目の前に立っている男は叢雲がはじめて鎮守府へ着任した時の司令官、つまり、前任者のさらに前の司令官。多くの艦娘達を轟沈させ、現在の仲間たちのほとんどへトラウマを刻み込んだ最低な男。
諸悪の根源ともいえる男が目の前にいることで叢雲は混乱した。
「ふむ、戸惑っているようだな」
「どうして、どうして、アンタが」
記憶が確かなら男は憲兵へ連行されたはずだ。最後まで自分は悪くないとわめき続けて、全ては艦娘が悪いと訴えて。そして、銃殺刑になるので幽閉されていると聴いた。その男がどうしてここにいるのか。
空海という名前の司令官がいるのか、彼女は戸惑う。
「俺はあんなところで終わる人間ではないということだよ。叢雲。大本営は俺の事を無能だと評価した。それは間違いだと思い知らせる為だ」
「ふ…」
ふざけるな!と声に出して叫びたかった。
いや、すぐに叫んだ。
男の一言は叢雲の理性を弾き飛ばすのに十分な一撃を持っている。
「ふざけるな!アンタのせいで何人の仲間が沈んだと思っているの!?アンタのためにどれだけ傷ついたか」
叢雲の叫びに男は首を傾げる。
「おかしなことをいうな、兵器は使ってナンボだろう?壊れてしまうのはその兵器が役に立たないからだ」
その一言で叢雲は完全に切れた。
「取り消せ!」
上体を起こして叫ぶ。
鎖がぎちぎちと音を立てる。
悔しい。
あんな人間に今まで指揮されてきたかと思うと腹が立つ。
「(人間なんて!)」
あんな人間のためにみんなが沈んだのかと思うと納得できない。
「(人間なんて!!)」
あんな人間のせいで親友の吹雪が沈んだと思えると。
「許せるかぁああああああああああああああああ」
「おぉ、怖い怖い。兵器が涙を流して。気持ち悪いったらないな」
「このぉぉぉぉぉぉぉおおお」
「安心しろ。俺は寛大だ。お前はまだ利用価値があるからなすぐに解体するとかそういうことはしない。ま-、面白いものを見せてやるよ」
肩をすくめながら離れていく空海へ叢雲は悔しさに支配されていく。
人間は信用できない。
信じてはダメだったと。
あの青年の事を思い出しながら叢雲は涙を零し続けた。
「この字」
送られてきた手紙を覗きこんだ川内は呟いた。
「どうした?」
「いや、忘れて。多分、ありえないことだから」
「どういうことだ?」
首を傾げるヤマトだが川内は「気にしないで」の一点張りだった。
追及は難しそうなのでヤマトは手紙の内容にある海岸へ向かおうとした。そんな彼を陸奥が止める。
「どこにいくの?」
「指定されている海岸へ向かう」
「罠かもしれないのよ!?」
「ありえるな。だが、行かなければ叢雲の手がかりも得られないだろ」
だから行く、とヤマトは言う。
罠かもしれないということはヤマトも理解している。
しかし、このままでは叢雲の手がかりがないまま。
この鎮守府で叢雲がどれだけ頼りにされているか、彼女がいなければどうなるかということを理解しているからこそ、巻き込まれているなら急いで助け出してやりたい。なにより。
「(俺の事に巻き込まれているのなら、それはあってはならないことだ)」
自分のために誰かが傷つくなど絶対に許せない。
知らず知らずのうちに拳を握りしめてヤマトは外へ出る。
陸奥は心配そうに見ていたがやがて、静かに艤装を展開した。
「どうするつもり?」
「ヤマトの手助けをするわ」
「ふーん、私は何をすればいい?」
川内の質問へ陸奥は応える。
「じゃあ」
サイクロンに乗ってヤマトは指定された海岸へきていた。
海岸は深海棲艦が姿を見せてから海軍によって封鎖されている。偶に漁師が無断で海へ出て魚を得ようとする問題が多発しているという。
以前も艦娘が戦闘中に密猟をしていた船があり北上が中破しかけた時がある。
様々な物資が不足している現代。人は何とかして飢えを凌ごうとする。たとえ、犯罪に手を染めても――。
人間が汚しまくった海。
深海棲艦によって人間が近づかなくなったことによって昔のように綺麗な海。
人間がかかわると綺麗なものは穢れる。
もしかしたら、深海棲艦というものは――。
ヤマトが海岸を眺めていると改造された聴覚がプロペラ音を捉える。
音の方を見ようとした時、大量の爆撃が降り注ぐ。
「ぐっ」
爆撃で視界がふさがれる。
周囲を確認しようとしたところで巨体な何かが現れた。
「おいおい…」
現れた存在を見てヤマトは目を細める。
深海棲艦、重巡級。
憎悪に染まった目がヤマトを見つめている。
その時間は数秒。
深海棲艦とヤマトが同時に動く。
彼女は砲撃を、ヤマトは逃走のため後退。
大量の砲撃が地上へ降り注ぐ。
受け身を取りながら地面を転がったヤマトの腰にタイフーンが現れる。
旋風を体に受けながら特殊戦闘服を纏い、仮面を被る。
赤く輝いた複眼を見て重巡級は少しのけ反りながらも控えている空母級へ指示を出す。
爆撃機が仮面ライダーへ向かう。
飛来する爆撃を躱しつつ、停車しているサイクロンへ走る。
サイクロンへ跨りアクセルを全開する。同時に艦載機が爆撃する。
爆発が続く中をサイクロンが走っていく。
重巡級は仮面ライダーが逃走するものだと思っていた。
――逃すものか!
砲撃を続けながらゆっくりと海岸を進む。
上陸する方法はあるがそれをばらすわけにはいかない。
重巡級は空母へ指示を出しながら仮面ライダーを追いかける。
突如、サイクロンが反転して重巡級へ向かう。
彼女は動きが遅れた。
「トォ!」
サイクロンが重巡級を踏み台にして空母級へ接近する。
空へと舞い上がり仮面ライダーが構えた。
重巡級が気付いた時にはライダーキックで空母級が沈められた後だ。
沈められた空母級をみた重巡級は激しい怒りに包まれる。
――仲間が沈められた。
――誰に?
――人間だ。
――人間が沈めた!
――人間は許さない。
――許してはいけない!
――人間を。
――滅ボセ!
空母級を沈めてサイクロンへ戻った仮面ライダーは全身を包むような殺意に気付く。
今まで多くの改造人間から殺意を向けられてきた。これは今までのモノとは比較ならない濃厚な殺意と激しい憎悪。
突如、衝撃が仮面ライダーを薙ぎ払う。
サイクロンから吹き飛ばされて海面にたたきつけられる。
海水まみれになりながら目の前の敵を見た。
「何だ?」
異変は目の前の重巡級に起きていた。
重巡級は全身から赤黒いオーラを放っている。戦闘を幾度も行ってきた仮面ライダーは目の前の敵がさらに厄介なものへ至ったと気づく。
「…コロス!」
「声が」
海面をすさまじい速度で重巡級が迫る。
ギリギリ捉えることができたので攻撃をかわす。
「完全に見切っていた」
――はずだった。
仮面ライダーの右腕は重巡級の砲撃によって黒ずんでいた。
「グッ」
痛みに仮面の中で顔を歪めつつ、目の前の重巡級から距離をとる。
眼前に重巡級が立つ。
巨大な手がライダーの肩を掴む。
「ぐぁっ」
砲撃によって負った痛みが走る。
拘束から逃れようとするが重巡級の力が強く、眼前に近づけられた。
赤い複眼と憎悪に血走った瞳がぶつかりあう。
「ニンゲンがニクイ!」
叫びと共に拘束する力が増す。
足掻いても逃れられない。
とてつもない力と衝撃で仮面が外れる。
素顔がむき出しになり、ヤマトは相手を睨む。
「人間が憎い…だから、お前達は襲うのか?なぜ、なぜ憎い」
「ナゼ・・・だと?」
重巡級が言葉を繰り返す。
問いに重巡級は答えない。
どうやら彼女はただ憎いという感情に支配されているようだ。
「お前、憎い理由がないのか?」
再度、問いかけられた重巡級はのけ反る。
只の言葉なのにいざ向けられた途端、深海棲艦重巡級は離れようとした。
途端、空から白い戦闘機が二人へ爆撃を行う。
ヤマトと深海棲艦は炎に包まれた。
「どうだ!俺の作戦は完璧だ」
薄暗い空間、仮面ライダーと重巡級が炎に包まれて映像が消える。
それをみた空海はにたぁと笑みを浮かべていた。
鎖で拘束されている叢雲は絶句した。
仮面ライダーが、あの男が海岸で一人深海棲艦と戦っていた。あの自分たちですら勝てなかった深海棲艦と交戦して勝利する。それをみせられた叢雲の中で何かが悲鳴を上げる。
なんで、勝てる?という疑問。
どうして、お前がという絶望。
「どうして…」
「んん?」
「どうして、アイツを巻き込んだのよ!関係ないじゃない!」
空白になっていた頭が冷静さを取り戻すとマグマのような怒りに支配されて、叢雲は前へ乗り出す。
ガチャンと鎖で押し戻されるがそれでも我慢ならなかった。
「アイツは関係ないじゃない!アンタと何の接点も」
「関係ならあるさ」
楽しそうに空海は笑う。
何がおかしいのか口の端から声を漏らしている。
「これは俺を陥れたお前達の罰でもある。ちなみにさっきの映像は鎮守府でも流してある。あぁ、ここにいるからアイツらがどんな顔をしているか見れないのが本当に残念だよ」
「ふざけ…るな!」
「しかし、お前もあんな人間にしっぽを振るようになるとはなぁ。なるほど、なるほど」
ずぃっと叢雲へ顔を近づける。
「気持ち悪いんだよ。兵器風情が一丁前に人間みたいな真似しやがって」
「……アンタ、やっぱり変わっていない」
空海という提督は、元提督という人間は艦娘を兵器としか見ない。自分の出世のために利用する道具としか見ていなかった。
だからこそ、艦娘達も彼を最終的に無能だとみていた。
「変わる必要がどこにある?俺みたいな選ばれた人間が!お前達みたいな道具を唯一使役できる存在が!変える必要などないだろう?…だが」
叢雲の頭を唐突につかむ。
「貴様らは俺をコケにした。俺の将来を滅茶苦茶にしたんだよ!許さねぇ、俺はてめぇらを許さねぇぞ。叢雲、いいか?アイツを始末した。次はお前達だ。解体なんて楽な道を選ばせてやらねぇよ。永遠に隷属させて死ぬまでこき使ってやる。そうだな、慰み者として使ってやるよ!」
けらけら笑う空海へ叢雲の怒りは爆発する。
鎖が派手な音を立ててはじけ飛ぶ。
殺してしまうかも――なんていう考えは彼女の名から消えていた。あるのはどうしょうもない殺意と怒り。
「死ね!」
叢雲が放つ渾身の一撃を空海はあっさりと受け止める。
「なっ!?」
「はー、舐めた態度とってんじゃねぇよ」
仕返しとばかりに叢雲の頬を殴る。
派手な音を立てて地面に崩れ落ちた。
地面へ広がる髪、何が起きたのか彼女はわからない。
「わかってねぇーなぁー、俺は選ばれた人間だっていっただろ?お前みたいな奴に殺されるほどヤワじゃないわけ。理解できたか?いや、理解できないか、この兵器め」
げしげしと叢雲の頭を踏みつける。
屈辱だった。
叢雲に圧し掛かる無力感。
同時に彼女は理解した。目の前の男がどういう存在なのか。
「改造、人間…」
「お、正解だ。まぁ、襲撃を受けたらそうなるよなぁ?っても俺の案だったわけだけど」
「どこまでも…」
「さぁて、こっからがお前のお仕置きタイムだ」
どこからか手枷が現れて叢雲の自由を奪う。
蹴られ続けたことで頭を切ったのだろう。額から一滴の血が零れていく。
ブゥゥンと目の前にスクリーンが現れる。
「ここの映像をお前達のいる鎮守府へ送ってやる。お前がむごたらしい姿になるところをみせてやるよ」
両手を左右へ伸ばされ、叢雲の体が宙に浮く。
「ぐっ」
「さぁて、どのようにお仕置きしてやろうか?」
「…」
冷めた目でみる叢雲へ空海は手を伸ばす。
乱暴に服を引きちぎる。
覗く素肌、艦娘として戦っているというのに傷がない。
ぺろりと空海は舌を舐める。
「そうだな、まずはその貧相な胸を」
「どうせだから、てめぇみたいな下種野郎をぶっ飛ばそうと思います」
「…は?」
唐突に聞こえた第三者の声。
空海が振り返るよりも早く一撃をもらう。
きりもみしながら宙を舞い、地面へ落ちる。
「どーも、くそったれの前々任者さん、提督代行を務めている立花ヤマトと申します。ま、てめぇをボコボコにする男だからその間だけ覚えていてくれよ」
小さな笑みを浮かべつつも、立花ヤマトは怒っていた。
「アンタ…生きて?」
「ン、まぁな。さて」
ヤマトが背を向けて叢雲へ近づこうとした時、ふらりと空海が体を起こす。
「貴様ァ、なぜ生きている!」
「…そうだな、しいて言うなら、お前達が馬鹿にしている艦娘のおかげだよ」
同時に壁が壊れてゆっくりと陸奥と大井、さらに時雨が姿を見せる。
「もう無茶するわね」
艤装を展開した陸奥が呆れ、大井は無言で魚雷を周囲へ投擲。
「空海元中佐、鎮守府規定違反と大本営からの逃亡の罪で貴方を逮捕するよ」
艤装の砲塔を向けながら時雨が告げる。
空海は怒りで顔を歪めていたがすぐに笑みを浮かべた。大井が顔を歪める。
「何を笑っているの?気持ち悪い」
「ハッ、言っていろ。兵器風情め。お前達に捕まる俺ではないということさ」
笑いながら空海の腰に赤いベルトが現れる。
そのベルトを見て、三人は目を見開く。
「変身」
直後、空海は変身する。
その姿はヤマトの仮面ライダー、黒井の仮面ライダー3号と比べて戦闘アーマーが少なく、どちらかといえばパイロットの格好に近かった。
「仮面ライダー4号、それが俺の名前だ」
3号もだしたんだから4号もだすよ?
…やばいな。怖いもの見たさで感想が欲しいなと思う自分がいます。
次回くらいで叢雲救済です。
終わりも考えていますが、果たしてハッピーエンドか、トゥルーエンドか。
悩むところですねぇ。
次回も楽しみにしていてください。