一夏の手によって強制的に戦線離脱をさせられたマドカは空中を飛んでいた。
どれほどの力を込めたのかわからないほどもの凄い力で一夏に投げ飛ばされ空中を飛ぶマドカ。だが、突如背後に人の気配と共に衝撃が走りマドカはそれ以上飛ばされなくなった。
「大丈夫かい?」
その人物は背中からマドカを抱きしめるような形でマドカを止めた。
「は、離せ!」
感謝の気持ちを言う事も無くぶっきらぼうに言うとマドカはその人物の手を振りほどく。
改めて自身を止めた人物を見る。白銀のISを身に纏った操縦者は驚くことに男だった。
「君は、何時もそうだねマドカ」
「何?」
苦笑しながら話すその人物はイケメンで、マドカは自分の名前を知っていることに驚く。マドカの名前を知っているのは亡国機業の連中のなかでも限られた人物で、他に知っているとしたら篠ノ之束とクロエ・クロニクル、織斑一夏位だ。あった事も無い相手が知る由もない。
だが、そのイケメンはマドカを大分知っているかのような口調で話す。
「さて、それじゃあ行くとしよう。彼が居る戦場に、いや彼が待つ戦場に」
そう言ってイケメンは視線をマドカが飛ばされた方角に向ける。
白騎士となった一夏が待つ戦場には続々と様々なメンツが集まっていた。
亡国機業へと復帰したレイン・ミュゼルとレインについていったフォルテ・サファイア。それに対し千冬の指示で集まった更識簪に更識楯無、篠ノ之箒、アーリィ、ラウラ、セシリア、デュノア、鈴といったIS学園の面子。
そして、打鉄を身に纏った千冬と専用機ラファール=リヴァイヴ・スペシャル
かつて代表候補生まで上り詰めた愛機を身に纏った山田先生。だが、そうまでしても一夏を止める事が出来るかどうか危ういのだ。
「一夏!一夏、聞こえるか!?」
オープンチャンネルでの千冬の呼びかけに何も反応を示さない白騎士を見た千冬の脳裏に嫌な記憶がよみがえる。
かつて専用機を凍結にまで追い込むまでのダメージを与えた時の一夏に今の現状はそっくりなのだ。
「……状況は最悪だ。このままでは」
そう呟く千冬の脳裏には今後の予想が明確に解る。このままでは一夏は自分に敵対する全ての者へ刃を向ける事に成るだろう。
それは異常なまでの自己防衛本能と闘争本能によって自分に牙を向けるかもしれない相手を全て殲滅する平和の化身へと変貌するからだ。拳を向けてただけで容赦なく相手の命を散らす。武器が自身に向いていた、ただそれだけの理由ですらも今の一夏は相手の命を散らす事に躊躇するわけなど無い。無慈悲に散らすこと間違いないだろう。
ただ、跪き頭を垂れ荒ぶる神を鎮めるために祈る様に待つしかなくなってしまう。
そう、ほんのちょっとした事でも一夏は争いの火種となり得る全ての要因を排除する。その過程で何人もの犠牲が出ようとも止まる事は無いだろう。その根底にあるのは平和へのあこがれと願望。愛する篠ノ之束に向けられる悪意と脅威を感じ家族が仲良く暮らす平和な世界を無意識の内に望みそれを叶えるために動く。人類が争う事で命を刈り取られると知れば争いは無くなるのだ。
争う者には無慈悲な死を。それが平和を望んだ一夏が無意識の内に願った願望だ。
今の無意識状態の一夏はそれを叶えるために動いているに過ぎない。その願望を叶えるために海の向こうを渡り世界にその理を強いるために争う事すらもあり得る話なのだ。
「ここで止めなければ!」
千冬が動こうとした時、戦場に2つの機影が現れた。
「なんとか間に合ったみたいだね」
「……」
マドカとマドカが出会ったイケメンだった。
イケメンはマドカに話しかけるがマドカは白騎士へと変貌した一夏を見たまま言葉を失う。
突如現れたイケメンに各々反応が違うが中でも特に反応したのが中国の代表候補生凰鈴音だった。
「鏡!?あんた、鏡じゃないの!?」
「久しぶりだね、鈴」
「久しぶりって、あんた何でISに乗っているのよ!?一夏以外に他に現れた男性IS操縦者なんて聞いたこと無いんだけれども!」
「まあ、それは内緒って事で頼むよ。まあ、言うつもりはないけどね」
「鳳、詳しく話せ」と千冬は指示を出すが、説明しようとする鈴をそのイケメンは首を横に振り止める。
「初めまして、織斑千冬。僕の名前は鏡形而。貴方の弟、織斑一夏が立ち上げた武を求め研鑽しあう場所摩天楼 チーム
「お前と同じだ。そして、最悪な事に勝率なんて今の現状では考えれない」
その千冬の言葉にIS学園の生徒達は全員黙ってしまう。世界最強の千冬とアーリィが居ても勝率が無いと、考えられないと言ったのだ。絶望的と思えずにはいられない。
クスリと笑みを浮かべながら一つ助言を千冬に述べる鏡。
「ここにかつて織斑一夏の左腕と称された男が手助けをしても、かい?」
その言葉を聞いた千冬は驚いて鏡を見る。
突如、鏡から滲み出る気。それは、間違いなく特A級達人クラスのものだった。
気の消失にまで出来ているとなると確かに戦力としては申し分なかった。
「だとするならばまだ救いはある!」
そうして一夏に対峙するIS学園側。一夏を包囲するようにぐるりと囲む。
「一夏、戻って来い!」
最初に箒が動いた。空裂による斬撃をエネルギー刃として振るいながら距離を詰め、雨月で刺突攻撃による際にレーザーが現れ白騎士を襲う。空裂のエネルギー刃と雨月のレーザーが一夏に迫りくるが、その行為は一夏に危害を加えるという行為であり一夏の敵となる明確なものとなった。
敵となった者に容赦はしない。空裂のエネルギー刃を上昇して回避すると箒との距離を詰め、発動している流水制空圏により雨月の剣先を手でさばく。
「ティー・ソーク」
相手の動きに合わせ雨月をさばくと同時に箒の懐に入り胸にムエタイの肘うち ティー・ソークを振るう。
肘うちによって胸部の装甲が歪み真後ろに威力を殺す事が出来ずに吹き飛ばされる箒。竹林に突っ込み、破壊しながら十数m地肌を露出させる。
次に動いたのは鈴だった。箒を沈黙させた一夏に衝撃砲を連続して放つが回避しながら鈴の上空を飛び、更に衝撃砲を連射する鈴との距離を螺旋に飛びながら詰めた。
「
鈴の上空から逆さまになりながらプンチャック・シラットの技の一つ
逆さまになった状態で旋回しながら蹴りや拳撃を放つその技は鈴の燃費重視の甲龍の衝撃砲を避けながら鈴の体に放たれた。白騎士から放たれるその技を回避することは不可能。下は地面、上は攻撃を繰り出す白騎士。逃げ場を失った鈴の体に容赦なく叩き込まれる拳撃と蹴り。装甲を歪め、破壊しシールドエネルギーを削りやがて鈴は意識を失ってしまう。
あっけなく地面に倒れる鈴。そんな鈴を中心に地面はクレーターができ、その技の威力を凄まじく物語っており数秒で鈴はシールドエネルギーがゼロに成り意識を手放し地面に突っ伏した。
第四世代のISを駆使する箒を最初に失ったのが彼女らにとってまずかった。回復役を失ってしまえば今の荒ぶる一夏を鎮めるのはなお困難に成ってくる。予想していた絶望的な戦力差が現実味を帯びてくる。
「この!」
「一夏さん!」
「こうなっては!」
鈴がやられてデュノア、セシリア、ラウラが同時に動いた。
デュノアの瞬時加速で一夏との距離を詰めシールドに内蔵されているシールドピアースをぶつけようとし、セシリアはスターライトmkⅢと4機のレーザービットとの狙撃で一夏の動きを封じ込めようとし、ラウラはレールカノンの砲口を一夏に向けセシリアと同じでデュノアの援護射撃に徹した。
セシリアのブルーティアーズのビットに囲まれた白騎士は空中から地面に向けて降り立つ。スターライトmkⅢの青白い狙撃が元居た場所に放たれるが既に白騎士は地面に降り立っており、ビットはそれに釣られて地面に降り立った白騎士の周囲を囲む。突如地面に座り込む白騎士。ビットが周囲を包囲し空中を漂って居た時、ビットは白騎士の背後へとまわった。
「
背後に並んだビットに視認出来ないほどの速度で白騎士から拳の猛攻が叩き込まれる。ブルーティアーズのビットが全て原型を留めないほど破壊された。セシリアとデュノア、ラウラが視認で来たのは原形を留めないほどに破壊されたブルーティアーズのビットが爆発したときだ。
突然のビットの爆発に一瞬体が硬直した3人。その隙を見逃すほど白騎士は甘くなかった。
自身に向けられる全ての敵意を排除すべく動く。
シールドピアースをぶつけようとしていたデュノアの腕を取る。
「腕十字固め」
少林寺拳法の腕十字固め。
デュノアの手首が上を向くように瞬時に捻り上げ、デュノアの横腹に回り込むと内腕刀で肘関節付近の急所を攻める。ミシミシと悲鳴を上げるデュノアの腕。苦痛に満ちた表情のデュノアを腕を更に攻め地面に肩から倒しこむとデュノアの背中に鉄槌打ちが叩き込まれようとする。
そんな一夏の手首をラウラのワイヤーブレードが絡め取り、更にワイヤーブレードがデュノアの手を絡め一夏からデュノアを引き剥がそうとする。離れていくデュノアの腹部を蹴り飛ばす白騎士。
ボールのように吹っ飛ぶデュノアはワイヤーブレードが手に絡み付いており、ワイヤーブレードの持ち主であるラウラに激突する。正面から飛んでくるデュノアを受け止めようと意識を一夏から逸らしてしまったのが運のつき。絡み付いていたワイヤーブレードを引きちぎりラウラとデュノアに襲い掛かる。
「オールレンジパンチ」
ボクシングの巧みなフットワークを活かしあらゆる角度に回り込み、それぞれの急所を狙い高速で拳打を放つ白騎士。
2人同時に白騎士の的となり、ラウラとデュノアは防御もままならず拳打に沈みゆく。装甲が破壊され、シールドエネルギーが瞬く間につきやがて意識を失ったデュノアとラウラ。地面に突っ伏す二人に白騎士は攻撃が終えると地面に沈んだ二人の前に現れる。
現れた白騎士の後頭部に突き付けられる銃口。セシリアだ。
白騎士が出現するかもしれない予測ポイントに先回りし待機していたのだ。
「そこまでですわ。少しでも動けば容赦なく撃ち抜きますわよ」
スターライトmkⅢと腰部のスカート状のスラスターに内装されているミサイルビット2機を露出させその砲弾先を白騎士へと向ける。
計3つの銃口が白騎士の背後から白騎士へと向けられている訳だが、セシリアはミスを犯した。いや、犯さざるを得なかった。
本来セシリアのブルーティアーズは中距離を前提として作られたIS。近距離武装は接近戦用のショートブレード インセプターのみ。対する白騎士はさほど武装を使用していない。つまり、箒、鈴、デュノア、ラウラを全てその身体能力のみで屠った近距離戦のスペシャリストなのだ。
それを中距離を前提として作られたブルーティアーズで近距離射撃を行おうとすれば、無謀極まりない。
だが、そうせざるを得ないのだ。相手は地面を認識出来ない速度で移動し、攻撃を行おうとすればその相手の姿を捉える事が出来ずにいる。
ならば、白騎士が現れた瞬間に相手が動く前にこちらが引き金を引けばいい。そう考えたのだ。
だが、セシリアは読み間違えた。相手は真の世界最強。織斑千冬よりも弱いセシリアが対応できる相手では無いという事に。
「
背後にいたセシリアに中国拳法の技の一つ 遠心力をつけた裏拳と、後ろ回し蹴りを同時に放つ技が白騎士から放たれる。
スターライトmkⅢと腰部のスカート状のスラスターに内装されているミサイルビット2機が破壊され、ブルーティアーズのシールドエネルギーが白騎士の繰り出した中国拳法の技の一つ
腰部のスカート状のスラスターに内装されているミサイルビットが爆発しセシリアは爆発に包まれ壊れた装甲を落としながら吹き飛んでいく。吹き飛んでいくセシリアを追いかけて追撃を放つ白騎士。
「
中国拳法劈掛拳の技の一つ。体ごと回転させて手に気血を送り硬質化させ、そのまま手刀で叩き潰す技がセシリアの体に向け振るわれる。
白騎士は容赦なく硬質化させた手による手刀がセシリアの体に叩き込まれブルーティアーズのシールドエネルギーはその膨大なダメージによって瞬時にゼロになった。
これでIS学園の専用機持ちの生徒が5人沈んだ。
圧倒的な実力差を見せ付ける白騎士。5人もの犠牲を出しても一撃も白騎士に与えられていない現実。
「生徒を傷つける様で気乗りしませんが
山田先生が動いた。巨大な翼のような4枚のワイヤーが付いたシールドが白騎士を囲み閉じ込める。そして、空いている僅かな隙間にサブマシンガンを突っ込みその引き金を引こうと指をかける。このサブマシンガンから発せられる銃弾がシールド内で兆弾し、兆弾の嵐が相手を襲うと言う山田先生の攻撃なのだが、隙間にサブマシンガンを突っ込むと何かに触れた。
「え?」
本来ならばもっと奥に入るはずなのだが、サブマシンガンの銃口はそこで止まり不思議そうな表情をする山田先生にサブマシンガンをねじ込んだ隙間から荷電粒子砲が襲う。
荷電粒子砲が直撃する山田先生。後ろに吹き飛びながら腕部と胸部と腹部の装甲が空中から地面へと落下する。
ガギンゴキンと歪な音が白騎士を囲い閉じ込めていたシールド内から発され、やがてシールド内から青白い閃光を発する刀身が出現する。
その刀身はシールドを切裂くと中から近接用プラズマブレードを手に携えた白騎士が姿を見せ、荷電粒子砲で吹き飛ばした山田先生に止めを刺すために動こうとした。
「拙い、更識姉と妹はその場に待機!アーリィと鏡は私に合わせろ!」
「やれやれ、ブリュンヒルデと共闘するとは、ネ」
「ぶっつけ本番だが、協力させてもらうよ」
その様子を見た千冬は一夏は攻撃する者を敵と認識するため後手にまわり、先手を取れると推測するとアーリィと鏡と同時に技を繰り出した。
「織斑流剣術
「
「
千冬の乗る打鉄から空中にたたずむ一夏に向かって無数の斬撃の波が放たれ、やがてそれは一夏を閉じ込める檻と成る。斬撃の檻で動きを封じ込められた白騎士。さらに、斬撃の檻の中に鏡形而が繰り出した無数の鏡の破片が暴風と共に発生し、白騎士は台風の如き暴風の中へと入り込む。暴風は鋭い鏡の破片を無数に含んでおり、台風の如き暴風の中で相手をズタズタにする。
4つに分身したアーリィはそれぞれ両手に風の槍を形成し、その槍を斬撃の檻の中で発生している台風の如き暴風の中へと投げつける。合計8つの風の槍が台風の中へ投げ入れられ台風には膨大なエネルギーが生じる。
「篠ノ之流剣術流水斬り 回天」
檻の中に発生した台風から風の槍が飛び出て来て、やがて風の勢いが衰えると中から見えてくる白騎士の姿。
その姿は、流れる風に身を任せ回転しながら剣を振るい剣による制空圏を築き、襲い掛かる無数の鏡の破片を全て粉々に斬り砕き、携えた剣でアーリィが放った8つの風の槍の軌道を逸らした傷一つ負っていない健全な姿。やがて白騎士が振るう剣の速度が速くなりその範囲も閉じ込めていた檻へと範囲を広げる。
斬撃と斬撃がぶつかり合い拘束していた斬撃の檻は消滅し白騎士は再び自由の身となった。
「まずい!織斑流剣術残波の太刀!」
襲い掛かってくる白騎士に千冬はアーリィ、鏡、そして自分の周囲に見えない斬撃の罠を仕掛ける。
既に千冬が握る刀の刀身は全力で振るう力に対応できずに無数の罅が入っており、2回も千冬の全力を耐えた刀はボロボロで何時折れるか解らない状態だった。良くて後1,2回程刀を振るえれば御の字程度であり次は無いかもしれない。
見えない斬撃の罠に飛び込む白騎士。
千冬が張り巡らした斬撃の罠に触れ、胸部の装甲に一部罅が入る。初めて白騎士に一撃を与えれた。
だが、それは更に白騎士を暴走させる要因となる。
地面に降り立つ白騎士。
「
地面に降り立った白騎士は8人もの虚と実が入り交ざった同じ実力の寸分たがわぬ分身を作る。
4つの分身のアーリィと千冬に鏡と計6人。それに対して白騎士は8人。数も実力も白騎士の方が上。
8人は上空にいる千冬とアーリィと鏡を迎え撃とうと構える。
だが、それを見たアーリィは突如「来たか」と呟くとニヤリと笑う。
「お姫様を受け取るさネ!」
「「え?」」と驚きの声をあげる千冬と鏡。
アーリィは突如、風を白騎士のすぐ近くの竹林へと吹かせた。数秒後、台風がアーリィが吹かせた竹林から発生し、そのてっぺんには篠ノ之束が風に巻き上げられて飛んでいた。
これこそが、千冬も鏡も知らないアーリィのみが知っている一夏を止める秘策。
一夏が白騎士となった現場に向かう際に、千冬と合流する前にアーリィは篠ノ之束と出会っていたのだ。
巫女の血を箒よりも色濃く受け継いだ束には、幾つかの不思議な能力を持っているのだがその一つに他者の感情を憑依するかの如く理解する共感能力。これは、まさに対象と繋がっていると言っても過言では無く、束は一夏とのこの共感が途切れた事に不安を感じ戦場に降り立つことをアーリィに伝えたのだ。
自分ならばもしかしたら白騎士となった一夏を止められるかもしれないと。
やがて一夏の上空に舞い上がると一夏の上空から落下する束。
落下している最中胸に手を当て、眼を閉じ瞑想する。自分の共感能力を極限まで高めると8つの白騎士の一つを指さした。アーリィはその指さした方向に束を向かわせるべく風による調整を行う。
「いっくん、戻って来て!」
やがて地面まで後数mも無いであろう高さまで落下する束。その時白騎士は動いた。
落下する束に向けて加速する白騎士。
白騎士と束の姿が重なり合い、白騎士は束のその体を抱きとめる。
束の唇が白騎士のバイザーの下にある一夏の唇に触れ、バリンとバイザーが真っ二つに割れバイザーの下から一夏の顔が露出する。
白騎士は束を抱きしめたままゆっくりと地面に降り立つと一度ガクンと顔を地面へと向ける。まるで糸が切れた操り人形の如き速度で地面に顔を向け、そしてゆっくりと再度顔をあげる。
再度顔をあげた一夏の眼には光が灯っており、意識を取り戻した事を告げていた。
「真っ暗な世界にいた。真っ暗な暗闇の中でお前の声を聞いた」
「大丈夫、私が居るから。私が貴方を何時も何時でも愛しているから」
「お前の声を聞いて俺が居た世界は変わった。真っ暗だった世界に明かりが灯り、俺は再びここに戻ってこれた。ありがとう、束」
そう言うと束を抱きしめていた腕を離し、一夏は束に下がっていろと言うと束は一夏と数m程離れる。そして、それを確認すると一夏はハアと息を吐きながら意識を拳へと向ける。
「フン!」
一撃だけ全力の拳を胸に当てるとそこから無数に白騎士の装甲に罅が入りやがて白騎士だったものは元の白式へと変貌する。
パラパラと崩れ落ちゆく白騎士だった残骸を手で払いながら一夏は白式をしまう。
「す、凄いっす」
「ああ」
白騎士との戦闘を見ていたフォルテとレインはそう呟いた。まさに次元が違う戦い。
人数的には有利なはずなのに、しかし実力で圧倒する白騎士だった一夏。モンド・グロッソ優勝者二人を相手に引けを取らず、圧倒するかの様な戦いを見せる一夏に何も出来ず、ただただ戦いを静観していた。
そのおかげで二人は一夏の標的と認識されず戦う事は無かったのだが。
「これが私達の新たなる上司よ」
フォルテとレインが一夏に視線を向けていると二人に声をかける人物が現れた。亡国機業の幹部スコール・ミュゼル。恋人のオータムを脇に抱えている様子を見るからに容易に白騎士へと変貌した一夏の騒動に乗じてオータムを回収できた事が想像できる。
「さて、この隙にここを離脱するわよ」
レインとフォルテに一夏の力を見せた理由に下手に動かないように釘を刺すためだ。
圧倒的な力を見せ付けられたフォルテとレインはスコールの言葉に黙って頷くとスコールの後に続いて戦場を離脱する。