艦娘と改造人間   作:断空我

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9.復讐の殺意

 

駆逐艦睦月と如月は傍から見ても仲のいい姉妹だった。

 

提督が最悪で暴力にさらされても姉妹がいたからこそ、なんとかやってこられた。どれだけ最悪な毎日でも如月が、睦月がいればなんとかできる。

 

そんな気持ちで二人は生きていた。

 

他の妹を守りながらも互いの消耗していく心を助け合う。

 

二人はそうやって今まで生きていた。

 

これからもそうやって生きていくんだ。

 

睦月と如月はそう誓っていた。

 

だから、如月が敵の砲撃でいなくなった睦月は生きる気力を失ってしまった。

 

だから。

 

そんな結末をこの男は許さなかった。

 

「下を向くな」

 

旋風と爆音が巻き起こる。

 

包囲していた深海棲艦達が薙ぎ払われた。

 

項垂れている睦月の前に誰かが立っている。

 

「お前はまだ一人じゃない」

 

流れる涙を深緑のグローブに包まれた指が拭う。

 

睦月が顔を上げるとそこにいたのはバッタを模した仮面をかぶった男。

 

“仮面ライダー”

 

そして、

 

「如月ちゃん!?」

 

男の腕の中で如月がいた。

 

意識がないのか反応はない。

 

「気絶しているだけだ…」

 

 

「如月ちゃん、如月ちゃん、よかったぁ」

 

涙をこぼし始める睦月に如月を預ける。

 

「ここから動くな」

 

二人へ背を向けて男は静かに告げた。

 

「こいつらに手出しさせねぇ」

 

赤い複眼が輝く。

 

新たな敵を前に深海棲艦達が次々と砲撃を開始する。

 

迫りくる砲弾を右から左へ受け流す。拳で砕くということを行いながら近づいてくる深海棲艦を拳で沈めていく。

 

海面を蹴りながら次々と迫りくる深海棲艦を無力化させていく。

 

仮面ライダーが遠ざかっていくのを見ながら睦月は如月を抱きしめる。

 

来てくれたことに驚きながらも最愛の家族が無事だったことに安堵した。

 

海面をけるように走りながら深海棲艦を倒していく仮面ライダー。

 

口を開けて駆逐級が飛びかかる。

 

衝撃が仮面ライダーを襲う。しかし、その両手が駆逐級の口を抑えていた。

 

「う、ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

叫びと共に顎と頭を上下に引きちぎる。

 

返り血を全身に浴びながら仮面ライダーは次の敵へ拳を構えた。

 

倒した深海棲艦の亡骸を踏み台にして包囲されている叢雲達へ向かう。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

叫びと共に繰り出されたキックによって数体の深海棲艦がまとめて轟沈する。

 

「アンタ…!」

 

叢雲は信じられないと目を開いていた。

 

彼女に振り返らず重巡級と対峙する。

 

重巡級は憎悪に顔を歪めてゆっくりと後退していく。

 

最後まで射貫くような視線は仮面ライダーへ向けられていた。

 

やがて、敵の姿が完全に見えなくなったところで重苦しい空気がなくなる。

 

「……助かった」

 

阿武隈がぽつりと呟く。

 

その事実に曙と天龍は顔を顰める。

 

叢雲は敵が去ったほうをにらむようにみていた彼の背中をずっと見続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

艦娘達が戻ってきたという報告に潮や文月たちが出迎える。

 

しかし、暖かい帰還というわけにはいかなった。

 

「すぐに天龍さんと如月を入渠施設へ!!」

 

「急いで!意識がない子もいる!」

 

陸奥が大破した艦娘達を入渠施設へ連れていく。

 

文月たちは姉妹や仲間がボロボロになった姿を見て悲壮の色を浮かべている。

 

「…」

 

今にも泣きだしそうな彼女達の姿を立花ヤマトは眺めていた。

 

「私は!」

 

執務室で叢雲は崩れ落ちた。

 

ぽろぽろと瞳から涙を零していく。

 

最初は優勢だった。

 

このまま行けると思っていた。

 

「私は…無力だ」

 

どうしょうもない後悔が彼女に押し寄せる。

 

静かに扉が開いて陸奥がやってきた。

 

「入渠施設へいれたわ。彼女達は全員、無事よ。回復するまでに時間がかかるわ」

 

「……そう」

 

涙をぬぐって叢雲は振り返る。

 

陸奥は手に書類を持っていた。

 

「今回の出撃の結果報告よ」

 

静かに受け取る。

 

書類には戦術的勝利Bと書かれていた。

 

「勝利…ね」

 

叢雲は皮肉な声を漏らす。

 

「仲間を二人も大破させておいて勝利なんて…」

 

「結果的にみれば勝利よ。まさか重巡級と空母級がいるなんて思っていなかったけれど」

 

「まるで見ていたような言い方ね」

 

「……ま、一応」

 

「監視役だからね」

 

「知っていた、のね」

 

「予想はついていた。表だって動こうとしないから不思議だったけど」

 

「本当ならあっちこっち調べるつもりだったわ。でも、止められたのよ」

 

「アイツ、か」

 

陸奥を止められるとしたら大本営か立花ヤマトのみ。

 

「アンタはアイツの事を」

 

「信頼しているわ」

 

迷わずに陸奥はいう。

 

そのことが余計に叢雲を苛立たせた。

 

「どうして!?人間なんて、人間なんて自分が可愛いだけの存在じゃないの!?」

 

その目は激しい後悔と憎悪に包まれていた。

 

「人間は卑怯よ。醜い!私達が必死に人間達のために海で戦っている間、なにをしていた?自分の遊ぶためのお金を集めるために鎮守府の資材や資金を横流しして私達を道具のように扱う!仲間が傷ついても入渠させずにまた戦いへ放り出す。海で人を助けても化け物を見るような目を向けられる!私達がどれだけ頑張っても理解してくれない!感謝もない。なんなの!?なんで私達は存在しているの!誰も必要としていないなら…だったら、私達は私達のためだけに生きる!人間なんて関係ない!人間に邪魔なんてされない…なのに」

 

深海棲艦と戦い、仲間を失いかけた。

 

自分たちの居場所を作ろうとして敵を倒す。

 

それで仲間がいなくなったら。

 

「意味なんて、ないじゃない!!」

 

そういって叢雲は崩れ落ちた。

 

陸奥はそんな彼女をただみている。

 

「貴方の気持ちを理解できないわけじゃない。私も人間に対して思うことはある…でも」

 

陸奥の言葉に叢雲は顔を上げた。

 

その目は挫折しようとするものを許さないというように鋭い。

 

「決めたんでしょ?仲間を、みんなで過ごすための場所を作るって。一度でも覚悟を決めたなら貴方は達成しないといけない。その責任が貴方へあるはずよ」

 

「…わかっているわ」

 

叢雲は立ち上がる。

 

先ほどまでの後悔などの色はない。

 

「それと、もう一つ」

 

陸奥は表情を崩さないまま。

 

「一度、ヤマトと真剣に話をしてみなさい。そうしたら何かわかるかもよ」

 

最後にウィンクして陸奥は執務室を後にした。

 

残された叢雲は置かれた資料を投げ捨てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どういうつもりですか?」

 

執務室を出て歩いていた陸奥の前に大井が現れた。

 

「なんのことかしら?」

 

「どうして、あんな駆逐艦にヤマトさんと話をしろなんていうことを?」

 

「必要だと思ったのよ」

 

鋭い目がどういうことだと訊ねる。

 

陸奥は小さく肩を揺らす。

 

「ここはいろいろな意味でガスが貯まりすぎている。少しはガス抜きをさせる必要があるということと……ヤマトの苦しみを少しでも減らしてほしい」

 

「そして、彼へ余計な負担をかけるつもり?そんなことをしたら彼が壊れるわ」

 

「…そうかもしれない。でも、忘れているんじゃない?」

 

――私達だって彼へ迷惑をかけたからこそ、今の私達があるのよ。

 

その言葉に大井は言葉を詰まらせる。

 

「とにかく、彼へ危害が及んだら私は動きます。それだけは伝えるわ。遊撃部隊副リーダーさん」

 

大井はそういって離れていく。

 

残された陸奥は息を吐いて天井を見る。

 

誰も彼女へ声をかける者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじまりがあればいつか終わりがくる。

 

そう願っていた時期が確かにあった。

 

いつからか、それは間違いだと思うようになる。

 

はじまりはあっても終わりというものはこないのではないか?

 

そう、特にはじまりが悪意の場合は――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋へ戻ろうとしたヤマトへ複数の影が現れる。

 

「お前達か?俺の部屋を爆破したのは」

 

全員が頭巾のようなもので素顔を隠しているが体付きから女性だろう。

 

ヤマトの質問に彼女達は殺意で答える。

 

どうやら自分を殺そうとしているらしい。

 

「人間は去れ」

 

「人間は消えろ」

 

呪詛のように呟きながら一斉に襲い掛かってくる。

 

「だ、ダメ!」

 

構えようとする前に潮が手を広げて前に立つ。

 

ザザッ!と全員が動きを止める。

 

今にも泣きそうな顔で止めに入る潮。

 

一人が顔の頭巾を脱ぐ。

 

「潮!どういうつもり!」

 

活発そうな印象を与えそうな少女。

 

殺意に染まっていなかったら太陽のように明るい笑顔を浮かべていただろう。

 

ヤマトとしてはどうでもいいが。

 

「その、や、やめてください。や、ヤマトさんは、その、悪い人じゃ、ないんです」

 

「人間に良いも悪いも関係ないわ!だって、人間は私達をただ使い潰すだけの存在よ!」

 

フードで隠れて見えないもう一人が憎悪に顔を歪めて見ていた。

 

実際の所、そうみられても仕方のないことだろう。

 

ヤマトの前任者、その前の提督は艦娘達に非道なことをしていた。

 

資材を売り払って自分の利益にする。艦娘を欲のはけ口とする。ただ、彼女達は人を、海を取り戻すために戦っているというのに誰もそのことを感謝しない。まるで当たり前のようにしている。

 

そんな連中を守ろうなどと考え続けるのはよほど――。

 

「ヤマトさんはそんな人じゃない!!」

 

潮の叫びに全員に動揺が走った。

 

「違います。ヤマトさんは、そんな、そんな人じゃない。わ、私達の事を」

 

「もういい」

 

泣きそうに前へ踏み出そうとした潮を止める。

 

それ以上は潮にも、苦痛を与えてしまう。

 

ヤマトが前に出たことで頭巾の集団が構える。

 

「一週間」

 

指を立てる。

 

「俺は一週間後、ここをでていく。それで我慢できないなら殺しに来い。俺はいつだって受けてやる。後、他の奴らを巻き込むなよ。それは本望じゃないだろ?」

 

ヤマトの宣言に潮は目を見開き、頭巾連中は激しく動揺した。

 

どうやら彼がずっと居座ると思っていたのだろう。

 

言いたい声を終えたヤマトは背を向けて去っていく。

 

その背中へ二人見ていたいものがいた。

 

「信じられるか…人間、なんて、嘘つきなんだ」

 

「そんな、ヤマトさん、どうして…?」

 

 

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