【凍結中】Fate/DATE・A・LIVE   作:YT-3

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アイドルが間に合わず、二作品だけ同時投稿です。


Event 007 : Heroines

士道と四糸乃が五河家に着いた頃、十香と令音は、喫茶Avalonで舌鼓を打っていた。

 

「んぐんぐ!大体なんなのだあの娘はっ!もぐもぐ、私とシドーの何を知っているというのだ!!」

 

……失礼。片方は怒りながら、テーブルを埋め尽くす料理を貪り食っていた。

ガツガツという音が聞こえてきそうな、美少女に合わないような食べ方だというのに、しかしそれが自然に感じるのは十香という人柄のなせる技であろうか。

 

「シドーもシドーだ! はぐはぐ、なぜ私に心配かけておいてあの娘のところに行っていたのだ! ごきゅっ、せめて一言ぐらい言うべきだろう!」

「……返す言葉もないね」

 

令音はコーヒーを飲みながら、肩を竦める。確かに、急いでいたとはいえ一言ぐらい声をかけるべきだった。

溜め込んだ不満をぶちまけながらもできるだけ声を抑えているあたり、十香という"人間"の人柄がでている。そんな子をこれだけ怒らせているということは、それだけひどいことをしたということだ。

あらかじめ、彼の特異性を伝えておくべきだった、と先に立たない後悔をする。十香の精神の安定を重視するあまり、万が一のことを考えなかったこちらのミスだ。もしかしたら、助けられた元精霊として精霊の封印ぐらい認めてくれたかもしれないのに。

 

「ごくごく……ぷはっ!主人!おかわりだ!」

「……君の胃袋はどうなっているのかね? ……いや、それを言うなら彼女もそうだったのだが。セイバーの少女とは健啖家ばかりなのか……?」

 

店内の注目を一身に集める少女に、エミヤは呆れながら語りかける。その美貌よりも、大食い番組でも見ないであろう光景に、他の客の口があんぐりと開いたまま固まっている。というか、材料のストックの二割近くを食い荒らしているというのに、まだ食うのか。

 

「はぁ、やけ食いも構わないが、腹を膨らましているだけでは何も解決しないぞ」

「む? ならどうしろというのだ?」

「そうだな、まずはその彼氏に話を聞きに行け。聞こえた限りでは、自分を放っておいて他の女と会っていたということだが、迷子、怪我人、親戚、久しぶりに再会した知り合い、他にも様々な可能性がある。一概に浮気と決めつけて嫉妬せず、相手の話も聞くべきだ」

「う、浮気っ!?」

 

顔を真っ赤にしてあたふたと慌てる十香。どストレートに指摘されて、慌てない女子はいないだろう。

 

「それでも気になるのだったら、いっそのこと押し倒してしまえ。既成事実を作って仕舞えば、よほどの馬鹿でない限り逃げられないだろう」

「……仮にも教師の前で、教え子に不純異性交遊を勧めないでくれないかな?」

「不純でなければいいのだろう? 相手にもその気がなければ、男が女に押し倒されなどしないさ。押し倒せたならば、逆説的にそれは純愛ではないのかね?」

「ち、違うぞ!? 私とシドーはそんな関係ではないぞ!?!?」

 

何かが勘違いしたまま進んでいる話に、十香は割って入る。傍目から見たら恋する乙女の顔そのものなのだが、それを知らぬは本人だけだ。

 

「む?違ったのかね?

まあいい。とにかく君は話を聞くべきだな。こういう話の時、男の中に女の居場所があれば、大抵は罪悪感に押しつぶされているものだ。君がきちんと聞く姿勢を取れば、すんなりと真実を話してくれるだろう」

「……むぅ」

 

十香は腕を組みながら唸る。

確かにそう言われると、自分はシドーの話を聞いていなかった気もする。すべてあのウサギから聞いたことと、自分が見た範囲でだけのことで決めつけていた、はずだ。もしかしたらあのウサギは嘘つきなのかもしれないし、そしたら自分はシドーに無意味に怒っているだけではないのか?

そんな考えが頭に浮かぶが、ぐるぐると回るだけで解決策など見えてこない。思えば、さっきからこうだった。

きっと、自分は考えるよりも動くタイプなのだろう。ならばこうして愚痴をこぼしているよりも、言われた通り動いてみるべきだ。

 

「……よし!ありがとう主人!シドーに話を聞いてみるぞ!」

 

突然顔を上げたかと思うと、ダダダダッ、と走り去っていく十香。後に残されたのは、未だ固まったままの客と山積みの皿、そしてエミヤと令音だけだった。

 

「……ありがとう。私だけではどうしようかと考えあぐねていたところでね」

「なに、彼女にこれ以上食べられると夜には食材が足らなくなる。私はこの喫茶店のマスターとして、穏便にお帰りいただいただけさ」

「……そういうことにしておくよ」

 

コーヒーを飲み干し、ふぅと息をついて立ち上がる令音。自分もそろそろ(フラク)(シナス)に戻らなくては。

 

「ごちそうさま。マスター、会計を」

「ああ、51,940円だ」

「…………え?」

 

思わず目が点になる令音。喫茶店の会計じゃないだろう、と思ったが、そもそも人間が食べる量ではなかったことを思い出した。

 

「……ツケは?」

「出来ないな。現金かカード、一括払いのみだ」

 

そう言って5枚にもなる伝票を渡すエミヤの目は、実に真剣だったという。

 

 ◇

 

「よっ、と」

 

少量の片栗粉を加えた溶き卵をバターを引いたフライパンに敷き、底が薄く固まった所で中心を結ぶ対角線上の両端に箸を入れ、中心まで引っ張る。この時、急ぎすぎると破れてしまうので注意だ。

そして、中心まで来て箸が閉じると、ほんの少し待って隙間に卵が埋まるのを待つ。そして、完全に固まらないうちに、箸を固定してフライパンをくるりと一周回転させる。ここで箸の方を回すと失敗するから間違えないこと。

最後に、あらかじめ盛っておいたチキンライスに被せて完成だ。

 

「はい。どうぞ四糸乃」

「……!…………!……!」

「はいはい、早く食べないと冷めるぞ」

 

ドレスドオムライス。いつものオムライスに一手間加えるだけで、ここまで喜んでもらえたなら良かった。

 

『士道。後で私たちにも作りなさいよ』

「あー。分かった分かった」

 

どうやら我が妹は、初めて出した料理を食べられなくてご立腹のようだ。味は普通のオムライスなんだけどなぁ。

 

「……!……お、いしぃ、です……」

「そうか。口にあってよかったよ」

 

はむはむと可愛らしく食べる四糸乃に、思わず頬が緩む。まるで、もう一人妹ができたみたいだ。

と、そこで思い出した。再会したら聞きたいことがあったのだった。

 

「なぁ、一つ聞いていいか?」

「? ……なん、ですか……?」

「四糸乃は、自分のことをどれぐらい覚えてるんだ?」

 

シロウの話が正しければ、精霊は英雄の力を得た代わりに記憶を失った存在……ということらしい。そして、十香は自分の名前すら覚えていなかった。

しかし、四糸乃は自分の名前を名乗った。もしかしたら、他にも覚えていることがあるのかもしれないのだ。

 

「……えっ、と……四糸乃って、名前、だけ……です。

……いつも、気づいたら怖い人たちに囲まれて、て……痛くて……嫌だった、から、痛くしちゃいけないと思って、逃げて……。また気づいたら、同じことの繰り返し、で……。

……でも、たまに違ってて……音が鳴ってないときは、みんな優しい、です。士道さん、みたいに……」

「……分かった。ありがとな、四糸乃」

 

怖い思い出を思い出して震えだす四糸乃の頭に手を置いて、優しく撫でる。ここにいてもいいのだと、怖がる必要などないのだと教えるように。

なんと心優しい子なのだろう。自分が傷つくのが嫌だから、他の人もそうなのだろうと思いばかり、攻撃してくるASTに対しても反撃をせずに逃げるだけだったと言う。そんなのは、なかなか出来ることじゃない。

やっぱり、こんな子が世界から否定されるなんて間違っている。十香みたいに、笑っていてほしい。そう、思わずにはいられなかった。

 

『……士道。十香がAvalonを出たわ。すごいスピードでそっちに向かってる』

「十香が?」

「……っ!」

 

ビクゥッ、と跳ねる四糸乃。どうやら昨日のことがトラウマになっているようだ。

 

「四糸乃、大丈夫だって。十香もほんとは優しいから、話せば分かってくれるよ」

『……そうだといいんだけどね。十香にしたら、士道が浮気したことに怒ってるわけでしょ? 許されたわけでもないのに、昨日の今日で性懲りも無く同じ女の子と一緒にいたら……私ならボコボコにするわね』

「……あっ」

 

サーっと、血の気が引いていく。しかも、それと同時にガチャリと扉が開く音がした。それもそうだ、Avalonからここまでそう離れていないから、今の十香の脚力なら数分もあれば余裕だろう。

 

「シドー!私が悪かった!話を聞かせて……む?」

「……ひ、ぅっ!」

「あ、あははは……」

 

終わった。

見えるわけもない空を仰ぎながら、走馬灯のように今までの人生を振り返る。

まあ、特に何かを成し遂げた訳でもなかったけど、こんな美少女二人とキスできたのだから、勝ち組なんじゃないのかな……?

 

「き、貴様は昨日の! なぜまたシドーと一緒にいる!?」

「……!?!?ご、ごめん、なさ、ぃっ……!」

「十香!これには訳があって……!」

「うるさい! 今はこいつと……っ」

 

そこで十香は言葉に詰まると、ふぅー、と心を落ち着けるように何度も深呼吸した。昨日の様子からは想像できない変化に、思わず目が丸くなる。

 

「……すまない、落ち着いた。続きを話してくれ」

「あ、ああ……。って、四糸乃!?体がっ!?」

「…………え、あ……」

 

視界の隅に映った輝きに振り向けば、ふわり、と末端の方から金色の光へと解けている四糸乃がいた。

 

『ロストの徴候ね。隣界に帰るのよ』

「隣界に?」

『ええ。そうして眠ったように意識をなくし、次に目が覚めた時には空間震を起こしながらこちらの世界に呼ばれる。それを繰り返すのよ。今回みたいな静粛現界はまた別だけど』

「……よしのん、見つけ、なきゃ……」

 

インカムに耳を傾けていた士道の耳にポツリと聞こえてきた声には、どこか寂しそうな色があって。だから、士道は十香に背を向けて、四糸乃と目線を合わせて頭を撫でた。

 

「大丈夫。次に四糸乃がこっちに来るまでに、俺たちが見つけておくから。だから、次に目が覚めたら、この家に来てくれるか?」

「……!……は、い……あり、がとう、ございます……」

「いいって。もう友達だろ、俺たち?」

「……!」

 

コクン、と笑みを浮かべて頷いたのを最後に、四糸乃はその体を虚空へと溶かしていった。

士道は、手を固く握る。今回は、一手足りなかった。なら次は、きちんと救わなくちゃいけない。だって、彼女は「友達」なんだから。

 

「……シドー。これは一体、どういうことなのだ?」

 

なら先ずは、説明をしよう。目の前で起きたことに困惑している少女に、自分のしたいことを。したことを。自分の力を、すべて隠さずに伝えて、頭を下げよう。

その結果、嫌われてしまうのなら仕方がない。流されたとはいえ、自分の意思で、目論見を持って彼女に近づいたのは事実なのだから。

……ただ。許してもらえるというのなら。そうしたら、彼女には、いや、彼女たちには誠意を持って付き合っていこう。それが、自分のしたいことの代償なのだから。

 

 ◇

 

「だから、本当にごめん!今まで秘密にしてて!」

 

全部伝えた。自分の知りうる限りの全てを、余すところなく開示した。

四糸乃という精霊のことを。ラタトスク機関のことを。十香に、わざと近づいたことを。

そして、自分には、精霊を封印できる力があることを。他人の願いを叶える力を得るために、精霊の力を喰らっていることを。そのためだけに、十香を、四糸乃を、人間から精霊にしてしまった可能性があることを。だけど、それでも、十香たちを助けたいと思ったことを。

全部全部、吐き出せるだけ吐き出して、地面に頭を擦りつけた。

 

「……むぅ。話が難解でよく分からなかったのだが……」

 

頭上で十香が腕を組んだようで、衣擦れの音が聞こえた。

 

「とにかく、あの娘も私と同じ存在(せいれい)で、シドーは私と同じように助けようとしている、ということか?」

「ああ、そうだ」

「そうか。……顔を上げてくれ」

 

優しい声音に促されて、体を起こす。視界に映ったのは、しゃがみ、目線を合わせてこちらを見ている十香の姿だった。

 

「すまなかった。ひどい態度をとってしまって」

「え? 十香が謝ることは……」

「ある。シドーとあの娘を、勝手な勘違いで怒ってしまったからな。

それに、謝る必要がないのはシドーも同じだぞ?」

「……え?」

「私たちの出会いが誰かによって作られてた、というのは、うん、ちょっと傷ついたぞ。

だけどな、シドーは私にいろんなことを教えてくれた。この世界が素晴らしいということを、人々は優しいということを。そして、この世界を好きにしてくれた。友も沢山できた。

騙していたことなど、それに比べれば些細なことだ」

「十香……」

 

視界が滲む。そんな姿は見せられないと腕で顔を覆うと、十香は優しく胸で抱いてくれた。ふわりと、優しい匂いが包み込んでくる。

 

「私はな。シドーが居なくなってしまうと思ったんだ。誰とも知らない女のところに行って、私の目の前から居なくなってしまうと。

そう思ったら、こう、胸がキューっとなってな。私はまた前に戻るのかと、また色のない世界になるのかと、不安で押し潰されそうだった」

「……ごめん」

「謝るな。それに、シドーは居なくなったりしないのだろう? あの娘を助けるために、必死になっているのだろう?」

「ああ」

「なら、胸を張れ。そして救ってこい。それでこそ、私が出会ったシドーなのだからな」

 

トン、と背中を軽く叩いて十香は顔を覗き込んでくる。気恥ずかしさで顔が燃えるように熱を持つ。だけど、受け入れてくれた彼女のためにも、力強く頷いた。

 

『…………見てるこっちまで恥ずかしくなるわね』

「うわっ!?琴里!?」

 

忘れてた。まだインカムを付けっ放しで、それはつまり今までの痴態が全部筒抜けだったということだ。

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『ふふふ、でもいい映像が撮れたわね。これは(きょう)は……交渉に使えるかも』

「いま脅迫って言おうとしたよな!?何をさせるつもりだよ!?」

『なにも〜? 士道がちゃんとしてれば何もしないわよ。……たぶん?』

「信用できねぇ?!」

 

こんなものを遺されたら黒歴史確定だ! というかもうだいぶ黒歴史になってきてるのに!!

 

『そんなことより』

「そんなこと!?いや、結構重要なことだと思うんだけど!!」

『よしのんの"居場所"が分かったわよ、たぶん』

「……え?それは本当か!?」

 

 

『ええ。場所は鳶一折紙の自宅。彼女が拾って持ち帰ってる映像が残ってたわ』

 

 ◇

 

「分かった。じゃあ明日」

 

プツッと通話が切れたあとも、暫く折紙は呆然とその場に固まったままだった。

いや、呆然ではなく陶然といったほうがいいだろう。顔はわずかに朱に染まり、目元はよく見ないとわからないぐらいトロンとしている。脳内の妄想が漏れ出しているのか、周囲が薄っすらとピンクがかっているようだった。

 

「〜〜〜〜!??」

 

無表情に悶絶するという妙技を見せながら、ゴロンゴロンとベットを転がる。手作りの抱き枕が形を変え、それがさらに想像を掻き立てて、さらに力がこもっていく。

もぞもぞとシーツの下で蠢きながら、妄想の世界へと沈みこんでいく。

 

「……ふぅ」

 

数分後、枕から上げられた顔は上気していて、妖しい艶かしさがそこにはあった。

 

「……!」

 

そして気がついた。このベッドでは、明日"そういうこと"に至った時に狭すぎるのではないか、と。

思い立ったらすぐ行動。どうせ、より確実にことを運ぶ為に、行きつけの店に"お茶"を買いに行かなくてはいけないのだ。そのついでに新調してしまおう。

 

折紙は軽く服を整えると、パタンと扉が閉められる。

その寝室の棚の上に、まるで大切な思い出の品であるかのように、一つの人形が飾られていることを、それの元々の持ち主は知る由もなかった。




・・・おや!? 十香のようすが・・・!
おめでとう!十香はメインヒロインにしんかした!
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