拳の一夏と剣の千冬   作:zeke

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第86話

 

コンコンと扉のノックする音。されど扉は開かれない。

数秒後、「入れ」と言う返事があり、扉を開けるとそこには目当ての人物がいた。

 

「あ、ありがとうございます‼」

 

そう言って頭を勢いよく下げる少女に椅子に座った少年は一瞬だけ視線を向けるが、興味もなさげに机でやっていた作業を続ける。

 

「要件はそれだけか?ならば下がれ俺からは特にもうお前達に用はない」

 

パソコンを片手に何か調べ物をしながらノートに記載をする。

 

「こ、此度の御恩。山よりも高く海よりも感謝しております!この御恩どの様にお返しすればよろしいか……」

 

「知らん!任務を遂行する中で勝手に助かっただけだ。恩義に思うならば今は俺の邪魔をするな!必要ならば命令する。貴様はそれに従い行動すればよい」

 

眼中になど最早ない。少女を見ているようで少年は少女を見てはいない。気にも止めていない。

どうして…

どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして‼‼‼

 

「どうして⁉」

 

少女の中の疑問が悲痛な叫びが意図せずして口から漏れ出ていた。

 

次の瞬間少女の視界は暗転し、数秒後自分が地面に組み伏せられているのを理解する。

 

 

「言った筈だ、邪魔をするなと‼」

 

動こうとすると動けない起きようとすると上から乗っかられたみたいに起き上がれずにいる。されど少年はパソコンで調べ物をするキーボードを叩く音がするだけ。動いた痕跡や気配はない。部屋には少年と自分のみ。第三者の可能性は限りなく低い。

 

「風速は……問題ないな。侵入経路も良し!手筈は――侵入してから殲滅が合理的か?」

 

この人は一体何をやろうとしているのだろう?殲滅?随分と穏やかではない。テロリストに身を置いている自分が言えた義理だはないがと思ったが、彼はそのテロリストの重要幹部。今更であった。

 

「それよりも、さっさと頭を下げに行ったらどうだ?こちらは今忙しい、そちらの方に先に謝りに行った方が賢明だろう。まあ、どうするかは貴様に任せる」

 

そう言われ少女の脳裏に浮かぶかつての主。

イギリス代表候補生 セシリア・オルコット。

 

裏切ったが、恩もあり忠義もある。だが、どうして彼女の前に出る事が出来ようか。

 

全く動かないっ少女に対して彼は失せろと言った。

 

「だんまりか、さしたる興味もないが今の貴様に頼む仕事もない。失せろ。そして、休んでおけ。いつ招集するか分からず、いつ死ぬか分からぬ命。家族と過ごすも良し、心残りをなくす事も良し。好きにしろ」

 

 話は終わりだと言われ、起き上がれなかった重圧から解放される。

 体を起こし、部屋から出る。

 

「辛気臭い表情をしているな新入り」

 

ふと声のする方向に視線を向けるとそこには長い赤髪をなびかせた男が立っていた。

 

「あなたは…」

 

「俺の名前は五反田弾。無手組所属 織斑一夏の補佐をしている。今のあいつに近づくのはやめておけ気が立っているからな。あいつが暴走したら俺でも止められんから」

 

「さようですか」

 

脳裏に浮かぶは彼が先の件でエクスカリバーを破壊した時の姿だ。あのエクスカリバーを破壊した時の攻撃。まさしくワンパンでエクスカリバーを破壊した。それが彼のISの能力か彼自身の力なのかは解らないが少なくとも彼にそれだけの力を持っていることは確実だろう。

 

「………すみません、少しご相談に乗ってもらえませんか?」

 

「内容次第だな。言ってみろ」

 

少女、チェルシー・ブラウンは弾にこれまでの事を話した。

妹がいる事。その妹を救うためにテロリストになり、かつての主を裏切った事。そして、手を貸してもらった一夏に今は必要とされていないと言うことを。

 

全てを聞き弾はゆっくりと視線をチェルシーに向ける。

 

「今は必要ないという事だろう。もし、本当に必要なければ今頃お前達は生きておらんだろうな。それがすべてだ」

 

 弾の赤い瞳がチェルシーを見据える。

 

「あいつも話したのだろう?好きにしろと。なら、あなたが望む未来に行動すればいいのでは?」

 

ふと脳裏に浮かぶは、かつての主と妹と仲良く3人でティータイムを楽しみたい。

でも、それは…

 

「……出来る筈がありません!裏切ってしまった人と仲良くするなんて‼」

 

叶わぬ夢なのだから。

所詮、夢は夢でしかない。

ここにあるのは現実。裏切ってしまったという現実だけだ。

かつての主を、良くしてくれた主君を。己が目的のために。

 

 

「そうか……お前、馬鹿だろう?」

 

急な弾の罵倒にチェルシーは思考が停止してしまう。

 

「俺は言ったぞ。望む未来に行動すれば良いのでは?と。現実は変えれんだろうが決まっていない未来は変えれるだろうよ」

 

 

その言葉はチェルシーの心の中にスーッと入っていった。

まるでそれは乾いた砂漠に水が入り込むかのように、求めていた答えが、言葉がそこにあったのだ。

 

「望む未来に、歩みを進めよ」

 

その言葉を聞きチェルシーは涙ぐみながら弾に頭を下げてその場を後にした。

 

「望む未来に歩みを進めよ、か。中々に歯に浮いたセリフを言うじゃねえか、弾」

 

 弾が背にしていた扉から愉快そうに一夏が現れる。

 

「盗み聞きか、趣味が悪いな」

 

「ぬかせ馬鹿」と手に持っていた資料で弾の頭を軽く叩きながら弾の尻に蹴りを入れこむ。

 

「⁉」

 

蹴りこまれたせいで弾は壁に激突し頭を抱えて悶絶し床に突っ伏した。

そんな弾に持っていた資料を投げ渡す一夏。

 

「これからの組織方針とそれに伴う指示だ。幹部連中全員に回しておけ」

 

「OK,それよりもあいつどうすんだよ。俺の権限じゃああれぐらいのフォローしか出来ねえぞ」

 

「それについては大丈夫だ。あいつとあいつの妹は、もうテロリストの管轄じゃない。更識家で保護するから更識家の管轄だ」

 

「んなら、それぐらい説明をしておいてやれよ」

 

「説明はしたさ。離れ離れだったんだ。説明に理解が追い付かずにいたんだろうよ」

 

「そうかよ」

 

「まあ、何にしてもフォローご苦労だったな」

 

そう言って一夏は笑いながらその場を後にする怒りの炎をその眼に宿しながら。

 

「ありゃあまずいな。怒ってやがる……死人が出なきゃ良いんだが」

 

そんな一夏の後姿を見た弾は、ぼそりと呟くのだった。

 

 

 □        ■           □

 

 

 

「これは――報復だ‼」

 

 エクスカリバー事件。後にそう呼ばれる戦略型IS暴走事件から数日がたったある日、アメリカのとある研究施設。そこは極秘研究施設でその研究施設から毎年新型兵器が数多く生み出される。その研究施設の名はアメリカの秘宝(ロスアラモス)。最先端軍事兵器研究所であり世界最高峰の頭脳をもった研究者が集められている。そこの警備は厳重であり、その警備の厳重さはホワイトハウスに匹敵すると言われている。

 だが、その研究所が今現在襲撃を受けている。

 

 

 日が沈み、暗闇が空を覆いつくし霧が視界を遮る。襲撃者はたったの一人。すぐさま警備兵が飛んできて警告も無く、何処からともなく表れた襲撃者に対して銃弾が放たれる。

 

 襲い掛かる銃弾の嵐。その全ては襲撃者に向けられており、普通ならば脅威に感じるはずだ。

 例え防弾チョッキという身を守るものを身に着けていたとしても脅威であることに変わりはない。何故ならば、防弾チョッキが効果を発揮するのはボディーのみで頭をカバーするわけではない。

 

 だが、その襲撃者は防弾チョッキを着ることも無く、そして銃弾に臆する事も無かった。

 

「櫛灘流 千年投げ」

 

 硝煙のにおいと銃弾の嵐が吹き荒れる中で襲撃者を包み込むように巨大な幻像が出現し、その巨大な幻像の腕が地面に触れると地面から幾千の闘気の腕が地面から出現し射撃する警備兵を空へと投げて文字通り宙を舞う。その落差は数メートルと言った所だ。致命傷にはならないが骨折はするし、落ちた時の衝撃で呼吸する事がままならない。

 

「ああ、せめてもの情けだ。苦しむことなく行くが良い……術式 魂魄分離 発動‼」

 

 襲撃者が持つ丸い球体から眩い光が発せられると地面に放り投げられていた警備兵は誰一人例外なく白目を剥き口から涎を垂らした状態で倒れ込む。

 警備兵達は息はある。だが、言うなれば精気は無い。そんな異様な光景を作りながら襲撃者は目的地であるアメリカの秘宝(ロスアラモス)の最深部へと向かう。

 

「お前達は、お前達アメリカは、この俺の婚約者のISを汚した!戦略型IS等というものを作る事に協力し、アラスカ条約を破った!!その報いを受けよ!‼」

 

 まるで呪詛の様に、怨嗟の声の様に襲撃者から発せられる怒りの声。

 その瞳は憤怒で塗り固められており、襲撃者から発せられる殺意に空気がまるで氷点下の様に冷たく変化する。

 

 怒りの矛先は研究所の施設に向けられ眼に入る研究施設を片っ端から破壊尽くし始める。まるで怪獣映画の様に研究施設を易々と破壊していく様は研究施設が紙か発泡スチロールで作られたのではないかと錯覚させるほど。研究施設を破壊し無数の瓦礫と幾人もの白目を剥き精気を無くした警備兵の山を作りながら襲撃者は歩みを進める。まるでハリケーンの様に周囲の研究施設を破壊尽くしながら一際大きな中央の研究施設の入り口に差し掛かった時に襲撃者はその歩みを突如止めた。

 

 

「出て来いよ。気配を消してないから位置がバレバレだぞ」

 

 襲撃者の声を皮切りに近くの茂みや気の陰から数十人の人間が現れた。男女関係なく、20代半ばを頭に中学生までの様々な年代の男女数十人。しかも、その全てが手に得物を持っている。

 

「織斑一夏」

 

 襲撃者の名前を憎々し気に言う数十人。その瞳は殺意に塗れていた。

 

「ようやく人工天才(ジニオン)のお出ましか!」

 

 愉しそうに笑う一夏。

 向けられる殺意の塩梅に闘争本能が刺激され高揚感が湧き出てくる。

 

 人工天才(ジニオン)。それらは文字通り作られた天才。

 受精卵になる前の卵子と精子の振り分けから始まり、人工子宮による誕生。そして、そこから徹底的な戦闘教育が施されるのだが人工天才(ジニオン)は道具。道具である彼等に自由は与えられず、選択肢もない。研究者たちの満足が行く結果が出せなければ調整という名の薬物投与と催眠療法により再教育が施され、それでも駄目ならば廃棄。つまりは殺処分されてしまう運命にある。一般人の人権を守る為、自国を守る為にアメリカという国が作り出した大の為に作った小を切り捨てる自由の国と呼ばれえるアメリカの闇。

 

 その情報を米国国防省(ペンタゴン)からアメリカの秘宝(ロスアラモス)についてを調べてる間に目にした。恐らくアメリカの秘宝(ロスアラモス)から米国国防省(ペンタゴン)に向けての簡易報告であったのだろう。詳しくは記載されていなかったが、計画は順調という報告があがっており現在の人工天才(ジニオン)の人数が記されていた。

 

 人工天才(ジニオン)の一人の女子が剣を鞘から抜く。すると小さな異音が発生し、それを合図に他の人工天才(ジニオン)達も得物を構え始める。

 

「戦闘意欲は満タン、殺意は上々。後は――お前達の力をこの俺に見せよ!」

 

 その言葉を皮切りに一斉に襲い掛かる人工天才(ジニオン)達。

 ヒュンヒュンと小さな異音を発生させる剣を持った先程の女子。ピチピチのボディースーツを着て茶髪のショートヘアーのその女子が手にしている剣は首を狙っており正確無比の上段突き。

 

「正確な上段突きだな……だが‼」

 

 突きを避け、その女子に足払いを仕掛けると同時に女子の気道を塞ぎ大きく投げ飛ばす。

 

「織斑流拳術頸落とし」

 

 宙を舞う女子の体は他の人工天才(ジニオン)を巻き込んで地に倒れた。

 人工天才(ジニオン)を投げ飛ばして気付く違和感。自分を見れば服が僅かに斬られておりその斬られた部分の皮膚に若干かすり傷がついていた。完璧に攻撃をかわしたはずなのに。

 

「ム、いつの間に……まあ、良いだろう。その間合いに来させなければ良いのだから!」

 

 

 そして放たれる織斑流拳術虚投げ。

 無数の分身を放ち一斉に攻撃させる。無数の分身は人工天才(ジニオン)達の数をゆうに超え最早一個中隊に差し迫る数だった。最早数の暴力。襲い掛かる分身の中にどれが本物か解らない人工天才(ジニオン)達は分身の攻撃を避けるのに必死で攻撃という選択肢の可能性は薄い。

 

「武器と己を一つにする事がどうも出来ないみたいだな」

 

 分身達と人工天才(ジニオン)達との戦いを見ながら一夏は人工天才(ジニオン)達の実力が武術の達人というには程遠いというのにすぐに気づいた。

 武器と己を一つにするという事が出来ず、どちらかと言えば武器に振り回されているような感じの人工天才(ジニオン)達。素材は十分と言えるが武術をかじっただけとも言える。武術をやった事のない研究者がその知識と見識だけで彼等に教えているとしか思えない位に弱い。彼等の得物を変えたならマドカやクロエでも相手にできるぐらいの強さだろう。

 

 分身達に人工天才(ジニオン)達を任せて襲撃者である一夏は中央のひと際大きな研究施設に脚を運ぶ。そして、研究施設に侵入すると携帯端末を取り出して画面に向かって話しかける。

 

「おい、MAKUBEXそっちはどうだ?」

 

 すると画面の向こう側には銀髪の男性エルフ型AIが現れた。

 MAKUBEXと名付けられたそのAIは画面越しに一礼すると報告をあげ始める。

 

『こちらの研究施設内にある全ての情報システムを掌握しました。個々の研究施設の関係者は助けを呼ぶ事は出来ないでしょう』

 

「そうか、ご苦労。では、案内しろ。この研究施設の全てのデータが収納されている所に」

 

 そして、一夏はMAKUBEXのナビゲーションのもとで研究データが保管されている地下最深部へと向かう。

 血生臭い実験室や食堂、医療施設へ渡る廊下など数多くの部屋を抜けて一夏は最深部付近の扉の間にいた。それまでに接触した研究者を威圧によって気絶させ、ヴェーダの術式 魂魄分離によって数多くの研究者の意識をヴェーダの中に閉じ込めた。その結果魂の抜け殻となった肉体が数多くの部屋に取り残される形で一夏が部屋を出る見送りをする羽目になった。

 

『その先はどうやら機密事項に該当する重要な部屋みたいです。部屋の扉にパスワードがかかっています』

 

「開けられるか?」

 

『30秒ほどお待ちください』

 

 暫くするとピピーという音と共にガチャリと鍵が解除される音が扉から発生する。

 扉のドアノブに手をかけると共に勢いよく、蹴破る様に部屋の中に入った。

 

「!………なんだここは!?」

 

 そこは異様な光景だった。だだっ広い部屋にはいくつもの巨大な円柱型の培養カプセルが所狭しと並んでいた。その培養カプセルの中に何が入っているのか解らないほど緑の液体が中に入っていた。部屋の端には幾つものパソコンが並んでおり何の部屋だか解らない。

 

「おい、そこのお前!この部屋は何だ!?」

 

 睨みつける様に一つの培養カプセルに視線を向けるとその培養カプセルの裏から一人の男性が現れた。白衣を着て四角い眼鏡をかけ、金歯を覗かせながら笑う薄気味悪い初老の男性研究員。

 ギョロリとした魚を思わせる眼を一夏に向けると更に口端が吊り上がる。

 

「こりゃあ、驚いた。あの時の赤子がわざわざ古巣に、生まれ故郷に戻って来るとはね」

 

「なにぃ!?」

 

 眼を見開き男性研究員を睨みつけようとするがここで気絶されたら話を聞くに聞けないのでフーと息を吐き心を落ち着かせる。

 

「おや、覚えていないかい?ここは君の古巣、生まれ故郷だというのに。……見たまえ」

 

 男性研究員はそう言うと白衣からリモコンを取り出してボタンを押す。すると部屋の至る所に設置された培養カプセルの中から光が生じ中の風景を映し出す。中にあったのは人。中学生ぐらいであろうか。次々と培養カプセルの中から光が生じていき全ての培養カプセルの中身を映し出す。

 

「君の弟や妹たちだ。織斑計画によって生み出された数多くの命。その成功例が1000番目の被検体織斑千冬。そして、さらに多くの人類を反映させられるように作られた禁忌の遺伝子を持つXY染色体それが君だよ、織斑一夏君」

 

「織斑計画だと?」

 

「そう、究極の人類を創造するという禁忌の計画。戦闘能力、生存能力、学習能力、指揮能力。それら全ての能力を最大限に持っているのが君達なのだよ。君らが生み出されるまでの間に幾つもの犠牲があったが些細な事だ。数多の犠牲の上に生み出された素晴らしき完成体。それが君達なのだから。故に人工天才(ジニオン)達もまた君たちの兄や姉、弟や妹、あるいは子供ともいえるかもしれないね」

 

「そうか。後は、お前の後ろにある部屋に行って全てを知れば良いだろ?――術式 魂魄分離 発動」

 

「ナッ!?」

 

 あまりにも慈悲も無くまるで死刑執行人の如き所存に男性研究員は驚くが一夏はこのアメリカの秘宝(ロスアラモス)のマップを米国国防省(ペンタゴン)から入手した際にここに何があるか位は知っていたのだ。詳しい情報は手に入らなかったがその詳しい情報が何処にあるか位は知っていた。

故に男性研究員の口からわざわざ聞かなくても問題ない。それに、ヴェーダを所有している一夏は何時でも魂魄分離でヴェーダの中に入った人物の情報を手に入れる事が出来る。

 

「せめてもの情けだ。新世界へと旅立ち、俺の、人類の糧となれ」

 

 その言葉を最後に男性研究員は意識を失った。それはヴェーダの中で道具となる事を対価に永遠の命を得る事を意味しており、まさに新世界。人類が憧れていた永遠の命。魂だけとなり、苦しむ事も悲しむ事も無い、永遠の揺り籠。そんな揺り籠の中で彼は新たなる世界を知る事となる。

 

 

 

 

 いくつもの巨大な培養器がある部屋を通り抜け更に最深部の部屋にたどり着く。

 ここに全てのデータが保管管理されている。部屋の入り口は一夏によって頑丈なセキュリティーが破壊され無残な姿となり果てている。

 

 

 膨大なデータが集積されたスーパーコンピューターの更に上の性能を誇る世界でも3台も無いハイパーコンピューター。軍事国家アメリカの武器開発研究機関の最前線にして最重要機関たるアメリカの秘宝(ロスアラモス)ならではの支給といえよう。

 

 今ですら衛星カメラから人工天才(ジニオン)達と気で作った一夏の分身達との戦闘を記録しているハイパーコンピューター。

 

 今までの膨大な実験データを保有しているのはこのアメリカの秘宝(ロスアラモス)にあるこのハイパーコンピューターだけであろう。米国国防省(ペンタゴン)にもある程度報告などは行っているかもしれないが所詮それは結果と過程でしかなく製造方法や詳細なデータはこのハイパーコンピューター内にしかない。

 

「つまり、ここを落とせばアメリカの軍事技術は停滞しアメリカの軍事技術は今後数年か十数年の間は最たる脅威足りえない」

 

 軍事国家たるアメリカにとっては兵器開発の停滞は致命的なダメージたり得るだろう。

 

「さあ、歴史の幕開けだ!ヴェーダ、MAKUBEX全てを乗っ取れ!!」

 

 

 その台詞と共にスーパーコンピューターはハッキングされその内容が全てヴェーダへと移される。

 片っ端からデータをコピーしては削除。膨大な量のデータを全てコピーしコピーし終えたデータから削除するという気の遠くなるような量をMAKUBEXは片っ端からヴェーダへと移し削除していく。

 

 

「…っ!?」

 

データを移行している最中に一夏は先程の研究員の言葉が頭の中をぐるぐると周り、とある記憶がよみがえる。まだ幼いころの千冬に抱かれている場面。そして、その周りには白衣を着た研究員やナースの様な人々が取り囲んでいる。だが、それ以上はどう頑張っても思い出せない。

 

「ここが俺の生まれ故郷だからか?」

 

 

 

 ヴェーダへとデータ移行を進める中一夏は携帯端末で通話をする。数コール音と共に目的の相手は出た。

 

「おう、俺だ。迎えを寄越してくれ。迎えの時に40人程度移送できる様にしといてくれ」

 

『承知いたしました』

 

 通話を終えるとデータは抜き取りが完了しており、空っぽの状態に成ったハイパーコンピューターへ向き直す。

 すると、ハイパーコンピューターを蹴った。

 

 達人よりもその上の特A級の達人。それよりも更に上の人と分類していいのか解らない超人級の達人。

 そんな人間の蹴りがただの一般人の蹴りなんかであるはずはなく、ハイパーコンピューターが幾ら頑丈に作られていても研究施設を破壊できる超人級の達人にはそんな頑丈さなど意味は無く一撃で世界に3台もないハイパーコンピューターは修復不可能な無惨な姿へと変貌を遂げた。

 

 用済みとなった部屋を一切の痕跡を残さぬ為に白式を展開した。

 

「雪羅 バーストモード」

 

雪羅が縦に真っ二つに割れ、ウィングスラスターへと連結し白式の全体から赤き消滅エネルギーが溢れ出る。溢れ出る赤き消滅エネルギーは機体を真っ赤に染め、更には白式の周りに球体の様な赤い消滅エネルギーで出来たバリアを形成する。

 

「ハァァァ、ハイパーバースト!!」

 

 その言葉を引き金に赤き消滅エネルギーのバリアが内側から大きくなり部屋を全て消滅エネルギーで消滅させた。痕跡を全く残さぬ為にも全てを無かったことにする為にも消滅エネルギーを用いて部屋を内部から消滅させた。

 

全てを無に返した一夏はその部屋を後にし、来た道を戻る。

 

 外に出るとそこには地面に横たわる数多の人工天才(ジニオン)達がいた。

 全員息も絶え絶えで疲労の色が顔に出ている。

 

「お、織斑一夏ぁぁああ!!」

 

 忌々しそうに一夏を睨みつける彼らを一夏は鼻で笑う。

 

「お前達が造られた存在であるという事は解った。そして俺がその原因…いや、きっかけと言うべきだろうか?まあ、その要因だというのも理解した。だから、こうして解放もして結果的にお前達は自由の身となった。今までは造られ実験に付き合わされて実験動物の様な日々を送っていたかもしれんがそれは過去。そしてそんな日々から解放されたのが現在。では、この先は?未来はどうするのかね?お前達が俺の懺悔の言葉が欲しいのならばくれてやる。俺の首でも獲ってみるか?我が首が欲しいのならば何時でも狙うが良い。では、獲ってどうする?飼い主であるアメリカ政府の連中に手土産として持っていくか?まあ、そうした場合お前等は優遇されるかもしれんな。お前等の遺伝子は採取され新たにお前等のような存在が生み出され結果、何も変わらない。お前等が得するだけで歴史は繰り返されるだけだ。お前等が経験してきたことが後世に受け継がれるだけだ」

 

賢いお前達ならばもう理解しているだろう?と語る。

その言葉で人工天才(ジニオン)達は黙った。

 

「だから、俺に力を貸してはくれないだろうか?」

 

 そう言って人工天才(ジニオン)達に右腕を差し出した。

 まるで彼らの力を助力して貰う様に。

 

「共にこの呪われた世界を、繰り返される悲劇を、歴史を変えてはくれないだろうか?」

 

 繰り返される数多の悲劇。

 

「誰も無しえれなかったこの世界の呪いともいえる、これからも繰り返されるであろう悲劇を我々の手で防ぎ世界を変えていこうじゃないか」

 

 その時彼らに一つの道が示された。

 その道は他の数多ある様々な道よりもはるかに魅力的に見えた。

 

「俺達が歴史を変える…」

 

「そうだ、血塗られた歴史に終止符を。そして新世界の創造を我々の手で成し遂げるのだ。神が作りし人類が争う事で紡いできた戦争史が人類史だというのならば我々の手で神を超える新たなる人が傷つかない世界。そんな新世界こそが新たなる人類のステージ。君たちにはそれに協力してもらいたい。今まで人のエゴで生み出されてきた君達だからこそこれからの人類が変わりゆく世界をその眼で見届けて貰いたいのだ」

 

 そう言いながら差し出された手を彼らは取った。

 その存在故にこれからの世界に変革をもたらすために。

 

「一つ謝っておこう。これから先は理解されない修羅の道。障害となる幾人もの人を傷つけさせる、あるいは殺させる事に成るやもしれん。それでもその先にあるのは永久的な平和。神ですら実現する事が出来なかった理想郷なのだ。そして、恐らく世界大戦へと何れは発展するだろう。我等を支持する国と支持しない国。もしかしたら、君たちの祖国アメリカとも敵対する事に成るかもしれない。君達に苦しい決断を強いる時が遅かれ早かれ来るのは確実だ。それだけは謝っておこう。すまない。人類の為に、進化の為に犠牲になって欲しい」

 

 彼らがその手を取った瞬間に一夏は今までの業を全て背負う覚悟を決めた。彼らが生まれた原因の業を、彼らが歩んでしまった道の業を、そしてこれから彼らに歩ませる修羅道の業を。

 

「全てだ!君たちの歩んできた過ちもこれから歩む未来も全ては俺の責任だ!!」

 

 彼らが歩んだ道を否定はできない。否定をすれば彼らが生まれてきた意味も存在する理由さえなくなってしまうのだから。しかし、彼らの様な存在をもうこれ以上産ませていいわけは無い。だからこそ一夏は彼等を率いて未来を歩むのだ。平和のために世界統一と世界管理を目指す。

 

 ●   ●    〇

 

『成程、彼は動いたという事か。報復のために』

 

『ああ、今頃あいつは目的地を襲撃して破壊しつくしている頃だろうな。相手にとって最も最悪の結果を与える為に』

 

『犠牲は出ると思うかい?』

 

『確実に、な。あいつは怒り狂っていた。幾らかの犠牲は絶対にあり得るだろう。いや、最悪その報復心に国が滅んでしまったとしてもおかしくはない。あいつならそれが可能だ』

 

『!?急いで彼の元に行かねば!!』

 

『もう行っても手遅れだ。止める術はない。ただ一つあるとするならばあの御方を見つける事だな』

 

『篠ノ之束博士か。各国が血眼になって探しているあの御方なら確かに彼を止めてくれるだろうが、行方をくらまして今なお解らないのに見つける事は困難だ』

 

『後、出来る手は千冬さんに話す事だ』

 

『!いや、それはダメだ!!彼女に全てを話してしまっては!』

 

『……珍しいなお前がそうまでしてむきになるなんて。解った千冬さんには話さないでおくよ』

 

『もうこうなってしまっては最悪の想定をしておく必要があるか?』

 

『お前が何を考えているか知らないがお前に手を貸せるのは一度きりだ』

 

『解っているよ。必要ならばお願いする』

 

 

 

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