拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第72話

IS学園の体育祭。学園は体育祭に向け各クラスが放課後や休み時間に準備や練習に追われていた。負傷した専用機持ち達が完全回復をすると夏休みに接触してきたIS機業とMITとの合同協力で極秘裏に無人機の修理及び新武装開発を行った。

 学園の防衛には少なからず影響を及ぼすが、MAKUBEX率いるAI部隊が随時防犯カメラによる監視の目を光らせている為、学園警備は今まで以上に厳重だ。それにはAI搭載型無人機が全ていなくなる事と後一点、織斑一夏が体育祭が終わるまでの間学園を休学するからだ。この件に関しては千冬には事前に知らせず、更識楯無として学園長に知らせており、体育祭が終わるまでの間織斑一夏はとある目的のために学園を抜けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少年の姿をした男の次なる一手は天下布武。世界に武をしき、武を通して真の弱者をあぶり出し区別する。何れ来るべき時に備えて弱者と強者を区別せんが為に動いた。世界各国に達人クラスの部下を派遣し、ISの登場によって生まれた主に男と女のヒエラルキーによって世界に溝が出来ていたこの好機を利用しようとした。

 そんなヒエラルキーに男達の誰が納得するだろうか?男と女というISによって生まれたどうしようもないヒエラルキーは男女に溝が出来るのは明白だった。女は優遇され、男は冷遇される世がこの時代の風潮になっていた。そんな不平等に納得しない男達の自尊心などあってないようなもの。そういう風潮が当たり前になりつつある中で不満の捌け口が出来たとしたら、どうなるだろうか?

 

 ナチスドイツーーWW2の忌まわしき記憶として語り継がれるナチスだが、その好機はWW1の敗戦後にあった。敗戦国として膨大な賠償金を払わねばならなくなり、国民は毎日俯いた状態で日々をすごしていた。終わる事のない返済の毎日。やり場のない負の思いが当時のドイツ国民の中に徐々に徐々に蓄積していった。

 

 そんな時ある男が現れ、我々は悪くないと言った。宣言した。男は熱心に語り、人々の心を鷲掴みにした。ドイツ国民の心の中に燻っていた不満は、負の思いはその男が所属する政党を後押しし、爆発的な人気を手に入れた。その男こそ忌まわしき記憶として語り継がれるヒトラーだ。

 

 さてさて、ドイツという一国ですら後々世界に多大な影響を与えたのだが、それが今現在進行形で世界規模で男女と言うだけで不満が溜まりつつある。そして、かつて神童と謳われた男が今己の部下を世界に派遣しその不満の捌け口を作ろうとしている。

 

「全く、人と言うのはつくづく簡単だな。まあ、時代が時代ゆえに仕方ないかもしれんが……」

 

 そして、そう呟いた少年の姿をした男もまた動いていた。

 場所はイギリス。セシリア・オルコットの祖国であり、現在でも貴族社会の国家。豪華絢爛な王宮貴族とは裏腹に一歩路地裏にある貧民街に出れば孤児や浮浪者、下水と薬物に塗れ犯罪が平然とまかり通る裏の世界。裏の世界は鼻をつくような臭いでそこにいる住人の目から生気はなくなっていた。生きた屍という言葉がぴったりの場所。

 

 煌びやかで豪華絢爛な王宮とは裏腹に一歩裏道に入ればこんなものかと思うとまあ、何とも言えない。無能な主を掲げた国の悲惨さは、痛み入るがそれでもその主にこの路地裏にいる住人らは不満を口にする事も無く飼いならされている。この現状が当たり前になっている。自ら受け入れているようにしか男の目には映らなかった。

 

 如何いたしますか?と部下に尋ねられ視線を路地裏に向けたまま考える。

 

 ここで怒りの捌け口を示すかどうか悩んでいた時、男の前に同じ位の背の男の子が立っていた。

 

「お兄さん、駄目だよこんな所に来ちゃあ」

 

 幼さが残る顔と天使のような声と笑みを浮かべる少年。

 ね?姉さまと少年が男を挟んだ反対側に声をかけ、男もまた少年の視線を追って背後を振り返るとそこには人形のような少女が立っていた。

 

「ええ、そうね。兄様」

 

 プラチナブロンドの髪を持つ幼い双子の男女。

 だが、その手にはその天使のような笑みを浮かべる顔に似合わず凶悪な得物を手にしていた。兄様と呼ばれた男の子が持つ得物は二本の戦斧。そして、姉様と呼ばれた少女が持つのはBAR。逃げ道を塞がれる形でいつの間にか挟み込まれた。僅かに動揺する部下だが、男は全く気にしていない。

 

「そうだよ。僕達みたいなのがいるんだからさぁ!」

 

 突然上空から声が男に向けられ、その言葉と共に一人の白髪の子供が上から強襲してきた。その手にはナイフが握り締められており、明らかに殺意を持っての行動だった。それを合図に兄様と呼ばれた少年は戦斧を掲げて男に襲い掛かる。

 また、姉様と呼ばれた少女はBARの安全装置をすぐさま外し、男の部下に銃口を向ける。

 

 男は部下に少女の相手をしろとだけ命令すると上空から襲い掛かる少年に初撃を食らわす。

 

織斑流拳術螺旋掌

 

 織斑流拳術螺掌穿は正中線に向けて放たれる攻撃だが、螺旋掌は上段つまりは頭に向けて放たれる攻撃だ。螺旋に捻られた腕は溜めとなり、その溜めは螺旋力を含まれているため上から襲い掛かる白髪の子供のナイフの軌道を強引に逸らし、螺旋力が加わった掌底打は少年の顎に命中した。顎から頭を突き抜けるような凄まじい衝撃を受け、子供は脳震盪を起こし空中で意識を失い力なく地面に横たわる。

 

 一人沈黙させてもまだ一人残っていた。二本の戦斧を持って襲い掛かる双子の片割れ。

 戦斧の刃先は二つとも男に向けられており食らえば致命傷だ。

 

 男は一歩踏み出すと同時にくるりと向き合っていた体勢をを90度に曲げて少年に横腹を向けると少年の腹部に足刀蹴りを行う。腹部には男の足刀が深々と付き刺さる様に入っており、少年は腹部から背中にかけて貫かれるような衝撃を受ける。後ろに吹き飛ばされる少年の手から戦斧が外れた。

 

 数m蹴り飛ばされた少年は正中線にモロ攻撃が決まった為呼吸するのもままならない。

 

「雑魚が」

 

 男はそう少年に吐き捨てる様に言って部下の活躍に視線を向ける。

 丁度そのころ、部下は猛獣跳撃(スラガン・ハリマウ)によって貧民街の壁を足場に跳躍し双子の姉様と呼ばれた女の子の背後をとるとそのまま両手を足で踏みつけ、BARを右手で押さえ左手でその頭を地面に押し付けるような形で地面に拘束していた。大人と子供の体格差は決して埋まる事は無く、少女はなす術もなく取り押さえられた。ガチャリと鈍い金属の落下音を立てながら、少女は砂で顔を汚しながら捕らえられていた。

 

男は襲い掛かって来た双子の少年の2つの戦斧を拾い、捕らえられた少女に尋ねた。

 

「……一応訊いておこうか?何故襲った?」

 

 少年は未だに満足に呼吸すらできていないのに会話など無理だと判断し、男は少女に尋ねた。

 

「簡単な事よ、お兄さん。生きる為よ」

 

「俺等を殺して君たちは生きられるのか?」

 

「ええ、そうよ。殺せば持ち物は全て私達のもの。お兄さん達の全てが私達のものに成るの。殺す事で私達はその分生きられるの」

 

 

 純粋な表情でそう言う少女の眼は死んでいた。光を通さぬ瞳。

 成る程.これが彼女等の宗教か、或いは信じる道かと男は内心で理解した。

 子供ではどうしようもない現実が彼女等をそうさせた。その様にしか生きる術を知らない者達が悪いのかと問われれば違うといえるだろう。

 子供と言うのは純粋だ。疑う事を知らないのに、どうしようもない現実を突きつけられて必死に生きようとした結果がこの道である。

 

 改めて王宮に目を向ける。煌びやかで豪華絢爛な王宮だが、その犠牲となっているのが彼女等かと思うとその豪華さは無能の証明に見えてくる。

 

「成る程、無能な王を主として掲げる無能な貴族達……確かに主となるならば、誰よりも煌びやかで全ての国民の憧れとして君臨しなければいけないというのも頷ける。が、それは実力を伴って始めて機能するものであり、無能がやれば民を疲弊させこうして付け入る隙を作る事となる……お前達、俺に仕えないか?」

 

 突然の男の提案に男の部下は驚いた。

 少女の瞳に僅かに光が灯るのを見て内心笑う。

 

「どうした?殺そうとした相手にスカウトされることがそんなに不思議かね?何も可笑しい話ではない。君達は何も悪くない。そう生き方しか知らされていないのだから、その様に生きて何が悪いと言うのだろうか?そう言う生き方しか教えなかった国家そのものの責任だろう?故に君達は何も悪くなく、社会そのものが悪い」

 

 それは彼女等の心にすんなりと入る言葉だった。

 聴く度に彼女の瞳に失われた光が入り込む。

 

「さあ、こうして君達をこのような生活を強いる無能な国家に仕えるのと俺に仕えるのとどちらを望む?俺に仕えるのならば君達に衣食住を心配することなく提供しよう。俺が君達に望むことはその命尽きるまで俺に仕えよという事だけだ」

 

 チップと対価。掛け金は彼女等の命尽きるまで仕えるというものに対して、その対価は満足のいく衣食住だ。普通ならば対価としては不釣合いに思えるだろうが、毎日満足な食事すら取れず過ごす路地裏で過ごす人間にとっては素晴らしい提案だ。

 

「本当かしら?」

 

「ああ、本当だ。仕えても報われぬ国家に仕えるのと能力に応じて評価する俺に仕えるのとどちらが良いか?と問うているだけだ。無論、今の生活を送るならばそれはそれで構わんが……報われんぞ?仕える主を替えてみないかと提案しているだけだ」

 

「本当なのね?」

 

「愚問だ。貴様らにこの世に抗う意思があるかどうか尋ねているだけだ。俺に仕えると言うことはこの世を変えるという事だからな。無能である弱者は淘汰される弱肉強食の原初の世界に戻すだけの事…いや、もしかしたらその先に進化した世界に作りかえるかもしれんが、この現実よりはマシな世界にするのは確実だ」

 

 現実を見ろといって男は王宮を指差した。

 全てのイギリス国民の頂点に立つ王が居座る煌びやかで豪華絢爛な王宮。

 

「お前達の様な子供に手を差し伸べず豪華絢爛な王宮にふんぞり返る王と言う名の無能の君主を掲げる無能の貴族達。対して全ての者に平等にチャンスを与え、能力のある者全てを評価しようと言う俺。あえてこのように問おう。貴様らはどちらに仕えたいか?」

 

 俺は平等と言う言葉が嫌いだ。だが、全ての者に平等にチャンスは与えられるべきだと思う。そのチャンスをものにするかどうかはその人次第であり、能力のある奴が評価される世界を作る。これが俺が掲げる弱肉強食の世界だと男は語る。

 

「良いわ。この生活よりもお兄さんに仕えた方がマシそうだもの。協力させていただくわ」

 

 少女の言葉に野望に燃える男は唇を歪める。

 

「では、君達を新たなるポジションで迎え入れよう。その名は武器組!我々無手で武術を行う無手組とは対となる武器を用いた組織を今ここに創設を宣言しよう!!」

 

 武器組…この道しか知らなかった私達にぴったりの組織ねと少女は微笑んだ。

 己の生きた道は歪んでいたが、その全てが間違いではないと男は少女に語りかける。

 

「お兄さん、一つ尋ねても良い?」

 

「何だ?」

 

「お兄さんの名はなんて言うの?」

 

「織斑一夏さ。こちらも尋ねるとしよう。君達の名は?」

 

「私達に名前は無いの。でも、こう呼ばれているわ。ヘンゼルグレーテル。そして、貴方に倒されたのがジャックよ」

 

 それは通り名かと一夏が尋ねると彼女はそうよと答えた。成る程、貧しければ名前さえも無いのかと思うと複雑な心境だ。ここで新たな名前を与えても良かったが、それでは彼女達が懸命に生きた証を汚してしまうと思った。故に一夏は彼女達の名前をこのまま残そうと思った。

 

「そうか。では、。ヘンゼルグレーテル、それにジャック。君達の身柄は我が軍門が預かるとしよう。我々の最初の目的は天下布武。この世に武を敷き、堕落した世界を変える」

 

「天下布武……でも、そんな事でこの世界が変わるのかしら?」

 

 少女の純粋な疑問に一夏は、少なくとも世界の半分を変えるつもりだ。半分も我が軍門に降れば世界は認めざるを得まい?その為の最初の足がかりが君達だと諭した。

 

「男女平等であれば目的は達成されないかもしれんが、女尊男卑のこの世界ならば付け入る隙は幾らでもある」

 

 優秀な者つまりは強者が優遇され、劣る者つまり弱者が冷遇される、食われる世界。それこそ弱肉強食の世界であり、全ての人類が納得する世界だと語った。確かに自分よりも優れた人がいるならば不満はあろうが誰しも納得出来るだろう。平等な世界ではないが公平な世界になるだろう。

 

「俺が天下布武を行うのには理由がある。それは、武とは努力が才能を凌駕するからだ。我等が作る公平な世界とは、努力こそ必須条件だからだ!努力をしない者はただただ落ちていくだけだ」

 

 誰しも平等なチャンスが与えられる世界。それは素晴らしい世界ね。でも、そんな世界はこの世にありはしないと少女は言った。

 

「無ければ作ればいい。勝利とは与えられるものではなく自ら勝ち取るものだ」

 

 一夏の言葉に少女の瞳に失われた光が灯った。

 

「戦え!居場所が無いならばこの世界に抗い居場所を勝ち取れ!!争いこそが人の本懐であり争いこそが人を進化させる!それは歴史が証明している。故に否定することは出来ない筈だ。この世界から自分の居場所を作りたいならば自分で作れ、俺はそのやり方を教えてやる」

 

 そう言って一夏は少女を拘束していた部下に開放するように指示を出すと少女に手を差し伸べる。

 理想を語った。王の口から理想を語るという事は宣言するということ。宣言した以上は履行せねばならない。

 

 再び王宮に視線を向ける。無能な王たる証明の煌びやか王宮にふんぞり返るであろう王という名のアイドル。偶像であれば良かったが、実像である以上性質が悪い。

 

「ここに宣言するとしよう。俺はあんなゴミ屑みたいな無能な王には成らない!王の口から語られる言葉はその全てが宣言であり、宣言は責務が付きまとう。俺は俺の口から出た言葉の全てに責任を持ち、その責務を全うすると汝らに宣言しよう!その言葉に嘘偽りがあった時は……汝らが我が首を取る事を許す」

 

 それは驚くべき宣言だった。命を懸けると一夏は言った。

 この首を取る事も許すと。されど嘘偽りかどうか考えろと口にする。

 

 部下はこれだから我々はこの方に仕えているのだと少女に語り、少女は一夏の宣言にただただ驚くばかりだ。

 そして、少女は一夏から差し伸べられる手を取った。取ってしまった。己の居場所をこの世界に創る為に。

 

「良いわ、良いわ。素晴らしいわね、お兄さん!私達は貴方に仕えるわ。この身が尽きるまで貴方に仕えこの世界に私達の居場所を創るのね!?」

 

 居場所がなかった少女達に居場所を与えるとしたら、少女達はその命が無駄で無い事を理解する。

 道端に座り込んでも誰も助けてくれなかったこの世界でたった一人の男が初めて手を差し伸べてくれたのだ。

 

 

 銃を再びその手に取り、少女は片膝をつく。その姿はまるで騎士が王に忠義をたてる姿のようであった。その姿を見た双子の兄の方は呼吸が再び正常に戻るのを確認すると少女の横に同じく片膝をついて座った。

 

「我が日願成就の為の覇道 天下布武の最初の配下として君達を歓迎しよう。その命尽きるまで俺と共に生きよ!汝らの命は俺のものだ。勝手に死ぬことを許さぬ!」

 

 御身の御心のままにと双子は口をそろえて言った。

 では、始めるとしよう。天下布武を、と男は双子に背を向け王宮を睨みつけながら宣言した。

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