意識を取り戻したアーリィと共に一夏は集合場所へと赴いた。既にジャック、ヘンゼル、グレーテルの3人は予定を変更して宿泊ホテルへと向かわせており、忘心波衝撃によって記憶を操作したアーリィはヘンゼル、グレーテル、ジャックの事を忘れており一夏に出会ったけれども熱中症で倒れたという偽りの記憶へと摩り替わっている。
と言っても、一夏に出会った前後の記憶が抜けており、その場に居た一夏が出会った瞬間に倒れたと事細かに証言したためアーリィはそれを信じるしかないためその証言を鵜呑みにしただけだ。
アーリィと共に集合場所へと向かったら何故かオータムが椅子に拘束されており、事情を聞くと専用機持ちの一人である篠ノ之箒を一人のときに襲撃したらしいのだが、実はただただトイレに行っていただけで帰りが遅い箒を短気の鈴が様子を見に行ったらオータムと遭遇。その場でISによる先制攻撃を行い、その攻撃でトイレが派手に壊れそれを見た他の専用機持ち達も全員集合という事でオータムは多対一で戦わなければ成らず、その場で直ぐに投降したというのだ。
全く使えず、ましてや足手纏いであるオータムに苛立ちが募り、いよいよ始末しようか考え始める一夏。足手纏いは邪魔だが、もっと許せなかったのは投降したと言う事実だ。弱い者に価値は無い。しかも、自ら戦いを放棄した弱者等一夏には不要だった。
「放せボケが!」
拘束されて椅子に縛り付けられているオータムに一夏は五月蝿いとオータムの腹部を蹴り飛ばす。その瞬間、拘束されているオータムは椅子ごと真後ろに吹っ飛び壁に激突。椅子はその衝撃は破壊され、オータムは意識を失った。
そんなオータムを黙って見る他の専用機持ち達だが、その中にレインとフォルテの姿は何処にもなかった。当然と言えば当然である。レインとフォルテは学園を裏切ったのだ。この場にいられるはずも無い。
専用機持ちが黙って見守るなか、アーリィは一夏に抱きつきキセルを吹かす。
「私の名前はアリーシャ・ジョセスターフ。アーリィと呼んでくれさネ」
パチリと専用機持ち達に軽くウィンクするアーリィ。
その光景を見た千冬がアーリィに殺気を向け、山田先生がおろおろする中アーリィはまるで何も無かったかのように振舞う。
全く、全ての予定が狂ってしまったと内心ボヤキながら一夏はアーリィを振りほどくと千冬に問う。
「それで、織斑先生。さっさと本題に入りましょうよ。五月蝿いのは黙らした」
「そうだな。早速だが本題に入ろう亡国機業の拠点が割れた。拠点の可能性があるのは主に二つ。一つは空港の倉庫。もう一つは、ここから数キロはなれたビジネスホテルだ。だが、敵に戦力が2増加。こちらにはアーリィが来て1増加。さらに敵の戦力1減少。悪くない数字だが良くも無い」
フォルテ・サファイアとダリル・ケイシーが専用機と共に亡国機業に渡った。かつてIS学園の仲間と戦うということはIS学園の生徒にとって戦いにくい相手だ。何しろ先程まで京都に来るまでの新幹線で一緒に騒いでいた仲間だったのだ。訓練された兵士でなければやはり戦う際に無意識に手加減してしまうだろう。それが命取りになるかもしれないが、IS学園とはいえ一端の生徒にそれを解らせるには無理があるだろう。軍人であるラウラ以外やはり女性と言うのは情に脆い部分がある。
いや、もしかしたら軍人のラウラですらも心のどこかで無意識のうちに手加減してしまうかもしれない。
(フン。まあ、この程度の戦力差などアーリィが本当に我が姉と同じ超人クラスならば圧倒的にこちらが有利。だが…)
問題は不安要素満載の専用機持ち達を戦場に連れて行くということだ。不安要素満載の専用機持ち等邪魔でしかないが、それでも千冬の意向ならば従うしかない。
「これより、お前達には二手に分かれて貰う。ホテルにはアーリィ、篠ノ之、凰、更識姉、更識妹。倉庫には織斑、デュノア、オルコット、ボーデヴィッヒを担当してもらう」
ここで捕まったりすれば、口封じのために亡国機業の連中たちは消しておこうと内心決意する一夏。
ここまで生かしておいたのも彼にとっては温情であり、捕まればそれまで。逃げるだけの力が足りなかったと言うだけだ。弱者は死に強者が生き残る弱肉強食の世界で弱者に待っているもの、それ即ち死である・
内心、さあ存分に死に物狂いで抗ってくれよと思いながら了解と一夏は返事した。
亡国機業の一人としてではなく、IS学園の生徒の一人として今回は学園側につくのだ。
やる以上は手抜きはしない。手抜きをして千冬に発覚すれば怪しまれる。それは今後の予定に不都合で、亡国機業の連中が居ないよりも不都合なのだ。千冬に怪しまれずにいるには任務に手抜きをせず当たるしかなく、そんな一夏が居るIS学園の連中から逃れれる確立は1%以下。捕まれば口封じのための死がスコール達を待っているだけだった。
○ ○
「オータム、遅いわね」
貸切にした状態のホテルのプールに浮いているスコールはぼそりと呟いた。
織斑一夏との会合のためにオータムを向かわせたのだがその連絡は途絶えたまま。
「ああ、オータムなら専用機持ちの連中に捕まったみたいだぜ。向こうのオープンチャンネルを覗いたら、んな事を書いてあったからよぉ」
レインの言葉を聴き、唖然とするスコール。
だが、その表情は瞬時に変わった。
「今迎えに行くわオータム!」
急ぎプールから出ようとするスコールだが、レインはそれを止める。
「いや、今行っても無駄だと思うぜ。向こうにはアリーシャ・ジョセスターフもいるんだ。チャンスを待つしかないんじゃないか?」
なあ、フォルテとプールで浮輪に浮かんでいるフォルテ・サファイアに同意を求めるそうっスねと頷いた。
だが、何よりもあの織斑一夏の姿がレインの脳裏に焼き付いて離れない。無慈悲にフォルテに監視用ナノマシーンを注射したあの姿。狙撃を嘲笑うかの如く威風堂々たる姿で邪悪な笑みを浮かべるあの姿が。
「解ったわ。レイン、次の指示があるまでに準備しときなさい」
「了解」とレインの返事を聞いたスコールはプールから上がりその場を後にする。
スコールの次の一手は一夏への連絡だ。オータムを開放して貰う為の条件を一夏に伺うのだ。
プールから出たスコールはバスタオルで体を拭き、バスローブを身に纏い一夏に秘匿回線で連絡した。
数回のコール音の後に一夏は電話に出るとスコールは開口一番一夏に謝罪する。
『申し訳ありません。オータムがそちらに捕まったそうですが真偽の方は真なのでしょうか?』
『ああ、真実だ』
『……どうすれば宜しいでしょうか?』
『さてな。オータムは専用機持ちに囲まれただけで自ら投降した。俺の部下に弱者は、それも意志弱き弱者は不要だ。消す』
消すというセリフを聴いてスコールの眼は大きく見開いた。
心拍数が上昇し一気に体から冷や汗が溢れ出る。
『お、お待ちください!どうか、お考え直し下さい!!』
『それに、あのダリル・ケイシーとかいう者』
ダリルはレインの事であり、更にスコールの体から冷や汗が溢れ出た。
『あいつは俺に狙撃して失敗した。これがどういう事か解るな?』
最早弁解する余地も無し。スコールは消されて当然だ。
自身の命を狙った組織の構成員を消す大義名分を一夏に与えてしまっているのだ。スコールに最早切れる切り札たるカードは存在しない。
『まあ、狙撃したことをお前に咎めないさ』
一夏の言葉に思わずえ?と声を漏らしてしまった。
その間抜けな声を聴いて一夏は電話越しにクククと笑いながら、当然だろう?組織と言うのは頭が変われば方針も変わる。馴染めず、暗殺をしようとしても可笑しくない。いや、道理だ。自分が苦手たる存在を排除する事で環境を良くしようとする人間の性だからな。まあ、下手人には罰を受けて貰った。これ以上は何もお咎めする気はないさ。
だが、しかし!オータムはダメだ!俺の組織に必要ない。あれは自分の意思で戦う事を放棄した弱者だ!一撃でも専用機持ち共に攻撃をしていればまだ救いはあったが、奴はそれを放棄した。俺の組織に不要だ!もし、助けたければスコールお前が責任をもってオータムを救出しこれ以降一蓮托生で面倒を見よ。俺は今回、学園側を全力で援護する。死に物狂いで抗え。そう言って通信は一方的に切られた。
通信が終わったスコールは膝から地面に倒れ四つん這いとなる。
「た、助かった」
これは言わば、もうこれ以上面倒は組織としてみない。代わりにお前がその責任を全て見ろと言ったのだ。
この通信によってオータムは殺される事は無い。だが、状況に変化はない。
最悪の状態から一歩だけ改善されたままなのだ。戦力差は歴然だ。第二回モンド・グロッソの優勝者アリーシャ・ジョセスターフが向こうにいるのだ。レインがフォルテを連れて戻って来たとは言え、こちら側はオータムを損失しているのだ。絶望的な状況に変わりはない。
それでもやるしかなかった。
襲撃を受ける事はもうレインの報告で知っている。
後はオータムを回収しどうに逃げ切るだけだ。ただ、追ってくる相手が化け物揃いなだけで。
「……1%以下の成功率よね。でも、やるしかない」
□ ■
「見てみて、クーちゃん。花の都京都だよ~」
「そうですね。まあ、今はもう夜ですが」
「ん~、クーちゃんは相も変わらず辛辣だね~。でもでも、ここにいっくんが居るんだよ?」
「………」
「あ~、クーちゃん頬がにやけちゃってるよ」
ニヤリと頬がにやけるクーとそれをからかう束。
先程京都に着いた束達は夜の京都の夜風に当たっていた。辺りが暗くなった夜に街灯がポツリポツリとつき始める。まるで修学旅行に来たみたいにはしゃぐ束。クーは一夏の事を思い顔を真っ赤にする始末。
そんな中マドカは束から渡された新たな待機状態の専用機をじっと見つめていた。
マドカの新たなる力黒騎士。束が自らの手でサイレントゼフィルスを改造し創ったマドカだけの専用機。各国のお偉いさん方が聞けば超VIP待遇で是非とも我が国にと詰め寄ってくること間違いなしだろう。
そうなれば居場所が無かったマドカに居場所がすぐに出来る。だが、それはマドカの力では無く只々、束が手掛けた専用機というだけだ。それでは、マドカが専用機を失った際に何も残らない。親の威光を着ただけのお坊ちゃんと何ら変わりなく、弱いだけだ。
だからこそ、束はマドカに一夏に再び会うように勧めたのだ。
「あの人にもう一度……」
自分を娘として認めてくれた人。生きてくれと言ってくれた人。
一夏と出会い、束とふれあいマドカの中で何かが変わろうとしていた。
「さあ、行こうよ。黒騎士のお披露目といっくんに会いに!」
束はマドカに手を差し伸べ、マドカはその手を取った。
京都に更なる争いの火蓋が切って落とされた。
× ×
「フウ」と溜息を吐くスコール。ホテルの一室でソファーに座り休息を取っていた。
これからオータムを迎えにいくのだ。成功率は1%以下の任務だが、これを成功させればオータムはスコールの保護下に入ることが出来る。
これは一夏の温情だとも言えるが、救出できなければそれまでと言うことだ。
カタカタと窓ガラスが風に揺られて音を出すとスコールはソファーから立ち上がり、展開と呟いた。
スコールの呟きと共に窓ガラスが割れ、窓の向こうから大きな風の槍がスコールが座っていたソファーに突き刺さり、ソファーは跡形も無く消し飛んだ。風の槍はソファーを消し飛ばすだけではなくスコールが居る部屋の内装を暴風によって破壊しつくした。
暴風が部屋の内装を滅茶苦茶に破壊する中、スコールはゴールデン・ドーンを展開し暴風の中をプロミネンスによって守られた状態で威風堂々と立っていた。
「やるさネ」
割れた窓からゆっくりと部屋に入ってくるアーリィ。その身にはISテンペスタを身に纏い、事故でなくした右腕はISの義手をつけていた。
アーリィの後ろには逃げ場を塞ぐように篠ノ之箒、凰鈴音、更識楯無 更識簪がISを展開して空中に佇み、スコールが泊まるホテルをグルリと囲んでいた。
もう一度だけ息を吐くとスコールは予めインストールしていたパッケージデータを展開する。
「さて、このレッドバーンの出来具合を試させてもらうわ」
その言葉と共にスコールが泊まるホテルのフロアが丸ごと焼き尽くされ、フロアの窓という窓から高火力の熱線が放たれる。高火力の炎がホテルのフロアを焼き尽くす中、二つの機影がフロアから夜空へと飛び出した。神々しささえ感じさせるスコールのISゴールデンドーンと風を見に纏ったアーリィのISテンペスタ。
フロアを丸ごと一つ焼き尽くす熱量を浴びたと言うのに傷一つ負ってないアーリィにIS学園の生徒達は息を呑んだ。言葉にする事も出来ないほどその光景に圧倒される。
「流石やるさネ」
「貴女も、ね」
「だが、これならどうさネ」
突如アーリィは腕を広げ暴風を身に纏い、その姿は6つの分身を作った。暴風を見に纏った分身を作る。これこそアーリィの専用機の単一能力。その名も
「悪いけれども私はオータムを迎えに行かなければ行けないの。ここで決めさせて貰うわ」
分身したアーリィに向かって極太の熱線を連続で放つスコール。夜空を激しく照らす灼熱の熱線。アーリィだけではあき足らず他の専用機持ちにまで灼熱の極太熱線を放つ。専用機持ち達がそれを回避する度に灼熱の熱線が地面のアスファルトを溶かし、民家は炎に包まれる。紅蓮の炎があちこちから発生し夜の京都は夜だと言うのに日中の如く明るくなり、灼熱地獄へと変貌する。蜘蛛の子を蹴散らしたかのごとく突然の火事で逃げ惑う人々。
「お前!」
その光景を見た箒は瞬時加速で距離をつめ、雨月を振るう。雨月から打突に合わせたエネルギー刃が展開しスコールを襲う。だが、堅牢なプロミネンスに守られたスコールは傷を負う事無く逆に食虫植物のように尻尾の先端がわかれ箒の体にガブリと喰らいつく様に拘束する。メキメキと徐々に箒を拘束する力が強まっていく。
幾らISを身に纏っているとはいえ絶対防御は命の危機が及ばぬ限り発動しない。
箒もゴールデン・ドーンの尻尾をこじ開けようとするが絶えず圧迫する痛みで集中できずこじ開けることは出来ない状態が続く。
箒を拘束した状態でスコールは惜しむ事無く極太の熱線を専用機持ち達に向けて連続して放つ。レッド・バーンによって更に性能がアップしたゴールデン・ドーンから発せられる極太の熱線を回避するが連続で放たれる熱線は回避先にまで予測射撃を行って放たれるため専用機持ち達は防ぎきる事が出来ずに熱線の餌食となっていく。
突如飛来する48発もの高性能誘導ミサイル。その全てはスコール一人に向けられており、スコールに迫る。
だが、極太の熱線がミサイル群に向かって放たれ、ミサイル群を次々と溶かし行く。
「それじゃあ、私はここで失礼させてもらうわね」
「させると思う?」
空域を離脱しようとするスコールに対峙する更識刀奈。スコールの猛攻をどうにか防ぎ、学園の専用機持ちの中で唯一戦闘続行可能な人物だ。だが、五体満足とはいかず水のベールを作り射撃攻撃を無効化する左右一対のアクア・クリスタルの内の右のアクア・クリスタルがスコールの猛攻を防いだ時に破壊され、見る限り防御力の低下は免れない。もう一度スコールの猛攻を食らえばどうなるか。最悪ISの破損だけでは済まされず人体の破損すらもありえる。
ボロボロの刀奈を見てスコールは鼻で笑う。
「そんな状態で私の相手が務まるかしら?」
「一人では駄目でも二人ならばどうさネ?」
刀奈の横に現れるアーリィ。先程のスコールの猛攻を風で防いだようだ。その証拠にアーリィの専用機には目立った外傷はなく、流石第二回モンド・グロッソの優勝者だと言わざるを得ない。
2対1.しかも、そのうちの一人が第二回モンド・グロッソの優勝者となれば先程よりは状況的には大分マシだがそれでも状況的に不利なのに変わりは無い。頭を切り替え戦闘による勝利と言う考えを切り捨てる。
「そうねえ。でも、押し切らせてもらうわ~」
拘束していた箒をアーリィと刀奈に向けて投げつける。遠心力が働き、ぶつかる3人に今まで以上の極太の熱線が放たれる。迫り来る熱線をアーリィのテンペスタの風と刀奈の水で相殺する。二人がかりでようやく相殺するスコールが放つ熱線。辺りにはその余波で水蒸気が充満し視界を遮る。
だが、そんな視界が悪い状態の3人に更に火球のソリッド・フレアが3人を襲う。
「雨月!」
今までのお詫びと言わんばかりに箒は雨月を振るい打突に合わせた複数のレーザー刃がソリッド・フレアを貫く。水蒸気と炎で遮られる視界。
アーリィは無言で風の槍を形成しスコールの居た方角へと投げつける。それを突破口に風で形成された槍に向かって水蒸気と炎が巻き上げられて行く。
だが、視界が回復する頃には既にスコールの姿は無かった。
戦闘には勝てないと判断したスコールが逃げに徹したのだ。箒達に放たれたソリッド・フレアは眼くらまし。
箒達はまんまとスコールの策略にはまりに取り逃がしたのだ。
「一夏……」
同じく任務を遂行している一夏が居る空港方面に視線を向ける。
何故だか胸がざわめき嫌な予感がする箒。それは、巫女としての感か、はたまた血筋ゆえか。