艦娘と改造人間   作:断空我

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16.飢えた狼と異変

吹雪が鎮守府へ着任して既に四日が経過した。

 

ヤマトが宣言した一週間で鎮守府を出ていくという話について陸奥が「そんな勝手許されるわけがないでしょ?」という鶴の一言により終わったことを除いて大きな事件はなかった。

 

小さな事件はたくさん起こったが。

 

「起きなさい!“ヤマト”!朝よ」

 

朝の惰眠をむさぼろうとしていたヤマトだが叢雲の大声で意識を覚醒させられてしまう。

 

「うるさいなぁ、なんだよ」

 

気だるそうにヤマトが叢雲を見る。

 

「もうすでに八時回っているのよ!?何時まで寝るつもりよ」

 

「寝れる限りまで」

 

「ふざけんな!今日の食事当番は吹雪なのよ!?迷惑かけさせないで」

 

「…あぁ、そういやそうだったな」

 

「ほら!さっさと起きて。寝癖も直しなさいよ!」

 

「うるさいなぁ、お前は…てか、大井はどうした?」

 

「大井さんなら」

 

叢雲が外を見る。

 

鬼の形相で漣と皐月を追いかけていた。

 

「あの二人、何やらかしたんだ?」

 

「睡眠中の大井さんへいたずらしようとしたみたいね」

 

「懲りないねぇ」

 

歯を磨きながら大和は窓からみていた。叢雲は肩と肩が触れ合いそうな距離に気付いて慌てて離れる。

 

「ン?どうした」

 

「別に!早く食堂へ来てね!」

 

そういって叢雲は出ていく。

 

しゃこしゃこと歯を磨きながら大和は呟いた。

 

「デレ期かねぇ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆逐艦叢雲。

 

今までの提督がやらかした所業により人間が信じられず艦娘達で鎮守府を運営しようと必死に頑張ってきた彼女だったが、ヤマトと轟沈した親友の吹雪の再会によって肩にのしかかっていた重圧から少し解放されたためか本来の明るい性格へ戻りつつあった。

 

最も、ヤマトに対しては相変わらず厳しいまま。

 

「…」

 

ふと、ヤマトは自らの手を見る。

 

幻影を目にした気がして意識を切り替えた。

 

「食堂にいこ」

 

私服へ着替えたヤマトは食堂へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在、鎮守府の食堂は艦娘とヤマトによるローテーションで組まれている。

 

本来なら補給艦と呼ばれる間宮達を呼ぶべきなのだろうが様々な問題によって自分たちで自炊するということになっていた。

 

「うん、普通だな」

 

「そうですね。普通です」

 

「うん、普通ね」

 

「……」

 

「だ、大丈夫だよ!吹雪ちゃん!吹雪ちゃんはまだちゃんと形とかしっかりしているから」

 

「そうねぇ、漣や長月だとこうはいかないわぁ」

 

「ヒドス!ふん、料理ができずとも漣は」

 

「料理は難しい。ヤマト、私に料理を教えてほしい」

 

「あ、ずるいです!ご主人様、漣にも」

 

料理の評価を受けて沈む吹雪。慰める睦月、ダメな例をあげる如月。

 

いきなりこっちへやってくる漣や長月といったいつものメンツの騒ぎを聞きながらヤマトはずずーと味噌汁を味わう。

 

基本的に艦娘は料理ができない。一度、料理を任せてほしいといわれて朧、潮、漣へ一任したらとんでもないことになった。

 

鍋が一個おしゃかになった。結果を語るならそれでいいだろう。

 

叢雲が味噌汁を飲んで固まっている。

 

「嘘、私より…おいしい」

 

「あぁ!叢雲ちゃんが小破している!」

 

「急いで、カバーを、ヤマトさーん!」

 

前よりも騒がしくなった食堂でヤマトは耳栓を装着する。

 

その光景を見て陸奥は笑い。大井は面白くなさそうな表情を浮かべた。

 

本来ならピリピリしている叢雲すら笑顔を浮かべている所を見ると大分、ここもよくなってきているということだろう。

 

この時、ヤマトは知らなかった。

 

未だ姿を見せていない艦娘が自分を狙っていることに。さらにいえば、厄介な騒動がこれから起ころうとしていることにまだ誰も気づいてない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「陸の動きが怪しい?」

 

ヤマトは戻ってきた時雨、大井、陸奥を呼んで自室で話をしていた。

 

話の内容は遊撃部隊として陸で情報集めと特務に参加していた時雨の話を訊くため。

 

「陸軍って深海棲艦が現れてから大人しかったじゃない。それが何で今さら?」

 

「理由としては陸軍の方でも艦娘の開発に成功としたという事、最も、一人だけなんだけどね」

 

「陸軍の艦娘ねぇ」

 

「あまり陸に関しては良い印象がないから、変な子なのかと思ってしまうわねぇ」

 

陸奥の言う通り、艦娘、しいて言えば遊撃部隊は陸軍や軍という存在にあまり良い印象を持っていなかった。

 

「ンで、陸軍は海軍に直接な何かをしてくると?」

 

「それはまだないと思うよ?ただ、この鎮守府の現状を調べている節があったんだ」

 

「注意が必要という事ね。全くただでさえ、厄介なことが多いっていうのに」

 

「「「…」」」

 

「な、なによ」

 

三人の視線を受けて大井はたじろぐ。

 

「どうやら無自覚だったみたいね」

 

「いや、自覚あってやられたら困るって」

 

「うん、大井さんらしいよ」

 

「一体、なんなのよ!?」

 

「大井弄りもこのくらいにして、陸軍は注意しましょう。上層部はそうだけど、末端は艦娘の存在を知らないから余計な騒動を起こすことになるわ」

 

「上もくさいけどなぁ」

 

ヤマトは少し前に陸軍の将軍と出会った。その際に将軍ともめ事を起こしたことは記憶に新しい。

 

あれから隙あらばこちらへ攻撃(書状による攻撃など)を行っている。それをするくらいなら防衛などに力を注いでほしいものだ。

 

そんなことを思いながらヤマトは時雨に引き続き調査を頼む。

 

「あ、そうそう…高丸提督からヤマトへ手紙があって」

 

「…手紙?」

 

これだよと言って時雨から受け取る。

 

ふむふむ、とヤマトは手紙に目を通して。

 

「捨てておいてくれ」

 

受け取った大井は手紙をバリバリと引き裂いて焼き捨てる。

 

「ま、そうなるわよね」

 

陸奥は苦笑した。

 

「演習のお誘いなんて面倒なんだよ。遊撃部隊も全員集めたら集めたらでうるさいしな」

 

「流石、ヤマトさんです」

 

「ヤマトは素直じゃないね」

 

「さて、話がそれだけなら俺はそろそろ昼寝でも」

 

「ねぇ、ヤマト」

 

唐突に。

 

陸奥がヤマトへ話しかける。

 

その目はいつもと違う。

 

「なんだ?」

 

「ここの提督代行の任、どうするつもり?」

 

陸奥の話に大井は目を鋭く細める。

 

時雨はとうとうきたかという表情で傍観していた。

 

「引き受けるか受けないかの確認がきたのか?」

 

「いいえ、純粋に私の疑問なの。答えられなければいいわ」

 

「そうだな。本音を言えば俺には無理だと思っている。艦隊指揮経験もなければ、あいつらを死地へ追いやって椅子にふんぞり返っているなんてガラじゃない」

 

「じゃあ、断るの?」

 

「それも悩んでいる。少し、アイツらの行く末をみたい俺がいる…そんなこといえる立場じゃないんだけどな」

 

自虐的な笑みを浮かべつつソファーへ寝転がる。

 

その姿を見て、時雨は辛そうに、陸奥はなんともいえない表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、料理って難しいなぁ」

 

食堂、本日の任務がない吹雪は机に突っ伏しながら「料理のお手本」と記されている本を読んでいる。

 

この鎮守府へ戻ってきて、さらにいえばかつての仲間たちと再会できたことは吹雪にとって喜びだった。

 

「アンタ、変なところで真面目よね」

 

「そうかな?私は常に全力だよ」

 

笑顔を浮かべる親友の顔を見て隣で書類を書いていた叢雲は苦笑する。

 

他愛のない会話も懐かしく思えた。

 

親友が隣にいること、それがうれしくて叢雲は笑みを浮かべた。

 

「あらー、楽しそうねー」

 

食堂に声が聞こえる。

 

二人が振り返ると紫色の制服を着た、長い髪の女性がいる。

 

重巡洋艦足柄。この鎮守府に所属している重巡の一人。

 

「あ、足柄さん」

 

「あら、貴方、吹雪ね」

 

「はい…その、お久しぶり、です」

 

「ふふ、久しぶりね」

 

ニコニコと微笑んでいる足柄だがその目は笑っていない。

 

彼女の知る“足柄”と違うことに吹雪は悲しみながらも笑みを浮かべた。

 

「さて、叢雲。あの人間はどこかしら?」

 

「人間?」

 

「そう人間よ。あの生意気な人間を始末してやる。さぁ、どこにいるのかしら」

 

ふらふらと幽鬼のような足取りで彼女は食堂から出ていく。

 

「足柄さん…」

 

「わかっていると思うけれど、これが鎮守府の現状よ。みんな人間を恨んでいる」

 

「うん、わかってはいたけれど、辛いよね」

 

吹雪は足柄が去って行った方向を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――人間を許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――人間は姉と妹を見捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あんな奴らのために戦う価値などない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――あんな奴ら、全て根絶やしにしてやる。そうすれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふらふらと足柄は人間を探す。

 

あの人間。

 

名前は何だったか?

 

忘れた。とりあえず殺そう。

 

そんな考えに支配されていく足柄は気づかない。

 

『そう、殺せ。人間を殺せ』

 

自らに囁いている悪魔の声がいたこと。足柄の体から徐々に“色”が失われていくことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…チッ」

 

ヤマトは聞こえた声に舌打ちを漏らす。

 

体を起こすと誰もいない。

 

どうやら大井達は部屋へ戻ったのだろう。

 

「さて、と。俺もいい加減動くか」

 

改造人間となったヤマトの聴覚は通常よりも音を聞き取れることができる。

 

最初は慣れずに困惑したが今は調整が可能となった。

 

そんなヤマトだが、時々、無意識に音を集めてしまう。その中でずっと気になっていたもの。確認するためにヤマトは扉を開ける。

 

この時、ヤマトは開けなければよかったと思う。

 

まさか、テンプレと呼ばれるような。

 

「見つけたぁ!」

 

殺意むき出しの艦娘に襲われることになったのだから。

 

叫びと共に飛びかかってきた艦娘から距離を取ろうと動く。それを予期していたのか彼女は砲撃を行い、拳を繰り出す。

 

砲撃のみを手で受け流す。

 

迫る彼女の一撃は躱しきれずヤマトは壁にたたきつけられる。

 

続いて一撃。

 

狙いは頭。

 

ヤマトはそれをギリギリのところで躱す。標的を失った攻撃はコンクリートでできた壁に穴をあける。

 

少し、不味いかもしれない。

 

迫りくる艦娘から逃げる為、ヤマトは走り始める。

 

「逃がすか」

 

焦点の定まっていない瞳でヤマトを追いかけた。

 

ヤマトは荒い息を吐きながら鎮守府の外へ出る。

 

外は激しい雨が降っている。

 

服がずぶぬれになりながら外へ転がり出た。続いてふらふらとおぼつかないながらも艦娘は砲撃の手を緩めない。

 

ヤマトは振り返る。

 

ぶつぶつと呪詛のように呟きながらヤマトへ狙いを定める。

 

飛来する砲撃を蹴りや手でいなし続けた。

 

しばらくして艦娘は音を立てて倒れる。

 

「……」

 

ゆっくりと艦娘の脈を調べる。

 

「疲労…かなり危ないな」

 

自分と同じくらい、少し低い程度の艦娘を抱きかかえてヤマトは走る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、ドボーン」

 

足柄が意識を取り戻すと熱いお湯の中だった。

 

「あっつぅぅぅ!?」

 

突然の事態に湯船から顔を出す。

 

つるんと滑ってまたモグリそうになったところで手が伸びて自分を支える。

 

「ほら、落ち着け、疲労がひどいから入渠施設に放り込んだだけだ」

 

「ごおっ!」

 

女性としてどうかと思える声をいくつか出しながら足柄は暴れる。

 

しばらくして、冷静さが彼女のコントロールを握る。

 

「貴方、何のつもり」

 

「…何をしたか覚えているか?」

 

「貴方を殺そうとしたわ」

 

「ならいい、記憶なしで襲ったとなったら色々と面倒だからな」

 

「は?」

 

困惑する足柄へ目の前の人間と入れ替わるように一人の艦娘が現れる。

 

「や、僕は時雨だよ」

 

「足柄よ」

 

警戒するように足柄は顔の半分を湯に沈める。

 

「時雨、悪いけど後は任せる。俺が長居すると色々と問題になるからな」

 

「わかったよ…不可抗力なんだよね?」

 

「当たり前だ」

 

「安心したよ」

 

 

ヤマトは後を時雨に任せて外へ出た。

 

「飼い犬が何の用かしら?」

 

「安心したよ」

 

足柄の嫌味を気にせず時雨は言う。

 

困惑する彼女へ淡々と話す。

 

「形は大本営の人間だからね。敵意むき出しなら理由ありで処罰の対象にならないんだ。でも、無意識だとそうはいかなくなる」

 

「…解体処分かしら?」

 

「無意識だとね。でも、違うと判断したからそんなことにならない。何より、ヤマトはそんなことしないよ」

 

「フン、信じられないわ」

 

「別に信じなくていいよ。ヤマトはそういうことを期待していないから……でもね」

 

足柄が顔を上げると淡々と語る時雨の顔とあう。

 

「ヤマトを沈めることは何があっても僕は許さない。どんな相手でも助けようとする。でも中にはその行為を無碍にする奴もいる。だから、僕は本当に彼を殺そうとする奴を許さない。キミがそんな最低な奴でないことを願うよ…でないと」

 

――僕が君を沈めないといけないからね。

 

時雨の言葉に足柄は言葉を失う。

 

「じゃ、安静にしてね」

 

彼女は微笑んで入渠施設を出ていく。

 

残された足柄はただ湯船に顔を沈める。

 

しばらくして、裸を異性に見られたと気づいて乙女のように顔を赤らめることになったとか、そうでないとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当、普段はヤマトさんに従順な姿をしているのに、敵意を向ける相手だとわかると容赦しない…忠犬というより狼ね」

 

 

「そんなこといわないの。ヤマトに救われたから今の時雨があるの。仕方のないことよ」

 

足柄と時雨、二人のやり取りを見ていた陸奥と大井、どちらからともなくつぶやいた。

 

 

 

 

駆逐艦時雨。

 

ある一部の上層部によって大本営、鎮守府、艦娘などを仇名すものを倒すために生み出された。その計画を大和が潰したことにより時雨は解放され、遊撃部隊所属となる。しかし、暗殺者として鍛えられた彼女は大和へ仇名す者を許さない。勿論、始末すれば彼が悲しむことを理解しているから実行はしない。しかし、こういう風に警告を与え続ける。

 

この事実を知っているのは遊撃部隊と元帥のみ。ヤマトは知らない。

 

知れば、ヤマトが悲しむことが目に見えている。

 

だから、陸奥や彼のためと動く大井ですら自重していた。

 

彼女はヤマトの為に動く。

 

そもそも、遊撃部隊というのは――。

 

「お前ら、こんなところで何やってんの?」

 

靴音と共にやってきたのはヤマト。

 

「いいえ、何もしていません。ヤマトさんは?」

 

「ずぶぬれだからな……風呂にでも」

 

途中でヤマトが言葉を詰まらせる。

 

「ヤマト、さん?」

 

派手な音を立ててヤマトが地面へ崩れ落ちた。

 

「ヤマトさん!?」

 

陸奥と大井が慌てて駆け寄る。

 

抱き起したヤマトの体はとんでもないことになっていた。

 

「何よ…これ」

 

「そんな」

 

立花ヤマトの体から無数の植物が生えていた。

 

 

 

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