一夏は会合の後、体に巻き付けた手榴弾を海へと放り投げた。
本物を用意しても良かったのだが、戦闘の邪魔になりえた。その為、体に巻き付けたのは全てダミーの手榴弾。間違っても戦闘中に誤爆してバッドエンドまっしぐらの爆発オチでは無い。
ドボンと海にダミーの手榴弾が落ちる音を聞きながら一夏は考える。
この後どうしようか?――と
己の手で命を奪った。
いや、命を奪ったのは暗部になって公安ゼロ課と戦った時からだ。戻れぬもの、それが過去。やり直せない事実。血塗られた道は己の意思で選んだ結果である。
「――もし、束が……」
この手を取ってくれるなら全てを投げ出しても良いと思う。
全てを放り出して選ぶ道は――
「――きっと許されざる道だろう」
それでも、その道はとても魅力的で――
「どんな道よりも成りたい将来だ」
束が居て、クーが居て、千冬が居る。
4人で普通に暮らしたい。ただ、ただそれだけなのに――
「――何で普通に考えたらこんな簡単な事がまま成らないんだろうな」
好きな人と結婚して、家族と一緒に住んで普通の人生を送る。
何の変哲もない人生。世界の王にも成りたくない。
だが、世界が束と結ばれる事を良しとせずその独善的な選択が善であるとするならば――
「――俺は世界の選択に逆らい、抗い反逆する事こそが俺の正義。俺の正義が世界にとって悪ならば、俺は世界の悪になろう」
妥協案など無い。何方かが認めるまで。
栄光ある勝利か無残な敗北か。
世界を下し、世界の王となる事でしか成れないのならば――
「――成るしか……ないな!」
その過程で生まれる犠牲は仕方ない。
「千の、万の犠牲が出ようとも――」
――それが世界の意思であるならば、その意思に抗う。
「それこそが、俺の意思……俺の選択」
例え、その過程でどれだけの犠牲を払おうとも数多の屍の上に成ろうともその選択に意味はあり、その屍達にも存在意義がある。
「ヴェーダが完成すれば――」
その犠牲も無くなる。
もう一つの内包した世界に刻まれたデータを元に肉体を復元させ、同じ思考を定着させれば人類は死という生物の終わりを回避できる。死という生物の終わりであった世界を一定に保つための原初の恐怖はやがて、一つの区切りとなる。
一つの肉体そのものが終わりを迎え、新たな肉体へと生まれ変わる。
そう、その考えこそが一夏が考える魂魄分離理論。
肉体という器そのものが終わりを迎えようとも魂を数値化しデータ化して保存する事で死を乗り越えるという新たなる人類救済理論。
AIを作っていたからこそ考えついた驚異の理論。
全てはヴェーダに委ねられている。
「だからこそヴェーダを一刻も早く稼働させねばならない」
そう呟いた時、携帯電話が鳴り電話に出ると思いもしない朗報が飛んできた。
暫しその相手と話すと通話を終える。瞑目し、手にした携帯電話を握りしめる。
「もう、もう必要最低限の駒は揃った。揃って……しまった」
ああ、と嘆くように呟くと一夏は電話をかける。
選択を行うために。数コールで相手は電話に出ると
「……なあ、今から会えないか?束」
最愛の女性に問う為に逢瀬を持ちかける。
★☆☆
キャノンボール・ファスト。IS高速機動バトルレース。
かつてのF1グランプリのISバージョンであるそれは、IS社会現代のF1グランプリといっても差支えないほどの人気を持っており、当日の会場は満員となっていた。
大衆が見守る中、レース会場には1年の専用機持ちと訓練機持ち、3年によるエキシビジョンレースとプログラム順がホログラムで表記されている。
本来ならば整備課が登場する2年生からのイベントだが今年は1年の専用機持ちが多いことから異例の一年生出場となり各国のお偉いさん方が自分の国の代表候補生と他国の出来を見に来場している。
「………チッ」
そんなお偉いさん方を見ながら一夏は憎々しげに舌打ちすると視線をレース会場に向ける。
今回お偉いさん方が来日するに辺り、更識家も警備に協力する事になった。
他国のお偉いさん方が集まり、こんな人数の大衆が一か所に集まるなどテロや事件の標的にしかならない。その事を政府関係者には進言したが、政府は毎年恒例のイベントを今回だけ無くすのは世間的に拙いと言って強引に開催し、一夏はそれにやってられず当初警備に協力しないと言った。
数が限られたISが一か所に固まり、それも軍隊訓練やある程度の技術を持っているであろう専用機持ちだがその技術は未熟。専用機の特性をフルに生かせない生半可な状態であり、前回のIS学園襲撃の際のテロリストが狙うとしたら確実にここである。
『マスター、そろそろお時間です』
MAKUBEXにスタートの15分前に知らせるように命令していた為、一夏は警備の状態を見ていたのだがMAKUBEXの知らせを受けて視線を警備から大会出場選手の控室に向かう廊下に向ける。
今回の大会に更識家は有事の際の避難誘導係を請け負う事になった。お家がお家だけに裏方役はありがたい事この上ないのだが、面倒な事もこの上ない。何も無いに越した事は無いのだ。
廊下を抜け控室に行くとそこにはISスーツで出場選手が待機していた。全員やる気満々で、国のお偉いさん方が来たことで自分達の成長を見て貰おうとしている。
ここでお偉いさん方に自分達の成長を見て貰い結果を残せれば他国より比較して我が国は優秀だ!とお偉いさん方の気分を愉快にさせ更なる支援を受ける事も出来る。そうなればより未来を選べる可能性が出てくる。勝者の特権。
結局、代表候補生といえどもトップではない。
国に従事する者でしかない。国、つまりは政治家に翻弄される存在なのだ。
結局、この世は弱肉強食の世界。弱者故に強者に翻弄され、そして何も出来ぬ故に従うしかない。
だがそれは弱いからだ。弱気故に強者に翻弄される。
控室でやる気満々の代表候補生達を尻目に一夏は気だるそうに溜息を吐いた。
「やる気がしない……」
他の代表候補生にとってキャノンボール・ファーストは魅力的な行事なのだが、一夏にとってみれば徒労でしかない。
今回の大会で得られるモノなど何もない。ほかの代表候補生には優勝すれば利益になる事間違いなしだが一夏にとってはこの大会自体が不利益でしかない。まず、魅力的な景品がない。次に優勝した景品はトロフィーとこの町の商品券ぐらいだろうが、開催する際の更識家の人員の割合、警備の配置の考案、割いた人員によって生まれ出る情報収集活動能力の低下。
まさに不利益しか被らない。恩恵なんて皆無。あってもスズメの涙ぐらいしかない。
この大会に対する労力と恩恵を比較すると割りに合わないのである。
しかも、この大会で優勝したとしても認知されるのは世界最強ではなく、精々最速。
モンド・グロッソで優勝する訳でもないので実際には何か速い奴がいる程度の認識でしかない。早期にそれが知れ渡れば攻略対象にされ、今後モンド・グロッソで優勝を狙うとしても今注目を浴びれば優勝が遠のく。まさに無駄骨。各国の代表候補生は今大会に向けて色々カスタマイズしているらしく放課後にレースの練習をしていたが一夏はそんな事よりも弱体化した影響で低下した身体能力の回復と更識家と元摩天楼の連中等との実戦式混合組手に勤しんでいた
実戦式混合組手とはその名の通り、実戦式の組手。開催場所はランダムのバトルロワイヤル。武器あり、道具ありの半分殺し合いに近い組手なのだ。流血は日常的。
だが、それに臆する事もなく元摩天楼に居た修羅達は武器あり道具ありの相手に己が身と知恵を使い、地の利を生かし道具を使用する事で武器を使う更識家の戦闘集団の者達を相手に互角以上の戦いを見せ、一夏の陰であり忠実な下僕
命がけの組手。一瞬の油断が死を招きかねない、無限組手よりはマシだがそれでも摩天楼時代と同等かそれ以上に厳しい試練は一夏の身体能力の回復と更識家と元摩天楼の連中等の戦闘能力の増加に繋がった。
死者はゼロだが重軽傷を負った者は少なくなかった。だが、それでも全員が、少なくとも元摩天楼の連中等は一夏に対し揺るぎ無い忠誠を持っている。元摩天楼の連中等は高々重軽傷を負ったぐらいで離反したりはしない。その程度で抜けるようならば摩天楼時代にさっさと抜けている。摩天楼とはそういう場所だったのだ。男達の力を求める欲望が集まりし場所。全員が師であり弟子であり、仲間であり敵である。そうして築きあげられいつの間にか男達は修羅となり、血と血を流し礎となり、その修羅達の中で更に強き者が
だからこそ、一夏は今残っている元摩天楼に居た修羅達を家族の次位に信頼している。そして、その信頼度は更識家の連中よりも当然の事ながら厚い。
今回の実戦式組手で更識家の戦闘部隊を厳選し、根を上げる奴をあぶりだす。戦闘能力の向上が目的だが真の目的は忠義心。弱者は足枷でしかない。
かつて自分がそうであったかのように、弱者故に何も出来ずただただ黙って見ている事しか出来ない。いや、それならばまだしも更識家の者として足手纏いになるなどあってはならない。真に強者ならば例え今が弱くてもこの程度でくじけたりはしない。足手纏いに成る位ならば己が身を絶たさなければいけない。
例え力があったとしても信念がない者は何れ飲み込まれる。それは本当の強者とは言えない。
『間もなくレースが始まります。出場選手は直ちに会場内に移動してください。繰り返します。出場選手は直ちに会場内に移動してください』
レース開始のアナウンスが流れ着替えを終えた一夏はアナウンスに促され会場内に移動する。
ISを展開させながら一夏は他の代表候補生を見ながら思う。
――あ~、どうっすかな~。やる気満々の奴らをぶっ倒して独走・完全勝利でもすっかな~
一夏には虚実の狭間がある。ISのハイパーセンサー越しでようやく見える残像を生み出しながら常人離れしたただの身体能力での走りは瞬時加速に勝るとも劣らない能力。エネルギーを使う瞬時加速だが、虚実の狭間は単に肉体的疲労を伴うだけ。エネルギーは使わない切り札と言える。また、一夏には雪羅がある。多重機能を備えた全距離対応武装は雪片の零落白夜のエネルギー消費に更に拍車をかける武器となり、バスターモードの他にもまだ機能が残っている。
それに幼児化した影響で背も縮んだ。それによって受ける空気抵抗の面積が極端に減った。その減り具合は鈴と束の胸並みの差。
空気抵抗面積はラウラと同格程度と言った所だろう。
そして、その影響は例えるならば同じロケットで同じ燃料だとしてロケットの先に金塊を詰め込んで飛ばすロケットとマグネシウムを乗っけて飛ばすロケットの飛行距離。重い物を乗せた方が燃費が悪いし出力も必要だ。ましてや限られたエネルギーで動かすISならば多用な瞬時加速を行えばレースの途中でエネルギー切れを起こしかねない。
様々な考えを思い浮かべている間にも時間は経過し、アナウンスに促されスタートラインに立たされる。
「まあ、報酬がねえのが気に喰わねえが……」
フンと鼻を鳴らしながらニヤリと口端を歪め邪悪に笑う。
『位置について……用意』
そして、姿勢を低し地面を殴り捨てスラスターを吹かせ溜めをつくる。前方に体を進めようとするスラスターを体と腕でその場に押し止める。
『スタート』
「
スタートと同時にスラスターを吹かせる他の代表候補生達よりもリードして一夏は地面に突き刺した手を引っこ抜き、スラスターの枷を解き放つ。
決壊したダムの様に一夏の体はグイグイ前方に追いやられる。
獣の如き素早さ。低空姿勢は溜めを作るためと空気抵抗を極端に少なくするため。土壇場でその作戦を思い描き、その結果一夏と他の代表候補生達の差はコース1/4程度にまで発展した。
「そ、そんな!?」
「なんて言う奇策ですの!?」
背後で驚く代表候補生達に目もくれず颯爽と走り抜ける。
そう、織斑一夏は負けてはいけない。いや、織斑一夏ならば負けられない。強者であり、篠ノ之束の隣に立とうとするならば世界を下しひれ伏させるだけの力を持たねばならない。そこに一点の黒星も付けては成らない。
優しくしていれば調子に乗り、あまつさえ作品の創造者である束を狙う
どちらが主かを、どちらが上かを。
犬や猫などの動物の如く教えなければいけない。
その為に一度たりとも敗北などあってはならない。他者よりも優れている事を証明し、上下関係を教えるためにも。
独走する一夏にセシリアはその空いた距離を徐々に縮める。
セシリアがブルー・ティアーズに装備しているのは高機動パッケージ【ストライク・ガンナー】四基の射撃ビットと腰部に連結したミサイルビットの計6基を全て推進力に回しているのが特徴のパッケージ。武装は大出力BTライフルブルー・ピアスと近接武装インターセプターのみの武装だがブルー・ピアスによる射撃を行いながら一夏の後を追う。
やがて距離は詰められ一夏の背後に回った。
「距離は詰めましたわよ!さあ、一夏さん道を開けて下さいまし」
「ああ、困った事に距離を詰められてしまった。故に足場と足止めの役をやって貰おう」
はい?と不思議そうな顔をするセシリアの顔にめがけて一夏は180度方向転換しながらセシリアの顔にドロップキックを食らわし足場にしながら更にスラスターのスピードを上げる。一夏から見て後方にジャンプしながら雪片弐型の剣先を後者である他の代表候補生達に向ける。
「ブッ」
一夏のドロップキックの衝撃により視界が揺らぎ、セシリアは失走し一夏のドロップキックのエネルギーを殺せず後ろで走る他の代表候補生達に向かう。突如障害物となったセシリアを避ける為、緊急回避を行う代表候補生達。
大きくコースアウトするセシリア。
「雪羅バスターモード」
緊急回避を行い前方を見た他の代表候補生達は目を見開くほど驚いた。
何故ならばそこにはバスターモードの雪羅が銃口を覗かせており、その銃口からは眩いエネルギーの光が煌めいていた。
軌道修正、ISの反動相殺システムをOFF、軌道予測を起動または行い銃口を前方のこちらに向かってくる代表候補生達に照準を合わせるとキーワードを叫ぶ。
「ブラスト!!」
そのキーワードを言った瞬間に雪片弐型=雪羅のグリップ部分が大きく動き、シリンダーの中に生成された雪片弐型の零落白夜と同じ消滅エネルギーの砲弾が発射され、眩い光を含んだ巨大な光線が代表候補生達を襲う。
発射された反動を利用してスラスターの加速と共に一夏は更に他の代表候補生らとの距離を開ける。その差はもうコースの半分以上3/4にまで到達しそうな勢いだった。
代表候補生達はモロに一夏の砲撃を受け、失速していく。コースアウトになる者もいれば右半分の装甲を破壊された者もいる。
その結果を確認すると一夏は180度方向転換し失速する代表候補生達を背にコースを走る。
一週目を終え2週目に入ろうとした時突如それは起こった。
突如上空から侵入した機体がトップの一夏を狙撃する。
★ ☆ ★
大混乱になる会場。
パニック状態の観客に更識家の警備の者達はあたふたする。彼らは主に裏方の仕事を行っているのだ。表立てない影の仕事。この様に表立った仕事は馴染み無く、単なる避難誘導でさえも満足にままならずにいた。
『全員銃を構えろ。上空に威嚇射撃。一発撃ったのち避難誘導を急げ!!』
インカムから聞こえる一夏の声。
更識家の警備の者達は急ぎ銃を取り出しいて上空に威嚇射撃を行う。
キャーと言う悲鳴の後に会場に居たパニック状態の観客は一斉にしゃがみ、発砲者の更識家の者達を見る。
その様に更識家の者達は内心感心しながら「これより避難誘導を行いますので慌てずに行動してください」と事前に教えられたマニュアル通りに避難誘導を再開する。
避難誘導がされる観客席の中で亡国機業の幹部であるスコールは襲撃する様を眺めていた。
「彼の持つIS白式。あれは脅威ね。他の専用機持ちの殆どを一撃で沈めている……一体どれほどの火力を有しているというのかしら……」
「そんなに知りたいのならばご自分で実体験してみる事をお勧めするわよ。スコール」
背後からかけられる声。
スコールは振り向かない。何故ならば声の主を知っているのだから。振り向く必要などない。
――更識楯無。IS学園の生徒会長にしてロシア代表
「
「それは前の名前よ。今はミステリアス・レイディと言うの」
「そう」
「……この状況で随分と余裕じゃない?この会場は既に更識の者達があちこちにいるのよ。私が合図すればあなたに一斉射撃をする事も出来るのよ?」
睨みつけるようにスコールを見る更識刀奈。
スコールは少し勘違いをしているが、更識刀奈はもう何の権限も無い更識の者。ただ、更識の名を持った一人の少女である。楯無の名を一夏に奪われてからは妹と同じ単なる年頃の少女となったのだ。対暗部用暗部の長でもなければ本当の生徒会長でもない、しがらみを呪縛を解き放たれた一人の少女。
そんな彼女が言う言葉は全てはったりだった。
合図をした所でスコールに銃弾が飛ぶ事は殆ど無い。
何の権限も無い彼女に更識の者が従う事は無い。
「だとしても、私には効かないわ。だってISがあるんですもの。それにやめましょう?貴女では私に勝てないし、折角のシチュエーションが台無しになるでしょう?」
そう、その出会いは運命的な出会いだった。
一夏と襲撃者。その二人の出会いは運命的と言えた。
襲撃者を知っているスコールは二人の出会いを見守るつもりでいた。
「それに、ここでやりあっても良いけれどもまだ避難が終わってないみたいね。無駄な被害を出さなくても良いのではなくて?」
「………何が目的なの
「わざわざ目的を敵に教える事なんてしないわよ、普通。……でも、そうねえ今回は私はここで静観させて貰うとするわ」
目的が解らない以上、下手に動けない。
故に刀奈はスコールの後ろに立ってスコールの監視を続けるのだった。
■■■
上空からの急な襲撃を大剣の雪片弐型で防ぐ一夏。
BT兵器特有のレーザーを大剣で防ぎ、すぐさま観客席にいる更識家の者達に指示を出す。ハプニングで集団はパニックに陥り、パニックは伝染する。
暴徒となった場合どれだけの死傷者が出るか解らない。
「ああ、糞が!!言わんこっちゃねえ!!だから大会の開催なんてやるなつったんだよが!これを口実に無理やり開催しやがった馬鹿共をあぶりだして逆らった事を絶対後悔させてやる」
今回の大会で日本が他国から批判を浴びる事は予測できる。
そして、警備が不十分だったとかほざいて更識に矛先が向かないように進言した時の発言は録音してあり、ふざけた発言を抜かした際にはどこぞの新聞屋か有名な週刊誌に特ダネとして小遣い稼ぎをさせて貰うとしよう。うん、そうしよう。
そう内心で決意すると
「んだが、先ずは手前をボコボコにぶちのめさなきゃな!!レース中断の腹いせさせて貰う!!」
「ほざくな!」
荒々しい一夏の剣戟が襲撃者に向けられる。
その剣戟はまるで猪武者。無茶苦茶な太刀筋で一撃一撃が重い。
そんな剣戟を襲撃者はその手に持つ銃先に銃剣が取り付けられているBTエネルギーと物理弾の両方が使用可能な大型レーザーライフル
「ほらよ!」
そして空中で体制が崩された襲撃者が持つ
その攻撃により
「まだまだ!!!」
スラスターを吹かせ自ら高速に回転しながら回転力をあげながらの裏拳を襲撃者の横顔に食らわせる。
「!?」
襲撃者の視界が揺らぐ。スラスターを吹かせながらの一夏の裏拳をモロに食らったのだ。
以前よりは弱体化したとはいえ、この大会が行われるまでの間に身体能力の回復と実戦式組手に勤しんでいた為弱体化した当初よりは強くなり体の感覚も掴めてきて調子が出てきた一夏の拳は弱体化する前よりは弱いがISを身に纏った状態では十分な脅威となりえた。
「さあ、もっと楽しませてくれよ!!」
再び雪片弐型を展開しその手に握りしめると声高らかに叫ぶ。
「零落白夜――発動!!」
自分のシールドエネルギーを消費しながら相手のシールドエネルギーを削り取る能力的には世界トップレベルの諸刃の剣。
消滅エネルギーを纏った剣を握りしめながら一夏はその剣先を襲撃者に向ける。
スラスターを吹かせ高速で移動し、視界が揺らぐ襲撃者との距離を詰めてすさまじい速度で襲撃者のあらゆる所を突く。
連続による突き。
一度に二度の斬撃を行う【双頭の蛇】を未だに使えるまでに筋肉が回復してないが連続での突きは出来る。
「弱けりゃあ、死んじまうぜ!」
零落白夜状態での雪片弐型による突きは襲撃者が身に纏うISサイレント・ゼフィルスのシールドエネルギーを的確かつ確実に奪っていく。
「そらあ、景気付けだ!!」
攻撃を受け体が硬直するサイレント・ゼフィルスを身に纏う襲撃者の足首を掴むと地面に勢いよく投げつける。
空中から地面にすさまじい勢いで落下するサイレント・ゼフィルス。
地面にクレータを作り上げてサイレントゼフィルスの操縦者は背中から体中にかけて地面に激突した際の衝撃が駆け巡る。
咽に込み上げて来るものを必死で飲み込むと次の瞬間目を疑った。
目の前に迫りくる零落白夜状態の雪片弐型が手裏剣の様に飛んできているのだ。
一夏は身体能力の回復のために以前行っていた雪片弐型を生身で素振りするのと握りしめての行動を行った。
巨大かつあまりにも重たい雪片弐型は最初持つ事も出来ずにいたが人間の身体能力の適応能力の凄さを一夏は知っていたため毎日励み、持ち歩けるようになり最終的には素振りを少しではあるが出来るようになったのだ。
生身で雪片弐型を僅かではあるが素振りできるようになった一夏にISを身に纏って雪片弐型を投げれぬ道理など無い。
「クッ!」
左手にナイフを呼び出し飛んできた雪片弐型をナイフで受けると同時にシールドビットによる
BTエネルギー高稼働率時にのみ使える
現在確認されているBT兵器最高適合率のセシリアですらも使えないその技を自由自在に操れる襲撃者。
飛んできた雪片弐型に押し負けながらどうにか軌道を逸らす。
「追撃性の攻撃か!」
ならば!と一夏は瞬時加速を行う。
そして、襲撃者との距離を詰め襲撃者の片手で腕を掴み、軌道を逸らされ地面に突き刺さった雪片弐型を握ると追撃してくる
雪片弐型に
「そら、招かれざるお客様にサービスだ!!織斑流拳術螺掌穿」
目打ちが最初に行われ連撃で螺旋に捻られた腕から放たれた掌底が襲撃者のお腹に叩きこまれる。
その瞬間、お腹から背中にかけて衝撃が襲い呼吸する事も出来なくなり、大きな隙が生まれてしまう。
「織斑流拳術」
鎧通しと言う技に更に威力を与えるため螺旋力を付け加えたのが螺掌穿という技なのだ。螺掌穿によっては、循環器、消化器、呼吸器などの活動を調整するために24時間働き続けている自律神経が乱され呼吸もままならない状態の襲撃者。
一夏は襲撃者に更なる追撃を行おうとしたが不意にその手を止め、拳をおろした。
「追撃を行おうと思ったが……やめだ。弱い貴様を相手にしても面白みに欠ける」
圧倒的な力の差。
一夏のその戦闘能力と適応能力の高さは摩天楼時代から培われてきた賜物だった。
『M、そろそろ潮時よ』
「―――っ!!」
二人の間にオープンチャンネルで割って入る知らせに襲撃者は苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべる。
間もなく鎮圧部隊が到着するだろう。襲撃者の仲間が会場内にいるとはいえ、このまま相手をしていては下手をしたら捕まってしまう。
「……」
無言で一夏は襲撃者に近づき距離を詰めると一撃、一撃だけ襲撃者にあてた。
背中をビンタするかのような一撃が襲撃者を襲い、衝撃が体中を駆け巡る。
そして、その一撃を受けてから襲撃者は呼吸が出来るようになり、すぐに後ろに跳んで一夏と距離を離す。
「………何故だ!何故私を助けた!!あのままであれば貴様が勝っていただろうに」
若い女の声。そして何処かで聞いた事のある様な声。
誰かに似た声。その相手が誰なのか考えながら一夏は言う。
「フン。貴様が俺よりも弱い事はさっきの戦闘で解った筈だ。故に別に貴様を助けて襲われた所で問題は無いと判断したまでだ。それに、今回の大会を開催するのに俺は乗り気ではなかった。よくよく考えれば俺の腹いせは貴様のおかげで既に達成されていたのだ。礼を述べよう。貴殿のおかげで今大会を開催した者達の面目は丸つぶれ、俺にとって貴様を生かしておく事が利と見ただけだ」
それに、と付け加え一夏は襲撃者の顔を指さした。
「そのバイザーの下に隠れた瞳。俺には解る、理解できる!その瞳がバイザーに隠されていたとしても、貴殿の瞳に宿る炎。かつて……いや、現在進行形で俺にも宿る憎しみの炎と同じだ!!圧倒的な力、変える事の出来ない現実に直面した時に人は主に二つの感情に別けられる。恐怖か憤怒か。貴殿のバイザーの下に隠された瞳は俺に似たものだ。
ニヤリと口端を邪悪に歪め、悦に入りながら言う。
「貴様には素質がある。悔しければ強くなって見せろ」
「――」
悔しそうに唇を噛みしめると襲撃者は空高くに急上昇し、大会会場を離脱した。
スコールは襲撃者のMが急上昇をするのを確認すると更識刀奈に向かって火球を放ち、ISを展開してMの後を追う。
「また会いましょう。織斑一夏君、更識楯無さん」
追撃が来ないように会場にいるIS操縦者に向かって火球を放ち撤退するスコール。
「……フン、もう一人仲間がいたか」
降り注ぐ火球を雪片弐型で叩いて対処しながら観客席から飛び立ったスコールを見て呟く。
既に一夏には追撃しようという意思は無い為、さっさとISをしまう。
大会は中止になるのは目に見えていた。
ならば、もう会場にいる事に意味は無い。そう考えて一夏は大会会場を後にする。