拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第47話

パキッと地面に落ちていたガラスの破片を踏みながらボスは一夏を乗せて摩天楼に着いた。目の前にそびえたつ巨大な廃墟。摩天楼はバブル時代に作られたマンションだが、バブルが崩壊し計画は白紙に戻されそのまま作りかけのままの状態となったマンションが土地ごと安く売りだされていたのを正義(ジャスティス)創設にあたり資金を集めて購入したのだ。

 因みに年々正義(ジャスティス)の会員は増えていき、今では摩天楼が本家。本家に認められた者達があちこちで分家として正義(ジャスティス)で習得し、自ら編み出した技を教えている。年々会員が増えていくため、正義(ジャスティス)は日々技の競い合いに拍車がかかった状態である為、強くなるなら正義(ジャスティス)へとの合言葉すら作られるほどになった。

 本家の正義(ジャスティス)の本拠地である摩天楼に一日でも行けば確実に強くなるといわれるほど正義(ジャスティス)の本拠地 摩天楼は技の習得と開発に力を注いでいる。

 そんな修羅の国、正義(ジャスティス)の本拠地 摩天楼にはボクシング ムエタイ 古武術 中国拳法、プンチャック・シラット、少林寺拳法 空手 八極拳 柔術等をそれぞれ3つ以上の武術を極めたトライアルクラス。一夏を総帥(リーダー)として支持する総帥(リーダー)の陰。陰にして忠実な下僕5人の神の手(ゴッドハンド)と呼ばれる人達がいる。

 因みにトライアルクラスの5人の神の手(ゴッドハンド)には2つの武術を極めたダブラーと呼ばれるクラスの人を2人懐刀としている。

 

 弱き者に総帥(リーダー)を名乗る資格なし。一夏が負ければ正義(ジャスティス)総帥(リーダー)としての権利を失う。普通の人ならば保守に走るだろう。だが、一夏は保守にはならない。なぜならば、もとより武の世界では一瞬の判断が死を招くことだってあり得るのだ。一夏はその事を理解している。理解し納得しているが故に高々正義(ジャスティス)総帥(リーダー)としての権利を失う程度で済むのならば安いものだ(・・・・・)と思ってしまう。

 

「さてさて、どこまで俺を楽しませてくれるかな?現正義(ジャスティス)総帥(リーダー)代理 参謀 鮮血の弾」

 

 不敵に目の前の摩天楼を前にして笑う一夏。

 最近入ったばかりの正義(ジャスティス)の会員ならば一夏を知る人はいない。一夏は半年前に正義(ジャスティス)総帥(リーダー)の座を弾に預けたのだ。理由は藍越学園入学するにあたり、勉強と藍越学園の卒業生探しである。正義(ジャスティス)総帥(リーダー)の座を弾に預けた時は二度と摩天楼に来る事は無いだろうと思っていたのにこうして再び摩天楼に訪れた。

 

――運命とは数奇なものだ。

 

 そう思いながら一夏はボスに乗った状態で摩天楼の入り口を目指した。

 

 

☆☆

 

 摩天楼の入り口に向かうとボスは立ち止まり入り口を見た後に背中に乗っかっている一夏を見た。

 

「降りた方が良いという事か?」

 

 一夏が尋ねるとボスは首を縦に振り肯定した。

 

「解かった。思うがままに暴れろ」

 

 一夏が下りた瞬間ボスは大きく翼を広げジャンプした。

 突如、ボスの頭上、摩天楼の二階から2人の人物がボスにめがけて飛び蹴りを繰り出した。

 

「コアァァァ!!」

 

 

 ボスは雄たけびを上げながら飛び蹴りをかましてくる二人に目掛けて二段蹴りを食らわす。飛べない翼を広げ、風を受ける抵抗面積を増やすことで滞空時間を延ばしたボスはまさに蹴りに特化した動物であった。

 

 ボスの蹴りで二人の刺客は蹴り飛ばされ、きれいな放物線を描いて地面に落ちた。

 ピクリとも動かない刺客の二人。「コア」と雄たけびを上げるボス。ボスの後ろでボスの実力を見定めている一夏。三者三様の反応ではあったが、突如摩天楼の中から人がぞろぞろと出てきて一夏とボスを取り囲んだ。

 一夏はフムと唸りながらボスに声をかける。

 

「どうやら相手も本気を出してきたみたいだが……いけるか?何なら手を貸すが」

 

 しかし、ボスは首を横に振る。

 自分だけでやると言う。

 

「そうか。ならば、俺にお前の力を実力を見せてみろ。ボス」

 

 それは一夏の口には出さないが「信頼している。期待しているぞ」という言葉であった。

 その意を知っているのか知らないのか解からないがボスは頷くと相手に向かって駆ける。駆ける。翔る。

 

 ジャンプしたため飛翔という言葉は似つかわしくないが今のボスは間違いなく飛翔していた。

 飛翔したボスは相手の顎や頭に向かって回し蹴りや飛び蹴り。

 相手の頭や肩を踏み台にして相手のバランスを崩し、他の相手の邪魔となる様に転倒させる。

 

 ボスは遠慮しなかった。相手は大群。味方は自分一人。

 しかし、自分には見てくれている主がいる。自分を信じてくれている人がいる。

 

 そう思う事で一夏と組手をやっている、いつも以上に体が軽く感じた。

 

「コアァァァァァ!!」

 

 襲い掛かる修羅の大群。一人一人実力は一夏には劣るであろうが大群で来られたら、連戦はきつい相手をボスは相手を脚で撃退している。気合十分の雄たけびと共に襲ってくる修羅を一夏に教えて貰った中段目掛けての蹴り込み、逆蹴り、回し蹴り、たか回し蹴り、膝蹴り、かかと落とし、二段蹴り、ひねり蹴り、旋風脚を行い撃退。

 ボスから繰り出された蹴りを受けた相手はまさにアクション映画に出てくる敵のように綺麗に蹴り飛ばされる。だが、ここは摩天楼。修羅の国である。ボスの攻撃を受けた相手は常人ならば気絶したであろう蹴りを受け身でダメージを和らげ、一人また一人と立ち上がってくる。摩天楼では受け身は必須科目であり、摩天楼で受け身ができない人物など存在しない

 

 再び立ち上がった修羅達。修羅達はボスに一撃も加えれていない。

 ボスも修羅達の攻撃を一撃も食らっていない。

 

 だが、時間が経てば経つほど不利になるのはボスだった。一撃一撃を受けてはいるが完璧にダメージとして与えれていないボスの方が断然不利だった。一夏の様に一撃一撃が重く確実に相手にダメージを与えられるほどの実力をボスは持っていない。一撃一撃はボスの方が上かもしれないが数で勝り、深刻なダメージを与えられていない相手の方が有利なのは火を見るよりも明らかだった。

 

 それでもボスは相手を前にしても逃げず立ち向かう。

 再度襲い掛かってくる修羅達。覚悟を決め立ち向かおうとした瞬間に背後からゾクリとする巨大な気を感じた。冷や汗を流し動きが止まる。

 

 どうやら襲い掛かってくる敵も同じように感じているらしく、視線をボスからボスの後ろにいる気を送る人物に向けていた。

 

 その気は敵意であり、殺気であり、戦意を含んでいてそれらが全て入り混じったような気だった。ただ一つ言えることは、その気を感じると自分がちっぽけなミジンコのような存在に感じるほどの巨大な気であった。比べるという事態そのものがおこがましいと思わせる気は全て一夏によって発せられたものだった。

 

 誰一人動かない。いや、動けない。

 指先一つ、視線を逸らす事すら不可能。

 誰も動けない戦場に陽気な声が響く。

 

 

「おいおい、殺気ビンビン。敵意むき出し。戦意満々ってか?一夏」

 

 一夏が視線を摩天楼の二階の窓に向けるとそこには赤い髪をした鮮血の弾こと、正義(ジャスティス)総帥(リーダー)代理の一夏の右腕 五反田 弾が居た。

 弾は二階から飛び降りると一夏と新人の正義(ジャスティス)達の間に降り立つ。

 

「「「リーダー!!」」」

 

 新人の正義(ジャスティス)からの声で一夏は眉をピクリと僅かに動かす。

 

「リーダー?今はお前がリーダーなのか、弾?」

 

「あいや、実はだな「手前!リーダーにため口とは良い度胸だな!」「死んだぞ、手前!!」あちゃー」

 

 弾の言葉を遮ってボスと戦っていた正義(ジャスティス)の新人は駆ける。

 一夏が弾の登場で気をとぎらせてしまったため動けるようになっていた。

 一夏と距離を詰めあと少しで攻撃できるという距離で一夏に攻撃しようとした新人たちはバチンという音と共に全員見えない壁にぶつかったかのようにぶっ倒れた。

 

 消滅領域(デリート・ゾーン)に侵入した相手の頭を織斑流拳術指弾で弾き飛ばしただけである。数m程弾き飛ばされた者もいれば1,2m吹き飛ばされた者もいる。

 

「あらら、流石規格外だな。だが、こいつ等ならどうよ?」

 

 弾がパチンと指を鳴らすと一夏を囲む様に一夏の前後左右にトライアルクラスの5人の神の手(ゴッドハンド)が出現した。

 

「「「「「覇!!!」」」」」

 

 一心同体で5人が同時に技を繰り出す。

 頭、首、中段、下段、背中。それらに目掛けて振るわれる拳や脚。

 

「良いだろう、下僕達。まとめて相手をしてやるよ」

 

 獰猛な猛禽類のような目になり、唇の端は吊り上がりながら一夏は 消滅領域(デリート・ゾーン)に侵入した5人の神の手(ゴッドハンド)の脚を受け止めてバランスを崩させて転ばせ、あるいは蹴り飛ばして、または相手の手首をとって投げ飛ばし、裏拳で頭を殴り気絶させ、アイアンクローをして沈黙させる。全員受け身を取ろうと思っても一夏の力が強すぎてうまく受け身をする事が出来なかった。

 5人の神の手(ゴッドハンド)の攻撃は摩天楼の、ひいては正義(ジャスティス)のトップと言える。5人の神の手(ゴッドハンド)と一夏の攻防戦は激しくも刹那の間で行われた。その為、正義(ジャスティス)の新人は何も見えなかった。見えるとしたら相当の猛者であり、実力者である。

 

 正義(ジャスティス)の新人達が目にしたのは5人の神の手(ゴッドハンド)が倒され誰一人立ち上がらない状態で一人悠々と佇む一夏の姿と一夏の周囲に倒れている5人の神の手(ゴッドハンド)の姿だった。

 

「さあさあ、皆もこの辺で良いだろう?特にリーダー代理」

 

 戦場に響く声。

 全員が声がした一夏の後ろに視線を向けるとそこには金髪、耳には丸いイヤリングをした、白いスーツを着たホスト風の男が現れた。

 

「お帰り、一夏。それとも正義(ジャスティス)総帥(リーダー)と言った方が良いかな?」

 

「出たな、ホスト野郎」

 

 現れたのは鏡形而。一夏がいる間に結成した正義(ジャスティス)の創立当初からのメンバーである。年齢は不詳。何者なのか、何処に住んでいるのかわからない謎の人物である。敵であるのか味方なのかわからないのだが、一夏にとっては問題ない。鏡が強いか弱いか解かればそれだけで良いのだから。

 そして、鏡は間違いなく強かった。弾が一夏の右腕ならば鏡は一夏の左腕といった具合に強かった。

 

 一夏にホスト野郎と言われた鏡は苦笑しながら跪いた。

 

「お帰り。我らが総帥(リーダー)。どうでしたか。弾君が考えた歓迎パーティーは?」

 

「皆中々強くなってんじゃねえか」

 

 見ろよと言わんばかりに一夏が鏡に向かって服の左あばら付近を見せるとスッパリ切られていた。

 

「しかし、君も以前以上にお強くなったみたいで」

 

「そうか?だが、最後に残っている……ぜ。弾!」

 

 そういうと一夏は弾との距離を瞬く間に詰めて弾の頭に目掛けて熊手突きを行う。

「燕返し!」

 

 当たれば脳震盪を起こすその攻撃を攻防一体の技 燕返しを一夏に向けて行う。

 弾の頭に目掛けて振るわれる熊手突きの腕をそらした燕返しの手刀が一夏の首に襲い掛かる。

 

「甘いんだよ!」

 

 弾から振るわれる手刀を一夏は掴み弾の腕を捻りあげ、背負い投げを行う。

 

「うわ!?」っと驚いて投げられる弾だが、ひらりと猫みたいに着地する弾。そんな弾に一夏は更に追撃をかける。

 

「織斑流拳術無影拳」

 

 拳は弾の顎を狙っているもあまりの速さで見えず。

 見えぬが故に相手が何処を狙っているのか解からなければ防御も回避もされにくい。それがこの無影拳の特徴だった。               

 

「!半月手刀!!」

 

 しかし、摩天楼にいた団は一夏の視線が自分の顎を狙っている事を感じ取り、一夏から振るわれる拳を弾は左手で半月を描くように少林寺拳法の打上受けで受けて一夏のバランスを崩し、その勢いのまま一夏の脳天目掛けて手刀を行う正義(ジャスティス)で編み出された攻防一体の技。

 

「織斑流拳術手刀崩し!」

 

 脳天目掛けて振るわれる団の手刀を一夏は弾の手刀を行う手首に向けて斜め気味のアッパーを仕掛ける。

 手刀とは、本来一番最後に最大の力を発揮する。それが、早い段階で対処されれば手刀は最大限の力を発揮できなくなる。そして、この手刀崩しとは相手の力を利用して自身に振るわれる上段を狙った手刀をする手首に目掛けて拳を捻り螺旋の溜を作った拳を叩き込む技だ。史上最強の弟子○ンイチに白刃流しという技がある。それを応用した技だ。

 

 拳と拳がぶつかり合う。

 

 そして、負けたのは

 

「うお!?痛ってぇ」

 

 弾だった。手刀と手刀に対処すべく編み出された技ならば手刀に対処すべく編み出された技の方が強いのは自明の理だった。しかも、この手刀崩しは手首を狙った、いわば点の攻撃なのだ。力を手首という間接一点に力を集中させているため命中すれば絶大な威力を発揮する。

 

 痛がる弾の首に向かって手刀を打ち込む一夏。手刀は弾の首の数㎜の所で止まった。

 

「チェックメイト」

 

「俺の負けだ、一夏」

 

 興産といった具合に両手を上げて幸福の合図をとる弾。

 そのポーズを見ると一夏は手刀の手を引っ込める。

 

「それで、今日はどうしたんだよ総帥(リーダー)。お前がここに帰って来るなんて珍しいじゃねえか」

 

「まあな。だがよお、ここに来た理由は一つしかねえだろ?強くなりに来ただけだ」

 

5人の神の手(ゴッドハンド)を倒し、俺を負かすお前が今以上にだと?おいおい、それじゃあこっちの身が狭くなんだろうが」

 

 やれやれと言いたげに傷んだ手首をぶらぶらさせて肩をすくめる弾。

 

「知らねえなあ。弱い奴は弱い。強くなろうとしねえ奴は現状維持が関の山。あとは堕ちていくのが普通だ」

 

「手前は相も変わらずだな、一夏。その睨みつけるような鋭い眼光は相も変わらず衰える事を知らず。しばらく顔を見せていなくてひょっこり帰ってきた顔を見せたから実力を見たくて仕掛けてみるもあっさり返り討ちする始末。流石だぜ総帥(リーダー)

 

「おだてんで良い。それよりも、あれ(・・)をやるぞ」

 

「お、お前!?あれ(・・)をやるのか!?」

 

「ああ」

 

「お前、 正義(ジャスティス)が今何人いると思ってんだ!?摩天楼だけでは入りきらずに分家まで生まれているんだぞ!?」

 

「そんな事情は知らん。俺は強くなりに来ただけだ。それにあれ(・・)をやれば意欲が刺激されて今よりも更に武の発展につながると思うが?」

 

「ハア、どうせならいっその事命令してくれや総帥(リーダー)。その方がこっちも割り切れる」

 

「そうか、ならば正義(ジャスティス)総帥(リーダー)として命ずる。これより無限組手を行う!挑戦者は俺だ!!」

 

 無限組手。それはとりわけ正義(ジャスティス)の中でも恐れられている行事。摩天楼にいる正義(ジャスティス)全員が挑戦者と組手を行う。これが恐ろしい所は一度敗れた相手も再び意識があり戦闘可能であれば何度でも挑んで良いという所なのだ。一度負かした相手も再び挑んでくる組手は挑戦者の体力を大きく削る。その為、挑戦者には技の効率化とキレ、威力、スタミナ瞬時の正確な判断が求められる。

 無限組手は年々成功率が難しくなっており、その理由として正義(ジャスティス)の会員が年々増加しているからである。5人の神の手(ゴッドハンド)ですら最近では成功しずらいのだ。弾が戸惑うのも無理はない。

 だが、正義(ジャスティス)総帥(リーダー)の命令は絶対であり逆らう事は出来ない。

 

 正義(ジャスティス)総帥(リーダー)の名のもとに無限組手は宣言され開催された。

 その日、摩天楼には一日中ど派手な音が響き渡るのだった。

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