一夏が消えて数十分が経過した。千冬は考えるが幾ら考えても一夏の抜けた穴は大きすぎた。
戦力も大幅に低下し、未だ敵の戦力は健在。こうなると一夏の存在が如何に大きかったか理解できる。一夏の抜けた穴を戦力として考えるならば千冬が出撃するのが一番なのだろうがその間エクスカリバーが攻撃してこないとは限らない。
増援……当てに出来ない。IS学園上層部に今回の件を話し応援を呼んではいるが望み薄だ。避難誘導と防衛に人員を割かれておりイギリスからは援軍は出せない。そうなると近隣諸国だが、既にエクスカリバーの射程が全世界に収められているとなるとおいそれと自分の軍を出せない。なにせIS学園はその性質上公平な立場を貫かなければいけないため忖度は出来ず、ありのままの事実を世界に発信しておりその中には今回のエクスカリバーの件でその射程が全世界を収めている事も含まれている。今回の件が解決すれば世界はアメリカとイギリスに非難の眼を向けるだろうがその前にどれだけの犠牲が出るか解らない。
ギリリと千冬から歯ぎしりがこぼれる。一夏が抜けた今後の作戦を幾度か脳内でシュミレーションしてみるがどれも満足のいく結果にはならない。良くも悪くも一夏は千冬に貢献してくれた。幾たび火消しに回ったか解らないがそれ以上の結果を千冬に与えてくれた。失ってから解るその大きな存在。如何に自分が一夏を頼りにしていたかが今になってわかる。
束の言う通り一夏が生きていたとしても一夏をこの宇宙空間の中から探すのは骨が折れる。
ましてや今回のエクスカリバーの破壊までに見つける事はほぼ不可能だろう。一夏を探す人員をエクスカリバー破壊までは割けないのだから。
「お、織斑先生!大変です!!」
当然部屋に響き渡る山田先生の悲鳴のような声に千冬は一時思考停止をし、その悲鳴のような声先に視線を向ける。
「どうしましたか山田先生?」
内心かろうじて束から一夏は生きていると言われ納得してはいるが唯一の肉親が生死不明な状況で千冬は悲鳴のような声をあげる山田先生に苛立っていた。無論、それが己の単なる感情なので表には出さないでいるので交友関係に亀裂が生じる事も無いのだが。
「こ、これを見て下さい!!」
山田先生から差し出された端末機器。そこにはエクスカリバーとその前方に穴が生じていた。
穴としか言いようがないそれ。宇宙空間に何故か生じた穴。
訳が分からない。全ての思考がその穴に割かれる。
「山田先生、これは?」
思考が停止した状態でようやく千冬の口から開かれた第一声はその疑問だった。
「解りません!先程突然出現したんです」
そう言って山田先生は端末機器をいじるとエクスカリバーとその周囲を録画した映像を千冬に見せる。すると、そこには突然穴が出現する映像がムービーとして撮影されていた。最初は小さかった穴がやがて徐々に大きくなり今の大きさへと変貌する姿がそこに映し出されていた。
「こ、これは…!!」
そして、次の瞬間ムービーが終わった現在の様子の穴、そこに信じられない様子が千冬の目に飛び込んできた。
エクスカリバーのすぐそばに生じた穴。突如として出現した穴に宇宙空間にいた専用機持ち達は言葉を失った。
最初は小さな、認識する事も困難だったその穴はやがて時間が経過するごとに大きくなりやがて人一人くぐれる大きさにまで発展していった。
そして、その穴から飛び出す一つの影。
「ああ、復活だ!歓喜せよ諸君!そして、絶望せよ怨敵‼さあ、リベンジマッチと洒落こもうではないか!!」
白式を身に纏い背中から巨大な翼を生やした一夏の姿がそこにはあった。
「「「一夏!?」」」
最も頼もしい援軍。全てを変える切り札。
その援軍の到着にサイレントモードで潜んでいた見方は歓喜し、指揮が鰻上りに上昇する。
背中から巨大な翼と思ったそれは2対の腕。
二対翼手と呼ぶ気で作られた背中から生える二対の腕はまるでポケモンの●ライゴンの様な翼をしていたが指と指の連結が離れるとその脅威が目立って見える。何せ2対の腕が一斉にエクスカリバーへと向けられているのだ。
戦略型ISエクスカリバーは突如現れたその不審者に砲撃を放つ。
宇宙空間の暗闇がエクスカリバーのその砲撃で反転する程煌くその砲撃。闇夜が明るく照らされるほどのエネルギーを持つ砲撃がたった一人の人間に注がれる。
「二対翼手 守翼の陣!!」
それに対して一夏は二対の腕の先を一点に集中させる。
自分を取り巻き、守る腕。二対、つまりの4つの腕が防御を一点に集中させ一夏を守る。
エクスカリバーの砲撃と一夏の防御がぶつかり合い暗黒世界たる宇宙を眩しく照らし、全員が目を瞑る。無論、それに例外は無くモニターで間接的に見ていた千冬や山田先生でさえもそのあまりにも純粋で巨大なエネルギーのぶつかり合いの眩しさに目を閉じずにはいられなかった。
『おい、セシリア・オルコット!準備は出来ているだろう?』
『当然ですわ』
『狙いは?』
『完璧ですわ』
オープンチャンネルによる確認の後に遥か彼方の地球からセシリア・オルコットによる狙撃が行われる。BT粒子加速器「アフタヌーン・ブルー」によって何倍にも膨れ上がり溜まり積もったエネルギーがエクスカリバーに向けて放たれる。地球からエクスカリバーへ放たれるセシリアによる超長遠距離狙撃。
青白い閃光はエクスカリバーの子機を飲み込み更にはエクスカリバーのスラスターに直撃した。エクスカリバーのスラスターは破壊され宇宙空間にその部品がこぼれていく。
だが、エクスカリバーもタダではやられない。その砲口にエネルギーを収束させていく。
「これで終わりだ。貴様は我が婚約者、我が家族にその刃を向けた!例えそれが強いられた結果であろうとも度し難く許しがたい!せめてもの情けだ。汝、我が拳にてその命、散るが良い!」
死償鉄槌
二対の腕で形成された翼が消え、代わりに一夏のその後方には静と動の2つの気で出来た巨大な拳がエクスカリバーにその拳先を向けていた。
眩い光でエクスカリバーの剣先から膨大なエネルギーが砲撃として放たれ、逆にエクスカリバーには一夏から巨大な気で形成された拳が放たれる。
最早ヴェーダでしか測定不可能な膨大なエネルギー同士の衝突に暗黒世界は震え衝撃が走り、悲鳴を上げる。
純粋なエネルギー同士の衝突の結果エクスカリバーは剣先から一夏の攻撃で罅が入り、やがてその罅は全身へと広がりを見せる。エクスカリバーは一夏のその圧倒的なエネルギーを前に力負けし、砲口から放った砲撃が逆流し罅が入った箇所からエクスカリバーのエネルギーと一夏の気が溢れ出る瀕死の結果となった。
最早後数十秒後には崩壊し始める瀕死のエクスカリバー。
「せめてもの情けだ、俺がその遺体回収してやる!」
そうオープンチャンネルで言い残して一夏は崩壊し始めたエクスカリバーの中に瞬時加速と共に飛び込んだ。
誰も飛び込む事を阻止できない状況で。
ヴェーダの
「ヴェーダ、操縦者の居場所を探り出せ!」
内部のあちこちに細かい亀裂が生じる中でヴェーダからの回答はコントロールルーム。
エクスカリバーの本格的な崩壊がいよいよ始まった。細かかった亀裂が徐々に大きくなっていく。
「ちい!もう時間か、急がねえとな」
ヴェーダの案内を頼りに瞬時加速によってエクスカリバー内部を駆け抜ける。
崩れ落ちてくる瓦礫や立ち塞がる扉や障害物をその拳一つで粉砕し、遂にコントロールルームに辿り着いた。
コントロールルーム内も無数の亀裂が生じており、天井には壊れたモニター。そして、部屋の中央には浴槽の様な装置に安らかな眠りについた一人の少女の姿があった。
全くの無傷。そんな少女の遺体をお姫様抱っこで持ち上げる。すると、コントロールルームが振動し亀裂は広がっていく。亀裂からは暗黒世界がのぞいており一夏はその亀裂に飛び込んだ。
宇宙空間に出た一夏の前に急に出現する機体。ダイヴ・トゥ・ブルーを身に纏ったチェルシーだ。
一夏の腕の中で眠る遺体となった妹に言葉を失う。長い間離れ離れになった妹との再会は果たされたがその妹は深く永い眠りについた。妹の心臓の鼓動も動きを止めたのか聞こえない。
「おい、取り敢えずこの場を離れるぞ」
崩れ落ちるエクスカリバー。
そんなエクスカリバーから一夏に連れられチェルシーは離れるとエクスカリバーは行き場を失った内部のエネルギーが暴走し激しい爆発と共に消える。その爆発は激しい光と凄まじい熱風を伴ない暗黒世界に太陽以上の輝く眩い光が生じた。
宇宙空間から2つの流星が地球へと向かう。
それにつられて宇宙空間で待機中の篠ノ之箒、更識楯無、スコール、オータムもまた地球へと向かった。
地上に降り立った一夏。
その腕には眠りについたチェルシーが抱かれていた。
「エクシア?」
そしてその後に地面に降り立ったチェルシーは一夏の腕に抱かれて眠るエクシアに駆け寄る。
眠りについたエクシア。やっと再開できた姉妹はもう二度と会う事が無くなったのだとチェルシーはその時理解した。
「……」
任務だった。仕方のない事だと理解はしている。
されど、納得はしていない。納得できる筈も無かった。
ずっと会いたかった妹だ。例えそれが全人類に射程を抑えたISの操縦者だったとしても再会を待ち望んでいた妹に変わりはない。妹が地球を射程に捕らえたISを排除する事は人類が生き残る為に必要だったのだ。それでも、妹を殺さないで欲しかった。上からの任務で一夏はそれを履行したに過ぎない。だから非難されるいわれはない。
それでも、生かして欲しかった。
「……ありがとうございます」
目の前には妹を殺した張本人が居てチェルシーは一人のイギリス人として一夏にお礼を述べると共に妹のエクシアの亡骸を一夏から受け取ろうとした。しかし、一夏はチェルシーにエクシアの亡骸を返す事は無く踵を返し、チェルシーにその背を向ける。
その瞬間、チェルシーの中に溜まった物が弾けた。
この人はどこまで私を追い詰めるのだろうか!?
大切な妹を目の前で殺し、あまつさえ亡骸を返そうとしない織斑一夏に苛立ち気付けば背後から襲っていた。だが、その襲撃は成功しない。
織斑一夏は向けられた敵意に反応し反撃するのだから。
織斑一夏はエクシアを抱いたままチェルシーに後ろ回し蹴りを放つ。思いもしない横からの反撃にチェルシーは防御も回避も出来ずになす術も無く吹き飛ばされた。
「お前にはいずれこいつを返してやろう。全てが終わった後でなぁ!」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべる一夏。
そう言い残すと蹴られて動けないチェルシーを残したままチェルシーの元を後にした。
エクシアの亡骸を抱えた一夏は千冬と束達の元へと戻った。
「一夏!」
「おかえり、いっくん」
「おかえりなさいませ、お父様」
「ただいま、みんな」
微笑みながら返事をする一夏に千冬は、ほっと安堵し、束とクロエは再会を喜ぶように嬉しそうな笑みを浮かべる。そして、そんな中で一人フンと鼻を鳴らす人物がいた。
「やはり生きていたか。そうそうくたばってくれるなよ、私を強くするまでは、な」
「そう言うマドっちも実は、いっくんを心配していたんだよ。私にあいつは死んで無いよな?な!?って何度も私に確認してきたんだよ」
束の余計な一言に「なぁ!?」と驚きの声をあげ、「ち、違うぞ!私はそんな事を言ってない、事実無根だ」と必死に否定をし始めるマドカ。だが、その様子を見てフフと笑みが零れ片腕でエクシアの亡骸を持ちながら片手でマドカの頭を撫で始める一夏。
そんな一夏の片腕に抱えられたエクシアの亡骸に皆の視線が集まる。
「……織斑、その子は?」
重たい口を開いた千冬の前には見たくない現実。嘘であってほしいと思い、鼓動が高鳴りつつも尋ねなければいけない状況。
「あのIS エクスカリバーの操縦者だったエクシアだ。気になるなら確認すればいい。既に鼓動の高鳴りは鳴りやんでいる」
それはつまり死を意味している。
そっと床に置かれるエクシア。
千冬は急ぎ、エクシアの胸に手を置き脈を図るが全く脈がない。
「一夏、お前!?」
一夏が何をしたのか、解った。解ってしまった千冬は一夏の胸倉を掴みかかるが千冬の手が一夏の服を掴む前に一夏は千冬の手を振り払った。
「……何か勘違いしているな、織斑先生?俺は
さあ、あまねく世界に示そう我が怒りを。
そう言うと一夏はエクシアの亡骸を再び抱え上げると部屋を出て行く。
「一夏、お前……」
一夏が出て行った部屋に千冬のそんな呟きが反響した。
一夏は部屋を出てすぐにイギリスとアメリカの首脳に連絡をするように部下に指示した。二か国の首脳からの返事が来るまでの間、一夏は眠り続けるエクシアと二人っきり。
「お前も大変であったな、エクシア・カリバーン。世界に翻弄され利用されるその人生。だが、安心しろ。もうお前は自由だ」
そう呟くと一夏は椅子に深く腰を掛ける。
その視線は慈愛と哀れみに満ちており視線先には安らかな眠りにつくエクシア。そんなエクシアの傍にはパソコンが2台置かれており、そこにはアメリカとイギリスの国旗が映し出されていた。
『お待たせしました。両首脳がお待ちです』
二台のパソコンに一夏が作った金髪エルフ妖精型AI MAKUBEXが出現すると一夏は繋げと命令する。
次の瞬間、アメリカとイギリスの両代表が映し出された。二か国の代表が映し出されると一番最初に開口したのは一夏だった。
「さてさて、幾つか両国家には報告しなければならない事があるな」
話の主導権を握った一夏に両国家の代表は口を閉じるしかない。
「まず一つ目だがあなた方両国が共同開発した戦略型ISエクスカリバーだが俺が完全に破壊した。嘘だと思うならば真偽の方はあなた方で確かめれば良いだろう。嘘だとするならば未だ宇宙空間にあるだろうが…そんな事をしなくても信じて貰えるだろうと思ってエクスカリバーの操縦者エクシア・カリバーンの遺体を持ってきた。ご覧いただけるだろうか?あなた達の前で安らかに眠り続ける少女の姿を。これがその証明である。次にだが汝らの罪を数えるとしよう」
「まず第一にアラスカ条約の軍事利用の禁止事項に抵触」
両国家代表の表情が変わり苦々しい表情へと変貌する。
「第二に今回の事件、管理責任放棄」
一夏の淡々としたイギリスの首脳が待ったをかけた。
「ま、待ってくれ!責任放棄などしていない!!我が国はきちんと対処に当たっていた!その証拠に貴殿の云う要請は全て答えたつもりだ!」
「ほう、笑わせてくれるわ。俺が何も知らない小僧とでも思ったか?では何故ひたすらあの戦略型ISエクスカリバーが
一夏の指摘にイギリス代表は言葉が詰まったエクスカリバーを奪われた時に情報を公開していなかった事実に変わりない!変えれないもの、それが過去。過去はどう足掻いても変わりはしないのだから。
「第三に我が家族に危害を加えそうになった事!俺は寛容だ、貴様らが互いを殺しあおうと勝手だが俺の家族を危険にさらした。その罪は万死に値する!」
「第四に我が婚約者が作りしISを汚した!全ての罪を両国に清算して貰おう。痛みは痛みで清算するしかないのだから、な。近日中に罪の清算を強制的にさせて貰う!そして、その結果に不満があるのならばWW3の開戦だ。震えて過ごすが良いわ!」
そう宣言すると一夏は一方的に回線を切った。
「……もうこいつの役割は済んだ。用済みだ、あいつに返してやろう」
そう呟くと一夏は携帯端末をポケットから取り出した。
数コール音の後に電話相手は出た。
「もしもし、俺だ。すまないが、チェルシー・ブラウンを連れて来てくれ」
そう言うと通話は終了し、再び携帯端末をポケットに収める。
そして考える。今後の方針を。
如何にして相手にダメージを与えるか。致命傷を負わせるか?
アメリカとイギリスの両国家を比較した際にどちらが罪深いかを。
人権的観点からならイギリスだが、人権など一夏にとっては些末な事。そこに自分はおろか身内は関与していないのだから。だとするならば……
「やはり、最初の報復対象はアメリカか?」
婚約者の篠ノ之束が作りしIS。そして、それを汚し貶めたアメリカ。
今までの数々のアラスカ条約違反は決して軽いものでは無いだろう。
そう考えていると不意に部屋の扉がノックされた。
「入れ」
一夏がそう言うと失礼しますという返事と共に屈強な男二人に両腕を掴まれ、拘束された状態のチェルシー・ブラウンが部屋に入って来た。
目は充血し、憎々し気に一夏を見つめるチェルシー。拘束を解かれれば今にも一夏に襲い掛かりそうな気配を放つ。
「拘束を解いてやれ。それと、お前達にこのエクシアと同じ年代の少女の遺体を探してきてくれ。決して遺体を作ってくるなよ!死ぬのはそれにふさわしい人間だ」
「御意」と男たちは言い、チェルシー・ブラウンの両腕を放すと部屋を出て行く。
二人だけになった瞬間チェルシーは口を開いた。
「何のつもりですか?」
一夏の言葉に不自然さが見受けられた。
何故に先程この男は少女の遺体を探してきてくれと頼んだのだろうか?疑問がグルグルとチェルシーの頭の中を駆け回る。
「エクシアは死んだ。戸籍は既に抹消済み、とあれば残りの問題は死体のみ。だから死体を灰して処理するのだ」
そう言うと一夏はゆっくりとした足取りでエクシアに近づいた。
「これから行う事は他言無用だ!言えば貴様も含めすべてを処理せねばならなくなるのでな」
そう言うと一夏はエクシアの亡骸に手を伸ばす。
エクシアの亡骸に次々と人差し指を突き刺していく。仰向けに寝かされていたエクシアの表側を突き終わるとひっくり返して背面もまた次々と突き刺していく様はエクシアの死体に追い打ちをかけている様にしか見えない。そんな一夏にチェルシーは止めようと動こうとすると
「次で最後だ、すぐに終わる」
そう言って一夏はゆっくりとした動作でエクシアの亡骸を寝かせる。
そして溜を作り、溜めた力を一気に掌底でエクシアの心臓に放つ。人を殺す程の実力を持つ一夏の殺人的な拳。荒々しい暴力的な力によってエクシアの体は跳ね上がり、再び重力によって落下した。
あまりの事に理解が出来ず固まるチェルシー。そんなチェルシーを気にも止めずにさっさと椅子に腰かけ始める一夏。そして、ゆっくりと思い瞼を開き始めるエクシア。
一夏がエクシアの体に人差し指を突き刺してかれこれ十数分。
その結果エクシアは眠たそうにしながらも確実に目を開いた。死者がよみがえった瞬間。
「え、エクシア?」
「……」
ボーとした表情をしながらも上半身を起こし始めるエクシアにチェルシーは信じられないと言わんばかりに目を見開いた。
「ようやく目覚めたか、眠り姫。だが、生憎と貴様の居場所はこの世にはない。死んだ者、それが貴様だ」
「ど、どういう事ですか?だって、エクシアは……」
「そうだ、お前が確認した時にエクシアの鼓動は動いてなかった、そう感じたな?」
「は、はい」
「まあ、そう思うだろうな。俺の裏織斑流拳術死償鉄槌は、文字通り死をもって相手を償わせる鉄槌の技なのだが、この技は相手に静と動の入り混じった気を拳に具現化させぶつける技だ。故に、相手はこの技を受けると全身に俺の気が侵入し鼓動は数時間に数回しかならず呼吸も同じくらいの頻度でしか呼吸しなくなる。そうなると脳に酸素が満足にいかず48時間以内に解経しないと緩やかな死によって死ぬという技だ」
つまり、お前が見たエクシアはさながら冬眠中の昆虫の様に眠りついた妹だったというわけだと詳しく解説する。
その時チェルシーは一夏がまるで神の御業を体現したかのように感じた。
「エクシアよ、眼ざめの所悪いがお前にはもう戸籍がない。戸籍がないという事は国の加護を受けられないという事だ。そこで、貴様はこれより我が更識家に入って貰おう。この現更識家当主、更識楯無の名の下に命ずる!貴様はこれよりその名をレイとし、我が更識家の管轄に入れ!拒否権は無い」
「………はい」
その命を翻弄されてきた少女は再び命を手に入れ、その存在と引き換えに自由を手に入れた。
「俺からは以上だ」
そう告げると部屋から出て行った。
長きにわたる二人の運命の歯車はようやくかみ合い回り始める。絶対的な強者の管理の下で。