拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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あらすじ

 幼児化した一夏。そんな彼の耳に飛び込んできたのは一つの凶報だった。


第61話

「………」

 

 クーとのデートを行った翌日、一夏は眉間にしわを寄せて頭を抱えていた。その様子は文字通りやっちまったなーと言った表情で顔をしかめていた。今現在も姿は幼少期のまま。されど、記憶はIS学園に入学した高校一年の年齢に戻っていた。体は子供、頭脳は大人。その名は織斑一夏!

 どこぞの週刊漫画雑誌の人気漫画と同じ状態になってしまった一夏は取りあえず記憶が戻ってから昨日の事を思い出すと自分の舌を何度噛み切ってしまおうかと考えたことやら。人生うまくいかないもので娘との姉弟プレイは記憶が無くなってくれたら好都合な事この上ないのだが現実はそんなに甘くない。

更に実の姉に見つかって問題発覚さあ大変。暴走するわ、「一夏を魔の手から守る!」とかほざいて監禁しようとしたりするわ。とち狂い迷惑な事この上ない事ばかりを起こしてくれた。

 

 様々な出来事が昨日の内に引き起こされ、濃密な一日であった事この上なかった。

 

「……糞が!!」

 

 思わず思いっきりそばにあった掃除用ロッカーを蹴ってしまう。

 全力で蹴ったアルミで作られた掃除用ロッカーは容易く穴が開き、大きく倒れる。普段の一夏がこんな事を行えば周囲に女子生徒がいればビクビクしながら一夏から離れていく事この上ないだろう。だが今は……

 

「こら!ダメでしょ織斑君!!掃除用ロッカーを蹴っちゃあ」

 

「そうだよ~」

 

……ビクビクするどころかプンプンしながら一夏が蹴り飛ばした掃除用ロッカーを起こし片付けてくれる。しまいには、一夏が蹴って穴をあけた事を判明すると

 

「どうする?」

 

「う~ん、先生に掃除中にロッカーに穴が開いてましたって報告しよう!」

 

「そうだね」

 

といった具合に一夏がやらかした事を温かい目で見守るようになった。

 

「………」

 

 その場を女子生徒達に任して一夏は窓から飛び降り、途中樹木の太い枝に乗り枝から枝へと乗り移りながら螺旋階段を下りるように地面との距離を詰めて地面に降り立った。

 普段ならば途中の枝に掴み落下の勢いを枝に肩代わりさせて枝をしならせることで地面に降り立つのだが今回はまだ自分の力の把握が出来ていない。

 

「ただ身体能力の低下は免れねえだろうが、な」

 

思い出す千冬との日々……

 記憶がない頃千冬が熊さんパジャマを買ってきて一夏に着させた事

 そして、その様子をカメラに一々納めていた事

 カメラを構える千冬の異様なプレッシャーと血走った眼を見た事。

 記憶を取り戻しフラッシュバックする昨日の出来事。

 

 碌な思い出しかない。されど、

 

「あの表情が見れて良かった」

 

 そう思えてしまう。

 あの楽しそうに笑顔を見せる娘の表情は嘘偽りなく本物であった。本当に心の底から楽しんでいた娘を思うと後悔しようにも出来ない。普段離れ離れの娘の我儘に付き合うくらい普段会えないことを考えると文句の一つも言えるだろうか?

 何も言えるはずも無い。何も出来ず、何もしてやれぬ自分にその権利などもとからなかった。

 

 様々な思いを描きながら一夏は人目を避けてMAKUBEXとSAKURAに調べさせた誰もいない空いているアリーナに向かう。アリーナに着くと一夏は自分の能力把握に勤しむ。

 

 

「思ったよりも酷いな」

 

 

 数時間後、息を切らし額にびっしり汗をかいて地面で仰向けになった一夏がそこにはいた。

 周囲には斬撃によって無数に抉られた地面、貫かれたアリーナのシールド。残りのアリーナのシールドとアリーナの壁には無数の斬撃の跡が残されており、その大きさは大きい物から小さいものまで大小さまざまな大きさだ。

 幼児化した一夏は己が身体能力を測定したんだが、酷いの一言に限る。握力 持久力 戦闘能力 耐久力が全て1/4以下にまで低下。虚実の狭間に至っては、30秒がほぼ限界。無論それ以上使用する事も出来るが肉体が疲労に耐え切れずに悲鳴を上げ戦闘中ならばどこかで致命的な隙となる。雪平弐型は生身で両手で持つ事が出来ず、ISをもってしても両手で振るう事が精いっぱいい。

 

「全くもって腹立たしくも嘆かわしいほど……弱い」

 

 

 そう、一夏が嫌いな弱者に一夏はなってしまった。

 

「全く、これじゃあ頭を使わねばいけねえじゃねえか!」

 

 一夏が頭を使わなくなったのもその力の所為だ。相性はあるが一度見た技を完ぺきにコピーする完璧再現(パーフェクトトレース)の存在こそ一夏を傲慢にさせ、頭脳を使わせなくなった理由の一つだ。驚異的な学習能力とも言えるその能力と身体能力の高さによって一夏はとある事情から意識を失い半分操られた状態ではあったが生身でISを使用した千冬と戦い、千冬の専用機 暮桜に深刻なダメージを与え今もなお、暮桜はその深刻なダメージを治癒するために眠りについている。

 身体能力の高さと驚異的な学習能力の高さによって一夏は考える事を殆どやめ、その圧倒的な力で今まであらゆる敵を沈めてきた。

 

「だが、悲嘆する事は無い」

 

 

 一見誰しも絶望しそうな状況に見えるが、これからを考えるならばこの状況は好ましい好機とも言えるだろう。何せ、肉体がリセットされたも同然なのだ。これは以前よりもより強くなるチャンスとも言えよう。

 織斑流拳術は全て頭の中に入っているし、体が覚えている。ただ、問題は身体能力が低下しただけだ。

 身体能力が低下したからと言って強者に勝てない理由にはならない。力がないのならば頭脳で補えば良いだけの事である。

 

『マスター、電話が来ております』

 

「繋げよ」

 

 突如寝転がっている一夏が身に纏った白式の画面にMAKUBEXが現れ電話がかかってきている事を知らせる。白式と携帯端末を接続した事によって一夏は白式を展開している時に携帯電話を取り出さなくても何時でもMAKUBEXとSAKURAの2機に指示を出す事が出来るようになった。無論、白式には教師が監視システムプログラムを入れているのだが、一夏はそのプログラム自体を壊しバグらせ偽りの報告をさせているのだ。MAKUBEXに指示をだし、SOUND ONRYの表示が出ると一夏は口を開いた。

 

「はい」

 

『若、マサです!』

 

 マサ、彼はかつて一夏が青狼会に殴り込みをかけに行った際に一夏と一戦交えたヤクザで青狼会のNO2腹刃のマサとして青狼会の構成員と幹部から絶対的な信頼と尊敬、恐怖で一目置かれている組長の懐刀。そのカリスマ性と頭脳、そして何よりも一夏が殴り込みをかけに行った際に一夏と何度も拳と剣を交えた強者で、その強さと頭脳を一夏は認め自分の携帯番号を教えた相手だ。そんな彼から連絡とはとても珍しく、初めてで嬉しくもありそれと同時に嫌な胸のざわめきがあった。

 

『……親っさんに口止めされていたんですが――』

 

 彼はそう前置きした上で言い辛そうな声で言った。

 

『――親っさんが瀕死の重傷を負いました!』

 

 そして、そのざわめきは正しかった。その言葉を聞き一夏は時が止まったような感覚に陥り頭が真っ白になる。

 

 

 

 

 

「昨日です。アメリカを牛耳るマフィア ギャングキングとの交渉に親っさんと幹部共々行きだまし討ちにあい、親っさんはワイ等を庇う形で拳銃で体に数十発の弾丸を受けました」

 

 迎えに来た青狼会のクラウンに乗り、一夏が青狼会の事務所に着き出迎えた幹部一同とマサに案内されながら事務所の中の広い和室に案内されるとそこには中央に布団を敷かれ、包帯を体に巻いた青狼会の親分が寝かされていた。

 

「………」

 

「襲撃に会い急いで事務所に戻って、つてを使って知り合いの医者に診てもらい、体の中に埋まっていた弾丸を摘出したんですが弾丸を摘出する治療の前にワイの手を握りしめて言うたんです。一夏(あいつ)にはこの事を伝えるなよ!と。一夏(あいつ)は今自分の道を歩いている。だから、今回の事を知らせてワイ等が一夏(あいつ)の道を邪魔しちゃいけんって。でも、でもワイはワイは!!それでも、若に、一夏さんに伝えなきゃと思ったんです!組の門を二度と潜る事が出来ない絶縁されようとも「マサ、ありがとう」……若」

 

 眠る組長を正座して間近で見ながら一夏はマサの言葉を聞き、一夏はマサを制しする。眠る組長の顔を見たまま静かな空気が流れ、マサと幹部連中は眠る組長を見る一夏の背中を黙って見守る。その場にいる全員の幹部連中とマサが何かの言葉をかけて欲しいとすら思った。罵りでも憐みでも何でも良い。

 ある種の地獄の様な長い長い沈黙がその場を支配し、その沈黙を破ったのは幼くなった一夏だった。

 

「マサ、これからの問いに答えろ。あれは?」

 

 そう言って一夏が指差した方向は眠りについた組長の向こう側の棚にある鹿の角の置物に掲げられた一本の刀だった。

 

「あれは、とある名匠の刀職人が折れた妖刀村正を溶かし新たに作り上げた一品です。組の守り刀として扱われています」

 

「……そして、その守り刀がこの様か」

 

 ふんと鼻で笑い、軽蔑の笑みを刀に向けながら一夏は立ち上がった。

 

「俺は嫌いなものが幾らかある。一つは理不尽だ」

 

 棚まで歩み、掲げられた刀を掴みゆっくりとその刀を鞘から抜く。

 

 

「そして、二つ目が役立たずだ。道具であろうが人であろうが役に立たぬモノを生かしておく理由ものさばらせておく理由もない」

 

 かつて初めて千冬に刀を持たせて貰った時の事を思い出しながら、一夏は元妖刀村正の刃に視線を向ける。綺麗な刃の模様。まるで魂が吸い込まれそうな位に魅了する刃。

 一夏はそんな刃に初めて刀を持った時に千冬から言われた言葉を思い出し眼を瞑る。

 

『一夏、重いか?だが、それが人の命を奪う道具の重さだ』

 

――解ってる。

 

『だが一夏、お前が刃を振るう事は無い。振るう必要など無い』

 

――あんたはそう思うか?確かに俺は結果として剣より拳を選んだ。だが、今は今だけは剣を取らねばならない。

 

 再び目を開き言葉を繋げる。

 

「守り刀としての役目が不服と申すならば、貴様にはこれから人斬り刀になって貰うとしよう」

 

 チンと鞘に剣を納め、寝ている親分の方向を向くと膝を立てて座り、鞘を立てて鞘から剣を少し抜く。

 

「これより織斑一夏は復讐悪鬼となりて親っさんに危害を加えた敵の首をここに並べるとしよう」

 

 金打を行い宣言をする。本来ならば互いの刃を打ち合わせるのだが、今回は一夏の一人の勝手な決意だ。だが、それは果たされなければ一夏は己が腹を切る決意の表れでもあった。

 

「親っさん、あんたはこうなる事が解ってたんかもしれねえからマサに口止めしてたんだろうが、俺は人間だ。世話になった人間が死にそうになってるのを黙って指をくわえて見てるほど人間出来てねえんでね。それに恩人が世話になったんだ。礼をしなきゃバチがあたるってもんだ」

 

 一夏にとって青狼会は身内のようなものだ。

 血は繋がっていないが、それでも一夏は恩義を感じている。恐らく親っさんが意識が戻って顔を出した事を知られれば叱責は間違いない。マサも叱責は勿論絶縁や破門状を突きつけられるかもしれない。

 だが、そうまでしてもマサは自分の為に今回の一件を知らせてくれたと思うとやはり心が動かされる。

 

 ギリっと歯ぎしりをして鞘に収まった剣を握る力を強めて一夏は立ち上がると、顔だけをマサと幹部連中に向けて剣を借りるぞと言い残し和室を後にした。

 

 

 横浜のとある港にある高級ホテルの最上階の一角で開いたパーティーに彼らは居た。

 

「いや、日本最大のヤクザ青狼会に深刻なダメージを与えれた」

 

「これで暫くは我々も日本で暗躍できるというわけだ」

 

「組長が不在ならば組織も組長の座を狙って潰しあってくれるだろう。足止めになればよし、瓦解すれば上出来と言ったところだな」

 

 彼らはその手にワインと軽食を持ち、舌太鼓に勤しんでいた。このパーティーも彼らが開いたもので青狼会襲撃成功を祝ってのパーティーだった。ホテルは監視カメラが各階に死角なく設置されており、警備も厳重だった。彼らがいる階は50階周囲に彼らが利用しているホテル以外で高いビルや建築物は無く、警戒する必要など普通は無い。そう、狙撃をするにしても狙撃はターゲットよりも高い所から行う。この高級ホテルのパーティーに参加者を狙撃するにはパラシュートで降下しながらの狙撃ぐらいしか狙撃できない。無論、入り口を狙っての狙撃ならば可能であろうが、この高級ホテルの最上階で開かれるパーティーは安全地帯と言えよう。

 

 

 そんなパーティーが開かれているフロアの更に上、屋上に彼は居た。

 

「……幼児化して失われるのは戦闘能力身体能力のみだ。無論痛くはあるがどうという事は無い。俺には未だハッキング能力とAI作成能力がある」

 

 すぐ真下で行われているパーティーは賑わっており、がやがやと楽しそうな声が屋上まで聞こえる。

 ふうと溜息を吐き白装束を身に纏った彼はその手に持つ黒いアタッシュケースと刀を地面に置き、アタッシュケースを開く。するとそこには戦闘用ドローンが2機入れられていた。

 

「本来ならば5機で行おうかと思っていたんだが……警備が手薄になるのは避けねばならんからな」

 

 携帯端末を操作して戦闘用ドローンを動かすと地面に置いた刀を拾いあげ、握りしめる。そして、ドローンがどいた事でアタッシュケースの中から姿を見せる夜叉の仮面。その仮面をアタッシュケースから取り出すと被り、屋上の端まで歩く。

 彼の体にはロープが巻きつけられており、そのロープは屋上の扉にしっかりと結ばれていた。

 携帯端末を操作して事前にハッキングしていた電力会社のメインサーバーに高級ホテルの電力をストップさせる。この高級ホテルはエレベーターを主に使っていて階段は非常階段しかない構造になっている。

 電力をストップさせた影響で高級ホテルそのものに電力が供給されなくなり、高級ホテル内は真っ暗になる。

 

「第一段階クリア。さあ、行け!MAKUBEX、SAKURA!!」

 

 2機のドローンを操っているのは彼が作り出した5機のAIの内の普段戦術・戦略用AIとして彼をサポートしているMAKUBEXとSAKURAだった。

ドローンは屋上から下の階のフロアでパーティーを行っている会場へと降りて、装備されている銃の引き金を引く。銃口から放たれる銃弾は窓ガラスに銃痕を残しながらゆっくりと会場を一周し始める。

 

 キャーと言う悲鳴が会場から闇夜へと響き渡るのを聞きながら彼は目を閉じて深呼吸をすると目を開き、手に持った刀を鞘から抜き飛び降りた。弧を描くように下のフロア目がけて飛び降り、反動を利用して窓ガラスに脚から突っ込んだ。銃弾を浴びた窓ガラスは非常に脆くなっており、彼はそれを計算して戦闘用ドローンを利用したのだ。

 

 彼がパーティー会場内に入った為再び悲鳴が会場内に鳴り響く。その悲鳴をBGMにしながら彼は夜叉の仮面の下からゆっくりと言った。

 

「我は白夜叉。復讐悪鬼白夜叉なり。此度我が恩人に与えられし礼に返礼すべく参上仕った」

 

 月夜を背にきらりと輝く白銀の刃を握りしめ白夜叉はパーティー会場を見渡す。

 だが、ギャングキング達はそんな急な来訪者を歓迎する事は無かった。

 

「おい、馬鹿がいるぜ!」

 

「飛んで火にいる夏の虫だ!」

 

 急な来訪者には鉛玉で返礼するのが彼らの流儀。

 警備の部下達が招かれざる客に向けてスーツの下に隠していた拳銃を取り出すと一斉に銃を向ける。

 十数もの銃口が白夜叉に向けられた時、白夜叉は仮面の下で静かに呟く。

 

【虚実の狭間】と。

 

 普段のそれと比べ物にならない程にまで、それは劣化しているがそれでも生身で残像を制限時間付きではあるが作り出す事が出来る。残像を作り出しながら彼は更に技を繰り出す。

 

【双頭の蛇】と。

 

 虚実の狭間と組み合わさり一振りで2回の斬撃を銃を向けた相手の手首に向けて刀を振るい白銀の刃が暗いパーティー会場を舞う。暗いパーティー会場のいたるところから手首が宙を舞い、血のシャワーがパーティー会場のあちこちから噴出される。

 何時しか白夜叉が身に纏う白装束は血で赤く染まり、白夜叉の仮面も口元が血に塗られていた。今の白夜叉は確かに夜叉だった。人の肉を食らい血を啜る鬼神の性格を持った夜叉。そんな夜叉の如き様子の白夜叉は会場内に居た。会場内の自分に向けられた銃口を全て手首を切って無力化し、戦意をそぎ落とす。

 

 

「手前!」

 

 そんな一方的な無力化に激昂したのはギャングキングのボス。自身の手下の戦意喪失と急な来訪者による襲撃に怒りを隠しきれず隠し持っていた拳銃を彼に向ける。

 

 彼があっという間に無力化したがそれでも制限時間付きで、その制限時間は間もなく終わりを告げようとしていた。

―5秒

 彼が向けられていた銃口に気付き、

 

 

―4秒

 その相手との距離を詰めるために駆け出し

 

 

―3秒

 相手との距離を詰め

 

 

―2秒

 相手の拳銃に対して血塗られた刀を振るう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―1秒

 相手の拳銃を持った手を手首から斬り飛ばし、拳銃を持った手が宙を舞い刀の剣先は相手の咽に向けられていた。

 

「……これで解った筈だ。お前等では我には勝てぬと」

 

 襲撃開始から29秒。29秒で拳銃を向けて来た相手を手首を斬り飛ばして無力化させた。その武を持って、圧倒的な力を持って屈服させた。30秒制限の無敵時間は後1秒ぎりぎり残っており、彼はまだ動ける。まだ戦える。虚実の狭間は使っての戦闘は出来ないだろうが、撤退の際の切り札として使える。

 摩天楼の君主正義(ジャスティス)総帥(リーダー)として君臨し人間離れしたその身体能力は幼児化してもその名残を見せ、一般人高々銃を片手に名を欲しいまでにしているチンピラギャングでは格が違った。摩天楼の君主正義(ジャスティス)総帥(リーダー)として君臨するならば肉体も頭脳も必要とし、更にカリスマ性も持たねばいけない。拳銃を見せびらし、チラつかせ、拳銃を銃を片手に名声と栄誉を欲しいまでにしているギャング達とでは次元が違う。

 

 単騎での襲撃に圧倒的な身体能力による鎮圧、そして何よりもカリスマ性がその場を支配し、全ての視線が彼に集まる。

 

「我が求めるは青狼会を騙し討ちと言う形で襲撃し、我が恩人である組長に銃弾を浴びせた下手人の首。貴殿に問おう。誰だ?」

 

 咽に突き付けられた刀が更に咽に食い込み、皮膚から僅かながら血が流れる。

 その問いを拒めば咽に突き付けられた刀が咽を貫くことは容易に想像がつく。

 

「………」

 

「……答えぬ、か。仲間意識かそれとも心当たりがあり喋らぬかは知らんがそれも良かろう。ならば貴殿の心が変わるまでこの刃を振るうとしよう。貴殿の心が変わるまでの間に一体どの位のモノが失われるであろうか?」

 

 目の前の白夜叉は躊躇無く、躊躇う事も、迷う事もなく、ただただまるで作業をするかのように人の領域を超えた肉体で白銀の血塗られた刃を振るう。

 

 一閃

 白銀の刃は残っているもう片方の手を手首から斬り飛ばし、両手を奪う。

 

 二閃目

 白銀の刃の剣先はギャングキングのボスの右足の甲を貫く。

 足の甲から血が流れ、ギャングキングのボスは顔を苦痛に歪ませる。

 

 三閃目

 無傷の左足を足首から斬り落としギャングキングのボスはバランスを失った。

 

「……これで両手両足を貴殿は失ったわけだが……未だ答えぬ気はないと見える。ふむ、それでは更にその体に訊くとしよう」

 

 まるで無邪気な子供が虫の手足を引きちぎって遊ぶように小さな白夜叉は、その小ささ故に残酷な雰囲気をさらしだす。その手に持った刀でギャングキングのボスの手足を刺し始める。

 その様子はまるで無邪気な子供の様に何度も何度もギャングキングのボスの手足を刀で突き刺し、やがてギャングキングのボスの服は血で真っ赤に染まった。

 

「ああ、いけない。いけない。下手人を知る前に死なれてしまっては元も子もないからな」

 

 そう言って彼は指突経血を行い、血の流れる速度をゆっくりにする。

 これでギャングキングのボスが失血死する事は無くなった。ボスの命は白夜叉の手によって無理やり繋げられる。

 

「さあ、続きを行うとしようか。何、時間はまだある。貴殿の心が変わるまでゆっくりと貴殿の体に訊ける。さあ、下手人は誰かな?」

 

「あ、ぐ、ああ」

 

 既に痛みでしゃべれないギャングキングのボスに対して失望の表情を浮かべる。

 

「ああ、情けない。長たるものがこの程度の力で、この程度の意思で、この程度の思いで彼らの上に立ちボスを名乗るとは……」

 

 白夜叉にとってみれば、ギャングキングのボスは弱かった。力も意思も思いも全てが弱かった。仮に白夜叉が逆の立場になったとしても「誰が言うものか!糞くらえ!!」と喚きあざ笑っていただろう。IS学園の生徒会長、正義(ジャスティス)総帥(リーダー)、対暗部用暗部更識家当主の3つの長として君臨する彼にとって同じ長であるギャングキングのボスは長とは認めがたい存在だった。

 

「我は今まで敵対した者達には服従か死のどちらかを選ばせていた。だが、君には失望を隠しきれない。もう良い。無用な争いも血も流さないようにするつもりだったが気が変わった。ギャングキングの全ての者の首を頂くとしよう。そうすれば下手人が判明せずとも全ての首を並べれば、犯人にたどり着ける。そうだ!そうしよう!!下手な慈悲などをかけるべきではなかったのだ。良いか?これが結果だ!貴殿が選択した結果。この結果を招いたのは貴殿だ。そして、その結果の要因となったのは下手人だ。この結果は貴殿が弱かったからに他ならない。力も頭脳も弱いが故に招かれた当然の結果だ」

 

 仮面の下から淡々と決定した意思を伝える。

 残酷にして冷酷なその決定はギャングキング全ての者を皆殺しにするという事に他ならない。

 

 慈悲もなく、感情すらも抱かぬまま機械の様にその白銀の刃を振るい会場内にいるギャングキングは勿論、本国のアメリカにいるギャングキング達は全て小さき白夜叉の手によって命を奪われるだろう。自らが手にした地位を失う事は非常に惜しい。惜しいが、だが己が選択で今度は間違えないようにしなければいけない。今度選択肢を間違えれば取り返しのつかない事になるのは明白だった。

 

「ぐ……ま、あ、ま、待ってくれ!」

 

 痛みが全身を襲い意識が飛びそうになるが、体に鞭を打って口を動かす。

 

「わ、わ た しが命じた」

 

 彼が最後に見せたのは長としての矜持。己の部下達を死なさせるわけにはいかないという固い意思。

 それは称賛に値する行いだった。

 

「……そう、か」

 

 血塗られた白銀の刃の剣先をギャングキングのボスに向け、その首を切り落とそうとした時、不意にクーの悲しそうな表情が浮かんだ。

 現状警察が介入するならば一夏は傷害の容疑で逮捕されることは勿論、銃刀法違反の容疑でも逮捕されるだろう。犯罪者の父親を持ち、ここに人殺しの罪まで増えた場合――

 

「……だが、だがそれでもやらねばならないのだ!!」

 

――解っている。理解している。

 更識家の当主になった時から理解していた。対暗部用暗部更識家当主になれば人を殺す時に殺さなければいけない。

 いや、もっと前から。白騎士事件の時から解っていた。いつか人を殺めなければならない時が来るという事を。

 

 白銀の刃を振るう。

 血塗られた刃は血しぶきを上げながらその首を落とさんと言わんばっかりに鈍い光を放つ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガギ―――――ン!!

 

 かん高い金属音がギャングキングのボスの隣で発せられ、床には刀が半分以上刺さった状態だった。

 

「………此度、貴殿の判断は長として称賛に値する行いだった。故に我の復讐はこれにて矛を収めるとしよう。だが、貴殿がやらかした事については水に流せぬ。故に、すぐにこれから青狼会の本拠地に一人で行き組長に謝罪せよ。謝って許されることではないが、それでもせよ。さもなくば、今度は本当にアメリカにいるギャングキング全ての者の首が胴とさよならをする事になる。これは警告だ!次は無い!!」

 

 そう言って床に刀身が半分以上埋まっている刀を引き抜くと鞘に納め、床で横たわるギャングキングのボスに背を向け最初に突入して割ってきた窓の淵まで行くと

 

「来い!MAKUBEX、SAKURA!!」

 

 一夏の命令によって暗い闇夜から二機のドローンがパーティー会場内に侵入する。その二機は戦闘用のドローンで普通のドローンの10倍の馬力を持つ戦闘用と言うよりは軍用と言っても差し支えない一夏作のドローンだった。襲撃の際に装備していたマシンガンは捨てられており、代わりに二機のドローンはロープで繋がれた状態で並走していた。

 

 白夜叉がそのロープを握ると二機のドローンはそのまま彼を暗い闇夜へと運ぶ。

 普通のドローンならば幼児化したとはいえ、子供一人を運ぶ事など出来る筈がないのだが一夏が作った戦闘用ドローンならばそれが可能だ。

 暗闇に紛れ、ドローンに運ばれながら一夏はビルとビルの間を通り抜け、徐々に高度を下げながら低空飛行を行い白夜叉は地面に着陸する。すると、そこには迎えの者が来ており迎えの者は車の扉を開けたまま待機していた。

 

「ご苦労」

 

 労いの言葉を言いながら車に乗り込むと車はすぐに発進した。

 車の窓から見える夜の街を見ながら仮面を取ると血塗られた白装束を着替える。

 

「お疲れ様です。日本に今回の一軒で入ったギャングキング達はしばらく落ち着きを見せるでしょう」

 

「……そうだな。それどころか下手をすれば日本から手を引く事も考えられるな」

 

 今回の襲撃は個人的な私怨と更識家当主更識楯無としての二つの要因によって引き起こされた。まず、更識家当主としては青狼会が組長襲撃を受けて監視の目が弱まっている為、ギャングキング勢力が日本内に増幅するのを防ぐために態々自らの危険をさらしてまで襲撃を行った。無論、個人的な私怨もあるがこれにより青狼会の組長が復帰するまで睨みを効かせる事が出来る。

 単なる復讐ならばパーティー会場のフロアを丸々爆弾で爆発させたり、外国産のミサイルをホテルにぶち込んだりすれば良かった。

 だが、今回の襲撃で難攻不落と思われる厳重な警備を施されたパーティー会場を単騎で襲撃する事で白夜叉に対しての万能さを醸し出し不安を増長させる事で水面下での暗躍に睨みを効かせる事が出来る。

 

「それと、報告です。ゼロが動き始める様子を見せているとのことです」

 

「……そう、か。今回の一件でゼロ様の仕事を奪ってしまった事を口実にちょっかいをかけられるかもしれん。これから忙しくなるな」

 

「はい」

 

 彼を乗せた車は更に速度を上げて海上マリンブリッジを走る。

 海の上から見えるその美しい光景は街の光が海に反射し息をのむほど美しかった。

これが束やクーと見られたらと思いながらも彼の思いは到底叶う筈はない。 

 

『一夏』

 

 そんな一夏を窓ガラスの中の世界で見守りながら男は一夏の名前を呟く。その瞳には悲哀の色を隠しきれずに、ただただ一夏を見守る。

 

『君は……』

 

 彼は一夏がギャングキングを襲撃した際にも窓ガラスの中の世界に居た。

 襲撃の時からずっと窓ガラスの中の世界で一夏を見守っていたのだ。そして、万が一の際一夏が人を殺める時はガラスの中から出て来て止めに入るつもりだった。

 

『運命に、世界に抗うというんだね。解ったよ。物語も大分変ってきた事だし、あまり介入するつもりは無かったし、介入してないつもりだったんだけれどもこれ以上の接触は極力避けた方がいいか』

 

 彼はそう呟くとガラスの中の世界から消える。

 するとガラスの世界は消え、ガラスは普通のガラスへと戻るのだった。

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