架物語   作:藍鳥

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愛すべき扇ちゃん。
ちなみに架物語は「かかりものがたり」と読みます。
基本阿良々木暦の一人称でやりますが、途中で一時的に変わるかもしれません。


おうぎボイド 001

   009

 

 以下、扇ちゃんの回想。

 

 忍野扇は気づいた時には学園都市に突っ立っていた。

 自分がなぜ、どこで、どのタイミングでこんな奇妙な現象に見舞われたのかがまったくわからない。

 

 「なるほど......」

 

 このまま立ち止まっていても仕方がないので辺りを散策する。フィールドワークは忍野扇の得意分野だ。

 そしてまず目に着いたのが筒型ロボット。下の方からブラシのような部品が出ているので、掃除ロボットか何かだと推測できた。

 そしてそのまま視界を上へと移動し、見つけたのは風車。よくよく辺りを見回せば、こんな街中なのにも関わらず結構な数の風車が建ち並んでいるのがわかる。

 街中から垣間見える突出した科学力。果たして日本にこんな街があっただろうか。もちろん、忍野扇は日本中全ての市町村を知り尽くしている訳ではないが、掃除ロボットが当たり前のように街中を闊歩する街は有名なはずだ。

 しかしここは日本のようだった。目の前のクレープ屋の看板にはちゃんと「クレープ」と書いてあった。

 つまり、ここから考えられる可能性は二つ。

 一つ、ここは未来である。

 一つ、ここは異世界である。

 超常的ではあるが、これが忍野扇が辿り着いた結論だった。

 

 「なるほどなるほど......」

 

 次に忍野扇はクレープ屋でいちごクレープを一個買った。

 

 「190円です」

 

 忍野扇は千円札で支払う。

 手持ちの日本円はちゃんと使えた。やはりここは日本のようだ。

 

 「810円のお釣です。ありがとうございました」

 

 そしてお釣の硬貨の製造年を確認。

 平成十五年、平成元年、昭和五十九年......などなど。

 つまり、ここは例え未来であってもそこまで離れた未来ではないということだ。

 もし今が2200年とかなら、お釣で平成元年に造られたお金は出てこないはず。

 

 「なるほどなるほどなるほど......」

 

 そして最後に、近くの高層ビルに掛けられた巨大ディスプレイに表示されていた日付を確認した。

 今日は12月初め。

 結論、この世界は、もとの世界より少し進んだ異世界である。

 

 「すみません、私、道に迷ってしまいまして、少しお時間頂いてもよろしいでしょうか」

 

 次のステップ。

 まず最優先すべきはこの世界について少しでも知識を仕入れておくことだ。

 今時、あらゆる戦いは情報量で決着がつくと言っても過言ではない。

 だから目の前を通りすがった少女に声を掛けたのだ。

 中学生くらいの、茶髪の少女に。

 

 「え、私?」

 

 「はい、あなたです。少し訊きたいことがあるのですが、道に迷ってしまいまして......」

 

 「あー、なんだろ、今日は迷子が多いのかな? さっきも変な男の人に話掛けられたばっかだし......」

 

 「変な男の人ですか? それはいけませんねぇ。今時昼間もなにかと物騒ですからね、お互い気を付けましょう。こうやって少し油断しているだけで異世界に転送されちゃったりするんですから、そりゃあ世の中物騒ですよ」

 

 「い、異世界? 転送?」

 

 「いえいえ、こっちの話です。お気になさらず。ところで訊きたいのはこの街のことなんですけど、あなたはこの街をどう思っているのですか?」

 

 忍野扇は茶髪の少女に対して奇怪な質問をした。まるでアンケート調査のような質問である。

 

 「この街をどう思っているのですか、って言われてもね......。ていうか大体迷子って言ってなかったっけ」

 

 「いえいえ、だから細かい事はお気になさらず。私の質問に答えてくれれば大丈夫ですから」

 

 「はぁ......そうね、学園都市の印象って言ったら、まぁ色々あるけど基本楽しい所よ。学生がいっぱいいるから友達もたくさんできるし、私のことを理解してくれる大事な友達もいる。確かにこの街には超能力ってなにかと物騒なものもあるけど、それも付き合い方の問題だ、って思うのよね。私も私でいろいろあったし、もうそれはヤバいってことも何度かあったけど、そんなとき私を助けてくれる大事な人もいるっていうかなんと言うか」

 

 「なるほど、超能力ですか。ご協力ありがとうございます。参考意見として有効活用いたしますよ」

 

 「ええ? あ、あそう? ま、別になんでもいいんだけどね......」

 

 「ところで、超能力というのは?」

 

 「えっ? もしかしてあなた外の人間なの? あちゃー、これ話して良かったのかなー。ま、大丈夫か。ていうか、さっきの男の人も同じ事言ってたわよ」

 

 忍野扇は気になっていた。

 超能力とさっきの男。

 だがもしここが本当に異世界なんだとすれば、超能力があってもけしておかしくはない。だとすれば、そのこの世界の常識を把握していない人間というのは、忍野扇のような異世界人以外にあり得ないだろう。

 

 つまり、そのさっきの男というのは、異世界人である可能性が高い。

 

 「で、そのさっきの男というのはどんな人でしたか?」

 

 「えーと、確か高校生くらいの......黒に赤の制服をきてたわね......」

 

 「そうですか......黒に赤ですか......」

 

 黒に赤の制服。

 忍野扇が通っている私立直江津高校の男子の制服が黒に赤のデザインだったのを思い出す。

 

 「なるほど.......わかりました。ありがとうございます」

 

 以上、扇ちゃんの回想終わり。

 

 

 

 

 

 

   010

 

 「いやいやいや、扇ちゃん、それじゃあなぜ君がこの部屋に辿り着いたのかについて説明がないぜ?」

 

 「はっはー、やっぱりあなたは愚か者ですか、阿良々木先輩。決まってるじゃないですか。ちゃんと聞き込みをして阿良々木先輩の目撃情報を集めたんですよー」

 

 マジか、この後輩。

 目撃情報だけでここまで辿り着いたというのか。

 やはり扇ちゃんのフットワークの軽さには目を見張るものがあるな......。

 

 「最終的にお隣の土御門さんのところに辿り着いて、事情を全部言ったら通してもらえました」

 

 「てことは話したのか、自分は異世界から跳んできたって」

 

 「ええ。あなたという先例がありましたからね、いくらか話は最初からわかってくれていました」

 

 さすがは土御門。話がわかるヤツだ。もし一方通行だったら相手にもされなかったかもしれない。

 

 「で、阿良々木先輩。帰る方法は明日から探すとして、ここに一つ困った問題があるんですよ」

 

 「ん? 困った問題? なんだそれは」

 

 「私の今晩の寝場所がありません。という訳で私をここに泊めてください」

 

 ああ、なるほど。

 僕だって土御門と一方通行に出会わなければ寝場所がなかった訳だし。

 ぜひとも路頭に迷っている後輩を泊めてあげたいところだが......。

 

 「ええ、心配はいりません」

 

 すると扇ちゃんは部屋の襖をバッ、と開け、中にあった布団一式を取りだした。

 

 「私はこれを床に敷いて寝ましょう。だから大丈夫ですよ阿良々木先輩。私はあなたのベッドを盗ったりしませんから」

 

 いや別に扇ちゃんが僕のベッドを使うのならそれはそれでいいのだが、そうではなく。

 

 「じゃなくてだな。君が大丈夫なのか扇ちゃん。隣で僕が寝てるんだぜ? 一応僕だって男のはしくれだからな、何か間違えが起こってしまうかもしれないだろ?」

 

 「あっ、そうでした! 阿良々木先輩は一応男のはしくれだったんでしたねー。はっはー、すっかり忘れてましたよ。まったく、忘却の彼方でした」

 

 忘れてたって扇ちゃん......。笑わないないでよ、っていうか嘲笑だよね今の。

 まぁ、それでも僕という男の危険性をわかったのだから問題ない。彼女は少しばかり僕のことを過信している面があるので困る。

 

 「ですが阿良々木先輩。あなたの隣で寝るのが危険だとすると私は一体どこで寝ればいいんですかね」

 

 「あ、そうか」

 

 何も考えていなかった。

 扇ちゃんは僕のベッドで寝ればいいだろう。しかしそうすると僕の寝場所がない。

 

 「いや、君は僕のベッドを使ってくれ。僕のベッドとは言ってもまだ一度も使ってないから心配はいらないぜ。で、僕は、そうだな......、廊下? とか適当に布団を敷いて寝るよ」

 

 「それはそれは。さすがです阿良々木先輩。後輩に自分の安眠を譲るとは。私が尊敬するだけのことはあります」

 

 私が尊敬するだけのこと、って。君はどこから目線なんだよ、扇ちゃん。 

 

 「では、私は一日走りまわって疲れているのでもう寝ますね。あ、シャワーは浴びさせてもらいますよ」

 

 そう言って扇ちゃんは風呂場へと歩いて行った。

 まったく、本当に行動が早い後輩だな。

 それにシャワーを浴びている途中に僕が突撃を敢行する可能性を一切考えていないと見た。

 いや突撃しないけど。

 

 「どこで寝るか......」

 

 廊下は思ったより狭く、寒い。よく考えたら今は十二月だったな。

 廊下などで寝れば間違いなく風邪をひいてしまうだろう。

 

 「あっ、いいこと思いついた」

 

 僕は一番安全な寝床を閃いたのである。

 

 

 

 

 

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