Event 001 : Primordial Recollection
夢を見ている。
もしも実際にはそうでなかろうとも、自分はそう思っただろう。
パチパチ、パチパチと、火の粉が舞い。
そこかしこに、人間
——現世に現れた地獄が、そこにあった。
「ここは……」
呆然と、ただただ呟くことしかできない。その意識に反し、体が自由に動くことはなかった。明晰夢、というやつだろうか。それにしては視線が低い気がするが。
一瞬、五年前の大火災かとも思うが、すぐにそれを否定する。自分はあの時のことを
ならこれは何なのか、と思って、それに気がついた。
「ノイズ……? それに、色も抜け落ちてるのか?」
まるで古い映画の中にでも入ったかのように、掠れ、消えている。燃えている建物も、炎の中でもがく人も。注視してみるとぼやけていることが分かる。
あまりにもリアルなのに、しかしここは、どこまでも現実味がなかった。
そんな、ある意味観客のような気分でいたからだろうか。
ふと、視界が上がった先にあった『ソレ』を、直視してしまったのは。
「なんだ……あれ……」
『ソレ』は孔だった。
世界を穿つように中空に浮き、ドロドロとした黒い泥を溢れさせている。
「ッ!??」
それを認識した瞬間に、覚えがないほど身の毛がよだった。現実だとか夢だとか以前に、アレはあってはならないものだと魂が警鐘を鳴らす。
しかし、視線は動くことなく固まっている。自由に動けない夢の中ということが、今だけは苛立つほどにもどかしかった。
『…………!…………!!』
「え?」
声が聞こえた気がした。
夢の中の体もそれに気づいたかのように、視界が横を、炎に包まれる家の中を向く。
『……
そこには、人がいた。
ノイズが酷く、顔はまるで分からないが、一人の男が、女性を抱えて燃えているのは理解できた。
「士郎……? じゃあ、まさかこれは、シロウさんの記憶なのか……?」
『早く! お前だけは生きてくれ!』
文字通り、命を燃やしながらの魂の叫びに、固まっていた体が動き出したのだろう。視界が男から離れ、孔とは逆の方に向かって走り出す。
……ここで終わったなら、まだ感動的な話だっただろう。命を懸けて息子を逃がす父親と、両親のためにも生きることを選んだ息子。涙なしには語れない話だ。
——しかし、世界はそこまで甘くはなかった。
『助けて……助けてくれ……』
燃え落ちた家屋の下敷きになり、弱々しい声で助けを求める男性。
『水……誰か水を……』
全身を爛れさせながら、皮膚を引きずり歩く老人。
『誰か……せめてこの子だけでも……』
息絶えた子を抱きながら、炎の隙間から手を伸ばす母親。
『はっ、はっ、はっ……』
その視界に映るのは濃密な「死」の気配だけで、しかし生者である少年には何もできることはない。
できたのはただ一つ。助けを求める声を無視し、ただひたすらに逃げることだけ。
「これが、シロウさんの過去……? そんな、こんなことって……」
傍観するだけの自分ですら吐き気でおかしくなりそうなのだ。それを直で体験した本人は、一体どこまで壊れてしまったのだろうか。
その答えは、きっと本人しか知りえない。
………………
…………
……
やがて、力尽きたのだろう。躓き、瓦礫の上に転がった。
無理もない、と士道は思う。あの悲鳴の中を進み、炎の中を走り抜けたのも一度や二度ではなかったのだ。おそらくまだ少年である
ゴロン、と視点が転がり、炎が
そのまま、ふらりと落ちそうになる手を、誰かが握った。
「生きてる……生きてる。生きてる!」
それは、ボサボサ頭にボロボロのロングコートを着た男だった。顔立ちは未だ二十代だろうに、その身に纏う死期が近い老人のような雰囲気が、その男の年齢を分からなくさせていた。
そして、ありがとうと。
救った側のはずなのに、まるで救われたのは自分であるかのように、男は涙を流す。
霞むその光景を最後に、士道の意識は離れていった。
◇
「……
「ぅん? うわっ、十香!?って、うわぁぁあ!?」
目を開けた瞬間、目の前に顔があった。
しかもそれが絶世の美少女のものだというのだから、椅子ごとひっくり返っても無理はあるまい。
「大丈夫かシドー!?」
「いつつ……。あ、ああ、大丈夫だ」
立ち上がりながら、時計を確認する。13時10分、予鈴の五分前だった。随分長い夢を見ていたのだが、思っていたよりも寝ていなかったようだ。
そんなことを考えていると、もう一人、側に立っていた美少女が十香を鼻で笑う。
「やはりあなたでは力不足。私がしたほうが上手くいってた」
「ぬう。しかし
「それで驚かせては逆に迷惑」
「「…………」」
バチバチバチッ。
二人の視線がぶつかり火花が舞い、それに比例して士道の胃がキリキリと痛む。
「ああもう、頼むから喧嘩はしないでくれ……」
「むう。分かったのだ」
「あなたがそういうのなら」
どちらも素直な子だから、言えばその場は止めてくれる。しかし、本能的に相容れない関係なのだろう、すぐにまた喧嘩をしだす。そしてそれをまた止める、というのが、ここ最近の士道の(やりたくもない)日課だった。……おかげでここ最近疲れがたまっていて、少しだけでもと昼寝を敢行したのだが……。
「しかし、本当に大丈夫なのかシドー? ひどく魘されていたぞ」
「それに顔色も悪い。一緒に保健室に行く?」
「ああ、今は大丈夫。ちょっと夢を見てただけだから」
しかも、自分を心配するときだけは手を組むというのだからタチが悪い。これでは強く怒れないではないか。
……ところで折紙さん? なぜそんなに悔しがってるんですか?
「むう、それならいいのだが。シドーを苦しめるとは、そのユメとやらには会ったらキツく言っておかねばならんな!」
「いやいや、会えないか……いや、大丈夫だよ。ただ……ちょっとキツイ夢だっただけだから」
「ぬ、そうなのか? 会えないのでは仕方がないな……」
否、会えるかもしれない。「夢」ではなく、「夢の持ち主」になら。
「(もしあの夢が、俺の妄想じゃなくって、本当にシロウさんの過去だったなら……)」
なんとなく、士道はエミヤシロウが何故『正義の味方』に拘ったのか。その理由が分かったような気がした。
怖いのだ。生きていることが。炎の中で見捨てた命を忘れることが。
だから、なによりも命を助けようとする。例え自分が犠牲になろうとも、それで多くの人が助かるのなら、と考えてしまうのだ。
彼の心は、あそこで壊れた。壊れたが故に、誰よりも他人の命の重さを理解していた。助けられることの喜びを、助けられたことへの感謝を。きっと誰よりも理解できたのだ。
「……
「ん? ああ、ごめんごめん、ちょっと考え事をしてた。もう一度言ってくれるか?」
「うむ。今度学校の前に、かふぇというものができるのだろう? 実は美衣たちから誘われたのだが、行ってもいいものなのか分からなくてな……」
ドキリ、と心臓が鳴る。
そうだった。十香は今フラクシナスに住んでいるのだ。放課後に自由に出歩いていいものか分からないのだろう。もっとも、その心配は杞憂なのだが。
それよりも、士道には気になることがあった。
「それって今日なのか?」
「うむ、そう言ってたぞ」
「でもあそこって営業は来週からだろ?」
「気になるかい?気になるのかい五河くん! なんとそれは大丈夫なのだーっ!」
「実は叔父さんがオーナーと知り合いだったらしくて、頼み込んで今日のプレオープンに参加できるようにして貰ったってわけ!」
「でかした美衣! ふふふ、一体どんな店なのか敵情視察してやるのよ!」
いつもの三人娘、亜衣、麻衣、美衣が横から飛び出てきた。この三人は十香を猫可愛がりしてるから、大方いつも美味しそうに食べてる十香に喜んでもらいたいのだろう。
「それならちょうど良かったよ。俺も誘おうと思ってたからさ」
「「「え?」」」
「いや、この前令音さ……先生に頼んで職場見学に行った時に偶々知り合ってさ。その時に、『メインターゲットの高校生の意見を聞きたいから、プレオープンに友人とでも来てくれないか』って誘われたんだよ」
ちなみに、琴里は明日、フラクシナスのメンバーと一緒に行くことになっている。「たまには高校生だけで楽しんでらっしゃい」とは本人の弁だ。
「そうなのか! では一緒に行けるな!」
行けること自体への喜びと、自分も行くと知って輝くような笑顔になる十香。それを見て心が和んだが、三人娘からキツイ視線が来ているのに気が付いた。
「な、なんだよ?」
「いや〜。なに? それって間接的に知り合いってアピール? いつの時代のナンパ? もしかして、十香ちゃんや鳶一さんだけじゃなくて美衣も狙ってたりするわけ?」
「それとも、『十香は俺のものだぜ』ってこと? 束縛きつすぎー」
「マジ引くわー」
「いやいやいや!そんなつもりはないから! というか二股かけてるみたいに言わないでくれるかな!?」
慌てて否定する。この三人の情報拡散能力を見くびっていると、明日には学校中に噂が広まっているのだ。ここで止めておかないといけない。
そんなことを考えながら必死に弁明していると、袖を引かれる感触があった。
「…………」
「と、鳶一?」
「…………」
じー。
無表情ながら、何か訴えていると分かる力を持った視線でこちらを見つめる少女。
何を言いたいのか薄々感づいているが、一応問いかけてみる。
「鳶一も来るか?」
「行く」
「そ、そうか」
即答だった。0.1秒も間がなかった。
正直、十香と鳶一が一緒というのは嫌な予感しかしないが、あいにく仲間はずれにできるような精神構造をしていない。心労が増えることを覚悟するしかないだろう。
「なぜ貴様も来るのだ!」
「士道に誘われたから。あなたに文句を言われる筋合いはない」
「「…………」」
……訂正。もう増えました、まる。
◇
あれから休み時間のたびに行われた戦いに(精神的にも物理的にも)間に割って入り、身も心もだいぶ傷つきながらもついに放課後になった。
現在は六人(三人+三人)で固まって移動中。……内訳は、両手に花だとだけ言っておく。
「シドー! かふぇとやらはまだなのか!?」
「まだ出て1分だろ? それに、もうすぐそこだよ。ほら、あそこだ」
そう言って指さす先には、いかにも「喫茶店」といった店があった。外観は派手すぎずシックで纏まり、少々こじんまりとした店先だが、個人で経営をするなら妥当な大きさだろう。
しかし、士道や他の四人は、強烈な違和感を持った。唯一世間をあまり知らない十香だけが「おお!あそこか!」とはしゃいでいる。
「ん?」
その違和感の正体に気づく前に、店の扉が開かれる。そして中から、一目で高級品と分かる服装に身を包んだ大人たちがぞろぞろと出てきた。
『さすが、シロウの料理は絶品だ! これならうちの2号店をいつでも任せられるな!』
『君にそう言ってもらえるとは光栄だよ、ジェームズ。しかしこれで私も一城の主だ。その誘いは断らなければな』
『そうね。でも、シロウの料理がいつでも手軽に食べられるなんて、ここの人たちは幸せよね。私も越して来ようかしら?』
『君は領主を引き継いだのだろう、ミスマグレット? あまり無責任なことを言うべきではないよ』
『冗談よ冗談。相変わらずシロウは真面目ねぇ』
『だが、ミスマグレットがそう言う気持ちもわからんではない。なぜなら、君の料理は十年前からさらに進化しているのだからな。そちらの意味でも目覚めたのかね?』
『さて、どうだか。私は出来ることをやっているだけだよ。
では皆様、どうやら次の可愛らしいお客さんたちも来たようですし、次回の来店をお待ちしています』
聞きなれない外国語を流暢に話していた集団は、シロウが見事な礼をしたのを最後に一言二言言葉を残して去っていく。
ここで、ようやく違和感の理由に気づいた。隣にある駐車場に、テレビでしか見たことないような高級車がズラリと並んでいたのだ。
「さて、ようこそ少年。こちらの可愛らしいお嬢さんたちは、君のガールフレンドかな?」
「が、ガールフレンドって!?」
「そう」
「と、鳶一!??」
ニヤリ、とSっ気のある笑みを浮かべて問いかけられた言葉に、まさかの鳶一が反応した。今までただ隣を歩いていたのに、突然腕を組んできたのだ。
「貴様!シドーにくっ付くな!」
「ガールフレンドなら自然な行動。何も問題はない」
「ぬう。なら私もするぞ!私も『がぁるふれんど』になるからな!」
「おやおや。モテモテのようで何よりだよ、少年」
「勘弁してくださいよ、シロウさん……」
にやにや笑いの
「あ、私たちは別枠でーす」
「この子の叔父さんから紹介されて来ましたー」
「あ、藤袴美衣っていいまーす」
なんか後ろから呆れた棒読みが聞こえてきたが、一度でいいから代わってくれないかなぁ!
「ああ、藤袴さんの姪っ子か。話は聞いているよ。
私は衛宮士郎。ここのオーナー兼店長だ。といっても、従業員は今の所私一人の予定だがね」
「知ってますよ!この前ニュースで見ました!」
「空爆に巻き込まれて最近まで何年も眠ってたんですよね!? ジェネレーションギャップってやっぱりあるんですか?」
「叔父さんが言ってたんですけど、弓でスナイパーライフル以上の狙撃ができるって本当ですか!? 『あいつだけは敵に回しちゃいけねぇ』って言ってたんですけど!」
「あ、ああ。そうだな、まずは店に入ろうか?」
「「「はい!」」」
英雄と呼べる存在が目に見えて困惑しているのを見て、思わず口を開けて呆然とする。この場合、英雄の足を引かせた三人が凄いということになるのだろうか?
「シドー! 私たちも早く行くぞ!」
「あ、ああ」
「…………」
先に店内に足を踏み入れた四人を追って十香が駆け出し、それに引っ張られるようについていく。その間も鳶一と組んでいる腕はまるで鮟鱇のように外れる気配がなかった。
「おお!これが『かふぇ』か!」
「うわぁ」
十香が声を上げるのも無理はなかった。
外観の通り木目調を基調としてシックに纏まった店内は、しかし居苦しさを感じることなく優しく迎え入れてくれている。
座席数は四人掛けテーブル席が6、カウンター席が6の計30席と少々少なめだが、逆にそれが隠れ家的雰囲気を雰囲気を醸し出していた。
「さて。皆様、本日は喫茶『Avalon』のプレオープンに足を運んでくださり、有難うございます。
皆様には、軽食とスイーツに関して正直な意見をお聞かせいただきたいと思っています。是非とも遠慮なさらずに、思ったままのことを言ってください。
……では、最初は何がいいかね?」
完璧な接客術と見事な礼を見せた後、普段通りの口調に戻ってメニューを配るシロウ。接客は接客でするようだが、親しい客には基本は
「えーと、どうする?」
「デザートは後にしたいよねー。甘いものは別腹だし」
「じゃあ、取り敢えずサンドイッチとポテトからにする? 十香ちゃん達もそれでいいかな?」
「うむ!」
「ああ、それでいいよ」
コクンと鳶一も首を縦に振って、三人娘が代表してサンドイッチ三種とポテト、全員分の飲み物を注文した。
「了解した。5分ほど待ってくれるかな?」
「「「はーい」」」
注文を受けるとそう言い残し、カウンターの奥の厨房に向かっていくシロウ。
そして、そこからが凄かった。
「…………!?」
「「「うわっ!すごっ!」」」
「おお!凄いなシドー!」
「あ、ああ。すげぇ早い……」
目にも留まらぬ、というわけではないのだが、とにかく一つ一つの動きにまるで無駄がない。瞬く間に材料を切り、揚げ物と並行してミキサーを動かし、次々と料理が形作られていく。
そんな感じで見入っているうちに注文から丁度5分が経ち、それと同時に料理が運ばれてきた。
「待たせたな。クラブハウスサンドと小エビのカツレツサンド、ポーチドエッグサンド、それとフライドポテトだ。
飲み物は、君たちが季節のジュース、少年がジンジャーエール、黒髪のお嬢さんがオレンジジュース、白髪のお嬢さんがミネラルウォーターでよかったかね?」
「あ、はい」
いかなるバランス感覚を持っているのか、盆を三つも持ってなお水一滴も零すことなく配っていく。
そして、皿が目の前に置かれた時、五人は再度目を見開いた。あれだけの速度で作っていたのに、もう見ただけで美味いとわかるほど美しく盛り付けられていたのだ。
「む?どうしたシドー? 食べないのか?」
「あ、ああ、そうだな。それじゃあ、いただきます」
「「「「い、いただきます」」」」
「うむ!いただきますなのだ!」
一皿に二つ盛り付けられているのが三種類。それを、それぞれが思い思いに手にとって口に運ぶ。
士道が選んだのは基本の基本、クラブハウスサンド。それだけに料理人の実力が大きく出るものだが、もう口に運ぶ前の匂いの段階から美味いと確信できる。
「ふ、ふにゃぁ」
「う、ウマーーイ!!」
「何これ!?エビがすっごいプリプリしてるんだけど!?」
「卵も半熟だし、なんかもう他所でサンドイッチ食べられなくなりそう!」
「…………」
真っ先に口に入れたはずの十香は顔を蕩けさせ、三人娘は絶叫し、鳶一は目を見開いたまま固まっている。その様子を見て、意を決して士道も噛り付いた。
「!!?」
噛み締めた途端、口の中に幾つもの味が爆発的に広がる。
シャキシャキとみずみずしいレタス。適度な酸味が食指を進めるトマト。それに、口にしたことがないほど強い香りと美味しさを持っているベーコン。基本にして王道の三種だ。
しかしそれらはただそれぞれが自己主張しているわけではなく、複雑に絡み合いながら一つの『美味しさ』を作り出していた。その中心となっているのは……。
「このソース、もしかしてオリジナルですか?」
「ほう、そこに気づくとは、なかなか見所があるな少年。
そう、それの決め手は私が十年かけて辿り着いたオリジナルソースだ。そのソースを十全に生かすために、ベーコンも自家製のものを使っている」
「へぇ〜」
どうりでベーコンも市販のものとは一癖も二癖も違うわけだ。まさしく、このためだけに作られた逸品なのだから。
そう思いながら、ストローに口をつけて、不意打ち気味に襲ってきた辛さに驚いた。
「!?ケホッケホッ!」
「ぬ、どうしたシドー!?」
「まさか、士道の飲み物に何か盛ったの?」
「い、いや、なんでもない。ただ驚いただけだから。
これ、もしかして飲み物も自家製ですか?」
「ああ。さすがにミネラルウォーターに関してだけは無理だったから、市販のものをブレンドしてるだけだがね」
士道に指摘されて、初めて他の人も飲み物に口をつける。その目が見開かれていくのがよく分かった。
「くっ!だめ、もうこっちのライフはゼロよ!」
「だ、だけど! 高校生にとって喫茶店はスイーツが命!」
「いくら他が良かろうとも、それがダメなら全てがダメになるのよ!」
「ふむ。ならデザートに進もうか。そこまで言うなら、是非とも意見を聞かせていただきたいのだがね」
煽るように言葉を残し、一度厨房に戻るシロウ。そして、冷蔵庫と思われるところから六枚の皿を取り出し、ティーセットとともに運んできた。
「これは500円程度で出す予定の五種のミニケーキセットだ。通常のケーキは、量的に半分ほどになって300円ほどを予定している」
「「「「「……うわぁ」」」」」
その皿の上に乗っていたのは、定番のショートケーキ、チョコケーキ、モンブランに加え、どこか和のテイストがある緑色の、おそらく抹茶ケーキ、そしてマンゴー・キウイ・オレンジ・グレープフルーツが乗ったフルーツタルトだった。
二度目になるが、もう見ただけで美味いと分かる。有名パティシエの作品だと言われても信じられるぐらいに、きれいに整っていた。
「く! み、見た目はいいみたいだけど、ケーキは味よ!」
「そ、そうよ! 味がダメならケーキもダメ!」
「ケーキがダメなら喫茶店もダメなんだから!」
怖気付いた自分を鼓舞するかのように声を上げ、意を決してフォークを口に運び、そして完全に石化した。三人娘に限らず、十香も、鳶一ですら固まってる。
その様子を自然に流しながら紅茶の準備を進めるシロウを見ながら、ショートケーキを一切れ、口に運ぶ。そして、五人と同じように固まった。
「(う、うまーーーい!?)」
ふわふわのスポンジ。甘く、適度に酸っぱいイチゴ。そして何より、それらをまとめるクリームが絶品だった。
しつこくなく、しかし適度な甘さを持ち、しっとりとした舌触りのクリームは、食べたこともない高級店に決して引けを取らないだろうと思えるレベルだった。絶対に喫茶店で出していいものじゃない。
恐る恐る、他のケーキも口にしてみる。どれも最初のものと負けず劣らずの味だった。
「こ、これもシロウさんが作ったんですよね……?」
「これでも料理人としての腕なら一流だと自負しているのでね。そこらの喫茶店レベルだと侮ってもらっては困る」
音も立てずに紅茶を配りながら、さも当然のように話す姿を見て、士道は自分の英雄像が分からなくなっていく。英雄とは全員一流の料理人なのだろうか……?
「くっ。これは完敗よ。もうどこにも勝ち目なんてないわ」
「……いいえ、まだよ!ウチらには従業員という希望があるわ!」
「そうよ!だから十香ちゃん、鳶一さん!私たちとバイトしない!?」
そういえば、この三人は敵情視察的なことを言っていた。どこか喫茶店的な場所でバイトでもしてるのかもしれない。……その敵の目の前で新戦力を勧誘するのはどうかと思うが。
「いいんですか? あんなこと言ってますけど」
「別に構うまい。なにせ、見ての通り小さい店だからな。回転率もそこまで高くはならないだろうし、受けきれなかった分は他所へ流れるのが自然な流れだよ」
「いや、それもそうなんですけど、その……」
気づいてますよね、と三人娘から何事か吹き込まれている十香を視線で指し示す。
この前の『取材』で、ルーラーというクラスはサーヴァントのステータスを見れば分かるという話を聞いている。それなら当然、元精霊の十香のことは気付いているだろう。
「ああ、そのことか。そいつも別にいいんじゃないか?
まあ、
「そう言われるとそうなのかもしれませんけど……」
でも、十香は一般常識が欠けている部分があるのだ。心配になるもの当然だろう。
「そんなに心配なら、客として様子を見に行けばいい。それなら安心できるんじゃないのか?」
「そうですね……考えときます」
ちょうどその時、
ちなみに、その間ずっと鳶一が固まり続けていたり、シロウが配った紅茶が原因でまたひと騒ぎあったのだが、それはまた別の話。
No.03
・真名 : ???/???→
・クラス : セイバー
【筋力】A+ 【魔力】A
【耐久】A+ 【幸運】C
【敏捷】C+ 【宝具】A++
……料理描写って難しい。