拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第59話

「手前は誰だ!」

 

 気が付けば一夏は不思議な世界にいた。真っ黒な何もない世界。されど、一夏の目の前にいる人物だけはなぜか認識できる。

 

『………』

 

 男は答えず、男の表情は影がかかっているのか、まるでテレビ映像でモザイクがかかっているかの如くその顔は笑っているのか泣いているのか怒っているのか何もわからない。でも、視覚情報で解る事が一つだけある。

 それは、自分も相手も全裸だということだ。自分はともかく相手が全裸であるかどうかはわからないが上半身裸の半裸であることには間違いないだろう。それだけは確実だ。

 

「言い方を変える。手前は何者だ?」

 

 一夏の問いには答えずに男は一夏に近づく。

 しかし、近づいて来るにも拘らずまるでぼかしが入っているかの如く男の表情は依然として解らない。

 

 

 やがて男は一夏の真正面に立ち、首を伸ばして一夏の耳に語りかける

 

『………俺はお前だよ。織斑一夏だ』

 

「!?」

 

 男の言葉が鍵と成っていたかのように一夏は男の表情が今度はハッキリと解る。

 自分と同じ容姿、顔。されど、違うのは男は邪悪に笑っていた。

 

『まあ、正確にいうなれば織斑一夏を構成する3つの心理である表層心理、深層心理、欲望の中の一つ欲望だよ。表層心理(お前)が忌み嫌う性欲を持った欲望だ。婚約者の姿はどうだった?』

 

「……」

 

『最高だったよな』

 

「……黙れ」

 

『何度あの体を犯したいと思っただろうな。世界で唯一お前(俺ら)に』

 

「黙れと言っている!黙らねえなら、死ね」

 

 激昂した一夏は冷酷に死ねというと織斑流拳術 断空手刀斬りで目の前の相手の首をはねた。

宙を舞う首は更にそれでも喋る。

 

『お前がいくら俺を殺そうとしても俺を殺す事は出来ない。お前が人間である限り生物のしがらみを、枷を否定することはできない。覚えておけ、俺はお前でお前は俺だって事を。俺はまた何度でも蘇る。俺はお前なのだから』

 

「…そうか、ならば安心したよ。これで気兼ね無く殺せ(ヤレ)るのだから」

 

 刎ねた首や刎ねられた体からは血の一滴も出ない。それは相手の発言を考えるならば思念体だからだろうとすぐに考え結論付けると一夏は地面に転がる自分そっくりの生首を思いっきり踏みつぶした。思念体だったせいか相手は一撃で黒い靄を出しながら消え失せる。足の裏から黒い靄が煙のように上へと舞うが気にしない。

 

「お前が俺ならば、何度でも何度でも遠慮なく殺せるのだから」

 

 解っていた。理解していた。

 さっきの相手が目の前に現れた時から出会った瞬間から理解していた。ただ、納得できなかった。そうでは無いと否定したかった。その思いが一夏を激昂させた。

 

「否定はできねえが、な」

 

そう呟くと暗かった周囲がいきなり明るくなり目をつむる。

 

 

「うう」

 

本日二度目の睡眠薬によって眠らされ目を覚ました一夏が居たのは浴槽の中だった。裸で浴槽の中に入れられており、風呂のお湯がほんのりと温かい。ズキリと痛む頭を押さえ湯気で視界を遮られながら浴槽から出ようと体を起こそうとした。

 

その時、風呂場の扉が開き風呂場に婚約者である篠ノ之束が体にバスタオルを巻きつけて入ってくる。

 

「ななななな、何で入って来てるんだよ!?」

 

「うん?だっていっくんの背中を流そうと思ったから」

 

慌てて浴槽の中に戻り視線を逸らす一夏とコテンと不思議そうに首を傾げる束。

 

「いや、頼んでないぞ!?」

 

「ふふん!頼まれてないからね。だってこれは私が私の意思でやってる事だからね。いっくんがNO R18.制限R15までって頑なに言うからその意思を尊重して……じゃじゃ~ん!水着で来ちゃいました~」

 

 バッと勢いよく束が体に巻き付けていたバスタオルを取るとそこには露出が少ない水着、スクール水着を纏っており豊満な胸は窮屈そうにしているがその胸の上にはシノノノ タバネと名前が書かれていた。

 

「いっくんの主張通り、私は自分からはしない。でも、趣向を変えていっくんがしたくなるようにさせる」

 

 クスリと蠱惑的な笑みを浮かべて束はゆっくりと一夏に一歩一歩近づく。

 湯気で最初は見づらかった光景が束が近づくことにより一夏の目にその光景が詳細に映し出される。

 

糞が、しくった!と内心己に憤怒しながらも男の性ゆえに好きな相手を見てしまう。

 

 やがて束は一夏が入っている浴槽に足の指先をつけ、徐々に入ってくる。ゆっくりと浴槽に入るしぐさも計算しづくされたのでは無いだろうかと思うほど一夏の中の性欲(欲望)をかき乱す。

 

 

「ま、待ってくれ!その前に一つだけ答えてくれ!お前が言ってたニャンニャンってのは、あ、あれか!?R18方面の大人の階段を上るやつなのか!?」

 

「フ、フ~ン。それも良いかもしれないね。この子の為にも」

 

そう言って束は愛おしそうに自分のお腹をゆっくりと撫でる。

 

「いやいや、待てよ!何故に俺がお前のお腹の子を認めない酷い父親みたいになっているんだ!?お前とは一度もそういう関係になった事は無いよな!?」

 

「……」

 

「おい、今何故無言で目を逸らした!?」

 

「実はいっくんが寝ている時に……」

 

「ハア!?おい、嘘だろ!?」

 

「うん嘘だよ」

 

あっさりと嘘だと発言した束に一夏は込み上げて来る頭痛にさいなまれ頭を押さえる。

 

「お、お前は……」

 

ドッと疲れが生じ魂が口から吐き出ていきそうな勢いで溜息を吐き方まで湯船に沈む一夏。

そんな一夏を見て束はクスクスと笑う。

 

「そうそう、いっくんの質問に答えてなかったね。それじゃあ、答えを述べよう。いっくん自分の頭を触ってみて」

 

言われるがままに自分の頭を触るとそこにはふわっと撫で心地の良いモノがあった。

そして一夏は自分の手がそれに触れている事がモロ解る。

 

「な、なんか頭に付いているんですが。束さんやこれは一体……」

 

ふっふ~んとドヤ顔で束はいつの間にか持っていた鏡で一夏の姿を見せる。

見慣れた顔。見慣れた髪。そして、見慣れぬ猫耳。

 

「って、猫耳!?」

 

「Yes!そう、その通りだよいっくん。因みに猫耳だけじゃなくて尻尾も付けておいたから!」

 

束に言われて一夏は慌てて自分のお尻の部分を見る。

真っ白な尻尾。尻尾の先にちょっとだけこげ茶色のシミが付いているがそれはそれは立派な猫のしっぽだった。

 

「………」

 

 あまりの唐突な案件に絶句し声も出ない一夏。

 フフと笑顔の束。されどその笑顔はもう悪魔の笑みにしか思えなかった。

 

「あ、因みに私もクーちゃんも猫耳に尻尾付きだよ」

 

「左様ですか」

 

 言われて気づいたのだが確かに束の頭にはいつもの機械で作られた兎耳ではなく紫色のリアル猫耳が付いていた。見れば束の後ろには紫色の尻尾が左右に揺れており、その尻尾の先には鈴が取り付けられ尻尾が揺れるたびに鈴の音が聞こえる。

 

「フフ、どうかな?束さんの印象は」

 

「その……凄くエロいです」

 

「え!?あ、あのもっと別の褒め方無いの!?」

 

「凄くHぃです」

 

「いや、言い方の問題じゃなくてだね――」

 

突如束のセリフを遮って浴室の扉がノックされた。

 

「父様?こちらにおられるのですか?」

 

「おお、クーか!?良く来てくれた!あれか?いや、あれだろ?俺に用事があるんだろ?うん、そうに違いない」

 

 急いで出ようとする一夏。危うくもうちょっとで理性が吹っ飛びR18方面に行きそうになっていた。

 

「チッ、クーちゃんもう起きちゃったか。さすが私の娘だね。計算じゃまだ起きないはずだったのに…クーちゃんが起きない内に既成事実を、と思っていたが仕方ないか」

 

「おい、こら束!お前中々えぐい事を考えていたな!俺の意見はガン無視か!!」

 

「フフーン、結果が出せればいいんだよ!その間の過程など結果で全て洗い流せるのだから。さあ、いっくん!私と子作りをしよう!待っててねクーちゃん。もうすぐクーちゃんの弟か妹かどっちか解らないけれども新たな家族を作るから!」

 

「ええい!お前は俺の結婚式を挙げてハネムーンに行ってからの初夜を予定していたんだが!?」

 

「フフ、いっくんは顔に似合わずに乙女チックな夢を描くね。されど、世界のカップルはハネムーンに行く前に初夜を済ませているのさ。故に今ここで夫婦の営みをしても問題ないわけなのさ。いや、寧ろクーちゃんのために確実に妊娠するまで私を犯して貰わないとね」

 

一歩一歩また近づく束を見て内心焦る一夏。

このままでは襲われて……いや、襲ってしまう。誘惑に負けて理性が吹っ飛び本能のままに行動してしまう。そうなれば夢が、未来が変わってしまう!

 

「ク、まだ両家に顔合わせにも行ってないというのに……俺の夢は、俺の理想は今日ここで潰えてしまうのか!?」

 

「さあ、いっくん!大人の階段を登ろうよ。確実に妊娠するまで何度でも何度でも夫婦の営みに勤しもうよ!!喜べ少年。君の望みは、ようやく叶う」

 

「お前はどこ見て言ってんだ!!」

 

「え?いっくんの股間のいっくんに向けて言ってるんだけれども」

 

「ク、お前には世間一般の女子が気にする雰囲気とか無いのか!?」

 

「フッフ~ン。私にはそんなモノ必要ないのさ。何故ならば何時でも何処でもいっくんを愛しているからね~」

 

面と堂々と宣言されて赤面する一夏。束の顔を、姿を見れなくなり顔を逸らす。

 

「およ?いっくんどうしたの?」

 

「……」

 

一夏の顔を覗き込もうとする束の顔を今の一夏ではまともに見る事は出来ず、また顔を逸らす。

 

「………」

 

「………」

 

「…………」

 

「…………」

 

一夏の顔を覗き込もうとする束とそれを察し顔を背ける一夏。そんな二人のくだらない攻防戦をしていると

 

「……ダ、ダメです!」

 

「およ?」

 

「フム?」

 

浴室の扉の向こうからクーの悲鳴に近い叫びが聞こえた。

 

「だ、だって、だって父様夜は獣になりそうですし、羽目を外して一晩中朝までハッスルして翌日私とのデートの時間を削られるのは嫌です!!」

 

「……クー」

 

その言葉にジーンと心を動かされた一夏。

なんと言うか、愛おしいと言う気持ちにかられる。

 

「んでも、今日は束さんといっくんとの逢瀬の時間と言う約束だよクーちゃん?故に束さんは実力行使をするのさ♪」

 

それを聞いて「嫌ぁ!」と泣き叫びながら浴室の扉を開けようとするが鍵がかけられているためガチャガチャと取手が音を発する事しか出来ない。やがて開けようとする事をやめて浴室の扉をドンドンと叩き始めるクー。

 

「開いて!」

 

「フハハハ、何人たりともこの時間は奪わせないよ。そう、それが例えクーちゃんでもね。あ、因みにその扉は防刃 防弾 対砲撃の三つを兼ね備えた束さんお手製の扉だよ。そう、名前は総受け君一号なのさ!」

 

「ええい!無駄な所で結構スペックの高い物を作るな!!ってか、それじゃあクーには無意味なんじゃないか?IS使われたら無意味じゃ……」

 

「あ…」

 

今気づいたのか束は間抜けな声を発し、それと同時に浴室の扉の向こうからクーの「撫子」と言う声を耳にする。すると、浴室の扉がバキンと破壊音を出しながらくの字に曲がる。

 

「父様、もうすぐです。待っていて下さい。もうすぐ……会えます」

 

一夏から見た今の現状は軽くホラーであった。半壊した浴室の扉の向こうから覗くクーの瞳。

その様は小さい子ならば泣いてしまう光景であろう。

 

何時の間にうちの娘は病んでしまったのだろうと思う一夏。

そうこうしている間に浴室の扉はクーの一夏直伝の撫子によって破壊され地に沈む。

 

「父様!助けに参りました!さあ、待ってて下さいこの色ボケBBAを倒して無事父様を救って見せますので」

 

「ムキー!いくら娘とはいえ束さんをBBA呼ばわり。そして、いっくんを独占しようとする愚行。そんな愚行は神であろうとも許さないよ!!」

 

 互いに腕と腕を掴み取っ組み合いをする束とクー。

 両者とも一歩も譲らない。

 すると束は胸を張る。プルンとその豊満豊かな胸は弾み、束はクーの残念な胸に憐みの視線を向ける。

 

「ごめんねクーちゃん。ちょっとその胸じゃあ、いっくんを満足させる事は出来ないよ」

 

 束の会心の一撃。その一撃はクーの心に的確にダメージを与えクーの理性を蒸発させる。

 

「■■■■■■■■■■■!!!」

 

 どす黒いオーラを全身から出しながらクーは徐々に束に掴み掛る力を上げる。

 

「あ、やばいかも。これ」

 

 徐々に力負けする束。押されるはずみでその豊満な胸がプルンと揺れその様は更にクーを激怒させる燃料となった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 親の敵を討たんと言わんばかりに束に襲い掛かるクー。徐々に力負けをする束。束の敗北は濃厚に近かった。

 されどこの状況を一変させることができる人物が一人存在していた。最早空気と化していたその人物は「こっちを見ろ」と大声で叫ぶと二人はその声につられて視線を向けると「頭を冷やせ馬鹿共が!!」との叱責と共に男は風呂のお湯に向かって撫子を放つ。男が浸かっていた風呂のお湯の殆どが男を中心に四方八方に飛び束とクーは頭から風呂のお湯を被る羽目になった。

二人が大量の濁流に近いお湯を頭から被る際に男は虚実の狭間を使い浴室から脱出。急いで体を拭いてバスローブを羽織ると浴室に戻り「飯を作っとくから、その間に二人で風呂に入って仲直りしとけよ」と言って浴室を後にした。

 

一夏がいなくなると二人の間に気まずい空気が流れ、最初に口を割ったのは束だった。

 

「……ごめんねクーちゃん。流石に言い過ぎたよ」

 

「すみません()様。私も暴言を吐いちゃいました。ごめんなさい」

 

「折角だし、二人でお風呂に入ろうか♪」

 

「はい!」

 

 風呂場から束とクーの楽しそうに互いの体を洗う声を聴きながらキッチンへと趣き、料理を始める。第三者から見ればその様は異様な光景だろう。何せ猫耳と尻尾をつけた修羅がバスローブを羽織り、キッチンで調理をしているのだから。されど、修羅はそれを良しとしている。今回は束とクーの執事、いわば従者である。故にその様に振る舞うのみ。

 

***

 

「さて、ここからは大人の時間と行こうか」

 

 あれから風呂から出た束とクーを待っていたのは一夏が作った大量の豪華な料理だった。

 クーと束は喜び、特にクーは大はしゃぎで年相応に目をキラキラと輝かせて料理を一心不乱に味わい、腹いっぱい食べたためかすぐに眠りについた。ソファーで眠るクーは束の膝枕ですやすやと眠っており、束は眠りについたクーの頭を優しく撫でている。

 

 娘と婚約者との食事をし終えた一夏は、素早く後片付けをし終えシャワーを浴びた。

 シャワーを浴びた後の一夏はバスローブを身に纏い、髪はほんのりと湿っている。手にはワインと二つのワイングラスを持ち、ワイングラスを一つ束に渡す。

 

 束がワイングラスを受け取ると一夏は持っていたワイングラスをソファーの隣にある机の上に置き、ワインを開け束のワイングラスにワインを注ぐと机の上に置いたワイングラスを手繰り寄せワインを注ぐ。真っ赤な赤ワインがワイングラスに注ぐとワインを机の上に置き、ワイングラスを持つと「乾杯」をし、チンと束の持つワイングラスと自分のワイングラスをぶつける。

 そして、一夏は持っているワイングラスの中に注いだ赤ワインを半分ほど一気に飲み視線を寝ているクーに向ける。クーの絹のようなきれいな銀髪を撫でるとクーは「ん」と少し嬉しそうに唇を吊り上げた。そんな様子を酒の肴にしながら一夏はチビチビとワイングラスの注いだ赤ワインを消費する。

 

「そう言えば」

 

ふと思い出したように一夏は視線をクーから束に向けると束に尋ねた。

 

「今日は一体どうしたんだ束?」

 

一夏の質問に束は飲んでいたワイングラスに注がれていた赤ワインをグビッと一気飲みし、ワイングラスを空にすると口を開いた。

 

「ちょっとね。少し心配になっちゃったんだよ」

 

「……」

 

「いっくんは私の婚約者だけれども、ふと思ったの。いっくんは今IS学園にいる。IS学園は99%女性しかいない。だからね、私がいっくんの婚約者でもいっくんも年相応の男の子だろうから目移りするんじゃないだろうか?ってね不安に駆られたんだ。私はいっくんよりも年上だから何時かいっくんが私を見てくれなくなるんじゃ無いかってね」

 

ごめん。嫌な女だよね私ってと心の内を暴露する束の言葉を聞き、自分のワイングラスに残っている残りの赤ワインを一気飲みし再び机の上に置いたワインを自身と束のワイングラスに注ぎながら口を開く。

 

「お前の心の内は解った。されど、その思いは杞憂に終わるだろう」

 

 そう言ってワインを机に戻し、自分のワイングラスに注いだ赤ワインをグビッと一気飲みする。ワイングラスが空になると空になった自分のワイングラスを机に置き、束のワイングラスを引っ手繰るとそれも机の上に置いた。

 

「いっくん?」

 

 そんな一夏の行動を呆然と見ていた束の頭を一夏は手繰り寄せる。束の頭は一夏の胸元で止まる。

 

「聞こえるか束。俺の鼓動が」

 

 確かに束の耳には一夏の鼓動が聞こえた。ドクンドクンと波打つ一夏の心臓の音色。

 

「この速くなった俺の心臓の音色は、他の誰のモノでも無い。お前のモノだ。断言しても良い。俺の鼓動をここまで高鳴らせる存在は戦闘以外でお前しか居ないと。故にお前の心配は杞憂に終わると断言できる」

 

 そんな一夏の宣言を聞き束は顔を真っ赤に染まらせる。

 

「それじゃあ、私はいっくんにとって特別な存在って事?」

 

「無論だ。と言うかだな、婚約者という言葉を理解しているのか?婚約者ってのは結婚を約束した者の事だぞ。俺とお前は共に結婚を、将来を誓い合った仲なのに何故それを否定する疑問を持つ必要があるのだ?と言うか赤の他人(虫けら風情)に欲情?目移り?笑わせるな!万が一、いや億に一でもありえん!!世界が滅ぶ以上にありえん。だが、お前がそんな事に疑問を、不安を抱かせる用になってしまった俺の責でもある。故に今一度ここで誓おう!織斑一夏はその生涯をかけ、お前を信じお前を愛し貫くと」

 

「いっくん」

 

「何も心配するな。俺はお前を愛し、家族を愛する。お前を悲しませる世界を下し、俺の家族全員が笑って暮らせる世界を創る。すでにその為の種は俺の手の中にある。種からは芽が出ている。本当に本当に小さな芽だが、それでも何れは世界を変える鍵と成る。何を言ってるか解らなくても良い。ただ俺を信じろ。信じて待っていてくれ。俺は何れ世界を変える。世界を変えたその時、俺はお前の隣にようやく立てるのだ。偉大なる姉の陰に埋もれた凡人が世界を変える事で皆から注目され、認められようやくお前の隣に立てれるのだ。お前の彼氏として、いやお前の人生の伴侶として胸を張って言えるのだ。それに、これはクーのためでもある。世界を変える事でクーを普通の人生を歩ませる事が出来る」

 

 二人の顔は近づき互いの唇が触れ合う。

 顔を真っ赤にした束の尻尾は左右に揺れその度に鈴の音色が部屋に響き渡り、そんな束の尻尾を一夏の尻尾は絡める。

 一夏と束だけの逢瀬は少ない時間でありながらこうして二人にとって濃密なかつ大切な思い出となるのだった。

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