拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

69 / 86
第69話

「んじゃ、死ねや。だが安心しろ。すぐにお前らの家族をお前の下に送って寂しくない様にしてやるからよ」

 

 特殊部隊の副隊長の首に一夏の拳が向けられる。

 その首を斬り落とす為 織斑流拳術断空手刀斬りが振り下ろされる。当たれば首はすぐさま吹き飛び、鮮血が噴水の如く流れ出るだろう。

 

ピロリンピロリンピロリンリン

 

 軽やかなリズムが一夏のポケットから流れ出た。

 一夏は振り下ろしていた拳を瞬時に収めてポケットから携帯端末を取り出した。

 

それは特殊部隊を始末する以上に大切な相手からの連絡。

 

「おう、珍しいな。どうした?」

 

『実は、ね。クーちゃんにお使いをしてIS学園に少し用事があったから向かわせたんだ』

 

「何!?」

 

『うん、だから会ってあげてね』

 

「おう、解った。んで、クーはどこにいるんだ?」

 

『電脳世界。IS学園のシステム中枢』

 

「そうか。だが、どうやって行く?行き方を俺は知らないんだが……」

 

『ちーちゃんに聞けば解るよ。もし何か尋ねられたら、私から来るべき日に備えてと伝えて』

 

「……解った」

 

通話を終えると一夏は特殊部隊の副隊長に視線を向ける。

 

「悪いけど、あんた等に割いてやる時間無くなったからよぉ」

 

 

それだけを聴いて副隊長は一夏の容赦ない裏拳で意識を失った。

 

「寝とけや」

 

 足元に転がる気絶をした副隊長に唾を吐き、一夏は無人機に彼等を拘束して捕まえておくように指示を出す。

 特殊部隊などどうでも良い。彼等の命など何時でも潰せるのだから。

 だが、クーとの逢瀬は中々出来ない。数少ないチャンスを特殊部隊如きに邪魔をされて成るものか。

 

 騒ぎは時間が経過するにつれて外部に漏れ、もしかしたらクーと接触できないかも知れない。そうなる前に少しでも良いからクーと会っておかなければ。

ポケットからピストル型携帯注射機を取り出し腕に突き刺すと引き金を引く。注射器の中身は幼児化した体を一時的に戻す解毒剤。

 

ドクンドクンと心臓の鼓動音が強く速くなっていき、次第に額に汗を滝のようにかく。

 

「……っ」

 

 全身を成長痛が襲う。急激な本来ではありえない急成長が起こっているのだ。関節やら筋肉やらから激痛が生じる。戦闘中は痛みを感じないがこうした事には痛みを感じるのだ。

 

 

5分が経過した。

一夏は本来の自分の姿へと戻った。幼児化する前の高校生だった姿に。

 

「フン、では行くか。ヴェーダ、千冬姉の処へと最短ルートで導け」

 

 ヴェーダによる演算で千冬までの最短ルートを瞬時にはじき出すとMAKUBEXにナビゲーションをさせる。そして、虚実の狭間を用いて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

(……凄まじい身体能力だ)

 

 隊長は圧されていた。ISを身に纏っているが刀を手にした千冬は鬼に金棒状態で文字通り手も足も出なかった。持っている武装の殆どを破壊され、装甲は斬撃により破損。瞬時加速をしようとしても一瞬でも気を抜けばそこで終わると兵士の勘が告げていた。

 

(……これが世界最強か)

 

 最早生身でISを圧倒する千冬は別次元の存在で自分が如何に脆弱かを思い知らされ

る。

 残る武装はナイフ一つ。シールドエネルギーは残っているがそれでも勝てる気はしなかった。

 

「フン、ようやく感覚が戻ってきたか」

 

 千冬はそう呟くと刃こぼれし根元にひびが入った最後の日本刀を廊下に突き立てる。

 ISを身に纏った隊長との戦闘で太股に収められていた日本刀は全て刃こぼれして使い物に成らなくなった。だが、武装の殆どを破壊しシールドエネルギーを削った事を思えば素晴らしい戦果だと普通ならば思えるかもしれない。

 が、所詮今までのは準備運動。鈍っていた感覚を取り戻す為の準備運動に過ぎなかった。

 

「では、少し技を出すとしよう」

 

 すらりと腰の刀を抜いた。今までよりも一回り大きなそれは、一目で業物と解り今までの刀よりも何かが違った。

 

剣先を隊長に向けたまま構える千冬。

隊長は最後の武装のナイフを呼び出して備える。

 

「織斑流剣術――」

 

(来る!)

 

「――八岐大蛇!!」

 

 その瞬間隊長はハイパーセンサー越しで見た。千冬が持つ刀が8つになったのだ。

 それぞれが意思を持つかのごとく八方から隊長を襲う、その様は日本神話に出てくる八岐大蛇そのもので蛇に睨まれた蛙の如く隊長のISのシールドエネルギーは一瞬でゼロに成った。

 

 チンと刀を鞘に納めると同時に隊長は地面に倒れる。

 ISは既に過剰ダメージ蓄積により消失し待機状態となっていた。

 

 

「私が剣を振るうと殆どの剣が私の腕に耐え切れず折れるのだ。こうして私専用に打たれた刀で無いとな」

 

 

 そう言い残して隊長に背を向けてその場を去ろうとする千冬だが、隊長は未だ気を失っていなかった。チャンスを虎視眈々と狙い、己に背を向けた千冬に飛び掛かる。

 

 

「だから甘いのだ、あんたは!」

 

 後ろから風が吹くと同時に背中に衝撃が走った。

 視線だけを後ろに向ければそこには世界で唯一の男性IS操縦者 織斑一夏の姿が。違和感を覚え一夏から離れようとするが、耳に囁かれた言葉を聞いて体が硬直した。

 

「あ~、動かない方が良いよ。現在あんたの背中から人差し指を刺して心臓のすぐ横に突っ込んである。臓器を傷つけないようにしてるから安心しろって。だが、心臓から本当にコンマ1ミリにも満たない場所だから下手に動けば心臓が破裂して死んじゃうよ」

 

「……」

 

隊長は動かない。いや、動けない。

動けば死ぬ。間違いなかった。

 

「ったく、だからあんたは甘いのよ。これで死ねば元も子もないぜ」

 

「……織斑、そいつを開放しろ」

 

「断る。こいつは中立国たるこの学園に侵入した。世界の平和を乱す奴は許しはしない」

 

「お前はそんな奴じゃないだろう?平和を求める人間では、な」

 

「ハッ!良く分かってんじゃん!そう、こいつは火種に成る。成りえる!!こいつはアメリカ軍所属。つまり、アメリカは平和を望んじゃいないんだ。この学園に侵入させるとはつまりそう言う事。戦争がしたいんだよ、アメリカは!!だから、望みを叶えてやんのさ!世界対アメリカ!!自ら滅びの道を行く偉大な米国に引導を渡す口実をむざむざ開放するわけねえだろう!!」

 

「もう一度言う。その手を離せ!!」

 

「おいおい、あんたの命を狙った奴に慈悲をかけるか?ふざけんなよ、あんた!!」

 

 ギラリと千冬を睨みつける一夏だが千冬と一夏の間にいる部隊長はたまったものでは無かった。心臓が握りつぶされるかのような錯覚に陥ったのだ。

 

 

「あの時もそうだ!第二回モンドグロッソで俺が誘拐されかけた時だって俺が返り討ちにした相手にあんたは心配した!!だれかれ構わず優しいあんたの優しさは美徳かもしれないがそれが罪だという自覚がない!!ふざけんなよ!その優しさで救われた奴全員が善人じゃねえんだぞ!!救った相手が更に誰かを傷つける可能性をあんたははなっから考えてねえ!!その救いを世界中の人間に分けてみろ!!そいつ等全てが満足するまで与えてみやがれ!!……出来ないんだったら、救う相手は選んで間引きしろや!」

 

「だから、こいつは殺す!俺はこの手に届く範囲の人達しか守れないから、救えないから」そう言うと千冬から視線を隊長に向けた。

 より一層心臓を強く握りしめられるような感覚に隊長は陥った。

 すうっと呼吸すると覚悟を決めた。ドクンドクンと波打つ心臓が一段と早くなるのを感じる。

 

「じゃあな……死ねや」

 

 それだけ言うと拳を上げる。

 隊長は目を瞑りその時を待った。自らが処断される時を。

 

 だが、一向に待てどもその時は来なかった。

 恐る恐る目を開けると千冬が自分の首の横に鞘に納めていた刀を抜いて剣先を自分の後ろにいる一夏へと向けていた。

 

 

「どういうつもりだ?」

 

「救う相手は選べと言ったな。だから、選んだだけだ」

 

「その選択がこいつか?自分の命を狙った相手を、か?ハハ、家族よりもこいつがそんなに大切かよ!」

 

「違う!私が選んだのはお前だ!!」

 

「ハア!?何言ってんだ、あんた?」

 

「お前に人殺しはさせないという選択を選んだまでだ!!」

 

 

 チッと舌打ちをして隊長を開放する一夏。その顔は若干赤くなっているようにも見え、ワシワシと頭をかいて「気が狂うぜ」と呟いたが、すぐに解放した隊長に視線を向ける。

 

「良かったな。俺の優しい御姉様に助けて貰ってよぉ。手前だけ(・・・・)は助けてやる!」

 

それだけ言うと一夏は視線を千冬に向けた。

 

「んで、俺はどうすれば良い?学園のこの状況を打破するにはどうすれば良い?これから現れる敵を一人残らずルーマニアのブラド公の如く串刺しにして世界にライブ中継でも流そうか??」

 

「やめろ!……お前にはこれから電脳ダイブにより学園のサーバー中枢に侵入してシステムの復旧に尽力してもらう」

 

やっとかと内心呟きながら道のりを聴こうとするが、だがその前にと千冬の瞳が厳しくなった。

 

「織斑、お前先程手前だけ(・・・・)は助けてやると言ったがあれはどう言う意味だ?」

 

内心不味ったなと舌打ちをしながらへらへらと笑い視線を隊長に向けて答える。

 

 

「その言葉通りだよ。気になるんだったらあんたが助けたそこの雑魚に訊いてみれば?俺はこいつだけは助けると宣言した。だから見逃す」

 

 

 どういう事だ?と隊長に尋ねる千冬。その様子を面白そうに笑った表情で見物する一夏。

 隊長は一夏に試されていた。本来だったら任務の内容を敵に伝えるのはタブー中のタブーだった。

 が、隊長はそのタブーを犯した。

 

 

「……私は上から命令されて部隊でここに」

 

それだけ聴くと今度は一夏の方を見た。

 

「おい、一夏!お前、他の隊員達はどうした!?」

 

「殺した」

 

「なに!?」

 

「って訳でもないが重傷だ。手当てをしなきゃ下手したら死ぬな、ありゃあ」

 

「なら、さっさと居場所を教えろ!」

 

「おい、さっきの言葉を忘れたか?あんたがだれかれ構わず救えば悪人であった時罪も無い人達が犠牲になる。悲しむ。こいつ等は上からの命令にただ忠実に働いた。何も考えず、何の疑問を浮かべず、これがこの任務がどういう結果を生むのか考えなかった!罪には罰を……当然の結果だ。俺はそいつだけを生かすと言ったが他は生かすとは言っていない。これは報いであり裁きだ」

 

「お前こそ私の言葉を忘れたか?私はお前に人殺しはさせないと言ったんだ!」

 

 フンと鼻で笑いながら千冬の戦闘後の現場に視線を向ける。根元にひびが入り刃こぼれした日本刀達が地面に突き刺さっていた。

 

「俺はもうすでに殺めているから今更綺麗ぶるつもりなど毛頭ないが……しかし、あんたどういう了見だ?あんたの実力ならばここに突き刺さっている日本刀の一本でそこの雑魚を十分に無力化させれるだけの力は持っているだろうが!日本刀は跡形も残らず砕け散るかもしれないがそれでもこの状況……あんた、弱くなってないか?だとしたら俺に命令すんな!俺は認めた奴の命令しか聴かねえ。弱い奴の話に聞く耳を持たねえ」

 

「弱く成ったかどうか試してみるか?」

 

「ああ、面白い!ハンデとしてあんたが使ったひびが入った日本刀をメインに戦ってやる。俺に30秒持ちこたえれたらまだ実力は残っているとみなしてあんたの命令を聞いてやる。だが、俺が30秒以内に勝ったらそいつの部下は骸となってアメリカに輸送し世界大戦の幕開けだ!」

 

 次の瞬間、隊長の前から二人の姿が消えた。

 ギンと金属音がし、そこに視線を向けると根元にひびが入った日本刀を左右に持った一夏が千冬に斬りつけ、千冬が腰の刀を抜刀し防いでいた。

 

「そらそらそらそら!!」

 

 上段から滅多打ちで振り下ろされる二本の日本刀。

 荒々しい剛の斬撃。それが無数となって千冬に放たれる。

 

「クッ!」

 

それらをどうにか躱し、逸らし、防ぐが防戦一方の千冬。

 無数の剛の斬撃が振り下ろされる中、さらに目を見張る光景が。

 

「景気づけだ!諸手双頭の蛇!!」

 

 左右の日本刀から同時二回攻撃が放たれた。ただでさえ両手で一本の剣から同時二回攻撃を行うのでも困難なのにそれを片手で刀を持ち、左右同時に行うなど信じられなかった。

 

「クッ、白夜の帳!!」

 

 一夏の虚実の狭間と同様に千冬にも一夏の虚実の狭間と似た技を持っていた。

 それが白夜の帳。本来、零落白夜を使用する時の技。

 

 目の前から消えた千冬を見て一夏はニヤリと頬を釣り上げて笑う。

 

「そいつを使うのを待ってたぜ!虚実の狭間!!」

 

 

 次の瞬間、隊長の目には一夏の姿も消えた。

 二人が消えた廊下のあちこちから金属音が鳴り響く。

 

 最早それは超人同士の戦い。

 互いの思考を読み取り、相手より先へと動き戦う。

 

 ギンと一層甲高い金属音が鳴り響き、廊下に根元から折れた日本刀が地面に落ちると左手に折れた日本刀を持った一夏が地面に突き刺さっている根元にひびが入った次の日本刀の傍に現れた。

 

「あ~あ、折れちまったか~、まあ良いけど。んでも、ガード固いなあんた」

 

そう声をかける視線の方角に千冬は現れた。

 

「フン、折れた日本刀の頭で私に打ち込んで来たのだから当然だろう!」

 

「そうか、よ!」と根元から折れた日本刀を千冬に投げつけて新しい根元にひびが入った剣を掴む。投げつけらた折れた日本刀を弾いた瞬間、その目に飛び込んでいた映像は一夏が新しい日本刀を握りしめ上段から強襲する姿。

 それに対し刀を振るい、一夏は放物線を描く様に弾き飛ばされた。

 放物線を描く様に天井に激突しようとする一夏だが、天井に激突する寸前掌をクッションに真下から僅か離れた地面に突き刺さっている根元にひびが入っている日本刀達に降り立った。

 

 掌は先程天井に激突する寸前にクッションにしたせいで摩擦によって皮膚が裂け血が流出したまま地面に突き刺さっている根元にひびが入った日本刀を抜く。

 血が日本刀に伝わり剣先を千冬の顔に向けて振るうと、千冬の目にかかり千冬は思わず目にかかった血を拭う為一夏から目を逸らしてしまった。

 

「油断大敵!終わりだ!!」

 

 その隙を突き一夏は千冬との距離を詰め打ち込んだ。如何に刃こぼれして刀として使い物に成らなくても所詮鉄で出来ているので十分な凶器に成りえるのだ。首を、刀を持つ手首を滅多打ちにする。

 

 意識を失う千冬だが刀を地面に突き刺してそれを支えに威風堂々と立っていた。その姿に神々しささえ感じさせる。

 

「まだ残り時間はあるが……意識を失ってもなお立ち上がるか」

 

 拳では無い為全力は出せていない。しかも、それで意識を失った千冬だ。

 が、白夜の帳を使用した時少なくとも一夏と同じ速度で打ち合っていた。故に解らなかった。

 

 

「まあ、良い。こう意識を失ってしまえばこちらの思うがままだ」

 

圧倒的なまでに叩きのめし勝利を治めようと考える一夏。

 意識を失ったまま立つ千冬に襲い掛かる。左回転気味に二本の日本刀で斬りつけた。これで終わるはずだった。

 だが、終る事は無く千冬は刀を抜き下から上に一閃して反撃を行う。

 日本刀と刀がぶつかりひびが入った二本の日本刀は根元からぽっきりと折れた。

 

「な に!?」

 

 持ちてだけとなった日本刀の残骸を千冬に投げつけバク転をし距離をとる一夏。バク転をする先は地面に突き刺さった残りの日本刀達。

 視線を千冬に向けるが以前千冬は意識を失ったままが、眼に光が戻り意識が回復した。

 

「わ、私は!?」

 

自身の現状に困惑する千冬だが一夏はピューと口笛を吹き地面に突き刺さっている根元にひびが入った日本刀を抜く。

 

「へえ、意識を失ってなお反撃する、か」

 

「何!?」

 

「まあ、構わねえ!あんたを倒せば世界平和の大義名分の名の下に争いが生まれるんだからよぉ!!」

 

抜いた日本刀を二本、千冬に向かって投げつける。

そして、床に落ちている最初に飛ばされた時に手放してしまった二本の日本刀を拾い握る。

 

 千冬に飛んでくる二本の日本刀。避けたり躱したり逸らしたりすれば次の瞬間一夏の斬撃が千冬を襲う。

 仕方ないと肩をすくめ、刀を構える。

 

「織斑流剣術 八岐大蛇!!」

 

 そして8つの斬撃が同時に放たれる。それは元来ハイパーセンサー越しでようやく見える斬撃。故に隊長には速すぎて全く見えなかった。

 

 4つの斬撃は飛来する二本の日本刀を破壊し、残りの4つは全部一夏の方へ。

 迫りくる斬撃。

 

「ならば!諸手双頭の蛇!!」

 

 左右両方の日本刀から2つずつ、計4つの斬撃が同時に繰り出され迫りくる斬撃とぶつかる。4つと4つの斬撃は互いにぶつかり消滅しあう。一夏が両手に握る日本刀は粉々に砕け散るが構わなかった。虚実の狭間で千冬に正面から迫る。

 

「お前の負けだ、一夏」

 

 残った持ちての頭で千冬の丹田を殴ろうとしたがそんな事出来なかった。

 首にあてられた刀。一夏の攻撃が当たる距離に入ろうとするよりも先に千冬の刀が届く方が速かった。

 

「あ~あ、俺の負けだ」

 

 カランと地面に落ちる刀の持ちて。

 それで決着はついた。

 

 隊長が見たのはその決着がついた瞬間だけだった。

 一般では斬撃と斬撃がぶつかる所も斬撃を繰り出す部分も見る事は出来ない。

 

たったそれだけだが、その事実が隊長の安堵を生み出した。

これで救われた。部下の命もアメリカの消滅も。

 

「てな訳だ。ご存命おめでとう!」

 

パチパチと拍手喝采で隊長に近づく一夏。

 

「生かすとは言ったが……記憶を残させるとは言っていない」

 

次の瞬間隊長の視界から一夏が消えた。

 

「亡心波衝撃!!」

 

 隊長のすぐ真後ろに出現した一夏は隊長のこめかみ付近を両手で衝撃を与え、千冬と一夏との記憶を失わせる。

 亡心波衝撃を受けた隊長はばったりと床に倒れ意識を失う。

 

 

「おい!」

 

 驚き一夏に千冬は詰め寄るが、安心しろ記憶を少し失い気絶しただけだと呟いた。それよりも早く電脳世界に行くやり方を教えてくれと催促をする千冬は指さしながら説明を行う。

 

 

「この先を左に行くとそこに扉がある。その扉の向こうに階段があり階段を下っていくと山田先生が居るから山田先生の指示に従え。私はこいつを手当てする。それと、他の隊員達の居場所を教えろ」

 

「あ~、ハイハイ了解。約束はきちんと守りますよ。整備室の前の廊下で転がていますよ」

 

「そうか」

 

んじゃあと言うと一夏は千冬の前から走り去る。

一夏の姿が見えなくなると千冬はぽつりと呟いた。

 

 

「しかし、あいつ手を抜いたな」

 

 

一夏が最後懐に入って来る時、一度最後の一本の日本刀に持ち帰れば勝負は一夏の勝ちだっただろう。だが、それをしなかった。

 

「……もしかしてわざと負けた、か?」

 

だとしたら何の為に?という疑問に尽きるが、それよりも今は他の隊員達と合流し無ければいけなかった。

 

「だが、一番の脅威は去った」

 

 そう、一夏は良くも悪くも宣言すれば必ず実行する。

 つまり、まだ千冬に実力があると判断して従うのだ。

 

 一番の問題だった一夏のコントロールをまだある程度できる事こそ一番の収穫だろう。

 気を失った隊長を抱きかかえて立ち上がりその場を後にする。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。