007
「ここ、か......」
土御門に案内されて僕と忍が入った部屋は普通の学生寮の一室だった。とくに異常な点はないのだが、一つ気になるのは......。
「まぁ、ちょっと散らかってるけど、気にするな。こっちも一応仕事だからな。身の安全は保証するぜよ」
「ああ......」
そう。
空き部屋のはずなのに、なんか妙に生活感がある。キッチンのコンロにはやかんが置いてあるし、テレビもリモコンを押せばちゃんと点いた。本当に誰か住んでるんじゃないのか?
「まぁ......この部屋のありようについては俺たちでも調べているところだ」
「......調べている?」
妙な言い回しだ。
なんだ? こいつはよくわからない部屋を僕たちに貸すつもりなのか?
「ま、そういうことで、頼んだぜよ。俺は多分隣にいるはずだから、何かあったら言うにゃー」
「にゃー......?」
ていうか、何かある恐れがあるのかよ......。
僕が何か言う前に土御門は出て行ってしまった。
「土御門め......」
「ところでお前様よ、どうするのじゃこれから」
忍が僕の袖を引っ張っている。
そういやそうだよな......。まずはこの世界から脱出することを第一に考えなければ。
「だけどさ、忍。帰ろうにも帰り方がわからないんじゃどうしようもないだろ? 戦場ヶ原には申し訳ないけど、後で埋め合わせすればなんとかなるだろ」
もしくはもう二度と異世界ダイブなどせずに済むよう拘束されるかどっちかだな。
そう考えるとものすごく帰りたくなってきたが、焦っても仕方ない。
「そうじゃな......。霊的エネルギーを使ってこちらの世界に来たわけじゃないからの、霊的エネルギーを使う以外の方法で帰るのが道理じゃろう」
「けどそれ以外の方法に心当たりはない」
「そうじゃな」
「......」
「......」
「......」
「......」
黙ってしまった。
二人とも黙り込んでしまった。
散らかっている部屋に冷たい空気が流れる。
「部屋、片付けるか。忍」
「......うん」
僕は適当にそこら辺に落ちていた置時計を拾いながら考える。
土御門と名乗った少年と、こちらは明らかに偽名だが一方通行と名乗った白い少年。
後者、一方通行は奇妙な力を使い、それを超能力と呼んだ。
対して土御門は会話の中に魔術という言葉を織り交ぜていた。
つまり彼らの言っていることが嘘でなければ、この世界には超能力と魔術、二つの異能が存在することになる。
僕たちの世界には存在しなかったフィクションが。
しかしそれはある意味、僕たちの知っている怪異のようなモノなのではないか、とも思う。
「なぁ忍、超能力とか魔術とか、どう思う?」
「超能力? 儂にはよくわからん、そんな怪異以上に怪奇的なモノはの」
だよなー......。
忍は怪異の知識でさえ忍野から聞かされたモノ以外あんまり知らなかったしな。
これについては自分でなんとかするしかない。土御門か一方通行に直接聞くのが早いだろうな。
一方通行はともかく、土御門なら教えてくれそうだ。
008
そうこうしてるうちに良い時間になり、部屋にはちゃんとお風呂があったので、少しばかり気が引けたが、入浴を敢行した。普通のなんの異常もない風呂だった。
「忍、悪いけどここの風呂はうちのより狭いからさ、一緒に入るのは止めないか?」
「なんじゃ? 儂は別に狭くても大丈夫じゃが? それともあれかお前様、儂のこのロリボディに欲情しておるのか?」
いやマジで狭いんだよ。忍(ロリサイズ)でも僕の上に座らないとはみ出してしまう。
「僕はいつもスリリングな入浴をしてるからな。これくらいはもう朝飯前なんだよ。何度月火に刺し殺されそうになったことか......」
その時だった。
ガチャン、と外で音がした。
そしてそれに続く足音。
まさか、月火かっ!?
しかし、そんな訳はない。何だってここは異世界なのだから。
「忍」
「うむ、誰か入って来たようじゃの」
土御門か、もしくは一方通行か。そうならいいのだが。
「昼間の部隊かもな......」
「じゃがお前様よ、一人のようじゃぞ?」
ということは、昼間の暗殺部隊ではないということだ。
だとすれば誰だ? 一体誰が入って来たんだ?
「時に我が主様よ、一つ大事なことを忘れておらんか?」
「......? なんだ、大事なことって」
「儂はともかく、お前様は今全裸じゃぞ?」
「......っ!?」
しまった!!
これじゃあ万が一敵が入ってきてても戦えないじゃないか! 逃げることもできない!
それでも万が一って時には恥より命を優先しなければならない。となるとやはり全裸戦闘&逃走する覚悟が必要だ。
「っく......」
服は洗濯機にブチ込んだまま。幸い回してはいないので、着ようと思えば着れる。
しかし高速着衣にも限界がある。着替え中に敵さんに見つかるのだけは嫌だ! パンツで戦闘&逃走するはめになる。
......全裸よりはマシか。
「いやちょっと待て、忍。おまえ確か物質形成能力? みたいなの無かったか?」
「あ、バレた」
「バレたじゃねぇよ! 僕は全裸で未知の超能力者と戦うつもりだったんだぞ!?」
「そう怒るな。ほれ、お前様よ」
ぽいぽいと自作の服を投げてくる忍。せっかく作ってくれた服が濡れちまうじゃないか。
高速で着衣を済ませ、忍を影に戻す。
「さてと。準備完了だ」
ゆっくりと扉を開ける。
誰もいない、のか?
部屋は静まりかえっていて、誰かが荒らしている様子はない。
僕はベッドがあるリビングへと進む。
「......おかしいな」
あれは忍の勘違いだったのか?
けど確かに扉が開いたような音がしたぞ。足音もした。
もう一度、誰もいないリビングを見回す。
学園都市第七学区の夜は静かで、車が走る音すら聴こえない完璧な沈黙。
「不自然なくらい静かだよな......。僕が住んでる田舎街でさえ車くらいは走ってるのにな」
「そうですね。学園都市は学生が八割を占める学生の街ですから、こんな夜中に車を走らせてる人なんていませんよ」
「おわっ!?」
僕の真後ろにいつの間にか立っていた。
忍野扇。
私立直江津高校一年生、つまり僕の後輩である彼女が僕の部屋に入ってきていたのだ。
「しかし阿良々木先輩。あなたの居場所を突き止めるのに丸一日も掛かってしまいましたよ。本当にどうしてくれるんですかねぇ。これでは帰る手段も見つかりませんよ」
僕は絶句していた。
疑問点は二つ。
一つ、扇ちゃんはどうやって僕の居場所を突き止めたのか。
一つ、根本的になぜ扇ちゃんはこの世界にいるのか。
「私は知りませんよ___あなたが知ってるんです、阿良々木先輩」
と、彼女は言う。