拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第49話

 祭り……それは、古来より伝わる感謝や祈りを神や祖先に捧げる神聖な儀式である。時代に伴いお神輿や屋台などが出回り、花火が打ち上がるひと時の夏の思い出。小学校の夏休み日記にはよく夏祭りの事を書いた者も多いだろう。祭りは神聖な儀式であるとともに独特な雰囲気と熱気をあてて男を野獣に変貌させる事もある。

 

 さてさて、一夏は今祭りの会場にいた。路上には沢山の屋台が並び美味しそうな匂いが立ち上る。鼻孔を刺激するのはたこ焼きのソースのにおいや甘い一口カステラの匂い。ガヤガヤと路上は人で賑わいをみせ、浴衣を着ている人を多数見かける。

 

「……」

 

 それを一夏は黙ってみている。今日は祭り。祭りとは前述の通り独特な雰囲気と熱気をあてて男を野獣に変貌させる事がある為、一夏は今日の為に色々根回しをした。

 

 何せ今日のデートは世界が探している束が娘のクーと共に来るのだ。誰かが束を探し当て尾行して束を誘拐するチャンスを狙っているかもしれないし、束が誘拐されなくても娘のクーが誘拐される恐れだってある。そんな事態を未然に防ぐべく一夏は今日の為に青狼会に行き頭を下げて今日の祭りの屋台を全部青狼会の構成員に頼み何かあった事態の対処をお願いした。その為、今日の祭りに出ている屋台の全部が青狼会の構成員が出店している。

 

 また、一夏は正義(ジャスティス)に命令してこの祭りに全員客として参加させており、いざと言う時の戦力として動かすつもりだ。

 その為、今回の祭りはいつもの祭りと少し違う。活気あふれる祭りの中に不届き者がいないか屋台とさくらの客の両方で眼を光らせている。

 

 本来はパシリを動かして警察にも協力要請をした方が良いのかもしれんが所詮パシリも警察も国の犬。デートの相手に束が来ると知れば何を企むか分かったものではないため、敵になるかもしれない不確定要素よりも安全確実な確定した要素を頼りにする方が良いのだ。

 

「一応、出来る限りの対策は立てたつもりだ」

 

 そう、一夏は頑張った。祭りが開催され使われる道付近に設置されている監視カメラを全てハッキングし、AIに監視させ、束やクーの両方、もしくは片方が誘拐された時に犯人が使うであろう逃走経路を割り出し、テロが引き起こされた時に二人を人目につかずに避難させる安全な経路を探し当てた。

 

 全てが不要に終われば何の問題もない。寧ろ事前の準備が不要に成って欲しい。

 

「いっくん」

 

「父様」

 

 トントンと肩を叩かれ一夏が振り向くと、そこには

 

「………」

 

 言葉を失うほどの美女と美少女が居た。

 束は普段の妖艶さを身に纏うも普段は紫色のような髪も今日は黒いウィッグをつけて青い着物を着ており大和撫子と言った具合に成っている。クーの方は紫の着物を着て初めての着物で少し動きづらそうにしている。

 

「どう……かな?」

 

「変……でしょうか?」

 

 少し恥じらうように言う目の前の美女と美少女。それだけ一夏は二人をガン見していた。それはそれは、もう瞬きする事も忘れてずっと二人を見ていた。脳内に焼き付けんばかりに見続けていた。

 

「女神と天使来た、これ!!」と叫ぶ一夏。それは魂からの叫びで道行く人が皆、一夏に注目する程の音量だった。

 その所為で束とクーに視線は自然と移り、皆からの視線を浴びる羽目となる。

 

「流石に……」

 

「は、恥ずかしいです」

 

 顔を赤らめて言う束とクー。もう顔真っ赤でもじもじしだす。しかし、その行為がまた可愛く見えるので男達は歓喜の声をあげ、女は羨ましがる声を上げる。

 

「や、やべえ!あの子滅茶苦茶可愛い!!」

 

「あ、あの男の隣にいるお姉さん凄くタイプなんですけど……後で声をかけてようかな」

 

「すげえ美人。俺の彼女よりも可愛い「あ゛?今あんたなんて言った?」すみません。嘘です。調子こきました」

 

 そして一夏の耳に飛び込んできた最初と二番目の男に殺気を笑顔で向ける。一夏に殺気を向けられた二人は固まった。そのまま肩を叩かれ油のきれたブリキ人形のように後ろを振り返ると、そこには修羅が立っていた。修羅はそのまま固まっている男二人を俵を持ち上げるように軽々と持ち上げ強制退場させられる。

 

 そして、最後の声の主は彼女に向かって土下座をしていた。彼女に頭を踏みつけられ身悶えて興奮しているようなので一夏は世の中には色々な愛があるなーと理解出来ぬ愛を持つカップルについて考えていた。

 

「行こう」

 

「行きましょう」

 

 二人に急かされて一夏は二人の手を握り人が賑わう屋台がある道路へと向かう。美味しそうな匂いが漂う。クーはそれだけで口元が緩み、嬉しそうに笑顔になる。

 

「父様、父様!」

 

「ん~どうした?」

 

「あれは何でしょうか?」

 

 そう言ってクーが指さしたのは綿あめをやっている屋台。無論、屋台の店主は青狼会の構成員。一夏は苦笑しながら「綿あめと言って、砂糖で作る飴だよ」と教えると「食べたいです!」とクーが言う。

 

 クーのリクエストに束と一緒に苦笑しながら綿飴を販売している屋台に行くと目の前で作られる綿飴をキラキラと目を輝かせながら待つクー。

 

「ほいよ~お嬢ちゃん。お待ちどうさま。帰ったら歯を磨けよ~」

 

 そう言ってクーに綿飴を渡すと店主は一夏に向かってグッドラックと言わんばかりに親指を立てる。

 

「ったく」

 

「どうしたの?いっくん」

 

「あ、いや、何でも無いよ。それよりクーが嬉しそうだな」

 

「うん。クーちゃんには出来れば一人の女の子として育ててあげたいんだけれどね~」

 

 自虐的に言う束。その言葉は一人の母親としてクーを普通に学校に行かせてあげられない自分の不甲斐なさに嘆いていた。たまに、もし自分がISなんて作る能力が無くて普通の女として生まれてきたらと考えてしまう事がある。

 しかし、そうなっていればクーと娘と出会う事も無かった。一夏と出会ったかもしれないが一夏と束の出会いは全ての始まりであるISに起因する。

 

 目の前で嬉しそうに綿飴を口に運ぶクーを見ると、一夏は考えてしまう。

 

――この笑顔を守りたい。この幸せが永遠に続けばいいのに

 

 だが、それは無理な相談だ。それ故に歯痒い。

 ほんの些細な幸せ。家族の時間すらこうして神経を張り詰め人目を避けなければいけないのだ。苛立ちが募る。しかも、おまけにクーは学校にすら行けてない。

 

「やはり、ヴェーダの完成を急がせるしか……いや、だが」

 

 そもそもヴェーダに上限は無い為、完成などありはしないのだ。一夏のささやかな願いすらも否定するくそったれな世界に一矢報いる為の装置であり究極のプログラム。

 

「?どうしたの?」

 

 不思議そうに尋ねる束に一夏は笑顔で何でもないよと答える。

 

「ふーん。変ないっくん」

 

「可愛い束」

 

 まさかの返しにあうあうと言いながら口をパクパクと金魚みたいに動かし赤面する束とそれを見てクスクス笑う一夏。わりかし必死に綿飴を食べるクーと三者三様の反応を見せる。

               ◇                 ◆

「さて、そろそろ行くか」

 

 そういう一夏の両手には束とクーの手をしっかりと握っており、束はもう片方の手でうちわを持ち、クーは焼きそばにたこ焼き、大判焼き、一口カステラを入れた袋を持ち、チョコバナナが握られていた。既にリンゴ飴を食べた後なので口元は赤く汚れているも、そんなことを気にせずにチョコバナナを口にする。

 

「その前にちょっとクーちゃんの口元を綺麗にしないとね」

 

「そうだな。せっかくの美人さんが台無しだからな」

 

 そう言って辺りを見渡す。

 この辺は束の実家でもある為よく覚えている。束の実家は道場をしていた為一夏は千冬と共にその道場に通い古武術を知り、拳の道を歩むきっかけとなったのだから。

 

「確か、この階段の上に厠があったはずだが……」

 

「うん。でも、今日はお祭りだから人で混んでると思うんだ」

 

「となると……ほら、あそこのコンビニで用事を済ませたらいいんじゃない?」

 

「そうだね。ほら、行こうクーちゃん」

 

「はい」

 

 一夏は束とクーと手を繋いでコンビニに立ち寄るとコンビニの前でクーの荷物を持ったまま待機し、クーと束はコンビニの中へと入っていく。荷物持ちとなった一夏はコンビニの前で突っ立っていると電話が掛かる。

 

「……はい、もしもし」

 

『はじめまして、織斑一夏君』

 

「手前は?」

 

『私は……まあ、どうでも良いと思うよ』

 

「……」

 

『私は君におめでとうと言いに電話したんだよ。第二形態に成ったみたいだねおめでとう。今までの苦労の甲斐があったよ』

 

 ドクンと鼓動が速くなり血液の循環がいつも以上に速くなる。頭が真っ白になり、何を言ってるか一瞬解からなくなる。

 

「な、何を……」

 

『あなたの翼は美しかった。あの不細工も少しは役に立った』

 

「不細工……それは銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の事を言っているのか?」

 

『ああ、そうだね。あれは空を飛ぶに値しない翼だった。だから、君に潰させた』

 

「手前、今苦労の甲斐があったといったな。それじゃあ、今までの事も全部手前の仕業ってわけか!?」

 

 ビキビキと怒り心頭で額に青筋を浮かべる一夏。携帯は辛うじて握り潰されない程度に我慢しているが今にも携帯を握り潰さんばかりの如く鬼の形相で携帯電話を持っていた。

 

『そうだね。君とはいずれ会う機会があるかもしれないね。そうなる時を楽しみにしているよ』

 

 相手はそう言って電話を切る。通話を終えた携帯電話を見ながら一夏はしまったと思ってしまう。逆探知できるAIは今現在出払っている。残っているのはいまだ未完成のAI3体のみ。逆探知出来るMAKUBEX(マクベス)SAKURA(さくら)も今は監視カメラでの監視に回している。今現在一夏には先程の電話の相手の居所をつかむ術は無い。

 

「………落ち着け、俺。何もさっきの奴が白騎士事件の犯人じゃ無いかもしれんのだから」

 

 今までIS学園で起きた事件に巻き込まれた事に腹を立ててないと言えば嘘になる。だが、そんな事よりも一夏は未完成なIS(作品)を世に出させた白騎士事件の犯人が許せない。その犯人の所為で束は住む場所を転々と変えており、クーも学校に行けずじまい。白騎士事件の犯人は必ず――

 

「――必ず、あんたは俺の手で殺す」

 

 そう誓ったのだから。

 大好きな家族をかけがえのない家族を愛する家族を傷つける奴は全て殺して壊して絶望させる。そこに例外は無い。

 未だ知らない相手に一夏はそう呟くと通話を切られた携帯電話をポケットにしまうと丁度束とクーが戻ってきた。

 

「お待たせ~」

 

「すみません、父様。荷物を持って頂いて」

 

「構わんさ」

 

「どうしたのいっくん?」

 

 束とクーが戻って来たので平静を装っていたが束にあっさり見抜かれてしまった。一夏は自分のポーカーフェイススキルはまだまだだなと思いながら「少し、電話があってな。全くお前達との逢瀬だというのにKYな」と文句を垂れる。

 

「それじゃあ、行こうか。メインの神楽舞と花火を見に」

 

「はい」

 

「ああ、行こうか」

 

 一夏は荷物を持った状態だったのでクーの手を繋ぎクーは束と一夏の手を繋ぐ事に成るが嬉しそうに歩く。無邪気な笑顔を見せるクーを見てやはりクーも子供なんだなと思い横目で束を見るとクーを見て微笑ましそうにする束の姿がそこにはあった。

 

 人で賑わう篠ノ之神社の階段を上ると境内の中央に舞台が設置されており、この祭りの名物神楽舞を見るために人がぞろぞろと集まっていた。一夏は腕時計を見ると時刻は18時58分。後2分で神楽舞が始まる時間だった。

 

「神楽舞を見た事が無いので楽しみです」

 

「そっか~」

 

「そうか。なら、今日はしっかり見とけよ」

 

 ワクワクした表情で境内の中央に設置された舞台に視線を向けると巫女服を着た箒の姿が現れ右手には扇、左には宝刀を持っている。そして、腰に差した鞘へと刀を戻し閉じていた扇を開き揺らす。左右両端一対につけられた鈴がシャンと厳かに音色を奏でる。左右に扇を優雅に揺らし神楽舞を演舞する事十数分。腰を落として一回点で刀を抜き刃を扇に乗せ、ゆっくりと空を切っていく。その姿は見る者の目を釘付けにし、神秘さ故に息をのむ。

 神楽舞が終わると箒は一礼をして拍手の中舞台裏へへと消えてゆく。

 

「綺麗でしたね」

 

「そうだな」

 

「流石箒ちゃん」

 

「今度は母様の神楽舞を見てみたいです」と無邪気に言うクー。予想外の事を言われ「えっ!?」と驚く束とそれをニヤニヤ見ながら「それは良い。俺も是非とも見てみたいな」と言いながらクーの頭をゆっくり撫でる。

 

「えっと~」

 

「いやはや、流石にクーのお願いだし……まあ、無理にとは言わないが。束が出来ないのならば、なあ」

 

「そうですね。母様も普段研究所に籠ってばかりなので……流石にブランクがあるでしょうから」

 

 落胆する二人を見て束はムカッとムカついて、ついつい「や、やるよ!私だって神楽舞位出来るもん!!」と言ってしまった。それを聞いた一夏とクーは落胆した表情から一瞬でほくそ笑み。

 

「言ったな」

 

「言質は取りましたよ」

 

「流石俺の娘。仕事が速い」

 

「いえいえ。この程度造作もありません」

 

 二人はすでにイイ笑顔。束は、しまったと思うも後の祭り。二人はすでにハイタッチまでする始末。もう、止められなかった。

 

「うう、失言したかも」

 

 ISを作る天才の頭脳も最凶(一夏)とその娘には敵わなかった。一人その場で頭を抱える束は「だ、大丈夫。神楽舞さえ舞えればいいんだ舞えれば」と自分に言い聞かせ自分を奮い立たせる。

 

 そんな3人の耳にヒューと花火が打ち上がる音が。3人が頭上の夜空を見ればドーンと爆発音と共に青い菊先が浮かび上がる。次々と菊先が打ち上げられ紫、緑、赤と色とりどりの花火が暗い夜空に浮かび上がる。

 

「綺麗ですね」

 

「綺麗だね~」

 

「そうだな」

 

 真夏のひと時。至福の時間。

 しかし、それは打ち上げられる花火の如く、短く儚い。真夏のひと時、一炊の夢。刻々と迫り来る終わり。この打ち上げ花火が全部打ち上げ終わると共に逢瀬は終わりを告げる。

 

 一夏は迫り来る時間を感じながらも束とクーとの逢瀬を楽しむ。クーと繋いだ手を少しだけ強く握ってこの至福の時間をめいっぱい楽しむのだった。

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