「……ここに亡国機業のデータが」
更識刀奈はアメリカの秘匿空母に秘密裏に侵入していた。亡国機業の情報収集をするという名目で学園を休学している一夏から秘匿回線でもたらされた情報によるとこの空母に亡国機業の情報がある可能性が高いというのだ。
「きな臭いわね」
出所不明の一夏の情報は不安要素満載だが、それでもそこに亡国機業の情報があるならば飛び込まないわけにはいかない。万が一に備えてIS学園の服は着てある。
無論、問題がないに越した事は無いのだが最悪の事態を想定して動くに越した事は無いだろう。
空母の中は静まり返り、異常なほどの静けさが艦内に漂っている。
「こんなに静かなんて……」
最高に良いタイミングなのか、あるいは最悪のタイミングなのかだが…
「お~い、誰もいないのか!?腹減っちまったぞ!メシだ、メシ!!」
どうやら後者の方であり、大声を出すのはサバサバした性格のアメリカ国家代表IS操縦者イーリス・コーリングだった。ダイビングスーツの様なISスーツを着ている。
瞬時に死角に入り、息を殺し気配を消してイーリスが通り過ぎるのを待つ。
イーリスが気付かずに通り過ぎると深呼吸をして呼吸を整える。
元とは言え更識楯無の名を襲名したのは伊達では無く、流石のイーリスも全力で気配を消した更識刀奈には気付かなかった。
イーリスの姿が見えなくなったのを確認すると再び歩み始める。
「やはり、人気が無い?」
先程のイーリスの件でその疑惑はさらに強まり、目的地へと向かう足の速度を速める。
国家代表が来たというのに出迎えも無しとは異常すぎた。あの口ぶりからしてイーリスは補給の為に立ち寄っただけだろう。
国家代表と言うVIPを前に案内も無しというのも可笑しな話だ。
「とするとこの船は無力化されている?」
流石、亡国機業仕事が速いと感心していると次の瞬間驚くべきことが起きた。
『現在コノ船ハ自沈装置ヲ作動サセテイマス。乗員ハ、タダチニ避難シテクダサイ。クリカエシマス。コノ船ハ……』
けたたましい警告音が艦内に鳴り響き、避難を誘導する機会音声が艦内に流れる。
「嘘でしょ!?秘匿艦とは言え、アメリカの空母を沈めようっていうの!?」
そんな事をすればアメリカが本格的に対テロ部隊を動かす筈だ。隠密行動を第一とする『亡国機業』のやり方とは思えない。
まさか、亡国機業はアメリカと何らかの取引をしていて、その取引そのものの内容が亡国機業だとしたら……
「最悪ね」
一夏からもたらされた亡国機業の実行部隊『モノクローム・アバター』リーダー スコール・ミューゼルの情報があるか否か。
目的のセントラル・ルームに問題無く辿り着くと電子端末をハッキングしてデータをディスプレイに表示させる。
検索—―スコール・ミュゼル。
………該当者なし。
「馬鹿な!?」
戸惑いの表情を浮かべるが瞬時に頭を切り替え、検索条件を変更する。
対象—―死亡リスト
「あった!でも……」
それは、アメリカ軍の死亡者リストに何故かスコールの名前が。
しかも信じられない事に12年前に偽装では無く完全に死亡していた。検死画像データでも最終更新は10年以上前だ。
詳しく調べようとする刀奈の背後に不穏な影が現れる。
その気配に気づいた刀奈が振り返った瞬間刀奈は紅蓮の炎に包まれた。
「フフフ、これでさよならかしら更識楯無さん?」
漆黒の夜空にIS『ゴールデン・ドーン』を展開しているスコール・ミュゼルは沈みゆくアメリカの秘匿空母を眺めていた。その姿は黄金のアーマーとブロンドヘアーが重なって神々しささえ感じる。
だが、その姿も織斑一夏の眼にはそこら辺の道端に生えている雑草程度にしか映っていなかった。
彼女が秘匿空母にいた理由は更識刀奈と戦って来いと織斑一夏に言われたからである。
恋人のオータムの命を握られているスコールにとって一夏の命令は絶対であり、逆らえば容赦なくオータムの命を散らすであろう。
しかし、解せなかった。更識楯無と戦ってこいとは言われたが殺すなとは命令されていなかった。故にうっかり殺しても問題ないという事であり、もし殺してしまってもスコールに咎められる言われはない。IS学園に所属する織斑一夏にとって更識楯無の死はIS学園の戦力低下であり、下手をすれば楯無の専用機をスコールが奪い亡国機業の戦力増加に繋がる事もあり得るのだ。
「彼は一体どういう了見で私にあんな事を言ったのか知らないけれどもこれで任務達成ね」
背中を向けたスコールに沈みゆく空母から槍の先端が襲い掛かる。
「逃がさないわよ、スコール・ミュゼル!!」
IS『ミステリアス・レイディ』を完全展開した更識刀奈は瞬時加速で距離を詰めると共に渾身の一撃を放つ。速度と体重を乗せた渾身の一突きだったがスコールはそれを軽くいなす。だが、それでも再度連続で突きを放つ刀奈。
されど、スコールを守るプロミネンスコートを突破することは出来なかった。
「諦めなさい。想いだけでこの現実を変えることは出来ないわ」
「それでも!」
今度はミストルティンの槍を発動してスコールにぶつける刀奈。しかし、それでもスコールを覆うプロミネンスコートを突破する事は出来なかった。
「言ったでしょう?貴女の想いだけではこの現実を変えることが出来ないと」
スコールのIS ゴールデン・ドーンには傷一つ付くことも無かった。絶望するほど圧倒的な力の差がスコールと刀奈の間にあった。
「クッ!」
苦々しげな表情をして刀奈はスコールに回し蹴りをして距離をとる。プロミネンスコートは健在で刀奈の回し蹴りを遮り逆に刀奈のミステリアス・レイディのシールドエネルギーを削る。
僅かに削られたシ-ルドエネルギーに刀奈は内心舌打ちをする。
「どう足搔いても貴女の水では私の炎に勝てないのよ」
そう言って刀奈に向けられるスコールの手から放たれる超高熱火球ソリッドフレア。連続で放たれるソリッドフレアを回避するがスコールは更にソリッドフレアを放ち刀奈は火球に囲まれた。
「終わりよ」
スコールの言葉と共に刀奈は炎に包まれる。
肌を焼かんばかりの高熱が刀奈を襲う。絶対防御が刻一刻と削られる中で刀奈は瞬時加速による突破を試みる。
自分の肌を焼く超高熱の炎から抜け出した瞬間腹部に物凄い衝撃が走った。
がっちりと刀奈の腹部に食虫植物の如く食らいつく先端が開閉式となっているゴールデンドーンの巨大な尾。ミシミシと刀奈の腹部を締め付け、苦悶の表情を浮かべる刀奈。
「言ったでしょう?終わりよ、と」
スコールの手には先程放った火球よりもより一層大きな火球が形成されていく。
ミストルティンの槍は近接格闘戦の武装。スコールはその槍の攻撃範囲外にいるため攻撃は当たらない。苦悶の表情を浮かべたまま槍に内蔵されている機関銃でスコールに向けて放つがスコールを覆うプロミネンスコートに阻まれる。
今まで以上の大きな火球がスコールの手から放たれ刀奈を覆う。巨大な炎に身を包まれ意識が朦朧としてきたそんな時、「お姉ちゃん」との聞きなれた声が刀奈に聞こえた。
そして送られる新たなる力。
急に48発の独立稼動誘導ミサイルがスコールに襲い掛かる。襲い掛かってくるミサイルを回避する為にスコールは刀奈から距離を取ると自然と刀奈の拘束が緩み刀奈は開放される。炎に塗れた刀奈は垂直に急降下して海に入り自身を焦がすように身にまとわり付いていた炎をかき消す。
「邪魔よ」
襲い掛かってくる48発の独立稼動誘導ミサイルを回避しながらスコールはミサイルに向けて熱線を放つ。熱線はミサイルに直撃し弾頭を真っ赤に熱し融解させる。熱線が一発のミサイルに直撃して僅か2,3秒後に爆発を引き起こして周囲を飛行していたミサイルが誘爆する。次から次へと誘爆するミサイル群の様子はさしずめ連鎖爆発。48発のミサイル群を全て破壊し空中に佇むスコール。
そんなスコールに目掛けてシールドパッケージ『不動岩山』を装備した簪は背中に装備されている2門の連続荷電粒子砲 春雷を放つ。
簪から放たれた荷電粒子砲を迎え撃つ為にスコールの手から放たれた火球。
漆黒の夜空に二つの攻撃が重なり激突しあい、夜だと言うのに空に日中の如く光が生じる。
「ハア!」
超振動薙刀 夢現を瞬時に呼び出し構えスコールに斬りかかる簪。
されど、傷一つ付くことはなく堅牢なプロミネンスコートに阻まれる。刃を掴もうとするスコールの手を後方宙返りしながらかわす。
「解りなさい。あなたの力でも私に勝つ事は無理よ」
連続で火球を簪に向けて放つスコール。一夏との修行で身につけた持ち前の回避スキルでスコールの火球を紙一重でかわすがそれでも致命打にならない以上は今の状態ではジリ貧だった。
「なら、二人ではどうかしらね」
凛とした声でスコールと簪に向けてオープンチャンネルで向けられる声。
簪から送られたインストールパッケージ麗しきクリースナヤ。その名の通り赤の翼を広げたユニットをその背に繋ぎ、赤き水を身に纏う声の持ち主。
「水は私の味方、私の支配下。食らいなさい、私の--------ワンオフ・アビリティーを!!」
海の水面に爪先立ちで立つ刀奈がスコールに槍を向けるとスコールが周囲の空間に沈める超広範囲指定型空間拘束結界
周囲の空間に沈むスコールは驚きを隠せなかった。
「沈む!?この私とゴールデンドーンが!?」
その結界の拘束力はラウラのAICを遥かにしのぎ、徐々に沈み行くスコールに刀奈は海の水で作った槍を、簪は背中に装備されている2門の連続荷電粒子砲 春雷を弾切れになるまで放つ。
スコールを拘束する結界に襲い掛かる赤き水の槍と荷電粒子砲。
「ふっ……」
突如スコールは数多の火球を作り出し自分にぶつけた。結界の中を炎と煙で埋め尽くし、スコールの姿が見えなくなる。
「「!?」」
突如の事に驚く簪と刀奈。
一見自爆したかのように見えたが煙の中から結界から抜け出したスコールが現れた。その代償としてちぎれた左腕部分から機械部分が露出していたが。
「ばれちゃったわね私の秘密」
クスリと笑うスコールとは反対に険しい顔をする刀奈。
「やはり、機械義肢ね」
「じゃあね、更識楯無さん」
挨拶代わりに火球を二人に向けて放つスコール。
最早エネルギーが全くない状態の刀奈に代わり火球を受ける簪。シールドパッケージ『不動岩山』の堅牢さを物語るかの如くスコールの火球を受けてなお簪はさほどエネルギーを削られる事は無かった。
「はあ、全く……」
亡国機業の隠れ家にたどり着いたスコールは冷たい床に倒れこんだ。
時折損傷した左腕からはスパークが走っている。
「フッ、亡国機業の幹部ともあろうお前が無様だなスコール。見ろオータム、貴様の恋人の無様な姿を」
倒れこんだスコールに向け言われるまるで馬鹿にするかのような声。
暗闇から現れる少年。亡国機業の一人織斑一夏。その背後から現れるオータム。その表情は悔しそうな表情で一夏を睨みつけている。
「お前!」
食って掛かろうとするオータムだが、背後から一夏が連れてきたジャックにナイフを心臓の真後ろに突き付けられ、一夏にはぎろりと鋭い眼差しでオータムは睨みつけられた。
「俺は更識楯無と戦ってこいと言った。そして、その戦闘結果がこれだ。無様に敗北し地に倒れている。これが現実だ」
その言葉に何も言えなくなるオータム。
フンとつまらなそうに鼻を鳴らしオータムからスコールに視線を落とす。それと同時に背後から突き付けられたナイフもしまわれジャックは暗闇の中に消える。
「だが、まあこうなる事も予想は出来ていた。今回の一件で更識楯無と更識簪のパッケージデータと戦闘能力もおおよそ見当はついた。ご苦労だったなスコール」
薄ら笑みを浮かべねぎらいの言葉をかける一夏。
ただ何もできない自分に歯がゆさを覚えるオータム。
「お前達の追加武装も丁度出来た頃合いだ。少し遠いがその腕のパーツもあそこにある。二人で取りに行って来い」
★ ★
「出来たよ~~~~マドっち~~~~~」
そう言ってマドカに抱き着く束。一夏の娘だという事を知ると一層愛おしさが増してくる。
抱きしめしまいには頬擦りすら行う束に今まで感じた事もない感情を覚え照れくささを感じながら鬱陶しそうな態度をついつい反射的に取ってしまうマドカ。
「ええい、抱き着くな!」
「え~、良いじゃん。束さん凄く頑張ったんだよ~。マドっちの為に頑張ったんだよ~。んだからさ、ご褒美ご褒美」
「鬱陶しい!」
「えっと~ツンデレ?」
「な!?ち、違う!」
顔を真っ赤にしながら全力で否定するマドカだがクスクスと笑う束に調子を狂わされる。
束に抱き着かれた状態で改めてみる専用機。束に改造されたイギリスから強奪したサイレントゼフィルス。その面影は全く残っていなかった。
「これが私の専用機」
「そうだよ。その名は黒騎士」
漆黒のアーマーが鋭く光り、圧倒的なパワーを感じさせる。
「最初の相手は、ね」
そう言ってマドカの顔を覗き込む束。
「いっくんが良いと思うよ♪」
一夏ならば認めてくれる。示してくれる。
一夏と繋がっている束には解る。その力の使い方を、あり方を。
作られた命のマドカの居場所を示してくれる。
コクリと無言で頷くマドカを先程からマドカの後ろで鋭い殺気を放ちながら嫉妬の炎を燃やすクロエに微笑みクロエを抱き寄せる束。束の腕の中には黒騎士を見つめるマドカと隣にいるマドカを鋭い眼差しで睨みつけるクロエ。そんな二人を抱きしめながら微笑む束。
「この機体であの人と………」
新たな力を与えられたマドカは再び一夏の前に立つことを決心する。己の存在を証明するために。
今まで登場してきた人物やAIの紹介みたいなのを書いた方が解りやすいでしょうかね?