拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第80話

 修学旅行が終わり生徒が学業に復帰する中、一夏は暴走の事情聴取と言う名目で学園を抜け出し娘達の修行をしていた。

 マドカとクロエは一夏にとってみればアキレス腱のようなもので接触すると言う事実を隠す為に更識家の名前を使って日本政府に圧力をかけ、わざわざ政府の役人が一夏を迎えに来たかのように更識家の者を役人に扮装させて一夏を迎えにこさせた次第だ。

 

「それでは鍛錬を始める。マドカ、クロエは共に更識家で行った基礎修行によって基礎は出来ているが若干クロエの方が体力が劣っているがこれからの能力次第でその差は気にすることもなくなる。何故ならば武術家には二つのタイプがあり、静タイプは常に心を静め、冷静に戦局を見極めながら戦闘を制するが動タイプは心のリミッターを外す事で、爆発的な気とパワーにより戦闘を行う。クロエは静の兆候が強くマドカは動の兆候が強い。故にクロエ、お前は静をベースとした織斑流拳術を教え、マドカには動をベースとした織斑流拳術を教える」

 

 二人は黙って一夏の言葉に耳を傾ける。

 

「そこで、まあ今日から修行を本格的に始めるのだが先ず二人にはこの無人島で生活をして貰う。ここで2週間程生活して貰おう」

 

「「!?」」

 

 急に無人島に連れてこられた二人は突然の事に驚く。だが、一夏はそんな二人を気にする事も無く説明を続ける。

 

「この無人島は俺の、いや更識家の所有地でな。まず二人には人間が元来持っている生存本能を呼び起こす。食料は現地調達。まあ、何かあれば島の至る所にある監視カメラがお前達の異変に気付き修行を中断する。2週間生き延びれば次なる修行に取り掛かる。だが、生き延びれなければ更に修業が遅れるだけだ」

 

 

 一夏の説明にマドカとクロエは内心ほっと胸をなでおろす。最悪、死ぬという状況にはそうそうならない。

 だが、この修行に一体どのような役に立つというのだろうか?

 

「不思議そうな表情をしているな二人とも。まあ、少し説明をしておくか。まず、今回の修行には体のバランスを極めさせる。そして、人間の内に秘めた可能性を呼び起こすと言うものとこれから他にもプンチャック・シラットと言う武術も教えるが、この武術はジャングルファイトを起源とした武術だ。その下準備をする為のものだ」

 

 上空からヘリが降下してきてロープを一夏に向かって垂らす。

 一夏はそのロープを掴むとヘリは徐々に高度を上げていく。

 

「あ、そうそう急な無人島生活には不慣れだろうからこいつを渡しておくとしよう」

 

 一夏はそう言うと懐からマドカとクロエに向けて一冊の本と鞘に納められたサバイバルナイフを放り投げる。その二つはクロエとマドカの前に落ちるとその本のタイトルが大学館シリーズの猿でも解るサバイバル生活入門書編と言うふざけたタイトル。

 

「そうそう、ISを使って島を脱出しても構わんがその時は修行を放棄したとみなして二度と教えん。頑張って生き残れよ」

 

 一夏はそう言い残してロープを伝ってヘリに乗り込むとヘリは空中で大きく旋回し次第にヘリは北西に進みながら小さくなり、やがて姿を空へと消した。

 

「……生き延びねばな。その為には」

 

 隣で唖然とするクロエに気づかれぬように小さくそう呟きクロエと協力し二人で生き延びる決意を固めるのだった。

               ☆                   ★

 

 

 イギリスに渡った一夏の影にして忠誠を誓う5人の神の手(ゴッド・ハンド)の一人、名は柔翁(やわらのおきな)。彼は一夏に命じられてイギリスで武を広めていた。女尊男卑な世界に生きる男性陣の心には不満が溜まっており、そんな不満を女性陣にぶつけてみれば直ぐに警察の御用となるのは火を見るよりも明らかだ。故に武術による男性陣の心の掌握に乗り出したのだが、更に新たに命令が下った。無手組である正義(ジャスティス)とは対を成す武器組の創設。これには正直に述べて男には手一杯だった。

 男は無手組だ。武器など使ったことも無い。故に一夏の命令は頭を悩ます命令であった。そこで一夏に相談した結果、何も一から育てなくても良いのではないか?と言われ思わず頷いた。そこで彼はイギリスのフェンシングのチャンピオンとの接触を行った。

 

 イギリスのフェンシングのチャンピオン、セドリック・ジェスマン19歳の国立大学に通う大学2年生。次のオリンピックでも最有力優勝候補と称されている人物。

 

 彼が所属する大学のサークルに脚を運ぶ。サークル活動は大学の体育館で行われており防具をつけた人達がフェンシングを片手に突きあっていた。攻める脚は素早いが驚く速度ではない。贔屓目を抜きにしても摩天楼の修羅達の方が遥かに上の速度だ。

 修羅の頂きに君臨する彼からしてみれば入れ替わる攻防での練習は所詮お遊び程度にしか感じない。特段眼を見張るものも無く、やはり所詮サークル活動かと少々落胆しながらも気を発動してみる。

 すると、攻防の練習をしていた人達の中から一人彼の方を見る人物が現れた。その人物は練習中だというのに彼の方を見ると攻めてくる対戦相手に対して視線を向けずに鋭い突きを相手に当てる。

 

 大きく後ろに飛ばされる対戦相手に眼もくれずその人物は5人の神の手(ゴッド・ハンド)の一人、柔翁(やわらのおきな)へと防具を外しながら近づく。

 

「こんにちは.先程の気はあなたのですか?」

 

 その言葉に柔翁(やわらのおきな)はにやりと笑い首を縦に振る。

 

「私は貴方と命を懸けた死合がしたい」

 

柔翁(やわらのおきな)の言葉にセドリック・ジェスマンは驚く。

 

「本気ですか?」

 

「あなたは退屈しませんか?こんな遊戯に」

 

 柔翁(やわらのおきな)の言葉にセドリック・ジェスマンは少しばかり固まると暫らくの間考える素振りを見せて柔翁(やわらのおきな)に私についてきてと言うと防具を脱ぎ始める。防具を外すと金髪の好青年が現れ、体育館の端に置かれた荷物を取ると柔翁(やわらのおきな)を手招きして自分についてくるように促した。

 

 二人は大学を出て路地裏に入り、狭い路地裏を抜けるとそこは貧民街に入る。貧民街を更に進み貧民街の一角に少しばかり広い空き地についた。空き地の周囲には昼間から酒を飲む男性が二人いて二人はセドリック・ジェスマンを見かけると酒瓶を片手に掲げる。

 

「よお、チャンピオン。こんな所でどうした?」

 

「真剣勝負をするだけさ」

 

「おお、勝負か?なら、俺はあんたが勝つほうに賭けるぜ」

 

 

 セドリック・ジェスマンは男性に期待に応えれるように頑張るよと手を振った。

 対峙する二人。セドリックは荷物の中から本物のレイピアを取り出すとその剣先を5人の神の手(ゴッド・ハンド)の一人、柔翁(やわらのおきな)に向けて構える。

 

 二人の距離は3,4m程しか離れておらずレイピアの長さも考えたらセドリックの方が断然有利に思える。事実酒を飲んでいた男性二人はこれはチャンピオンが勝ったなと言って再び酒を飲みだした。

 

「武器は無くていいのか?」

 

「要らないさ」

 

 柔翁(やわらのおきな)の言葉にセドリックは舐められたものだと内心思いながらも溜息を吐きながら動いた。

 鋭い一突き。レイピアとは剣を細くし耐久力を削った代わりに突きに特化した武器。

 

 レイピアは柔翁(やわらのおきな)の頚動脈を狙って素早い速度で突かれる。その速度は練習の時の比ではない。

 だが、それでもセドリックの一刺しはかわされた。

 

「!」

 

 伸ばした腕をすぐさま戻し、再び突くセドリック。肩、頚動脈を狙っての今度は連続突き。

 

「これならどうだい?かわせないだろう!」

 

 素早い突きは常人ならば既に頚動脈を切られていたでろうその攻撃を柔翁(やわらのおきな)は後ろに回避して避ける。

 

「素早い攻撃だ!しかし、回避できないことは無い!!」

 

 連続して放たれるレイピアの鋭い一刺しを紙一重でかわす柔翁(やわらのおきな)

 だが、それだけで勝負は全く決まらない。

 

「逃げてばかりでは決着がつかないぞ!」

 

 セドリックの一刺しは更に苛烈さを増していく。

 セドリックの連続突きは腕だけではあるが残像を生み出しており、その速度は徐々に上がっていっている。流石はチャンピオンと内心感心しながら柔翁(やわらのおきな)は苛烈さを増す突きを簡単に回避し続ける。

 

「では、攻撃をするとしよう!」

 

 その台詞と共に柔翁(やわらのおきな)は、レイピアを持つセドリックの腕を掴むとセドリックの腹に蹴り込みを入れてセドリックの体勢を崩し、セドリックの腕を引っ張りながら真後ろに倒れる。

 

空中巴投げ!!

 

 セドリックは前に引っ張られながら柔翁(やわらのおきな)の強靭な脚力で腹部を蹴り飛ばされ体が上空を舞い、大きく投げ飛ばされる。

 

「!?」

 

 背中から地面に激突しそうになるのをブリッジの様に脚をバネにして背中から地面に激突するのを防ぐと海老反りの体勢で柔翁(やわらのおきな)をレイピアで突く。たいした攻撃ではないが牽制にはなるであろう。何しろ相手は空中巴投げのせいで地面に横たわっているのだから。

 セドリックは自分を投げ飛ばした技が空中巴投げと言うのを知りはしないがその技を一度受けたのだ原理くらいは理解できる。

 セドリックによるレイピアの鋭い突きは地面に横になっている柔翁(やわらのおきな)を襲う。レイピアの鋭い先端が柔翁(やわらのおきな)に突き刺さろうとした瞬間、柔翁(やわらのおきな)の手がレイピアで突くセドリックの腕を取るとそのまま錐揉み状の蹴りがセドリックを襲う。

 

岬越寺蛙ひねり!

 

 蹴りはセドリックの頭を直撃しセドリックは意識を失った。

 意識を失ったセドリックの傍で立ち上がる柔翁(やわらのおきな)。フーと息を吐きながらそばで意識を失ったセドリックを見るとこんなものかと呟いた。男は柔道、少林寺拳法、古武術を修めており特に関節技や投げが得意な特A級の達人。そんな特A級達人と所詮チャンピオンとの戦いは一般人から見れば息をのむほど次元が離れた戦いであろうが、柔翁(やわらのおきな)にとっては違った。自分よりも更に上の全ての修羅の頂にいる織斑一夏と言う規格外の化物と比較したら物足りない。

 

「チャンピオンならばもしやと思ったが…」

 

 投げた後のセドリックの反応と牽制までは評価できる。そう、セドリックの反応と対処方法は素晴らしかった。普通ならばセドリックと戦うのはチャンピオンと戦うと言うことに他ならないが、そのチャンピオンは所詮スポーツ界のチャンピオン。修羅の国の5人の神の手(ゴッド・ハンド)を相手にするには実戦経験が少なすぎた。戦った戦士の多様性を経験していないセドリックでは修羅の中の修羅にはその足元にも及ばない。

 

 だが、今回の戦いでセドリックの実力がわかった。そして、スポーツの世界でのフェンシングに嫌気がさしており勧誘すればこちら側につく可能性はきわめて高い。実力は副将はおろか一つの武の達人クラスにまで至っていないが素質は十分にあり、育てれば何れは5人の神の手(ゴッド・ハンド)と肩を並べる武器組の達人に至れるかもしれない。

 

 思考にふけっているとセドリックが目を覚ます。

 

「う、う~ん……私は負けたのか?」

 

「ああ。君は私に負けた。そこで提案なのだが私と共に来ないか?」

 

「………」

 

 突然の提案に困惑するセドリックの反応は当然であった。殺し合いをしていた相手に勧誘されるなど普通はありえない。

 

「あなたが更なる強みを望むならば私と共に来るべきだ」

 

 更なる強みと聴いてセドリックは柔翁(やわらのおきな)が差し伸べた手を掴んだ。

 更なる強さを手に入れるために。何時の日か柔翁(やわらのおきな)に勝つために。

 

 こうして5人の神の手(ゴッド・ハンド)の一人柔翁(やわらのおきな)は無手組と対となる武器組の候補を手に入れた。一夏に対して朗報が出来たと喜んでいるとその一夏から連絡があった。

 

「………成る程。解りました」

 

 次なる指示。それはイギリスにいるチェルシー・ブラウンという人物の手助けを行うこと。その手助けというのがイギリス国家研究開発機関にあるBT3号機ダイヴ・トゥ・ブルーの強奪に協力せよと言うものだった。イギリスの国家研究機関といえば警備も厳重。確かにチェルシー・ブラウンという人物がどのような人物か柔翁(やわらのおきな)は知らないが普通の人物がたった一人で国の研究機関に襲撃をかけISを奪おうなど無謀極まりない。故に柔翁(やわらのおきな)に手助けの白羽の矢が立ったのだ。5人の神の手(ゴッド・ハンド)の手助けがあればさほど問題なかろうとの判断で。

 国家研究機関に襲撃をかけるというのは物騒な話であるし、元とはいえ正義を名乗っていた集団の頂に君臨する者が気が引けたが事情を聞けばその襲撃に迷いなど吹っ切れた。

 

 電話を終えた柔翁(やわらのおきな)はセドリックに問う。

 

「セドリック・ジェスマン。更なる強さを求めるならばあなたは実戦を積む必要がある。今まであなたがいたのはスポーツの世界。実戦を経験していないあなたにはその経験が必要だ。だが、それはもう二度と戻れない道となる。あなたにその覚悟はあるか?」

 

 覚悟があるならばついて来い。そう言うと柔翁(やわらのおきな)はセドリックを背に歩き始める。

 

「……見くびられたものだな。覚悟?そんなものとうに出来ているさ!」

 

 前方を歩く柔翁(やわらのおきな)はその言葉を聴いて歩いていた足を止めセドリックの方を向いた。

 そして、ならばもう何も問わないさ。唯一つ、死ぬなよ。死に物狂いでついて来いというと再び歩き出した。

 

「ああ、いつかあなたを倒して見せるさ」

 

 そして、この日を境にセドリックは表舞台からその姿を消したのである。 セシリアの従者チェルシー・ブラウンがイギリスの国家研究機関にあるBT3号機の強奪の為に5人の神の手(ゴッド・ハンド)の一人柔翁(やわらのおきな)と顔を隠したセドリック・ジェスマンと共に襲撃をかけている頃、一夏はIS学園に戻るとセシリア・オルコットがデートを申し込んできた。すぐさま断ろうと思ったがチェルシー・ブラウンはセシリアの従者で今は襲撃中の身だ。一夏が亡国機業の協力者であると思わせる可能性を一つでも潰していた方が不審に思われずにすみ、今後の活動にも影響が及ぶ可能性が少なくなる。

一度不審に思われればアウト。疑念はなかなか消し去る事は難しい。

 

「まあ、束とのデートの下見と思えば良いか」

 

 セシリアに誘われて行く場所は横浜にあるDeランドと呼ばれるテーマパーク。

 

「………思えばテーマパークなんて行った事無かったな」

 

 世間では青春まっただ中の中学時代は道場破りと修行と戦闘に明け暮れていた。全ては白騎士事件の犯人を捕まえるためと束を守る為にその青春を費やした。お陰で高校生の年齢で普通では手に入らない部下と弟子を手に入れれた。これも時代の恩恵もあったがそれ以外の要因も考えられるだろう。

 

「――そう、例えば俺の体」

 

 改めて考えてみると自分の体は認めたくはないが可笑しい。いや、可笑しいどころか常人離れをしている。

 年の離れた千冬と互角に戦えるこの体はどう考えても可笑しい。千冬は大人で自分は高校生。まだ成長期と言えどもスタミナや体力は千冬の方が普通に考えるならば上だが、千冬との戦闘はほぼ互角。五反田弾も修羅の頂にいるがそれは一夏が特別に指導したからである。言ってみれば弾は一夏の特別指導による肉体改造で修羅の頂にいる言ってみれば人工修羅。

 ただ、5人の神の手(ゴッド・ハンド)は蟲毒と同じで修羅同士を競わせることで修羅の頂にいる天然の修羅。

 天然修羅と人工修羅との差は一夏程ではないが一夏の代理を務めれるほどの差があり、摩天楼は実力主義の世界。そんな世界で一夏の代理を務めれる実力はある。

 だが、そんな弾でも一夏に勝つ事は出来ない。

 

 戦士として作られたと言っても過言ではないアドレナリンの過剰分泌による戦闘中の負傷による痛覚遮断体質と戦闘による脅威的な学習能力。どれも他の人と比較して飛びぬけているような気がする。無論、姉の千冬も戦闘に関しては他の人と比較して飛びぬけている。ここから導き出される可能性は……

 

「――血筋」

 

 そう血筋だ。そういう家系に生まれてきたのだろう。だが、詳しく知ろうにも千冬との間で家族の事は暗黙の了解となっており問う事は出来ない。行方不明の両親を探せば手がかりは掴めるかも知れないが現段階で唯一の男性IS操縦者と言う肩書きを手に入れてなお両親が名乗り出ない現状を見ると金銭的に困惑して千冬と自分を捨てたわけではない可能性が出てくる。

 本当に忌み嫌って千冬と自分を捨てたか、或いは名乗り出れない事情があるのかもしれない。

 

「もしかしてもう死んでいたりとか、な」

 

 だからどうという事は無い。顔を見てみたいとすら思わない。

 

「どなたがお亡くなりになりましたの?」

 

 気配でセシリアが近づいていた事は気付いていたが、指して興味も無かったのでそのまま放置していたのだがセシリアは一夏の前に姿を見せると一夏にDeランドのチケットを差し出した。

 

「いや、少しばかり考え事をしていただけだ」

 

 

「そうですか。では、参りましょか一夏さん」

 

 チケットを受け取ったというのにまだ手を一夏に差し出すセシリアに訝し気な表情を浮かべる一夏。

 

「もう!少しは空気を読んでくださいまし!手ですわ!手!」

 

「手だと?」

 

「もう!こういうのは男性が女性をリードするというのがマナーですわよ」

 

「そうか。だが、俺の隣にいるべき人物は篠ノ之束以外にあり得ない。故に手を繋ぐ事は拒否する」

 

「あの、一夏さん?女性の前で他の女性の話をするというのはどうかと思いますけれど?」

 

「そうか。ならば束の前ではしない様にせねばな。よし、これから気を付けよう!」

 

「今から気を付けて欲しいのですけれども!」

 

 頓珍漢な期待外れの返答をする一夏に頭を痛めるセシリア。眩暈すら起こりそうになり若干ふらつきながら正気を取り戻す。口からハアと溜め息がこぼれる。

 

「一人の女性を思い続ける殿方は騎士道精神に似ていて素敵だとは思いますけれども……少しぐらい私に目を向けてくださっても罰は当たらないんじゃありませんの?」

 

「知らん。俺が拳を奉げるのは現そして未来の我が家族のみ」

 

「では、私が一夏のお嫁さんに成れば一夏さんは私に拳を奉げてくださいますの?」

 

 クスリと魅惑的な微笑みを一夏に浮かべるセシリア。モデルにも匹敵する美少女のセシリアの微笑みは周囲を歩いていた男達の視線を釘付けにし、女性達は羨望の眼差しを向ける。男女共に視線を釘付けにしたセシリアに一夏はハアと呆れた表情を浮かべる。

 

「言わなかったか?俺の隣にいるべき人物は篠ノ之束以外ありえないと」

 

「ですが、それは現時点でしょう?未来とは不確定なものですわよ」

 

「お前がどう思おうと勝手だが、俺の隣にいるべき人物は篠ノ之束以外あり得ず俺もまた彼女の隣に並び立ちたいと思ったが故に今がある」

 

「ですが、篠ノ之束博士が不慮の事故でお亡くなりになる事もあり得ますでしょう?」

 

 セシリアの不用意な発言に一夏の眼光は鋭くなりセシリアを睨みつける。

 

「言葉に気をつけろよ。俺は彼女に、家族に降りかかる脅威を全て排除する。不用意な発言をするとその命……散るぞ?」

 

 トンと貫手の構えの指をセシリアの首に向ける。その気になれば瞬時にセシリアの命を奪う為に。

 そうですかとセシリアは微笑みながら自分の首に向けられた貫手の構えをした一夏の手をそっと両手で包み込む。

 

「私が一夏さんの隣に立てれないのでしたら――」

 

――何時か私をその手で殺してくれますか?

そう一夏の耳元で囁いた。

 

「!」

 

 一瞬で後ろに飛びのきセシリアと距離を取る。 

 狂っている。狂っている。狂っている。自ら死を望むなど狂っている。セシリアの男女共に視線を釘付けにする微笑みがかえって不気味に映る。理解不能。

 

「――っ!」

 

 成程。これがもしかして凡人が天才に感じる恐怖なのか。理解できぬ者に感じる恐怖。

 面白い。自分に恐怖を沸かせたセシリアに少しばかり興味がわいた。何れその恐怖すら凌駕して見せよう。自分こそが最強で最凶であらねばならないのだから。

 

「ふふ、冗談ですわよ。さあ、参りましょう!」

 

そう言ってセシリアは一夏の腕に自分の腕を絡めるとグイグイと一夏を引っ張り始める。

 

「ええ、冗談ですとも――」

 

――1%程は。

 そう小さく呟いてセシリアは一夏をグイグイと引っ張りながら子供のようにはしゃぐ。

 

★                   ★                   ★

 

「可愛いですわね♪」

 

 セシリアの周りには愛くるしいダックスをはじめとしたチワワ、ポメラニアンを始めとした小型犬が集まっており愛くるしい鳴き声を上げて甘えている。一方一夏はと言うと

 

「そうだな。って、やめろ!ぬ、お、お前等!」

 

 ブルドッグを始めとした中型犬とシベリアンハスキーなどの大型犬が一夏を取り囲み腹を見せ撫でろと催促し、しまいには一匹のブルドッグに鼻の穴にブルドッグの舌が入る様に顔面を舐め回されていた。そのせいで後ろに倒れ、後ろに倒れた拍子でハスキーが下敷きになりそうになったがそのハスキーが一夏の顔を舐めまわすブルドッグにひと吠えすると襲い掛かり、一夏を下敷きに一夏の体の上で犬同士が喧嘩をおっぱじめる。その影響で一夏は犬たちの下敷きとなり犬に踏まれる結果となる。

 

「フフ、一夏さん犬達に大人気ですわね」

 

「……見てないで助けろや」

 

「それでは一つ貸しという事で宜しいですか?」

 

「……チッ。いや、やっぱりいいや。お前等喧嘩すんな」

 

 自分の腹の上で喧嘩をおっぱじめるブルドッグとハスキーを一匹ずつ両脇に抱えて喧嘩の間に入る。

 両脇に抱えられてもなお喧嘩が収まりそうにない犬達をみて溜息が自然と出てしまう。

 

「ハア、ポチやタマならば俺の命令で喧嘩をやめるんだがな」

 

 テーマパークの犬達に殺気を出して喧嘩をやめさせるわけにもいかんしなと対処に悩んでいると丁度飼育員さんがおやつを持って現れた。その瞬間に犬達は舌を出して荒い息を吐き興奮した状態で尻尾を一斉に振り始める。無論、それは一夏が両手に抱えたブルドッグとハスキーも例外ではない。

 さっきまで喧嘩していた二匹がおやつに釘付けになったのを見て現金な奴らだなと呆れながら二匹を開放する。二匹は一夏の腕から離れ急ぎ脚でおやつを持つ飼育員に駆け寄った。

 

「そう言えばイギリスでは犬を飼う風習が無かったか?」

 

「ええ。正確には赤ん坊が生まれたらですけれどもね。宜しければ一夏さん私と――」

 

「そうか。では、束との間に子供が出来たら犬を飼うとしよう」

 

「―もう!ですから、女性の前で他の女性の話をするのはマナー違反ですわよ!!」

 

「知るか!」

 

 二人が犬達が居る施設から外に出るとテーマパークの広場に出た。広場には家族連れやカップル達が行きかいその様子はスクランブル交差点のようであった。天気は晴天で人が行きかう広場の中でセシリアと一夏は言いあっていた。その所為で一夏とセシリアは広場の行きかう人々の注目の的となる。

 モデル顔負けのセシリアと男性唯一のIS操縦者である一夏が二人でいるのだ。当然噂が立ち、

 

「え、うそ!あれってイギリス代表候補生のセシリア・オルコットじゃない!?」

 

「あ、その隣にいるのは織斑一夏だ!あの男性唯一のIS操縦者の!」

 

「凄い美人よねセシリア・オルコットって」

 

「ってか、あの二人付き合ってんじゃないの?」

 

「え、うそ!?マジ!?」

 

 噂は広がりを見せあっという間に広場には人だかりができ始める。その光景を見た一夏は騒ぎすぎたとしまったという表情を浮かべ内心舌打ちをする。ちらりとセシリアに視線を向ければパチクリとした驚きの表情を一瞬浮かべるが一夏の視線に気づくと嫌みったらしく笑みを浮かべる。

 

「――フヒ」

 

「フヒ?」

 

 項垂れる様に顔を下に向けるセシリア。その長い髪も重力に逆らえずに下に落ちセシリアの表情は長い髪で隠されて様子を知る事は出来ない。プルプルとセシリアの肩が振るえ始め項垂れたセシリアから発せられる奇声。訝し気にセシリアを見る一夏。

 次の瞬間セシリアは顔をあげ満面の笑みで一夏の左腕に抱き着いた。

 

「おわ!?」

 

「いーちーかさん!!」

 

 むにゅりとセシリアの豊満な双丘が一夏の左腕を挟みセシリアの手は一夏が離さない様に手を握りしめていた。

 

「!!は、離せ!!」

 

「あらあら、そんな皆さんが見ているからって照れなくても良いでしょうに普段からやっている事じゃありませんの」

 

「ええい、照れてなどいない!ふざけるな!!」

 

 しかし、いくら一夏がわめこもうとも現状第三者目線から見ると一夏は恥ずかしがっているようにしか映らなかった。これこそセシリアの策略。いっそ周りから固めちまえば良くね作戦である。幾ら一夏が嫌がっていても恥ずかしくて否定しているようにしか見えない。

 いつしか一夏とセシリアを見る目が生暖かい目になっているのと嫉妬の視線で包まれていた。

 

 最早こうなっては記憶を消すしかないかと亡心波衝撃をこの人だかりとなっている人間たちに対して動こうかと考えた瞬間それは起こった。空から極太のレーザーが降って来たのである。レーザーは広場を焼き払い広場の地面は大きく抉れまるで飴を溶かしたかのように広場のアスファルトは変形し始める。

 人々は突然のレーザーの攻撃によって悲鳴を上げ広場は逃げ惑う人々で騒然となった。

 

「一夏さん!」

 

「ああ」

 

 突然の事で逃げ惑う人々にセシリアと一夏は瞬時にISを展開しようとした。

だが、一夏は突然ISを展開する事をやめ逃げ惑う人々の中へと飛び込んでいった。

 

「い、一夏さん!?」

 

セシリアもまたISを展開してから一夏の後を追う。逃げる人々が行きかう広場のちょうど真ん中あたりに一夏は居た。目の前に小さな泣いている男の子がおり、一夏はその男の子を抱きかかえる。セシリアが空中浮遊で一夏の真上に移動する

 

「どうやらこいつ親とはぐれたみたいだ」

 

「そうでしたの。気を付けてくださいまし」

 

 男の子を抱きかかえレーザーを掻い潜りながら一夏はテーマパークの誘導員の所まで行くと誘導員に男の子を預ける。セシリアはISを使って空中から避難誘導を行っており極太のレーザー相変わらずテーマパークを滅茶苦茶に破壊している。

 

「……展開。雪羅バスターモード」

 

 ISを展開し雪羅バスターモードを起動させる一夏。雪羅の銃口をレーザーを降り注ぐ元凶に向けるが元凶は雪羅バスターモードの射程外。こうなってはもう相手に有効打を与える事は出来ない。出来る事は降り注ぐこの極太のレーザーから死者を出さないように動く事。

 気付けばレーザーの先には一般市民がおり、一夏はレーザーが進む先の軌道にいる一般市民を蹴りとばしてその射線上から外し、代わりに極太のレーザーが一夏に降り注ぐ。雪片弐型を盾にして頭上から降り注ぐ極太レーザーの直撃を防ぐがその膨大なエネルギーと威力にミシミシと地面に押し込まれる。現に一夏の足元はアスファルトが解け、くるぶしまで地面に埋まっており気を抜けば一瞬で地面に叩きつけられシールドエネルギーは瞬時にゼロに成りその命すら危ぶいだろう。

 

「……これが戦略型ISの威力か!?」

 

 ギシリと歯ぎしりをしながら必死に極太のレーザーを耐える。現段階で一夏がこの極太のレーザーを放つ元凶にダメージを与える術を持っていないのだから。レーザーは徐々に一夏から軌道をずらして地面を大きく変形させていく。

 

 完全にレーザーが一夏から外れた瞬間一夏は残っている市民の救助に当たる。瞬時加速を用いて市民の手を掴みDeランドの入り口付近まで移動する救助避難の手助けへと行動を起こす。全ての市民を避難誘導し終える頃にはレーザーはDeランドを滅茶苦茶に破壊しつくして止んでいた。

 

「こんな……」

 

 滅茶苦茶になったDeランドを見てセシリアは何かを思い出したのか呆然と立ち尽くしており、そんなセシリアの前に人影が現れる。

 

「お嬢様、こちらにおられましたか」

 

「チェルシー?貴女が何故ここに?貴女には祖国のイギリスで仕事を任していた筈!?」

 

 その人影こそセシリア・オルコットの従者にして亡国機業にヘルプを求めてきた亡国機業の新入りチェルシー・ブラウン。チェルシーはセシリアと一夏にスカートの端を持ってお辞儀を一礼すると瞬時にISを展開した。

 

「何故かと申されましても私は亡国機業の一員ですから」

 

 イギリスで開発されていたブルーティアーズ三号機ダイブ・トゥ・ブルーそれをチェルシーは身に纏いセシリアは呆然とその様子を見つめ、一夏はそんなセシリアの肩に手を置きながら内心は指示した作戦が上手くいった事についつい唇を綻ばせそうになるのを必死で堪えていた。

 

「そ、そんな!?」

 

「では、お嬢様。イギリスで会いましょう」

 

 再び一礼するとチェルシーは空間に沈むように消えていく。これこそダイブ・トゥ・ブルーのワンオフ・アビリティー空間潜行(イン・ザ・ブルー)だったがそれをセシリアが知るすべはない。ショックを受けるセシリアとは正反対に一夏はチェルシーが現れた事による報告に嬉しさが込みあげてくる。これでまた一つ駒が強くなったのだから。従順であれ反逆であれ真なる勝利者はどちらに転んでも美味しいポジションにいるのだから。

 反逆すればその命尽きるまで全力で殺し合い、従順であれば己が望みを叶えるためにその命尽きるまで使い潰す。どちらに転んでも一夏にとっては美味しいポジションなのだから手放す気はない。

 

「一度学園に戻るとしよう」

 

「……はい」

 

 突然の事に呆然となるセシリアは一夏に言われるがままDeランドを後にした。

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