架物語   作:藍鳥

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こよみワールド 002

   005

 

 学園都市、というらしい。

 僕たちが迷いこんだ街は東京西部にあり、他の地域と比べて科学力が圧倒的に高いそうで、この街に入るためには厳重なセキリュティを潜らなければならないらしい。

 しかし僕らの時代にはそんな物はなかった。学園都市と言えば筑波にあるやつだ。

 その他にも色々情報を聞いて僕たちはファミレスを出た。

 

 「にしても、それじゃあ未来というか異世界だよな、ここ」

 

 「その認識はあながち間違っておらんかもしれんぞ、お前様よ」

 

 大型ディスプレイの時計は午後五時を示している。

 切迫した問題は、どうやって夜を明かすか、だ。残念ながら廃ビルは見あたらない。

 

 「ほんと、どうすりゃいいんだよ......」

 

 「その気になれば公園でもどこでも寝れるじゃろ」

 

 「そうだけどさ......」

 

 見上げれば向こうに大きなビルが見える。不思議な事にそのビルには窓がなかった。ここら辺では『窓のないビル』なんて呼ばれているのだろうか。

 確かに、かつて忍野メメの根城だった廃ビルで寝泊まりしたことは一度や二度じゃないし、空中で寝たことだってあるのだから、公園で寝ることなど容易いが、それは自分が知っている土地だったからだ。

 やはりどことも知れない場所で雑魚寝するのは不安だ。

 

 「仕方ない、ネットカフェでも捜すか......。行こう、忍」

 

 「う、うん......」

 

 ん?

 忍は歩き出そうとしなかった。まさか、疲れたのか?

 

 「どうした、忍? 歩き疲れたのなら僕がおんぶしてやるぜ?」

 

 「そう、じゃなくて......」

 

 「!?」

 

 忍は震えていた。

 はぁはぁ、と息を荒げながら震えていた。

 

 「忍!?」

 

 一体何がどうして!?

 あ、れ......。忍、はどうした、ん......。頭が、ぼやけ、!?

 

 「なんだ、これッ......!?」

 

 「わ、わからんが......ひぐっ!」

 

 僕は、一体、何を、してるん、だっけ?

 

 

 

 「どうしたの。あなたたち」

 

 

 

 !?

 なんだ、あの女は! 体が勝手に、動く!!

 

 「忍! も、戻れ!」

 

 無理やりでも影に押し込む。なんなんだアイツ!

 

 「なに? こっちこないで。警備員を呼ぶ」

 

 「あああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 「!?」

 

 ダッ、と黒髪の女は、逃げて行った。僕の咆哮が効果を、上げたらしい。

 

 なんとか、思考力の方も正常に戻ってきた。

 なんだったんだ、さっきの女は。

 

 「ふぅ......」

 

 見た限り、忍の方がダメージが大きかった。

 ということは、吸血鬼の性質が関係している、ということなのか?

 わからない。

 わからないことだらけだ。

 

 そして、息づく間もなく不幸は続く。

 

 「おい! そこのお前!! 両手を挙げて跪け!!」

 

 「なっ!?」

 

 今度は戦闘部隊みたいなのが出てきやがった! 銃は反則だろ銃は!

 どすればいい!? 今まで銃相手に戦ったことなんてないぞ僕は!

 

 「くそっ!」

 

 逃げようにも数が多すぎる。今の僕は銃弾の雨に耐えられる程の回復力は持ち合わせていない。

 仕方ない。降参しよう。

 僕は両手を挙げる。

 

 「よし。そのままだ。いいか、一斉に撃つぞ」

 

 ......は?

 撃つのかよ!?

 

 僕はばねのように立ちあがり、逃走を図る。

 しかし。

 

 「撃てッ!」

 

 どこかへ隠れる暇もなく、銃弾の雨が僕を襲った。

 

 

 「クソッ! 僕が何をしたって言うんだ!」

 

 ダガガガガガガ、と鳴り続く発砲音。

 

 「あ、れ......?」

 

 なぜだが僕には一発も銃弾は届かなかった。

 そればかりか、戦闘部隊の奴らは皆血まみれで地面に倒れている。

 そして、僕と奴らのちょうど真ん中に真っ白の男が立っていた。

 

 

 

 「オイオイ、たまたま通りかかったらなンだ、このザマは」

 

 

 

 まさかこいつ、銃弾を弾いたのか? 全部?

 

 信じられないことに杖をついている男はゆっくりとこちらを振り向いて言った。

 

 「オマエ、何やらかしたンだ?」

 

 「......!?」

 

 僕は何も言えなかった。

 なぜなら、興味なさそうに利いてきたこの男の瞳が真っ赤だったからだ。

 

 「聞ィてンのか、オマエ」

 

 さながら吸血鬼のように、真っ赤だった。

 いやまさか、こいつも吸血鬼なのか?

 確かにそうだ。あれだけの銃弾を弾き返すとすれば吸血鬼くらいしかあり得ない。常人には不可能な技だ。

 

 「いや、悪い。聞こえてるよ」

 

 「そォかい。で、アイツらに狙われたってことは、オマエも侵入者ってことかァ?」

 

 おまえも、侵入者。

 ということは他にも侵入者がいるのか?

 

 「さぁ? 僕も自分ではよくわからないんだ。気付いたらこの街にいたんだよ。嘘じゃないぜ?」

 

 「あァ、そォ。まァ、俺にとっちゃァどうでもイイことだからな、せいぜい殺されないことだな」

 

 そう言い残して、立ち去ろうとする白い男。

 だけど、それだと困るんだ。

 

 「僕は阿良々木暦! 吸血鬼なんだ! お前もそうじゃないのか!?」

 

 「あァ? 何言ってンだオマエ。誰が吸血鬼だ。ンなもンこの街にはいねェよ。頭沸いてンのか」

 

 「うぐ......」

 

 戦場ヶ原を彷彿とさせる毒舌。これはただ暴言を言っているだけか?

 

 「じゃあなんなんだよ、さっきのは!」

 

 「はァ......。めンどくせェ。能力だ、俺の能力」

 

 「の、能力?」

 

 「これだけ言ってわかンねェのなら、オマエは外の人間で確定だな。いや、違うな......。いくら外の人間でも超能力の存在くらいは知ってるはずだ......」

 

 何やらブツブツ独り言を言い始めた白い少年。

 なんだ、超能力って。

 

 「仕方ねェな。オマエ、阿良々木っつったか? ちょっと着いて来い。どォせ行くあてなンてねェンだろ」

 

 「お、おう」

 

 何が何だか終始わからない僕だが、この白い少年をひとまず信用することにした。

 ここで同行を拒否したら何されるかわかったもんじゃない。

 

 「で、お前は何者なんだ?」

 

 「知ってどうする」

 

 「いや、一応な。お前のことなんて呼んだらいいかわかんねぇし」

 

 「一方通行。一応学園都市最強の超能力者ってことになってる」

 

 「ちょ、超能力者!?」

 

 やっぱここは異世界か!? そんな物が数年で現れるとは思えない。

 

 「まァ、詳しくは後で訊け......」

 

 

 

 

 

   006

 

 僕と一方通行が行き着いたのは普通のアパートだった。

 

 「ここに何かあるのか?」

 

 「黙って着いてこい」

 

 階段を上り、通路を進む。そして一方通行はある部屋の前で立ち止まった。

 インターホンを鳴らす。

 

 「開けろ土御門、俺だ」

 

 なんか言い方が裏組織的だな......。

 内側から返事はなく、すぐにドアが開かれた。

 出てきたのは茶髪でサングラスの男だった。

 

 「おお、久し振りだな一方通行。何か手掛かりは......」

 

 「土御門、コイツだ。おそらくコイツが例の穴と関係している」

 

 例の穴? なんだそれは。ていうか紹介くらいしてくれよ。ここでも僕の存在は無視されるのか?

 

 「阿良々木暦、だとよ。おそらく穴の向こうからやって来た人間で間違いねェ」

 

 「根拠は?」 

 

 「コイツは超能力の存在を完全に知らなかった。突然迷い混んだみたいな事も言ってやがる」

 

 「なるほど。阿良々木でいいんだよな、お前」

 

 「あ、ああ。阿良々木暦であってるよ。で、なんなんだ、ここは」

 

 やっと台詞が回ってきたので出来るだけ喋っておくことにした。

 

 「ここは見たまんま、ただの学生寮だぜ」

 

 「そう、なのか?」

 

 「それとオマエ、吸血鬼がどうとか言ってたよなァ。あれはどういう意味だ?」

 

 つまり吸血鬼について説明しろと。

 けど吸血鬼について全て説明すると時間がかかり過ぎる。

 実際見て判断してもらうのが一番速いだろう。

 

 「わかった。ちょっと待ってくれないか?」

 

 「ああ、別に構わないぜ」

 

 僕は自身の影に向かって、陰に向かって声をかける。

 

 「忍」

 

 すると、僕の影から金髪の幼女が現れた。

 

 「おお、影に潜る能力か? 大能力くらいはありそうだな」

 

 茶髪サングラスの土御門が忍を見て言った。だけどそれは間違いだ。忍は超能力なんて奇怪な力は使わない。

 使うのは、怪異の王としての力。

 

 「お前様よ、それでこいつらはなんなのじゃ?」

 

 「いや、それについては後で説明するよ。だからその前にお前と僕は吸血鬼であることを証明しなければならないんだ」

 

 「ふん、じゃあ儂に血を吸わせろ、お前様よ」

 

 「ああ」

 

 土御門は興味深そうに黙ってこちらを観察し、一方通行は興味無さそうにそっぽを向いていた。

 僕は忍に他人の前で血を吸わせる。

 吸血鬼と言えば、やはりこれだろう。

 

 「うむ、これでいいのかの?」

 

 「なるほどな......」

 

 果たして、僕の血を吸った忍は見た目十七歳にまで成長していた。身長は僕をゆうに越している。

 僕は忍(十七歳)の隣に並んで言う。

 

 「どうだ。これで僕とこいつが吸血鬼って理解してもらえるよな?」

 

 「ああ。それについてはわかった。だけどお前、どこの魔術結社にも所属していないんだよな?」

 

 「魔術結社? そんな物、僕は知らないぞ?」

 

 まったく。さっきから超能力とか魔術とか、この異世界は一体何でできているんだ?

 超能力と魔術がいっしょくたになって出てくるファンタジーなんて僕は知らない。

 

 「なるほど。こいつなら例の穴から来た可能性があるな。ていうかよく見つけたな、一方通行」

 

 「たまたまだ、たまたま。懲ねェ暗部のクソ野郎共が狙ってやがったンだよ」

 

 一方通行はめんどくさそうに白い頭を掻きながら言う。

 ていうかこいつの白髪は地毛なのか? 肌も真っ白だし。羽川でもこんなに肌を白くキープする方法は知らないだろう。

 

 「で、だ。阿良々木。お前に一つ頼みがある」

 

 「頼み? 僕が出来ることならやるけど......」

 

 助けてもらった恩もあるしな。

 だがその前に、寝床を探さなければならなかったので、ここでさらに時間を割いてしまうのは最適とは言えないだろう。

 

 「実は、今ここの隣の部屋が空いているんだ。帰る予定が立つまではそこにいてほしい。ああ、別に四六時中部屋に籠ってろって意味じゃなくてな、部屋に帰ってきてくれればそれでいい」

 

 「ようは、そこに住めってことか?」

 

 「ああ。そういう事だ」

 

 向こうの狙いが全くわからないが、こちらとしても悪い提案ではない。寝床を探してさまよっていたのだから、甘えさせてもらうのが良いだろう。

 

 「わかった。隣の部屋でいいんだよな?」

 

 

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