俺のホグワーツ日記   作:10E-18

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▼7月31日 追記

なんてこった。





8月

 

 

▼1日

 

いろいろ信じられなさすぎて、未だに頭が追いつかねえ。

だから今、いろんなことを思いのままに書き殴ってる。

 

……昨晩の真夜中に突然やって来た、鉤鼻男。

奴はいきなり見えない力で俺を宙吊りにした挙げ句、自分はホグワーツから入学案内のために派遣されたスネイプ教授だと名乗りあげ、アホ犬を顎で使って勝手に母ちゃんを起こさせた。

で、宙吊りのまま馬鹿みたいにぽかんとしてる俺に向かって、手紙を読んどらんのかと苛立たしげに訊いてきたんだ。

 

……手紙? 手紙って、何百通も殺到したあの真っさらな白紙の手紙?

 

鉤鼻男スネイプからは、ストーカーって雰囲気も、逆さまでバット抱えたまま実はめでたく11歳になった俺を驚かすためにジョナサンたちが雇った役者って感じもしなかった。

呆然としてる俺を見て不機嫌に顔をしかめると、奴は指をぱちんと鳴らして、例の手紙を……なんていうか、そう、糸で引くように「呼び寄せた」。ひとりでに宙を飛ばせてきた!

それからボロの鞄の中から1枚を取り出し、じっと調べてから言うには、全部白紙であることは奴にとっても不本意な、何かの手違いだったらしい。何やら俺にはわからんが、奴さん恐い顔してた。

そして恐ろしいことに、スネイプが「化けの皮剥がれよ」だのなんだの妙な言葉を唱えたとたん、白紙が白紙じゃなくなった。

ホグワーツ魔法魔術学校(!?)にようこそ、なんていうキミョーキテレツな内容がぼうっと浮かび上がってた……

 

そしてここからが、これまで以上に奇天烈過ぎる信じられない出来事だ。

奴さんは母ちゃんの案内でソファにどっかと腰を下ろすと、「突然だが、貴様のそこへの入学はほぼ強制的に決まっている」「あとは貴様が首を縦に振りさえすれば、話はすべて終わりなのだ」と、俺と母ちゃんに告げたんだ。

うまく働かない頭でどうにかピースを繋ぎあわせてみるに……俺はどうやら、魔法学校の教授様にスカウトされてしまったらしい。

 

……いやいやいや!? はああああ!??

俺が実は魔法使いだ?

魔法学校で呪文を習うだ?

わけがわからん、さっぱりわけがわからん!!!

 

……だけど、今でも何より信じがたいのは、母ちゃんが実は訳知りで、しかも怪しすぎるあの鉤鼻男と知り合い同士だったってことだ。

「あんたホグワーツからの手紙来てたのに黙ってたの!?」とか俺を掴んで言い出すし。蝙蝠みたいな鉤鼻男と下の名前で呼び合ってるし。

奴の話すマホウカイの話についてなんら大きなリアクションを起こさない。あれじゃあまるで以前から知っていたような雰囲気じゃないか。

担がれてんのかと思ったのに、母ちゃんまでそっちに回ったら、本当の話をされてるのかと考えざるを得ないじゃないか!

 

……母ちゃんよ、あんたいったい何者なんだ?

11年間一緒に暮らしてきたけれど、初めて母ちゃんがわからなくなった。

 

母ちゃんはこんな事態をなんと予期していたようで、マホウガッコウの差し向けたスネイプの訪問にも、俺が隠してた手紙の内容にも、さほど驚いちゃいないらしい。

ただ俺をじっと見て、母ちゃんは強制はしない、最終的にはあんたの好きなようにすればいいよ、とだけ言った。そんなのよか聞きたい言葉は星の数ほどあるってのに。

 

……いや、いやさ、だけどさ。

この荒唐無稽な話が例えば嘘じゃないとして、そんなカルトっぽすぎる学校にだれが7年も寄宿するかよ。

こっちはもうずっと前に、地元の中学にジョナサンと通うと決めてたんだぜ。それに入学届だって、母ちゃんが出してくれたじゃないか。

そんな胡散臭い学校に行ったら、俺の将来はどうなるんだろう? 就職は? 履歴書に「魔法学校卒」なんて書けるか、書けないよな? そもそも学費はどれだけかかんだ? 妹のぶんの金はいったいいくら残るんだ?

そしたら超能力で俺の心を読んだらしいスネイプが、「ガキのくせに生意気なことを心配するな」と抜かしやがった。

黙れ上流市民、良い生地のワーブ着やがって。

 

……魔法が本当に存在するらしいことは、目の前のスネイプが散々見せつけてくれたから、まあ受け止めることにしよう。

だけど、だけどさ。

実は俺もまた魔力持ちだとか、小さい頃に発現していただとか、その制御を教わるために専門学校に行くだとか。

いきなり現れた奴にこれまたいきなり畳み掛けるように言われても、そんな話到底信じられるわけがない。

しかしスネイプは、そして母ちゃんまでも、きっぱり断言してみせた。俺が、実は小さい頃から魔力をちゃんと発現してたって。

こっちはまったく、なんにも覚えてないってのに。

 

……「実は秘められし力がある」なんて話、空想するぶんには凄く楽しいよな。ジョナサンやダニーやカイルとRPGで散々やったし。

だけど現実となると、全然楽しくなんてなかった。

本当にそうなのだといざ言われると、凄くビビる。俺の体が突然、知らないだれかのものに思えてくる。

 

しかも、その魔力とやらを制御するすべを学ばない限り母ちゃんや妹を傷つけかねない、なんて話を、本物の魔法使いだという男から真剣に言われたのなら。

 

本当に豆腐メンタルだ俺。

自分に魔力があるなんてハナから思ってなかったくせに、別に実はゾンビだったとか言われたわけじゃないってのに、正直、それを聞いたとたん吐きそうな気分になった。

嘘だ、嘘だと否定してた話が、突然ずっしりと嫌な重みを持った気がして、怖くなった。

 

いっぱいいっぱいな俺を見て、すぐに決断させるのは酷だと考えてくれたんだろう、スネイプは。めちゃくちゃ怪しい奴だけど。

何故か白紙になっていた手紙のせいで、事前にいろいろ考えたり整理したりする余裕がなかった。ならば仕方がない。

そういうことで、他の訪問の予定上、8月の5日まで答えを待ってやると言ってくれた。

 

俺たち子どもに魔法を教える「ホグワーツ」とやらに入学するか否かの答え。

……俺は正直、そんなこと以前の問題で頭がパンクしそうだった。

 

今朝になってもまだ思う。

やっぱこれ、悪い夢なんじゃなかろうか。

 

 

 

▼2日

 

まずい。

朝っぱらから、ジョナサンに電話で散々怒鳴られた。

「この2日間どこに行っていたんだ!」「連絡ひとつ寄越さずに!」「死ぬほど心配したんだぞ!」って。やっぱり、あいつはすげえ良い奴だと思う。

だけど俺の選択次第じゃ、そのすげえ良い奴な親友とも離ればなれになるかもしれない。

 

昨日は家のそばのカフェにいて、昨日の日記を書きながら日がな一日考え事してた。

で一昨日は、スネイプが来た直後だからまだ頭がぐるぐるしてて、無意識のままロンドンのお気に入りの文房具屋までチャリでひとっ走りして、そこに入ってる喫茶店で一日中ぼーっとしてた。

万年筆のお姉さんが「家出したの?」なんて茶化してきたから、まさかと笑っておいたけど。

あの人に奢ってもらったアイスクリーム、本当にめちゃくちゃうまかった。

 

さて。

この2日間、俺がひとりになって考えたがっている理由を、母ちゃんと妹はちゃんとわかってくれている。

妹も一昨日の夜、階段の踊り場で聞き耳を立てていたらしい。だから昨日や今朝顔を合わせたときも、根掘り葉掘り聞いてくるようなことは全然しないでくれていた。

 

でもジョナサンは、俺宛のイタズラ手紙が死ぬほど届いてた件しか知らない。

実はそれが魔法学校からの入学案内の手紙で、俺が魔法使いの卵で、そこに7年間通うか通わないかの決断を迫られてる、というかほぼ通わなきゃいけないらしい、なんてことは微塵も知らない。

 

どうしよう。

 

スネイプからは、「自覚がなくても貴様には魔力がある」「使い方を学ばねば周囲に危険を及ぼしてしまう」「悪いことは言わぬからホグワーツに来い」とさんざっぱら言われてる。

それと同時に、「もし家族以外の人間に魔法界の話をしてみろ、そいつの頭をいじくるからな」とも脅されてる。

それだけは凄く嫌だ。

 

魔法使いの世界には、何やら俺たち一般人に正体を知られないためのキミツホジホウがあるらしい。魔女狩りは史実だし、奴らも奴らなりに自分たちを守りたいんだろう。

だけど、だからといって他人の記憶を操作するのは、なんというか……凄く傲慢だと感じてしまう。

別にメスや鉗子使って開頭するわけじゃなく、チチンプイプイすりゃ終わりなんだろうけど。それでもひとの、特に親友の頭を勝手にいじられるような事態にはしたくない。

それだけじゃなく、魔法だなんだの妙ちきりんな話にジョナサンを巻き込みたくない。

 

だから、本当は何があったかなんて、ジョナサンには話せなかった。

あれはすでにお縄についた鉤鼻の変質者の仕業で、ちゃんと母ちゃんにもいろいろ知らせて、昨日と今日とは警察に処理してもらうためにばたばたしてた、なんていけしゃあしゃあと嘘ついた。

 

……スネイプからいろんな話を聞いたから、少しずつだけど、ホグワーツに行った方がいいんだろうなとは考えてる。自分で自分が信じられんが。

興味本位半分。それに、もし本当に俺に魔力があるのなら、スネイプが言うとおり、母ちゃんと妹に何かしでかしてしまう前に制御できるようになっておきたいってのが半分。

だけどもしそうするなら、ジョナサンと一緒の中学校に行けなくなった口実をどうすればいい?

7年間、クリスマス休暇と夏休み以外はこの町に帰れない口実をどうすればいい?

あいつにどれだけ嘘をつかなきゃならない?

 

留学だとかなんだとか下手なこと言ったって、ダニーやカイルにゃそれで通じても、ジョナサンには絶対にすぐ見破られる。なんだかんだで俺たちは、10年近い付き合いだから。

さっきの電話でだって、俺が何か隠してるって声の様子で気づいてた。気づいてて何も言ってこなかった。

 

スネイプとの約束を守ったままこっちの人間関係を保つのは、かなり難しい話だと思う。

ホグワーツに、『魔法界』に行くとしたら、こっちにいるジョナサンたちとは……いったいどうなっちゃうんだろう。

 

 

 

▼3日

 

気分転換と無事報告がてら、スネイプが来る前にいつもそうしてたみたいに、ジョナサンたちと遊んできた。

当然身が入らなくて、ジョナサンにゃ始終いろいろと怪しまれてた。凄く疲れた一日だった……

 

あの混乱した誕生日以来、ベッドの上で、自分の手のひらをよく見つめてることがある。

さっきもアホ犬が勝手に部屋に入ってきたから、スネイプみたいにできないかと思って「浮かべ!」って命じてみた。魔力ビームを発したつもりで。アホ犬を指差して。

結果。アホ犬はきょとんとしたあと、ただ後ろ足で耳をかりかり掻きはじめただけだった。

……。

…………。

 

 

 

▼4日

 

いよいよ明朝、スネイプが再び家にやって来る。

 

朝食のとき、母ちゃんに訊いてみた。

母ちゃんは、俺がホグワーツに行くべきだと思う? って。

しばらくしてから、「何十億もの人間がどんなに望んでも持てないチャンスを持ってるんだから、母ちゃんなら間違いなくホグワーツを楽しむよ」って。本当にそうしたいと思ってるよう声で返ってきた。

細かいことは心配しなくていい。あんたが考えるべきは、手の中にあるチケットを思いきって使ってみて冒険に乗り出すか、こちらに残って堅実に生きるか、それだけのことなんだからね。

あんたは母ちゃんの息子だから、こっちでも魔法界でも、どこでだって暮らしていけるよ。

母ちゃんはそう言った。

 

そのあと、母ちゃんが敢えて放っておいてくれるのを良いことにいろんなことを考えたけど……やっぱり、覚悟はちゃんと決まった。

 

行ってみよう、ホグワーツ。

 

未だにいろいろ疑わしいけど、あまりに考えすぎて一周回ったせいか、今じゃこの状況を素直に面白く感じられるようになりつつあった。

確かに、これはまたとない冒険かもしれないのだ。夢に見るような世界が、俺にとっては本物の現実として存在するんだから。

魔法界なんて胡散臭い場所で暮らしてみるのは、確かに怖いっちゃ怖い。試しに騙されてみるなんて凄く勇気の要ることだ。

だけど、信じるまい信じるまいとしてきたけれど……もしもスネイプが本当に見せてみたような魔法を使えるようになるなら、やっぱり凄くカッコイイ!

 

もちろん、ジョナサンたちのことを忘れてるわけじゃない。

奴らにしばらく会えなくなるわけだし、特にジョナサン、あいつとは同級生になるはずだっのに俺が抜けちゃうわけだから、別れ方次第では少しトラブるとは思う。

 

だけどスネイプに言わせれば(奴の嫌味をかなり翻訳してるけど)、母ちゃんや妹と将来幸せに暮らすためにも、ジョナサンたちとこの先長く付き合うためにも、俺は魔力の扱い方をきちんと学んどかなきゃならない。魔力がある人間は、遅かれ早かれ魔法界に関わることは間違いない。

結局、行かにゃならんのだ。

ならホグワーツだかなんだか知らんが、一か八か、その魔法だらけの学校に喜んで飛び込もうじゃないか!

 

そう聞いて、母ちゃんは俺を力いっぱい抱き締めてくれたあと、俺の突然の進路変更のためにすげえバタバタすることになった。

銀行から金を下ろしたり、地元の中学への入学予定をキャンセルしたり、マホウショウなる役所に出向いて事務手続きしたりせにゃならんらしい。

やっぱり母ちゃんは、昔は魔法界の人間だったんだろうか。そう思って訊いてみたけど、あまり答えちゃくれなかった。

 

この日の午後は、俺にできる限りの範囲で妹にたくさんサービスした

この数日間、ずっと自分の現状と将来ばっかり考えていてあいつをほったらかしにしちゃってたから。

今日は兄ちゃんとテレビ見て過ごそうって誘ったら、口には出さないけど凄く喜んでるのがわかった。

なんだかんだで、妹はまだまだ俺に甘えたがってくれる。凄く可愛い奴だと思う。

 

今日はふたりで作った昼飯を食べたあと、バスキンロビンスのキングサイズのアイスをふたりで囲みながら、ロー・アンド・オーダーの再放送とフェアリーテール・シアターを立て続けに観て、あれやこれやと批評しあった。母ちゃんがいるときは刑事ドラマなんて絶対観させてもらえないから、背徳感がたまらない。

で、FTの方のゲストがロビン・ウィリアムズだったから奴は心底テンション上がって、今度はコリン・ファースの映画を観たいと言い出した。俺はターミネーターが良いと言ったら、お兄ちゃんはエッチなシーンが見たいだけでしょとかマセたこと言い出すから、怒ったふりしてくすぐり責めの刑実行。結局、ふたりでクッションを投げ合いながらリモコンの奪い合い。

すげえ楽しかった。

 

 

 

▼5日

 

とうとう約束の5日だ。

相も変わらず不機嫌な顔で、そして黒いマントを翻して、スネイプはやって来た。

今は真夏だってのに、お前はどこのブラックジャックだ。

 

奴は俺の答えを聞いて、うむ、正解だとうなずくと、ではダイアゴン横丁に行くぞといきなり俺を連れ出した。

え、おい、ちょっと待て、ちょっと待てや!

そう狼狽える俺に向かって、ホグワーツ入学を決めた者はすぐに杖を買うべきなのだ、と奴は言い張った。余計なことに、さっさと仕事を終わらせたいのだから手を焼かせるな、ともおっしゃった。

魔法使いの杖……!

おとぎ話でもなんでもなく、魔法使いの間では本当に日用品として使われているのだそうだ。

ただし他の買い物に付き合うほど我輩は暇ではない、とスネイプは苛立たしげに俺に言った。

なんでも、奴の言う『マグル世界』から魔法界の商店街に入るには、杖が必要不可欠なのだという。それで、最初の杖の買い物だけは、すでに自分の杖があるスネイプの付き添いが必要というわけだ。

 

しかし前も思ったけど、職業柄堪えようとはしているとはいえ、奴さん、実はかなりの子ども嫌いらしい。

俺の保護者である母ちゃんの前じゃやっぱりちゃんとしてたけど、そのあとは酷くぶっきらぼうな態度だった。

ナゼワガハイガナマイキナマグルノコゾウナドヲアンナイセネバナランノダー、とか、ダンブルドアメキサマノハッカアメニイツカイップクモッテヤルー、とか。

わけのわからないことをぶつぶつとひとりごちながら、スネイプは俺をロンドンへ連れてきた。

 

スネイプは萎びたじいさんばあさんのいる『漏れ鍋』ってパブに俺を連れ込むと、その店の裏の中庭で初めて自分の杖を使った。

……今でも、目に焼き付いてる。あいつが杖でレンガを叩いて、レンガが水紋みたいに揺れて、秘密のアーチが生まれたあの瞬間!

それまでにも散々、奴は俺を浮かせたり、手紙をひとりでに飛ばせてみたり、花瓶の枯れた花を蘇らせたりしてみせたけど、俺にとっちゃ、あれが生まれて初めて目の当たりにした本物の魔法だった。

この人は本当に魔法使いなんだ……本当に魔法使いはいるんだ!

そう強く感じて、全身に鳥肌が立った。やっぱりこのときまで、俺は魔法使いの存在を信じていなかったんだと思う。

 

さて、俺にとって初めての魔法界体験である、ダイアゴン横丁についてだが。

……正直、とても全部を書ききれない。そのくらい凄かった。素晴らしく凄かった!!

ロンドンのど真ん中にあって、皆英語を話しているのに、まるで外国に来たみたいに全然世界が違いすぎて!

ドラゴンの肝だとか、純金の大鍋だとか、そんなのが出回ってんだぜ! あり得ないだろ!

思ってたよりずっと楽しい、面白そうだ魔法界!!

 

興奮する俺の首根っこを引っ掴み、スネイプは俺を魔法界一有名だと言う老舗の杖店に連れてった。

こっちの世界のロンドンにもご老人用の杖店はあるけど、こっちは正真正銘、魔法の杖を売ってる場所だ。

紀元前382年創業(ほんとかよ)のオリバンダー杖店で、俺は魔法界の洗礼を受けた。

背後の暗闇にいたらちょっとビビるタイプの蜉蝣みたいな匠のじいさんに、俺の杖を見立ててもらったのだ。

 

30本くらい試してみたけど、最終的に俺を主人に選んでくれたのは、「サカキにセストラルの毛、24センチ、利かん坊だが爆発力がずば抜けとる」杖だった。

不思議だ。あの杖を手にしたとたん、ふわりと指先があったかくなった気がしたと同時に、ずっと探していたものにようやく出会えたときのような、妙な感情が沸き起こった。

 

で、それでだ。

……俺、俺さ、このとき初めて杖から魔法を出したんだよ。

杖先から花火が出たんだよ!

自分でもまだ信じられないけど!! 俺! 本当に魔力があったんだ!!!

 

すげえ興奮だった。今までの馬鹿みたいにぐたぐだした思考が全部吹っ飛んで、俺の世界が、人生が、まるっきり180度がらりと変わった瞬間だった。

以前の暮らしが、急に白亜紀の出来事ように思えてきた。

俺は今日この日から、嘘でも夢でも空想でもない……本物の魔法使いになったんだ。

 

 

 

▼6日

 

単身ダイアゴン冒険!! イェア!!

昨日はスネイプに無理やり帰らされたけど、今日からしばらくこの通りに入り浸る予定だぜ!

母ちゃん曰く、マグル育ちの人間は魔法界を外国だと思ってよく観察した方がいいらしい。いろんな常識が違うから、って。

なら足繁く通わないとな!

 

とりあえず全部の店に入ってみるのは良いとして、ダイアゴン横丁のマップや情報は別冊にまとめることにしよう。

あと買わなきゃいけないのはなんだ? リストの写しを貼っ付けとくか。

 

 

 ・普段着のローブ×3(黒)

 ・普段着の三角帽×1(黒)

 ・安全手袋×1(絶対ドラゴン革にすべし。スネイプ談)

 ・冬用マント×1(黒。銀ボタン)

 ・教科書(店員に頼めば一式用意してくれる、その際学年をきちんと伝えること。スネイプ談)

 ・杖×1 ←もう持ってるぜ!!!

 ・大鍋×1(錫製標準2型)

 ・薬瓶×1セット(クリスタル製推奨。スネイプ談)

 ・望遠鏡×1

 ・真鍮製ものさし×1セット

 ・ペット!!!!!!

 

 

 ★本日の成果 15S24K

 ・あんぜんてぶくろ を てにいれた!▽

 ・ものさし を てにいれた!▽

 ・マダム・マルキン洋装店にて制服採寸。明後日に受けとり可能。

  やたら納期が早いのはやっぱり魔法を使ってるから?

 

ホグワーツ入学が少し楽しみになってきた!!!

 

 

 

▼7日

 

ヤバい。本屋に寄った後、いたずら専門店だけで一日全部使い切った。

ヤバい。この店超楽しい。

 

 ★本日の成果 20G21S5K

 ・きょうかしょ を てにいれた! 重い!▽

 ・くすりびん を てにいれた!▽

 ・いたずらアイテム を てにいれた!▽

 

ほんとはスネイプに禁止されてんだけど、ペガサスの羽根ペンと七色インクを妹の土産に買った。もちろん、絶対だれにも秘密にするって誓いを立てさせておいてだけど。

ほんとにペガサスなの、白鳥の羽根じゃないの? って言いつつ、凄く喜んでくれたみたいだ。

横丁に連れていけなくて悪い気がしてたけど、お土産だけで充分すぎるくらいだよって抱きついてきた。ヤバいくらいに可愛いかった。あいつもホグワーツに連れてけねえかな。

 

 

 

▼8日

 

昼によく行くアイスクリーム屋のおっちゃんが、マジですっげえ親切なの。

俺がいわゆるマグルで、今社会科見学としてダイアゴン横丁に入り浸ってるってわかると、魔法界のいろんなことを教えてくれるようになった。

何よりありがたいのは、ダイアゴン横丁の外でも自学自習できるように、お薦めの本をつぶさに紹介してくれることだ。

近代魔法文化史はだれそれの本が良いだとか、魔法界の経済についてはどこそこの出版社が的確だとか。

母ちゃんにもらった小遣いは必要分を差し引いてもまだ余裕があるし(魔法界の経済はこっち側の人間にとって素晴らしく親切だ)、何冊か厳選したのをFB書店で買うとしよう。

おっちゃんにはなんかお礼しなきゃな。なんか俺にできることねえかな。

 

 ★本日の成果 4G15S

 ・おおなべ を てにいれた!▽

 ・ぼうえんきょう を てにいれた!▽

  仲良くなった鍋屋のおっちゃんが譲ってくれたお古。おっちゃんマジ感謝。もうひとりお礼する相手ができたぜ。やったぜ!

 

しまった。制服受け取んの忘れてた。

 

 

 

▼9日

 

今日は初めて魔法界の大人に叱られた。

『夜の闇横丁』に入ろうとしたのがどうやらいけなかったらしい。いわゆるヤミ屋の温床で、タカられる危険があるのだそうだ。

保護者もなしにひとりで何を彷徨い歩いてるんだね君は、と延々説教された末、なぜかその禿げたおっちゃんと一緒に昼飯を食べることになった。

奥さんと子どもたちの買い物の付き添いで来たはいいが、今子どもたちは全員教科書を買いに行っていて、奥さんから大鍋を買ってこいとパシられてしまったらしい。

つまり、この気の良いおっちゃんはホグワーツ生の保護者だったわけだ。

俺も今年入るんですと言ったら、末息子もそうなんだ、同じ寮になるといいなと凄く喜んでくれていた。

で、魔法界のどこに住んでるのか聞かれたから『マグル』出身だと返したら、何故だか踊り出しそうなほど狂喜乱舞しはじめた。

挙げ句こっちの世界についてめちゃくちゃ質問責めしてくるし。

面白いけど、めちゃくちゃ変な魔法使いだった。

 

 ★本日の成果 15G7S

 ・ふだんぎのろーぶ を てにいれた!▽

 ・ふだんぎのさんかくぼう を てにいれた!▽

 ・ふゆようまんと を てにいれた!▽

 ・『マグル・魔法族比較論』 を てにいれた!▽

 ・『魔法界見聞記』 を てにいれた!▽

 

あとはペットだけだぜ!!!

 

 

 

▼17日

 

さすがにダイアゴン横丁に入り浸り過ぎていたから、ここ1週間は家の手伝いに専念。元々行く予定だった夏の理科実験のキャンプは、行く予定だった学校の先生が引率者だからキャンセルすることにした。

で、妹がガールスカウトの合宿に行って、母ちゃんも職場の友だちとプチ旅行に出掛ける間に、再びダイアゴン横丁!

母ちゃんが直接トムじいさんにお願いして、一泊する『漏れ鍋』で面倒見てもらうことになった。

 

連れて帰る許可を事前に得ておいたうえで、今日はペット探しに奔走。ペットを連れてける学校ってそうそうないよな、素晴らしい。

リストによれば、ホグワーツの新入生はふくろう、猫、ヒキガエルを飼っていいことになってる。

他の生き物でも構わないみたいだけど、兄弟からのお下がりゆえホグワーツに慣れてるとか、その生き物をよく飼い慣らしてあるだとか、ある程度の縛りはあるようだ。

 

実は前日にいろいろと悩んだ末、妹と相談してふくろうを飼うことに決めていた。

魔法界のふくろうは伝書鳩みたいな仕事ができるらしいから、それで連絡を取りあえたらいいねっていう単純な理由。

別に学校のふくろうも借りられるけど、「うちのふくろう」っていうのがいたら、やっぱり凄くいいと思うし。

で、妹の「ウサギフクロウがいい!」とのリクエストから、件の種類のふくろうを町中で探し回り、最後に辿り着いたイーロップふくろう百貨店でようやくラス1を捕まえた。

 

最後の1羽だったそいつは雌のウサギフクロウで、店員によれば、無駄に気高く食事にうるさいお嬢様気質らしい。

でも動物の世話はどうしようもないあのアホ犬のおかげで少し自信があったから、試しに少し懐かせてみた。

最初の方はいかにもツンツンしてて、ときどき「下賤者!」とつつかれたけど(多分)、辛抱強く話しかけるうちに、「下僕にしてあげてもいいわ」とばかりに頭にとまるようになった。

これがなかなかの成果だったらしい。店員も目を丸くして感嘆し、無事にこいつを売ってくれた。

 

今は漏れ鍋の宿の部屋で、お嬢にご飯をあげてる最中。部屋の内装が少しご不満な様子だが、初めて人に飼われたわりに、今のところは大人しくしてくれている。

早くお嬢を家に連れて帰りたい。こいつが俺たちのふくろうだよって、妹に見せてやるんだ。

 

 

 

▼25日

 

 

 

初めてダイアゴン横丁に行ってから、時が経つのが恐ろしく早い。

入学準備もだいたい済んで、本当に魔法界入りしてホグワーツに入学するまで、あとたったの1週間しかなくなった。

 

今日は全員の予定が会う最後の日だったから、俺とジョナサン、ダニーとカイルのお決まりの4人組で、思いきり遊び回った。

前の前の前の前みたいに、まずは映画館行って、寝落ちしたダニーとカイルを放置プレイして、皆でマックで昼を食ってから、ショッピングモールの中でいたずらしたりナンパしたり、遊べるだけ遊んできた。

 

で、しまいにゃダニーとカイルが馬鹿みたいに泣き出したんだな。

本当にいきなりだった。パブリックに行きたくねえよお、寮生活なんかできねえよお、この4人でずっと馬鹿していてえよお、って、ボロボロとまあ、人目も気にせず。

俺たちの町への帰り道で、大声あげて泣いたんだ。

別に生き別れじゃねえんだから、って笑ってやりながら、俺もこいつらと別れるのが凄く名残惜しくなった。

ジョナサンも照れ臭そうに、夏休みに会おうと思えば会えるだろ、って珍しくフォロー入れてた。

 

ただ、2人があんなこと言い出してくれたのは、俺的に凄くありがたかった。

俺はこのタイミングで、実は地元の中学じゃなくてアメリカに留学することになったんだ、と突拍子もない嘘を打ち明けた。

だから今日皆で遊べて楽しかったし、俺もおまえらと離ればなれになるのは凄く凄く悔しいよ、って。

ダニーとカイルはびっくりした顔でしばらくは泣き止んだけど、すぐにまた、さっきよりいっそうデカい公害レベルの大声で、わんわんと泣きはじめた。

……ジョナサンだけが、黙ったまま俺を見つめてた。

 

俺ができた精一杯は、そのときジョナサンを見つめ返すことだけだった。

魔法界の機密保持法は破れない。

だけど、親友のジョナサンを本気で騙し遠そうとすることなんて、もっとできない。

10年培ったアイコンタクトで、ごめん、ってジョナサンに伝えた。

本当の事情は言えないことも、それがジョナサン以外を騙さなきゃいけないくらいには大きなものであることも、できるだけ伝えたつもりだ。

 

ジョナサンはずっと黙ってた。俺もずっと黙ってた。

ダニーとカイルのうるさいけど憎めない泣き声だけが、夕暮れの町に響いてた。

 

しばらくしてからジョナサンが、じゃあ、今日は本当に最後なんだなって言い出した。

で、にやりと笑ったんだ。

俺たちが卒業した小学校のごみ捨て場に、この4人組だけが使える宝物として、学校のサッカーボールをよくこっそり隠してたよな。あれ、まだあるんじゃないか。

 

ダニーとカイルも涙と鼻水を無理やり拭って、泣き笑いしてみせた。

このあと俺たちは、懐かしの小学校の校庭に入り込んで、星が見えるまでずっとサッカーして遊んでたんだ。

 

凄く、凄く楽しかった。……楽しかったし、何度も何度も、ごめんなって思ってた。

 

 

 

▼31日

 

いよいよ明日、キングズ・クロスで「ホグワーツ特急」に乗って、魔法学校に入学する。

 

ちょうど1ヶ月前までは、自分が魔法使いだなんて夢にも思わなかったってのに。

今じゃ母ちゃんや妹まで、俺の送別パーティーの食卓で、当たり前みたいな顔して魔法界の話をしてる。

こんな夏になるなんてさ、使い古された台詞だけど……まったく思いもよらなかった。

未だに夢なんじゃないかと思う。悪い方じゃなく、良い方の。

月の初めの頃の日記を振り返ると信じられないような心境の変化だけど、本当にそう思うんだ。

 

母ちゃんが奮発してこさえてくれたガリオンの大金で、ちょっと良いトランクを一個買った。

とても丈夫だってこと以外にはとりたてて魔法特性のない、黒いドラゴン革のトランク。

その中身のいちばん上には、父ちゃんのバットを乗っけてある。

これもかなり悩んだんだけど、やっぱり持ってくことにしたんだ。

 

まだ妹が生まれて間もない、俺が小さかったころ。

よく近所の公園に、夕日がとっぷり暮れるまで、父ちゃんとキャッチボールしに行ってたのを覚えてる。

キャッチボールが上手くなると、次はバッティングもさせてもらえるようになって、少し上手くなるにつれて新しいバットを買ってもらった。

最初はプラスチックのおもちゃだったのが、今じゃ金属製の本物にまで育ったわけだ。

 

結局あれ以来野球なんてやらなくなったけど、4代目のこのバットは、依然として俺の宝物なのに変わりない。

バットを見ると、いつも父ちゃんを思い出す。

だからこいつは俺にとって、少々デカいお守りなんだ。

 

こいつがホグワーツの寮室にあれば、たぶん俺はやっていける。

どれだけいろんな本を読んでも、どれだけダイアゴン横丁を観察しても、やっぱり俺は魔法界のことなんて全然わからない。

ホグワーツの教科書に出てくることすべてが、それまで知らなかったことばかりだ。

箒に乗って空を飛んだことも、ピクシー妖精を見たこともない。

それでも、たぶんやっていける。

母ちゃんや妹が遠くから応援してくれるし、近くには父ちゃんのバットがある。

俺は大丈夫だ。

 

一度行くと決めたからには、ホグワーツの卒業証書を、絶対に持って帰るんだ。

 

 

 

 






前回の投稿から、実に1ヶ月以上が経ってしまった……申し訳ありません。

今回は大ボリュームの8月回でした。
カルチャーショック、ダイアゴン横丁、こちらの世界の人間との別れ……などなど入れたいものを入れていたら、恐ろしくてんこ盛りに。長すぎるとのお声があれば、後から削ろうと考えています。
次からようやくホグワーツです。ようやく魔法学校生活だぜ……!

長い長い章ですので、どこかしらおかしなところが多々あると思いますが、ご指摘、ご感想をくだされば幸いです。
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