【凍結中】Fate/DATE・A・LIVE   作:YT-3

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他のモチベーションがたださがりなので、復帰も兼ねてこちらを投稿します。


Prologue : 衛宮ガーディアン
Prologue 001 : Who is "PALADIN" ?


 

士道(しどう)。改めて精霊について教えてあげるから感謝しなさい」

 

 黒いリボンで炎のような赤い髪をツインテールにした我が愛しの(ことり)は、唐突に尊大な態度で話を切り出してきた。

 

「……え? いや、別にもういいだろ」

「バカじゃないの。必要だから教えてあげるって言ってんでしょ」

「だって、十香(とおか)はもう、その……封印しただろ? なら、精霊についての知識はもう必要ないじゃないか」

 

 十香と()()()()精霊を()()してから約一週間。

 精霊を封印した影響を調べる定期検診、という名目でラタトスク機関が誇る空中艦『フラクシナス』に呼び出され、それが終わったと思ったら司令室に連行されて、今に至る。

 つまり、士道はもう終わった話だと思っていたのだ。

 ——もっとも、そんなことはないのだが。

 

「精霊が十香一人だけなんて誰が言ったのよ誰が。他にもいるに決まってんでしょ」

「な——っ」

 

 愛しの妹からは呆れた目で見られるが、そんなことを気にしている余裕は士道にはなかった。

 動揺や戦慄から手先が震え、胸が締め付けられるように軋む。自分に懐いてくれた十香といても理解できるほど、精霊というものの強大さは肌で感じていた。

 

「ま、待ってくれ琴里! 十香だけじゃないって本当なのか!?」

「私が嘘を言うとでも思ってるの?」

 

 見下すような、でもどこか哀しげな色を含んだ目でこちらを見てくる妹に対し、士道は言葉に詰まった。

 もちろんできれば嘘だと思いたい。だけど、例えリボンの色で二重人格みたいに180°性格が変わっても、妹の言葉を信じられなかったら兄として失格だ。

 

「……悪い。ただちょっとびっくりして」

「それなら良し。

 はい、それじゃあクエスチョン1。精霊ってどんな存在だったか覚えてる?」

「確か、空間震の原因だったよな? 精霊がこっちに無理やり出て来させられるときに空間震が起きる、って話だったと思う」

 

 空間震とは、30年前から突然起きるようになった災害のことだ。

 一番最初が最も被害が大きく、ユーラシア大陸の中央で起きたそれは約一億五千万人の人命を奪った。その後約半年間かけて世界各地で約五十回が確認され、最後に関東一円を吹き飛ばした後ぱったり確認されなくなっていた。

 しかし五年前に、関東の空間震の後再開発された天宮市——今自分たちが住んでいるところだ——で確認されて以降、なぜか日本、その中でも特に天宮市を中心に再び観測されるようになってきている。

 その被害規模、発生時期ともに不定、発生原因は不明……ということだったが、実は精霊が意図せずに現れる際のものだった、という事実はかなり驚いたのを覚えている。

 

「続けなさい」

「あとは……確か『霊装』って服を着ていてASTの攻撃じゃないと効かない上にそれも殆どダメージがない、だっけ?

 ああ、それと、『天使』って呼ばれるすごい武器を持ってるんだったよな?」

「まあ、大体そんなところね。一つ加えるなら身体能力も軽く物理法則に喧嘩を売ってる、ってことかしら。

 それで。そもそも精霊っていうのは『そういう生き物』の総称なの。『ヒト』だとか『リス』だとかと一緒。個体を区別するためのものじゃないのよ。

 例えば、十香には『プリンセス』って識別名がつけられてるし、他にも、決して戦おうとしない『ハーミット』とか、空間震を起こさずに現れては好んで人を襲う『ナイトメア』とか、必ず空中に空間震を起こして二体一組で高速移動する『ベルセルク』とか、これまでにわかっているだけでも何種類か確認されてるわ」

 

 そんなにいるのか、と思うよりも先に、どうしても気になる言葉が出てきた。

 

「『好んで人を襲う』……? 一体なんでだよっ!?」

「そこら辺はわからないわ。ただ言えることは、分かっているだけでも一万人以上の被害者が出ていて、例えその精霊を殺しても、気付いたら死体が消えて蘇るってことだけ」

「いちま——っ!?」

「例えば吸血鬼みたいにそれが生きてくために必要なのかもしれないし、単に快楽殺人者なのかもしれない。だけど、今ここで言えることはないわ。こればっかりは本人と仲良くなって、直接聞くしかないでしょうね」

 

 その言葉に聞いて、士道はギリと歯嚙みをする。

 十香を助けたのは、彼女が寂しそうな目をしていたからだ。空間震が彼女の意思に関係なく起こる以上彼女に罪はないし、それを理由に殺すというのは認めたくなかったから助けたのだ。

 だけど、その話のように自分の意思で人を殺している精霊がいるのなら……その精霊を助けたいとは、どうしても思えそうになかった。

 

「それで、最も面倒なのはそいつじゃないわ。もっと厄介なのがいるのよ。今回、予定を早めてまで士道に教えることになった理由でもあるわね」

「『もっと』……? そんな犯罪者よりも酷いのがいるのかよっ!?」

 

 信じられなかった。一万人を超えるような人を、自分の意思で殺した精霊よりも酷いとは、一体どのような……

 

「ああ、別に人殺しとか、そういう意味で厄介なわけじゃないわよ。(むし)ろ、わかっている限りだとその精霊による死者はいないし、どちらかといえば善人でしょうね」

「へ?死んだ人はいないのか?」

「そうよ」

 

 士道は、ほっと胸をなでおろす。無駄に緊張した分、肩透かしをくらった気分だった。

 

「そうね……最近のニュースなんだけど、10年前中東で空爆に巻き込まれて死んでいたと思われていた日本人が見つかった、って話は知ってる?」

「その話なら知ってるぞ。確か、NGO活動してたら空爆に巻き込まれて、最近まで意識不明だったんだってな。見た目がちょっと日本人ぽくなくて、身分証明書とかなくしてたから目が醒めるまでわからなかったとかニュースで言ってたような……?

 それで、それがどうかしたのか? まさか、『あの人が精霊だー』とかいうわけじゃないだろうし」

「あら、なかなか鋭いじゃない」

「……え?」

 

 まるで時が止まったかのように、ピタッと動きを止める士道。そのままギギギッと壊れかけのロボットのように目を合わせるが、琴里は溜息をつきそうなほど面倒くさそうな表情で断言した。

 

「現在確認されている中で、唯一の男性型精霊、コードネーム『パラディン』。

 ほぼ間違いなく、噂の『衛宮(えみや)士郎(しろう)』がその精霊よ」

 

   ◇

 

「納得できない」

 

 同日、同時刻。陸上自衛隊・天宮駐屯基地。

 自衛隊の対精霊部隊、通称ASTの部隊が居を構えるそこの一室、AST隊長日下部(くさかべ)(りょ)(うこ)一尉の執務室で、ASTの隊員であり士道のクラスメイト・(とび)(いち)(おり)(がみ)は、上官の告げた方針に反対の意見を述べた。

 

「映像解析では99.9%一致している。何故討伐命令が下りない?」

「それは『プリンセス』の話? それとも『パラディン』の話?」

「どちらも」

 

 憮然と、どこか人形のような無表情さのまま返す折紙に日下部は頭痛を覚えた。

 確かに、折紙の言うことは嘘ではないのだろう。彼女はASTの中でも特に精霊に対する恨みが強いのだから。

 だが、本音としては『プリンセス』似の少女の方が大半を占めているのは間違いがない。『プリンセス』によく似た少女が、折紙がご執心の男の子——本人曰く『彼氏』——と仲がいいのは確認済みだ。それが面白くないのだろう。

 

「何故も何も、『パラディン』のほうは映像証拠以上に他の証拠が否定してるのよ。指紋、掌紋、声紋、歯型、顔認証システム、静脈認証システム、DNA鑑定に至るまで全てが衛宮士郎と一致してるわ。

 それに、型落ち品でこっちの簡易観測機レベルでしかわからないとはいえ、向こうで受けてもらった検査では霊力を確認できなかったのよ。これじゃあただの他人の空似としか言えないわ」

「…………」

「『プリンセス』似の彼女もそう。確かに『プリンセス』が先週デートしていた彼と仲がいいとか、唐突に転校してきたとか不自然ではあるけれど、霊力が観測されなくて日本国籍がある以上は、精霊じゃなく守るべき市民とするしかないのよ。もちろん、なんらかの手段で誤魔化しているだけかもしれないから、最低限の監視はつけるけど」

「そう」

 

 さすがにそう言われては引かざるを得ないのか、折紙は無表情なまま足を引いた。もっとも、付き合いの長い日下部から見たらムスッとしているようにしか見えないのだが。

 

「何かわかったら一番に伝えるわ。だからまだ我慢していなさい」

「……わかった」

 

 一応軍人の上官である日下部に敬礼して折紙は部屋を出て行った。本人同士の関係は友人のようなものなのだが、形式というものは必要なのだ。

 

「はぁ……折紙も頑固なんだから。

 それにしても……『パラディン』、ねぇ。出来ればもっと早く教えて欲しかったものだけれど」

 

 そう言って日下部は、手元の資料の片方に目を落とす。この男性型精霊についての資料は、最近になってようやく英国陸(Special)軍対精(Sorcery)霊部隊(Survice)・通称『SSS』から送って貰えたのだ。

 まあ、それも無理はないだろう。なにせ、DEM社のトップ部隊とSSSの合同部隊が()()()()()()()()()()という記録なのだから。

 

 精霊『パラディン』が最初に確認されたのは、約一年前のイギリス。それも、空間震を伴わない形でのことだった。

 元々は、イギリスにあるDEM社関係の工場地帯に『ハーミット』が現界し、それに対処する形で、たまたま居合わせたDEM社のトップランカー達とSSSによる合同部隊が結成されたのだ。しかし、氷の嵐とでも言うべきものに阻まれ、結局のところ『ハーミット』は消失(ロスト)してしまったらしい。『パラディン』が現れたのはその直後、撤退しようとした時だった。

 空間震は『ハーミット』以外に確認されず、服装もよく知られている霊装とはどこか違ったらしいが、その存在感の奇異さから精霊と判断、包囲したらしい。

 その後、『パラディン』はしばらく回避に専念していたが、いつまで経っても攻撃をやめない合同チームに辟易したのか、中空から黄金色の剣の形をした『天使』を手に取る。すると、合同部隊のほとんどが動くことができなくなり、そのまま剣から放たれた光を回避できずに、唯一動けた一人を除いて戦闘不能にされた、と書かれている。

 

「剣から光、っていうと『プリンセス』なんかもそうだけど……動けない状況で受けて戦闘不能程度で済んでいるってことは、威力はそこまででもない? 動けなくすることの方が主目的の天使と考える方がいいのかも。

 ……だけど、一人は影響を受けなかったわけよね? つまり、何かしらの条件がある。

 ああもう! DEM社のメンバーだから詳細が伏せられてるのが腹ただしいわね! 私たちにそれを調べる人柱になれってこと!?」

 

 思わずイライラして頭を掻いてしまったが、机上で考えても仕方がないと思い直し、大きく深呼吸して一旦落ち着く。むしろ、ここからがこの書類の重要なところだ。

 無事だったDEM社の魔術師(ウィザード)はかなりの高ランクのメンバーだったらしく、そのまま仲間から引き離すように立ち回りつつ戦闘を開始した。

 しかし『パラディン』は、近距離では双剣状の天使で、遠距離では弓を使った攻撃で圧倒し、10分も経たずに戦闘不能にされたらしい。

 一体の精霊が複数の天使を持っているというのも前代未聞だが、その後の行動もよくわからない。その戦った魔術師(ウィザード)に日本語でいくつか質問をしたのだ。

 

「『【(ライ)(ダー)】【聖杯戦争】【マスター】という言葉を知っているか?』『お前達は魔術師ではないのか?』……そして極めつきが、『私は精霊などではない、エイレイだ』。

 何故か精霊は日本語を話すから、それはおかしくないんだけど……問題は内容よね。絶対この精霊は、空間震や精霊について重要な何かを知ってる。エイレイってのがなんなのかが分からないけど、こいつを捕まえれば空間震を解決できるかもしれない。

 ……まあ、『衛宮士郎』が本当に『パラディン』なのかすら分からないんだけど」

 

 はぁ、と溜息をつく。

 今まで『パラディン』が確認されたのは二回。一回は最初のイギリス、もう一回はユーラシア大陸中央、現在立ち入り禁止区域に指定されてる『最初の空間震』の中心地。

 特に映像記録が残っている後者は、封鎖をしている国連軍やDEM社の魔術師(ウィザード)をすべて打ち倒してそこに至っている。かつて『ナイトメア』が同じことをして警戒レベルが上がっていたにもかかわらず、だ。

 それだけその場所が『パラディン』にとって重要だったということだし、ちょうど現在『衛宮士郎』の所在がある中東にも近い。

 

「記録では、『パラディン』が限界しているところも消失(ロスト)しているところも確認されていないし、一回目の時も二回目の時も他所から来て、終わったらどこかに行っている。

 それを考えると『衛宮士郎』が『パラディン』の可能性は高くなるんだけど……やっぱり、彼から霊力を観測出来ないのがそれを否定してる、かぁ」

 

 そう言って、今度は衛宮士郎の記録を見る。

 今でこそ衛宮士郎と呼ばれる男性だが、彼が『衛宮』になったのは今から三十年前。空間震頻発時期に日本の冬木市で起きた空間震に巻き込まれて家族や友人を失った後、当時世界を飛び回っていた男、衛宮(きり)(つぐ)が引き取ったのがキッカケだ。

 その衛宮切嗣も、要注意人物として各国から警戒されていたという特殊な経歴の持ち主だった。行く先々でなんらかの事件があるので、もっぱら厄病神のような扱いをされていたらしい。いろいろと足跡を追うと、不法出入国も一度や二度じゃなさそうでもある。

 しかし、そんな人物が何故かこの事件からここに居を置いた。そして、それから数年で急に衰え、死去している。

 それ自体はあまり珍しくはない。空間震頻発時期から数年で、世界中で同様の、謎の衰弱による死者が頻発しているからだ。比較的貴族などの所謂『名家』に多かったが、理由は未だに不明のままで、なんらかの環境の変化に適応できなかったとか、空間震で呪いが撒き散らされたからだとか、オカルトじみたものも含めて様々な説が未だに提唱され続けている。

 

「衛宮切嗣の死去の後、親交のあった藤林組、所謂極道の家が後見人になって、ようやく二桁になったぐらいの頃から一人ぐらし……折紙と同じような境遇ってこと。なかなか壮絶な人生ね」

 

 その後の人生は、高校までは比較的平凡なものだったようだ。特筆されていることといえば、かなり体を鍛えていて運動神経が高く、弓の腕は継矢ができるレベルだった、ということだけだ。

 高校卒業後は世界中を旅しながら各地の難民キャンプに赴き、炊き出しや自警団代わりのことをしていたらしい。資金源は、偶に先進国に戻り、様々な一流シェフの店や星付きホテルで腕を振るって貯めていた、とのことだ。

 

「料理の腕は超一流で、その世界では有名人だったようね……。掃除なども得意で、一時期執事として働いていた経験があり、か。

 こんな主夫、ウチにも一人欲しいわね……」

 

 と呟いてから、考えたくもない独身女性の最悪の敵が頭を()ぎり、それを追い出すように頭を振る。災害や精霊なら過ぎ去るのを待てばいいが、そいつは時間が経てば経つほど厄介になっていくという非常に面倒な相手なのだ。

 

「そ、それより衛宮士郎のことよ! ……って言っても、もうほとんどないんだけど。

 『十年前に反体制派に捕まって捕虜となったが、それを公開される前に政府軍の空爆に巻き込まれる。捜索の際に死体が出てこなかったため、扱いは《生死不明》。だが、それがきっかけで世界的に大きな問題となり、当時の大統領から、とても素晴らしい人格者だった、とまで言われた』、ねぇ。

 やっぱり、例え『衛宮士郎』が『パラディン』だったとしても、ウチの判断だけで決められる問題じゃないわね。最悪国際問題になるわ。

 ……はぁ。もう! なんでこう面倒くさい問題が出てくるのよ!?」

 

 日下部の悲痛な叫びは執務室に響き渡り、しかし防音扉を超えられず誰の耳にも届かないまま虚空へ消えていった。




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