く。

 

「ごめんな。お前達に心配かけさせちまって」

 

 ごめんと呟きながら束と千冬の頭を優しく撫でながら思ってしまう。

 

――もっと、自分が強ければと。もっと、自分が強ければ最初に任務を成功させれれば束を泣かす事も千冬を泣かす事もなかった。心配させる事など無かった。

 

「お前たちを泣かす俺は……最低だ」

 

――だから強くなりたい。もっと強く。せめて現在の、未来の家族を守れるくらいに。英雄になんてなれなくていい。せめて手の届く範囲の、周囲の人達の笑顔を守りたいと思う。

 

 弱い自分は嫌いだ。家族を泣かす敵も許せない。だが、一番納得出来ないのは何もできない自分だ。

 

 白騎士事件の時に何もできなかった自分が許せない。その思いのみが一夏を強くする。

 

          ★              ★

 

「いっくん」

 

「束」

 

 時間は夜の7時。満月の下、一夏と束は海岸を歩いていた。本当ならばもっと一緒に居たかった。

 同じ場所で同じ時を共に過ごしたかった。だが、世界がそれを許さない。今この場に束が一夏と共に長くいれば世界は束に牙をむく事だってあり得る。無論、束がおいそれとやられるはずも無いのだが、牙が脅威が二人の娘クーにまでむく事を二人は恐れている。

 

 一夏にかかれば世界を恐怖で支配する事だって時間はかかるが出来ない事ではない。

 だが、恐怖で支配した世界に安心する家庭を築けたとしてその先はどうなる?クーの将来は?

 恐怖で支配した世界で一夏は束と結ばれる事は出来る。刃向う者には死を。

 しかし、その先がないのだ。

 

 故に一夏は今はまだ何も出来ずにいる。

 

 非力で微力な自分と世界最強の称号を持つ姉と比較するならば自分は欠陥品も良いところだろ。自分は家族の笑顔すらも守れないのだから。

 

「実は、ね。白式のコアはちーちゃんが使った白騎士のコアなんだ」

 

 突然の束の発言に一夏は困惑する。

 束の真意が読めない。何故束は今それを言い出したのか。

 

「いっくんは、何時も命を懸ける。私達のために、皆のために」

 

「違う!俺はエゴイストだ!自分勝手で自己中心的な人間なんだ!!」

 

 まるで子供の様に一夏は叫ぶ。

 だが、束は一夏の心を見透かすように続く。

 

「なら、どうして箒ちゃんを守ったの?」

 

「それは……お前の笑顔を守りたかっただけなんだ!」

 

「ちーちゃんも?」

 

「ああ、そうだ!ちーたんは今、俺に残されている唯一無二の家族だ!俺がまだ18歳になってねえからお前と結婚する事も出来やしねえが、それでもお前やクー、ちーたんは俺にとって最優先事項だ!」

 

「そっか、でもねいっくん。それって結局、私やちーちゃん皆のためだって事気付いている?」

 

 束は少し嬉しそうに言いながら真実を告げる。

 一夏の行いは結局自分のためではなく、誰かの為だったんだと。

 

 それは真実であり、一夏の心の均衡を崩すものだった。

 

「俺は……俺は!!」

 

 エゴイスト。自分勝手な人間であるが故に自分が死んでも、それは自分の力が足りなかった所為だと言えたし今回任務が失敗したときの責任も全て自分の指揮能力の低さが招いた結果と言う事で背負う腹づもりでいた。それが根本から崩された。

 

 束は、ただ黙って一夏を抱きしめる。

 

「俺は弱い」

 

「違う、強いよ」

 

「俺は弱いんだ!」

 

 束は、そうわめく一夏の体を抱きしめる腕の力が無意識に強くなる。

 

「例え弱くても、それでも私はあなたを愛してる」

 

「ありがとう、束。それでも俺は弱い自分が許せない」

 

「そう言って、あなたはいつも自分を責めるように命を懸ける。私はそれを望まない。でも、あなたは私やクー、ちーちゃんに何かあればすぐに今以上に命を懸けるでしょう?だから、せめて私が心血を注いで作った最初のコアをお守り代わりに白式に使われるようにしたの」

 

「……そうか、ありがとな束。ならば俺はここに誓う」

 

 そう言って突如一夏は束から一二歩ほど離れると拳を握り締め、再び手を開くとそこには小型ナイフが現れ、そのナイフの刃先を自分の頸動脈にあてた。

 

「俺はもう二度と負けないと。俺は赤の他人(虫けら風情)に殺されない。もし、俺が殺されるならばそれは俺の今の、そして未来の家族に殺される時だ。もし、お前が今俺を邪魔だと思ったり、必要としないのならばこの頸動脈にあてたナイフを引いてくれ。全てうまくいくように処理してある」

 

 すると、バチンという頬を叩く音がその場を支配する。

 束は涙目になり一夏の頬を叩いた。

 

「そんな事を言わないで!私はいっくんが好きなの!必要なの!愛しているの!!」

 

 束の告白は一夏にとって嬉しくもあり、くすぐったかった。

 

「ありがとう、束」

 

 そう言って一夏は自分の頸動脈にあてたナイフを頸動脈からのけると束にキスをする。

 

「!?」

 

 束は急にされた一夏のキスに最初こそ驚いたが時間が経つにつれて目がトロンとしてきて拒む事をしなかった。束は一夏が好きで一夏も束が好きなのだ。

 だが、両者が結ばれる事は今はまだ無い。世界がそうはさせない。束は全ISの生みの親。全ISの心臓部分であるコアをつくった人物で世界は、様々な国や企業が束が持つ頭脳や技術を欲している。一方の一夏はハッキング能力や戦闘能力、頭脳はあるものの名声がない。無論世界で唯一ISを操縦できる男性IS操縦者という肩書はあるものの世界に、各国や様々な企業をけん制出来るだけの名声がない。ハッキング能力により各国が保有するミサイルや核弾頭ミサイルの主導権を手に入れれば、世界は恐怖で黙るだろう。だが、世界最強の称号()を手にいれれば、そんな未来の無い将来等必要なくなる。

 倒すべきは姉の織斑千冬、世界最強(ブリュン・ヒルデ)だ。

 一夏は世界最強の称号()を手に入れるだけで世界をけん制できる名声が手に入るのだ。

 

 束の髪から香る束の匂いに一夏は脳が沸騰しそうになる。

 

 本能が告げる 

――この女が欲しいと。手放したくないと。二人の仲を認めぬ世界など壊してしまえと。

 

 だが、理性が告げる

――やめておけと。手放せと。世界を壊すなと。

 

 本能と理性の狭間が一夏を困惑させる。 

 本能が告げるのは一夏の心境。理性が告げるは一夏の現状。

 

 キスをしてからどの位経過しただろうか。数十秒であったかもしれないし、数秒であったかもしれない。

 もはや時間の感覚さえどうでも良く思うほど一夏と束はキスをした。キスも今まで何回しただろうか。思い起こせば片手で数えれるほどしか今までしていない。もっとキスをしたいと思う。もっと束と同じ時を過ごしたいと思う。だが、世界はそうはさせない。

 束がこの場に留まれば各国や様々な企業が束の下に訪れるだろう。中には自分たちの利益の為だけに娘のクーを人質に取る所だってあり得る。無論そういう企業や国は消滅して貰うのみだが。

 だが、娘に脅威が迫るのも事実。クーや束、千冬の乙女の柔肌にかすり傷ひとつ付こうものなら一夏(閻魔)が激怒するも、一夏(閻魔)の家族に脅威が迫ることに変わり無い。

 

 それらの脅威を未然に防ぐ必要がある。未然に。となると、あの計画を一部実行に移す必要がある。今回の報酬はその協力という事で交渉を行うとしよう。今後の方針は決まった。イスラエル元大統領ルー・ベリブン、米国現大統領ビル・クリミアと会談を行い、報酬の交渉を行う。

 

「プハッ、長いよいっくん」

 

「ごめん」

 

 気が付けば束とずっとキスをしていた。

 どうやら一夏は無意識のうちに束を手放したくないと思い、ずっとキスをしていたようだ。

 

「束」

 

「ん?どうしたの」

 

 別れの刻限は迫っていた。シンデレラにかけられた魔法の刻限のように辛く悲しい現実という名の刻限が。

 

「俺も、俺も君を愛してる。だから、覚えていて欲しい。俺が死ぬ時は誓った通りに家族に殺される時だという事を!!」

 

「そっか、ならいっくんは無敵だね★私もちーちゃんもクーちゃんも皆いっくんを殺せないし殺さないから。いっくんは、私の未来の旦那様は無敵だよ★」

 別れの刻限だ。一夏は束に踵を返し、束は一夏に踵を返す。二人の背中が重なり合うように二人はそれぞれの道を歩む。束は一夏と約束したISに男性が乗れるように研究する事。一夏は世界最強の称号()を手に入れるための力を手にする事。

 

 二人は、それぞれの道を歩むために歩く。互いにふり返る事はしない。互いを信用しているし、繋がっているから。

 

                     ○                   ○

 束と別れその晩、イスラエル元大統領ルー・ベリブン、米国現大統領ビル・クリミアと報酬についての会談を行った翌日の事。

 

「ちくしょう!」

 

「お前への罰則は既に決まっていた。いや、天が決めていたというべきだな」

 

 電柱にしがみつき怨嗟の声を上げる一夏に千冬は電柱から引き剥がすように一夏を引っ張りながらうんうんと頷く。

 一夏が電柱にしがみつくのにも理由があった。それは、臨海学校の帰りのバスである。

 車酔いする一夏にバスで帰るという残酷な現実。

 

「いい加減お前も覚悟を決めろ!電柱にしがみつくとか、子供か!?」

 

「うるさい!俺のグロッキーな姿とか誰得だよ!」

 

「少なくとも私はお前の弱っている姿は好きだがな。うん、お前は弱っている位が丁度良い」

 

「喧しい、駄姉!それが教師が生徒に対する態度か!?」

 

「お前こそ、それが生徒が教師に対する態度か!?」

 

 電柱にしがみつく一夏とそれを引き剥がそうとする千冬の間に火花が生じる。

 グルルと獣の如く警戒心むき出しの一夏と一夏を電柱から引き離そうとする千冬の前にジープが止まった。ジープの中から金髪のスタイルの良い女性が降りてくる。

 

「あなたが織斑一夏君ね」

 

「あ゛、手前は?」

 

「私はナターシャ・ファイルス。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の操縦者と言えば分るかしら?」

 

「ああ、成るほどね」

 

「ありがとね。私を助けてくれて、あの子からコアを取らないでくれて」

 

「別に。それが任務だからやっただけだ」

 

「そう、ありがとね白いナイトさん」

 

 チュッと一夏の左頬にキスをしようとするナターシャの唇を塞ぐものがあった。

 

「そういうのは欧米じゃあ挨拶代わりにするもんだろうけど、ここは日本だ。郷に入っては郷に従えっていうからな。ここじゃあ、そういうのはやめときな。そのキスは大切な人としな」

 

 そう言って一夏はナターシャの唇から唇を塞いだ自分の左人差し指をのける。

 因みに、この一夏の発言の真意は『俺は手前とキスをする唇とか頬なんざ持ち合わせちゃいねえぜ。俺がキスをするのは家族だけだ。手前は、そこら辺の地面とキスしてな』との真意があったのだがまあ、やんわりその拒絶を伝えたのが不味かったのか、一夏の目の前にいるナターシャはポーと呆けている。

 

「ナターシャ、時間だ」

 

 ナターシャが降りてきたジープの窓が下がり、ジープの中からナターシャに声がかかる。

 ナターシャはその声によって現実に戻されたのか、ハッと我に返ると千冬の方を向く。

 

「素敵な弟さんね」

 

「一夏はやらんぞ」

 

「あらあら、それは残念」

 

「どうしても欲しければ私から奪ってみろ」

 

「ええ、そうさせて貰うわ。古来より女とは恋する事で魅力が強くなってきたんですもの」 

 

 何故か千冬とナターシャの間にバチバチと青白い火花が散り始めた様に見えた事に一夏は気のせいだと思いたかった。

 

「それじゃあね、織斑一夏君と織斑千冬」

 

 踵を返しジープに乗り込むまでひらひらと手を振るナターシャ。ジープに乗り込む直前に一夏に目がけて投げキスまでする始末。

 ジープが発進し、見えなくなると一夏は口を開いた。

 

「投げキスとか、どこぞのマリリ○・モンローだよ」

 

 ハアとため息を吐く一夏。もう気分は朝からアメリカンステーキを食って胃がもたれたような気分だ。

 やべえ。アメリカ人超ヤベエ。やっぱ恋人は日本人()に限るわとナターシャと出会って思った唯一の感想だった。

 第一印象が大切とはよく言うが、もう第一印象のインパクトが強烈過ぎた。あったばかり?の相手の頬にキスをするとか、もう一夏には考えられなかった。一夏の中では、初対面の人に対して普通は握手。百歩譲ってハグである。なんで段階をエレベーターの如くすっ飛ばしてキスなのか解らなかった。

 しかも、人前(姉の前)でチュー。もうこれは、腹ペコのライオンやチーターの前に食欲をそそる血を全身に塗って裸で寝っころがるような愚行である。

 

 恐る恐る千冬に視線を向けると、何故かにこやかな千冬の姿がそこにあった。

 

「ち、ちーたん?」

 

「どうした、一夏?」

 

「あ、いや、何でにこやかなのかな?と思って」

 

「フ、お前が電柱から手を放しているからだ」

 

「え?」

 

気付けば一夏は電柱から手を放していた。つまり、それは

 

「さあ、行くぞ一夏」

 

一夏がこれからバスに乗らされる事実を物語っていた。

「ちきしょう!」と血涙を出しながら一夏は千冬に引きずられてバス乗り場まで向かうのだった。

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