年越し投稿の二話目、2016年最初の投稿です。
「…………?」
精霊〈ハーミット〉を起因とする空間震によって人気のない大通り。その上空30メートルに浮かぶ折紙は、何かを感じて正面出入口に目を向けた。
「何かあったの、折紙?」
「……扉が
「え?扉?」
そう。先程まで閉まっていた扉が、一瞬目を話した隙に開いていたのだ。
「もしかしてハーミット?」
「それはない。目を離したのは一瞬。ハーミットが透明化の能力をつかったことはないから、姿が見えないはずがない」
「まあ、それもそうね。同様に逃げ遅れた人ってこともないだろうし……なら、気圧の関係か何かかしら?」
それもどうかと思うけど、と言う隊長を他所に、折紙は一つの直感を感じていた。それは、彼氏である五河士道がここに来て開けたというもの。
そんなもの、普段なら鼻で笑うだろう。それこそ姿が見えなかったのだから、あり得るはずがない。
しかし、自らの乙女回路が唸りを上げているのが、どうしても気になっていた。
◇
「さて。もういいか」
果たしてその勘は正しく、士道とそのサーヴァントは堂々と正面ドアから侵入していた。
「便利ですね、コレ」
「普通の聖杯戦争ならコストが高すぎてまずまともに使えないのだがね。今回は魔力が潤沢にあるから、それにものを言わせただけだよ」
現れた精霊が狭い屋内に入ったことで、ASTとの戦闘は膠着状態に入った。ゴタゴタした機械を身に纏っているため、まともな屋内戦が出来ないからだ。
当然精霊との
そんな時は便利な
「だが、透明になるだけで音や匂い、気配は消しきれないから、熱源探知なりソナーなりを使われると無力に等しいのだがね。今回は珍しく運が良かったということか」
「でもいろいろ便利ですよね。透明化なんて人類の夢の一つ……」
『士道。それ持って女湯に突撃なんてしたら……もぐわよ』
「し、しねーよそんなこと!」
『あらあら。昨日女の子が入っているトイレに突撃した男が言ってもねぇ。こう、信用できる点がないのよ、ヘタレってこと以外』
「うぐぅ」
それを言われると返す言葉もない。ってシロウさん、そんな哀れなものを見る目で見ないで!
「大丈夫だ。マスターぐらいの年頃の青少年なら、極めて普通の行動だろう。人としてはどうかと思うが」
「い、いや! あれは全部琴里に嵌められたことで!」
『あー、シン。必死の弁明中悪いんだが、ハーミットの詳細な位置が特定できた。三階のペットショップだよ』
令音さん! その情報はありがたいですけど、あと二分待って欲しかったなぁ!
「そうか。確かマスターが会った時の性格は、臆病だけどコミカル、だったのだよな?」
「そ、そうです。最初あのウサギの人形を落としてた時はビクビクしてて近づくのも難しかったんですけど、あの人形を拾って渡すと腹話術で喋り出して。その時はすごく明るい感じでした」
『おそらくそれは、
対人恐怖症の理由は……考えなくてもわかる、か』
令音の分析に、ギリと歯を噛み締める。
精霊となったことで自分が何者なのかもわからない状況で、でも呼び出されるその度に敵意を持って攻撃され続けたなら、人を恐れて当然だ。
だから、俺が味方になる。十香の時と同じように、否定する人ばかりじゃないことを、居てもいい奴なんだってことを教えてやるんだ。
「ふむ……なら私は霊体化して、背後に控えてよう。見知らぬ大男が近くにいるより、少しでも優しくしてくれた人間から話しかけられた方が信用するだろうしな」
『賛成。それに、
ということで、(見た目は)一人になって階段へと向かう。
ここから先は、自分の役目。
一人では足りないから、他人の意見も聞く。だけど、彼女と接して、心を開かせるのは自分にしかできないことなのだ。
その先にある
そう思って、一歩、階段に足を踏み入れた。
◇
ああ、修羅場ってこういうことを言うんだなぁ。
今、士道の心の中を占めているのは、そんな思いだった。
先ほどまで胸の内を占めていた覚悟は鳴りを潜め、今はただ、全力で現実逃避をするだけ。なんかもう、いろいろと格好がつかなかった。
「…………」
『あいたたたぁー。ごめんごめん士道くん。まあ、今のがお詫びってことで許してくれる?』
仰向けに倒れる自分の腰のあたりにまたがるように座り込む、ウサギの人形を腕につけた13歳ぐらいの美少女。
実際には子供用のジャングルジムから落ちたところを受け止めようとして失敗しただけなのだが……つい数秒前まで唇と唇が触れ合っていたこともあり、この場面だけ見た人は大いに誤解するだろうこと間違いなしの構図だった。
「……………………」
そして、倒れたことで見えるようになった後方の角。そこに、ちょうど今曲がってきましたといった様子で固まる、闇色の美少女がいた。
「…………シドー。これは一体、どういうことなのだ?」
『士道くーん。誰あの人?知り合い?』
けたたましく鳴る
◇
令音さんの誘導の元、三階のペットショップにやって来たところで、昨日会った少女と再会した。
どうやら向こうも「昨日のラッキースケベのお兄さん」で覚えてくれていたらしく、比較的簡単に打ち解けられた。途中名乗ってくれた「よしのん」という名前があっているのか確認したら、何故か機嫌が急降下したりもしたけど。
その後、大きなデパートということを利用して、ASTにちょっかいを入れられる前にウィンドウショッピング(風)デートと洒落込み、改めて彼女の明るさと優しさを感じ、封印することを決意し直した。
そのすぐ後。子供用の遊具コーナーに回ってきた時、「よしのん」がジャングルジム擬きに興味を示して登り始め、昨日の「ずるべったーん」が印象に残っていた俺が危ないと思ってそばに寄った直後に、ある意味予想通り落下。
そして、冒頭に戻る。
「シドー。私はすごく心配したのだぞ。みんなが危ない危ないと言っている中、戻ってくることもなく、どこかに消えたままだったのだからな」
「そ、そうか」
「心配で心配で。思わず飛び出てきて、必死に走り回ってここまで探しに来てみれば……」
そこで一旦区切ると、殺気のこもった視線でよしのんを射抜く。びくり、と震えたのが、密着している俺に伝わってきた。
「よりにも寄って、誰とも知れない女とイチャコラしているとはどういうことだーーッ!?」
ダンッ!と足を踏みつけると、ビシビシという音ともにタイルに放射状にヒビが入る。な、なぁっ!??
『……どんどん
マスター。早めに頭を下げないと、マジで死ぬぞ?』
「ご、ごめん十香!心配かけて!本当にごめん!」
「…………」
シロウさんの忠告で我に返り、慌てて謝罪するが、十香の機嫌は治る気配もない。な、なんでさ!?
『……文字通り女の子の尻に敷かれた状態で言われても、何の説得力もないわよ。しかも、イチャコラしてたのは否定してないし』
「おい貴様。貴様も一体いつまでそこにいるつもりだ。すぐにそこをどけ!」
琴里の呆れた声にダメ出しされ、丁度いいタイミングで十香がよしのんに声をかける。少し口調が厳しいのが気になったが、ここでどいてくれればすぐにでも土下座の体制に移行して平謝りできる!
しかし何を思ったのか、よしのんは『ははぁー?ほほーぅ』とか呟いたと思ったら、ピタリと体を密着させてきた。
「な、なななななな!? 貴様!どけと言ったのが聞こえなかったのか!?」
『ごめんねー。えーと、十香ちゃん、でいいのかなぁ? 士道くん、十香ちゃんに飽きちゃったみたいなんだよねぇ』
「な、なん、だと……!?」
バッ、とこちらを見る十香に対して
『だからさぁ、今はよしのんの黄金比ぼでぃにメロメロなわけ』
「そ、そんなわけがあるか!」
『いやさぁ。だって話を聞いてると、十香ちゃんをほっぽり出してよしのんのところに来たわけでしょ?これって決定的じゃない?』
本人の意思とは関係のないところでロリコンにされていっていることは置いておいて。まずは十香の誤解を解かなくては、とシロウさんに念話を飛ばす。
『シ、シロウさん! 側にいるんですよね!? なんとか十香の誤解を解いてください!!』
『無理だ。この手の諍いに第三者が首を挟んで、状況が良くなった試しがない。なんとかしたければ、
『そ、そんなぁ!』
事実上の不干渉宣言に、軽く絶望する士道。
そして、そんな士道をよそに、少女たちの会話は激しさを増していく。
「う、うがぁーー!! 大体なんなのだ、さっきから貴様は!一体私と士道の何を知っているというのだ!」
『なんも知らないけど、ねぇ? 客観的に見たらよしのんの勝ちとしか見えないってゆーかー。ぶっちゃけ、士道くんから見たら十香ちゃんはいらない子、みたいな?』
「——っ!貴様ぁっ!」
「あっ!」
十香には、実際にパペットが話しているように思えたのだろう。その胸倉を掴んで、持ち上げようとする。すると、当然よしのんの腕から外れた。
ここで士道は、とてつもなく嫌な予感がした。
よしのんは、あのパペットがないとまともに会話できないはず。そきて、そのパペットを今持っているのは、激昂している十香だ。
あの、話しかけられただけでビクビクしていた子が、この状況で冷静でいられるだろうか?
「私はいらない子などではないっ!ないのだ! これ以上バカにするのもいい加減にしろ!!」
「……か、かえして、くださ……っ!」
「なんだ!私はこいつと話しているのだ!」
「〜〜〜っ!??〈
その答えは、Noだった。
よしのんがバッと右手を上げて振り下ろしたかと思うと、その足元から何か巨大なものが床を突き破るように現れた。
当然、そのすぐ側にいた士道は勢いよく空中に放り出される。
「う、うわぁぁあ〜〜〜!??」
床に叩きつけられることも覚悟して、恐怖を和らげるために目を瞑る。
しかし、いつまでたっても痛みが来ない。むしろ、抱きかかえられているかのような……。
「……って、え?シロウさん?」
「大丈夫かね、マスター」
どうやら、空中にいる間に受け止めてくれたらしい。お姫様抱っこをされるなんてことは、人生で初めてだった。
「ってそうじゃない!今のって!?」
「間違いなく宝具だ。いや、こっちでは天使と呼ぶのだったか?」
「でもなんで!?キスはしたはずじゃなかったんですか!?」
「わからん。まだ心を開ききっていなかったのか、もしくは他に理由があるのか……」
混乱しながらも下ろして貰って十香たちの方を見ると、そこには巨大なウサギのような人形がいた。よしのんは、その背に腕を差し込んでいる。
どうやら無差別に暴れまわっているわけではなく、十香も目の前のことに混乱している様子ながらも無事だった。
しかし、それもいつまで続くかわからない。なにせ、十香はよしのんから大切なものを奪っている「敵」なのだから。
グゥォォォオオオオオ————
低く、低く。まるで地獄の音はこんなものではないかという唸り声をあげ、よしのんの乗る人形はその全身から白い霧を噴き出す。
「?冷たい?」
「アレは冷気を操る、のか?」
少し離れたここでも感じるほどなのだ。目と鼻の先にいる十香は真冬並みの寒さを感じたようで、震わせながら体を抱く。
しかし、それがいけなかった。人形を腕で抱え込んだその姿は、見ようによっては奪ったものを返すつもりはないと言っているかのようにも受け取れてしまうものだった。
人形の瞳が、赤く光った気がした。その瞬間、ぞくりと士道の本能が警鐘を鳴らす。
「十香っ!」
「ッ! 」
その直感に従って十香の名を叫ぶと同時に、シロウさんが十香に向かって駆け出した。
その一拍後、何かが高速で窓を突き破ってきた。その行き先は……十香!
「
しかし、タッチの差でシロウさんが間に合い、間に入って右手を突き出す。
——その瞬間、花が咲いた。
弾丸のような攻撃を防いでいるから、おそらくはかなり強力な盾なのだろうが、その見た目はもはや花としか表せない。
しかし、その盾も完璧ではないようだ。ズダダダダッと凄まじい音とともに打ち据える弾丸によって、ピシリ、ピシリとヒビが入っていくのがわかる。猶予は少ししかない!
「十香!その人形をよしのんに渡せ!」
「シ、シドー、しかしこいつは……」
「いいから早く!」
「う、うむ!」
半ば怒鳴るように叫び、それが伝わったのか、よしのんに向かって放り投げた。さすがに、あの盾の後ろから出ることはできないらしい。
それをよしのんは、巨大なウサギを器用に操って口に咥えさせると、今自分が弾丸によって開けた穴から飛び出していった。
「十香っ!シロウさん!」
「シ、シドー……」
力が抜けたようにへたり込む十香に駆け寄り、「大丈夫か!?」と体を診る。幸いなことに怪我をしている部分はなく、ただ手足が冷えているだけだ。
しかし、一番十香が傷ついていたのは、体よりも心だった。
「シドー……私はいらない子なのか?」
「な、なんでそんなこと言うんだよ!」
「だって、私よりもあの娘を選んだのだろう!?」
悲痛な叫び声に、士道は何も返すことができなかった。それは、否定できない事実だったから。
そんな様子を見て、より悲しげに目を伏せ、立ち上がる。
「もういい」
「と、十香?」
「話しかけるな。頼むから、話しかけないでくれ! 私は、これ以上シドーを……」
そこで言葉を区切ると、背を向けて駆け出してしまう。取り残された士道は、手を伸ばした姿のままで固まっていた。
◇
「撃て撃て撃てーーっ!!」
ズドドドドッ
雨霰と銃弾が降り注ぐ中、それでもハーミットは傷一つ付けることなくそこにいた。
四方から放たれた小型ミサイルは、道半ばで氷に覆われて落下する。壁のように弾幕を張る銃弾は、しかし天から雨霰と降り注ぐ氷の塊に撃ち落とされ、ごく一部がその盾を突破できてもひらりと躱されてしまう。
「くそっ!なんで天使を出してんだよ!」
「知らないわよ!文句言ってる暇があったらどうやったら倒せるか考えなさい!」
「…………」
銃撃はダメ。もともとハーミットには効きづらい。
ミサイルは途中で凍らされる。なら……
「突っ込む」
「ちょ!折紙!??」
レイザーブレイド〈ノーペイン〉を展開して加速する。
氷の弾丸は
「………っ!??」
ハーミットもこれには驚いたのか、微かに赤いような気もする目を見開いた。
「はぁぁぁああ!」
「……っ!」
その隙をついて斬りかかるが、流石に精霊。瞬時に天使を操り、その巨体に見合わない軽い宙返りをして回避してみせた。
ハーミットのスピードを考えると、この不意打ちが回避された時点で接近戦は不可能。斬り返すまでの一瞬で、自分が抜けたことで空いた穴から離脱されるだろう。
——しかし、ここまでは予想通り。
「本命はこっち!」
「……っ、きゃあぁぁあ!??」
至近距離でミサイルポッドを展開し、狙いもつけずにばら撒く。
途中の雨に落とされるなら、ダメージ覚悟で懐に潜って撃てばいい!
「ぐっ!」
自分で生み出した爆風に煽られ、地面すれすれまで吹き飛ばされる。
爆発の直前に
『折紙っ!大丈夫!?』
「……問題ない。それよりハーミット、は……?」
そう答えて上を見上げた時、空から何かが降ってきたのに気付き、掴み取る。それは、ハーミットが身につけている、ウサギの腕人形だった。
ならハーミットは、と思って見上げると、体の所々に僅かな傷を負いながらも、なお健在の姿でそこにいた。
……いや、健在ではない。その体の末端から、金色の粒子に分解され始めている。これまでに何度も見た、
「……あ。かえ、し、て……よしの——」
その消える刹那、折紙の持つ人形に気がついた様子だったが、しかし消失には抗えずに姿を消した。
「……折紙。よくやったわ。臆病〈ハーミット〉とはいっても、精霊に一人で傷をつけたことは誇れることよ。
……でも、もうこんな無茶はしないで。下手したら、貴女がやられていただけになるかもしれないんだから」
「……了解。善処する」
しない、とは返さない。精霊を倒せる可能性があるのだったら、自分の命などベットして当然のことだから。
「……はぁ。この頑固者。
でもまあ、今回は折紙のおかげで勝利と言える戦果だったわ。さっさと帰って、パーっと打ち上げしましょう! もちろん、費用は経費で、ね?」
「「「おおーー!」」」
「…………」
沸き立つ同僚たちを他所に、折紙は手に持つ人形を見つめる。
——始めて、まともに一撃を当てられた。
——まだまだ敵は高みにいるけど、それでも着実に近づけている。
——そして、いつか必ず、この手で殺してみせる。お父さんとお母さんを奪った、あの精霊を。
——これは、そのための第一歩。
折紙は、人形を大事そうに抱きかかえる。そして、初めての「戦利品」を、空いた装備の格納スロットにしまった。
——幸いなことに嫌いなデザインでもないし、あとで部屋の飾ろう。
そんなことを考えながら、復讐を誓った少女は、基地へと帰還する仲間の後に続いて行った。
今年の目標……三作品同時投稿とかしてみたいですね。できれば近いうちに^ ^
今年もFate/DATE・A・LIVE、並びに不肖私YT-3をよろしくお願いしますm(_ _)m