【凍結中】Fate/DATE・A・LIVE   作:YT-3

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Event 002 : Under the Bright Moon

 

 空中艦フラクシナスにおいて最も重要な部分は、とクルーに聞いたら、搭載されている10基の顕現(リアラ)装置(イザー)と並んで、多くの者が口を揃えてこう言うでしょうね。「そんなの艦橋に決まっている」、と。

 このフラクシナス、引いてはラタトスク機関の最重要目的は、士道をサポートして精霊を落とし、封印して幸せな生活を送ってもらうこと。そして艦橋は、各種解析結果を表示するとともに、どのようなサポートをするのかを決定する部分。当然、その重要度は極めて高い。

 でも、時計の短針もそろそろ頂点に達しようとしている()()、艦橋のモニターに映っているのは、精霊でも、ましてや核である士道ですらない。

 

「レイニーエンジェル?」

『ああ。そちらには情報がないかね?』

 

 そいつの名は、エミヤシロウ。

 平行世界の英雄の霊であり、三日前からオープンした来禅高校前の喫茶店の店長。そして、私たちの「協力者」でもある。

 

「……いや、ダメだね。それで、そのレイニーエンジェルがどうかしたのかい?」

 

 令音は手元のタブレットで軽く調べたようだけど、特に情報はなかったみたい。私も思い当たる節はないわね。

 

『ここ最近、と言っても何年か前からの話だそうだがな。

 なんでも、とある少女を見かけることができたら幸せになれる、という噂話らしい。もしくは願いが叶う、持病が良くなるとかいうパターンもあるようだ。

 欧州(ヨーロッパ)の方の怪異談に、肉体を奪われるのと引き換えに三つの願いを叶える悪魔としてレイニーデビルというものがあるが、そこから捩って名付けられたんだろう』

「へぇ。まあ、よくある都市伝説よね。まさか、そんなことでこの遅い時間に連絡してきたわけじゃないでしょうね」

『残念だが、そのまさかだよ』

「はぁ?」

 

 思わず眉が釣り上がる。ただでさえここ最近忙しいせいで自分のうちに帰れなくて(おにー)(ちゃん)成分が足りないってのに、貴重な時間を無駄にしに来たのかこの男は。

 

「くだらない話をするために連絡してきたんだったら切るわよ」

『まぁ待て。ここからが本題だ。

 おそらく、そのレイニーエンジェルは精霊、もしくは英霊だろう』

「は? はぁぁああ!?」

 

 ガタン、と椅子を倒して立ち上がる。驚愕に顔を染めているのは、自分だけではなく周囲のクルーも一緒だった。

 

「どういうことよ!?」

『これから話すのは、数組の会話の中から共通した、おそらくヒレではなく本体であろう部分だけを抜き取ったものだというのを理解してくれ』

 

 前置きをして、いいかね、とこの男はこちらを見てきた。いいから早く話しなさいよ。

 

『まず一つ。その少女は中学生ぐらいの年頃に見えるそうだが、数年前から見た目の変化はないらしい。服装も含めて、だ』

「なるほど、確かにそれはおかしいわね。

 普通私ぐらいの女の子だったら成長期と思春期の真っ只中だもの。見た目の変化がないなんておかしいし、制服でもない限りいつも同じ服ってのもありえないわね」

「司令は成長せずにそのままのお姿でいてください!特にその思考の芸術のような胸だけで——」

「うぉりゃあ!」

「もふぅん!?」

 

 空気の読めない神無月(ロリコン)は遠くに吹っ飛ばしておく。たいへん気にしていることを言われたけど、霊力の逆流はしてないから、イイワネ?

 

『あー、話を戻すぞ。

 二つ目の特徴は、雨降り(レイニー)の名の通り、見かける時は必ず雨が降っているそうだ。例え天気予報が降水確率0パーセントでも、そうなると決まっているかのように必ず雨が降るらしい。

 そんなことが出来るのは、私には宝具かスキルだけだと思えるがね』

「ふむ、それは大きな情報だね。今までの精霊が出現したタイミングと天気の変化を合わせると……該当は一人、ハーミットかな」

「あー。なるほど、納得だわ。ハーミットは何度か静粛現界してたのね」

 

 なるほどなるほど。確かにエンジェルという表現にぴったりだわ。そりゃ幸運の天使扱いされるわよね。

 

『すまない。【ハーミット】とはどのような精霊なのか教えてくれないか?』

「一言で言えば、戦わないわね。もちろん棒立ちで突っ立ってるわけじゃなくて、とにかくすばしっこく攻撃を避けたり、他にも消失(ロスト)するまで大きな建物の中に隠れたりもよくするのよ」

『ふむ、戦う力はあるが何らかの事情で戦わないのか、それともそもそも戦えないのか。どちらにせよ、ASTとやらからしたら絶好の的なわけだな』

「そういうことね」

 

 もっとも、それでも(たお)されないあたりは、さすがに精霊ということなのかしら。

 

「そういえば、あなたがイギリスで最初に確認されたときにも現界してたって話だったけど……」

『ああ、ハーミットとはライダーのことだったか。なるほど、確かに防戦一方で戦っている様子はなかったな』

「ライダーって……確か天使(ほうぐ)が多いクラスだったわよね?」

 

 他にも、乗り物を乗りこなすとかなんとか……。そういえば、ハーミットもよくウサギらしきものを呼び出して背中に乗ってたりするわね。

 

『そうだ。もしかしたらすでに世界を気に入っていて、あまりに強すぎるそれで壊してしまわないように思っているのかもな』

「かもね。貴重な情報ありがと」

『なに、(マス)(ター)からできるだけ協力するように言われている。私は命令に従っているだけだよ。

 それでは、また何か情報が入ったら連絡する。それと、夜更かしは女性の敵だ。早めに就寝することをお勧めするよ』

「うるさ……って切ったわねあの男」

 

 ホント、あの嫌味ったらしい性格がなければ最高の協力者なのに。

 

「まあ、彼なりに琴里を心配しての発言だろう。だいぶ遠回しだがね」

「その心配の理由も、きっと『士道の妹だから』だとかに決まってるわよ。あの男の判断の中心は士道なんだから」

 

 その筋の人が聞けば興奮間違いなしの話だが、これが現実だというのだから面倒くさい。もっとも、あちらから士道に対して一方的な感じだし、その内容も従者としてのそれだけど。

 

「でも、三日よ三日。結果が出るのが予想以上に早いわ。もっと時間がかかるものと思ってたけど」

「それが普通だろうがね。まあ、本人の腕前のおかげってことかな」

「……間違いないわね。あの繁盛ぶりだもの」

 

 半月前、あの『交渉』の席で喫茶店を開きたいと言ったときは耳を疑ったけど、あれだけの腕を持ってたら腐らせるのも勿体無いわよね。士道も尊敬の眼差しをしてたし、正直に言って士道のよりも美味しく感じたわ。

 それに、あのとき本人が言ってた通り、喫茶店やバーには情報が集まるもの。精霊が静粛現界を行えると分かった以上、こういう情報も必要になってくるかもしれないし、使えるものは使うべきよね。

 

「で、十香の方はどうなってるの?」

「だいぶ安定はしてきているが、やはり学校と比べるとね……」

「そう。いつまでもホテル暮らしにしておくのも問題があるし、そろそろ次のステップに進むべきかしらね」

「では……」

「ええ。私の方も今日中になんとかキリがつきそうだし、明日から作戦を実行に移すわよ」

「「「「「「応っ!!」」」」」」

 

 ……どこの戦闘集団の掛け声?

 

 ◇

 

 同日、同時刻。

 自衛隊天宮駐屯基地の自室で、日下部(くさかべ)(りょ)(うこ)は、頰をヒクヒクと引きつらせていた。

 

「これは……一体どういうことかしら?」

 

 原因は、手元にある報告書。精霊・パラディンと思われる人物、衛宮士郎の監視の記録。

 

「最初はいいのよ……最初は……」

 

 始めは普通に監視して、特におかしな行動はないと書かれている。そこは何も問題はなく、むしろ精霊が人間に混じって生活しているという頭を抱えたくなるような可能性が低くなって嬉しいばかりだ。

 しかし、店内に入ったころからだんだんと話が逸れていき……

 

『一度は食べるべき。食に対する考え方が変わる逸品』

『今まで食べたことのないようなフワフワのケーキ! だけどしっとりとクリームが口当たりの良さを出していて……』

『ただのハンバーガーと侮るなかれ。じっくりと熟成された肉から滲み出てくる旨味が強烈なインパクトを与え、しかし絶妙なバランスでソースからほのかに感じる酸味がクドさを上手く消し、むしろ次々と箸が進むように考えられており……』

『レパートリーの万華鏡や!』

 

「食レポかっ!!」

 

 バンッ、と報告書を机に叩きつける。

 どうやら、もう隊員たちの胃袋は掴まれているようだった。しかも、アレだけ精霊を嫌っている折紙ですら意識を奪われている。

 これを狙ってやってるんだとしたら、今までにないタイプの最悪の敵だろう。

 

「ま、まさか武力で捩伏せるんじゃなくて、女子力で篭絡してくるなんて……。

 なんで本当に、そんな人間が今の今まで埋もれてたのよ!?」

 

 しかも、まだ三日だ。たった三日なのだ。

 これからもっと被害者(しんじゃ)が出来るとなると、最悪内部分裂の可能性すら出てくる。

 

「そ、そうなったら最悪だわ……ホントに精霊じゃないことを祈るばかりね。

 ……はぁ。プリンセスがやった、静粛現界とでもいうべき空間震を伴わない現界のせいで他の精霊も人間社会に溶け込んでる可能性も出てきたし……そのプリンセスに似ている女の子と折紙の彼氏(?)の関係も調べなくちゃいけないし……。

 しばらく寝れそうにないわよね……はぁ」

 

 なんかもう、一周回って落ち着いてきた。そうだ、今はできることからやっていくしかないのだ。

 

「……もうしばらく監視を続けて動きがないようだったら、『衛宮士郎』と『夜刀神十香』については最悪放置でいいわね。特に危険な行動をしてるわけでもないし、消失(ロスト)さえしないなら空間震が起きることもないもの。折紙には悪いけど……恋の戦いのサポートまではASTの仕事じゃないから、自力で掴み取ってもらいましょう。

 となると、第一優先でするべきは『静粛現界している精霊』がいないかを調べることね。特にナイトメアは最優先で」

 

 やることが決まれば行動あるのみだ。

 まずは、関係各所に配る資料を作るところから始めるとしますか!

 

 ◇

 

 ——夢を見ている。

 

 つい数日前にも同じことを思った気がするが、あの時とは違い、今回は災害の真っただ中ではなかった。

 

 視界に映るは、満天に灯る星空。

 その中心に、白銀に輝く満月が、妖しいほどにその存在を示していた。

 視界の下の方には広めの庭先。少し左に意識すれば、土蔵らしき建物が建っている。

 

 先のノイズに(まみ)れた悪夢とは違い、その全てがこの世のものではないほど美しく色づいており、しかし、逆に美しすぎて現実感がなかった。

 まるで、とても大切な記憶をいつまでも残しておいたかのようで。美しいのに物悲しい、そんな感情が写し出されているかのようだった。

 

『子供の頃、僕は正義の味方にあこがれてた』

 

 ふと。左隣からそんな声が聞こえた。

 それにつられてか、視線もそちらに動かされる。

 

「この人……あの時の」

 

 服装はボロボロのロングコートから着流しに変わっているが、間違いない。見上げる視界に映し出されたのは、あの時、シロウさんを助けたはずの人物だった。

 だが、たった一目で士道にも分かるほど、その顔には濃い死相が張り付いている。もう余命(いく)(ばく)もない、いや、もしかしたらもう直ぐに事切れるかもしれないかもしれなかった。

 

『何だよそれ。憧れてたって、あきらめたのかよ』

『うん。残念ながらね。ヒーローは期間限定で、大人になると名乗るのが難しくなるんだ。そんなこともっと早くに気付けばよかった』

 

 だから、諦めたのだと。男は、自嘲するように笑う。

 正義の味方(ヒーロー)は期間限定。その言葉をつい最近聞いたような気がして、思い当たった。あの『交渉』の時、シロウさん本人が言っていたのだ。

 

『そっか、それじゃ、じょうがないな』

『そうだね。本当にしょうがない。本当にいい月だ……』

 

 男はそう言って空を見上げ、身体も闇に浮かぶ満月を見上げなおす。

 どこまでも美しく、常に世界に寄り添い、世界の誰もが憧れて。だけど、どこまでも遠く、どこまでも儚い()()

 しかしそれは、どれだけ手を伸ばしても届かず、たとえ自らを傷つけることになろうとも触れることは叶わない。

 だから、諦めるしかなかったのだと。そう、男は言っている。それは、シロウさんも同じ考えだと、二週間前に聞いたはずだ。

 

『うん。しょうがないから俺が代わりになってやるよ』

「……え?」

 

 だからこそ、口から零れた言葉には耳を疑った。そして、そこでやっと矛盾に気付く。

 シロウさんは、『正義の味方になることを志した』から英雄と呼ばれる存在にまでなった。つまりそれは、死ぬ直前、いや、死んだ後になって自分の人生を振り返り、そこで初めて考えが変わったのだということ。その身が果てるまでは、その夢を追い続けていたということだ。

 そして、これが、これこそが正義の味方に憧れた英雄、エミヤシロウの原点。助けてくれた一人の男に憧れ、その夢を引き継いだ少年が生まれた瞬間。

 彼は、あの火事で死した人を助けられなかったことを悔やんで正義の味方になろうとしたわけではなかったのだ。自らを助けてくれた男に憧れ、その理想を引き継いだ。ただそれだけのことだったのだ。

 

『爺さんはオトナだからもう無理だけど俺なら大丈夫だろ。まかせろって。爺さんの夢は——』

『そうか・・ああ・・安心した』

 

 そう言って、男は静かに目を閉じた。そして、もう二度と目を開けることはなかったのだろう。

 視界が滲み、キラキラと世界が輝く。そのまま輝きは強くなっていき、完全に白に染まったとき、士道の意識は途切れた。

 

 ◇

 

 ポツリポツリと明かりが消え、日本が寝静まった頃。時差が9時間あるイギリス・ロンドンでは、まだ夕方でしかない。

 そんな斜陽に照らされた街の一角。赤く染まるDEMインダストリーのビルには、たった二人しか立ち入りを認められていない地下室がある。

 

「……上手くいきませんか」

 

 部屋に入ってきたその片割れ、エレン・M・メイザースは、自らの上司であり、もう一人であるアイザック・レイ・ペラム・ウェスコットに声を掛けた。

 

「ああ、エレンか。そうだね……他のメンバーは出来たのに、"彼"だけが上手くいかないんだ。どうしてだろうね?」

「理由は分かりませんが、出来ないなら出来ないで諦めて次にいくほうが建設的かと」

「うーん……まあ、それもそうか。わざわざコーンウォールまで足を運んだのも無駄だったってことだ」

 

 よし、と諦めがついたのか、名残惜しげに見つめていた視線を上げる。そこにはもう、未練の色はなかった。

 

「それで、何か報告があったんじゃないのか?」

「はい。パラディンと思しき人物についてはこの前の報告書から変化はないようですが、もう一人、その近くにプリンセスと良く似た人物が現れて、現在日本のASTが監視をしている、と」

「へぇ。じゃあ、プリンセスは()退()してくれたんだ。さすがはエリオット、ってことかな?」

「……認めたくはないですが、そのようです」

 

 悪友を褒めるかのようなアイザックと、苦虫を噛み潰したような表情のエレン。対照的な二人だが、しかしそれは彼らの言う『エリオット』なる人物に関してだけのことだった。

 

「まあ、いいじゃないか。彼らには彼らなりの理由があって行動してるんだ。それは認めてやらなくちゃいけない。

 でも、こちらはこちらで理由がある。だから、上手く向こうを利用して、利益だけを横取りしてやればいい」

「……分かりました」

 

 納得はいってない様子だが、いつまでも拘っていても先に進まないと考えたのだろう。渋々という雰囲気を前面に出しながらも引き退がった。

 

「それにしても……パラディン、ね。本当に"彼"ではないのかな?」

「はい。最初は私もそう思ってコードネームをつけましたが、それにしては真那との戦い方に納得がいきません。ですが……」

「"彼"の剣は持っている、と。ふむ、どういうことだろうね?」

「……いえ、そこまでは」

 

 冗談だよ冗談、とヒラヒラと手を振って笑うアイザック。

 そして、その目線が再び部屋の中央に鎮座された"モノ"に向かう。

 

「いっそのこと、コレを渡せば分かるんじゃないのかな」

「ですが、もし"彼"だった場合……」

「その時はその時さ。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだから」

「……あなたがそれでいいのなら」

「じゃあ決定だ。今度会ったら渡すことにしよう」

 

 「と言っても、いつになるのかはわからないけどね」と笑いながら、アイザックは『それ』を拾い上げる。

 

「ああ。それと、そろそろ『ストック』が切れそうだから、補充しておかないと」

「分かりました。指示しておきます」

「頼んだよ」

 

 まるで買い置きが切れるかのような気軽さで話しながら、二人は部屋を出て行った。

 扉が閉ざされ、闇に包まれた部屋の中央に、一つだけ薄ぼんやりと僅かな光を放つものがある。

 

 ——血で描かれた、紅い魔法陣が。

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