年越し投稿一話目、2015年最後の更新です。一年もはやいものですね。
「霊波反応を確認! 空間震、来ます!」
フラクシナス、艦橋。
空間震警報が鳴り響くと同時に令音と共に移動してきた士道が、ここに入った直後に聞いた声がそれだった。
「来たわね二人とも。ジャストタイミングよ、精霊が出現するわ」
「パターンは?」
「ハーミットね。言われた通りに、天候の急変も確認してるわ」
そんな妹と副担任の会話を聞きながらも、士道の視線は正面メインモニターに釘付けにされていた。
水面に石を投げ入れたかのように揺らぐ空間。普段は人で賑わうだろう大通りにあるそれは、人気のない中ただ異質で莫大な力がかかっていることを示しているようだった。
そして、段々と波紋が大きく、短くなり、その中央に白い点が生まれたと思った瞬間、モニターが光に染まった。
「ッ!? な、なんなんだよ今の!?」
「ああ、士道は初めて見るんだっけ? 今のが空間震よ」
「い、今のがか!?」
光が生まれたのは一瞬だったのかホワイトアウトはすぐに治まり、その被害が明らかになる。
抉られたように吹き飛んだ地面。さっきまであったはずの店や電柱が円状に消し飛び、その爆風で周囲一帯も、大型のハリケーンでも受けたかのようになぎ倒されている。超強力な爆弾が爆発したらこんな感じになるだろうか。
まるで世界に穴が空いた……とは言えない。シロウさんの夢で実際に「それ」を見ているのだから。しかし、街の一部が丸くぽっかりと消えた姿は、そう形容せざるをえないものだった。
「粉塵が酷いわね。特に中心部」
「あそこは比較的初期に復興されたところだからね。舗装された道のすぐ下が土だったのだろう」
『あー。こちらルーラー。聞こえるか?』
スピーカーから聞こえてきたその声に、士道は聞き覚えがあった。というか、今朝も聞いた声だった。
「シロウさん?」
『
「失礼ね。フラクシナスの防諜対策は万全よ」
『一般論だよ。それに、万が一の事態を想像しておくに越したことはない』
クルーが何やら操作をすると、メインモニターの右下にワイプが出てきた。そこには、赤い外套を着たシロウさんがビルの屋上にいる姿が映っている。普段とは違い、髪をオールバック風に上げていた。
「それで。何かあったのかい?」
『ああ。まずは確認だ。今の爆発は、空間震で間違いがないな?』
「ええ。何か分かったの?」
『私の見間違いでなければだか……あれは抑止力だろう』
抑止力?
『簡単に言えば、世界の防衛システムのようなものだな。
世界を滅ぼしてでも人類を存続させようとするアラヤ側と、人類を滅ぼしてでも地球を存続させようとするガイア側に一応分かれているが、大抵の危機は共通しているから100%対立しているわけではない』
「つまり、精霊は地球、もしくは人類を滅ぼしかねない存在だと認識されていて、世界が彼女たちを排除しようとして爆発が起きている。そう考えていいのかな?」
『そういうことだろうな。どうやら失敗しているようだが。
私も抑止力とは縁深いのでね、感覚的に間違いないだろう』
なんだそれは。それはつまり、十香たちは世界からも『いらないもの』扱いされているということか?
「ふ、ふざけんなっ!!十香が何をしたっていうんだ!!
あんなに優しい女の子が世界を滅ぼすって、本気でそう思ってんのかよ!!」
『
世界を滅ぼしかけているタイミングにならないと動こうともしないし、偶々巻き込まれただけの一般人も、それを見たという事実を消すために一人残らず根絶やしにするような、そんな馬鹿げたものなのだ。偶然にも世界を滅ぼしかねない力を持っていたら、性格だとかは無関係に排除しにかかるだろう』
「そ、そんな……」
確かに、そう言われるとそうかもしれない。
目の前に銃をこちらに向けて立っている人がいたら、その人の人柄や何やらを知る前に抵抗するのが普通だろう。例え、本人は偶々持っていただけで引き金を引くつもりなど毛頭もないとしてもだ。
やっていることはそれと一緒。自分が傷つけられるかもしれないから、先んじて抵抗しているだけ。ただ、その規模が桁違いなだけだ。
それを否定することは、士道にはできない。もし仮に、事故みたいなもので世界が終わるスイッチが押されたとして、その後どうなるかなんて考えるまでもない。つまり、その「抑止力」のやっていることは正しいのだ。
「なら、やることは簡単じゃない」
「……え?」
しかし
「確かにやってることは正しいのかもしれないけど、極論すればそれはASTと一緒。ただ怖いから、ただ危なそうだから排除しようとしてるだけ。
でも、私たちは別の道を行く。会話して、向こうにこっちを好きになってもらって、その上で銃を降ろしてもらう。面倒くさいし不確かかもしれないけど、だからといって『生贄』になんてさせやしない!」
堂々と、その少女は胸を張って宣言する。それに同調するようにクルーも頷いている。
その艦長然とした姿は、長年共に過ごしてきた兄から見ると、成長を感じられて。嬉しいけど、少し悲しかった。
「だから士道。私達が、いいえ、あなたがその力を奪ってあげるのよ。
そうすれば、これ以上精霊が否定されることはないでしょ?
それは、あなたにしかできないことなの」
『……雨が降ってきた、煙が晴れるぞ』
まるで琴里の言葉を遮るように響いたその言葉の通り、黒色の天幕から、ポツリポツリと雫が垂れる。
見る見る間に強くなっていったそれは、宙を舞う粒子をからめとっていき、舞い上がっていた土煙が薄くなっていった。
「……え?」
そして、視界に映った光景に、思わず声を
——そこに居たのは、妹と同じぐらいに見える少女だった。
——不思議な材質の青いインナーを身に纏い、緑色の、ウサギのような耳のついたフードを被っている。
——そして、その瞳と髪も同じく綺麗な青色をしていた。おおよそ、自然には発生し得ない色だろう。
——他に目を引くのは、左手に嵌められたコミカルなウサギの
そう。その少女に、士道は見覚えがあったのだ。
「あの子……昨日の……」
それも、昨日会ったばかりだ。ましてや、雨の中「ずるべったーん」と目の前で転んだという印象的にもほどがある出会いだっのだ、たった一日で忘れるわけがない。
「士道? もしかして知り合いなの!?」
「あ、ああ。昨日、帰り道で知り合って。まさか精霊だったなんて全く思わなかったけど……」
「そう言えば昨日の夕方も、予報にない雨が降っていたね。
静粛現界してるかもしれないとは思っていたけど、まさかシンと会っているとは思わなかったよ」
『……何という女運。いや、ここは女難の相と言うべきか?
なるほど、君のもとに私が召喚されたわけがこれか』
なんか周囲の人からも画面の向こうからも呆れた視線が向かってきている気がするが、そう言われたって出会ってしまったのだから仕方がないだろう。文句は出会いの神様に言え。
『と。話してる時間はなくなったな。そら、正義の味方の登場だ』
「え? うわっ!?」
シロウさんが忠告すると同時、スピーカーから激しい爆発音が鳴り響く。
慌てて画面を見ると、先程収まった土煙が再び広がっている。まるで、ミサイルでも打ち込まれたかのように。
そしてその周囲に、機械の鎧に身を包んだ集団が、少女を取り囲むかのように宙に浮いていた。
「AST——っ!」
『ふむ。やはりか』
何事か納得した様子のシロウさんをよそに、ASTはあの女の子に向かって攻撃を開始する。小型ミサイル、マシンガン、その他諸々の雨あられだ。
「あいつらっ!あんな小さな女の子に!」
「それこそ、さっきの抑止力とやらと一緒で、ASTにとっては見た目なんか関係ないんでしょ。
精霊であるか否か、ただそれだけが判断基準なのよ」
しかしどうしたことか、隙間などまるでないように思える弾幕の中を、少女は飛び回るように避けていく。まるで、「そうすれば避けられる」と
……だが、少女はかつての十香のように反撃をしなかった。ただ、避けて避けて、避けてるだけ。そのこともなげにやっている感じを見れば、反撃ができないわけでもないだろうに。
『……なるほど、これは厄介だな』
そんなことを思っていると、スピーカーから聞きなれた男の声が聞こえてくる。そうだ、あの人は下にいて、しかも助けられるだけの戦闘能力があるんだった!
「シロウさん! 見てないで助けてあげてください!」
『いや、その必要はあるまい。彼女にとってはむしろ、ここで割って入ったほうが邪魔になる』
鎧袖一触され一瞬頭が沸騰しかけるが、すぐに付け加えられた説明に、冷水をかけられた。シロウさんが行っても邪魔になる……なぜ?
『英霊だろうと何だろうと、人間の上位種である以上感覚器官は人間に準じる。
それなのに、あの少女は背後からの攻撃を目を振ることなく察知し、回避している。音速を超えるであろうライフル弾すら避けていることから、耳に頼ったものでもない。
ここから導き出される可能性は三つ。あの精霊は直感スキルか矢避けの加護スキル、もしくはその両方を持つ。それもかなりの高ランクのものをだ』
「矢避けの加護?」
「直感」はその名の通り第六感的なアレだろうけど……もう一つの方がわからない。見れば、琴里たちも首を捻っている。
『矢避けの加護とは、投擲物や射撃物を自動で回避、もしくは迎撃するスキルだ。
私の記憶が正しければクーフーリンがBランクのものを持っていたはずだが、あれは視界内に捉えたものに作用するものだったはず。それを考えると、あの少女のそれは少なくともAランク、場合によってはプラス補正も乗るか?』
なんだそのチート。じゃあ、あの子は遠距離攻撃では倒せないってことか。
『それに、私が把握している敏捷ステータスはA+、その他も軒並みBを越している。
平均的なステータスで音速を超えることが当たり前なサーヴァントにとって、A+ともなればもはや速度に逸話を持つような大英雄クラスだ。一瞬でも隙が出来れば、今すぐにでも逃げ出すだろう』
一方的にやられている姿を見て焦っていたが、実は結構余裕がありそうだと聞いて安心する。それでも、無抵抗の相手を痛めつけるASTには頭にきているが。
「確かに、こっちで把握している精霊の情報の中でも、ハーミットはかなりすばしっこいわね。ベルセルクを除いて、だけど。
つまり、あなたが下手に突っ込むと逆に足を引っ張るから、このまま待機していたほうがいいってことでオーケー?」
『はっきりと言ってくれるな、君は。まぁ、そういうことになる。
ついでに言うと、ここからならまだ私の射程圏内だということもある。
アーチャーの適性は伊達ではない。
そう言ってシロウさんは虚空から弓と捻れた矢のようなものを取り出すと、矢を番えて引き絞る。
「「「…………っ!」」」
それを見ていた全員が、思わず息を呑む。
全く弓に詳しくなくとも、その姿は引き込まれるように美しいことがわかった。
シンと静まり返った艦橋の中で、最も早く現実に戻ってこれたのは琴里だった。司令官としての責任からか、頭を振って気持ちを切り替えたかと思うと、確認するように問いかけた。
「射抜いて、って。そこからだと3kmはあるわよ」
『問題ない。この程度は生前でもして見せた。英霊となった今なら、少なくとも5kmぐらいまでなら外すことはないさ』
「……なんか、もう、規格外ね」
はぁ、と吐いた琴里の溜息が、この場にいる全員の総意だった。英雄とは、ギネス記録を鼻歌交じりに超え、物理法則すらも捩じ曲げるらしい。
『これでも、英霊の中ではまともな方だよ。Aランク以上の攻撃で12回、別々の方法で殺さないといけないような大英雄もいるぐらいだしな』
「誰よそれ」
『ギリシャ神話の大英雄、ヘラクレスだ。
生前に参加した聖杯戦争でバーサーカーのサーヴァントとして呼ばれた彼と戦ったことがあったが、いやはや、最強とはあのような存在のことを言うのだと痛感したよ』
……そこまで神話に詳しくない士道でも知っているヘラクレスと生身で戦って、それでも生き残るシロウさんもシロウさんだと思うのだが。
そんな感じで半ば呆れが入っていたからか、次にシロウさんに聞かれた質問を、理解するのに時間がかかった。
『それよりも。
君は本当に、精霊を助けたいのかね?』
こちらに目を向けず戦場を見据えながら、しかし冗談を言っているわけではない雰囲気でシロウさんは問いかけてきた。
「それは……」
『今ならまだ引き返せる。あのセイバーを封印したのは巻き込まれたからだと考えれば、君が進んで精霊の前などという危険地帯に足を踏み入れる理由もないのだから。
朝にも言った通り、放っておけば
そうだというのに、わざわざ君の命を賭ける必要なんて、欠片もない』
「ちょっと。それじゃあ意味がないじゃない。私たちは精霊に幸せになってもらうためにいるんだから、精霊を隣界に置いてきぼりじゃダメでしょうが」
『それは君たちの都合だ。私は
「なっ!」
素気無くあしらわれて、琴里からブチッという音が聞こえた気がした。しかし、今の自分にはそれを気にしているだけの思考は残っていなかった。
このタイミングでシロウさんが聞いてきたということは、考えなくてはならないことなんだろう。この人は普段は皮肉めいているけど、こういう時にいたずらに場をかき乱すようなことはしない人だ、ということはすでに理解していた。根は真面目な人なのだ、たった一つの約束を守り通したぐらいに。
『はっきり言う。周りに流されて誰かを助けるなど、ただの迷惑行為だ。
そんなもの、後から見たらかえって誰かを傷つけている方が多い。誰かを助けようと思うのなら、自分の内から溢れた想いで動かなくてはならないのだ。
君は今、分岐点に立っている。
これからもただ流されるがまま誰かを助けて、その結果逆に助けるべき者たちを傷つけていくのか。
それとも、自分の自己満足だと理解して、それでもなお誰かを助けたいと思えるのか。
君は、一体どちらかね?』
これは、ある一人の人間が、その生涯をかけて辿り着いた結論なのだ。それを否定する言葉など、たかが
ならば、考えるしかない。なぜ自分は
考える。今自分がどうしたいのか。
考える。周りなど気にせず、それこそラタトスク機関や精霊の意思などすら無視して。
考えて、考えて、考えて。
一瞬とも永遠とも思える思考の果てに浮かんだのは、先月十香と出会った時の絶望の淵に立たされている顔と、昨日出会った少女が見せた怯えた表情だった。
「…………俺は、なにも精霊全員を助けたいとは思いません。
俺が『完成』するために呼び出してる、っていう負い目はあっても、それで何万人も人を殺したことを許せるわけじゃない。
「「『…………』」」
「だけど。まずは話してみたい。話して、本当はいい子で、偶々
それは、聖杯だとか、精霊だとかは関係なくて。今まで否定され続けてきた彼女たちに手を差し伸べてるのが、一人の男として、そして一人の人間として、するべきことだと思うから。俺には、幸運にもその資格があるんだから。
それが、俺が精霊の前に立つ理由です。だからお願いです、まず精霊と話すために、俺に手を貸してください!」
決意を持って、宣言する。
流されるだけじゃない。これからは自分から彼女たちに関わっていく。
自分で決めて、自分で責任を持って。自分の足で、その前に進み出る。
それで、会話して、心を通わせて。絆を紡いで。その結果、助けたいと思えたなら。その時は助けよう。
全身全霊をもって、ASTも、ラタトスク機関も、
そう、固く心に誓った。
『……ふ。いい答えだ。決して自己を軽く見ず、それでいて救われない者を救うことを願って行動に移す。なら、この私が手伝わない理由はない。
いいだろう。サーヴァント、ルーラー。これより我が剣は君と共にあり、君の運命は私と共にある。
ここに、契約は完了した』
「そうね。全く、お人好しの兄を持つと苦労するわ。
でも、私たちは
琴里に続き、艦橋のクルーも頷いてくれる。それが、とても嬉しかった。
自分のわがままに付き合ってくれる。こんなこと、普通に過ごしていたらそうそう経験できないだろう。これだけ人に恵まれているというのは、もう幸運としか言いようがない。
『……さて、いい雰囲気になったところ悪いのだが、状況が動いたぞ。ライダーが包囲網を抜けて、大型デパートに向かった』
「そう。なら総員作戦体制! 士道を全力でサポートするわよ!
さぁ、私たちの
「「「「応!!!」」」」
今年の印象は、やっぱりハーメルン様で投稿を始めたことでしょうか。飽きっぽい私がここまで続けているのは、結構珍しいことです。
それもひとえに、応援してくださった皆様のおかげです。本当にありがとうございましたm(_ _)m