拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第63話

 一夏が 正義(ジャスティス)を解散させ、ギャングキングと青狼会の長となって数日の間に色々な事が起きた。ギャングキングはやはり一夏の読み通り賛同するものと反対する者の真っ二つに組織は分断し、IS学園から出て更識家に移動するまでに襲撃が何回かあった。主に一夏が一人になった時を狙っての襲撃が多かったがそれでも次第に人目をはばからずに襲撃する事が度々起き、千冬に襲撃された事が知られる結果となり、その時はその場をごまかしたのだが早急にこの事態を対処しなければいけなくなった。

 

 そこで一夏は更識家当主としてアメリカのギャング偵察と称してアメリカに渡り、反対派との会合を行った。

 反対派としては千載一遇のチャンス。

 今まで何度も刺客を送ってきたが全て返り討ちにされ暗殺を失敗。その相手が態々自分の陣地に飛び込んできたのだ。鴨がねぎを背負って来たとはまさにこの事。ありったけの銃と狙撃手、暗殺者を成功報酬で雇い会合に臨んだ。

 挨拶と同時に一夏一人に向け数十丁もの拳銃が向けられ、同時に何人もの狙撃手が銃口を一夏の額や心臓、体に向ける。

 暗殺者が自分の得意な得物に手を伸ばし隙を窺う。

 

 一人で会合に臨み、絶体絶命の状況なのに一夏は笑っていた。

 

「ハ、馬鹿共めが!!これを見な!」

 

 一夏が勢い良く羽織っていた服を脱ぐとその真下には周囲20~30メートルは吹き飛ばす量の手榴弾が一夏の体に巻きつけられており、一度爆発させれば自分たちを巻き込んでしまう火力に逃れる術など無い。

 

 驚きの表情で銃を向けたまま固まるギャング。

 狙撃手はスコープで狙いを定めたまま動こうとしない。

 

 何故なら依頼人が殺されれば報酬などもらえる筈がない。そうなってしまえば骨折り損である。

 

「俺がのこのこ敵の陣地におとなしく殺されに行くと思ったか?だと思ったらおめでたい頭をした馬鹿共だな!俺がこれを爆発させてもISがあるんだ。死ぬのは手前らだけだぜ。手前らが悪いんだ……俺に銃を向けるからよぉ!!俺は交渉のテーブルに着いたのに手前らは俺を殺すつもりで銃を抜いた。その結果こうなったわけだ」

 

 ニヤリと邪悪な笑みを見せながら一夏は続ける。

 

「さあ、皆仲良くおっ死んでくれや!!……と言いたい所だが、チャンスをやる。互いを殺せ、殺しあえ!最後に生き残った奴に俺と生身で勝負するチャンスをやる」

 

 蠱毒と言うのをご存じだろうか?

 比較的大きな壺の中に百足やら蛇や蛙を入れて共食いさせ、その中で生き残ったものが神霊となり、これを祀る。この毒を採取して飲食物に混ぜ、人に害を加えたり、思い通りに福を得たり、富貴を図ったりする。人がこの毒に当たると、症状はさまざまであるが、「一定期間のうちにその人は大抵死ぬ」とされており、一夏はこの人間版を行おうとしていた。

 戦わせ生き残った者と戦い勝つ事で更に強くなると思っていた。

 

 残酷だがその思惑は概ね正しかった。第二次世界対戦で生き延びた兵士は過酷な戦場の中で磨かれたスキルは目を見張るものがある。所属された場所にもよるが陸上部隊に配属されれば勘も冴え、周囲への警戒心や気配の消し方、走る速度や敵と遭遇した瞬時の判断力等が目を見張るものがあり、純粋な力も凡人と比較して格段に上の存在となりえる。ただ唯一の間違いとしては一夏の望むレベルに成りえるかどうかだが、それでも摩天楼に居た時の連中よりかは使える。

 摩天楼には暗黙のルールがあった。それは宣言したわけでも、させた訳でもなかったがたった一つのルール。

 相手の命を奪ってはいけないという暗黙の了解が摩天楼にはあった。

 無論そうであろう。正義を名乗る人間が命を奪えば悪になるのは火を見るよりも明らか。何よりも命を奪ってしまえば相手が更に強くなって自分のライバルとして、敵として現れなくなってしまう。それでは、可能性を一つ潰してしまう。

 故に摩天楼では一度たりとも命を落とした者は一人もいない。

 

 どちらがより強い者が出る方法なのか解らない。

 だが、一夏は何れ自分の望んだ未来を叶えるために立ち塞がる敵を殺さなければいけなくなる時が来るかもしれないと思った時、果たして相手を殺せるかと言う疑問が残る。

 

 もう単なる摩天楼の主ではなくなった。IS学園の生徒の長、更識家当主、ギャングキングと青狼会のボスとして君臨するようになった一夏の足元には数万人、数十万人もの人々の命があるのだ。

 

 この人々を使って独立国家をつくり、その創始者となる事が一夏の今の目標である。

 他国よりも優れた技術を有し、その技術を保有した国家となる事で他国の追随を許さない国家の主となる事で世界を下す。そうする事で束とクーを迎える事が出来る。一緒に暮らす事が出来る。

 

 他国の総理大臣や大統領、天皇等リーダーの伴侶を誘拐や殺したりすれば戦争は間違いなし。

 優れた戦闘技術や高い軍事力を保有し、殆どが修羅やドロップアウター達で構成された国のリーダーの伴侶や家族に指一本でも触れれば瞬時に宣戦布告し虐殺を行う。そう宣言する事で束やクーを千冬を守れる。

 

 当初、藍越学園に入って日本を内側から変え、束やクーを千冬を護ろうとしたが無理だった。ならば、別の方法でアプローチをすれば良いだけだ。結果が出せればその過程など無意味。

 

「ハアハアハア」

 

 思考の海から戻ると息を切らしながら最後に立つ勝利者がいた。

 勝利者の周囲一面には屍と血の海が出来上がり、死と硝煙の臭いが辺りに充満していた。

 

「良く耐えた!死の波に苛まれながらも生き残り最後に立った勝利者よ。汝に宣言通りの生き残るチャンスを授けよう。この俺を倒せたら、な!」

 

 死の波に苛まれながらも過酷な戦場を生き残った勝利者。

 修羅の国にて常時勝利を納めた勝利者。

 

 どちらも勝利者成れどもその有り様は違う。

 

「我が名は織斑一夏!世界に反逆の狼煙をあげる男!!死の波に苛まれながらも生き残った勝利者よ、汝の名を問おう」

 

「俺の名はドナルド・ボーン」

 

「そうか、ドナルドよ。今一度汝に問う。俺に忠誠を誓う気は無いか?今ならば過去の事は水に流そう」

 

「悪いが、俺はもう誰にも仕える気はないんでね!」 

 

「そうか。残念だ。だが、武器と一つにならなければこの俺を倒せぬぞ?武器の威力を過信し、武器を自分の力と思い込む雑魚にこの俺は負けてやる気にもなれんぞ?」

 

「ならば安心しな!この身は武器だけを使って来たわけじゃない!元米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)を舐めて貰っては困るな」

 

 その言葉を聞いて成程と思ってしまう。

 元米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)。戦争好きなアメリカの元軍人。

 戦場と言う名の死の波にさらされながらも生き抜いた生粋の強者。戦場にどの位の期間居たかは解らないが先程の戦闘で戦闘の勘を取り戻した結果となった事は事実であろう。

 

 宝石の原石が思わぬ所で発見してしまい失うには惜しいが、本人が誰にも仕える気が無いと言うのならばもう、手に入らぬ人材なのもまた事実でしかない。思考プラクティスによる洗脳教育を用いればあるいは……と思ってしまうがそれには膨大な時間が必要となる。何故なら、思考プラクティスの教育時間には本人の性格が反映され、反発する人物であればその性格を再教育し、性格を変えてからの教育となる。従順な者や賛同する者、共感する者程思考プラクティスの効果は反映され、最大の効果は織斑一夏と全く同じ考えを持つ可能性があるという事だ。

 この効果は絶大であり、一夏が戦闘で手が放せなくても一夏と同じ思考回路を持つ者がいればより効率的に動く事が出来る。

 

 戦闘力は解らないが一夏と同じことを考え、思考を共有出来るようになればそれは世界に対して十分な脅威になりえるだろう。

 

「「………」」

 

 無言で対峙する二人。

 

「良いのか?既に消耗した体では俺に勝つ事は困難を極めるぞ?それにその消耗した装備では満足に戦う事は出来ぬだろうが……」

 

「お節介をどうもありがとうよ!確かに俺の装備は消耗されて普通に考えれば無謀極まりないだろうが、戦場じゃあ救援物資を届けるヘリが撃墜されるなんて良くある事だ。これで良い。人を殺すのに銃である必要はないのだから。ボールペンだろうが、何であろうが相手を殺せれば別に武器が何であれ構わない」

 

 その言葉に素晴らしいと心の中で手を叩きながら称賛する。

 確かにそうだ人を殺すのに何もわざわざ武器である必要などない。人を殺したいのならば首を絞めればいい。首を180度転換させればいい。人を殺すのに武器である必要などないのだ。素手でだって人を殺せるし、鈍器で殴れば撲殺出来る。

 

 拳を構える一夏とそんな一夏に対峙する敵。

 二人はそこから繰り出されるであろう攻撃を脳内でシュミレートする。

 

まず一夏は敵が構え、その手に持つ武器から攻撃されるであろうパターンをシュミレーションする。

 片手に銃。もう片手にはサバイバルナイフ。ナイフからは血が滴れており何人をその刃で斬り、命を奪ったのかを考えさせる有様。銃はコルトパイソン。ぶっ放せる装弾数6発と心もとない数字ではあるが代わりにマグナム弾をぶっ放せる凶悪な代物。

 今までのバトルロワイヤルで使わなかったとしたらその装弾数は6発。

 

 敵が認識するのは何も武器を持たず、拳を構える一夏。

 どんな攻撃をしてくるのか解らない。暗器、隠し武器による攻撃かも知れない。

 

 

「安心しな。武器はこの拳だ。当たれば死ぬほど痛いぜ」

 

 そんな心配は杞憂だと言わんばかりに拳を構えた一夏は不敵に笑う。

 目の前の敵から放たれる殺気。自身を殺そうとする殺気にゾクゾクしながら体の内側から猛る高揚感を味わう。自分を殺そうとする相手を殺す。初めて人を殺す。

 

「!」

 

「!!」

 

 両者は互いに無言で駆け、距離を詰める。

 そして、ドナルドが持つナイフが鈍いきらめきを放ち一夏に向けて振るわれる。その剣先は一夏の首。自分の首を落とそうと向けられた斬撃を躱した一夏に更なる追撃がかかる。

 

 コルト・パイソンによる追撃。

 名銃の中の名銃の弾丸はマグナム弾。当たれば損傷は激しい。

 

「だ~ら、セイヤあああああ!!」

 

 コルト・パイソンを横殴りで無理やり銃の軌道を変更させ、お返しと言わんばかりに殴りつける。

 

ドン!

ダン!!

 

 ドナルドの体に深く、深く一夏の拳がのめりこみドナルドは腹部から全身にかけて衝撃が駆け抜ける。

 その弾みで、無理やり軌道を変えさせられた銃の引き金を引いてしまい何もない所に発砲してしまった。衝撃による全身の硬直は一瞬ではあるがドナルドに致命的な隙を作り、それを見逃すほど一夏は甘くはなかった。

 

「織斑流拳術螺掌穿」

 

 片手を螺旋に捻りながら上半身を捻り、腰を沈める。

 捻った片手は掌底の構えをしており、限界まで溜めてその一撃を放つ‼

 

 

 その一撃は正中線に目掛けて振るわれ、ドナルドの体内には逃れられぬ衝撃が走りくの字になりながらドナルドは腹を抑えるような形をとってしまう。

 

「貴殿に敬意を表し、我が禁じ手を使うとしよう。その心臓貰い受ける‼――裏織斑流拳術螺旋貫手」

 

『不味い‼それをやらせてしまえば、もう引き返せなくなる!歴史が……繰り返される!!』

 

 その様子を見ていた傍観者に徹していた人物はそう叫ぶと能力を開放する。

 

 

 再度捻られた一夏の手。今度は掌底の形ではなく何かを抉り取るような形だった。

 その手の指先に神経を集中させ、狙いを定めると同時に瞬時に距離を詰める。

 

 一夏の指先はドナルドの胸を穿ち、心臓を貫いた。

 堅牢な胸骨をへし折り、曲げたりするために一夏の指は5本の内4本があらぬ方向や脱臼によってダメージを受けるが重要臓器である心臓を貫き、血液の循環を止める。心臓を貫いたせいでポンプの役目をしていた心臓からはおびただしい量の血液が溢れ出てその血は腕を赤く染める。噴水のように溢れ出る血液を浴びながらも一夏は心臓に刺さった自分の指を抜いた。

 

「……若輩化した影響で体が弱くなっているな。この様では……度し難い」

 

 あらぬ方向に曲がった指を見ながら呟くと一夏はあらぬ方向に曲がった自分の指を戻し指についたドナルドの血を自分の首に、横に塗った。首についた血の線はまるで首輪のようで

 

「お前がいた証。この首輪はお前がいた事を証明する。そして、俺が怨嗟の鎖に縛られる結果を表す物だ」

 

 その首輪をしたまま脱臼した指を直すと一夏は屍の海を後にした。

 死屍累々の凄惨な現場に残された暗殺者や狙撃手らは依頼人が死んだ事で報酬が受け取れなくなったため、一人また一人と凄惨な戦場を後にすると傍観者は現れ、ドナルドの傍にへと足を運ぶ。

 

「良かった。何とかぎりぎり能力開放に間に合ったみたいだ」

 

 額に珠のような汗をびっしりと浮かべながら傍観者は片膝をつき、

 

「織斑流拳術刺突経穴」

 

 ドナルドの体の経穴を突き、流血を緩やかにする。

 

「良かった。一夏が若輩化した影響で彼の体もまた弱体化していた。そのお陰で僕の能力発動時間が間にあった」

 

 額の汗を拭いながら彼はドナルドに応急処置を施すとドナルドを抱えたまま能力を開放する。

 突如白銀の煌きが彼を覆い、眩い光と共に彼はドナルドと共に姿を消した。

 

 

「……ここは?」

 

 瀕死の重傷を負ったドナルドが目を覚ました場所は手術室のベッドの上だった。

 体を動かそうにも拘束されており、眼と首を動かして周囲を見渡すのが精一杯の状況だがそれでも周囲を見渡し現状把握に勤しむ。

 

 ベッドの上に寝かされ、ドナルドの体の上には薄いビニールが被せられており、部屋にはメスやら手術用器具とみられる道具が並べられている。

 バシュッと部屋に唯一ある出入り口と思われる扉が開き男が部屋に入ってくる。

 

「あ、意識を取り戻したようだね。自分が誰だかわかるかい?」

 

「ここは?」

 

「はい、先ずは僕の質問に答える。んで、君は自分が誰だかわかるのかい?」

 

 ハアと溜息を吐きながらドナルドは渋々答える。

 

「俺の名はドナルド。ドナルド・ボーン」

 

「はい、正解。記憶の混雑も見受けられず手術成功っと。正解ついでに君の質問に答えよう。ここは僕の研究施設。君は一夏……織斑一夏を襲撃・暗殺しようとして失敗し、逆に彼に脅されながら組織内で殺し合いをさせられ唯一の生き残りとなって一騎打ちの決闘をし、敗北。ここまでが君の記憶だと推測されるんだけれども相違点はあるかい?」

 

「……無い」

 

「そうか。ならば、その後の事を教えてあげよう。本来の歴史(物語)とは違う歴史(物語)を、ね」

 

 そして、ドナルドは聞いた。

 愛に狂いし()歴史(物語)を、その結末を。

 

 知ってしまった。

 あまりにも悲惨で、誰も喜ばず、誰も幸せになれない結末(終わり)を。

 

 

「僕は、介入者だ。物語に介入する編集者。僕の能力を使って心臓を穿たれる筈だった君を助けたのも物語の終わりを変える為に力を貸して欲しいからだ。彼が君を真に殺した時点で物語は繰り返される。同じ(ストーリー)を、結末(終わり)となることが確定してしまう。だから、だからこそ君を助けた」

 

 だから、力を貸してはくれないだろうか?と彼はドナルドに手を差し伸べる。

 

「……そのふざけた結末(終わり)に納得いかなねえ!俺の、俺の命を奪おうとした男は間違いなく、強かった!あの強さは本物だった!!なのに、なのにそんな男の結末(終わり)がそんなんだなんて納得いかねえ‼だから、だからお前の力に成る」

 

「そうか、ありがとう。残念ながら僕の能力を持ってしても現時点で物語を変えられる可能性は数%にも満たないが、それでも協力はしてくれるよね?残念ながら言質はとってあるよ?」

 

「……………お、男に二言はねえ!!」

 

「そうかい?やけに長い間、おまけに声が震えていたんだが?」

 

「き、気のせいだ!」

 

 クスクスと笑う男を見て拘束されているドナルドは思った。

 

『こいつ、良い性格してやがるな』と。

 だが、この出会いが物語を変える、小さくくも大きい瞬間だった。

 

 そして、物語は新たなるページが刻まれる。

 空白のページに綴られる結末(終わり)は喜劇か、はたまた絶望か。それは未だに誰も解らない。だが、同じ(ストーリー)を辿る事は無くなった。

 

「さあ、(ストーリー)は変わった。後は結末(終わり)を変えるとしよう。ここが運命を変えるターニングポイントだ」

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